やーくとファンタジー ID:91128

やーくとファンタジー
髪様
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
あるところに第二次世界大戦兵器を題材にしたゲームがあった。
豊かなキャラ創作が出来るそれにはまった外道共は一つのギルド
を立ち上げる。
その名は﹃ロリッター﹄。そしてある日彼女︵かれら︶は気付けば4
人一緒にゲームキャラで林の中にいた。⋮⋮もうやめたげなよ、から
※
始まる蹂躙︵笑︶系異世界トリップファンタジー。今、幼女たちの異
世界でアーリア人の優等性を見せつける壮大な物語が開幕する
い。
このあらすじには多分な誇大妄想が含まれておりますご注意くださ
!
目 次 やーくとファンタジー ││││││││││││││││││
1
やーくとファンタジー
きゅらきゅらと音を立てて林の中を進む重厚な物体。見るものが
見ればよく分かる、第二次世界大戦でドイツ軍が開発した戦車、王虎。
そして今彼の巨体の前には一匹の魔人の王が居た。人類に対して争
いを続ける魔の一匹、ありきたりだが名をオーガキングという。
﹂
﹁さて、お前も王、こいつも王だ、身一つで一騎打ちと行こうじゃな
いか
虎 のハッ
ケーニヒスティーガ
前髪が一直線に整えられた金髪のロングを靡かせ、 王
チより一人の幼女が現れる。軍帽と軍服、頭には砲音を防ぐためと無
線通話をするためのイヤーマフ兼用ヘッドホンである。
﹄と何かずれた発音で車内へと命じる。それと同時
幼女はそのくりくりとした碧眼でオーガキングを睨みながら﹃ぱぁ
んつぁーふぉー
行を止めるべくその腕に血管が浮かび上がるほどの力を入れる。
負けてなるモノかとその腕に、より一層の力を籠め襲い来る暴力的進
言語が伝わらずとも、どことなく、そうと理解したオーガキングも
し潰すつもりなのであろう。
る。つまり、彼女は今からアクセルを踏み込み、目の前にいる彼を押
切っていない状態で、ミッション一速のまま少しずつ進む程度であ
そうつぶやくと、車内へと姿を消す。未だ王虎はアクセルを踏み
こいつも本気を見せよう﹂
﹁ほぅ、流石というべきか。オーガ王の名は伊達ではないな、ならば
う。これだけで、オーガキングがどれほどの怪力か理解できる。
種族であったのならば、既にゆっくりとひき殺されていることだろ
その足が大地を削り後退していく。もしこれが普通の人と呼ばれる
70t近い車体重量を持つ戦車の足を止めることは難しい。徐々に
オーガキングは雄たけびを上げ、戦車を止めようとするが、やはり
グの腕と、本物の鋼鉄である王虎がぶつかり合う。
ゆっくりと進ませ、そして異世界の民より鋼鉄と評されたオーガキン
に全身を開始する王虎。そのまま正対するオーガキングへと王虎を
!
そうすれば、王虎とオーガキングの力は拮抗する。オーガキングは
1
!
・
勝利の雄たけびを上げた。自らの体よりも遙かに巨体な王虎を止め
ていることで、彼の中では既に力比べで勝利したようなモノなのであ
る。
だがしかし、実はまだ、王虎はそのアクセルを踏み込んではいない。
では車内へと姿を消した件の幼女は何をしているのだろうか
﹁ぱらぱっぱっぱー、7.92㎜機関銃ぅ∼﹂
そう言って、明らかに彼女が持つには大きすぎる重火器を取り出す
と、いそいそとキューポラハッチの横へとそれを慣れた手つきで取り
付ける。
﹁驚くべきですな、うちも君には驚かされたよ。さて、ならばうちも
こいつの力の一端を見せてあげよう﹂
それに気づいたオーガキングは彼女の方を向くが、彼がもし手を放
し力を抜けば自らが轢かれるのは自明の理。そのまま彼は何か仕出
かそうとする幼女を見つめるしかない。嫌な予感しかしないが対応
は出来ないのでだ。そして、幼女は取り付けた機関銃をオーガキング
へと向け⋮⋮発砲。
オーガキングはその頭を何発モノ機銃弾によって消し飛ばされ、力
を失い前のめりに倒れる。そうして、ずるずると地面へと滑り落ちる
と、前進を続ける王虎に轢かれその体をぐしゃぐしゃの肉塊へと変貌
させる。
この付近の魔獣、魔人を束ねる王の非常に無念極まりない最後で
あった。
か
れ
ら
これは身一つの一騎打ちと言いつつも機関銃を持ち出してくるそ
れに疑問を一切持たないナチュラル外道な幼女たちの物語である。
▽▲
とある一つのゲームがあった。MMOと呼ばれる部類のゲームで、
その中でも一際中年と一部青年に流行っているゲームがある。第二
ランドオブバトルフィールド
次世界大戦中の戦闘車両とNPC歩兵を駆使して戦う
﹃陸こそ我らが戦場﹄である。
自らのキャラを組み合わせ自由に行える部類のフィールドバトル
2
?
系MMOであり、いくつかの戦闘車両とNPC兵を使用し、敵対国家
に所属するプレイヤーを撃破していくゲームであり、キャラメイクは
初期200種、男女合わせて課金追加3000種ものパーツを組み合
わせることによって様々なスタイルの兵士が出来上がるのだ。
もちろん、パーティー的要素も導入されており、同じ国家に所属す
るプレイヤーと隊を組むこともできる。一人のプレイヤーで最大大
小合わせて50車両と500名のNPCキャラを操作することがで
き、所謂隊内戦闘である訓練モード等も実装されている。
戦闘を続けることによって兵器を改良や生産できるようになって
いき、パンター中戦車やシャーマン戦車だけではなく、バランスよく
様々な車種、対戦車砲、トラックや対空車両を開発しなければ、歩兵
負け等の事故も起きるし、所謂ゲーム内スキルと呼ばれるモノで行え
る空爆要請によって一方的に叩かれること起こりうる。
自らの搭乗する車両の操作もしなければならないが、戦場の配下N
PCの操作もある程度決めてあげなければいけないという、非常に手
間のかかるゲームなのである。
勿論、味方のフォローをしなければ自分の担当場所が優勢であっ
ても、全体的には負けて入れば戦術的敗北もあるので、他の味方プレ
イヤーの援護も必要と、要求されるモノが多いのだ。それ故に、一部
のコアな層には流行っているが、メジャーとは言い難いゲームなので
あった。
そしてその中にも、一際目立ったチームがある。そのチーム名は
か
れ
﹃ロリッタ│﹄、幼女キャラのプレイヤー4名︵中身おっさん︶で構成
されたチームである。他のプレイヤーは彼女らを畏怖をも籠めてこ
う呼んだ。
﹃とりあえず、ドイツ語付けてればどんなものでも大体格好よく聞こ
えるのにドイツ語付けても救いようのない程残念なチーム名の奴ら﹄
いや、なげぇーよ。
▽▲
3
とある日、いつものごとくチーム参加した大戦を終えた時のことで
ある。
・
・
・
・
幼女の一人、チーム内リーダの金髪碧眼姫カットロングの幼女、ア
インスがこう言った。
﹂
﹁うちらでチーム内訓練しよやー、うちけーとらで来るからお前らな
んで来る
それに応じ銀髪金眼のでこ出しで、少し耳前の前髪が左右にはね気
・
・
・
味ロング、ツヴァイはそれに答える。
﹁お前が軽トラならオレはハフトラで行くわ﹂
黒髪黒眼のおかっぱ幼女ドライも﹁私もハーフトラックで行きます
ね﹂と呟き、正統派白髪ロング赤眼の幸薄系幼女フィーアも﹁ならワ
か
れ
ら
イもハフトラでいくぅー﹂と続く。
彼女たちはこのゲーム以外の他の戦争系ゲームでも同じ仲間とし
て戦ってきたので、その時よりメールのやり取りを行い続けている。
なんだかんだ言って微妙に付き合いの長い連中である。その為、キャ
ラ制作の時もこうしてキャラ被りしないようにメイキングし、そして
いいの
・
・
・
・
・
・
うちのケートラつおいよ
・
いやマジで﹂
幼女に統一、名前もドイツ数字に合わせて行われた。
﹁はっ
?
?
幼女キャラをコマンド入力で驚きの表情に変化させる。ツヴァイ、ド
ライ、フィーアの三人はそれに対しても余裕ぶり問題ないと返して訓
練の準備にかかる。
ハーフトラックにも種類があり、
﹃ロリッタ│﹄の面々が使用するド
・
・
イツ系の戦闘用ハーフトラックであれば、自走砲能力を持たせること
・
・
・
のできる﹃Sd Kfz 251﹄等の型もあるのだ。これらの軽戦
闘車両はある程度自由に装備も変更でき、重機関銃に取り換えたり戦
場に設置されているトーチカなどの破壊も可能な対戦車砲をつめた
りする。
そして、このゲームで軽自動車トラック、つまり軽トラと呼ばれる
車両はドイツ軍兵器には存在しない。あるとしたらケッテンクラー
トと呼ばれるハーフトラックの一種でバイクと軌条が融合したもの
4
?
アインスは三人の車両選択の意味が分からないとばかりに、自らの
?
が、大きさ的にも能力的にも軽トラのそれに該当するだろう。
ケッテンクラートの大きさは大型バイクほどなので、乗せれる武器
と言えば機関銃ぐらい、それ以上の重火器なぞ積めるはずもない。更
か
れ
ら
に 所 詮 バ イ ク ト ラ ッ ク な の で 装 甲 も ほ ぼ 全 く 存 在 し な い。故 に
と。
彼女たちはこう考えた、軽トラ如きである、ハフトラの重機関銃で蜂
の巣にしたるわ
そして、運命の時がやって来た。
▽▲
きゅらきゅらきゅらきゅら
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
重機関銃装備のハーフトラック三台の前にケッテンクラートの履
・
・
・
・
・
・
・
・
・
帯音に比べて重厚なそれを響かせて現れたのは、一台の戦車であっ
た。
その名は﹁ケーニヒスティーガ﹂日本語で王虎と表記し、ティーガ
Ⅱと呼ばれる戦車であった。もちろんケッテンクラートが現れるだ
ろうと思っていた三人は唖然とする。ハーフトラックでは正面で撃
そりゃ卑怯だろ
﹂
フー
ン
﹂
ち合ったら、どう足掻いても勝てぬ相手であるからだ。
﹁てめぇ
﹁それ流石にないですわー﹂
﹁なめんじゃないです、くたばれ、チキンやろぅ
!!
︽アインス︾。しかし、彼女は別に騙そうとした訳ではない、実際に準
・
・
・
備に取り掛かる前にハフトラじゃ絶対に勝てないと彼女たち三人に
告 げ て い る の で あ る。そ れ で も、軽トラ な ん ぞ に 負 け る な ん て な い
わーと返したのは三人である。
とら
だが、実際には軽トラ否、ケ│トラであり、ケーニヒスの﹃ケー﹄と
王虎︽おうこ︾の﹃虎﹄の字で﹃ケートラ﹄なのである。いささか以
上に強引だが、愛称としては間違っているとはいえない。
だがしかし、確信犯じゃないけどそれでも王虎で来る幼女マヂ外
5
!
その叫びに対して、心外だとばかりにのけぞり、胸を張る金髪幼女
!!
!
道。
とはいえ、これでは勝負にならない。
﹂
﹂
﹁まぁいいや、うち一両とみんなの三両で戦おうか
でしょ
﹁やってやらぁ
それなら大丈夫
?
ハフトラの機動力を
﹂
﹁後方から装甲の薄い部分狙ってぶち抜いてやります﹂
﹁甘く見たね
!
だが。
の物も存在するので、マーカーモードを使った方が良いこともあるの
イプモードを使用する。戦車砲であっても弾種によっては対歩兵用
の重機関銃などはマーカ│モードで撃ち、戦車砲や迫撃砲などはスナ
両によっては容易く無力化されるだろう。基本、弾をばら撒くタイプ
るスナイプモードが存在する。これらもうまく使い分けなければ、車
詳しく説明すればターゲットをある程度狙うマーカ│モード、狙撃す
メイン車両操作モードとは所謂FPS視点で移動するもので、更に
破されるだろう。
両操作モードだけで事足りる。むしろ指令操作モードだと普通に撃
ることが出来るので、今回のように一台だけ参戦であれば、メイン車
しかし、チーム内訓練モードでは参加する車両や兵士の数を限定す
寸前といったこともあり得てしまう。
動かせない欠点があり、そのため気付いたときには撃破されてしまう
うことがある。逆に指令操作モードだけでは自 らが搭乗する車両を
プレイヤー
ドだけでは配下NPCがデコイ以上の役目を果たさなくなってしま
どちらかだけでも戦えないこともないのだが、メイン車両操作モー
るメイン車両モードが存在し、これら使い分けて戦うのだ。
イでは空撮的なNPCを動かすための指令操作モードと自ら搭乗す
無線チャットを通じてメイン車両操作モードに移る。普段のプレ
﹃こちらドライより各車両へ、手筈通りに行きます﹄
▽▲
こうして仲間内による血みどろ︵笑︶の争いが始まるのであった。
!
今回の戦場は林と農村が混じった手狭な10km四方のものであ
6
!
?
る。今回の作戦では三両が別々に行動しながら、王虎を包囲し、弱点
である履帯部か薄装甲部をぶち抜くことが目的である。
本来兵器は集中運用が基本だが、機関銃しか積んでいないハーフト
ラックたった三両が同時に行動してしまえば、一瞬で撃破されてしま
うのでばらけて一両ずつ林や民家の陰から奇襲を仕掛けるのだ。
ヒンターハルト
王虎死すべし慈悲はないが合言葉である。
ハ
フ
ト
ラ
﹃私は12時方向の林に待ち伏せします。敵王虎を発見後射線が重
やぼーる
ならぬように十字砲火を浴びせましょう﹄
やぼーる
﹃こちらツヴァイ了解﹄
﹃こちらフィーア了解﹄
グウォンとエンジンの始動する音が聞こえ、Sd Kfz 251
が動き出す。そのまま三両は扇状に展開し、それぞれのルートへ進路
を変える。このまま林の中へ進み茂みの中より奇襲する、民家の一部
だ。
に車体を突っ込ませ、瓦礫の中より奇襲する、とりあえず奇襲する。
それが作戦
﹃敵は北東の角より発進します、戦車が通れる道はこのフィールド
﹄
上に二か所、中央を流れる川があるが、渡れる橋は存在しないので浅
瀬で渡河するでしょう﹄
﹃そこが絶好の奇襲ポイントじゃね
フ
フ
ト
ト
ラ
ラ
﹃これより通信終わり、予想到達時間は2分後です﹄
まう。
み取れなくとも、無線という設定の仕様上近くにいることがばれてし
更、敵が無線モードを全周波にしていれば、無線チャットの内容は読
それぞれの位置へとたどり着く。エンジンを止め、狙撃モードに変
あろう。
すぐにある集落で待ち伏せし、三方向からのクロスファイアが最前で
かし、走破性ではSd Kfz 251が劣るので、結局橋を渡って
ハ
ほどだと思われるので、Sd Kfz 251よりはるかに遅い。し
ハ
次々に作戦の詳細を練っていく。王虎の速度は巡行15km/h
く砲撃されます﹄
﹃いやー無理ですよー浅瀬のポイントは障害物がないですから容易
?
7
?
﹃了解︽やぼーる︾﹄
﹃了解︽やぼーる︾﹄
狙撃モードに切り替えた三人は恐らく出現するであろう川の方角
をじっと見つめる。王虎といえども、キューポラハッチ部と砲塔後部
ハ
フ
ト
ラ
の整備ハッチを狙えば行動不能にできる可能性があるのだ。そうな
ればSd Kfz 251の特殊攻撃の擲弾攻撃が出来る。
﹁問題ないです、アインス。貴方の王虎はここで潰えるのですよ﹂
▽▲
そのころアインスの乗車する王虎は悠々と橋を渡っていた。
﹁軽量化ぁ∼なぁ∼ケ∼虎ぁ∼は早いぞ、つおいぞ、かたぁいぞ∼﹂
ゲームの要素の一つとして、よくある装甲素材の変更である。アイ
ンスは課金勢と呼ばれるゲームスタイルを取っているので、兵器の開
か
れ
8
発に無課金勢に比べると少々有利となる。ちなみにツヴァイ、ドラ
イ、フィーアも課金勢だが、彼女らはⅣ号戦車とヤークトパンター等
の中戦車に力を入れているため、王虎は所持していない。
アインスはゲーム内で所謂、虎戦車ラブ勢と呼ばれる一人なのであ
る。その為、課金装甲︵全車重より│30%︶に強化ミッション︵故
障率半減︶、課金増加装甲︵防御率+8%︶、エンジン乗せ換え︵70
0馬力ガソリン↓900馬力ディーゼル︶へと変更しているのだ。こ
れにより実際には47.6tほどに抑えられている。
つ ま り、パ ン タ ー 中 戦 車 的 な 使 用 方 法 が 可 能 な 王 虎 な の で あ る。
ケートラは軽虎でもあったのである。日本語って恐ろしい。
﹂
三両が川に注視している際に、王虎は北端の橋を悠々と渡りきり、
そのまま南へ伸びる道を前進。
﹁あいつらどこ行ったんだろう
時に黒煙が吐き出され、隠密モードの解除。それに気づいたアインス
え、耐えられなくなったツヴァイが車両を稼働させる。そして、始動
結局、三両も待てども王虎が川を渡ってこないことに不信感を覚
そのまま南の端まで到達してしまう。
?
は車体ごとその方角へ砲を向ける。
﹁あ、居た。あんなところに村あったんだ﹂
ハ
フ
ト
ラ
す ぐ さ ま 狙 撃 モ ー ド に 変 更 し、 川 を 向 い た ま ま の
ハ
フ
ト
ラ
Sd Kfz 251 へ 砲 撃。榴 弾 が 真 っ す ぐ と ツ ヴ ァ イ の 元 へ 飛
﹄
翔、近くに着弾し、ツヴァイのSd Kfz 251の履帯を破壊す
る。
﹃はっ
この時点ではまだ部位は回判定のみで、撃破判定まではされていな
ハ
フ
ト
ラ
い、無理やりに機銃台を回し、砲撃方向へ向けるが、明らかに王虎は
Sd Kfz 251の搭載する重機関銃の貫通能力では抜けぬ、破
壊できない位置にいる。ツヴァイの乗る車両が一応のばらまきを開
始するが、数秒後には直撃弾を受け、大破。最初の犠牲者となった。
その後、アインスは村へと榴弾を打ち込む。本来ならあり得ぬ方角
より現れた王虎、それに見つからぬようにドライ、フィーアもそっと
身をひそめる。このまま痺れを切らしたアインスが村へと前進して
来ることを待っているのだ。
そしてようやく、今回の戦闘で使用可能な事前設定した数の榴弾を
撃ち尽くした王虎が動き出す。
﹄
﹃来ましたね、フィーア。私が体当たりするので、後は頼みます﹄
やぼーる
﹃了解、ジークハイル
フ
﹁ふぁいえる
ト
﹂
ラ
を仕掛けようと構え、
フ
ト
ラ
それと同時に、林よりフィーアのSd Kfz 251が登場、銃撃
ハ
王虎もその車体を若干斜めに動かされ、車体を民家へとぶつける。
を大破させる。
Sd Kfz 251は王虎の側面へとぶち当たり、自らのその前面
ハ
に 飛 び 出 す。真 っ す ぐ に ガ レ ー ジ の 扉 を 突 き 破 り 登 場 し た
達したときにエンジンをかけ、民家のガレージよりアクセルいっぱい
警戒状態になり、速度を落とした王虎を待つ。そして、目の前に到
そして、王虎が村の内部のを走る道へと到達する。
!
アインスの掛け声と同時に、王虎の砲にぶち抜かれ、一撃大破。作
!
9
!?
ハ
フ
ト
ラ
戦の失敗を見たドライが慌てて動けなくなったが、未だ戦闘継続可状
態であるSd Kfz 251の重機関銃を操作、至近からの銃撃を
王虎に行おうとするが、ハッチより登場したアインスの重機関銃に先
ラ
けー
﹂
と
ら
に銃座を破壊され、後進し、動けるようになった王虎の砲を向けられ
る。
フ
ト
﹁⋮⋮うちとけーとらの大勝利や
▽▲
﹁﹁﹁なめんなよ、てめぇ﹂﹂﹂
﹁えー、うちもう訓練しないよー、一時﹂
﹁ワイもパンターⅡでやるわぁ∼﹂
﹁私も、同じく次はヤクトティーガーで狩りつくしてあげます﹂
﹁外道め、覚えてろよ、オレも外道プレイしてやっから﹂
課金戦車であったのは非常に痛い。 普通の王虎ならばもしかしたら勝てる可能性も在ったのだが、王虎が
こうして、訓練が終わった。非常に予想通りの結末である。いや、
﹁パンターで来たらよかったなぁ∼﹂
﹁いや普通に無理げーですから﹂
﹁卑怯モンがぁぁぁぁ
﹂
Sd Kfz 251はケーニヒスティーガには勝てなかったよ。
ハ
ズドンっ。
!
なんか思ってたのと違う
知ってる。
⋮⋮こうして、彼女︽かれ︾らは外道へと落ちたのである。
え
?
をしていた。
﹁﹁﹁﹁意味が分からない﹂﹂﹂﹂
前兆など何もない、いつものようにキーボードを打ち、マウスク
リックしして画面操作をしていて、瞬きしている間に此処にいたので
10
!!
そして、四人は気づけば林の中で切り株を真ん中に置いて三角座り
▽▲
?
うち、アインス﹂
ある。そしたらこうして、なぜか4人で見つめ合っていたのだ。
﹁ツヴァイとドライ、フィーアだよね
﹁知ってる、むしろ見てわかるわ﹂
﹁右に同じくです﹂
﹁左に同じく﹂
解できる一因となっている。
﹁これってトリップてやつかな
﹁だろうなぁ﹂
﹁でしょうねぇ﹂
根拠は何一つない。ドライは、これ
はないですわーの諦め仕様。フィーアはお腹減ったなぁーの完全無
畑。ツヴァイは此処から俺無双
アインスは適当に異世界やぁ∼こんにちわー異世界程度、脳内お花
ある。
アは何処か遠い目をしている。それぞれ変に思うところがあるので
んかぽやっとしているが、ツヴァイは地味に上機嫌、ドライ、フィー
流石はネット世代、ある程度の事情はお察しである。アインスはな
﹁だよなぁー﹂
﹂
打った時に発声されるゲーム内音声そのままなのも誰が誰なのか理
る 容 姿 で あ る。す ぐ に 互 い が 誰 だ か 理 解 す る。そ し て、チ ャ ッ ト を
確かに今までの3Dキャラではなくなったが、何となく見覚えのあ
?
﹂
﹂
﹁ゲームキャラだから兵器呼べたりなぁ、するかもや﹂
ふぅんがっ
ひょい
のりゃ
でろでろでー
!
﹂⋮⋮
フィーアの一言でアインスが突如立ち上がり何かしら、うなり出
す。﹁ふ∼ん
﹁あっ、呼べる﹂
﹁﹁﹁マジか﹂﹂﹂
!
!
そして、何かがヒットしたのか、そうボソリとつぶやくと突如切り
!
11
?
!
欠思考放棄である。見事に三者三様の考えであった。
﹁ねぇ、どうする
﹁どうも何も、なぁ
?
﹁知りませんよ、身一つでどうするんですか﹂
?
いやむしろ奇声を発する。
!
株の反対方向へと体を向け﹁はっ
だ。
うちのケートラやん
﹁どうやって出すんだ
﹂
﹂と、どこぞで見たことのある気
﹂
そう、重戦車推定68t改めドイツ的中戦車48t王虎が現れたの
﹁やっはっ
の前にあった木々をなぎ倒して、一台の戦車が現れる。
弾を発射しそうな体勢で腕を突き出す。それと同時に、ズドンっと目
!
!
よく
﹁でゅりゅんでゅりゅん
﹂
た最強のⅣ号戦車を見てみたい。藁にも縋る思いで、大きな声で元気
あえず、勢いで呼び出せたのである。しかし、ツヴァイは自らの考え
よりも、既にアインスもどうやって出したのか忘れているのだ。とり
絶対に嘘である。そんな言葉をアインスは言っていない。という
﹁でゅりゅんでゅりゅんで出た気がする﹂
だが。
車で装甲、貫通能力、砲身長を魔改造したⅣ号戦車の皮を被った何か
イも自らの愛車を取り出したいのである。その名もⅣ号先生、課金戦
ツヴァイがアインスへと尋ねる。勿論、目を輝かせながら。ツヴァ
?
﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂
まぁ勿論出る訳がないのだが。顔を空に向け両手を上げたまま硬
直するツヴァイ、見た目はキツメの銀髪ロングの幼女だが、中身は軽
﹂
すぎるようである。
﹁でねぇぞ
伺える。いうなれば天然さん。
?
﹂
?
即座にその他は今の出来事を無かったことにした。やはりツヴァ
﹁いや、だからさ、出ねぇんだけど
﹁さっきから試してるんやけど、出ないなぁ∼﹂
﹁で、結局念じれば出るんですか
﹂
げる幼女。この時点でも疑問に思わないことで、ツヴァイの人間性が
ようやくここでゆっくりと三人の方へと、顔だけを向け、首をかし
?
12
!
少し待ってみるが、何も起こらず、辺りはシンとする。
!
!
イは未だに間違った方法だと気づいていないようである。ここまで
来れば普通に騙されたと思っても良い筈なのだが、アインスが最初に
呼び出してしまったことのが原因で、アインスなんかが俺を騙すはず
がないと思っているツヴァイは何度と同じ奇声を上げそれを繰り返
す。少し前にアインスには騙すつもりが無かったとはいえ騙された
はずなのに、学習能力のないツヴァイであった。
﹁とりあえず、けーとらに乗ろうやー﹂
﹁仕方がねぇな﹂
﹁⋮⋮確かにここが何処だか分からないですし﹂
﹁敵 対 生 物 が い る か も や し、も し く は 敵 戦 車 居 た り す る か も ん ね ぇ
⋮⋮﹂ 何をしても呼び出すことが出来ない現状。仕様がないので、いそい
そとなぎ倒された木々の上に鎮座する王虎へと向かい、その低い身長
の4人は何とかよじ登り、そのまま開の状態で固定されていたハッチ
13
の中へと入ると、思い思いの場所へと座る。
﹁うちの戦車だから、うち戦車長の場所なぁ∼﹂
﹁オレは砲手だな﹂
﹁なら操縦席に⋮⋮ってこれオートマじゃないですか、スゴイ﹂
﹁流石ゲーム仕様だねぇ⋮⋮ワイは車体前部銃座に付くなぁ∼﹂
ちなみに、アインスは知らないが戦車長が一番死にやすい。装甲が
薄いキューポラの位置に常に乗車するからである。更に、基本前進時
﹂
は戦車ハッチより上半身を乗り出して辺りを伺うので、狙撃兵等に良
く狙われるのだ。
﹁では、とりあえず山の中進むよ∼、ぱんつぁーふぉー
﹁﹁﹁了解︽やぼーる︾﹂﹂﹂
▽▲
進む。方角すらも分かっていないので行き当りばったりなのだが。
染みに変えた一行は再び林の木々を根こそぎ押し倒しながら適当に
そうして、オーガキングの死骸を二、三度入念に轢き潰し、地面の
!
﹂
﹂
﹂
﹁オーガっぽいのが居たので、少なくとも私たちがやっていたゲーム
の中ではないようですね﹂
﹁へぇーあれ、やっぱりオーガなんだ
﹁なんか海外の鬼っぽっかたし、オーガじゃね
﹁正式名称はよう分からんし、仮称オーガでいいんやないですかぁ
﹁って
﹂
﹂と叫び、発砲、小さな人影を
何してくれてんですか、お前は
﹂
汚いザクロへと変える。それに対して一瞬唖然とするドライ。
滞りなく銃座を向けると、
﹁見的必殺
と、その時小さな人影が現れた。即座にそれに気づいたアインスは
﹁ワイも銃窓から前睨んどくねぇ﹂
いるのである。
も強化された王虎は砲戦能力以外現代戦車に匹敵するモノを持って
王虎には在って無いようなモノである。エンジンも装甲も走行能力
周りは林だが20cmほどの木々ばかりなので、その程度の障害は
すので﹂
索敵してくださいね、突然崖とか現れたら、そのまま落ちてしまいま
﹁まぁ、平地みたいですし、あ、アインスは外から機関銃構えたままで
﹁とりあえず、真っすぐ前進な
それとも単に現実だとあまり認識していないだけなのかもしれない。
い、性分なのか何かしらの副作用が働いている可能性も在るのだが。
い奴らである。別に彼女︽かれ︾らが死に慣れているという訳ではな
一つの生き物の命を惨たらしい方法で奪っておきながら非常に軽
?
?
?
!!
!?
﹂
言わんばかりの疑問顔。ついで
かしたら付近に住む村の住人、子供だったかもしれないからである。
﹁⋮⋮さーちあんどですとろい
﹁だな﹂
アインスはなんで怒ってるのと
たのかは知らないし、興味もなさそうである。
ヴァイは適当に相槌を打ち砲手座席で指を弄っている。何が行われ
いるのも少しウザい。自分の行為に疑問を持たない行動だった。ツ
に言えば憎たらしく首までかしげている。前髪が少し口にかかって
?
?
14
!
そして彼女は迷いもなく行われた虐殺行為に大声を上げる。もし
!
﹁でもま、付近の現状が分からのやし今のは判断は正しいかもや∼﹂
フィーアの言う通り、現状はとりあえず戦車に乗って進んでいるだ
けで、何がどうなって何処にいるのか全てが分かっていない。付近に
﹂
住む住人が友好的なのか、先ほどの仮称オーガの様に非友好的なのか
も分からぬのだから。
﹁で、飛び出してきた生き物はなんですか
ですか
﹂
﹂
に進もう
﹂
・
・
・
・
・
・
﹁やっちまったモノはしょうがない、誰にだってミスはあるからさ、前
ようとする。もちろん、頭痛は収まらない。
ので、こめかみに親指と人差し指中指の三本を当てて頭の痛みを抑え
イは二人の、ツヴァイとフィーアの言葉を間違っているとは思わない
そこで、ドライの払拭されかけた心配を再びまき散らす二人。ドラ
﹁あぁ、なんかあり得そうな展開ではあるな﹂
もなぁ
﹁いいのかなぁ⋮⋮案外この世界では人間と仲の良い生き物だったか
﹁まぁ人じゃなくて良かったです﹂
ているドライは、それをスルーする。
が出来たのであるが、それを言ってしまえば自分が危うくなると知っ
アが付け足す。最初からそれを言っていれば、もう少し落ち着いて話
どうやら飛び出してきた瞬間をちゃっかりと目撃していたフィー
﹁一瞬だけやったけど、ゴブリン的な、なまものかな
﹂
﹁やかましいです、貴方が仕出かしたことでしょう。で、どんな生き物
﹁⋮⋮きちゃない﹂
人間ではなさそうだ。
の 血 液 の よ う な も の が 飛 び 散 っ て い る。少 な く と も 彼女たちと同じ
・
事に腕や胴体が幾つかのパーツ分けされた何かの死体を見れば、青色
確認の為に、アインスがハッチより飛び出て、地面へ降り立つ。見
?
﹁少なくとも張本人が言う言葉じゃないよねぇ⋮⋮﹂ ね﹂
﹁やったのがアインスでないのなら、それで納得していたんですけど
?
15
?
?
?
﹁なんでっ
﹂
良いことを言ったつもりのアインスは余りにも辛辣
な言葉に右
腕をシュッと左方へ持って行き、精神的に無駄なダメージを受ける。
ちなみに当然ながらドライとフィーアが正しく、少なくとも現状の惨
劇︵笑︶を作り出した人物が慰める立場に回ろうとするのはおかしな
話なのだ。
嫌な例で行くのならば、野良猫が引かれて死んでいる場面を可哀想
だと言っている奥様方が居て、その中に野良猫を引いた運転手がやっ
てきて﹁可哀想に、でも死んでしまったモノは仕方がない﹂と言って
いるようなものである。人が人ならブチ切れても可笑しくはない。
﹁まぁ、いいです。やってしまったモノは確かに仕方がない、ばれぬよ
うに見つけた生き物は皆殺しにしなさい﹂
﹁﹁お、おぅ﹂﹂
﹁すごいのぅ、ドライはん。両極端﹂
何もわからない現状でこの決断を下し
﹁ただし、明らかな私たちと同じ人型は少し考えなさい﹂
見敵必殺、疑わしきは罰せ
はないのは確かであるが。
﹂
殺すなって意味に決まっているでしょう
!
﹁考えて殺せばいいという事
﹁なるほど、あれは人だな ⋮⋮よし考えた、そら死ね
﹁なんでそうなるんですか
﹂
か、流石はド
た主人公がさて、どれほど世界に存在するだろう。少なくとも王道で
!
?
ライ、オレにはできない発想だ﹂
!
!?
も馬鹿だから仕方がない。ゲームの中では見ていて楽しい部類だっ
たが、これが現実になると非常に危ない部類なのである。近づいたら
というか、一緒に居たら嫌に精神の何かがゴリゴリと削られるのだ。
アインスもツヴァイも分かった
﹂
﹁まぁ、緑のゴブリン的何かと灰色のオーガ的何かが居たら殺すてこ
とでしょ
﹁うぃ﹂
﹁やー﹂
?
?
16
?
!?
まともなハズのドライの発言が裏目に出る。アインスもツヴァイ
!?
﹁出来れば言語は統一しなさい﹂
ヤー
﹁うぃ﹂はともかく、﹁やー﹂は否定なのか肯定なのか分からない。
﹁いや﹂の﹁やー﹂なのか、ドイツ的﹁Ja﹂なのかで意味合いが全く
変わるからである。前者は言わずとも否定、後者はイエスの意味であ
るのだから。
﹁﹁了解︽やぼーる︾﹂﹂
最終的な返事も結局本当に理解しているのかどうか、非常に納得の
できない雰囲気で放たれた。再び何となく頭痛がする気がしたドラ
イであった。
そうしてまた動き出す王虎。そして、それと同時に飛び出してくる
大量の仮称ゴブリン。もちろん、自ら鋼鉄にぶつかりに来るので、そ
﹂という疑問符の反応を返すドライだが、彼女の
のまま轢かれる。それを目撃したフィーアが一言﹁あっ﹂と呟き、そ
れに何事かと﹁ん
﹁何でもないよ﹂との返事で再びアクセル踏み込む。
もちろんその間にも次々と仮称ゴブリンは踏みつぶされたり、体を
強打して死んでいく。ちなみに外にいるはずのアインスは、早速索敵
そっちのけで﹁青空青いなあいうえお﹂と呟きながら両手を後頭部で
﹂
組んで雲を眺めている。ツヴァイは再び指を弄っている。
﹁フィーア
アインスは今起きている惨状を何も見ていないのだろうと辺りを付
けて苦笑いをする。
﹁あ∼大丈夫や、何か一杯おっきな虫みたいなモン踏んでるだけやか
ら﹂
いやおそらく居ないだろう。基本ファンタジーで序盤に出て
今まで、ここまで御座なりな扱いをされるゴブリンズがいたであろ
うか
ヒロインとの出会いのための布石であるとか、村を見つけるためのフ
ラグであるとかだ。
さて、そうこうしてい間にも短い﹁ぴぎゃっ﹂
﹁ぐぎょぉ﹂
﹁びがっ﹂
という断末魔を上げひき肉や地面の染みにされていく大量の仮称ゴ
17
?
フィーアからはその様子は見えないが、何も言ってこないことから
?
くるゴブリンというモノは何かしらの意味を持っているものである。
?
ブリンたちであった。
▽▲
ゴブリン達の献身的な自害を見届けたフィーア。知能が低いのだ
ろうか、誘蛾灯に群がる虫のような最後である。次々と死んでいく仲
間を見ても、武器を持って走ってきてそのまま更に死んでいくゴブリ
ン達は恐ろしさを通り越して、逆に笑いが込みあがてくるものもあっ
た。
そして思い出し笑いをしているフィーアだが、場所が突如開けたこ
とに気付く。どうやら、何かしらの広場に出たようである。粗方轢き
殺しつくしたのかゴブリンはもういない。
﹂
﹁おぉぅ、見てよドライ、うちのケートラが作った道ってさ、まるで飛
べないドラゴンが地を這ったみたいだね
﹁これ、立ち入り禁止区域とかだったらヤバいですよね⋮⋮﹂
﹁スゲーな、流石は戦車。家でもぶっ壊し進むだけあるな﹂
いつものごとくあっけなく無視されるアインスの言葉。本人とし
休もっか
﹂
ては何か優雅なことを言ったつもりなので、少し心外な結果である。
アインス
﹁とりあえず、ドライは運転で疲れたでしょう
?
﹁じゃあ、ナイフとチェア配るから並んでー﹂
着火剤、ロープ、小型のアウトドアチェアが人数分おさめられていた。
出す。この中にはサバイバルセット、例を挙げるならナイフや飯盒、
内では使用することでNPC兵士の体力が回復するアイテムを取り
してアインスは王虎車内に置いてあった野戦セットAという、ゲーム
同意を他の二人にも促し、再び三人は王虎より地面へ降り立つ。そ
恐るべき点なのであるが。
いなおす。悪気や悪意がなくとも事件が起こるあたりが、アインスの
らの事件が起きたことはないので、本人的には善意なのであろうと思
いのか探ろうとする。が、今までアインス本人に悪気があって何かし
る真っ当な提案なので、ドライはすぐさま目を細めそこに何か裏がな
珍しく彼女が普通の提案を繰り出す。しかし、あまりにも珍し過ぎ
?
18
!
﹁おぅ﹂
﹁は∼い﹂
ツヴァイ、フィーアは行儀よくなぜかアインスと正対して並ぶ、別
﹂
オレもそう思うぜ
﹂
に受け取るモノの数が多い訳でもないのだから整列して並ぶ必要性
は皆無である。
﹁ドライはいらないの
﹁うむ、そうだな
なんせ緊急事態だ、訓練された
﹁えぇ∼ここはチームワーク見せるところだよ
﹁配り終えてからでいいです﹂
?
!
ドイツ兵でアーリア人だからな
﹂
オレたちはいかなん時も整列してみせ、その優等性を魅せつけるのが
正解だと思う
!
かね
﹂
﹂
︶からドライの分の装備を渡す。
﹁はえーよ、なげーよ、そしてよく覚えたな﹂
﹁ほい、シュトゥアムゲヴェーア・フィーアウントフィアツィヒ﹂
身でケンカして勝てるとは思わない。何せ幼女だから。
る。この体の性能がどういったモノかは知らないが、確実にアレと生
力とはいかないが、それでも戦車を肉体だけで受け止める化け物であ
先ほどの仮称オーガや仮称ゴブリンを警戒しての要求だろう。全
﹁それよりも、アインス。銃は呼び出せますか
トA︵これで君もキャンプが楽勝
フィーアがいつの間にかアインスの近くに置かれていた野戦セッ
﹁じゃあ∼ほい、ドライの分のナイフと椅子ねぇ∼﹂
何と言おうともドイツ兵であーりあじんなのである。
イ。そしてそれを楽しそうに眺めるフィーア。そう、彼女たちは誰が
眼をそらしながらワザとらしく顔をも背けるアインス、ツヴァ
﹁﹁な、なにおいう。我々はあーりあじんだぞ
﹂﹂
﹁その整列って緊急時でもしっかりと並ぶ日本人の性質じゃないです
い。その点から言えばツヴァイの発言はどう考えても間違っている。
等民族アーリア人は金髪碧眼であり、四人いるうちの三人は該当しな
フィーアは白髪赤眼である。ちなみにどこかの誰かさんが呟いた優
ちなみに、もう一度言うがツヴァイは銀髪金眼、ドライは黒髪黒眼、
!
?
!
19
!
?
?
?
クルムラウフ
そして屈曲銃身付きのカラシニコフ銃にそっくりの一つの突撃銃
を取り出す。屈曲銃身とは弾丸発射口が、おもいっきり右に曲がった
見た目はただの欠陥兵器であるが、元は戦車の陰から銃撃するための
ものだ。ちなみに一応は撃てるがすぐに銃身がだめになる。
﹁頼みますから普通のを下さい﹂
それに応じて唇を尖らせながら不満そうに、普通の照準器付StG
44を取り出し、弾倉と別々にドライへと手渡す。もしあれを使うの
なら、敵を撃つとき態々変な体勢を作って狙わななければならない。
しかも、集弾率は非常に悪い銃身である、普通に死ねる。
﹁遊び心の分からん奴め⋮⋮﹂
ツヴァイがそう呟くが、遊び心で死んではたまったものではない。
﹁貴方が使っていいですよ、私はこれを使うので﹂
﹁マジ勘弁です﹂
結局、他人が持っているのを指差すのは面白いが、100ちょっと
﹁メットコーヒーですな
﹂
!
20
で銃身ダメになる突撃銃など誰も使いたくはない。アインスも使う
つもりはないのか、すぐさま普通のStG44を残りの三人分取り出
しそれぞれに手渡す。
﹂
﹁じゃぁ、うち戦車の上でこれ持って話聞くね﹂
﹁見張りはしっかりとお願いしますわ∼﹂
を作る。
?
﹁珈琲入れようかと思うてぇなぁ﹂
﹁何してるんですか
﹂
後ろでフィーアはせっせと近くの大きな石を集めて簡易的なかまど
先ほど降り立った際に見つけた火の使用された形跡を見る。その
間違いないでしょうね﹂
﹁まぁ、何かが野営した形跡もありますし、人に準じた生物がいるのは
を見下ろす。方針とは何だったのか。
アインスは笑いながら王虎の砲塔後部にチェアを置いて他の三人
!
﹂
﹁見敵必殺だね
!
殺すなつってんでしょう
﹁やかましいわ
!
﹁クソ不味い奴か
﹂
戦場珈琲と呼ばれるモノである、何故それでテンションが上がるか
スチール
分からないが、単に知っていそうな言葉が出てきて過分に反応しただ
けだろう。ちなみに鉄 カップも普通の挽き終えたコーヒー豆もある
﹂
ので、たんぽぽ茶のようなクソ不味い珈琲を態々入れる必要はない。
﹁不味いの飲みたいなら自分でなぁ淹れりぃ
﹁うちカフェオレが良いな﹂
﹁オレも砂糖いれたカフォオレで﹂
﹁⋮⋮ブラックを﹂
﹁で、どうします
﹂
﹁マジで、ハードボイルドじゃね
戦車の前でコーヒーとか﹂
して重大にことを受け止めていなかったりする。
いって他の二人が警戒ビンビンなのかといえば、表面上の形だけで大
こいつら話をする気皆無である。しかも、危機感も皆無なのだ。と
﹁あぁ、よくわかるぜ。空気もうまいしな﹂
﹁外で飲むカフェオレおいしーわー、うち幸せ﹂
余分に把握し過ぎである。
ク、砂糖を取り出す。アインスの持ち物なのに本人じゃない彼女のが
し、中より既に豆が挽き終えて入っているドリップパックと粉ミル
は野戦セットAにさり気なく入っていたコーヒーセットの袋を分解
ラックを頼む当たり、ちゃっかりしているなと思いながら、フィーア
にしている。なんだかんだ言ってドライもしっかりと自分の分のブ
驚異の掌返しの速さ、ついでに言えば戦場珈琲発言はなかったこと
?
く感じるぜ
みたいな
﹁聞けよ、お前ら﹂
▽▲
﹂
﹂
﹁それ、うちもそれ思った。なんかこう、黄昏る感じで今日は酸味が強
?
﹁コーヒーやのうて、カフェオレやけどなぁ∼﹂
?
21
!
?
﹁気を取り直していきます、道探す人探す待ち探すOK
?
!
その後、一人ずつ後頭部を叩かれ、話を聞く体制を取り戻したドラ
イ。彼女は有無を言わさぬと既に決めた、今決めた。返答はyesか
やー
OKのみである。
﹁﹁﹁Ja﹂﹂﹂
﹁イエスと取っておきます﹂
一息ついた彼女らはまたも王虎の中に入ってゆく。元々が第二次
大戦時の戦車モデルなのに一発エンジン始動の快適オートマチック
ミッション、エアコン完備である。惜しむべきはネット環境がないこ
とだろう。ついでに言えば寝場所もない。
今いる場所は広場のようだが、近くに昇りの斜面が緩やかに存在す
る。広場から斜面に向けて昇り道らしきものがあるので、これ昇って
行けばすぐに何かしらの通りに出るだろう。
その場で右履帯のみを後進状態に動かし右旋回、坂道へ正面を向け
る。それと同時に地面には抉られた土で履帯の跡が放射線状に伸び
22
る。
﹁前進︽フォー︾﹂
﹁了解︽やぼーる︾、前進︽ふぉー︾﹂
アクセルと、右履帯操作レバーに左履帯操作レバーを手前に引き、
前進を開始する。前進の操作方法はショベルカーなどと同じ形式で、
それにアクセルが加わっただけのお手軽である。流石はゲーム仕様。
﹁こいつが本物だったらお手上げだったです﹂
もし、本物仕様であるならば坂道の変則とアクセル操作を間違える
と、容易く王虎のミッションがブチ壊れる。本物はなんだって20t
以上異なる戦車と同じミッションを載せようと思ったのか。まぁ新
﹂
たな変速装置を開発する時間がなかったからだが。
﹁うちのケートラはすごいでしょう
的な操作機構をもった戦闘車を呼ばねばなりませんね﹂
し私が自らの兵器を呼び出せるようになったのならば、意図して簡易
あれば無駄に操作機構の多いモノが呼び出されていたでしょう。も
て操作系統も変わるのならば、私の想像したケーニクスティーガ│で
﹁まぁ、そうですね。もしこの兵器呼び出しが個人の深層意識によっ
?
﹂
ロボットとちゃって、手足ないし履帯二
﹁じゃぁオレがもし魔改造Ⅳ号呼び出したら思考操作だな
にセットしている。
﹁只の道だよ⋮⋮敵居ない﹂
﹁そうか、残念だったな﹂
﹁いや、道が見つかったんなら残念じゃないでしょう
的にしてるんですか﹂
何殺すこと目
自動化された旋回装置を稼働させながら、榴弾を半自動装填装置の中
る。こいつら学習能力ないらしい。下では既にせっせとツヴァイが
を見渡す。一応砲塔の旋回には意味があり、﹃見敵必殺﹄のためであ
少しだけ体をひねりながら、砲塔の旋回に合わせてゆっくりと周囲
﹁了解︽やぼーる︾﹂
﹁砲塔右旋回よろ∼﹂
には突撃銃、手には双眼鏡だ。右手を銃にかけ、左手で覗き込む。
いことを確認して再び砲塔上部のハッチより上半身を乗り出す。肩
キューポラを覗き、内側よりハッチを開ける。そして周囲に何もな
﹁ほ∼いほーい﹂
﹁アインス、外確認をお願いします﹂
ソーの様に前に傾き一気に水平になる王虎。
と、そうこうしているうちに坂を上り終えたのか、ガタンとシー
ゴツゴツと色々な場所をぶつけそうである。
ツヴァイが容易く想像できた。確実に周囲の搭乗員の邪魔になるし、
付けて、Ⅳ号戦車を動かしながら同時に手足身体をバタバタと動かす
フィーアの脳中では、頭の上にヘッドマウントみたいなものを取り
本しかないのにそれはそれで逆に操作難しそうやけどなぁ﹂
﹁出来るのならやってみぃ
!
?
傷である。物騒すぎるとしか言えない。
少し戻って、坂道で何かが通るの待ちますか
﹂
確かに感覚はそれと相違あまりないかもしれないが、やることは殺
れやなぁ﹂
﹁ゴブリンかオーガかなぁ、まぁ玩具与えられた子供が使いたがるそ
?
23
?
﹁しかし、まぁ石畳の道や、案外町ちかいんかもな﹂
﹁どうしますか
?
ドライ的には馬車か何かがとったら、その馬車が向かってきた方向
を目指して進めばいいと考えていた。今昇った坂道もそこまで長い
﹂
訳ではないので、人を坂道と街道らしき場所の境目に置いて、王虎は
先ほどの広場で待機させた方が良いと思っている。
﹂
活動資金だ
﹁つまりあれか、通りがかりの馬車を検閲するんだな
﹁そのままこの世界の金銭徴収して奪うんだね
まともに行動しようと思わないのですか
﹂
!? !
?
いた。
﹁ワイとしてはそのまま道進んだほうが早いと思うんやけど﹂
?
の違いやろ
﹂
﹁結局必要になるからなぁ、ケーニやんは。後々考えるか今考えるか
ること確実だ。ドライもそうなればそれに従って行動するだろう。
この集団、特にアインスとツヴァイにかかれば奪われる前に殺せとな
も し こ れ が 兵 器 だ と 周 囲 に 分 か れ ば ど う い っ た こ と に な る の か。
い。
界であれば、馬が居ない鉄の塊は魔獣や何かと思われても仕方がな
んなものなのか説明できるのは必須だ。もし馬引き馬車が主体の世
此処がどんな世界だとしても、王虎は異様な存在である。これがど
﹁はぁ、それでは人か何かと鉢合わせした時の対処が必要ですよ
﹂
ぎるので信用はされていない。ちなみに肯定されていたら実行して
実はツヴァイもアインスも半ば冗談で言ったのだが、前科があり過
﹁見つからなければ問題ないやな、馬車は入念に燃やせばいいんや﹂
﹁賊かてめぇらは
!
﹁﹁で、何の話
ようかな
﹂﹂
とかだけだ。
ていたとしても5分後何しよう程度だろう。もしくは晩御飯何食べ
勢いだけで生きている連中である。先は大して考えていない。考え
ここまで聞いて話を全く理解していないアホの子二人、基本ノリと
?
んといかんなという話や、アインスはんとツヴァイはんは覚えんでも
24
!
﹁それもそうですね﹂
?
﹁ケーニやんは魔獣じゃなくて、魔道具かゴーレム的な機械や説明せ
?
ええよ、説明はワイとドライがするさかい﹂
▽▲
結局あの後話し合い、アインスとフィーアが坂道の上で待機する事
となった。当初は、アインスとツヴァイの二名が行くと言いだして話
を聞こうとしなかったのだが、彼女たち二人に任せれば大暴走しそ
う、いや、むしろすること確実なので、なんとかツヴァイをフィーア
が説得したのであった。その際、ドライではアインスを止められない
ので、何かと相性のいいフィーアが彼女と相方を組むこととなった。
その間、ドライは王虎の中でいつでも動き出せるように待機。ツ
ヴァイはどうにかしてドイツ兵の力強い味方、無敵のⅣ号先生を呼び
出そうと奇声を上げ続けている。
﹁人影一つ、こんなぁ⋮⋮﹂
﹂
ば、爆睡するアインス。ご機嫌そうに静かに涎を垂らしながら寝る姿
は、ほんとにこいつは中身19歳の大学生なのか疑わしくなる。中の
人は友達が居ないらしいが、これだけぶっ飛んだ天然であるならば納
得である。男で容姿フツメンで天然な彼に友達が出来ることは今後
もなかったであろう。
﹁⋮⋮まぁいいわ、アインスはんやし、期待はしとらんかったんや﹂
と言いつつもフィーアは自分だけで見張ると分かり、少し寂しそう
だ。まぁ、今のアインスの姿はすさまじく整った幼女なので、ある程
・
・
・
・
度天然でも許されるのかもしれない。フィーアの中の人が39歳ほ
どの大阪京都出身ではないおっとりとしたタイプの関西人なのも関
係しているかもしれないが。
25
﹁⋮⋮﹂
し か し 相 方 よ り 返 事 は な い。今 二 人 は 坂 道 の 終 わ り の 道 の 端 で
シートをひき、体の上にギリスーツを被せ、その上に木の枝を置いて
どないしたんや
更に銃をすぐさま撃てる状態で構えうつ伏せに寝そべっている。
﹁⋮⋮アインスはん
?
返事がないことに不思議に思ったフィーアが首だけを少し向けれ
?
▽▲
﹁何してんだ
﹂
ひとしきり叫んだツヴァイの目線の先にはいつの間に降りたのか、
先ほどのかまどを使ってお湯を再び沸かすドライがいる。
﹂
﹁いえ、久しぶりのドリップコーヒーが美味しかったので、水筒に移し
て車内で飲もうかと思いまして﹂
﹁ふ∼ん、そっか⋮⋮なぁ、突撃銃の試射してもいいか
そしてツヴァイが少し、おおよそ200m程離れた場所で銃を構え
同様痛みで行動不能となるだろう。
ことを鑑みれば、ほとんどの敵は突撃銃の弾一発当たるだけで、人間
だが、普通の重機関銃が非常に強そうなオーガキングにも大層効いた
て出来上がった道へと向かう。正直に言えば危機感があまりないの
と、散歩に行く気軽さでツヴァイは、先ほど王虎が木々をなぎ倒し
﹁あいあい、じゃ行ってくるな﹂
確認は心の安定を保つためにも必要だ。
化するスキルを持っているのだが、兵器を呼び出せない今スキル発動
ある。彼女たちは例外なく集弾性を上昇させるスキルや反動を無効
これはキャラが持つ常時発動型のスキルが使えるのかの確認でも
ていれば突撃銃は扱えるだろうが。
のだ。まぁ、弾倉の交換と引き金の引き方、ロックの外し方が分かっ
この際音が響くことは仕方がない、武器の扱いの熟知は必須事項な
かって撃ってください、目標への命中率も忘れずに確認を﹂
と は 必 要 だ と 思 い ま す、構 い ま せ ん よ。た だ、少 し 離 れ た 場 所 に 向
﹁アインスを見る限り問題はなさそうですが、扱い方を知っておくこ
ヒーを淹れ終えてしまいたいのだ。
火力ではそこまで持続しないだろうから、さっさとお湯を沸かしコー
適当に集めて着火剤をぶちまけて起こしている。炭等と違ってこの
湯から離さない。ちなみに火はそこらに落ちている乾燥した木々を
ドライはそれに﹁話の脈絡がありませんね﹂と呟きながら目線はお
?
る。ツヴァイの持つ銃スキルは9mm以下の銃無反動、9mm以下の
26
?
弾倉補充、集弾率40%上昇である。突撃銃の為でなく、戦車戦闘車
の機関銃様に取ったスキルであるが、突撃銃も弾の長さや形状は異な
るが同じ7.92mm弾なのでスキル範囲内となる。
ゲーム内スキルでそこまで差別化する必要がなかったから、直径9
mm以下となったのだが、もしこのスキルが使えるなら、近接でも二
人そろえば弾幕を張り続けられる。
﹂
﹁ロック外して、弾倉確認、問題ねぇな⋮⋮うし、やっぱかっけぇなM
P44
と、ストックを方に当て、サイトを覗く。といっても凹の部分を目
標と合わせるだけである。そして発砲。カッカッカと撃ちだされる
まぁいい
それは、狙った場所にほぼ狂いなく飛んでゆく。的の代わりとした大
きな木の枝はすぐさまへし折れその身を地面へと落とす。
﹂
﹁思ったよりうるさくないんだな、こいつはスキル関係か
や⋮⋮ん
?
﹁なんじゃあれ
⋮⋮て、ゴブリンじゃねぇか﹂
視界の片隅に何か動くものが見える。
ふと、銃口を下ろして顔も下にして銃を眺めて悦に入っていると、
?
離を詰めツヴァイへ。それぞれ石斧、石剣のようなものを振りかぶり
ち、尻もちをつきながら転ぶ。それを好機と見たゴブリンは一斉に距
ちょっと下がるだけで、アインスは足場になっていた倒木から滑り落
している。だが、此処はなぎ倒された木々の上、つまり足場が悪い。
明らかに及び腰である。更に付け足せば、すり足で少しずつ後退を
きるぞーくるなよー﹂
乗りしないけどさ、かかってくるならぶち殺す。その覚悟ぐらいはで
﹁さて、近づいたら撃つぞー、オレはアインスと違って、まだあんま気
見えない。それが4匹現れた。
のである。ギコギコ鳴いているその生き物はどう見ても賢そうには
ゴ ブ リ ン
出てきた奴らの見た目は様々な物語に出てくるゴブリン、小鬼そのも
生き物。ツヴァイ自体は、あの時こいつの死骸を見ていなかったが、
ゴ ブ リ ン
ツヴァイヨリモさらに頭一個分低い体の緑色の腰巻だけを巻いた
明らかに何か武器を以てこちらを見つめる小人サイズ、幼女である
?
27
!
﹂
走ってくる。しかし奴らの足は遅い。
﹁クッソ
だがそれでも軽くパニクってしまったツヴァイには関係なく、大き
な脅威に見える。すぐさま突撃銃を構え、ゴブリンに銃口を向け発
砲。速射といは行かなくとも連続して撃ちだされるそれにより一匹
のゴブリンは絶命。しかし、先ほど撃って弾倉を変えていなかったの
﹂
で、弾切れを起こす。
﹁こんなときにっ
﹁ギッィギィ
﹂
すぐさま彼らに背中を向けて反転。王虎の方向へと走り出す。
たのか、足を止めて威嚇を始める。その隙にツヴァイは立ち上がると
ゴブリンも何が起こって近くの仲間が死んだのか理解できなかっ
!!
なんか増えてるし
!?
のような扱いを受ける魔獣である。
﹁ちょっうぅぅ
﹂
は雑食で、異世界側の人間からは畑や木の実果物を食い荒らすイナゴ
が脅威な生き物である。一匹いたら数百匹は近くにいるのだ。食料
始める。ロリッターの面々は知らなかったが、ゴブリンはその数のみ
影からも大量のゴブリンが何処からともなく出現し、そのあとを追い
それを見てゴブリン達も奇声を上げ、すぐさま走り出す。すると森
!
﹂
!!
しまった、そのため仲間を読んで捕獲しようとされているのだ。捕ま
つまりツヴァイは、ゴブリンたちに自分たちよりも弱いと見られて
に森の中へ消えていっただろう。
向かっていったなら、ゴブリンは奇声を上げて蜘蛛の子を散らすよう
自動駆除されていたが、ツヴァイがもし大声を上げてゴブリンたちに
王虎の場合人型ではなかった為にゴブリンの習性に引っかからず。
れをなしてすぐに逃げ出す程に臆病なのだ。
しい。実はゴブリンは勢いよく声を上げて向かってくる人間には恐
ゴブリン相手にここまで体裁関係なく逃げる奴というのも実は珍
﹁ぎゃぁぁぁぁぁマジ勘弁
ジャ湧いてきたゴブリンは気持ちが悪いモノがあるのだ。
ツ ヴ ァ イ は 頭 だ け を 少 し 振 り 返 っ て 後 悔 す る。な ん か ウ ジ ャ ウ
!?
28
!
ればお察しである。
何とか走りきり王虎をよじ登る。意図せずスキルが作動、手には弾
倉が現れる。無意識のうちに突撃銃から空になったモノを取り外す
と装着。ゆっくりとこちらへと向かってくるゴブリンの集団へ半泣
いやマジで死んでくださいぃぃぃぃ﹂
きになりながら乱射する。
﹁死ねぇぇぇぇ
騒々しい
﹁えぇい
今度は何ですか
﹂
なんかいっぱい出て来た
﹂
!!
!
・
・
・
尽くすゴブリンの群れ。
﹁どっから連れて来たぁぁぁ
返してきなさい
﹂
!!
いとドライも焦る。
﹁どうしろってんだよ
と無線。
﹃ふぁつ
﹂
アインスはん、⋮⋮あぁ無線かぁ﹄
﹂
・
って今はそんなことはどうでもいいで
?
乗車準備、大量のゴブが湧きました
﹂
!
﹁寝起きか、アインスてめぇ
﹄﹄
す、今すぐ擬態解除
﹃﹃はい
﹁イイから逃げる準備
﹄﹄
!
﹁何やらかしたんですか
﹂
体に轢かれるモノが多数出る。
すぐに周囲を取り囲むが、そのまま以前の様に履帯に踏まれるか、車
でするうちに流石にゴブリンも彼女たちの元へと辿りつく。そして
そのまま坂道へとアクセルとレバーを倒し込み走り出す。そこま
﹃﹃はぃぃ
!
!?
﹄﹃どないしたん
させると車内へと引き摺りこむ。即座にエンジンをかけ、アインスへ
ここで、ようやく正気を取り戻し、ドライはツヴァイの銃撃をやめ
!
どだい無理な話である。やはりそれでも、流石にこの数はありえな
!
ある。流石にドライもただ事ではないとそちらを見れば、地面を埋め
・
そこには既にマジビビりして泣きながら、銃を乱射するツヴァイで
!
!
で、近くで乱射すればドライも気づく。ハッチを開け上半身を出す。
すでに懇願、ゴブリンの返事はだが断る一択だろう。これだけ叫ん
!?
ヘルプ
﹁ヘルプ
!
!
?
29
!
!?
?
﹂
﹁知らねぇよ、普通に木の枝撃ってたら湧いたんだからな、オレだって
ビビッ、いや、驚いたぜ
・
・
・
・
うち寝てないよ
ほんとだから、ねっフィーア
﹂
!?
で﹂
﹁ドライ聞いて
﹂
!
まさかこうなるとは思うとらんかったんや﹂
せられたことへの復讐だろうか、﹁ふははははは
ゴブリン如きがオ
時折交代してツヴァイもゴブリンへ銃撃を行うのは先ほど恐怖さ
く破砕音には目を瞑っている。
るのは流石にいけないと思っているので、大量の銃撃音と弾が石を砕
くるゴブリンたちを蜂の巣にしていく。ドライもあいつらを放置す
アインスはすぐにハッチの機関銃に付くと後ろを向き必死に走って
を行く。速度を上げれば確実に石畳を砕きながら進んでしまう故だ。
王虎はアクセルを全く踏み込まない自足3km/h程で石畳の道
▽▲
﹁う、うむ、堪忍してな
﹁﹁その話、後で詳しく﹂﹂
﹁あぁ、これワイらのあと着けてきとったんやなぁ∼﹂
ピードで向かってくるゴブリンの大群であった。
へと滑り込む。すぐ後ろには全力で、なおかつそこまで早く無いス
込むように乗せる。フィーアはその間に砲塔前部のハッチより車内
またもや下で今はどうでもよい言い訳を行うアインスを引きずり
﹁いいから乗れっつてんでしょ
﹁う∼ん、そやな∼寝てない寝てない﹂
!
﹁急げよマジで、ちょめちょめ的展開になるぞ、主にR18Gの方向
﹁乗ってください﹂
て無意味に尊くはなさそうな命が失われた。
・
たちを引き離す。その間に轢き殺したゴブリン30匹以上。こうし
巡航速度より早めの25km/h程で走り出した王虎はゴブリン
ませんから﹂
﹁ビビったんですね﹂
﹁ビビってない﹂
﹁驚いたでもあんまり変わりあり
?
?
!
30
!
レ様に逆らおうとするからだ
﹂
ビっていたのか理解できよう。
﹂
殲滅完了だぜ
﹁良し終わった
﹁おぅ
﹂と叫ぶのが、ツヴァイが如何にビ
!
﹂
異世界人も喜ぶよ、きっと
﹁いい仕事したぜ﹂
﹁それ
にDぐらい行ってるよね
なのである。
﹂
見た目可愛
れの対処の為以外の野良ゴブリンをかまっている暇はないという事
備が整ったゴブリンだけは即座に殲滅を命じている。逆に言えばそ
常に有能な捨て駒となるのだ。そのため人類は魔人の軍勢にいる装
を整え突撃させる等の作戦では、死を恐れるほどの知能がないので非
ゴブリンが人を殺せる程度に武器を振るえるという事は、武装装備
族の集合体は、永きの間ずっと敵対状態にある。
はある。彼女たちは未だ知らぬことだが、魔人と人と呼ばれる人型種
ゴブリンは知能は低く、足こそ遅いが、腕力は子供より少し強い程度
しかし例外もある。ゴブリンを統率する魔人系の王が居た場合だ。
物を狩ってどうするというのだろうか。
時折畑を荒らされる程度なのだから、いくら殺してもキリがない生き
は大して脅威でない生き物だから、ほぼ無視するものである。何せ、
くない。人間にとってはゴブリンを率いる親玉が存在しないとき時
正直どうでもいい。実際には彼女たちは有害認定されても可笑し
﹁ランクはGスタートだろ、もちろん
!
?
?
ギルドランクとかあったら一気
は異世界モノの一部お約束、死骸は片づけるをガン無視であった。
り、他の肉食獣を呼び寄せても可笑しくないほどなのだが、彼女たち
れ出して死んだものを放置すれば、むしろ何かしらの病気が蔓延した
通った時には非常に驚くこと間違いない。これほど内蔵や糞尿が漏
後ろにはゴブリンたちの死骸が点々と転がり、もしこの後、人が
最後の一匹が体をはねさせながら絶命する。
!
!
﹁でもさ、ギルドとかあるなら、うち等なめられないかな
いし﹂
?
31
!
!
冴えてる
﹂
﹁戦車で突っ込んだらいいだろう
﹁流石ツヴァイ
誰もなめないぜ、そしたら﹂
﹂
?
うってんだな
﹂
﹁マジで弱いの
﹂
﹁マジで強いに決まってんだろ
二秒で終了させられる自信あるし ﹂﹁じゃぁ、ドイツ兵器縛りね。
?
﹁ちょ、おま、やる気かよ。オレがしりとりマジヤバなの知って喧嘩
﹁ツヴァーイ、一緒に砲塔乗ってしりとりしよー﹂
ていない状況で、仕出かすわけにはいかないのだ。
いのか。まぁ、何とかなるかもしれないが、こちらの通貨を一切持っ
ら進んでいれば現行犯である。街の目の前でなんと言い訳すればい
壊すわけにはいかない。街に向かっているのに、石畳を破壊しなが
﹁石畳壊れますよ﹂
﹁速度上げよぉ、今のままじゃ全く進まないよ
の誰が両手を広げても、変わらぬそれと同じ幅があるのだから。
さが明らかに可笑しい。王虎のすぐ上近くを飛んだそれは彼女たち
ちの死骸が転がる方角へ向かうのが見える。カラスみたいだが、大き
は見えなくなった。しかし、何か良く分からない鳥たちがゴブリンた
人が歩く程度の速さで進み続ける王虎。ようやく死屍累々のそれ
▽▲
た。
彼女︽かれ︾らにとっては、未だ何一つも分からない異世界であっ
﹁そもそも中世みたいな世界観なんかなぁ⋮⋮﹂
﹁馬鹿ですか、お前らは﹂
そんなことしたらどう考えても事案事件ものである。
!
?
?
﹁パス﹂﹁ガとか思いつかないし
﹂﹁じゃあオレの勝ちだな﹂
じゃあ、うちから、ティーガ。ガね﹂
?
腐すぎて白けた感じで馬鹿な二人のやり取りを聞いていた。
強い訳がない。なんかほんとに二秒で終わったが、ドライは内容が陳
し、しりとりを始める。が、初っ端からパスなんぞ使う奴がしりとり
二人は砲塔の上に昇ると腰かけて、左右に宙ぶらりんに足を垂ら
!?
32
!
?
﹁どうでもいいけど見張りはして下さいね﹂
﹂
勿論こんな呟きなぞ二人は聞いていない。
﹁﹁やー﹂﹂
﹁もう何も言うまい﹂
﹁いうたら疲れるだけやでぇ
▽▲
﹂
これ少し逆におかしいんとちゃうか
?
く道なのは分かります﹂
?
﹂﹁なにぃ
何処だ
空襲か
爆撃か
?
﹂
!?
睡する二人を叩き起こす。
﹁てきしゅーう
!
その言葉通り、砲塔の上で足を垂らしたまま危機感もなく仲良く爆
えさかい﹂
わん、二人になんかあったら困るし、悲しいしなぁ。前進止めてもえ
はんに中で寝るようにゆぅてぇな。お約束の盗賊でもおったらかな
ノはないんやけどなぁ、それでもやっぱり、アインスはんとツヴァイ
﹁ワイも見えとる景色大差ないで
まぁ、今んところ前から危険なモ
が、あの二人が爆睡するほどに何もない、代わり映えのない景色が続
﹁そ う で す ね ⋮⋮ 私 は あ ま り 外 が 見 え な い の で 何 と も 言 い 難 い で す
な
﹁ドライはんはどう思いなはる
るほどに雑草が少ない。人が通らぬ道は荒れるのが普通だ。
にしてはやはり綺麗すぎる。どう考えても廃道の類ではないと分か
フィーアは一瞬この道路が放棄道路なのではないかと考えたが、それ
れ ほ ど 整 備 さ れ た 石 畳 の 道 で 人 が 通 ら な い と い う の も 可 笑 し い。
そしてゆっくり和やかに進むが、結局人っ子一人見当たらない。こ
?
!?
近いが、この王虎はショベルカーに近い。そんな違いはあっても、内
操縦系統はどちらかといえばマニュアルトランスミッションの車に
かれており、人が座るスペースしか存在しないからだ。王虎の本来の
女であっても王虎の中では非常に寝辛い。砲弾が隙間に一杯一杯置
へ内部に戻って寝るように告げる。とはいってもスペース的には幼
起きたはいいが騒がしい。一発ずつ頭をはたき正気に戻すと二人
!?
33
?
部全体が変わる訳ではないのだ。
この戦車﹂
駆動系もエンジン負荷も大
﹁死にたくないなら油くさい車内で寝なさい。本来よりも相当静かで
すよ
色々と乗せ換えているからだろうか
きくなく普通の重機の駆動音程度に抑えられている。ゲーム内では
被発見性の低下の為に駆動音減少や静音エンジン、故障性低下の改造
は普通であった、もちろん課金であるが。内容が内容なゲームなので
ある程度自由に課金できる人間が多い。ついでに言えばそう言った
改良はそこまで高くないので行う人間が多かったのである。
﹁あー、なんか前が騒がしいなぁ⋮⋮﹂
再び動き出した王虎の前には何か動くモノ、人と比べれば少し大き
めな物体が見える。
﹁見てみるね﹂
していた。そのままカタカタと振動と共に揺られて座ってい
やはり中に入ったことで、結局眠気が覚めたのかアインスは普通に
起床
たのだが、気になる話に反応してすぐさま双眼鏡を手にハッチの外へ
と体を露出させる。本来ならばここでキューポラを覗いて周囲を確
認し、更にゆっくり開けるのが正式なのだが、一応一般人︵中身アホ︶
にそんな警戒心を持てというのは酷な話なのだろう。
﹁おぉー馬車だね﹂
ルー フ
アイテム名、倍率の変更ができる高価な双眼鏡︵ドイツ版︶の中を
覗いて見えたのは、御者二人馬六頭引きの馬車である。天井部分には
二つの弩が積まれ、攻撃も行えるタイプの大型馬車だ。こういった防
衛機構が付いた馬車は基本、位が高い狙われやすい、つまり恨みを買
いやすいモノが良く使うのだ。
﹁馬車ですか﹂
﹁馬車か普通だな﹂
﹂
﹂
ちゃんと馬がひいとるん
馬車って馬が引かなくても馬車なの
﹁馬車なぁ⋮⋮ん
﹁え
?
できないフィーア。そもそもここがどんな世界かも分かっていない
アインスの疑問は尤もであるが、アインス︽こいつ︾が言うと納得
?
?
34
?
?
?
?
のだから、へんてこな生き物が馬車、まぁ、車を引いているかもしれ
﹂
﹂
ないのだ。竜車とかあるかもしれない。
﹁まぁ、馬居るんやし、人は見えるん
﹁人いない馬車ってどうやって操るんだ
﹁忙しいので馬鹿は黙っていて下さい﹂
いな奴もいるー、後ろにオーガ
だっけあいつの色違いもいるね﹂
﹁居るよ、なんか必死だし、上のクロスボウで後ろ向いてる騎士みた
ツヴァイもアインスも扱いが御座なりである。
?
?
﹁榴弾装填
﹂
お礼は金貨でいいですよコースである。
し目標から車体を斜めにして跳弾を図る防御射撃の体勢をとる。
即座に林に突っ込んで、その場で履帯を左右逆回転させ、旋回。少
﹁﹁了解﹂﹂
やぼーる
﹁砲撃準備やー、車体は10度ほど傾けて砲塔を標的に合わせるでー﹂
﹁馬車が来たときぶつからない様に、林に突っ込みます﹂
助けて正義の味方
フラグがビンビンである。これは異世界モノのお約束展開。救って
さらっと重要なことを普通に話すアインス。どう考えても現状は
?
・
・
・
・
・
・
・
・
・
最初は砲角合わせで目標から離れて撃つぞ
にもスキル砲撃補助である程度なんとなく理解できる。
﹁装填よし
﹁待って、うちが機関銃で予備射撃するね﹂
様子はない。
﹁少し上だな、左に向けるぞ﹂
ふぁ
い
え
﹂
る
﹂
漏れ出すが、すぐさまご都合主義に自動制御される排煙装置によって
ベンチレーター
掛け声と同時に88砲弾が撃ちだされる。砲塔内部に発射ガスが
﹁初段撃て
踏み位置をずらす。レンジを合わせ、府仰角を上に向ける。
しだけの砲塔旋回なので、ツヴァイは低速右旋回のペダルを少しだけ
着弾を確認し、幾つかの三角が見えるドイツ照準器を再び確認。少
レティクル
弾は馬車の横をする抜け、後ろの地面を少し削るが、オーガに当たる
すぐさま主砲塔同軸機関銃を数発目標付近へとばら撒く。機関銃
!
35
!
アインスが叫び、半自動装填装置に砲弾を送り込む。撃ち方は幸い
!
!
!
排出される。
﹁⋮⋮外れた
次弾装填﹂
一発目は確認、大きくそれた砲弾は林の中に消え、木々をなぎ倒す。
それに驚いた馬が速度を更に上げ、暴走するのもツヴァイからは見え
﹂
﹂
うち聞いたことあるんだけど、撃ったと砲身って熱垂れす
る。更に砲を少しだけ旋回させる。
﹁待って
るらしい﹂
﹁だから何だ
﹁少し上に調整せんとまた外れるんや、2mmほどあげてみ
﹁無理だ、目標が小さすぎる
﹂
放物線距離的にも少々目標を飛び越えてしまう。
ので、計算式に当てはめると距離2140mもある、このまま撃てば
7シュトリヒ程、馬車の人間の大きさから予測できる幅は1.5mな
は数センチ程上昇する。先ほど確認した距離は三角の大きさより0.
ハンドルを回し上に向ける。すると根元は2mm動き、砲身の先端で
再び低速右旋回のペダルを少しだけ踏み、砲身を道沿いにずらし、
?
﹂
﹂
そんなことしても
砲身を色々と動かしたら早く冷えるかも
能性も大いにあるから下手には出来ない。
﹂
﹁少し冷やそ
﹁それだ
またずれるだけですよ
!
!!
ツヴァイ復唱
﹂
!
﹁ちょ、馬鹿
了解アインス
やぼーる
﹁大丈夫復唱して大きくずらさない様にするから
ちに続いて﹂
﹁オレ達にかかれば百発百中だぜ
う
も、ある程度近くでないと意味はない。外れすぎると馬車に当たる可
オーガは大きくても2mほど。幅は更に狭い。対人榴弾だとして
!
!
!
!
!
トしないのだ、しないといったらしないのだ。
﹂﹁上下上下
﹂﹁上下上下
﹂﹁上下上下
﹂﹁上下上下
!
旋回ペダルと府仰角調整ハンドルを決められた角度、踏み込みで動
﹂﹁上上下下
﹁上上下下
﹂﹁右左左右
!
﹂
﹁右左右左
﹂
のだろう。仕方がない、初弾は様子見って決まっているから。カウン
おそらく普通に一番初めに外したことはカウントしてはいけない
!
!!
!
!
!
!
!
36
!
!
!
!
!
かす。多分風に多く当てることで、早く冷やして熱垂れなんてなかっ
﹂﹁了解
︽やぼーる︾﹂
た事にしようとしているのだ。出来るかどうかで言えばおそらくで
出来ない。無意味な努力である。
﹂
﹁上
﹂
﹁下
﹁よし冷えた、撃て︽ふぁいえる︾
﹁ダメだ
外した
﹂
!!
は何だったのか。
﹁当たりまえじゃボケ
貴様らは馬鹿ですか
﹂
!!
﹁何で上の次が下を叫ぶんじゃ
外れるに決まってるでしょ
﹂
り取りをそのまま聞いていた。勿論外れた理由も普通に分かる。
ドライは王虎を動かしていないので、少し余裕があったので今のや
!
い。アインスもツヴァイも全身に冷や汗をかいている。百発百中と
の所に着弾する。しかし、ツヴァイは一つ重要なことを言っていな
当然のごとく大きく違うところに飛翔していった砲弾は見当違い
!
拠に冷えたと判断したのだろうか。
何を思ったのか、明らかに最後は復唱していない。まず第一に何を根
ぶっちゃけ色々とツッコミ所はある、むしろツッコミ所しかない。
!
!
!
﹁⋮⋮言いにくいんやけどなぁ﹂
とを告げるためである。
人のアホの子救うためではない。二人が伝えていない一番重要なこ
少し元気のない声でここにきてフィーアが横槍を入れる。当然、二
﹁何がですか﹂
﹁どうでもいいんやけどなぁ、一応当たっとるでぇ⋮⋮﹂
﹁しばくぞ、てめぇら⋮⋮﹂
ドライは騙されやしない。
しようとするが、そんなことでは流石に今のミスの話は流れないし、
彼女たち︽かれら︾なりに褒めることによって持ち上げて、ヨイショ
る﹂
﹁盲点だったぜ、流石だなドライ、ロリッタ│の軍師を名乗るだけはあ
﹁流石は﹃ロリッター﹄随一の切れ者ドライ、うちは気づかなかった﹂
!
37
!
!
オーガモドキにではなく何
﹁何ですか、もったいぶらずに現状把握も必要ですので、早く言ってく
ださい﹂
﹁⋮⋮当たっとるで、馬車に﹂
ドライの世界が止まった。
当たった
今彼女は何を言ったのだ
?
そんな馬鹿な、この状況で馬車に当てる
馬車
?
でも、なんでこんな時に、いやフィーアはそんな性格じゃ無い
﹂﹂
?
﹂
とドライは考
?
り
少しでもいい話に持って行こうとするが、どう考えても不可能であ
む
﹁あぁ、戦士の掟だ、何時だって死者への敬意は忘れちゃならねぇぜ﹂
﹁火葬するんだね、死んでしまえば敵もノーサイドってやつだね﹂
﹁燃やしましょう、金品は奪った後で﹂
﹁燃やそっか
え込む。もちろん該当するものはない。
だ発見されただけで撃破された馬車はいただろうか
る。異世界モノで今まで奴隷商云々や盗賊馬車云々の確認もなく、た
誤射とはいえ、キーパーソンが乗っていそうな馬車に開幕砲撃であ
﹁むしろ笑うしかないんとちゃうかなぁ⋮⋮﹂
﹁﹁笑えばいいと思うよ
﹁⋮⋮私はこういう時どういった顔をしていいのか分かりません﹂
ラバラになった馬車。
えていなかったオーガの数匹を撃破しているのも丸わかりな程にバ
い思いに暴走している。貫通した砲弾がこちらからは馬車の陰で見
ら馬は大丈夫だったのか、六匹が連なって連結されたままその場で思
なった馬車。これでは中の人物の生命は絶望的である。しかしなが
目 標 を 視 野 に 入 れ る。そ こ に は 横 転 し て 砲 弾 が 貫 通 し バ ラ バ ラ に
すぐさま、ドライは運転席上のハッチを開け双眼鏡をのぞき込んで
この間約3秒、驚異の高速思考である。
状況で冗談なんて言わないはず。そうだと良いなぁ⋮⋮
はず。いやフィーアの性格なんで詳しくは知らないけど、流石にこの
冗談
なんてありえない。むしろありえてはいけない。まさか、この状況で
に当たったと言った
?
?
38
?
?
る。更にドライは開き直って強奪宣言もしている。ばれなければ犯
罪も罪に問われることはないのだ。幸い、オーガの大群が居たので言
い訳は出来るだろう、そう考えてのことで判断なのだ。
﹁始末し終えたら話をしましょう、じっくりと﹂
﹂
底冷えする声でマジ切れするドライの声が足元から聞こえ、思わず
両足を上げる二人。
﹁うちらアーリア人だから
﹁そ、そうだ、優等民族を見せつけるために劣等民族ぉ⋮⋮﹂
最後まで言うことなく、明らかな怒気を感じ取り二人は下を覗きこ
む。そこには運転席に座り、腕を組み右手で左手を軽くぱんぱんと叩
くドライの姿。これ以上何かを言えば、と身の危険を感じる二人。
﹁﹁大変申し訳ございませんでした﹂﹂
流石に心の底から謝る。二人も悪いことをしたと理解しているの
だ。なんか適当に殺された方はたまったものではないが、これが彼ら
の運命だったのだろう。むしろ、どうせあのまま行けばオーガに殺さ
れたいたのである。楽に死ねてよかった、介錯してやったのだと思う
ことにする。
﹁とりあえず、前に進みます。話はそのあとで﹂
▽▲
前進しながら車体機関銃と砲塔機関銃、ハッチ横の機関銃の全てか
ら弾をばら撒き、生き残りのオーガを掃討する。馬は六匹を繋いで
あった連結部を狙撃し、そのまま放置。馬はこれで逃げだすだろう
が、ここで回収したとしても操れるものが居ないのだから勿体なくと
も仕方がない。
ちなみに、ドライはこの時点で生き残りが居れば、状況聞き取り後
にこちらに不利なことを覚えていれば即射殺も考慮している。
﹁オレ達はどうなっちまうんだろうな﹂
ふと、場所のすぐ手前で立ち止まったツヴァイが少し下を俯きなが
ら眺め呟く。
39
!
﹁人を殺してしまったてぇのに、オレ達は危機感
いや、忌避感
だっ
?
﹂﹂﹁今、うちらめっちゃシリアスしてたじゃん
すのが面倒そうなので、選択肢にはない。
﹁﹁⋮⋮なんでっ
﹁おま、これ無視するとか、人間かよ﹂
!
騎士の胴を持ち上げ、馬車の中より引きずり出す。下半身より下の
﹁とりあえず、生き残り探そっかぁ⋮⋮﹂
るのだが、それの確立を下げるスキルである。
混乱という配下NPCの能力が低下するバッドステータスが存在す
は損害数が一定以上になると、確率で指揮官の混乱による指揮系統の
パニックを無効化するスキルが四人全員に働いている。ゲーム内で
りである。今現在、安直だがスキルの冷静指揮官という、一定以下の
横転した馬車より下半身のもげた騎士の遺体を眺め呟く。その通
に思えますね﹂
﹁⋮⋮やはりというべきか、何らかの精神安定操作が働いているよう
た。
歩きながら立ち止まりも振り向きもせぬままに、一刀両断であっ
﹁寝言は寝て言えや﹂
﹂
だったからだ。その他の場所は崩れて木の板が複雑に絡み合い、ばら
切れているのが見えたので、次に内部がすぐ確認できる場所が此処
弩取り付け場所へと向かう。既に御者は投げ出されて、林の側でこと
業。二人はすぐさま横転した場所の武装、穴が開いた天井︽ルーフ︾の
そして、何事もなかったかのように始まるドライとフィーアの作
切れそうな斧あってよかったわ∼﹂
﹁﹁⋮⋮﹂﹂
﹁さて、馬鹿はほっといて作業に取り掛かりましょう﹂
﹁よく
の軍帽のつばを親指と人差し指でつまむ。
アインスもそれに追従して同じ位置で立ち止まり、俯きながら自ら
ないかと思うよ⋮⋮フッ﹂
﹁うちもだよ、この世界の神様がうちらの心を壊してしまったんじゃ
けそれ一つ抱いちゃいねぇ⋮⋮⋮⋮やべ、オレかっけっ﹂
?
こぼれ出た中身が色々と丸見えだが、すでに出血は止まっている。馬
車の中は血糊でいっぱいであった。
40
!?
﹁うへぇー﹂
﹁⋮⋮海外ドラマでグロに慣れた私に死角はありません﹂
﹂
﹁多分、スキルのおかげやろうなぁ、ちょっとドライはん、これ貸すか
ら中身覗いてみ
げんなりした様子のアインス。そしてなぜか誇らしそうなドライ
に、フィーアは大きめの軍用懐中電灯︵これで殴れば撲殺も可︶を渡
す。明らかにスプラッタな光景が繰り広げられていそうな、車内を見
中で生きてるやついたら武器持って向
たくはないのである。そこで、ドライは自らの発言に後悔した。
﹁でもさ、これ危なくねぇか
かってくるかも﹂
﹂
﹂と引っ手
!
﹂
?
うか
今のところ、安定の﹃こんにちわデストロイ﹄であった。
る。命が惜しければとの警告すらなかったのは、ある意味慈悲であろ
会話の内容だけであっても賊、現状をどこからどう見ても賊であ
しょう﹂
﹁まずはある程度ばらして、その後、金銭などをメインに荷物を漁りま
るしておいた斧を手に取る。
ではない、むしろいない断言。すぐさまドライは顔を出すと、腰に吊
中ではばら撒かれていた。これでは生き残りはいないだろう、だろう
結果覗き込んだ先には、ぐちゃぐちゃになった色々なモノが馬車の
﹁あー、うん、予想通りですかね
繰るように懐中電灯を受け取り、勢いよく顔と腕を突っ込む。
たつばかりであると理解したドライは、
﹁えぇい、ままよ
隣ではまた馬鹿が馬鹿を言っている。このまま放置しても時間が
﹁生き残り探すのに止めさすよなことして、どないするん﹂
﹁突撃銃でとりま、撃っとく
?
?
身体には手斧ですら大きく見えるが、なぜか彼女︽かれ︾らは何の苦
もなくそれを振るうことが出来ている。
こういった防御戦闘を可能とする馬車は、側面は硬く作られている
が、上面は普通の馬車と変わりない。基本は襲撃は二次元戦闘を基本
としているので、上空からの攻撃はあまり考慮する必要性がないから
41
?
各々が手に持った斧で、天井︽ルーフ︾部の破壊を始める。幼女の
?
だ。
そうして30分ほど無言で斧を振るい続け、中身を完全に見えるよ
うにする。気付けば当たりの日は少し落ちほの暗くなってくる。壊
すのにも少々時間がかかり過ぎたことを理解したドライ、フィーアは
・
・
・
・
両名は手を止める。
﹁⋮⋮人が居たということはやはり街が近いのでしょうが、辿り着け
ませんでしたね﹂
﹂
﹁言語もなんも分からんやったけどなぁ⋮⋮、今日はケーニやんの中
で就寝やな。脇にずらして、夕飯の支度しよか
﹂
1セッ
斧を再び腰に下げ、少し手前に止めたままの王虎へと向かう。それ
に気づいたアホの子二人も作業を止める。
﹁あー、アインス、飯だってよ。何が出せんだ
﹁ちょっと待って、⋮⋮豪華戦闘食料A∼Dまでならあるよ
ト200人前﹂
﹁お、課金食料じゃん。って量多いわ﹂
﹁う∼ん⋮⋮あっできた﹂
﹁Aの中から4人分取り出せますか
﹂
に伴って必然的に量が多くなるのだ。
が抑制され、混乱も起きにくい。NPC兵士用のアイテムなためそれ
ある。士気が高ければ、時折発生する兵士の独断行動︵敵前逃亡など︶
元々の課金食料は配下NPC兵士の士気を向上させるアイテムで
?
を差し出す。そこに現れる戦闘食料A。内容は牛豚鳥肉ソーセージ
野菜各種詰め合わせの焼き肉セットである。しかし、焼くためのバー
ベキューコンロがない。仕方なくフライパンを王虎車内より取り出
す。
42
?
?
少しばかり腕を組んで仁王立ちしていたアインスが、ピコンっと手
?
﹁⋮⋮フィーアはまた火を起こす準備を。私はツヴァイと一緒に多め
の枯れ木を集めてきます﹂
﹂
﹁あいー分かったでー﹂
﹁うちはー
﹁箸持って待ってなさい﹂
?
ようやく火を起こし、食事をとる準備ができた頃には既に辺りは暗
闇に包まれていた。ドライはアインスに告げ、小型探照灯を取り出さ
せる。それに布を被せ光量を絞り、出来上がった簡易的な調理場で料
理を開始。
﹁焼けたものから渡すので、先に食べなさい﹂
ドライは次々と肉と野菜を焼き、皿に移していく。フィーアがそれ
を 受 け 取 り 欠 食 児 童 な ア イ ン ス と ツ ヴ ァ イ の 目 の 前 に 持 っ て い く。
二人は勢い良く掻き込み、そして動かなくなる。元の男だった時の勢
いで食べようとして、すぐに腹が膨れたのだ。
﹁これ和牛だ、絶対和牛だ。霜降りすごかったもん﹂
﹁まさか和牛ってこんなにすぐ腹に来るもんだったとは﹂
脂 っ こ い モ ノ は 得 て し て 多 く 食 べ ら れ な い も の だ。結 局 二 人 は
早々にダウン、二人で1.3人前ほどしか食べることなく食を止める
こととなった。ちなみに、和牛じゃない。霜降り豪州牛肉である、口
多くない
﹂
結果としてドライとフィーアの前には成人男性で3人前近い量の
大量の肉の山が築かれていた。
▽▲
結局あの後ドライとフィーアでは片づけることが出来なく、少しお
いて復活した二人も再び肉の片づけに参加した。しかし、まぁ、人の
生ソーセージと生肉を見た後に焼き肉とは、なかなかにファンシーな
感性の持ち主たちである。決して生ソーセージ見て、食べたくなった
﹂
訳ではないことを願おう。
﹁見張りはどうしますか
にとりあえず乗せるドライ。
またオーガや大量のゴブ共が湧かないとも言えない。しかも一瞬
43
が痩せている二人にはその判断はつかなかったが。
﹁これワイら二人で食べるん
?
﹁焼いてしまいました、食べないと勿体ないでしょう﹂
?
発電機もコードもなく点灯する謎探照灯の電源を落とし、王虎の上
?
﹂
だったが、空を飛ぶ化け物ガラスの例もある。気を抜ける場所ではな
いと改めて実感したドライである。
﹁ワイが最初はするわ、その後6時間ほどして交代しよっか
﹂
﹁それでは私が少なくありませんか
ワイはその時少し居眠りさせて
﹁ドライはんは明日も運転あるしな
?
﹂
だからなんか寝れないかなー﹂
ワイはツヴァイはんがオーガにある意味串刺し
されとるとこ見たくないわ﹂
﹁行ったらあかんで
﹁オレも夜の散歩気分な程に冴えてるな﹂
﹁うちな、少し興奮してるみたい
ライは切り替えができる珍しいタイプらしいが。
四人はネトゲーマーなので、本来夜が活動時間である。その点ではド
見張りの時にも寝ている。そのため少し眼が冴えていた。そもそも、
フィーアが尋ねるが、二人は昼間に砲塔の上で寝たり、アインスは
﹁二人は寝ぇへんの
に座ったままである。
えるフィーア。その隣では、アインス、ツヴァイのコンビが同じよう
王虎の側面の前で適当に広げたシートの上で胡坐をかいて銃を抱
﹁おう、お疲れ﹂﹁良い夜をなぁ∼﹂
﹁ではおやすみ﹂﹁はーいおやすみー﹂
となった運転席に枕を設置していく。
きしめるように運ぶ。ハッチを開けると枕を押し込み、自らの指定席
はや何でもありである。六つ程の枕を受け取ると、両手で圧縮して抱
ないのだろう。一応、快眠野営セットに含まれている装備らしい。も
既になぜ呼び出せるアイテムに枕があるのか、疑問に思ってはいけ
﹁はーい﹂
してください。足元背中に敷き詰めて寝るので﹂
﹁分かりました、では少し早めに失礼しますね。アインス、枕大量に出
巻き起こすに違いないからだ。
ない。あの二人に任せれば、確実に寝落ちするか、何かしらの騒動を
既にアインス、ツヴァイが夜寝ず番をするとの発想はこの二人には
もらえたらいいねん﹂
?
?
44
?
?
?
﹁意味深だね﹂﹁意味深だ、オレもひぎぃ展開は御免だぜ﹂
そ の 前 に あ の 巨 体 に 貫 か れ た ら 普 通 に 死 ぬ。苦 笑 い し な が ら、
フ ィ ー ア は 空 を 見 つ め る。空 気 が 澄 ん で る。星 が 見 え る。満 点 の 夜
空だ。少しの間じっと一言も漏らさず空だけをじっと見つめる。
﹂
﹁ワイも寝れんのかもな∼、それに久しぶりに空とか眺めたわ⋮⋮二
人はどうなん
ふと星空を眺めるのをやめ、隣に並んでいた二人を振り向く。そこ
﹂
には仲良く肩を預け合い爆睡するアホ二人の姿であった。
﹁⋮⋮って寝とる
▽▲
﹂﹁ぷげっ
﹁起きろボケ﹂
﹁ぴぎゃあつ
﹂
蹴り起こすことは忘れない。
げ、朝食の為の枯れ木集めを始める。その際にアインスとツヴァイを
そして、気付けば朝である。ドライはそのまま首に突撃銃をぶら下
ていた。
た以上に彼女も疲れていたのだろう、五分と経たずに深い眠りに落ち
そのままドライの寝ていた場所を借り受け、眠りにつく。思ってい
間は何事もなく過ぎ、ドライと交代する時間がやってくる。
近まで時折体をほぐしながら見張りを務めた。彼女が見張っている
眠くない発言の意味を問いたくなったフィーアだが、その後早朝付
!?
醒させるとそのまま歩き出す。慌ててツヴァイもそれに続く。流石
ツヴァイの顔に冷たい濡れタオルを押し付け、強引に拭き意識を覚
経っていないはずですから﹂
ス、フィーアはまだ寝かせてあげてくださいね。そこまでまだ時間が
﹁アインスは朝食の準備を、ツヴァイは私に着いてきなさい。アイン
ところで立ち止まる。
きでもしてやろうかと思ったドライだったが、大人げないなと寸での
あのまま外で毛布を被り爆睡し続けた二人。少しばかり顔に落書
!?
45
?
!?
・
・
・
・
・
・
・
のこの二人も寝ず番を押し付けておいて、ちょっとのお願いを蔑ろに
するという選択肢はない。
﹁食パンとハム、目玉焼きあればいいかな∼﹂
アインスは適当に戦闘食料、既に戦闘という名が付いただけのただ
の食料の中から朝食に最適なモノを取り出す。
幾時かして、二人が戻ってくる。乾燥した枯れ木に火をつけると、
ドライはフライパンにバターを落とし四人分のハムエッグを作り、大
きめの皿に一度とりわけ、余分な脂を拭きとる。トーストを二枚押し
付けながら焼き、ハムエッグをそれにはさみ、気付けば置いてあった
マヨネーズを少しかけまた軽く焼く。
﹁出来ましたよ、フィーアの分を渡すので、先に持って行ってくださ
い﹂
出来上がったホットサンドを、手際よくアルミホイルに開きやすい
様に二重に包み、アインスへと手渡す。
ドライお前天才だな
フライパンの横で待機していた。
﹁おぉぉう、ザ朝食って感じだね
▽▲
人であった。
おいしそっ﹂
れる。すでに開き直って、壊すことに違和感を感じなくなってきた四
れていない部分は、少し爆薬を仕掛け爆破する。そしてまた石畳が割
金目の物をすべて回収し終えた一行。ばらした馬車は燃やして、壊
!
46
﹁熱いので気を付けて﹂
すぐさま同じ手際でもう一つを作り上げると、ツヴァイへとそれを
でもうっま
半熟卵マジ最
手渡す。ツヴァイはそのまま皿に乗って中央で三角に切られたホッ
うまっ
!
満更でもない顔でアインスの分も仕上げる。気づけばアインスは
!
トサンドを目をキラキラさせてかぶりつく。
﹁熱 っ
高ぅ﹂
!
﹁⋮⋮それほどでもないです﹂
!
﹁金貨50枚銀貨200枚銅貨400枚、恐らく大金でしょうね﹂
の確認だ。袋に手を入れて
﹁宝石の類もあったなぁ⋮⋮、換金方法みつけんとな﹂
王虎を運転しながら、手に入れた戦果
﹂
?
﹂﹂﹁あれ
何かこんな感動のセリフ無かったけ
?
がら即死コースである。
﹁﹁⋮⋮ん
﹂
話しかける。下半身がないだけで、人は普通は生きられない。当然な
アインスが下半身が異次元へと旅立った遺体の近くでツヴァイに
﹁⋮⋮そりゃ死んでるからな﹂
﹁見てみなよ、ツヴァイ。まるで死んでるみたいでしょ
中まで調べて、﹁しけてんな﹂と呟いたドライなんて居ないのだ。
体検分という名の死体漁りの為に並べたとは言わない。ポケットの
それでも、遺体は馬車より引きずり出して道の端に順に並べる。遺
うと開き直っているといってもいい。
うという言葉は既にないのだ。むしろ、堕ちるところまで堕ちてやろ
じゃらじゃらとするその行為は正に悪。彼女たちの辞書に死者を弔
?
﹁知らねぇよ、死んでんだから死んでんだろう ﹂
﹁いや、なんか死ん
?
?
﹂﹁そう
合ってるよたぶん﹂
でるのがウソみたいだとかいうやつ﹂
﹁あぁ、何となく分かった。でも
なんか違くね
?
﹂
人を燃やしているとは思い難い気楽さ。強制収容所のドイツ兵で
﹁やめい
﹁燃え上がれ∼燃え上がれ∼燃え上がれ∼ガ﹂
である。
発見した遺体は、十二名、一つに二人突っ込んでキャンプファイヤー
ドラム缶︵空︶を六つを一つずつ並べて四人がかりで何とか設置する。
某猫型なロボット的扱いのアインスがドラム缶︵軽油︶を取り出し、
一つのそれである。
やってることが殺人犯の死体遺棄での証拠隠滅方法の最も確実な
何回も燃やせばある程度灰になるでしょうし﹂
﹁さて、遺体はドラム缶いれ入念に燃やしましょう。軽油ぶっかけて
故思ったのか。非常に疑問しか湧かないその他のまともな二人。
態々体が半分存在しない騎士風の男で感動のセリフを言おうと何
?
47
?
!
﹂
すらもう少しマシだろう。人を大量に燃やせば唇に油がねちっこく
どうしました
付くらしい。
﹁ん
﹁誰かいるのか
出てこい
﹂
揺れているにしては不自然すぎる動き。
の場所を向けば、少しばかり辺りより茂みが深く、尚且つ風によって
ふと、フィーアが林の中を見つめるのが目に入るドライ。同じくそ
?
!
﹁だいじょぶだよ
言語パッチ効いてるから
﹂
!
るモノだ。謳い文句は﹁これで貴方もマルチリンガル ﹂という、正
る諸外国プレイヤーとのやり取りを円滑にするために導入されてい
言語パッチとは、ゲーム内自動翻訳パッチで、ゲームを展開してい
!
﹁⋮⋮もし生き残りでも言葉通じるんかなぁ∼﹂
!
﹁金髪碧眼⋮⋮アーリア人だ
﹂
はロリッタ│の面々よりも拳二つ分15cmほど高い。
えば可愛らしいといった風貌の少女で、女中服を着用しており、身長
メイド
金色の髪と狐耳の少女、ついでに尻尾もついている。どちらかとい
﹁こ、殺さないで下さい。お、お金はワタクシ持っていません﹂
るのが分かる。
い出てくる。どうやら人型であるが、四つん這いで明らかに怯えてい
と、そこまで言ってようやく観念したのか、茂みの中より何かが這
イが驚き担当といっても良いほどだ。
嘘である。結構ずっと驚きっぱなしなのがドライだ。むしろ、ドラ
﹁まぁ、今更何があっても私は驚きません﹂
装される予定すら立たぬだろう。
少なくともゲーム内で実装はされていない。当然ながら今後も実
⋮⋮﹂
﹁す ご い な ぁ、言 語 パ ッ チ。何 時 の 間 に 異 世 界 語 に も 対 応 し た ん や
の言語に翻訳してくれるのである。
式にゲームを公開している国の言葉を自動で登録したプレイヤー国
!
ることはないぞ﹂
﹁あぁ、アーリア人は殺さない。なんせ高等民族だからな、友よ。怯え
!
48
?
こ
い
つ
ら
・
・
アインスとツヴァイ の ア ー リ ア 人 の 基 準 は ど う や ら 激 緩 ら し い。
金髪碧眼であれば、どれほど元の世界でありえないモノが装着されて
いようと関係ないのだ。
﹁ふむ、これは良い情報源です。従え、さもなくば生きたまま燃やして
やる﹂
すべて見られていたと確信したドライが、明らかに脅す。隣では
﹂
フィーアとそのほか二名がドン引きした目でドライを見つめる。
﹁ひぃっ
頭を抱えうずくまり、
﹁殺さないで殺さないで﹂と命乞いを始める。
当然だ、あの惨状を巻き起こし、更には目の前で彼女の知人が燃やさ
れたのだから。
﹁ないわードライ。流石にうちもでも分かるぐらいないわー﹂
﹁外道め、血も涙もない﹂
﹂
﹁何やろうな、ワイもないとは思うけど、アインスはんとツヴァイはん
には納得できへんわ﹂
▽▲
﹁さて落ち着きましたか
﹁⋮⋮はい﹂
﹁まず、此処は公平にいきましょう、私たちが一つ質問するので、それ
慈悲にすがることはしない。
のままで見つめられ続ければ流石に意味はないと理解して、それ以上
その後、数分待ち命乞いが終わるのを待つ。包囲されたまま、無言
?
﹂
に応じて私達も貴方の質問に答えます。一度に一回ずつ、どうですか
公平でしょう
?
は相手の心に付け入るスキを与える、尋問方法の一つである。緊迫し
﹂
すぎた現場で、少しだけのゆとりを与えることで、重大な情報を引き
出し易くするのが目的の尋問法なのだ。
﹁⋮⋮は、はい﹂
﹁では、一つ貴方方はどういった集団だったのですか
?
49
!
銃を構えた人間が取り囲む状況なぞ、明らかに公平ではない。これ
?
き
ぞ
く
﹁ヴェルーサの守護役とその護衛、ワタクシは最近雇われた女中です﹂
﹁⋮⋮ふむ、では貴方も一つどうぞ﹂
ちなみに、アインスとツヴァイはくだらない質問をすることが目に
見えているので、手で口を押え話すこと禁じられている。もし質問の
﹂
間に話せば、手足を縛ってくすぐり20分の刑という恐ろしい罰が
待っている。
﹁な、何故、ワタクシ達は襲われたのですか
⋮⋮失礼、では次
!
﹂
﹂
?
貴方の選択肢に
!
それら全て貴方の選択肢
そして、相手にとって最低な状況を提示し、こちらに従うことがま
だ﹂
垂れ死ぬのか、あの人外共の餌になるのか
よって貴方が此処で捨て置かれごみ切れの様になるのか、あるいは野
は何故か、我々に貴方への決定権はないのだから
﹁⋮⋮それは大変難しい話だ、それは貴方の好きにしたらよい。それ
﹁ワ、ワタクシはどうなるのでしょうか﹂
ない。
身振り手振りを加え、劇調に大きな動作を与えることも忘れてはなら
が悪であると思い込むような発言を少しずつ混ぜてゆく。この時に
そして、こちらにとって都合のよい余分な情報を相手に与え、自ら
いませんか、これは質問ではありませんので、では次をどうぞ
モノです。まるで逃げることが主で、増援要請は建前のようだとは思
﹁ほぅ⋮⋮増援要請ですか、にしては大金を持っているとは、不思議な
中で奴らが襲ってきたのです﹂
﹁ヴェ、ヴェルーサより、増援要請を他都市へ行うためでした。その道
と弛緩を繰り返すことこそがコツなのだ。
トーンを戻し、冷静に問答を再開する。この緩急も大事であり、緊張
時折、あたかも感情的に聞こえる答え方をし威圧する。すぐさま
ですか
の質問です。貴方方はどうしてあの独活の大木共に追われていたの
攻撃を受けてなお、腕一つ失っていないのだから
ら貴方たちにも被害が出ただけです。その分貴方は幸運だ、何せあの
﹁何故と言われても意味なぞ在りません、ただ目障りな存在を撃った
?
!
50
?
るで唯一の生存の道だと思わせる。そうすることで、忠実な下僕は出
来上がる。
﹁し、死にたくありません。お願いいたします。どうかワタクシを貴
方方へ⋮⋮﹂
﹁いえいえ、何も我々に絶対に従う必要なぞない、自由にしなさい
・
我々には力がある。貴殿の呼べる兵力なぞすべ
・
それは貴方一人がなせることで我々が被害を被ることは
﹂
ありえない、何故か
だ、何故か
我々はそれで一向に構わない、貴方が我々の行いを密告するのも自由
?
やぶさかでもありません。励みなさい
﹂
﹁ふむ、仕方がありませんね。そこまで気持ちが固いのなら、こちらも
﹁い、嫌です、逆らいません、逆らいませんので、どうか、どうか⋮⋮﹂
で反乱の芽をも摘む。
り、こちらにお前は必要ないと告げ、相手の価値を最低に貶めること
相手が唯一の選択肢だと思ったモノ、思い込んだモノすらをも断
て葬り去る力が
?
?
ドライ
これで完成。
﹁酷いよ
流石に可哀想だよ
﹂
君名前はなんていうんだ
?
﹂
見せていたのもこれに付随効果を与える。
常に減るのである。元々よりこの二人が彼女に対して友好的態度を
の唯一の味方だ﹄、だと彼女が思えば、狐耳の少女が寝返る可能性が非
ただろうが、アインスとツヴァイはそうではない。﹃この人たちは私
ドライは彼女に確実に嫌われた、もしくは苦手以上の意識を持たれ
易く堕ちるらしいのでその通りにしただけだ。
までドライの見込み通りである。締めに締め上げて緩めれば、人は容
終わった瞬間に大声でドライを非難するアホ二人。ちなみにここ
からね
﹁うちはアインス、ドライは最低だけど、うちらは君のこといじめない
﹁そうだ、そうだ
オレはツヴァイ﹂
に頬を撫でる。すると、一度に体の力が抜け、何か救われた気がする、
には緊張の連続を強いられた後に、そっと近づき、子供をあやすよう
立ち上がることが出来ぬまま、質問という名の尋問を受け続け、更
?
!
51
!
!
!
!
!
﹁ワ、ワタクシはメリッサ、狐属人族のメリッサと申します﹂
▽▲
シュタールヘルム
メリッサはその後身ぐるみをはがされ、ドイツ兵のM36野戦服と
M35鉄兜を与えられた。しかし、頭上にある狐耳によって鉄兜は被
ることが出来ない。その為、首にかけるのみで、頭の上には38略帽
﹂
を折り曲げて無理やり頭にのせている。
﹁うむ、似合っているよ
﹁あ、ありがとうございます
﹂
﹁あぁ、流石はドイツ兵。狐耳にもベストマッチだ﹂
!
階級は
﹂
?
カンストだし﹂
?
﹂
後ドラム缶は蹴り倒し、林の中へ転がしていく。証拠隠滅の完了であ
たりで完全粉砕。残りの軽油をぶっかけてドラム缶で燃やす。その
その後、彼女も参加し馬車の爆破しても形の残る部分を王虎の体当
ない。
こと確実だ。最後まで戦おうとしたドイツ兵︵笑︶を称賛するに違い
後は確実に大騒ぎになるだろう。パットン、スターリンの度肝を抜く
状況だ。戦車に乗って脱出を計るドイツ首脳陣。戦車が撃破された
部である。もしこれが本来の歴史で再現されていたなら失笑モノな
ようやくまともな階級が出てきたが、既に王虎の中はベルリン総本
﹁じゃぁ、メリッサは軍曹ね
戦車の運転と銃座に付く高級将校とはいったい。
﹁じゃぁ私は親衛隊少将にしましょう﹂﹁ワイは陸軍参謀長官中将な﹂
はて、何時から総統は階級になったのか。
﹁じゃあ、うち総統﹂﹁オレ大佐な
﹂
﹁そもそもオレたちの階級も決めてないからな⋮⋮ゲーム内の階級は
﹁どうする
付近にぶら下がっている。
ある。さらにドイツ十字もアインスたちの黒服同様、左胸のポケット
黒服とは造りも異なるが、雰囲気そのものはドイツ系の独特な軍服で
軍服とは統一感を出すための物でもあり、戦車兵服であるPz服、
!
!
52
?
る。
﹁メリッサ、今より街へ向かいますが、貴方は砲塔の後ろに立ちなさ
い。アインスも上半身出していつでも銃撃できる状況を﹂
メリッサの話を詳しく聞けば、ヴェルーサは今現在、魔人の群れに
包囲されており目立った戦力もない街なので窮地に立たされている
らしい。ここで救援に向かえば、領主的存在も昇天した後なので、立
場的優位に立てる。
何となくそう考えた一行は、王虎をヴェルーサへ、といっても進路
も進む方向も変わらないのだが、向けるのだった。
しかし、実際にはどのような敵なのか、敵がどれほどいるのかも、街
がどういった構造なのかも聞かぬままそこへ向かうと決めたのだか
ら、相当馬鹿な判断である。
﹁メリッサ、これあげるね﹂
アインスがメリッサへと突撃銃1つと弾倉6つ手渡す。一応の使
やー
近い了承の返答である。こうして一行はなし崩し的
▽▲
けもみみ少女な
﹂
に忠犬ならぬ
忠狐を手に入れたのであった。ただし、幼女に片足突っ込んだままの
?
ド
ゲー
ム
ろ の メ ン テ ナ ン ス ハ ッ チ の 上 で メ リ ッ サ と 共 に とある机上演習 を
ボー
再びゆっくりと進む王虎。気付けばアインス、ツヴァイは砲塔の後
?
53
い方を教え、林へと撃ってみせ、どういったモノなのかを説明する。
敵になりえた存在に高威力の武器を手渡すのは非常に愚かな行為
であるが、威力を見せられ、それを手渡され、その威力故に信頼の証
であると勝手に考えたメリッサは自らの有用さを見せつけることが
やぼーる
出来ると、叛逆を考えることもせず、やる気を出した。完全に堕ちて
いる。
﹂
メリッサ返事は了解、もしくはJaだからね
﹁了解︽ヤボール︾
?
アインスやツヴァイの気の抜けた返事よりはるかに本来の発音に
!
﹁いい
?
行っていた。バトルシップと呼ばれるボードゲームによく似たモノ
で、内容が内陸部がメインとなっており、戦艦等の代わりに航空機と
戦闘車両で行われるゲームである。
戦車と航空機を定められた自陣に置き、少しずつ相手側に進ませて
ゆき、見えない敵をサイコロを振り索敵、もしくは攻撃して敵を倒し
て最初に定められた目標を達成するゲームである。地形によっては
攻撃の当たる確率が減ったり、索敵の成功率が変動したりするので終
わらないときは終わらない。
索敵済みでない敵も攻撃できるのだが、もし目標の砲撃地点に本当
に敵がいたとしても、当たり確率は下がりやはり撃破に至らないこと
が多かったりする。それでも当たるときは当たるし、航空機爆撃なん
かの攻撃は命中率が高くなったりしている。逆に爆撃機への戦闘機
す
く
攻撃成功率は非常に高かったりと、対空車両の戦闘機への攻撃成功率
は高かったり、ある程度は竦みも出来上がっている。
度目はないのだよ⋮⋮メリッサ中尉奴を連れて行け
﹂
!
54
それでも、結局はプレイヤーの直感とサイコロによって全てが決ま
るモノである。
﹁なんだと⋮⋮﹂
﹁はい、ツヴァイの負け│、これでツヴァイは降格大佐から中佐に下が
りまーす﹂
メリッサとツヴァイの机上演習ではメリッサが盲目撃ちを行い続
け、それでもツヴァイの軍団に対してクリティカルを出しまくるとい
う奇跡がおきた。逆に索敵済みであってもサイコロの目が悪かった
﹂
ツヴァイは一切攻撃が当たらず、次々と撃破されてゆく。
﹁メリッサは軍曹から中尉に昇進ね
これはオレのジツリキじゃぁない
﹂
!
告な時点で終わっているのだが。
﹁待ってくれ
度チャンスをくれ総統閣下
もう一度、もう一
が変わってしまうとは、恐ろしい集団である。そもそも階級が自己申
これは佐官を倒した故の跳び昇級だ。しかし、ボードゲームで階級
?
﹁ふっふっふっ、ツヴァイ君、よく聞き給え。戦争に、いや戦場に、二
!
!
﹁え
﹂
ワタクシはツヴァイ様をどこに連れて行けばいいのでしょう
ツヴァイは少尉∼﹂
僅差でツヴァイは負け続けたのである。
﹁⋮⋮メリッサ大佐ね
るツヴァイであった。
▽▲
?
畳は砕ける。
﹁今更じゃない
﹂
?
あ、はい﹂
﹁ツヴァイ少尉、大佐に対して頭が高いと思わな
思うだろう
え
?
?
﹁あ、またオーガ﹂
集団である。
もはや、階級とは何だったのか、良く分からないことになっている
ら良し﹂
﹁あぁ、それかオレ、さっき機甲師団指揮官少将まで昇進したから﹂﹁な
﹂
いかね
﹁え
?
ぶち壊していこうぜー、なぁ∼メリッサお前もそう
倍ほどまでんら余裕で速度を上昇させられる。だがしかし、やはり石
う。今現在は人の歩く速さよりほんの少し早い程度、加速すれば10
やはりというべきか、少しばかり及び腰なのは仕方がないのだろ
なら同じ三日ほどかかるかと﹂
﹁⋮⋮ワタクシ達が街を出て馬の歩く速度で三日ですので、この速さ
が、そうでもないようである。
ちの乗っていた馬車が居たものだから、街が近いと思っていたのだ
9時を指していた。しかしそれがすでに夕方であった。メリッサた
出発して7時間、持っていた中の透けて見える懐中時計は出発時朝
﹁これ何時頃着くのでしょうか
﹂
気づけば面々の中で一番下っ端階級へと下がったことになってい
?
?
﹁そんなぁ馬鹿な⋮⋮﹂﹁は、はぁ⋮⋮よろしいので
﹂
た。最初程のビギナーズラックは流石になかったようだが、それでも
結局あの後、4戦ほどリベンジを行ったが、ツヴァイの全敗であっ
?
?
55
?
そして先ほどから大量に現れるオーガとゴブリン。今のところ見
つけ次第射殺し死骸は放置している。当初はオーガの出現に大騒ぎ
していたメリッサであったが、二匹目からは銃撃に加わり、今まで撃
破すること、むしろ逃げることすらできなかった強敵が容易く絶命す
﹂
る武器を手に入れて、これさえあればと歓喜していた。
﹁一つ二つ三つ、それでっど
レベルまで研ぎ
?
?
ちである。
﹂
﹁でもさー、なんで増援が必要だったの
﹂﹂﹂
﹁そりゃ、攻撃されてるからだろ
﹁﹁﹁⋮⋮ん
?
﹂
澄まされた見敵必殺。むしろ見的必殺。どう考えてもいけない人た
や、これ誤射の可能性あるかもだし、いかんでしょ
見 つ け て は 射 殺、む し ろ 探 し て 射 殺。動 く も の が あ れ ば 射 殺。い
!
﹂
﹁なぁ∼ドライはん、めっちゃ石畳気にしとる場合とちゃうんやない
?
フィーアが呟いた瞬間、アクセルがぐいっと踏み込まれる。明らか
に気づいていなかったのであろう、誰一人。メリッサですらスクロー
ルゲーと化したオーガハンティングに気を取られて本来の目的なん
ほら、元から25km/hは出てまし
てものは忘却の彼方であった。
﹂
﹁⋮⋮何を言ってるんですか
たよ
?
5kmほど、この速度なら約6時間後には目的地周辺です﹂
﹁さて、先ほどの速度で日中移動12時間、時速4kmとして距離14
る。
リッサは砲塔に腰かけ銃を構え、アインスと背中合わせに銃を構え
そのまま二人は慌てて砲塔内に戻り、ハッチ銃座と砲に着く。メ
﹁﹁死ぬかと思った⋮⋮﹂﹂
ころで首根っこを掴まれ難を逃れる。
速でアホ二名ほど振り落とされそうになるが、メリッサに間一髪のと
エンジン騒音が大きくなり、ガリガリと履帯が石を削る。突然の加
﹁どう考えても無理あるんとちゃうかな⋮⋮流石に﹂
?
56
?
その時間では既に到着時刻は夜10時ぐらいである。もし大軍に
よる攻撃、包囲を受けている中で爆音を上げて走行すれば、王虎はど
う考えても注目の的となる。恐らくその辺は何も考えていない。
結局、二時間ほど爆走したのちに再び暗くなってそのことに気付く
ドライ。そのまま、またもや夕飯の支度である。ちなみにまた焼肉で
あった。メリッサも知人の焼き肉を見学した後なので、何かしらの抵
抗があるかと思われたが、流石は肉食系の狐の獣人的存在。焼き肉美
味しく頂きました。
▽▲
﹁⋮⋮ねぇ、すっごいね、この数﹂
次の日の正午、アイテムのチョコレートを頬張りながら、5人は攻
城戦が繰り広げられるヴェルーサを遠巻きに眺めていた。コーヒー
美味いわー、カフェオレ美味しいわーと呟き、それぞれが現実逃避を
﹂
57
繰り返している。
﹁ねぇ、メリッサぁ⋮⋮流石にこれは多いよ
勢の主だった構成の一つであった。
メージを与えることが出来ないようで、数少ない弩で少しばかり負傷
さらに普通の弓による攻撃も行われているが、あまりオーガへとダ
子はない。
リンはよく死んでいるが、オーガに関しては一切投石が効いている様
く運んで城壁の下にいるオーガやゴブリンに投げつけている。ゴブ
り投石の為にあえて崩されたレンガ造りの家から、レンガを幾度とな
鎖帷子も鎧も着用していない貫頭衣の者達も、城壁付近に建ってお
いやけどなぁ∼﹂
﹁まぁ、どうやらそれだけやのうて、街の住人も投石に加わっとるみた
﹁⋮⋮確か、騎士兵士合わせても1000ほどしか居なかったかと﹂
﹁メリッサ、街の軍勢はどれほどでしょうか
﹂
率された武装ゴブリン4万程である。これはこの世界での魔人の軍
城壁は3mほどしかなく、敵はオーガの軍勢1万程。その配下には統
明日ぐらいには落城しそうなほどの数の差である。ヴェルーサの
?
?
させるのが限度のようだ。現状ゴブリンへの対処は出来るが、オーガ
﹂
に関しては完全にお手上げ状態であると言えよう。
﹁どうするん
﹁突破は可能ですが、それでも攻勢が弱まるであろう、夜のうちに突撃
﹂
したほうが良いでしょうね。流石に夜通しは彼らも戦わないでしょ
うし﹂
﹁いや、これに突っ込むのか
もしく
?
ド曲がることに目つぶればやなぁ﹂
プッシュロッ
それにイワンと赤の
手先の生産じゃん﹂﹁ツェンダップは良いバイクやで
?
を検討しましたが、売り切れてしまいました。価格は400万程でし
イクは壊れないのは確かです。私も2年ほど前にKS750を購入
﹁それはロイヤルエンフィールド生産の時代でしょう、まぁBMWバ
?
跳ねるだけでドライブシャフト曲がるんだよ
イクだからダメ。長江に関してはアルミ缶バイクだから、しかも段差
じゃん。R71系統のウラルもドニエプルも長江もべんべー劣化バ
はR71コピーの長江﹂
﹁べんべーは未だ人気だけど、ツェン潰れてん
仕様ぅ∼﹂﹁なんでツェンダップKS750じゃねえんだよ
﹁ふふふふ、此処に最強の偵察車両べんべーR75∼ヨーロッパ戦線
ちに王虎を再び突っ込ませる作戦となった。
りあえず、高速移動できるバイクで突っ込んで城内に入って、夜のう
しかし問題がある、城門は固く閉ざされているという事である。と
入るべきやろう﹂
﹁まぁ、夜やろうな、やっぱり⋮⋮道沿いの奴だけ片づけて城門の中に
ちが率い区にされる可能性のほうが高い。
う。数的にどう考えても殺すよりも早くこの地点へと到達し、彼女た
そんなことしたら城壁もないこの街道へとオーガが殺到するだろ
﹁墳進弾で面制圧した後に突っ込めばいいと思うけどなー﹂
?
それ実車
﹂﹂﹂
たかね。諦めてR75を購入検討していましたが⋮⋮﹂
﹁﹁﹁⋮⋮ん
?
58
?
だがしかし、彼女たちの足の長さでバイクに乗れるのだろうか
?
?
▽▲
結果、乗れませんでした。
足は届く、しかしシフトチェンジが出来ない。足ではなく手でのシ
フトチェンジも試みたがやはり無理。そして4人は両手両膝頭を垂
れて落ち込んだ。
﹂
やり方さえ教えてくれれば⋮⋮﹂
そんな簡単なモノじゃないんだよ
﹁ワタクシが運転しましょうか
﹁モトラッドはなぁ
﹂
﹁甘くみとるんなら後悔するでぇ∼﹂
﹁むしろその身
!?
?
は、先生やな﹂
﹁間違いないな﹂
﹁私に教師の才能あったんですね﹂
﹁次生まれてくる時
ね﹂
﹁う ち ら は 有 能 だ か ら メ リ ッ サ も す ぐ に 乗 れ る よ う に な っ た ん だ よ
結果、乗れた。
るからだ。
車に搭乗している乗員より一人の場合より命中率の高い射撃もでき
が多くとも、ある程度の悪路でも容易に乗れ、立ち射などせずとも側
点側車付だと乗車する人数こそ増えるが、泥沼などの不整地に近い道
が困難で二輪の操作は慣れこそ重要であり、完熟は容易くない。その
い。射撃が必要な場面で道が舗装されていない状況では立ち射など
だが、WW2 時点では現在の職業軍人よりも兵士の訓練期間は短
ちなみに一昔前の軍用バイクに側車を取り付けてられている理由
取り付け位置によってその手段も片側だけに限られるのだが。
すか、身体全体を使い側車を浮かせて曲がるかである。結局、側車の
で、急カーブなどはまず曲がれない。よって徐行付近まで速度を落と
操作の組み合わせだが、側車付は基本ハンドル操作のみで曲がるの
付二輪では乗り方が全く違うのである。二輪は加重移動とハンドル
の講義を行うことになったのである。しかし、問題は只の二輪と側車
暴虐である。とは言え現状手段はない。諦めてメリッサにバイク
長寄こしなさい﹂
﹁そうだそうだ
!?
明らかな妬みの裏返しである。少しの自尊心を砕かれぬように自
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!
側車にはワイ乗るとして、あと一人誰乗るん
らを持ち上げることで、バイクに乗れないことを慰めているのだ。
﹁じゃあ、三人乗るやろ
﹂
ど、少し我に返ってしまったのだ。それも、一番嫌なタイミングで。
今思えば、アインスとツヴァイのノリに付き合って色々決めてたけ
よかったんじゃないのかとの疑問でいっぱいである。
になったのか意味が分からない。普通に引き返して、安全な街行けば
込みたいほどであるのだが。そもそも、オーガの大軍に突っ込むこと
いる。彼女的には何でこんなことになったのか、三日ほど遡って考え
一瞬にして空気が凍った。よく見ればフィーアの目は光を失って
﹁さて、最後に一つ言っておくねん、⋮⋮ワイ、死にとうない﹂
の知識のある人間はこの場にいない。
アは考えていたのだが、正直無理である。だが、それを指摘するだけ
カーのフロントから発射されるランチャ│のような使い方をフィー
吹 き 飛 ば す こ と は 出 来 な い。こ の 時 点 で 作 戦 ミ ス で あ る。ボ ○ ド
いる。擲弾筒は確かに爆発するが、実際には障害物を破壊は出来ても
今現在やろうとしていることは、完璧にどこぞの大脱走に毒されて
弾筒何個か持って前の障害物は吹き飛ばしながら進むで﹂
て来た奴たおしてぇな﹂﹁ほーい﹂﹁メリッサはんは運転に集中しぃ、擲
﹁ワイは前方の敵のみ蹴散らすさかい、アインスはんは左右から寄っ
ないので、対処の施しようがない。
ある。とはいえ、何がいけないのか、何が起こるのかまでは思いつか
しかし、この時点でも既に嫌な予感しかしないドライとフィーアで
⋮⋮﹂﹁じゃあ、メリッサの後ろに乗るんはアインスはんやな﹂
け を 残 す こ と は ま ず 考 え ら れ な い の で、こ れ 私 は 行 け ま せ ん よ ね
﹁フィーア、なんかずっこい﹂
﹁オレはいいや﹂
﹁アインスとツヴァイだ
?
﹁⋮⋮いや、それマジで洒落になってないです﹂
60
?