別紙1 論 文 審 査 の 要 旨 報告番号 甲 論文審査担当者 第 2785 号 氏 名 主査 教授 馬場 一美 副査 教授 井上 富雄 副査 教授 佐藤 裕二 高城 大輔 ( 論 文 審査 の 要旨 ) 学 位 論文 「 Relationship between Skeletal Muscle Mass and Swallowing Function in Patients with Alzheimer ’s Disease」 に つ いて , 上記 の 主査 1 名 ,副 査 2 名 が 個 別に 審 査 を行 っ た. 【 緒 言 】本 研 究は , ア ルツ ハ イ マー 型 認知 症 ( AD) 高 齢 者は AD の進 行 だけ で な く , 口 腔機 能 あ るい は 嚥 下 機能 の 低下 も 関 連し て , 骨格 筋 量が 低 下 する と の 仮説 を 検証 す る 目的 で 軽 度か ら 重度 AD 高齢 者 を 対 象に 横 断調 査 を 行っ た . 【 方 法】日 本の 2 地域 の AD 高 齢者 232 名(平 均 年齢 85.4±5.9 歳)を分 析対 象 と した .調 査 項目 は基 礎 情 報( 性 別 ,年 齢 ),骨格筋 量 指 標( Skeletal Muscle Index :SMI)と認 知 症重 症 度 (Clinical Dementia Rating: CDR),身 体 機 能評 価 (Barthel Index: BI), 栄 養状 態 評価 (BMI,Calf Circumference: CC, Mini-Nutrition Assessment short form: MNA-SF), 口 腔 所見 と 口腔 機 能 ( Occlusal Contacts, Tongue Function), 嚥 下機 能 ( Modified Water Swallowing Test : MWST) と し た. 【 結 果】CDR 分 布 は CDR0.5( very mild)が 21 名(9.0%),CDR1( mild)が 85 名 (36.6%),CDR2( moderate) が 88 名 (37.9%),CDR3(severe)が 38 名 (16.3%)で あ っ た.SMI は severe と 他 3 群と の 間に 有 意 差を 認 め た . SMI 低 下を 目 的変 数 と した ス テッ プ ワ イズ 法 に よる 多 重ロ ジ ス ティ ッ ク 解析 の 結果 , CDR severe (Odds Ratio [OR]:11.68 95% Confidence Interval [CI]:4.52-30.20), BMI 18.5kg/m 2 未満 ( OR:3.18 95%CI:1.27-8.00),CC 30.5cm 未 満( OR:9.33 95%CI:2.01-43.27)と 嚥 下 機能 低 下( OR:4.93 95%CI:1.10-22.04) が 有意 な 関 連因 子 とし て 挙 げら れ た . 【 考 察】AD 高齢 者 の骨 格筋 量 低 下に は AD の 重 度化 の ほ か ,嚥 下機 能 低下も 関 連 する こ とが 示 唆 され , AD の 重 症度 だ けで な く嚥 下 機 能低 下 にも 注 目 する 必 要 があ る と考 え ら れた . 本論文の審査にあたり多くの質問があり,その一部と回答を以下に示す. 副査 佐藤教授からの質問事項と回答 ・調査場所による栄養やケアの差は検討していないのか. 本 研 究の 調 査場 所 は 多様 で あ り ,そ れ ぞれ の ケア や 栄 養の 提 供状 況 な ど ,環 境 因 子の 差 はあ ると考 え ら れ るが , 本研 究 で はそ れ ら の検 討 はさ れ て いな い . ・除外対象者にはどのような者が多かったか. 除 外 者の 多 くは 指 示 理解 困 難 によ る 実測 項 目 の施 行 拒 否で あ った . (主査が記載) ・今回の結果を将来どのように役立てるか. 本研究において得られた知見から ,認知症が重度になる前にどれだけ筋肉量を維持できるか, 嚥下機能低下が認められた時点で栄養指導や摂食嚥下リハの介入が必要かどうかを検討すること の 重 要 性を 提 示す る こ とが で き た .今 後 ,こ れ ら因 子 の 因果 関 係な ど を 検討 し ,AD 高 齢者 の 骨格 筋 量 維 持・改 善 に必 要 な介 入 方 法を ま とめ た 介 入プ ロ グ ラム の 考案 な ど の一 助 に なれ ば と考 える . 副査 井上教授からの質問事項と回答 ・ 口 腔 機 能 が ア ル ツ ハ イ マ ー 型 認 知 症 ( AD) の 骨 格 筋 量 減 少 を 引 き 起 こ す 根 拠 は 何 か . 口 腔 機能 ・ 嚥下 機 能 が , AD の 重 症 度と 骨 格筋量 低 下 に共 通 した 関 連 因子 で あ るた め . ・生体インピーダンス計測による骨格筋量の推定値に影響する要因を挙げよ. 生体インピーダンス法は,安静を保ち,生体内の水分を安定させなければ正確な測定ができな い た め ,指 示 理解 が 困 難で 測 定 中に 体 動が 激 し い者 は 推 定値 に 影響 す る と考 え ら れた . ・骨格筋量低下が起こりやすい筋,起こりにくい筋は有るか. 抗 重 力筋 で ある 広 背 筋・ 腹 筋 ・膝 伸 筋群 ・ 臀 筋群 ・ 舌 骨上 筋 群 な ど が 挙げ ら れ る . ・下腿周囲径を本研究で取り上げた理由は何か? 栄 養 指 標と し て確 立 さ れた 指 標 であ り ,簡 便に 計測 可 能 であ る ため ,AD 高 齢 者 にも 実 施可 能 で あ る と 考え ら れた . ・ 多 変 量 解 析 に 用 い る CDR の カ ッ ト オ フ 値 と し て , 重 度 と そ れ 以 外 に 分 け た 理 由 は 何 か . AD の 病 態 が重 度 になる と 変 化す る こと ,口 腔機 能 と 嚥下 機 能を 検 討 した 先 行 研究 に おい て 用 い ら れ て いた カ ット オ フ 値で あ る こと を 考慮 し た . ・認知機能の低下が骨格筋量の低下に結びつくとすれば,その原因は何か. 先 行 研究 に おい て , タン パ ク 質同 化 作用 を 持 つイ ン ス リン や IGF-1 が AD に お け る 脳 の 萎縮 と 骨格筋量低下のどちらにも関連していると報告されている.さらに,抑うつや無気力といった認 知症の周辺症状による活動量の低下 ,認知機能低下により食事が摂れないといった症状 も骨格筋 量 低 下 に影 響 する と 推 測さ れ る . 主査 馬場教授からの質問事項と回答 ・各除外基準に該当した者の人数と除外した理由は何か. 除外基準は調査項目の実施が対象者の健康を害する可能性がある場合と,特定の対象者を検討 に加えることでデータの信頼性と妥当性が損なわれる可能性がある場合とした .前者は全身状態 が著しく悪い者や開口障害があり開口が不可である者が該当し ,後者は認知機能低下が著しく指 示 理 解 困難 な 者が 該 当 した . そ の結 果 ,除 外 対 象者 は 全 体で 52 名 で あ った . ・認知症,嚥下機能,骨格筋量の因果関係を今後検討していくにはどうすればよいか. AD 高 齢 者 を縦 断 的に調 査 し ,各因 子 の推 移 の影 響 を 調整 す る必 要 が ある .ま た ,統 計 手法 も 共 分 散 構 造分 析 とい っ た 多因 子 の 因果 関 係を 検 討 出 来 る 手 法も 検 討す る 必 要が あ る . こ れ ら の試 問 に対 す る 回答 は ,適 切か つ 明解 で あっ た .ま た ,馬 場 一 美委員 は 主 査の 立 場か ら , 両副査の質問に対する回答の妥当性を確認した.以上の審査結果から,本論文を博士(歯学)の 学 位 授 与に 値 する も の と判 定 し た . (主査が記載)
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