JEC-TR-21003-2008 電気学会 電気規格調査会テクニカルレポート 圧延用交流可変速電動機 緒 1. 言 制定の経緯と要旨 この技術報告(以下テクニカルレポート)は,1990年以降の圧延用交流可変速電動機の稼動開始 に伴い,今後直流機から交流機に置き換わっていくすうせい(趨勢)をにらんで,定格・仕様などの決 定の迅速化のため制定するものである。 このテクニカルレポートは,電気学会金属産業技術委員会 圧延機用交流電動機の規格化(テクニカ ルレポート)調査専門委員会において平成14年(2002年)10月から制定案作成に着手し,慎重 審議の結果,平成20年(2008年)10月に成案を得て,平成20年(2008年)11月27日に 電気学会 電気規格調査会 規格役員会の承認を経て制定されたものである。 圧延用直流電動機は約百年の歴史をもち,米国電機製造者協議会(NEMA)規格によって全世界の 主な金属(鉄鋼)圧延プラントの圧延用電動機が製作されてきた。 しかし,パワー半導体デバイスの進歩・マイクロコンピュータ応用の制御技術の進歩は,多大な保守 を要する整流子とブラシを省略した誘導電動機または同期電動機による交流可変速電動機を可能にして, 現在に至っている。 交流電動機は,構造上・特性上,直流機とは大きく異なっており,その点から,圧延用交流可変速電 動機の適用にあたっては,使用者/購入者(鉄鋼圧延設備技術者)と製造者(電動機設計者,駆動モジュ ール設計者,両者を取りまとめるシステム設計者・プラント技術者)とが,直流機での経験や交流機で の経験およびパワーエレクトロニクス技術を総合的に検討して,その都度,両者協定の上製作仕様の取 りまとめを行ってきた。 この製作仕様取りまとめ作業は,直流機時代に比べて,作業量が増大しており,また製造者・使用者/ 購入者ごとに個々には仕様が不統一な面もあって,統一的な規格の登場が望まれていた。 このような背景のもと,「圧延機用交流電動機の規格化(テクニカルレポート)調査専門委員会」は, 圧延機用交流可変速電動機の規格制定を目的として,国内外の規格および文献調査,国内の圧延機用交 流電動機の適用実態調査ならびに審議を行った。その結果,規格として要求される事項のほとんどは規 格運用できる内容に到達したものの, 1 Sample : DO NOT PRINT (1) 半導体電力変換装置によって駆動される電動機の負荷特性の算定方法や試験方法の検討が十分で ないこと。 (2) 当委員会では,国外にも広く日本の圧延機用交流電動機が適用されていることをかんがみ,積極 的にIEC規格からの引用およびIEC規格との整合化を図ってきたが,用語の意味,端子記号お よび等電位ボンディングの施設の必然性など,国内産業界の合意に至らずIEC規格との整合を図 れなかったものがある。また,本委員会オリジナルである「運転と定格」の規定が,国外の適用実 態に即したものであるかの検証が不十分である。 との理由から規格として時期尚早との結論に至った。しかし,圧延機用交流可変速電動機の規格が制定 される際の参考と圧延機用可変速電動機の適用に対する指針とするため,調査,審議結果をこのテクニ カルレポートにまとめることになった。 このテクニカルレポートでは,「用語の意味」において,使用者/購入者(鉄鋼圧延設備技術者)と製 造者(電動機設計者,駆動モジュール設計者,および両者を取りまとめるシステム設計者・プラント技 術者)とが共通の認識にたって迅速かつ正確に仕様決定ができるよう,これまで当事者間でそれぞれ異 なっていた用語を統一し,また使用する用語を充実させた。「運転形式および分類」では,圧延機用可変 速電動機の適用実態を考慮し,運転形式を定義した。その運転形式と要求される過負荷耐量をかんがみ, 圧延機用可変速電動機の分類を国内の適用実態に即して整理した。「機械的要求事項」では圧延機用電動 機の特徴である高耐振性・耐衝撃性からの要求事項を記載した。IEC規格との整合を図るため,初め て「据付方式」および「そのほかの要求事項」において,IM Codeおよび等電位ボンディングに 関する事項を取り入れた。また,圧延機用可変速電動機は交流駆動システムと組み合わされた結果,要 求される仕様が発揮できることをかんがみ, 「試験法」において現地試験の項目を充実させた。なお,定 格電圧など規定してしまうと今後の技術発展に制約をかけてしまう事項についてはこのテクニカルレポ ートではあえて言及していない。 このテクニカルレポート制定理由でもあり,また回転電気機械一般に対する JEC-2100 と比べて特徴 的な部分を要約すると次のとおりとなる。 (1) 「運転形式および分類」の規定 JEC-2100 では,電動機に加わる運転条件の分類を「3.1 使用」 に,この使用に対応した電動機の分類を「3.2 定格」に規定している。本テクニカルレポートでは, (a) 圧延用電動機では,圧延中すなわち負荷運転中の加減速が重要であるのに対し,JEC-2100 で は、そのような運転の規定がない。 (b) 圧延用動機では巻線の温度上昇に支障のない範囲で,短時間の間定格トルクの 2 倍前後の超過 トルクが加わる運転があるが,JEC-2100 には電動機トルクによる分類が規定されていない。 などの理由から,JEC-2100 の「使用」は引用せず,最近の圧延運転を考慮して分類し,独自に「運 転形式」として規定した。また,JEC-2100 で「使用」に対応して電動機の分類を規定する「定格」 については,圧延用直流電動機についての NEMA 1.23 規格またはそれを翻訳した JEM 1157 で規 定されている第1種電動機,第2種電動機の考え方を最近の圧延用電動機の適用実態を考慮して拡 張し,「(圧延用電動機の)分類」として規定した。 (2) 耐電圧試験の基準電圧 E 圧延用交流可変速電動機では,広範囲の弱め界磁制御と 200%前後の 大きな過負荷耐量が特徴である。誘導電動機の可変速駆動では,弱め界磁の状態で過負荷耐量の限 2 Sample : DO NOT PRINT 度の電流で運転する場合,磁束と電流が直交する力率 1 運転を維持するため,定格電圧と比べてか なり大きな電動機端子電圧が必要となる。この弱め界磁かつ過負荷耐量限度での運転は,圧延の要 求によっては,繰り返し加わる可能性がある。したがって,本テクニカルレポートでは,そのよう な場合を考慮し,工場試験で行われる耐電圧試験の試験電圧の基準値 E として,電動機定格電圧を とるのではなく,弱め界磁かつ過負荷耐量の限度での運転時の電圧を想定した「変換器の最高出力 電圧」をとることにしている。 (3) 現地試験での特性確認 直流電動機は,ブラシと整流子により,磁束と電流が直交するよう機 械的に力率 1 制御を行っている。直流電動機の工場試験で行われている無負荷速度特性,負荷速度 特性などの試験およびブラシ中性点の検査は,力率 1 の動作を確認する試験と解釈することができ る。これに対して交流可変速電動機では,これらに相当する力率 1 運転確認の特性試験には変換器 などを必要とすることから,経済的な理由で実施されておらず現地試験で行われている。このこと から本テクニカルレポートでは,工場試験の規定に加えて現地試験の規定を設けている。 以上,このテクニカルレポートは適用実態を十分に加味し,技術者にとって実用的な指針になること を目指したものである。このテクニカルレポートは実務において当事者間の合意に基づいて適用するこ とを推奨する。 今後, (1) 半導体電力変換装置によって駆動される電動機を正弦波電源設備(電動発電機などの工場試験設 備)で試験した場合の高調波の影響を加味した効率や温度上昇などの特性の算定方法,および試験電 源設備の制約で定格周波数と試験周波数が異なる場合の特性算定方法の高精度化について検討する 必要がある。 (2) IEC規格との整合を図ることについては,用語の意味,端子記号,等電位ボンディングの施設 状況など国内での適用実態をさらに深く調査し,整合にあたっての問題を明確にする必要がある。 また,運転と定格に対して国外の適用実態に即したものであるか国外での適用実態を調査し,検証 する必要がある。 2. 対応国際規格名 なし。 3. 引用規格名 この規格制定にあたり,参考にした,または引用した規格は次のとおりである。 (1) JEC-2100-2008 回転電気機械一般 (2) JEC-2120-2000 直流機 (3) JEC-2130-2000 同期機 (4) JEC-2137-2000 誘導機 (5) JEC-2451-2002 直流可変速駆動システム (6) JEC-2452-2002 低圧交流可変速駆動システム 3 Sample : DO NOT PRINT
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