発表資料

触覚・触感に関わる計測技術
東北大学
東北大学
大学院
教授
大学院
准教授
医工学研究科
田中 真美
工学研究科
奥山 武志
1
触覚とは・・
五感の一つ
皮膚を通して感じる 機械 的刺激(圧力、暑さ、寒さ、痛みなど)
皮膚:最も大きな感覚器官
(最も大きな感覚器:成人は平均1.8平方メートル、4kg)
外皮機能は胎児9週目から、赤ん坊は手や口で判断
触れることは能動的かつ受動的
○自分からモノに触れる
○衣服を着る、虫が触る
作用反作用の法則に支配される
⇒ 相手の変形等の情報も必要 (他の感覚と異なる)
⇒ 記録・再生技術が困難
ヒトの皮膚無毛部の触覚受容器
(G. M. Shepherd, Neurobiology改訂)
自由神経末端
パチニ小体
メルケル盤
マイスナー小体
種類
温度、痛み
接触ー振動
接触ー圧
接触ーゆらぎ
反応刺激
冷たさ、つままれ
た痛み、温かさ、
ひりひり(した痛
み)
圧・振動
(250~300Hz)
接触・圧
接触・振動
(30~40HZ)
順応性
とても遅い
とても速い
遅い
速い
触覚・触感
触覚: 五感の一つ、人間の生活において必要不可欠な感覚、他の感覚と違い大きな面
積のため機能全てを失うことはほとんどない。⇒ 他の感覚の代わりになりうる
ヒトの指:
触れるだけでなく撫でる
擦るなどの動作
感性量(質感・手触り感)
等の情報を収集が可能
皮膚感覚器官と同様の
反応をするセンサ素子
ヒトの指のような駆
動機構・熟練者の
ような指の動作/
触動作
手触り感
極めて複雑かつ曖昧な主観的
な感覚量。また、経験に大きく左右
され、熟練者と一般の人の評価の
差が大きいことが医療(触診)や工
業、様々な分野などで報告されて
いる。
ヒトの感覚器官の
特徴等を用いた
信号処理
触覚・触感
にかかわる計測技術
3/10
高分子圧電材料を用いた
センサシステムの開発
機能性材料(スマート材料)の一つ
圧電効果
力を加える ⇒ 変形 ⇒ 電圧が生じる
高分子圧電材料
PVDF(ポリフッ化ビニリデン)
厚さは28マイクロメートル
PVDFフィルムとパチニ小体の出力特性
PVDFフィルムの出力特性
パチニ小体の出力特性
(a) 圧刺激
(b)パチニ小体の出力応答
(G. M. Shepherd, Neurobiologyより)
PVDFを触感センサのセンサ材料として使うことが有効なのではないか?
対象の特性とそれに対する探索的行為
7
触覚感性を計測するロボットフィンガ
システム構成
PVDF output
A/D Card
Computer
8
PVDF出力波形の一例
試料1
試料4
試料2
試料5
試料3
試料6
接触力:0.20N
9
パワースペクトル密度分布(周波数解析)
試料1
試料4
試料2
試料5
試料3
試料6
接触力:0.20N
10
信号処理
ヒトの触覚受容器の特性を考慮した信号処理を用いて
振動感評価に用いるセンサ出力を求める。
パチニ小体とマイスナー小体
の応答特性
・ 振幅の大きさの評価 Var
Var
1
N
2
N
1
x (i )
マイスナー小体
x
パチニ小体
i 1
N :1s間のPVDF出力のデータ点数(N=5000)
x(i):i番目のPVDF出力, :PVDF出力の平均
・ 100~500Hzのパワースペクトル密度の
分布比 Rs
Rs
Sa
, S a
Sb
500
P( f ) , Sb
f 100
2000
P( f )
f 100
(G. M. Shepherd, Neurobiologyより)
Var – Rs 分布図
接触力:0.20[N]
1
0.8
試料1
0.7
試料2
0.6
試料3
試料4
0.5
試料5
試料6
0.4
0
0.2
0.4
0.6
“ふんわりやわらか感”
1.5
0.9
Rs
2
1
0.5
試料1
0
試料2
-0.5
試料3
-1
試料4
-1.5
試料5
試料6
-2
-2
-1
0
1
2
“じっとりウェット感”
-6
Var (×10 )
相関係数
Rs とふんわりやわらか感 - 0.79
Varとじっとりウェット感 - 0.81
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生体硬さ計測用指装着型能動センサ
Rubber 6
計測する人の指先に取り付け、対象物にあてた後、モーターで駆動し
一定の押し付け動作を実現し、出力により硬さを計測する。
計測システムと検証実験結果
0.01
0.01
PVDE output [V]
PVDE output [V]
シリコーンゴムを対象とした検証実験
0
–0.01
0
計測はセンサをつけた手にグローブを
はめて、センサと加振機(モータ)を用い
て行われる。
0
–0.01
0.05
Time [s]
0.1
硬さ:ヤング率
0.45×105 [N/m2]
(健常組織)
0
0.05
Time [s]
硬さ:ヤング率
7.58×105 [N/m2]
(がん組織)
0.1
臨床実験結果
患者
前立腺の状態
F [N]
μ [mV]
Imax [mV]
Imin [mV]
A
正常
0.436
6.64
7.84
5.18
B
ほぼ正常
0.404
7.34
9.36
5.90
C
正常と肥大症の中間
0.382
13.91
20.00
9.35
D
癌の治療中
0.357
13.47
25.76
8.29
E
結石が存在
0.522
21.20
22.79
19.99
F
結石が存在
0.455
19.00
26.04
12.89
G
結石が存在
0.368
9.72
18.78
7.12
※1 患者Dは触診による硬さの判別が困難
※2 患者Gは正常状態の硬さであるが,ある一点にのみ結石が存在
前立腺の状態によって出力値が異なり,
センサを用いた病状診断に役立つ
受動的な触刺激の定量化
~ 擦れや締め付け感の計測 ~
乳幼児
触刺激の影響を受けやすい
皮膚が薄い
抵抗力が弱い
意志伝達能力が未発達
紙オムツを着用した際の触
刺激がオムツかぶれ等の
非アレルギー性接触皮膚炎
の原因となる場合がある
コミュニケーションを通じての触刺激の評価が困難であり、
官能評価などでの評価は不可能
触刺激と非アレルギー性接触皮膚炎の関係を解明するためには
触刺激の定量化が必要である
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計測概観
触刺激測定装置 特許第537658 東北大学
田中 真美、奥山 武志
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センサ構造
表面接触層が受ける触刺激の測定を行う
• PVDFフィルム
– 柔軟な機械特性
– 広い周波数応答
– 圧力変動に対して,出力を生じる
• ひずみゲージ
擦れによる比較的高い
周波数の圧力変動を測定
押し付けによるひずみを測定
(厚さ0.1 mmのアルミ板に貼り付ける)
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触刺激計測用測定システム
乳幼児の胸部下から膝上までを模擬したドールを使用
歩行動作を行い測定を行う
センサ貼り付け位置
紙オムツのギャザーが当たる位置
センサ表面接触層
センサA : ポリエチレン製テープ
センサB : レース
表面に1 mm間隔で
微小な凹凸がある
10 mm
ポリエチレン製テープ表面形状
19
実験方法
この部分を把持し,手動で前後に動かす
20
ドール実験(測定の様子)
21
測定結果 (ひずみゲージ出力)
(a) センサA,オムツ未着用
(b) センサA,オムツ着用
オムツ着用状態において,より大きな出力が得られている
紙オムツによる締め付け(押し付け)を確認できる
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測定結果 (PVDF出力)
(a) センサA,オムツ未着用
左足の動作に対応した周
期的な出力が得られている
(b) センサA,オムツ着用
動作に対応した周期的な出力は
小さくなっている
未着用状態より高い周波数の振
動が含まれている
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解析結果 (PSD計算結果)
(a) センサA,オムツ未着用
(b) センサA,オムツ着用
オムツ着用の有無により,PSDの分布範囲
が異なっている
24
各周波数から2000HzまでのPSDの総和
6.0E-04
A-未着用
A-着用
PSD summation
5.0E-04
4.0E-04
3.0E-04
2.0E-04
1.0E-04
0.0E+00
0
500
1000
1500
2000
fs [Hz]
2000
PSDsummati on
PSD f
f
fs
PSD f :周波数 f [Hz]におけるパワースペクトル密度の値
25
各周波数から2000HzまでのPSDの総和
6.0E-04
A-未着用
A-着用
PSD summation
5.0E-04
4.0E-04
3.0E-04
2.0E-04
1.0E-04
0.0E+00
50
150
250
350
450
550
650
750
fs [Hz]
50Hz~400Hzでオムツ着用時のPSDが増加
26
擦れ検出の指針
PSDの値が増加する周波数帯が確認できること
から,擦れ検出の指針となる値として Rsp を定
義する
f2
Rsp
PSD f
f
f1
f3
f
PSD f
f1
50 [Hz]
f2
400 [Hz]
f3
750 [Hz]
f2
PSD f :周波数 f [Hz]におけるパワースペクトル密度の値
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Rsp計算結果
オムツ未着用状態とオムツ着用状態で計算結果に明らか
な差異を確認できる
オムツ着用による擦れの指標を得ることが可能
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従来技術とその問題点
従来は物質の触感を評価しようとした場合、官能
評価を用いることになり、その場合個人差があること、
経験に富んだ熟練者が必要になること、熟練者がい
ない場合には多量の被験者数が必要であること、さ
らに官能評価が行えないような問題には対応できな
いなどがあげられる。
また、人の触覚や触感情報を数値で得ようとする
場合、摩擦や力などの計測から行われるが、得られ
た計測結果と人間の感覚とは十分な対応が得られ
ない。
新技術の特徴・従来技術との比較
• 本技術では皮膚の受容器特性を有するセンサを
作製し、それを用いて触覚・触感について関わり
が深い動作をさせ、受容器特性を検討した信号処
理を行うことにより、触感と良好の対応が得られる。
• 従来技術の問題点であった対応が十分にみられ
ない触感について、種々の触感を計測することが
でき、どのような触覚信号が触感に関係するかな
どを明らかにできる。
• 本技術では官能評価ができない(官能な評価が困
難な)対象に対しても、指針を示すことが可能とな
る。
想定される用途
• あらゆるものの触覚・触感の定量化、ものづく
りの設計指針に貢献できる。
• 触感に関わる要素の解明や触感の制御に貢
献できる。
• 触動作に関連して、熟練者の動作や触感を解
明することによる、伝統工芸や医師の動作な
どのトレーニング装置の開発も可能となる。
実用化に向けた課題
• 現在、様々な種々のものに対して触覚・触感の計測が
可能となっている。各々の触動作などを解析検討して
対応しているが、より普遍的なものを対象とする場合に
は、様々な動作もでき、触覚・触感を計測、設計・コント
ロールするという点については未解決である。
• 今後、熟練者の手の動きや、人体の動作などについて
の実験データを取得し精査し、必要な情報を抽出し、セ
ンサを有するフィンガなどの動作に適用する。
• また、より精度を向上させることや個人差を解明するた
めにも、人の指と対象物の接触状態の詳細計測なども
行い、センサの改良や信号処理法の検討などを進める。
企業への期待
• より普遍的な触覚・触感センサ技術として確立したいと考えており、
そのためには、自分達だけで作成できるサンプルには限界があり、
基礎的な触覚サンプル、また基礎的な各触感が組み合わせてで
きるような複合触感サンプル、さらにこれらが統合された高次的
な触感のサンプルを計測対象として研究を行いたいと考えている。
• 触感サンプルについては、触感データ、熟練者の触動作について
のデータ、物性値の特性データなどを提示していただきながら、こ
ちらの計測結果と共に検討できることを希望する。
• 研究実施中にこちらからサンプルについて希望特性を作製してい
ただける、あるいはこちらの触感計測結果と共にサンプルの物性
値を検討できるなどの共同研究を希望する。
• 上記サンプルという表現をとっているが、様々な対象物に対して
研究を行いたいと考えている。
本技術に関する知的財産権
•
•
•
•
発明の名称 :触刺激測定装置
登録番号 :特許第5376588号
出願人
:東北大学
発明者
:田中 真美、奥山 武志
産学連携の経歴
• 2009年-2013年 おむつメーカー某社と本研究に関連
して共同研究実施
そのほか、繊維、皮膚や毛髪(化粧品メーカー)、車の
内装、携帯などのタッチパネルなどを対象として触覚・
触感に関する計測する技術を共同研究として実施
お問い合わせ先
東北大学 産学連携機構 総合連携推進部
産学連携コーディネーター 山田、松野
TEL 022-217 - 6043
FAX 022-217 - 6047
e-mail [email protected]