「道路と交通論文賞」 講評

「道路と交通論文賞」 講評
*経済社会部門
論文選考委員長 寺田 一薫
平成 27 年度の経済社会部門の対象論文は 2 点であった。
鈴木裕介氏による「高速道路における乗用車の外部費用の推定」は、環境等の外部費用という道路交通にとって極め
て重要なテーマに取り組んだ研究である。外部費用の推定値自体に注目する研究の価値は大いに認められるが、既往
研究のレビューが十分でなく、そのため著者の選択した推定プロセスとその特徴が不明確になってしまっていること、既
往研究で生じている推定値のばらつきの中での研究結果の位置づけを示すに至っていない等の問題もみられる。しかし
ながら、本研究成果が現実の道路政策・交通政策に与える寄与は極めて大きいと考えられる。
三輪富生氏、浪崎隆裕氏、他 2 名(教授職のため受賞対象外)による「一般道路網を含む渋滞緩和のための高速道路料
金に関する研究」は、膨大な作業を通じて道路ネットワークの(交通工学でいう)均衡問題に取り組んだもので、採用されて
いる「焼きなまし法」という計算手法は極めて独創性に富んだものである。その一方で、他の均衡導出手法との比較による
説明が欠けていて、採用した手法の優位性が明確になっていないこと、料金による交通量調整を論文の目的にしながら、
導出された結果の社会経済的見地からの説明が不十分であることなどの問題点もある。
以上のように、対象の 2 論文とも、共通して未完成な点を抱えている。だが、比較的若い研究者が単独または中心にな
って行った、政策的意義の十分大きな研究であることを考慮すれば、論文賞授賞作として十分な内容を備えているといえ
る。このため対象 2 論文の両方を「経済社会部門」の授賞論文として選定した。
*技術部門
論文選考委員長
内山 久雄
平成 27 年度の「道路と交通論文賞」技術部門の候補論文は、3 編あり内容は「高速道路舗装路面の走行快適性能に関
する研究報告」、「デジタルカメラを用いた橋梁の変位、ひずみ計測に関する研究」、「盛土内に設置されたプレキャストア
ーチカルバートの地震によるカルバート縦断方向の被災メカニズムの解明」であった。
論文選考委員会では審査に先立ち、まず本賞が新進気鋭の研究者また実務者により執筆された論文を表彰対象とす
るという奨励的な趣旨から、主執筆者が教授職に就いていないことが授賞の資格条件となっている。この条件に当てはめ
て候補論文 3 編を審査の対象として進めた。
当委員会で、慎重に審査を進めた結果、出水 享氏、松田 浩氏、伊藤幸広氏の3名による「デジタルカメラを用いた橋
梁の変位、ひずみ計測に関する研究」を授賞論文とした。ただし基準に従い教授職にある松田 浩氏、伊藤幸広氏は表
彰の対象外とさせていただいた。
本論文は、老朽化する橋梁の点検・調査を合理的に実施するための 1 つの手段として、橋梁のたわみ・ひずみを簡易
に計測可能なシステム開発を行い、撤去した橋梁を用いた計測を行った基礎研究である。非接触でひずみを計測できる
技術は有効であり、実際に活用するにはまだ課題はあるものの、目視で観測できないことなど点検での課題を考えた場
合、今後に期待したい研究である。
本賞の趣旨である、若手研究者により執筆された論文として、今後も技術的課題を発展させ実際に活用できる研究とな
ることを期待し、ここに「道路と交通論文賞」を贈ることとする。
最後に、今後とも若い研究者や実務者の方々からの優れた論文が数多く投稿されることを一層期待するものである。