7月22日

ナノ材料の安全性評価の現状
2016年7月22日
大阪大学 豊中キャンパス
ナノテクキャリアアップ特論
住友化学株式会社
生物環境科学研究所
川村 聡
住友の歴史
別子銅山
亜硫酸ガス
肥料製造所
(江戸時代)
(明治:公害)
(公害対策)
明治30年代撮影 別子銅山
住友化学
平成13(2001)年7月24日撮影
公害対策
公害対策 1.精錬所の移転
1.精錬所の移転 (沖約20キロの四阪島
(沖約20キロの四阪島 殆ど無人島)
殆ど無人島)
2.植林
2.植林 (毎年6~7万本→年間100万本(明治30年))
(毎年6~7万本→年間100万本(明治30年))
3.肥料製造
3.肥料製造
住友化学の事業
医薬品
大日本住友製薬
日本メジフィジックス
その他
医療用医薬品
放射性診断薬等
健康・農業
関連事業
農薬、肥料、家庭用殺虫
剤、農業資材、飼料添加
物、医薬化学品等
エネルギー・
機能材料
アルミナ製品、アルミニ
ウム、機能性材料、添加
剤、染料、合成ゴム等
3%
21%
17%
19%
9%
32%
情報電子化学
光学製品、カラーフィル
ター、半導体プロセス材
料、化合物半導体材料、
タッチセンサーパネル等
2015年度連結売上高 (2兆1,018億円)
石油化学
石油化学品、無機薬
品、合繊原料、有機
薬品、合成樹脂、メタ
アクリル、合成樹脂
加工製品等
部門別製品一覧
 エネルギー・機能材料部門
独自の優れた有機合成技術のもと
に開発された染料、機能性材料など
さらに、アルミナ製品、アルミニウムなど
プラスチックやゴムの高性能化の
ニーズに応える添加剤
 石油化学部門
エチレンプラントを中心として石油
ガス類などの有機薬品から、ポリエ
チレン、ポリプロピレンなどの合成樹
脂など
自動車部材にも幅広く用いられてい
る合成樹脂
部門別製品一覧
 健康・農業関連事業部門
全天候型農薬から家庭用殺虫剤、
肥料、殺菌剤、殺虫剤、除草剤、
飼料添加物など
マラリア予防に効果
のある防虫蚊帳
「オリセットネット」
 情報電子化学部門
光学機能性フィルムやフォトレジスト、
高純度電子薬品、スーパーエンジニ
アリングプラスチック、化合物半導体
など
液晶ディスプレー(LCD)に不可欠の
偏光フィルム
部門別製品一覧
 医薬品部門
合成医薬品をはじめとし、医療用
医薬品や診断用医薬品まで医療現
場で真に求められる医薬品を
ラインアップ
アムロジン(高血圧症・狭心症
治療薬)
マラリア防圧: 殺虫剤処理蚊帳(オリセット®ネット)
年間78万人以上がマラリアで死亡
91%がアフリカで発生、多くは5歳以下
アフリカでは45秒に1人の子供が死亡
WHOマラリア防圧作戦に参加
★「オリセット®ネット」の開発と供給
★技術の無償供与 タンザニア等
2004年 Time, “Coolest Inventions of 2004”
2006年 第3回 朝日企業市民賞
Tech Museum Award
2008年 第7回日本イノベーター大賞 優秀賞
2011年アグロウ・アワードを受賞
マイホームで活躍する住友化学グループ製品 日用品、家電製品、食品包装、容器など
(1) 毛布に使われるアクリル繊維の原
料、アクリロニトリル
(2) システムバスなどに使用される人
工大理石に、水酸化アルミニウム
(3) 洗濯機の洗濯槽や掃除機の筐体、
炊飯器に、軽くて強いポリプロピレン
(4) 冷蔵庫の断熱材に使用されるポリ
ウレタンの原料、アニリン、プロピレン
オキサイド
(5) 冷蔵庫の筐体に、衝撃強度に優れ
たABS樹脂
(6) ガスレンジ表面の耐熱塗装に、
200℃の耐熱性を持つスーパーエンジ
ニアリングプラスチックスであるポリエ
ーテルサルホン「スミカエクセル®」
(7) マヨネーズなどの調味料のボトルやラップフィルムに、ポリエチレン
(8) ペットボトルのラベル用シュリンクフィルムに使用される高分子添加剤「スミライザー®GS」
(9) 蚊取り線香やエアゾールなどの市販の家庭用殺虫剤、衣料用の虫除けなどに使用される有効成分ピ
レスロイド
(10) 液晶テレビや携帯電話の液晶ディスプレイに、偏光フィルム「スミカラン®」
(11) お菓子の袋に、ポリプロピレン、ポリエチレン
(12) 飲料缶に、軽くて丈夫なアルミニウム
(13) 傷のつかない時計用サファイアガラスの原料に、高純度アルミナ
街で活躍する住友化学グループ製品 住宅、建築材料、医薬医療関連、衣料品など
(1) 高速道路の透光性遮音板に、メタクリル樹脂「スミカクリーン®ED」
(2) 心臓疾患や脳血管疾患などの早期診断に有用な診断用医薬品
(3) 医療用輸液バックなどに、「エクセレン®EPX」(軟質ポリオレフィン)
(4) 降圧薬、抗菌薬、抗アレルギー薬、抗潰瘍薬などの医薬品
(5) ストッキングなどに使うナイロン6の原料、カプロラクタム
(6) 看板や照明器具に、メタクリル樹脂「スミペックス®」
(7) セルロース系繊維用の反応染料「スミフィックス ®」 、ポリエステル繊維用の分散染料「スミカロン ®」
レジャーで活躍する住友化学グループ製品 自動車部品、スポーツ用品、レジャー用品
(1) 大型観覧車の窓や水族館の水槽
に、メタクリル樹脂「スミペックス®」
(2) 水着やスポーツウェアに使用され
るナイロン繊維の原料、カプロラクタ
ム
(3) バンパー、インスツルメントパネル
(インパネ)、エンジンルーム、コンソ
ールボックスなどに、ポリプロピレン
(4) テールランプやリアランプに、メタ
クリル樹脂「スミペックス®」
(5) タイヤやラジエーターホース、ブレーキホース、各種シール材に、合成ゴム
(6) タイヤなどに使用されるゴム用接着剤レゾルシン
(7) 自動車用プラグに、絶縁性に優れるアルミナ
(8) カーナビゲーションシステムに、高い耐熱性が特長の液晶ポリマー「スミカスーパー ®LCP」
(9) 内装表皮やエアーバックカバー、ドアトリムに、耐熱性・耐寒性・加工性に優れた熱可塑性エラスト
マー「エスポレックス®」
(10) 自動車シートのクッション材などに使用されるポリウレタンの原料、プロピレンオキサイド の誘導
品ポリオール
農場・農園で活躍する住友化学グループ製品 農業関連製品、畜産関連製品
(1) ハウス栽培で使用される農業用
特殊ポリオレフィンフィルム「クリンテ
ート®」
(2) ハウス栽培でのコナジラミ防除
に、「ラノー®テープ」
(3) ニワトリの餌に混ぜて使用される
、飼料添加物DL-メチオニン 、メチオ
ニンヒドロキシアナログ
(4) 水稲除草剤「テイクオフ®粒剤」 、
倒伏軽減剤入り水稲用穂肥「スミシ
ョート®」
(5) 水稲やキャベツ、ツツジやシャク
ナゲといった花卉向けの植物成長
調節剤「スミセブンP®液剤」
(6) 安全性と安定した効果で高い評価を受けている殺虫剤「スミチオン ®」
(7) 海外で販売している合成ピレスロイド系殺虫剤「スミサイジン ®」 の成分を各種有機リン系殺虫
剤と混合した「ハクサップ® 」 、「ベジホン®」
(8) 環境に配慮した硝酸化成抑制剤入り緩効性肥料「スミカエース ®」 、地域別・作物別に最適配
合し、施肥回数の大幅削減も可能な被覆肥料「スーパーSRコート®」
(9) リンゴやみかん、野菜などの病害を防除する殺菌剤「スミレックス ®」
(10) 天敵昆虫を利用する生物農薬「オリスター®A」
オフィス・工場で活躍する住友化学グループ製品 OA機器、事務用品、物流資材など
(1) 軽量で耐侯性に優れるプラスチック
段ボール「サンプライ®」 、厚物中空構造
板「スミパネル®」
(2) 上下水道、排水などの浄化に、無機
系水処理剤の硫酸ばんど 、ポリ塩化ア
ルミニウム
(3) ブラインドやカーテンに、脱臭や殺菌
に効果を発揮する、屋内で使用可能な可
視光応答型酸化チタン光触媒
(4) 本物のガラスを使ったものに比べて
軽くて安全な、すりガラス風仕切り板に使
用されるメタクリル樹脂「スミペックス
®WT」
(5) 液晶ディスプレイに、偏光フィルム「ス
ミカラン®」
(6) 耐熱性が高く電子部品から建築内装品の取り付けまで幅広く対応できる両面粘着テープ「スミカボンド®」
(7) ハサミやカッターを使わなくても手で簡単に切れる粘着テープ「カットエース ®」 、「カットクリーン®」 、「
カットクロス®」
(8) 折りたたみできる樹脂コンテナ「スミボックス-パタコン®」
(9) パソコンやテレビの液晶ガラスに、低ソーダアルミナ
(10) IC基板に、アルミナ粉末
(11) コンピュータのメモリーディスクに、高純度アルミニウム
(12) シャープペン、ボールペン、定規などの透明なボディの材料にメタクリル樹脂「スミペックス ®」シリズ
(13) インクジェット紙やリサイクル用紙の紙力増強剤に、紙加工樹脂「スミレーヅレジン ®
住友化学の世界展開
CDT
住化UK
ベーラントUSA
VBC
SCAI
SPCA
住化エレクトロニックマテリアルズ
ベーラントメキシコ
SEMP
住化ヨーロッパ
住化アグロロヨーロッパ
東友ファインケム
イサグロイタリア
住化電材(北京)
ケノガード
★
PSPC
住化アグロソウル
住化電材(合肥)
SCエンバイロアグロインド
住化上海
住化電材(上海)
バラケミカル
住化電子貿易(上海)
スミペックスタイランド
ペトロ・ラービグ
住化インド
PCS、TPC
住友化学アジア
住友化学シンガポール
住化ブラジル
住化台湾
住華科技
フィラグロサウスアフリカ
住化オーストラリア
ウェリントン事務所
●コーポレート
●情報電子化学 ●石油化学・エネルギー・機能材料
●健康・農業関連事業
技術
原料
(ラービグ;アラビア半島西海岸)
◆世界最大級の石油精製と石油化学の統合コンプレックス
40万バレル/日の原油精製設備(日本の消費量の約10%相当)と、
120万トン/ 年の エタンを原料とする化学プラント
◆安価な原料の活用による高い競争力
◆サウジアラビアの経済発展と雇用創出への寄与
◆中国・アジアなど今後伸びていく市場をターゲット
住友化学の国内事業所
三沢 三沢工場
大阪
本社(大阪)
大阪工場
工業化技術研究所
生物環境科学研究所
情報電子化学品研究所
宝塚
健康・農業関連事業研究所
岐阜 大阪工場 岐阜プラント
岡山 大阪工場 岡山プラント
大分 大分工場
つくば
先端材料開発研究所
東京 本社(東京)
千葉 千葉工場
石油化学品研究所
工業化技術研究所
愛媛 愛媛工場・大江工場
生産安全基盤センター
工業化技術研究所
エネルギー・機能材料研究所
生物環境科学研究所
地下1階、地上8階
延べ床面積
22,000m2
大阪
・各種毒性研究
・ADME 動態研究
・分子生物学研究
・環境科学
宝塚
1.安全性評価の基礎
1-1.リスクアセスメント
1-2.リスクマネージメント
1-3.リスクコミュニケーション
リスクアセスメント、リスクマネージメント、
リスクコミュニケーション
有害性
リスクの
見積り
ハザード
曝露量
リスクアセスメント
一般社会での認知
ヒトで
起こるか
総合判断
ベネフィット:有効性、経済効果
リスクの低減策
リスクマネージメント
リスクコミュニケーション
リスクの考え方
リスク(危険の度合い)=
有害性(毒性の強さ)×曝露量(摂取量)
hazard
exposure
ある用量で有害な作用を示すものでも
曝露量が少なければ、実際上リスクはない
毒性を示す物質は一般的に安全基準設定が可能
毒
性
発
生
頻
度
100%
ヒトにおける
50%
0%
動物における
無毒性量
安全基準
安全係数
(NOAEL)
(ADI)
1/100
0.1
1
10
摂取量
100
無毒性量(NOAEL:No Observed Adverse Effect Level)
複数の投与量を用いた試験において有害作用が認められない最大投与量
(mg/kg)
ヒトの安全基準(許容曝露レベル)事例
1日許容摂取量(ADI:Acceptable Daily Intake:農薬,食品添加物)
1日耐容摂取量(TDI:Tolerable Daily Intake:環境汚染物質)
ヒトが一生涯を通して摂取し続けても障害が起こらない1日量
ADI=無毒性量(NOAEL)÷安全係数
安全係数(Safety Factor);不確実係数(Uncertainty Factor)
安全係数=種差×個体差
種 差:10
個体差:10
種間の差(動物からヒトへの外挿)
種内での個体間の差(ヒトの感受性の個人差)
NOAELが求まっていない場合、重篤な毒性がみられている場合などには、さらに係数を大きくする
リスクアセスメント
安全基準と曝露量との比較評価
ある物質のリスク=ある毒性の強さ×(推定)曝露量
その毒性が
起きない用量
その用量の
さらに1/100
ヒトの
無毒性量(NOAEL) > 安全基準 > 曝露量
このリスクは実際上ヒトでは問題にならないと評価
リスクアセスメント事例 アルコール(エタノール)
ラット2年間混餌投与試験の有害作用adverse effect
投与量 (mg/kg/day)
肝臓 脂肪変性
対照
なし
2400
3600
なし
増加
ラット発生毒性試験の有害作用adverse effect
投与量 (mg/kg/day)
対照
1000
2000
3000
新生児 体重
正常
正常
正常
低下
アルコールのNOAEL = 2000 mg/kg/day
アルコールのADI = 2000 ÷ 100 = 20 mg/kg/day
曝露量:ビール 350 ml を体重60 kgのヒトが毎日飲むとすると
アルコール摂取量 (アルコール濃度 5 vol %、比重 0.8 g/ml)
350 ml/day x 0.05 x 800 mg/ml÷60 kg = 233 mg/kg/day
動物試験結果から計算すると
曝露量(摂取量) > ADI ヒトでリスクあり
1.安全性評価の基礎
1-1.リスクアセスメント
1-2.リスクマネージメント
1-3.リスクコミュニケーション
リスクアセスメント、リスクマネージメント、
リスクコミュニケーション
有害性
リスクの
見積り
ハザード
曝露量
リスクアセスメント
一般社会での認知
ヒトで
起こるか
総合判断
ベネフィット:有効性、経済効果
リスクの低減策
リスクマネージメント
リスクコミュニケーション
リスクとベネフィット
サッカリン:人工甘味料
ダイエットコーラ1缶(350ml)の生涯摂取の影響
リスク[当時サッカリンには発がん性懸念] vs ベネフィット[ダイエット効果]
(現在ではヒトでの発がん懸念なし)
岸田ら、化学経済 2004
アルコール消費と死亡の関係(疫学調査)
岩手、秋田、長野、沖縄 40 - 59歳男性 19231人 1990 - 1996年
飲酒しない 時々飲酒
月1日未満
月1~3日
60㎏のヒトの毎日の摂取量に換算(mg/kg/日)
死亡率
相対的リスク
1.00
0.84
毎週 摂取量(g/週)
1~149 150~299
300~449
~355
~712
~1069
0.64
0.87
1.04
450以上
1.32
禁煙者
1.00
1.03
0.47
0.51
0.72
1.08
喫煙者
1.20
0.99
1.06
1.25
1.43
1.92
飲酒日/週
3.2
5.5
6.3
6.7
日本酒
24
37
58
39
焼酎
16
27
17
38
ビール
41
27
18
17
ウイスキー
17
9
6
6
酒の種類 (%)
アルコール含量
180 ml 日本酒 23 g; 180 ml 焼酎・泡盛 36 g; 30 ml ウイスキー・ブランデー 10 g; 60 ml ワイン 6 g; 633 ml ビール 23 g
Tsugane et al., 1999. American Journal of Epidemiology
サリドマイド
• 催眠剤、鎮静剤として開発
ドイツ「コンテルガン」、日本「イソミン」
• 「つわり」にも処方
栢森良二 サリドマイド物語 医歯薬出版 (1997)
日本におけるサリドマイド被害者の出生年と男女別
生年
1959
1960
1961
1962
1963
1964
1969
計
男
6
16
34
88
24
2
1
171
女
6
9
24
74
23
2
0
138
合計
12
25
58
162
47
4
1
309
公益財団法人いしずえ HP
サリドマイド胎芽病発生状況
国
ドイツ
日本
英国
カナダ
スウェーデン
ブラジル
イタリア
台湾
ベルギー
アイルランド
認定患者数
症例数
3049
国
デンマーク
症例数
309
201
115
107
99
86
36
35
35
オランダ
豪州
スイス
ノルウェー
ポルトガル
スペイン
メキシコ
17
14
12
11
8
5
4
フィンランド
2
20
米国では申請中に催奇形作用判明、取り下げ
栢森良二 サリドマイド物語 医歯薬出版 (1997)
米国FDA 1998年 サリドマイド承認
「悪魔の薬」の復活
ハンセン病(らい性結節性紅斑)治療薬として承認
STEPS
(Systems for Thalidomide Education and Prescribing Safety)
1. 関与するすべての医師、薬剤師のFDAへの登録
2. 患者本人に対するインフォームドコンセントの実施
3. 処方箋有効期限は28日間
4. 服用しなかったすべての錠剤の返還義務
5. 女性に対する2種類の避妊法の同時適用
6. 男性に対するコンドーム使用
7. 薬局スタッフの教育
日本におけるサリドマイド:近年の動向
日本での個人輸入量
2000年
2001年
2002年
2003年
2005年
(1999年 NEJM)
4万錠
16万錠
44万錠
53万錠
54万錠
サリドマイド製造販売承認申請の取り扱いに関する要望書ならびに副作用被害の防止策(リスク最小化方策)の検討状況に
ついて(照会) 2006年12月20日
要望と照会に関する厚生労働省の回答 2007年2月13日
多発性骨髄腫に対するサリドマイドの適正使用ガイドライン 平成16年12月10日
骨髄腫患者の会
サリドマイド被害者団体
承認の要望書
新たなる被害防止の要望書
2008年10月 日本承認
(1カプセル100㎎ 6570円)
「サリドマイド製剤安全管理手順」
TERMS(Thalidomide Education and Risk Management System)
1.安全性評価の基礎
1-1.リスクアセスメント
1-2.リスクマネージメント
1-3.リスクコミュニケーション
リスクアセスメント、リスクマネージメント、
リスクコミュニケーション
有害性
リスクの
見積り
ハザード
曝露量
リスクアセスメント
一般社会での認知
ヒトで
起こるか
総合判断
ベネフィット:有効性、経済効果
リスクの低減策
リスクマネージメント
リスクコミュニケーション
安全と安心
安全であるのに
安心できない
不
安
度
時として
安心しているけど
安全でない
当該現象に対する知識の総量
安井 至、産総研安全科学研究部門設立記念講演会、2008
発癌リスクの感じ方
食
品
添
加
物
タ
バ
コ
大
気
汚
染
・
公
害
11.5
9
43.5
農
薬
24
お
こ
げ
4
1
ウ
ィ
ル
ス
1
普
通
の
食
べ
物
2
性
生
活
・
出
産
7
10
職
業
4
ア
ル
コ
ー
ル
3
放
射
線
・
紫
外
線
3
医
薬
品
1
工
業
生
産
物
1
(%)
30
35
黒木登志夫、暮らしの手帖、1990
放射線被曝影響の理解
電話相談 妊婦・乳幼児育児中保護者対象
本人は産みたいが周囲から妊娠中絶を勧められている。
原発事故 チェルノブイリ VS フクシマ
チェルノブイリ
死亡
直接
間接
28名
寿命7年短縮
フクシマ
0
?
避難へのストレス
経済活動の抑制
老人の死亡増加
甲状腺 被爆
食品規制
ヨウ素不足
500 mSv
なし
0~35 mSv
あり
あり
なし
黒木 良和 (2012) 日本先天異常学会
放射線基準の混乱
• 科学的裏付けのない変更
「安全じゃあダメなんです、安心です」 厚生労働大臣
「正しく恐れる」ことができなくなった
日本の不幸 「1」か「0」か、ゼロリスク追求
科学を超える非論理の横行とポピュリズム
• 非現実的な基準
避難住民帰還の遅れ
食品規制値 世界標準の数10分の1
食品など、福島県への差別
• 心理的健康影響>放射線被曝影響
避難高齢者の死亡率2.7倍
小出重幸 科学の信頼とは 福島事故のcommunication NITEシンポジウム 2014.2.21
発癌リスクの比較
発癌原因
発癌リスク
受動喫煙(女性)
1.02-1.03倍
野菜不足
1.06倍
被曝100-200 mSv
塩分の取りすぎ
1.08倍
1.16倍
被曝200-500 mSv
運動不足
1.16倍
1.15-1.19倍
肥満
1.22倍
被曝1000-2000 mSv
1.4倍
被曝2000 mSv以上
1.6倍
喫煙
1.6倍
3合以上/日の飲酒
1.6倍
国立がん研究センター調べ
東日本大震災死者・行方不明者数:22010
消防庁 H28.3.8
ある物の使用による日本国内での死者数の推移
年
1990
1995 2000 2005 2010
年間死者数 15828 15147 12857 10028 7222
信頼を失った専門家
一般住民
専門家
何を誰を信じていいのか分からない
専門家に騙された
影響を軽くみているのではないか
何かを隠しているのではないか
• なぜわかってくれないのか
• なんて非科学的なんだ
• 素人には分からないだろう
• 疑心暗鬼
• より危険の側に立った意見を正しい
と思う
• 自分の懸念に合う情報ばかり探し出
し納得する
• 疲れとあきらめ
• 説明すること自体を止めて
しまう
•
•
•
•
結果、不安も増大、不信感も増幅
松井史郎 専門家と一般住民のコミュニケーションの形 第3回環境疫学フォーラム 2015.8.8.
要因解析
専門家が伝えたい危機
リスク=定量的
•
•
•
•
リスクとして確率で示す
客観的データ
指標
科学的事実
一般住民が感じている危機
ハザード=定性的
科学的に正しいことを説明
するだけでは、不安と安心
をかきまぜるだけ。
専門家と一般住民の間に
良い関係は生じない
専門家による相手を知る
努力が不足
松井史郎 専門家と一般住民のコミュニケーションの形 第3回環境疫学フォーラム 2015.8.8.
対応策
何を伝えるかについて議論していたが、誰に伝えるのか、
いかに伝えるのかについて議論されていない
• 原発事故
• 健康への不安
• 情報検索、収集
• 行動や態度決定、態度変容等
• 周囲との共有
1.何を伝えるか
「論理」
2.どのような人に
伝えるか
「相手」
3.どのようなニーズ
に応えるのか
「思い」
松井史郎 専門家と一般住民のコミュニケーションの形 第3回環境疫学フォーラム 2015.8.8.
ベンデクチン
効能:妊婦の吐き気、むかつき、嘔吐
成分:ドキシラミン(抗ヒスタミン)、ピリドキシン(ビタミンB6)
1956年発売開始、ピーク時25%の妊婦が処方された
• 服用した妊婦から肢減形成患児が生まれて
いて、推定で数千人以上と考えられます。
• 米国で300を超える訴訟
• 1983年経済的理由から販売中止
• 世間から抹消
2.ナノマテリアルの安全性評価の現状
2-1.安全性上の懸念と当初の評価状況
2-2.カーボンナノチューブは中皮腫を誘発するか?
2-3.ナノマテリアルの安全性評価事例
2-4.安全性評価に関する今後の動向
ナノテクノロジーへの期待と不安
安全性上の懸念
特性が劇的に変化
材料としての期待
安全性上の懸念
これまでにない吸収分布?
バルクより大きい比表面積?
細長い形状(アスベストに類似)?
ナノ粒子
◎自然発生(火山ガス、燃焼ガス)
(ウィルス :20~300 nm)
◎非意図的発生(ディーゼル排ガス等)
・排気中の微粒子:7~40 nm
◎意図的生産物
・酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミ など
・フラーレン(C60):0.7 nm
・カーボンナノチューブ:1~5 nm
・量子集合体(CdS, CdSe) :5~20 nm
大気中の粒子数
測定粒子径 (nm)
二酸化チタン排出源近傍
(袋詰め工程)
対照(バックグラウンド)
10 ~ 1000 13000 ~ 26000 個/cm3 21000 ~ 85000 個/cm3
300 ~ 1000
170 ~ 320 個/cm3
95 ~ 230 個/cm3
1000 ~ 10000
6.8 ~ 100個/cm3
1.5 ~ 6.5個/cm3
NEDOプロジェクト 「ナノ粒子特性評価手法の研究開発」
産業技術総合研究所 2011年8月17日
ナノ材料のリスク評価 最終報告版 二酸化チタン
当初の安全性評価状況
良質なデータの不足
様々な条件下での実験
乏しい評価事例
相反する実験結果の報告
ナノサイズ化の影響か否か明確ではない
非現実的な実験
未知なるが故の不安・懸念
ナノ材料特有の毒性があるのでは?
既存の毒性試験方法で検出できるのか?
OECD Expert meeting on categorization of manufactured nanomaterials
Tom Gebel
September 17-19, 2014
A strategy to assess nanomaterial toxicity from a regulatory point of view
scientist
regulator
I need positive finding to
publish
I want to see your negative
data
I adjusted my experimental
protocol till I found a positive
effect
Why didn’t you use the
validated standard protocol?
These findings do not help me.
I found something with my
nanostuff
Why didn’t you test bulk in
parallel?
I saw a particle in a cell
I need quantitative and
representative data
I publish a positive finding
Adversity?
What does it mean for real
life?
Six years of OECD work on the safety of manufactured nanomaterials:
http://www.oecd.org/chemicalsafety/safetyofmanufacturednanomaterials/Nano%20Brochure%20Sept%202012%20for%20Websit
e%20%20(2).pdf
• 既存の化学物質の安全性評価試験および評価方法は、ナノ物質
の安全性評価においても適切である。
• 一部ナノ物質特有の変更を加える必要があるが、全く新しい安全
性評価のアプローチを開発する必要はない。
化粧品におけるナノ材料の安全性評価ガイダンス
Guidance on the safety assessment of nanomaterials in cosmetics Scientific committee on consumer safety
SCCS/1484/12 2012
• ナノ物質に通常より高い安全係数を適用する理由はなさそう
Nanotoxicity: challenging the myth of nano-specific toxicity
Donaldson and Poland. Current Opinion in Biotechnology 2013. 24:724
• 新規なナノ特異的有害性の証拠はない
• 毒性発現機序は従来のバルク粒子が示すものと同様、ただし影
響量は異なることあり
2013年OECD理事会勧告
19 September 2013 – C(2013)107
• 既存の化学物質規制の枠組みや管理システ
ムを適用する
• OECDの試験ガイドラインを適用する
• 必要な新規ガイドラインの作成あるいは既存
ガイドラインの改訂をおこなう
• 安全性試験や評価に関する技術的課題につ
いて化学委員会に通知する
• 安全性データを公開する
2.ナノマテリアルの安全性評価の現状
2-1.安全性上の懸念と当初の評価状況
2-2.カーボンナノチューブは中皮腫を誘発するか?
2-3.ナノマテリアルの安全性評価事例
2-4.安全性評価に関する今後の動向
カーボンナノチューブ(CNT)は
アスベスト同様に中皮腫を引き起こす??
MWCNT
クロシドライト
フラーレン
径:100 nm、長さ:27.5%が5μm以上
p53ノックアウトマウスに3mg/匹 (100 mg/kg相当)腹腔内投与25週間目に観察
コントロール
MWCNT
アスベスト (クロシドライト)
フラーレン C60
p53:発がん抑制遺伝子
中皮腫発生率
0/19
14/16
14/18
0/19
Takagi et al. (2008) J Toxicol Sci 33:105
CNTのラット腹腔内投与発がん性試験
対照
中皮腫
発生率
1/26
MWCNT MWCNT
アスベスト
2 mg
20 mg
(クロシドライト)
2 mg
9/26
2/50
クロシドライト径:330 nm、長:2.5 μm; MWCNT径:11.3 nm、長:0.7 μm
0/50
MWCNT
(熱処理)
20 mg
MWCNT
3/50
Muller et. al. (2009) Toxicological Sci 110:442
CNTのハムスター気管内注入による発がん性試験
被験物質: VGCF®、VGCF® +ベンツピレン、アスベスト(クリソタイル)+ベンツピレン
VGCF:製品は凝集体として存在(数μm)、一次粒子径:150 nm、長:10 μm
試験系:ハムスター
MWCNT
曝露:気管内注入法 1週間に1回、計6回投与
(0.2mg/匹/回、ベンツピレンは0.4mg)
観察:初回投与2年後の
悪性腫瘍の発生数を比較
結果:クリソタイル+ベンツピレン群のみで
悪性腫瘍の発生が認められた。
製品安全データシート;CNT 昭和電工、2009年12月
アスベストによる中皮腫
肺がん
マクロファージ
胸膜(中皮)
小孔
壁側
胸膜
臓側
胸膜
Donaldson et al. (2010) Particle and Fibre Toxicology 7:5
胸膜腔
中皮腫(肺最深部、壁側)
Donaldson et al. (2010) Particle and
Fibre Toxicology 7:5
Murphy et al. (2011) The American Journal
of Pathology 178:2587
酸化チタン 短繊維(0.8-4 μm) 長繊維(15-30 μm)
マウスマクロファージ
Donaldson and Poland. Current Opinion in Biotechnology 2013. 24:724
Murphy et al. (2011) The American
Journal of Pathology 178:2587
Donaldson et al. (2010) Particle
and Fibre Toxicology 7:5
Nagai and Toyokuni (2012) Cancer Science 103: 1378
MWCNT short and tangled (1~5 um)
MWCNT long (20~100 um)
Murphy et al. (2011) The American Journal of Pathology 178:2587
Murphy et al. (2011) The American Journal of Pathology 178:2587
Nagai et al. (2011) PNAS 108: E1330
MWCNTの吸入がん原性試験
投与濃度(mg/m3)
0
0.02
0.2
2
検査動物数(♂/♀)
50/50
50/50
50/50
50/50
中皮腫
0/0
0/0
0/0
0/0
良性腫瘍
細気管支・肺胞上皮腺腫
1/3
1/1
7*/4
5/3
悪性腫瘍
細気管支・肺胞上皮癌
1/0
1/1
8*/0
10**/5*
腺扁平上皮癌
0/0
0/0
0/0
1/1
*:p値0.05以下で有意、**:p値0.01以下で有意
被験物質:MWCNT(MWNT-7)
径:84~91nm、長さ:5.2~5.7μm
試験系:ラット(F344/DuCrlCrlj)
胸腔内MWCNT
曝露:1日6時間、1週5日間、104週間 全身暴露
観察:生死および一般状態、体重、摂餌量、
尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査
臓器重量、病理組織学的検査
肺、気管支肺胞、胸腔、腹腔内のMWCNT
厚生労働省平成27年度第3回有害性評価小検討会資料 平成27年6月23日
2.ナノマテリアルの安全性評価の現状
2-1.安全性上の懸念と当初の評価状況
2-2.カーボンナノチューブは中皮腫を誘発するか?
2-3.ナノマテリアルの安全性評価事例
2-4.安全性評価に関する今後の動向
欧州
Scientific Committee on Consumer Safety (SCCS)
Opinion on Titanium Dioxide (nano form) SCCS/1516/13 22 July 2013
•
•
•
UV filter in sunscreensとしては安全に使用できる
経皮吸収がないことに基づく判断であり吸入暴露が起きる場合は適用できない
光触媒活性は低くしておく
米国
EPA Office of Pesticide Programs Antimicrobials Division
Draft Decision Document August 27, 2013
Proposed Conditional Registration of Nanosilva as a Materials Preservative in
Textiles and Plastics
•
•
申請使用条件下ではヒトに有害作用を引き起こさない
ラット90日吸入毒性試験、繁殖・発生毒性スクリーニング試験を実施して提出
カナダ
2015年5月19日条件付き登録
Summary of Risk Assessment Conducted Pursuant to subsection 83(1) of the
Canadian Environmental Protection Act, 1999
Significant New Activity No. 17192: Multi-wall carbon nanotubes. 2015-01-09
•
•
•
•
Short tangled MWCNT 、プラスティックスの添加剤
急性毒性低い、眼・皮膚刺激性あり、弱い皮膚感作性、vitro遺伝毒性なし
固形ポリマーに封入されていて、ヒトへの暴露は工場内に限定される
一般人に健康リスクはない
米国の現況 Assessment and Management of Nanomaterials
Under the Toxic Substances Control Act
ECHA Topical Scientific Workshop: Regulatory Challenges in Risk Assessment of Nanomaterials
October 23, 2014
Alwood J.
Office of Pollution Prevention and Toxics
• 米国にナノに特有の法規制はない
• EPA(環境保護庁)はTSCAの下、160以上のナノ材料を評価してきた
主にCNTやフラーレン
• EPAはナノ材料も他の新規化学物質と同様に評価している
• ナノ材料評価における留意点
製造方法、使用方法、構造、大きさとその分布、有害性
• 曝露の制御、制限をおこなっている
使用制限、保護具使用義務付け、環境中への放出制限
• 同一物質のナノ材料の区別(逆にみればグループ化)
10%以上の変化;大きさ(平均粒子径)、表面荷電、比表面積、
分散性・溶解性、表面反応性
• 物理化学的性質の特定が重要(申請物質、動物に投与した時の状態)
• 個別のタイプや個別のグループのナノ物質に特有な標準法が必要
厚生労働省労働基準局
MWNT-7の発がん性試験結果を受けて特定の多層
カーボンナノチューブ(MWNT-7)をがん原性指針の
対象物質に追加 2016年3月31日
「労働安全衛生法第28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止
するための指針」
対象物質への曝露を低減するための措置
作業環境測定
労働衛生教育
労働者の把握
危険有害性等の表示&譲渡提供時の文書交付
単層CNT融合新材料研究開発機構 2016年4月 [ケーススタディ報告書] スーパーグロース単層カーボンナノチューブ 第4版
2.ナノマテリアルの安全性評価の現状
2-1.安全性上の懸念と当初の評価状況
2-2.カーボンナノチューブは中皮腫を誘発するか?
2-3.ナノマテリアルの安全性評価事例
2-4.安全性評価に関する今後の動向
OECD Expert meeting on categorization of manufactured nanomaterials
Grouping of Nanomaterials
Landsiedel et al., September 17-19, 2014
特徴づけ(4つに分類)
形状:繊維状、吸入発
がん性
溶解性:金属イオン
サイズ:吸入か経口か
の優先順位
①残留性+有害性(繊維状)
②残留性+粒子吸入
③残留性+化学組成
④非残留性(易溶解)
グループ化の基本試験
曝露:紛体性
生体反応:生体内残留性、
表面反応性、表面電荷、
分散性
生物機能:マクロファージ
への影響
グループ内類似性の保証
使用時懸念事項の絞込
曝露:封入物からの放出
生物機能:遺伝毒性、短
期吸入毒性、短期吸入
ADME、ミジンコ急性毒性
米国とカナダの規制協力委員会(RCC)のナノテクノロジー分科会
2014年3月ワークショップ
産業技術総合研究所
蒲生昌志 ナノ材料のリスク評価 平成27年度産総研エネルギー・環境シンポジウムシリーズ 安全科学研究部門講演会 2016.2.29
二酸化チタン(TiO2)
• 表面処理(Al(OH)3修飾)により増悪化(肺炎症継続)
• 表面処理ないと二次粒子径が大きい方が弱い
• 形状、結晶型による影響なし
•
表面処理した場合毒性は変わるので個別評価。ない場合は同様な毒性と判断。
酸化ニッケル(NiO)
• リソソーム液溶解性高いと回復性あり
• 溶解性低いと一次・二次粒子径が大きい方が弱い
• 形状・表面処理について未検討
•
溶解性が高いと毒性変わるので個別評価。低い場合は同様な毒性と判断
二酸化ケイ素(SiO2)
• 非晶質では表面処理(COOH, Al(OH)3)により減弱化
• 表面処理ないと一次・二次粒子径が大きい方が弱い
• 形状について未検討
•
•
表面処理した場合毒性は変わるので個別評価。ない場合は同様な毒性と判断。
結晶質では一定のパターンが見られず物理化学的特性との相関不明
化学物質評価研究機構 平成28年3月 ナノ材料の安全・安心確保のための国際先導的安全性評価技術の開発
技術解説書1. ナノ材料の同等性判断基準