那覇空港滑走路増設事業における 施工期間短縮への取り組みについて

別紙2(論文)
那覇空港滑走路増設事業における
施工期間短縮への取り組みについて
~平成31年12月の工事完成を目指して~
荒木 幸宏1・飯塚
1那覇港湾・空港整備事務所
幸司1
那覇空港新滑走路整備推進室
(〒901-0142 沖縄県那覇市鏡水344)
那覇空港滑走路増設事業は、当初平成33年3月末に供用開始を想定していたが、地元沖縄県から早期供
用開始という強い要望を受け、工事完成は平成31年12月で、供用開始は平成32年3月を目指すことになっ
た。本事業はこれまでに施工実績がない外海に面した高波浪海域であり、特異なリーフ地形となっている。
それに加えて、冬季の施工条件が想定より厳しい現場条件であった。このような厳しい条件下で本事業で
実施した施工方法等の工夫による施工期間短縮の取組について報告する。また、関係者間での情報共有を
図ることを目的に工事情報化システムを構築し増設事業の円滑化を行った。
キーワード
施工期間短縮
滑走路増設
1. はじめに
護岸工事
埋立工事
整備実施手順に関しては、まずは、護岸工事による
本事業は、当初、平成33年3月末の供用開始を目指
埋立護岸の形成を実施する。護岸工事完了後、埋立
し、事業を進めていく計画であったが、地元沖縄県
工事(埋立土量:約990万m3 埋立面積:160ha)並びに進
からの早期供用に関する強い要望を受けて、平成32年
3月に供用開始が早まった。
入灯工事(南側:575m、北側:540m)を行い、埋立
工事が完了後に舗装工事及び空港施設工を行う。
本報告では、供用開始が12ヶ月間早まったことによ
る施工期間短縮への取り組みや増設事業関係者間で
の情報共有を目的とした工事情報共有システムの構
築を中心に、本事業の概要・進捗状況、今後の課題
揚土場所
および埋立順序
護岸工
ケーソン式護岸
について報告する。
護岸工事
埋立工事
N
舗装工
本事業現場
舗装工事・空港施設工
瀬長島
図-2 主な施工ステップ図
那覇空港
(2)進捗状況
本事業は、6工区(Ⅰ工区~Ⅵ工区)に分けて実施
図―1 本事業範囲位置図
しており、浚渫工事や資機材運搬用の仮設桟橋工事
完了後に護岸工事へ着手し、平成28年6月末現在で護
2. 本事業の概要
(1) 工事概要
本事業は、那覇空港の西側沖合に約160haを埋め立
てし、現滑走路から西へ約1,310mの位置に長さ2,700m、
幅60mの滑走路1本を増設する空港の拡張工事である。
岸工事が約90%、埋立工事が約7.5%完了している。
また、平成26年1月の工事着手から、平成28年6月末
現での約2年6ヶ月の短い期間に88件もの工事を契約し、
77件の工事が完了している。
浚渫工事:浚渫土量 約21万m3
製作工事:ケーソン60函
各種ブロック約5万4千個
通水函3函
護岸工事:約8.0km護岸築造
傾斜堤護岸:捨石投入150万m3
ケーソン式護岸:全60函 56函据付済
埋立工事:約56万m3埋立済
表-1 工種別工事契約件数
種別工事
浚渫工事
製作工事
仮設桟橋工事
護岸工事
埋立工事
進入灯工事
その他工事
合計
契約済
工事
6
51
3
16
3
1
8
88
完了工事
施工工事
6
50
3
11
1
0
6
77
0
1
0
5
2
1
2
11
図-4 傾斜堤護岸における高波浪による洗掘
(2)護岸工事の材料不足について
本現場は、冬季風浪等の影響により冬期間の連続
した施工が困難であることから、施工可能な時期に
多くの石材を使用し集中的に護岸整備を実施せざる
得ない状況となった。更に、当初想定していた沖縄
県内の石材供給能力に制約があり、増設事業で必要
とする石材が確保できないことも判明した
(3)工事の輻輳による情報共有について
本事業は、施工期間が短縮されたことにより、海
上工事と陸上工事といった様々な工事を同時期に並
行して施工せざるを得ない計画(最大31件)となってい
る。また、現場周辺でまとまった作業ヤードが確保
図-3 那覇空港進捗状況(平成28年6月現在)
できないことから、施工箇所も複数(那覇空港、浦
添市、糸満市、沖縄市)に分かれることになったた
3. 本事業における課題
め、増設事業関係者間による情報共有を図る必要が
(1)厳しい現場条件
ある。
本現場は、今までに施工実績が無い外海での施工
であり、高波浪の影響を受けやすい現場環境となっ
ている。工事着手後も台風及び高波浪の影響により、
4. 課題に対する対応策について
本事業の課題により、実施工程の遅れが懸念され
度々作業の中止を余儀なくされている。特に高波浪
るために、次の対策を講じることで施工期間の短縮
の影響を受けやすい北工区では頻繁に作業中止(平成
26年11月~平成27年2月休止率 78.3%)となり、傾斜
に取り組んだ。
堤護岸の洗掘や汚濁防止膜の破損等といった被災も
(1)材料不足への対応
度々受けている。
気象・海象条件が良好な時期に護岸工事の進捗を
あげるために、材料調達計画を見直し使用材料不足
に対する対応を図った。
材料調達計画は当初、沖縄県の北部にある本部鉱
山を想定していたが、当時は9件の護岸工事を行って
おり、本部鉱山だけの調達では積出能力に制約があ
り、増設事業全体で必要とする石材の確保が困難で
あるため、沖縄県内で追加調達可能な鉱山を調査し
た。
調査の結果、国頭鉱山及び石垣鉱山からも調達可
能であったが、全体必要量には不十分であったこと
(2)施工方法の工夫による施工期間短縮
施工方法を工夫することで、施工期間の短縮も実
から、沖縄県外の奄美大島鉱山からも材料調達も行
施している。
った。
①陸上施工によるケーソン製作
本部鉱山、石垣鉱山、国頭鉱山、奄美大島鉱山の4
沖縄県では、陸上によるケーソン製作の実績が無
鉱山から材料供給することで、安定的な材料調達が
く、フローティングドック船によるケーソン製作が
可能となり当初工程より約4ヶ月短縮を図ることが
一般的である。しかし、本事業では、短期間で60函も
できた。
のケーソンを製作する必要があり、これに対応でき
また、県外産の奄美大島鉱山から調達するにあた
るフローティングドック船を沖縄県内外から確保で
って、『公有水面埋立事業における埋立用材に係る
きな無かった。検討の結果、陸上製作が出来るヤー
外来生物の侵入防止に関する条例』に基づき、沖縄
ドを確保できたことから、フローティングドック船
県知事に搬入予定日の90日前までに必要な10項目(埋
による製作から陸上製作に変更した。
立用材の種類・用途・数量・採取場所、搬出経路・
陸上製作に変更することで、同時並行してケーソ
特定外来生物の付着又は混入の調査結果等)につい
ンを複数函製作することが可能になり、施工期間短
て届出を行った。また、捨石作業を実施する際には、
縮に繋がった。
投入する前に材料に特定外来生物の付着・混入のな
いことを確認してから、材料の投入を行っている。
当初鉱山ルート
図-7 ケーソンの陸上製作
追加鉱山ルート
② 護岸から埋立材の流出を防止するために敷設す
る防砂シートは、敷設する前に荒均し作業が必要
である。
防砂シートの規格を高伸度性(伸び率を60%以上
~99%以上)の防砂シートに変更することで、防砂
シート敷設前の荒均し作業が省略すること可能と
図-5 各鉱山の位置図
なり、約2ヶ月の施工期間短縮になった。
図-6 特定外来生物混入有無確認状況
図-8 防砂シート敷設状況について
埋立進捗図
③ ケーソン据付後に実施するケーソン蓋コンクリ
ートの施工方法をコンクリートミキサー船による
現場打ちからプレキャストコンクリート版(PC版)
に変更を行った。
PC版に変更したことによる陸上施工となり、海象
条件に左右されること無く実施出来ることから約2
図-10 工事情報化システムの全体進捗図・埋
ヶ月の施工期間短縮に繋がった。また、海上作業
立進捗図
の日数が減ることで、被災リスクの低減にも繋が
った。
5. 今後の課題と対応
本事業は現在、埋立護岸が約90%概成されており、
2工区、3工区及び6工区が外海と締め切られた。平成
27年9月より埋立工事が開始され、6工区から埋立工事
を実施している。現在は、6工区の埋立が完了し、平
成28年4月より、3工区の埋立工事を鋭意施工中であり、
本事業の主要工事が護岸工事から埋立工事へと移り
変わってきている。
本事業を遅延無く完成させるためには埋立工事の
課題についても十分な対応が必要である。
図-9 ケーソン蓋コンクリート据付状況
(3)工事情報化システムの構築について
施工期間、5年10カ月と厳しい工程の中計画され、
大規模工事から小規模工事、陸上工事や海上工事等
と、多岐にわたる工事関係者によって実施される計
画となっているため、関係者間で情報共有を図る必
要があったため、工事情報化システムの構築を行っ
た。
図-11 本事業の工区割り
工事情報化システムは、日々の作業現場の確認や
工程調整、進捗状況の確認、埋立情報、水質監視情
報等など、相互調整に必要な情報を効率的に把握が
確認できるシステムとした。工事情報化システムが
構築されたことで、関係者間での情報共有が図られ
本事業の円滑化に繋がっている。
(1) 埋立工事の課題・対応
埋立工事の課題は.下記のとおりである。
・埋立材投入に伴う濁り
・埋立材のゾーニングに伴う投入管理
a)埋立材投入に伴う濁りについて
埋立材を投入する前に、埋立用地内から外海に濁
水等が流出しない対策が必要である。濁水等流出防
止対策として、護岸の裏込部にフィルターの役割と
して海砂の層を形成することで対策を行う。フィル
ター層を設けることで、濁水がフィルター層の中で
濾過され、外海への濁りを流出させない。よって海
砂のフィルター層を設置してからではないと、本格
的に埋立工事が着手できないため、適切かつ確実な
埋立計画を検討する必要である。
b)埋立材のゾーニングに伴う投入管理について
滑走路及び誘導路の舗装工事となるが、滑走路と
誘導路の良質な路床を確保するために、埋立材のゾ
ーニングを実施している。
滑走路及び誘導路の直下には、岩ズリ、その他の
箇所については、海砂、浚渫土及び公共残土を投入
するゾーニングを行っている。設計で決定したゾー
ニングと実際の施工で投入した材料の投入管理が必
要となってくる。
断面図
西側護岸
滑走路
東側護岸
誘導路
図-12 埋立工事のゾーニング断面図
埋立工事の投入管理が把握できる工事情報化シス
テムを活用するなど、効率的な施工管理が必要であ
る。
6. まとめ
本事業着工後、想定以上に厳しい気象・海象条件
等の中で工事を実施しており、実施工程の遅延等も
懸念されていたが、様々な取り組みにより実施工程
に影響が無いように工事を進めている。
本事業の完成まで、残り3年3ヶ月となり、今後は護
岸・埋立工事から舗装工事に移り変わっていくこと
から、新たな課題が出てくるかと思われる。その課
題に対し臨機応変に対応し、平成31年12月には本事業
を完成できるよう引き続き施工期間短縮に取り組ん
で行く。