論 文 審 査 の 要 旨

別紙1
論 文 審 査 の 要 旨
報告番号
甲
論文審査担当者
第 2806 号
氏 名
主査
教授
美島
副査
教授
槇
副査
准教授
野中
守屋
佑美
健二
宏太郎
直子
( 論 文 審査 の 要旨 )
学 位 申請 論 文 「 Proteomics of gingival crevicular fluids from deciduous and
permanent teeth」 に つい て , 上記 の 主査 1 名 , 副 査 2 名が 個 別に 審 査 を行 っ た .
【目的】永久歯の歯肉炎は歯周炎へと進行するが , 乳歯ではほとんど進行しない. 本研究は, そ
の メ カ ニズ ム を解 明 す るた め に 健康 な 乳歯 と 永 久歯 の 歯 肉溝 滲 出液( GCF)を 採 取 し , 両 者 に含 ま
れ る タ ンパ ク 質成 分 を 網羅 的 に 比較 し , そ の 特 徴を 明 ら かに し た .
【 材 料 と方 法 】昭和 大 学歯 科 病 院小 児 歯科 に 通 院中 の 混 合歯 列 期( Hellman の 歯 齢 IIIA )の小 児
40 名 を 対象 と し , GCF サン プ ル は同 一 口腔 内 の 上顎 の 中 切歯 と 乳犬 歯 か ら採 取 し た . 採 取し た GCF
を 用 い て , 相 対定 量 解 析が 可 能 な標 識 法( iTRAQ 法 )と 質量 分 析法( LC-MS/MS)を組 合 せた 方 法で
網 羅 的 定 量 解 析 を 行 っ た . さ ら に 好 中 球 由 来 の タ ン パ ク 質 で あ る Myeloperoxidase(MPO) ,
Lactoferrin(LF)に つ いて は ELISA 法 にて 定 量 した . ま た,好 中球 細 胞外ト ラ ッ プ (NETs)の 形 成 に
必 須 で ある シ トル リ ン 化し た Histone をウ エ ス タン ブ ロ ット 法 にて 確 認 した .
【結果と考察】タンパク質の網羅的な解析の結果 , 乳歯と永久歯の存在比率が有意なタンパク質
を 165 種同 定 し , そ の内, 82 種 のタ ン パク 質 が乳 歯 GCF で 多 く , 76 種の タ ン パク 質 が永 久 歯 GCF
で 多 い 傾向 を 示し た . 乳歯 GCF は 好中 球 や 細胞由 来 の も の が 多く , 永 久歯 GCF は 血漿 や 免 疫グロ
ブ リ ン 由来 の もの が 多 かっ た . ELISA 法 の結 果 , GCF 中 の MPO と LF の濃度 は 永 久歯 と 比べ て 乳 歯
で 有 意 に高 い こと を 示 した (P<0.01). さら に , 両者 の GCF から シ ト ルリン 化 し た HistoneH3 が検
出 さ れ た . 本 研究 の 結 果よ り ,乳 歯と 永 久歯 の GCF に 含 ま れ る成 分 は生 化学 的 に 異な っ てお り , 好
中 球 関 連タ ン パク 質 は 永久 歯 に 比べ て 乳歯 で 多 いこ と が 分か っ た .
本 論 文 の審 査 に あ た り 多く の 質 問が あ り , そ の 一部 と そ れら に 対す る 回 答を 以 下 に示 す .
副査
槇委 員 の質 問 と そ れ ら に 対す る 回答 :
・ 小 児 の唾 液 や全 身 的 な血 液 成 分は 成 人と 比 べ てど の よ うな 差 異が あ る か . ま た , 本 研 究と の 関
係 性 に つい て .
唾 液 中の 総 タン パ ク 濃度 , ア ミラ ー ゼ活 性 度 , 分 泌 型 IgA 量 は小 児 と成 人 で 異な り , 加 齢 とと
も に 増 加す る とい う 報 告が あ る . ま た , 発 育 過 程に あ る 小児 の 血液 は , 血液 成 分 , 血 漿 成分 ,
免 疫 グ ロブ リ ン , 凝 固 因子 な ど 成人 の 血液 と は 異な っ て いる . 幼少 期 か ら血 液 成 分は し だい に 成
(主査が記載)
人 値 に 近づ き , 学 童 期 には ほ ぼ 成人 に 達す る .
・ 乳 歯 脱 落過 程 にお け る メカ ニ ズ ムと , その 関 連 性と は .
乳歯の生理学的根吸収の分子メカニズムは骨のリモデリングシステムと類似している . 吸収過
程 に あ る乳 歯 の歯 根 直 下で は , 破歯 細 胞の 活 性 化 , RANK-RANKL 経路 の 活性 化 , 線維 芽 細胞 , マク
ロ フ ァ ージ , 単球 な ど の遊 走 活 性化 , プロ ス タ グラ ン ジ ン E2 や IL-1, TNF-の 産 生 な ど , さ ま
ざまな生体反応が生じている . また, 生理的歯根吸収時には, 歯肉溝の炎症のため, 乳歯の付着
上皮下の結合組織には顆粒球が多く , 付着上皮は歯根吸収側への移動(いわゆる , アタッチメン
ト ロ ス )を 生 じ , 永 久 歯胚 を 保 護し て いる と さ れて い る
副査
野中 委 員の 質 問 とそ れ ら に対 す る回 答 :
・ 乳 歯 と永 久 歯の 付 着 上皮 の 構 造に 違 いは あ る のか .
過 去 に 乳歯 と 永久 歯 の 健康 な 歯 肉を 組 織学 的 に 比較 し た 報告 が あり , 永 久歯 と 比 べて , 乳歯 の
付 着 上 皮は 厚 く , 付 着 上皮 直 下 の結 合 組織 中 に は顆 粒 球 が多 い が , コ ラ ーゲ ン 線 維や 毛 細血 管 の
密 度 は 変わ ら ない と 報 告さ れ て いる .
・ 混 合 歯列 を 使用 し て いる 理 由 はな に か .
同 一 個体 か ら乳 歯 ・ 永久 歯 の 両サ ン プル を 採 取で き る ため , 比較 す る サン プ ル 間で の 個体 差 が
生 じ な いた め であ る . 乳歯 列 期 の乳 歯 と永 久 歯 列期 の 永 久歯 で の比 較 で は , 比 較 する 個 体の 年 齢
が 異 な るた め , 加 齢 に よる 思 春 期性 ホ ルモ ン や 全身 的 な 免疫 反 応の 違 い によ る 影 響を 生 じて し ま
う た め であ る .
主査
美島 委 員の 質 問 とそ れ ら に対 す る回 答 :
・ 唾 液 の混 入 を少 な く する た め にど の よう な 工 夫を 行 っ てい る か .
唾 液 の混 入 を防 止 す るた め に , 唾 液 腺開 口 部 であ る 耳 下腺 乳 頭 , 舌 下 小丘 や 舌 下ヒ ダ から の 唾
液 曝 露 を受 け にく い 上 顎前 歯 部 (上 顎 中切 歯 と 上顎 乳 犬 歯) か ら GCF を 採取 し て いる . なお , GCF
を 採 取 する 際 は , ロ ー ルワ ッ テ を用 い て採 取 部 位の 簡 易 防湿 を 行い , エ アー シ リ ンジ に て唾 液 を
除 去 し てい る . 過 去 に も同 様 の 方法 で GCF を 採 取す る こ とに よ り唾 液 の 混入 が 減 少す る と報 告 が
ある.
・ 不 顕 性の 血 液の 混 入 はど の よ うに 除 外さ れ て いる か .
ペ ー パー ポ イン ト を 用い て 採 取し た 際に , ペ ーパ ー ポ イン ト に血 液 の 付着 が み とめ ら れた 場 合
は 除 外 して い る . し か し, 質 量 分析 法 は極 め て 高感 度 な 手法 で ある た め , 目 に 見 えな い 出血 で さ
え も 血 液由 来 のヘ モ グ ロビ ン タ ンパ ク を同 定 す る . ヘ モ グロ ビ ンタ ン パ クの 同 定 順位 が GCF の 主
な 成 分 であ る タン パ ク 質よ り 明 らか に 高い 場 合 は除 外 し てい る . な お , 目に 見 え ない 唾 液の 混 入
に つ い ても 同 様に 除 外 して い る .
主 査 の美 島 委員 は , 両副 査 の 質問 に 対 す る 回 答の 妥 当 性を 確 認す る と とも に , 本論 文 の主 張 を
さ ら に 確認 す るた め に 上記 の 質 問を し たと こ ろ , 明 確 か つ適 切 な回 答 が 得ら れ た .
以 上 の審 査 結果 か ら , 本 論 文 を博 士 (歯 学 ) の学 位 授 与に 値 する も の と判 断 し た .
(主査が記載)