別紙1 論 文 審 査 の 要 旨 報告番号 甲 論文審査担当者 第 2801 号 氏 名 主査 教授 宮﨑 副査 教授 槇 副査 教授 中村 水木ゆき菜 隆 宏太郎 雅典 (論文審査の要旨) 学位申請論文「Swept-source Optical Coherence Tomography Evaluation of Tooth Interior after Bleaching」について,上記の主査1名,副査2名が個別に審査を行った. 現在のブリーチング評価は,測色や写真撮影といった歯質表面のみであり,薬剤の歯質内部に 対 す る 評 価 は さ れ て い な い . 走 査 型 光 干 渉 断 層 装 置 (Swept-source Optical Coherence Tomography:SS-OCT)は 非 侵 襲 下 に 硬 組 織 の 断 層 像 を 得 る こ と が で き る 装 置 で あ る . 本 論 文 で は,SS-OCT を用いてブリーチング前後の歯質内部の画像変化を観察し,得られた画像を数値 化し,顕微ラマン分光分析と比較することにより過酸化水素水の歯質内拡散動態をあわせて検 討した. SS-OCT 画像では術後,エナメル質表層の光反射強度が増加し,エナメル象牙境付近 の光反射強度の減少が認められた.顕微ラマン分光分析では過酸化水素水の特有波長が象牙質 表層で強く観察された.以上より,SS-OCT で得られた画像の変化は過酸化水素水の歯質内浸 透によって組織構造変化を起こしたためだと考えられ,SS-OCT はブリーチング効果の新しい 評価法として有効性があることが示唆された. 本論文の審査において,副査の槇委員および中村委員から多くの質問があり,その一部とそ れらに対する回答を以下に示す. 槇委 員の質問と それらに対 する回答 エナメル象牙 境に過酸化水素 水が貯留することによる悪影 響はなにか. エナメル象牙境,または象牙質に過酸化水素水が浸透することにより,臨床で は術後の知覚 過敏の為害作用が報告されている. 象牙細管の周囲には石灰化度のやや高い管周象牙質が存在し,管周象牙質同士の間にコラー ゲン繊維を含む管間象牙質が存在する.過酸化水素水は象牙細管の走行に沿って浸透し,細管 内部のコラーゲンを分解する.管間象牙質基質繊維表面の有機性皮膜は大部分が除去され,コ ラーゲン繊維表面のアパタイト結晶は露出した状態となる.この象牙質の組織構造変化に対す る研究はいまだされていないが,エナメル質表層に対する組織構造変化は以下の報告が挙げら れる. (主査が記載) 4. 今後臨床応 用するにあ たっての利 点と,改善 点はなにか . ブリーチングは個体差が大きく,エナメル質や第二象牙質の厚さなど歯質内部の組織構造によ る.過酸化水素水の作用により,エナメル質表層下のミネラル喪失が認められたこと.エナメ ル質表層の硬さが減少したこと.エナメル質表層が脱灰様となり粗造化が認められたこと.し かし,いずれの研究も再石灰化は考慮されておらず,ブリーチング後再石灰化条件下では,エ ナメル質表層の脱灰が起きないことや表層の硬さの減少が起こらないとの報告もある. 中村 委員の質問 とそれらに 対する回答 1. ブリーチング剤の種類によって結果はどのようになると考 えるか. 今回研究で用いた薬剤は松風ハイライトでありpH4と酸性である.また,再石灰化を考慮 していないためブリーチング後エナメル質表層が粗造となり,SS-OCT 画像において光反射強 度の増加が認められたと考えられる. 日本で薬事許可されているオフィスホワイトニング薬剤は,松風ハイライト以外に,ティオ ンオフィスとピレーネがある.両者ともにpH6.5 程度であるため松風ハイライトと比較して エナメル質表層の光反射強度の増加は大きくないことが予測される.松風ハイライトは 35% 過酸化水素水であるのに対し,ティオンオフィスは可視光応答型光触媒 V-CAT の応用により 過酸化水素水の濃度は 23%となる.さらにピレーネは 3.5%過酸化水素水と低濃度であるた め,歯質内部の浸透度に差が出ることも予測される.薬剤の種類によりブリーチング効果を比 較した研究では,効果の高い順に,松風ハイライト,ティオンオフィス,ピレーネと報告され ている. 5%過酸化水素水を用いて歯質内面の薬剤拡散を観察した研究では,10 分の塗布で象牙質ま で到達したことが報告されている.ピレーネや濃度の低いホームホワイトニング剤ではどのよ うに歯質内部の拡散が変化するかは今後の課題である. 2. 過酸 化水素水浸 透による組織 構造変化 とあるが,どのような組織構造 変化があると考えるか. エナメル質表層を SEM 観察した報告によると,術後,表面に軽微な凹凸が認められブ リーチング3回ではエナメル小柱の露出が観察される.さらに回数の増加によりエナメル 小柱を取り囲む小柱鞘が溶解し, 18 回のブリーチングではエナメル小柱間の亀裂状の間 隔が明瞭となったとの報告がある. 象牙質は SEM 観察により,術後,石灰化度の高い管周象牙質を透過してコラーゲン繊維に 富む管間象牙質に浸透し,ここでコラーゲン繊維間に存在するプロテオグリカンや糖蛋白に富 んだ有機性の無定形基質を分解させると考えられている. 主査の宮﨑委員は両副査の質問に対する回答の妥当性を確認するとともに,本論文の主張を さらに確認するために質問を行ったところ明確かつ適切な回答が得られた. 以上の審査結果から本論文を博士(歯学)の学位授与に値するものと判断した. (主査が記載)
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