特典持ちなのに周りが化け物ばっかでつらい件について ID

特典持ちなのに周りが化け物ばっかでつらい件について
ひーまじん
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
ここISなの
しかも原作
!
︻あらすじ︼
え
?
ルーレット方式で決められた特典をもって、どっかに転生
出会ったのは中学生の織斑千冬
前
!?
転生者が色々頑張る話。
⋮⋮ところで原作はまだですか
?
!?
特典持ってる転生者の上、異能バトルでもないのにチート出来ない
!?
目 次 世界を知った日 │││││││││││││││││││││
友達になった日 │││││││││││││││││││││
転校した日 │││││││││││││││││││││││
1
13
23
世界を知った日
﹂
﹁はーい、どーもです☆呼ばれて飛び出てはひふへほー
神様ですが
様さん。
皆の崇める
前半のテンションから後半いきなり冷静になったな⋮⋮えーと、神
!
嬉しい
﹂
﹁そう。私は神。ネタとかじゃなくて神。死んでしまった君を転生さ
せてあげるために現れたわけさ。どう
?
ルーレットって⋮⋮的が全部真っ黒で見えないんですが。
きたから、これからは僕が選んだ特典ルーレットで決めるのさ﹂
﹁そんなわけで。デジャヴュっていうか、そろそろ同じ展開は飽きて
それはまた⋮⋮。
さ﹂
い限り転生者の人を好きになるしね。人によれば取っ替え引っ替え
﹁そりゃあね。もれなく超モテ体質は要求されるから、余程の事がな
凄いですね。皆さん第二の人生謳歌してるみたいで。
じゃ王の財宝使ってアラガミ一掃してた﹂
ペ ッ ク の 時 は オ ー ル マ イ ト が 可 哀 相 だ っ た な ぁ。ゴ ッ ド イ ー タ ー
で梟を片手間で倒してたっけ。ヒーローアカデミアはサイタマのス
﹁他にもいるよ。東京喰種にネウロのスペックと魔界能力とか。片手
苦労してらっしゃるんですね。
わけないよ。色々概念が違うんだから﹂
ONE PIECEに学園都市一位の能力でいけば相手なんている
やる事なんて揃いも揃ってチートハーレムばっかりだし。そりゃあ
﹁だって選ばせたら偏りがあるんだよね。皆、チートばっかり選ぶし、
選ばせてはくれないんですか。
けどね﹂
﹁そこはほら。お約束だし、当然あるよ。ただ⋮⋮ルーレット方式だ
はぁ⋮⋮まぁ⋮⋮。特典みたいなものがあるとかなり。
?
﹁まあね。その方がスリルがあっていいでしょ。お互いにわからない
わけだし﹂
1
?
わくわくじゃなくて、スリルなんですか⋮⋮それで投げるやつはど
こですか
的に向けて投げるモーションをすれば勝手に当たってるから。
関する魔術だ﹂
エミヤって⋮⋮あのfateの
もあるのさ。嬉しいだろう
﹂
?
仕 方 な い。決 ま っ た わ け だ し、見 せ て あ げ よ う。
嬉しいです。⋮⋮あ、因みに他の候補は何だったんですか
﹁気 に な る か い
?
楽しそうだろ
﹂
?
むから。二回目の人生を謳歌しなよ、名もなき転生者くん﹂
当てたのは運が良い。使い方については直接情報を脳みそに叩き込
﹁違いない。一個だけ言い訳がてら当たりを入れてみたけど、それを
て済んで。
す。よくもまあ特典どころか足枷にすらなりそうなものを貰わなく
⋮⋮そうですね。死んでおいてアレですけど、自分の運に感謝しま
い。どう
ろん君はエゴのミニマムホルダーだからそれ以外の能力は発言しな
んとコントロールできないとミニマムホルダーで溢れかえる。もち
次第じゃ生贄は必要ないかもしれないけど。エゴのミニマムはちゃ
しは言わなくても良いよね。螺湮城教本は生贄が必要さ。行く世界
増やす。ああ、もちろん特技は自分で何とかしてもらうから。幻想殺
なって思って。因みに妄想心像の場合は君の人格を強制的に八十に
﹁はは、実を言うとそろそろ面白くないからハードモードでも良いか
すか、この嫌がらせ。
妄想心像、幻想殺し、螺湮城教本、エゴのミニマム⋮⋮あの、何で
オープン﹂
?
﹁そうそう。ただ、
﹃エミヤ﹄だから。シロウだけじゃなくてキリツグ
?
す人が多いんだよ。えーと⋮⋮お、やるね。特典は⋮⋮﹃エミヤ﹄に
﹁お、一発で当たったね。これ投げるやつが見えないから、二、三回外
じゃあ⋮⋮とりゃ。
不正は心配しなくていい。神様は公正じゃないと務まらないからね﹂
﹁ん
?
?
2
?
というわけで、無事転生を果たした俺の名は天城宗介。
もちろん、この世界での名前であり、以前の名前に関しては全く忘
れている。おそらく、間違えて昔の名前を名乗らないようにと神様の
3
計らいなんだろう。
目を覚ました時にはいきなり七歳児。記憶の方は天城宗介の数年
分と過去の俺のものがあった。そして特典のこと。
初めは使うのに四苦八苦したものの、今はある程度慣れたし、母か
ら剣術を習っているため、戦闘能力に関しては一般人の中でそれなり
にあると思われる。
どこの世界に転生したのかは知らないが、願わくば命のやり取りを
﹂
しない世界が良いな。何て思っていたのは既に昔の話である。
﹁宗介ー、準備はできましたかー
﹁出来たー。今行くー﹂
何せ、姓は違えど顔も声も父は衛宮士郎その人であり、母もまた騎
違う事が分かったのは、俺の父と母の存在。
か、ひょっとするとヤンキー漫画の可能性もある。
いし、ともすれば魔法学校とかそういうものもない辺り、裏の世界と
俺のいた世界と違うのは確かなのだが、学園都市みたいなものはな
わからない。
転生してかれこれ六年経つが、未だにこの世界が何の世界なのかは
?
士王アーサーのまんまなのだ。
神様はどうやらその辺りの調整をするのが至極面倒だったらしい。
見た瞬間、この世界はFateなのかと思いかけたが、姓とFate
の原作キャラがこの二人以外不在ということ、見た目は騎士王だが日
本人とイギリス人のクォーターという事もあり、その辺はなくなって
いた。
ぶっちゃけた話、そろそろ何の世界かっていうのはそこまで重要で
はなくなりかけていた。
特典は貰ったが、世界次第では俺なんて瞬殺。なら、原作とは関わ
らず生きたほうがよほど建設的なのかもしれない。特典の意味はあ
まりないけど。
﹁宗介。今日は剣道の大会、もう少し気を引き締めるべきですよ﹂
﹁わかってるよ、母さん。でも、母さんより強い人をまだ見た事ない
よ﹂
俺の母はどうやら剣術の方も騎士王並とまではいかないが、超強
い。段持ちだし、未だに一本も取れた試しがない。今現在俺の目標と
する人物だ。
﹁だとしてもです。今日は部活動ではなく、一般の大会なのですから、
まだ見ぬ強者がいるかもしれない、ということを肝に銘じておきなさ
い﹂
とは言ってもなぁ⋮⋮いくら県をまたいで参加するとはいえ、特典
による裏技を含めた俺は未だに母以外に負けた事はない。幼い頃か
ら鍛え上げられた剣術と目、そして勘に関してはよほど汚い手を使わ
れない限り負ける気がしない。
おまけに一般の大会と言っても、中学生限定の男女混同である。優
勝すればゲームを買ってくれるという事で多少は気合が入っている
ものの、﹃どうせ母さんより弱いし﹄と思ってしまう。
﹁舞、宗介。早くしないと間に合わないぞー﹂
﹁すみません、士郎。さあ、行きますよ、宗介﹂
﹁りょうかーい﹂
試合の方はともかく、今日は俺の娯楽がかかっているんだ。
4
とりあえず、強い弱いは置いておいて、ちゃちゃっと優勝してしま
おう。
ワーっという歓声と共に拍手がホール内に響く。
勝ったのは俺で、例のごとくストレート勝ち。
別に相手は弱いわけじゃなく、この手の大会に出る人間は腕に多少
の自信がある輩なのだろう。それなりに強い。
5
ただ、やはり母さんのほうが強い。常日頃から、一番強い人と稽古
をしている俺からしてみれば、全てが遅く思える。フェイントなんて
あってないようなものだ。
﹁お疲れ、宗介。またストレート勝ちだったな﹂
﹁普段母さんと稽古してるんだから、そこらのやつには負けないよ﹂
﹁油断は禁物です、宗介。あなたの他にも強い人間はいるのですから﹂
母さんが言った矢先、ホール内が沸く。
試合は見ていなかったが、おそらくあちらもストレート勝ちだろ
う。俺より少し後に始めたのにもう試合が終わっていた。
あれって女の子なのか、母さん﹂
﹁彼女もそうですね。剣に迷いがない﹂
﹁彼女
﹁おそらく、宗介の決勝戦の相手は彼女になるでしょう﹂
いやつは強い。
と思わされる。元より女だからと油断はしないつもりであるが。強
男とか女とか、そういうのは些細な事なんだと母を見て、しみじみ
﹁⋮⋮母さんが言うと凄い説得力あるよな﹂
﹁ええ。ですが、武道武術に性別は関係ありません﹂
?
﹁まだ三回戦だぜ、母さん。そんな事言っていいのかよ﹂
﹁純然たる事実です。よほどの事がない限り、宗介や彼女に勝てる人
間はこの場にはいないでしょう﹂
そういう言い方はやめてください
私は全ての試合を見
﹁なんだかんだ言っても、母さんは宗介に甘いよな﹂
﹁し、士郎
俺よりも強い⋮⋮
落ち着いた母さんはそう口にした。
介、あなたよりも強い﹂
当たったほうがいいでしょう。私の見立てが正しければ、彼女は宗
﹁と、ともかく、彼女との試合は私と稽古をしている時と同じ気持ちで
上にとんでもなく恥ずかしいので。
でいちゃつくのはやめていただけますか、ご両人。息子の肩身が狭い
えん。先入観だけじゃなくて、もうやりとりとかその辺も。後、公然
⋮⋮やっぱりこの二人。何年経っても衛宮士郎と騎士王にしか見
﹁わかってるわかってる﹂
たうえで話しているだけで、甘やかしているわけでは﹂
!
剣道をやるのはいいが、やり終わると汗まみれでもう凄い事になっ
あー、熱い。
俺は風に当たろうと一度ホールから外に出る。
この大会。ゲーム以外にも参加する価値はあったのかもしれない。
のの、もし一段階上ぐらいなら、実力が拮抗しているのなら。
母さんとは実力差がありすぎて、楽しみもへったくれもなかったも
そう思うと心が躍る。
もしかしたら、彼女とは尋常じゃない試合をできるかもしれない。
も強い人間がいる。
それ以上に強いの度合いにもよるが、母さん以外で初めて、俺より
は納得できる。
程の隙の無いまるで一本の刀のようなオーラ。俺より強いというの
どんな強さを誇るのかはわからないが、さっきの触れれば切れそうな
成る程、母さんが言うなら確かにそうだ。試合を見ていない以上、
?
てる。水をぶっかけられたのかってくらいだ。
6
!?
クーラーとか聞いていればいいんだが、そういうわけにもいかず、
さらに人の熱気でもう嫌になる。剣術はいいけど、剣道が嫌なのはそ
の辺ぐらいだろうか。
中と違って、外は思いの外静かだ。
聞こえるのは車の走行音と中の少しの喧騒だけ。後は⋮⋮カラス
の鳴き声くらいか。
どこか適当なところに座って、スポーツドリンクでも飲もうかと辺
りを歩いていたら、いい感じに風通しの良い日陰になっている場所を
発見した。
先客がいたか﹂
ラッキー⋮⋮と思ったら。
﹁あれ
そこには既に一人の少女がいた。
胴着姿に首からタオルをさげ、水を飲んでいる辺り、彼女も参加者
の一人のようだ。
少女は俺を一瞥した後、何事もなく、視線を虚空へと戻す。どうや
ら特に話をするつもりも無いらしい。
少し離れた場所に腰を下ろして、俺もスポーツドリンクを飲む。
気まずいといえば気まずいけど、あちらは全く話すつもりは無いら
しいし、俺も無理して話しかけようとは思わない。
⋮⋮ただ、何処かで顔を見たような気がするんだけど⋮⋮はて。
まあ、人の顔を覚えるのはあまり得意では無いし、何処かですれ
違った程度なのだろう。
なんて考えていると、少女はスッと立ち上がって、どこかに行って
しまった。どこかに行ったと言っても、ホール内に戻っただけだろう
けど。
さっきの子といい、俺より強いと言ってた子といい、最近の女子は
強いんだなぁとしみじみ感じさせられる。
ひょっとしたら、女の子が活躍する世界なのかもしれない。だとし
たら、俺に出番なんてあったもんじゃ無いが、その時はその時か。命
懸けの闘いに巻き込まれなかっただけ、良しとして生きていくしか無
いな。
7
?
大会はあっという間に進んでいき、いよいよ残すところ決勝戦と
なっていた。
決勝戦は母さんの予想通り、俺と例の女の子。
ゲームとかその他諸々がかかっている俺はいつぶりか、試合前に軽
いや、だとしてもなんでよりにもよってこのタイミングで織斑
8
く精神統一をした後、試合に臨む。
竹刀を持ち、試合場に入って二歩進んで礼をした後、三歩進んでの
辺りでふと視線が防具についている名前のところにいく。
名前に興味があったわけじゃ無い。本当にたまたまだった。
だが、その名前を見て、俺は危うく変な声をあげそうになった。
そこに書いてあった名前は﹃織斑﹄。
﹃織斑﹄で女。休憩中に外で会った女の子。そしてどこかアニメや漫
画、ライトノベルの世界であるここ。
何かがかちりと噛み合うような音がした気がした。
織斑ってあの織斑千冬なのか
中学生しか参加できないこの大会に参加していることと、まだ世の
できる正真正銘の怪物。
りまわせる上に倒すことはできなくとも、ISと正面から戦うことの
界最強。IS乗りとしての描写こそ無いものの、生身でIS武装を振
インフィニット・ストラトスと呼ばれる世界において、まさしく世
!?
中にISというものが存在しない事を考えるにもしかして原作前な
のか
?
千冬と会うんだ
中学生っていっても、多分化物並みに強いぞ
優勝した後のゲーム天国をどうするんだ
俺の
!?
﹂
速すぎだろ
と心の中でツッコミをいれる暇もなく、吸い込まれる
来た、とそう思った瞬間には既に彼女は眼前に迫っていた。
﹁始め
の合図に傾ける。
一挙手一投足を見逃さないように相手を見ながら、聴覚はただ審判
わかるやいなや、俺の勝率は激減した。
少し前までの余裕はどこへやら、相手が織斑千冬の可能性が高いと
の始めの合図を待つだけである。
内心で悪態をつきながらも、トントン拍子で進んでいき、後は審判
!?
!
バシッ
した。
Time Alter double accel
!
﹂
声をあげる。
審判の言葉とともに旗が挙げられ、息を飲んでいた観客が一斉に歓
﹁一本
こちらの一撃が彼女の胴をとらえた。
バシンッッ
う。
ならばと一歩踏み込み、今度は俺が竹刀を彼女の胴めがけてふる
後ろに下がってはどちらにしろジリ貧。
るだけに過ぎない。
実際のところは周囲が遅くなったというよりは、俺が速くなってい
る。
その詠唱とともに、周囲の動きが遅くなったような錯覚に囚われ
﹁固 有 時 制 御 二 倍 速
﹂
これは負ける、自分の敗北を確信した俺は、咄嗟にあの言葉を口に
胴に狙いを切り替えた。
それには俺も驚いたが、相手は全く意に介さず、すぐにガラ空きの
打ち抜く前に殆ど脊髄反射の領域で出た竹刀が受け止めていた。
!
ように俺へと振るわれた竹刀は綺麗に面を⋮⋮。
!
!!
9
!
!
固有時制御が解け、その直後身体に一気に負担がかかる。
この固有時制御は体内を固有結界とし、術者の時間を加速・減速を
行えるというものだが、その際に術者の時間と世界の時間の間に生ま
れた齟齬を修正するための負荷がかかるため、連続使用する事は無謀
に近い。とされるのが本来のもの。
どうやらこの世界。Fateのような魔術関係の世界で無いため
か、世界からの修正はそこまで強く無いらしく、二倍速を使用した後
でも一度だけなら急激な疲労程度で済むのだ。これがFateの世
界では無いと確信した理由の一つでもある。
続く二戦目。
こちらの攻めが効いたらしい。先手必勝とばかりに攻めてきた彼
女は、今度は間合いを測り始めた。
防いだ事はまぐれで済まされるが、予想以上の速さで攻められたこ
とが、彼女の中では警戒するに値するらしい。
10
後の世界最強に認められたような気がして、少し嬉しかったりする
が、気を引き締めて、呼吸を整える。
今のままでは駄目だが、固有時制御を使用すれば、反撃することが
できるのはわかった。
後はタイミング次第。相手の攻めに合わせて、固有時制御を使い、
カウンターで倒す。
﹂
間合いを測っていた彼女が一歩、二歩と踏み込んだと同時に仕掛け
る。
Time Alter double accel
﹁固 有 時 制 御 二 倍 速
踏み込んだと思っていた足はそのまま後ろにひかれ、彼女は一歩後
が驚く番だった。
試合開始とは打って変わり、勝利を確信した俺だったが、今度は俺
なる。
そうすれば、相手の目論見は外れ、その間合いの取り方は致命的に
いを急速に詰める。
間合いを測って、その上で攻めてきたのなら、倍速で動いて、間合
加速に合わせて一気に踏み込む。
!
と思ったのも束の間、完全に攻撃の間合いを測り損ね
ろに下がった。
フェイント
た俺の一撃は空を切り⋮⋮そのまま彼女の竹刀が振り下ろされる。
マズい。
もしこのまま三本目に持っていかれれば、この身体では瞬殺される
のがオチだ。
そうすればゲーム天国はご破算、母にしごかれる毎日が始まる。
それだけは避けねばならない。俺の安寧のためにも、今はなりふり
Release Alter
構っている場合では無いのだ。
﹁制 御 解 除﹂
倍速になっていた時間を解除し、等倍に戻す。
途端、疲労感に上乗せされる形で全身を激痛が襲う。
短時間での倍速の連続使用は流石にマズかったらしいが、今はどう
でもいい。それよりも次に来る痛みに耐えなければ。
等倍に戻ったことで、あちらも竹刀を振るまえにピタリと止まっ
た。
﹂
そこから止まれるのかよ、とボヤく暇もなく、俺は再度詠唱した。
Time Alter triple accel
﹁固 有 時 制 御 三 倍 速
﹁い、一本
﹂
反応しきるまえに面を打ち抜く。
ブラックアウトしかける視界を歯をくいしばって耐えきり、相手が
二倍で対応されるなら、そのさらに上を行くだけだ。
!
いた。
一瞬の闘いだったが、まあある意味人知を超えていたと思う。倍速
で動くやつと、それに対応する化物。こいつら絶対人間じゃねえだ
ろ。
試合が終わり、最後に礼をしようとした時にふと身体に痛みが無い
なあ、と思っていたら、礼ついでに頭から床に突っ込んだ。
ああ、成る程ね。
限界超えて、何も感じなかったわけだ。
11
!?
審判が僅かに戸惑いながら、そう宣言するとホール内が 一気に沸
!
勝利の余韻に浸る間もなく、俺の意識は闇に落ちた。
12
友達になった日
次に目を覚ました時、俺は病院のベッドの上にいた。
身体の至る所で毛細血管が破断し、内出血の痣があちこちに出来て
いる。
さらに全身筋肉痛。意識が飛んだのは連続的な加速による血液の
﹂と首を
集中で、解除した時にブラックアウト状態になった事と三倍速の負荷
が大きかったからのようだった。
お医者さんは﹁なぜ剣道の試合でこんな状態になるのか
傾げていたが、俺もあくまで知らぬ存ぜぬを通した。本当の事を話し
たところで、何の意味もないどころか、精神病院送りにされる。
こんな事になったけど、優勝したのでゲームは買ってもらえるし、
怪我をするほど無理をした点については怒られたけど、勝ったことは
素直に褒めてくれた。固有時制御がどの程度使えるかもわかったし、
痛い事を除けば、大体良い感じである。
⋮⋮それはさておき、気になるのはやはりあの織斑千冬である。
偶然とは思えない。
倍速に即座に対応してくる戦闘能力の高さも含め、やはりあれはイ
ンフィニット・ストラトスのキャラクターである織斑千冬と考えても
いいだろう。
そうなるとこの世界はインフィニット・ストラトスで、かつまだ原
作が始まる前という事になる。
原作開始前と言うのはわからなくもないけど、これでは原作が始ま
る頃には俺はもう成人している。神様は一体何を考えているのやら。
皆目見当もつかない。
﹁⋮⋮ところで、何か用ですか﹂
さっきからベッドの横にある椅子に座って、こちらを見てくるセー
ラー服の少女。
やけに上機嫌なのは何故かわからないけど、とても嫌な予感がす
る。
13
?
﹁初めまして。えーと、天城宗介くんだっけ
﹁お好きにどうぞ﹂
だって
凄いね﹂
そーくんって呼ぶね﹂
なのに、それを上回り速さでちーちゃんに一本も取らせなかったん
が同世代にいたなんてねー。単純な身体能力ならお父さんよりも上
﹁いやはや、びっくりしたよー。まさかちーちゃんに剣道で勝てる人
うな⋮⋮うーん。後一押しが足りん。
るぞ。何処となく、幼稚なあだ名のつけ方。無駄にテンションが高そ
なんだこの感じ⋮⋮デジャヴュだ。絶対俺は彼女の事を知ってい
?
まった。こいつの正体が。
﹁名前、聞いてもいいですか
そうだね。私は訊いたのに教えないのは不公平だもんね。私の
?
学者さんだよ﹂
やっぱりかー
病院送りになったっていうのも気になるんだよね。一撃も当てられ
﹁ちーちゃんがまぐれで負けるなんて思えないし、勝った後そのまま
﹁あれはまぐーー﹂
らもあり得る。なんとかして凡人として認識してもらわなければ。
以外にはマッドサイエンティストに近い。下手をすれば全身解剖す
篠ノ之束に関してはあまり描写はないものの、自分の認知した人間
⋮⋮やばいぞ。とんでもないやつに目をつけられた。
だった。
学者というに相応しい人外っぷりで、対等に戦えるのは織斑千冬のみ
本人。頭脳だけでなく、肉体も細胞単位でオーパースペック。闘う科
インフィニット・ストラトスを創り、原作では影で暗躍していた張
ら、インパクトに欠けていたが、やはり彼女は篠ノ之束その人だった。
うさ耳もつけてないし、一人不思議の国のアリス状態じゃないか
!?
名前は篠ノ之束。ちーちゃんの親友で、後に歴史に名前を残す天才科
﹁ん
﹂
ちーちゃんが織斑千冬を指しているとして⋮⋮⋮あ、わかってし
?
てないのに﹂
﹁⋮⋮﹂
14
?
だ、駄目だ。適当に誤魔化そうかと思ったけど、全く誤魔化せそう
な気がしない。
いや、でもバレたら詰む。なんとかして誤魔化さないと。
﹁まあ⋮⋮初見なら俺は強いから、二度目は負けるんじゃないかなー
⋮⋮なんて﹂
﹂
﹁どうだろうね。ちーちゃんも天才だし、後二回見れば、対応できるん
じゃない
二回見るだけで対応できるのかよ⋮⋮。これじゃ魔術も形無しだ
﹂
ぞ。あれか、特典に頼るなっていいたいのか
﹁ねえ、ぶっちゃけどんな裏技使ったの
﹁だから、初見の時は﹂
?
駄目かー。
カを使ってるとしか思えないんだけど⋮⋮どうなの
﹂
かしいもん。そうなるとドーピングとかじゃない、私の知らないナニ
﹁あの姿勢から更に速くなるなんてあり得ないよね。人体構造的にお
﹁あれは母さんに教えてもらったやつで﹂
たのも見てるよ﹂
ら前の試合ももちろん撮ってるし。君がいきなり速くなったりして
﹁私、ちーちゃんの勇姿は全部撮ってるんだよね。永久保存で。だか
?
ベッドから降りて、篠ノ之の前に立つ。
﹁わかった。完敗だ。教えるよ﹂
﹁へぇー、その割には臨戦態勢だけど⋮⋮やる気かな
排除しないと。
父さんや母さんが来るまで十分。どうにかして、こいつをここから
相手なのは重々承知だ。
戦って勝てる相手ならそれも悪くないとは思うが、それが出来ない
﹁まさか﹂
﹂
扉までの距離は六メートル。やってやれないことはない。
まだちょっと本調子じゃないけど、動かないわけじゃない。
ならば、最後の手段を取るしかない。
天才相手にうまく丸め込もうなんて虫が良過ぎたか。
?
?
15
?
だったら、選択は一つ。
Time Alter double accel
﹂
戦略的撤退だ
﹁固 有 時 制 御 二 倍 速
逃げるだけだ
ドアの方に⋮⋮と見せかけて、窓から脱出
!
!
﹂
﹂
?
でなくてもわかる人間にはわかるはずだ。
﹁それはそれとして、何故窓から飛び降りてきた
うわけではあるまい﹂
﹂
﹁そういえば、忘れてた。早く逃げ⋮⋮﹂
﹁それはもう遅いんじゃないかなー
?
﹁﹁あ﹂﹂
﹁投影開始
ト レ ー ス・オ ン
⋮⋮あ﹂
織斑と話しているうちに気がつけば、そいつは隣にいた。
?
自殺志願⋮⋮とい
こんな鋭いオーラを放っているのは彼女ぐらいのものだろう。俺
﹁わかるさ。雰囲気で﹂
﹁ほう。わかるのか。あの時、顔は合わせていなかったはずだが﹂
危ない危ない。うっかりブリュンヒルデって言いかけた。
﹁ブリュ⋮⋮織斑だろ。前の大会、決勝戦で戦った﹂
﹁こうして話すのは初めてだな。私の事は覚えているか
こちらもセーラー服に身を包み、鞄を持ってそこに立っていた。
そこにいたのは何時ぞやの少女。
聞きなれない声に、間の抜けた声をあげながらもそちらを向く。
﹁へ
﹁なんだ。入院していると聞いていたが、思ったよりも元気そうだな﹂
ら逃げないともっとやばいので、無視して逃走。
着地と同時に固有時制御が解けて、身体に負荷がかかるが、あれか
身をミスらない限り、足がちょっとじーんとするだけだ。
ここは二階だが、そこまで高くない。さらに下は芝生だ。余程受け
!
!
投影も殆ど何の問題もなく創れる。
投影の技術に関しては特典であることが関係しているのか、一瞬の
婦剣のうち片方、干将を投影し、篠ノ之に突きつけていた。
パニクった挙句、俺はよりにもよって、アーチャーの使っていた夫
!
16
?
これもバリバリの宝具であるし、あのアーチャーの奥の手も使える
ことには使える。どうやら、投影できる剣に関しても情報を頭の中に
叩き込んでくれたらしい。わけのわからない武器さえも、俺はそれの
使用者と伝承を知っているから。
それはそれとして、何やら微妙な空気が流れる。
これは非常にまずい。
﹂
固有時制御に留まらず、投影までしてしまった。
﹂
⋮⋮一か八か、言ってみるか。
﹁て、てじなーにゃ
﹁﹁いや、それは無理がある﹂﹂
駄目みたいでした。
あんなこと出来るんだ
何もな
17
﹁君凄いね
﹁はあ⋮⋮生まれつきなんとなく﹂
それとももっと別の何か
るならいっそ一瞬でひねってくれとお願いしたら、﹁何で殺さなきゃ
途端、篠ノ之は目を爛々と輝かせたのでこれは死んだなと思い、や
明。
喋らないとバラされる気がしたので、仕方なく、虚実織り交ぜて説
た。
病室に帰ってきた俺は織斑と篠ノ之に先程のことを問いただされ
ん﹂
し⋮⋮でも、そもそも超能力だってオカルトの域を出ないし⋮⋮うー
い所から物を生み出すなんて、まるで魔法みたいだけど、非科学的だ
?
?
﹁生まれつきって事は超能力かな
!
?
!
いけないの
マッドサイエンティストじゃないんだから﹂と至って普
通に返された。
曰く、﹁興味のある人間には手は出さない。自分で解明するから意
味がある﹂らしい。まあ、バラしたところで何もわからないんですけ
どね。
織斑は織斑で負けた理由を知ったら、何故か闘志を燃やし始めた。
どんな理由であれ、反則や卑怯な事をせずに真正面から自分を倒し
た俺に興味が湧いたとか。
この不思議パワーは反則じゃないのと聞いたら、生まれつきならそ
れも本人の能力なので反則じゃない、とのこと。いや、器がでかいな。
で、今は篠ノ之に投影した干将を見せている。
投影はやろうと思えばいくらでもできるが、疲れないわけじゃな
い。
この世界には魔力がないから、地球にある自然の力とかそういうの
を俺の中で魔力に還元して使用しているわけで、体力も含めれば一日
貯蔵しているのは大体三から四投影分ぐらい。まあ、俺の基礎体力が
上がれば増えるし、かなり溜まったんじゃないかな。固有時制御でい
くらか持ってかれたとしても。
﹁見れば見るほど凄いね⋮⋮ねえ、もしよかったらDNAちょうだい
﹂
指一本とか嫌だぞ﹂
家でゆっくり調べたいから
﹁髪の毛とかでもいいのか
!
に酷いのさ﹂
がくりと肩を落として、篠ノ之はそういった。
だって、原作の篠ノ之束を知ってるからなぁ⋮⋮寧ろ妥当な評価と
言える。
髪の毛を一本抜いて、篠ノ之に渡すと、篠ノ之は何やらカプセルに
これでまた私は未知への一歩を踏み出すことができたよ
入れて、ポケットに入れる。
﹁ありがと
﹂
﹁それはよかった﹂
!
18
?
﹁髪の毛でいいよ⋮⋮会ったばかりなのに、なんで私の評価はそんな
?
!
!
多 分、D N A を 調 べ た と こ ろ で 意 味 は な い と 思 う ん で す け ど ね。
だって、特典とかだし。肉体変化系をチョイスしたわけじゃないし
⋮⋮あ、でも一応体内で魔力は精製してるから、若干違うかもしれな
いな。
﹁うん。私、そーくんの事が気にいっちゃった。これからよろしくね﹂
にぱーっと笑いながら、手を差し出してくる篠ノ之。
この様子だけ見れば、普通に可愛い女の子で通じるんだけどなぁ
⋮⋮多分違うんだろうな。学校とかじゃ、すっごいテンション低い
か、そもそも学校にすら行ってない可能性もある。
﹁まあ⋮⋮よろしく﹂
とはいえ、危なくないなら、友達になってもいいだろう。いや、寧
ろ友達になるとかなり安全だと思うので、是非ならせて頂きたく存じ
ます。
﹂
?
ズッ友だよ
﹂
こめかみに手を当てて、織斑は溜息を吐いた。
これは相当苦労しているようだ。
﹁こんな奴だが、よろしく頼むぞ、天城﹂
﹂
﹁⋮⋮その言い方にはそこはかとなく不穏なものを感じるけど、よろ
しく。織斑﹂
と、なりゆきで二人と友達になった時、ちょうど良い感じに父さん
﹂
?
が病室に現れた。
﹂
﹁ごめん。ちょっと遅れた⋮⋮ん
﹁父さん。母さんは
?
19
妙にこれからを強調したのが気になるところだが、気のせいだろ
﹂
なんで
ミュニケーション能力を回したらどうなんだ
﹁へ
?
う。
何故だ
﹁はい。ちーちゃんも握手∼﹂
﹁
フレンドだよ
?
よくわからないが、お前はもう少し他の人間にもそのコ
﹁だってもう私達友達だよ
?
?
﹁⋮⋮まあ、そういう反応だろうな﹂
?
?
﹁ズ、ズッ友
?
?
﹂
﹁今日は外せない用事があるから、父さんだけだよ。⋮⋮で、知らない
子達だけど、学校の友達か
﹁そんなところ﹂
﹁良いじゃないか、両手に花で。宗介は父さんと違ってモテるみたい
で嬉しいよ﹂
快活に笑いながら、父さんは言うものの、母さん曰く﹃士郎は大変
異性に好意を持たれていましたよ。ですが、全く気づかないので、私
も苦労しました﹄との事。そこまで元の人間に似せなくても、と思っ
た。
因みに俺の場合はモテるの意味合いがちょっと変わる。
母さんのお陰で剣道が化け物じみて強く、運動神経もそれなりに良
いもんだから、助っ人とか練習相手に引く手数多というだけだ。固有
時制御もあるから、素人でも多少はなんとかなるし、それは当然同性
異性問わずなので、好意を持たれているというよりは信頼が厚いの方
が正しい。
﹁そういうのじゃないよ、織斑と篠ノ之は。なんていうか⋮⋮前の試
合で興味を持ったから、ここに来たんだって﹂
﹁ああ、片方はあの時の子か。母さんが関心してたよ。今時君みたい
な子は珍しいって﹂
﹁いえ⋮⋮私はまだまだです。天城に手も足も出ませんでした﹂
﹁う ち の 息 子 は こ こ ぞ っ て 時 に 強 い か ら ね。前 の 大 会 も 優 勝 し た ら
ゲームを買うって約束をしてたから、気合の入り方も違ったわけだ
し﹂
﹁ゲーム⋮⋮ゲームって、小学生じゃないんだから﹂
﹁うるさい﹂
プルプルと肩を震わせて笑いをこらえる篠ノ之。
たまたま欲しいゲーム機が有ったんだから仕方ないだろう。人間、
欲には逆らえんのよな。
まあ、実際のところ、ここぞって時に強いのは単に特典とかを駆使
しまくるからなわけで。
速さ、手数、物量などの特典でなんとかなる事が賭けの内容に含ま
20
?
れていれば、それはもう強くもなる。もれなく肉体にダメージがある
わけだけど。
﹁⋮⋮と、もうこんな時間か。宗介、退院したら爺さんが迎えに来るか
ら。当分、爺さんの家から学校に行ってくれ﹂
﹂
﹁爺さんのって⋮⋮県が変わるじゃん。急すぎるよ、学校どうすりゃ
いいんだよ
﹁悪い。これも仕事なんだ﹂
父 さ ん と 母 さ ん は 同 じ 仕 事 を し て る っ て 聞 い た 事 が あ っ た け ど
⋮⋮何の仕事をしているのかは知らない。というか、教えてくれない
もう中学生だし、一
から、ひょっとしたら人に言えないものなのかもしれない。聞いた時
はいつも適当にはぐらかされるし。
﹁⋮⋮わかったけど、一人暮らしじゃ駄目なのか
人暮らしぐらい﹂
﹁それは駄目だ。宗介を一人にはできない﹂
とてもうるさい。
はその手の事には大雑把なんだけど、その分父さんはそういう事には
相変わらず父さんは健康とかにはうるさいなぁ⋮⋮。逆に母さん
﹁⋮⋮了解であります。父上﹂
るな﹄って﹂
聞いて、健康な生活を送るんだぞ。後、母さんから﹃日々の鍛錬は怠
ちのツケは歳をとってからくるからな。ちゃんと爺さんの言うこと
﹁それに一人暮らしだと不摂生な生活を送るかもしれないし、若いう
思ってしまう。
次に帰ってきた時には半身不随くらいになってるんじゃないかと
いつもそれで迷惑をかけているし、俺が親なら全く安心できない。
ぐっ⋮⋮これは痛いところをつかれた。
させられるか﹂
﹁しょっちゅう原因不明の怪我ばっかりする息子を一人暮らしなんて
﹁過保護すぎだって⋮⋮一人でもやっていけるよ﹂
?
﹁詳しい事は爺さんが知ってるから、また退院してから爺さんに聞い
てくれ。じゃあな、宗介﹂
21
?
﹁ああ、いってらっしゃい、父さん﹂
足早に病室を後にする父さん。
余程の急用なのだろう。父さんにしては珍しく人任せにしている
事が多いみたいだった。
﹁私達もこの辺りで帰らせてもらおう。誤解も含めて、色々と迷惑を
かけたな﹂
﹁じゃねー、そーくん。ばいばーい﹂
﹁ああ、ばいばい﹂
父さんが帰るのが、ちょうどいいタイミングだったみたいで、織斑
や篠ノ之も一緒に帰って行った。
二人の話し声が遠くなっていくのを感じ、俺はふうっとため息を吐
く。
織斑千冬に篠ノ之束。
よりにもよって、原作キャラ二人に特典の事を知られる羽目にな
り、その結果、何故か友達になってしまった。
別に悪いことではないと思うのだが、なんとなく、これがきっかけ
になりそうな気がしなくもない。
それがなんなのかはわからないけど、近い内に一波乱ありそうだ。
そして転校初日。その予感は的中する。
22
転校した日
退院してから数日経った頃。
父さんに言われた通り、荷物の大半は既に爺さんの家に移動させら
れていたようで、俺がする事はこれといってなく、復帰した初日に学
校に行く事になった。
転校するとわかった時はうちの学校の先生も生徒も大騒ぎ︵部活動
関係が特に︶。どうにもならないことを伝えると暇があれば顔を出す
ことを約束し、それで手打ちとなった。
﹁しっかし、爺さんの家に住むのはともかく、学校まで転校する意味
あったのかね。自転車使えばそんなに離れてないってのに﹂
爺さんの家から徒歩十分。
爺さんが身体を鍛えるのとかにやたらとうるさいとはいえ、鉄下駄
その転校先がここ﹂
23
履かせようとした時は流石にどうかと思う。結局、なんか着ける羽目
になったし。基本的に外せないようにされてるから学ランは学校で
は脱げなさそうだ。靴も中に何が入ってるのか、やたらと重い。
学校の規模はそれなりに大きいおかげか、俺を見ても、普通にス
ルーする人間が多い。小さい学校なら、一発で転校生とわかるものだ
が、騒ぎにならなかったのは唯一の救いか。
取り敢えず、転校初日なので職員室に行かないといけない。
周りの人間に聞くと転校生だとバレるから自力で探すか、と考えて
いたら、ふと肩を叩かれる。
流石に校門で立ってると挙動不審だったかなぁ。早くもバレたか
天城﹂
と思い、肩を叩いてきたやつのほうを見ると⋮⋮それは意外な人物
だった。
﹁⋮⋮どうしてお前がここにいるんだ
声をかけてきた人物はなんと織斑。
?
あの日以降、顔は合わせていないが、彼女の驚いた顔というのはと
ても珍しい気がする。
﹁前に父さんが言ってたろ
?
﹂
それなら俺に会いに来ないだろう
﹁⋮⋮なんとも奇妙な事だな。まさか束の仕業か⋮⋮
﹁いや、それは無いんじゃないか
し﹂
﹁ところで篠ノ之は
いつも一緒にいるとばかり思っていたけど﹂
も、転校先まで指定する事はできないはずだ。
現時点の篠ノ之にそれ程までの力はない。ハッキングやらは出来て
ろうと思ったけど、それなら毎日会いにくる道理はないし、そもそも
色々と手段を選ばなさそうな篠ノ之なら、それぐらいはわけないだ
まあ、俺もその可能性があると一瞬だけ思ったけど。
﹁む。それもそうか﹂
?
﹂
?
時さえくればいいと言った感じだ﹂
﹁へぇー、そいつはまた我の強い事だな﹂
中学時代の篠ノ之はそんな奴なのか。
となると、やはり原作時点のあれはマシなのか
に思えなくもないが。
﹂
道がわからないんだ﹂
﹁ところで織斑。物は相談なんだけどな﹂
﹁なんだ
﹁職員室まで案内してくれないか
より拗らせたよう
業は免除というわけだ。進路も現段階で決まっているからテストの
らん。おまけに怒られても理詰めで教師を論破すると来た。結果、授
﹁それに近い。あいつは自分の世界にのめり込みやすい上に人目を憚
﹁ボイコットするのか
からな。それにあいつがいると授業にならん﹂
﹁あいつなら来ていない。というより、ほぼ免除だ。あいつは天才だ
?
織斑に職員室まで案内してもらった後は織斑と別れ、小島と呼ばれ
?
24
?
?
?
る俺の転入する担任の先生と話をしていた。
話と言っても、前の学校ではどんな事をしていたのか、部活は何に
入っていたのか、成績はどの辺なのか、人と話すのは得意か、などな
ど今後中学生活をしていく上でごく基本的な事を聞かれ、それを答え
る。
今も教室に向かいながら、その話をしていた。
﹁そうか。天城は剣道をやっていたのか﹂
﹂
﹁はい。母の教えで昔からそれだけは得意で﹂
﹁じゃあ、剣道部に入るのか
﹁一応は﹂
﹁そ れ は い い。う ち の 剣 道 部 は 少 し 前 に 入 っ た 女 子 が 無 類 の 強 さ を
誇っていてな。それはもう強いが、男子は並の域を出ない。腕に自信
のある人間が入ると全体的な実力の底上げにつながる。いいカンフ
ル剤になると思うぞ﹂
﹁だといいですね﹂
正直、何を持って強いか弱いかを決めればいいのかがわからない。
確かに織斑は強いし、母さんは強い。
特典を使ったとはいえ、その織斑に勝った俺も強いかもしれない
が、じゃあ実際のところ、俺や織斑はどの辺なのか。中学生最強なの
か、はたまた関東最強なのか、県最強なのかと少しわからない。
いや、待てよ。織斑がめちゃ強いと考えると特典を駆使した俺は中
それもこれも母さんの教
学生最強だったりするかもしれない。抜きだとおそらく手も足も出
ないので良くて全国ベスト16とかかな
えの賜物だ。
﹁まあ、その女子とは同じクラスだ。少しばかり気難しい奴ではある
?
入っていく。
﹂
扉越しに聞こえてくるのは担任の説明と、転校生が男子と知って何
25
?
が、真っ直ぐな奴だからな。機会があれば手合わせしてみるといい。
同じクラス
恐ろしく強いぞ﹂
﹁はぁ⋮⋮え
?
俺が聞き返した言葉は届かなかったのか、そのまま担任は教室に
?
故か歓喜する男子の声、女子は黄色い声を上げる。勘弁してくれ。別
にイケメンじゃないんだぞ、俺は。後なんで男子も喜ぶ
ひとしきり盛り上がったところで俺の名が呼ばれる。
うわー、入りたくないな。と思ったところで意味はない。
無理矢理テンションを上げて、勢い良く扉を開け、教壇の上に立つ。
﹁今日からこのクラスに転入する天城宗介です。趣味はゲーム。特技
は剣道剣術、後は部活の助っ人です。今日から宜しくお願いします﹂
全員の視線を感じ、下手に緊張する前に言い切る。
全員の前で噛むのなんてとんでもない黒歴史になる。それに⋮⋮。
俺の視線の先、窓際最後列で目を瞬かせる織斑と視線が合う。
世間は狭いというが、転校した学校、しかも同じクラスにまで行く
とは一体どんな巡り合わせなのだろうか。
少しの時間差を置いて、教室内で拍手が起こる。
ふ ぅ ⋮⋮ ミ ス は し な か っ た か。第 一 印 象 が 大 切 だ っ て 言 う し な。
最初にどう思わせるかが肝心なのだ。
﹁天城は⋮⋮そうだな。そこの空いている席に座ってくれ﹂
先生が指さしたのは織斑の隣⋮⋮というわけではなく、何故かど真
あそこは来ていない奴の席でな。名前は篠ノ之というが⋮⋮ま
篠ノ之かーい
がりそうだけども
それはコミュ力が高いやつ限定なんじゃ⋮⋮。下手をすれば、クラ
スのど真ん中で浮いてる可能性があるぞ。
と、突っ込みたいのは山々なのだが、そういうわけにもいかず、仕
方なく言われた席に座る。
こ、これは辛いな。後ろからの視線と前と横からのチラ見。何はと
26
?
ん中にある空席。いや、なんでですか。織斑の隣空いてるじゃん。な
んで転校生が教室のど真ん中なわけ
﹁ん
﹁あの⋮⋮あそこにも空席があるんですけど﹂
?
﹁何、クラスに馴染むにはその中心にいた方が手っ取り早いだろう﹂
!
いや、なんとなく予想通りだけどさ。寧ろ織斑の隣以外は頑なに嫌
!
あ、殆ど会わないだろうな﹂
?
もあれ視線の嵐。これは酷すぎる。
﹁新しい仲間も増えたが、はしゃぎ過ぎないようにな。皆、転校生に聞
きたいことも多いだろう。朝のSHRは早めに終わりにする。仲良
くするように﹂
これで俺スルーされたら
そう言い終えると、教師は外に出て行った。
おいおい、それだけか
泣くぞ
もっとこう、誘導の仕方があるだろうに
!?
せてばっかだぞ
とばかりにぐるんと後ろを振り向くと、そこには織斑。
と思っていたら、その口から出てきたのは予想外の言葉だった。
﹁天城。お前は剣道をしていただろう。剣道部に入る気はないか
﹂
?
室がざわつき始めた。
早くに打って出るべきだった
一体何の話をしているんだ
﹂
こんな空気作っても織斑は全然気にも留めな
﹁しまった。織斑さんに先を越された⋮⋮
﹂
﹁だ か ら 言 っ た だ ろ
いって
!
﹁お前が自己紹介で言っただろう ﹃特技は部活の助っ人﹄だとな。そ
?
!
!
!
理解が追いつかず、俺ははてと首をかしげる。
﹁牽制が裏目に出たか
﹂
俺が間の抜けた声で訊き返したとき、今まで静寂に包まれていた教
﹁はい
﹂
おおっ、流石は織斑。俺の今の状態を見るに見かねて助け舟を⋮⋮
何奴
ガタッと音を立てて席を立つと同時、ポンと肩に手を置かれた。
だ。
れたら本当に泣いてしまうかも⋮⋮だが、無反応よりかはずっとマシ
ええい、斯くなる上は自分で誘導するか
いや、もしそれで無視さ
見てみろ、周りの奴らを。全員俺に目も合わすことなく、顔見合わ
!
?
!
?
今までの無言は⋮⋮﹂
うなると大体運動神経はいいわけだ。勧誘の嵐になるのは当然だろ
う﹂
﹁じゃあ何か
?
27
!?
!?
?
!
﹁お前に話しかけづらい空気を作って、出方を待っていた。といった
ところだろう。もっとも、お前には剣道をしてもらわないと困るが
どんな化け物なんだよこいつ
﹂
﹂
﹂
な。現時点で私と互角以上に戦えるのはお前しかいない以上、最高の
相手を他の部にやるわけにはいかん﹂
あの織斑と互角以上
織斑がそういうと、今度は教室内がどよめき始めた。
﹁は
﹁ライオンすら眼力で屈服させるあの織斑と
﹂﹂﹂﹂
﹁ゴリラを二秒で瞬殺する人と戦えるなんて⋮⋮
﹁﹁﹁﹁とんでもない奴が来たー
そんなわけあるかーい
!?
一瞬でミンチにされるわ
﹂﹂﹂﹂
天城を勧誘したいものいるか
﹂
﹂
?
でやねん。
斑と同等の化け物﹄として、畏怖を抱かれるようになった⋮⋮⋮なん
僅か十分にも満たない時間で、俺の剣道部入部が決定し、そして﹃織
転校初日。
﹁何で俺以外の人間が答える
﹁﹁﹁﹁是非、剣道部にお願いします
﹁それで、どうする
ぐらい二秒で倒して、ライオンも目だけで倒すよな。
て、思ったよ織斑。だって固有時制御に対応しちゃうもんな。ゴリラ
でも、ごめん。今言われてたこと。お前なら出来るんじゃないかっ
﹁⋮⋮察した﹂
力を持っていたら、このザマだ﹂
が、無視していたら、どんどん尾ひれがついてな。偶々それに伴う能
﹁はぁ⋮⋮束の馬鹿のせいでな。知らんうちに変な噂が広まったのだ
﹁お、織斑。どういうことなんだよ、これ﹂
ろ
何馬鹿言ってんだ、そんな人智を超えた生命体に勝てるわけないだ
!
!?
!?
!!
?
28
!?
!?
!
!?
?
!
﹁はぁ⋮⋮初日から疲れたな⋮⋮﹂
がくりと肩を落として、俺は溜息を吐いた。
別に悪いことをしたわけでもなし、目立つことをしたわけでもな
し。
本当に特に何もしていないのに、何故かもうクラスの連中以外にも
合わなくてな﹂
29
ビビられていた。
軽く肩をぶつけただけで土下座して謝られ、机から物を落とした時
には﹃これで勘弁して下さい﹄と財布を差し出された。これじゃカツ
アゲと同じだ。帰りの前のSHRも終わった途端、皆蜘蛛の子を散ら
すようにそそくさと出て行ってしまった。
そんな色んな意味で嵐の一日が過ぎて、俺が教室から出ようとした
時。ガラガラと教室の扉が開かれる。
﹁まだいたようでよかった。今日はもう帰っていると思っていたそ、
天城﹂
﹂
﹁織 斑 か ⋮⋮ 今 か ら 帰 ろ う と 思 っ て る ん だ よ。色 々 あ っ て 疲 れ た し
な﹂
﹁そうか⋮⋮ところで天城。この後暇か
﹁暇っていえば暇だけど⋮⋮﹂
﹂
﹁ならいい。少し付き合ってくれ﹂
﹁付き合うって⋮⋮何に
?
﹁リベンジ、というやつだ。負けたままというのはどうにもしょうに
?
ニヤリと笑う織斑はとても獰猛な獣のそれだった。完全に餌は俺
ですね、はい。ていうか、俺疲れてるって言いましたよね。なんで闘
えってなるんだ。
⋮⋮まあ、疲れって言っても精神的なものだし、ストレスを吹っ飛
ばすって意味でもありといえばありか。
﹁わかった。但し、一試合だけな。全力で闘えるのはそれだけだ﹂
﹁十分だ。全力のお前を倒してこそ、勝利にも意味がある﹂
お互いに道義姿ではあるものの、剣道の防具をつけていない。
全力ですると。私もどちらかといえばこちらの方が
リベンジと言っていたので、てっきり剣道の試合と思っていたけ
ど。
﹁言っただろう
?
気がする﹂
﹁またそんな抽象的な⋮⋮⋮悪くはないけどさ。ルールは
﹂
得意だ。それに余計なものがない方が、もっと面白いお前を見られる
?
30
そんなわけで早速剣道場へ移動して試合。
部活動の時は外していいという許可は下りているので、渡されてい
た鍵で外す。因みに外したら何か特別な信号が爺さんの家に飛ぶら
しい。だから勝手に外すとバレる仕組みになっている。理由があれ
﹂
ばいいんだが、恥ずかしいとかならぶっ飛ばすと言われた。
それはそれとして。
﹂
﹁なあ、織斑。本当にやるのか
﹁何がだ
?
﹁これ。剣道の試合っていうより、剣術の試合だよな﹂
?
﹁無い⋮⋮が、寸止めだ。当たると痛いでは済まないだろう、お互いに
な﹂
確かに。
織斑はいいかもしれないが、俺は頭をかち割られるかもしれない。
それって寸止めでもダメじゃね
なんなら、床に頭が突き刺さるかも。
あれ
は致し方無い﹂
﹁気にしない。試合が始まればお互いしか見えないだろ
﹁くくっ、言い得て妙だ﹂
?
だからこの二つだけを強化する。固有時制御を使いたいのは山々
見えていても、止められなければ話にならない。
見えなければ勝負にならない。
強化するのは目と身体能力。
﹁強化開始﹂
ト レ ー ス・オ ン
⋮⋮っと、試合を始める前に。
たい。
寸止めできる気がしない。仮に当ててしまった時、極力リスクは避け
本当なら木刀の方がやりやすいんだろうが、織斑はともかく、俺は
言葉を交わした後、お互いに竹刀を構える。
﹂
﹁ギャラリーがいるのは⋮⋮まあ許せ。場を借りる以上、隠せないの
?
﹂
だが、治ってまだ日が経っていない以上、倍速でも使うのは避けたい。
﹁準備は済んだか
﹁始めるぞ
﹂
﹁ああ。それじゃあ⋮⋮﹂
?
だが、今なら⋮⋮
いと織斑の追撃が入る。
そのまま勢いに任せてバク転をし、距離を置こうとするが、させま
身体を後ろに反らしてその一撃を躱す。
!
する方を選んでいなければ、確実にやられていた。
薙ぐように振るわれた竹刀はあの時よりもずっと速い。もし強化
身を沈め、一気に踏み込んでくる。
!
31
?
バシッ
受け止めた一撃はあの時よりも重い。だが、受け止められない一撃
じゃない。
﹂
﹁やるな。あの時はまぐれで止めたのが見え見えだったが、今のは完
全に見えていたな
﹁まあな﹂
バシッ
バシッ
バシンッッ
打ち合いは加速し、攻守が途端に入れ替わる。
バギッ
⋮⋮と、お互いにそう確信していたのだが。
二つに一つ。
固有時制御が切れるのが先か、織斑に竹刀が届くのが先か。
十手先、勝負が決まる。
だが、確実に俺が押していた。
なったぐらいにしか伝わっていないだろう。
一般人が視認できる速さはとうに超えている。周りには音が速く
!
となるとスタミナが切れるのはこちらが圧倒的に速い。
さっきの今でなんだが⋮⋮固有時制御を使うしかないか
﹂
使ってるし、多分なんとかなる
Time Alter double accel
﹁固 有 時 制 御 二 倍 速
!
強化も
それを魔術で補っているわけだが、その魔術にも体力を使う。
も使っていない状態の俺は織斑に数段劣る。
強化をしているとはいえ、スタミナは織斑の方が上。というか、何
しかし、正直な話。ジリ貧と言える。
かもしれない。
はたから見れば、きっと息を呑むような互角の戦いに見えているの
竹刀の打ち合いが剣道場内に響き渡る。
!
竹刀を押し返し、今度はこちらから打って出る。
物なんだ。
とはいえ、相変わらずの化け物っぷりだ。一体全盛期はどんな化け
?
!
打ち合いの最中、固有時制御を発動させる。
!
32
!
!
!
先に終わったのは俺の固有時制御でもなく、織斑の防御でもなく、
竹刀の耐久力だった。
半ばから折れ、足元に転がっている。
そして武器使いが得物を壊されるのは敗北を意味する。
つまり⋮⋮。
﹁引き分けか。呆気ないものだな﹂
ふうっと息を吐いて、織斑が言う。
多少の息の乱れはあるものの、俺に比べるとそれは浅いものだ。
対して俺の呼吸は荒々しい。あのままやっていて勝ったのは果た
してどちらだったか⋮⋮それもわからない。
﹁とはいえ、やはりお前との試合は昂ぶるぞ、天城。だが次は勝つ。一
度目は負けた。二度目は分けた。ならば三度目は勝つ﹂
﹁そうか。じゃあ、俺も負けないように努力する。百の努力は一の才
に劣るが、それ以上なら話は別だからな﹂
そう。某漫画でも言っていた。
武術において努力は才能を凌駕する、と。
爺さんも言っていた。
才が無いなら努力を持ってねじ伏せろと。
才能を言い訳にして負けていいのは転生前までだ。
特典もある以上、俺は才能だけに負けていい道理がない。
俺の持つ全てを駆使して、織斑に勝つ。
負けた時はまた努力するしかない。幸い、うちには嫌と言っても鍛
えようとしてくる鬼がいるわけで。
がっしりと固い握手を交わす。
好敵手というのはこういう関係のことを言うのだろう。初めての
感覚だが、悪くない。寧ろ嬉しい。
なんて満足しながら終わったものの、俺に関する噂かよりすごいも
のになったのは言うまでもなかった。
33