★インタビュー★軍艦島-過去から未来へ受け継ぐ者たち- 2009 年より構造の分野からも注目を集める軍艦島。芝浦工業大学でもさまざまな観点から軍艦島の研究 をしている学生・研究者がいます。40 年の時を経て今、軍艦島についてどのような研究がされているの でしょうか?そこで軍艦島の建物の構造について研究している建設工学専攻椛山研究室所属の園山博士 さんと松坂彰大さんにインタビューさせていただき、研究の取り組み方やそれにともなうご苦労を伺い ました。この機会にぜひ軍艦島の知られざる研究について知っていただければと思います。 なお『軍艦島』の展示は二人のご協力と椛山先生の監修のもと行いました。 【軍艦島の構造を研究する】 ---------------椛山研究室に入ったきっかけを教えてください。 園山(以下:園)学部生のときに軍艦島が世界遺産に登録されるというニュースで関心を持ったというの が始まりでした。構造という分野の研究室に配属され、卒論は先生からいくつかのテーマを渡されます。 そのテーマの中に“軍艦島”の建物が劣化しているのでその安全性能を研究するテーマがあり選びまし た。そのときにいたのが椛山研究室の修士 1 年生だった松坂さんで、 研究について助言してくれました。もっと研究をしたいと思い大学 院に進み現在にいたります。 松坂(以下:松)私は外部の大学から芝浦工大の大学院に来て、研究 室をいろいろみてまわりました。その時に軍艦島の研究と出会いま した。なかなか取りかかれるテーマではなかったし、担当の椛山先生 も引き続き軍艦島の研究をされるとのことだったので先生の研究を ついで未来に残したいと思いこの研究室に入りました。 ---------------実際研究をしてみていかがでしたか? (左)園山博士さん(右)松坂彰大さん 松:劣化が激しいものを残すというのは難しいことであると思いました(笑)数値的にこういう値でこう すればちょっと壊れても修復できるという指標がひとつうまれれば、他の古い建物にも応用ができるの ではいかと考えています。それが研究の一歩となることが面白いと感じました。 園:情報量がとっても少ないです。図面もどこまでが本当なのかわからない。コンクリートで造られてい るので、水の量が大事になります。でも塩害がひどいところでコンクリートを練って、この強度で造ろう といったとき本当に造れるか。そのような環境を加味して計算をしたり、図面をおこしたりしなければ ならなかったので仮定の折り合いが難しいです。 松:仮定したものを増やして詳しく研究する。調査に実際に入り本当の情報がわかったとき今まで仮定 してたものが全部崩れるかもしれないのでもう一度積み上げなければなりません。なので正しい情報を 得たときに今までの過程をまっさらにする勇気が必要なんです。 ---------------ではこのように劣化が進んでいる軍艦島がなぜ世界遺産になったのでしょうか? 園:文化的価値が一番大きいですね。専門家が調べて情報公開されてきたものではないので、やっと現在 専門家による研究が始まったという段階だと思います。歴史的な評価と建造物は別物ですね。 【軍艦島・構造の研究を始める】 ----------------限られた情報しかない軍艦島について具体的にどのように研究を進められたのでしょうか。 園山(以下:園)写真があるだけでもどのくらい窓の数があるかなどわかるので、図書館にある軍艦島に ついて書かれている本はとても役に立ちました。調査資料があるけれど情報が足りないので、本をみる ことも大切な情報源でした。 松坂(以下:松)意匠図面①と構造図面②というものがあります。意匠図面で図ると明らかに数値が違う 部分が出てくるのでそこは私たちが推測をして図ります。図面は計画当時のものなので、作っている途 中で不具合が出てコンクリートを厚く塗りましたというこ ともあるので、現象を評価するには図面だけでは読み取れな いので、実際のものを測るということが重要なことです。例 えば、計算ではここが弱いと推測したが実際はもっと弱いと いう可能性もあります。他の例でいうと、パッとみたときに 壁がないから壊れると予想はつくけど数値を入れて解析す ると違う結果がでてくることがあります。そうするとや はり構造の図面があると助かります。 椛山先生との打合せ風景 -------------崩れた骨組みを想像して、限りなく事実に近づけるために推測をしているということですね。 ここに梁③があるという情報は少なからず持っているので意匠図と比較して、ここにやっぱり梁があった ねと図面をおこすときに見ながら柱を配置したりしています。 -------------このように推測をもとに研究を進めていくのは軍艦島の研究の特徴ではないですか? 園:そうですね。やっぱり情報量が必要です。研究なので大変だけど割り切ってやっています。これもな かなかできないので楽しみながら研究しています。推測、仮定と事実が違った場合はそれも研究なんで (笑) 松:それが面白みでもあります。推測と違うものがでるというのは自分の考え方が違ったのか、固定概念 があって違うものがでてきてしまったとき、本当はこのように 考えれば正しい数値が出たのかもしれないという自分の中で 順序立てたものがある。このように研究していると精神力もつ くし、例えば整備していない道を自分でルートを決めるような 感覚です。 園:椛山先生のすごいところはここが壊れるのではないかと予 測する。それが合っていたりそれに近い状態になっています。 予測とか順序立てて考えることで力がついてくるんじゃない かと個人的に思います。そのようなカンも養っていきたいで す。 意匠図面①・・・建築全体の形態や間取りなどの意匠(デザイン)を伝えることを主眼にした図面のこと。 構造図面②・・・建物を支える骨組みを構造といい、その図面のこと。 梁③・・・柱の上に、棟木と直行する方向に横に渡して、建物の上からの荷重を支える部材のこと。 【軍艦島研究のこれから】 --------構造のこと以外にも研究していることはありますか? 松坂(以下:松)図面は建造物を建てた当時のものになるので、現在の状態をどう評価する かというのが一番の問題です。今までの研究であれだけ劣化したものを対象にしたことは なかったので、建築的な分野だけではなく他の分野との掛け合わせが必要だと考えています。塩の影響 がどのように出るのかという研究されている先生もいるので、論文を読んだりしながら自分なりにひと つの形として評価方法を見つけられればと模索しています。 園山(以下:園)例えば海沿いに建っている陸橋は塩の影響をどう受けるかという研究をしている研究 者もいます。すぐに適応できるということではないが、ひとつの考えとしては必要なことだと思ってい ます。ひとつの建造物として、構造など技術面を読み取ることは技術者としては当然なことです。しか し今の軍艦島を廃墟ですと言ってしまえばそうかもしれませんが、生活をしようとした形跡が残ってい て、それをどうにかして残さないといけない。それは技術者として文化的価値も読み取ってどう残して いくという大事な役目があると思います。 --------これから軍艦島を研究する方々にメッセージをお願いします。 松:まずは“軍艦島”にいきつく過程というのを大事にしてほしい。軍艦島というネームには強いもの 感じますが、その軍艦島を学ぶためには何が必要で自分には何が足りないかというのを考えてできるこ とをやってほしい。 園:自分は軍艦島という話題性で入ってきましたが、構造という取っ付きにくい分野であったけど、や っていくなかで楽しいと思って研究できるんです。仮定して計算が行き詰ったときそれをうまく打開し ていくことに面白みを感じる。精神力とか計算の技術とか卒業したときに必要な知識だし、結果がでな くてもそれまでにたどりついた過程というのがやっぱり大切だと思います。椛山先生は結果も大切だけ ど過程を身に着けてほしいとおっしゃっていたことが印象的です。大学院に行ったのもカンを養うこ と、そのひとつのツールとして軍艦島というテーマがありました。軍艦島は日本の人にも世界の人にも みてもらいたいので、人が入っても安全だという提案ができたらと思っています。 ---------お二人の話を聞いていると昔の建物について研究しているけれど、それが新しい技術を生み出している ように感じますね。 松:そうですね。過去のことが今の研究、未 来へとつながっているのがおもしろいです。 園山さん、松坂さん、ありがとうございました。 椛山先生、ご協力ありがとうございました。
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