やーくとファンタジー 髪様 ︻注意事項︼ このＰＤＦファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にＰＤＦ化したもので す。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でＰＤＦファイル及び作品を引用の範囲を 超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁じます。 ︻あらすじ︼ あるところに第二次世界大戦兵器を題材にしたゲームがあった。 豊かなキャラ創作が出来るそれにはまった外道共は一つのギルドを立ち上げる。 その名は﹃ロリッター﹄。そしてある日彼女︵かれら︶は気付けば４人一緒にゲーム キャラで林の中にいた。⋮⋮もうやめたげなよ、から始まる蹂躙︵笑︶系異世界トリッ ※このあらすじには多分な誇大妄想が含まれておりますご注意ください。 プファンタジー。今、幼女たちの異世界でアーリア人の優等性を見せつける壮大な物語 が開幕する ! 目 次 やーくとファンタジー │││││ 1 ﹁さて、お前も王、こいつも王だ、身一つで一騎打ちと行こうじゃないか ﹂ 虎 のハッチより一人の幼女 ケーニヒスティーガ ﹄と何かずれた発音で車内へと命じる。それと同時に全身を開始する王虎。そのまま 幼女はそのくりくりとした碧眼でオーガキングを睨みながら﹃ぱぁんつぁーふぉー ヘッドホンである。 が現れる。軍帽と軍服、頭には砲音を防ぐためと無線通話をするためのイヤーマフ兼用 前髪が一直線に整えられた金髪のロングを靡かせ、 王 ! という。 人の王が居た。人類に対して争いを続ける魔の一匹、ありきたりだが名をオーガキング 第二次世界大戦でドイツ軍が開発した戦車、王虎。そして今彼の巨体の前には一匹の魔 きゅらきゅらと音を立てて林の中を進む重厚な物体。見るものが見ればよく分かる、 やーくとファンタジー 1 量 を 持 つ 戦 車 の 足 を 止 め る こ と は 難 し い。徐 々 に そ の 足 が 大 地 を 削 り 後 退 し て い く。 オーガキングは雄たけびを上げ、戦車を止めようとするが、やはり７０ｔ近い車体重 れたオーガキングの腕と、本物の鋼鉄である王虎がぶつかり合う。 正対するオーガキングへと王虎をゆっくりと進ませ、そして異世界の民より鋼鉄と評さ ! やーくとファンタジー 2 もしこれが普通の人と呼ばれる種族であったのならば、既にゆっくりとひき殺されてい ることだろう。これだけで、オーガキングがどれほどの怪力か理解できる。 ﹁ほぅ、流石というべきか。オーガ王の名は伊達ではないな、ならばこいつも本気を見 せよう﹂ そうつぶやくと、車内へと姿を消す。未だ王虎はアクセルを踏み切っていない状態 で、ミッション一速のまま少しずつ進む程度である。つまり、彼女は今からアクセルを 踏み込み、目の前にいる彼を押し潰すつもりなのであろう。 言語が伝わらずとも、どことなく、そうと理解したオーガキングも負けてなるモノか とその腕に、より一層の力を籠め襲い来る暴力的進行を止めるべくその腕に血管が浮か び上がるほどの力を入れる。 ・ そうすれば、王虎とオーガキングの力は拮抗する。オーガキングは勝利の雄たけびを 上げた。自らの体よりも遙かに巨体な王虎を止めていることで、彼の中では既に力比べ で勝利したようなモノなのである。 だがしかし、実はまだ、王虎はそのアクセルを踏み込んではいない。では車内へと姿 を消した件の幼女は何をしているのだろうか そう言って、明らかに彼女が持つには大きすぎる重火器を取り出すと、いそいそと ﹁ぱらぱっぱっぱー、７．９２㎜機関銃ぅ∼﹂ ? 3 キューポラハッチの横へとそれを慣れた手つきで取り付ける。 ﹁驚くべきですな、うちも君には驚かされたよ。さて、ならばうちもこいつの力の一端 を見せてあげよう﹂ それに気づいたオーガキングは彼女の方を向くが、彼がもし手を放し力を抜けば自ら が轢かれるのは自明の理。そのまま彼は何か仕出かそうとする幼女を見つめるしかな い。嫌な予感しかしないが対応は出来ないのでだ。そして、幼女は取り付けた機関銃を オーガキングへと向け⋮⋮発砲。 オーガキングはその頭を何発モノ機銃弾によって消し飛ばされ、力を失い前のめりに 倒れる。そうして、ずるずると地面へと滑り落ちると、前進を続ける王虎に轢かれその 体をぐしゃぐしゃの肉塊へと変貌させる。 この付近の魔獣、魔人を束ねる王の非常に無念極まりない最後であった。 か れ ら これは身一つの一騎打ちと言いつつも機関銃を持ち出してくるそれに疑問を一切持 たないナチュラル外道な幼女たちの物語である。 ▽▲ とある一つのゲームがあった。ＭＭＯと呼ばれる部類のゲームで、その中でも一際中 年と一部青年に流行っているゲームがある。第二次世界大戦中の戦闘車両とＮＰＣ歩 やーくとファンタジー 4 ランドオブバトルフィールド 兵を駆使して戦う﹃陸こそ我らが戦場﹄である。 自らのキャラを組み合わせ自由に行える部類のフィールドバトル系ＭＭＯであり、い くつかの戦闘車両とＮＰＣ兵を使用し、敵対国家に所属するプレイヤーを撃破していく ゲームであり、キャラメイクは初期２００種、男女合わせて課金追加３０００種もの パーツを組み合わせることによって様々なスタイルの兵士が出来上がるのだ。 もちろん、パーティー的要素も導入されており、同じ国家に所属するプレイヤーと隊 を組むこともできる。一人のプレイヤーで最大大小合わせて５０車両と５００名のＮ ＰＣキャラを操作することができ、所謂隊内戦闘である訓練モード等も実装されてい る。 戦闘を続けることによって兵器を改良や生産できるようになっていき、パンター中戦 車やシャーマン戦車だけではなく、バランスよく様々な車種、対戦車砲、トラックや対 空車両を開発しなければ、歩兵負け等の事故も起きるし、所謂ゲーム内スキルと呼ばれ るモノで行える空爆要請によって一方的に叩かれること起こりうる。 自らの搭乗する車両の操作もしなければならないが、戦場の配下ＮＰＣの操作もある 程度決めてあげなければいけないという、非常に手間のかかるゲームなのである。 勿論、味方のフォローをしなければ自分の担当場所が優勢であっても、全体的には 負けて入れば戦術的敗北もあるので、他の味方プレイヤーの援護も必要と、要求される モノが多いのだ。それ故に、一部のコアな層には流行っているが、メジャーとは言い難 いゲームなのであった。 そしてその中にも、一際目立ったチームがある。そのチーム名は﹃ロリッタ│﹄、幼女 か れ キャラのプレイヤー４名︵中身おっさん︶で構成されたチームである。他のプレイヤー は彼女らを畏怖をも籠めてこう呼んだ。 た。 ・ ・ ・ ﹂ ? イはそれに答える。 それに応じ銀髪金眼のでこ出しで、少し耳前の前髪が左右にはね気味ロング、ツヴァ ﹁うちらでチーム内訓練しよやー、うちけーとらで来るからお前らなんで来る ・ 幼女の一人、チーム内リーダの金髪碧眼姫カットロングの幼女、アインスがこう言っ とある日、いつものごとくチーム参加した大戦を終えた時のことである。 ▽▲ いや、なげぇーよ。 付けても救いようのない程残念なチーム名の奴ら﹄ ﹃とりあえず、ドイツ語付けてればどんなものでも大体格好よく聞こえるのにドイツ語 5 ・ ・ ・ ﹁お前が軽トラならオレはハフトラで行くわ﹂ 黒髪黒眼のおかっぱ幼女ドライも﹁私もハーフトラックで行きますね﹂と呟き、正統 か れ ら 派白髪ロング赤眼の幸薄系幼女フィーアも﹁ならワイもハフトラでいくぅー﹂と続く。 彼女たちはこのゲーム以外の他の戦争系ゲームでも同じ仲間として戦ってきたので、 その時よりメールのやり取りを行い続けている。なんだかんだ言って微妙に付き合い の長い連中である。その為、キャラ制作の時もこうしてキャラ被りしないようにメイキ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ うちのケートラつおいよ ? いやマジで﹂ ングし、そして幼女に統一、名前もドイツ数字に合わせて行われた。 いいの ? ? ・ ・ ・ ・ そして、このゲームで軽自動車トラック、つまり軽トラと呼ばれる車両はドイツ軍兵 する。 取り換えたり戦場に設置されているトーチカなどの破壊も可能な対戦車砲をつめたり 等の型もあるのだ。これらの軽戦闘車両はある程度自由に装備も変更でき、重機関銃に ・ ハーフトラックであれば、自走砲能力を持たせることのできる﹃Ｓｄ Ｋｆｚ ２５１﹄ ハーフトラックにも種類があり、﹃ロリッタ│﹄の面々が使用するドイツ系の戦闘用 ても余裕ぶり問題ないと返して訓練の準備にかかる。 ンド入力で驚きの表情に変化させる。ツヴァイ、ドライ、フィーアの三人はそれに対し アインスは三人の車両選択の意味が分からないとばかりに、自らの幼女キャラをコマ ﹁はっ やーくとファンタジー 6 7 器には存在しない。あるとしたらケッテンクラートと呼ばれるハーフトラックの一種 でバイクと軌条が融合したものが、大きさ的にも能力的にも軽トラのそれに該当するだ ろう。 ケッテンクラートの大きさは大型バイクほどなので、乗せれる武器と言えば機関銃ぐ か れ ら らい、それ以上の重火器なぞ積めるはずもない。更に所詮バイクトラックなので装甲も と。 ほぼ全く存在しない。故に彼女たちはこう考えた、軽トラ如きである、ハフトラの重機 関銃で蜂の巣にしたるわ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ であった。もちろんケッテンクラートが現れるだろうと思っていた三人は唖然とする。 その名は﹁ケーニヒスティーガ﹂日本語で王虎と表記し、ティーガⅡと呼ばれる戦車 ・ なそれを響かせて現れたのは、一台の戦車であった。 重機関銃装備のハーフトラック三台の前にケッテンクラートの履帯音に比べて重厚 ﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂ きゅらきゅらきゅらきゅら ▽▲ そして、運命の時がやって来た。 ! そりゃ卑怯だろ ﹂ フー ン ﹂ ハーフトラックでは正面で撃ち合ったら、どう足掻いても勝てぬ相手であるからだ。 ﹁てめぇ ﹁それ流石にないですわー﹂ ﹁なめんじゃないです、くたばれ、チキンやろぅ !! いるとはいえない。 ハフトラの機動力を ﹂ ! ・ ・ それなら大丈夫でしょ ? だがしかし、確信犯じゃないけどそれでも王虎で来る幼女マヂ外道。 ﹂ ? とはいえ、これでは勝負にならない。 ﹁やってやらぁ ! ﹁後方から装甲の薄い部分狙ってぶち抜いてやります﹂ ﹁甘く見たね ! ﹂ ﹃虎﹄の字で﹃ケートラ﹄なのである。いささか以上に強引だが、愛称としては間違って とら だが、実際には軽トラ否、ケ│トラであり、ケーニヒスの﹃ケー﹄と王虎︽おうこ︾の なんてないわーと返したのは三人である。 対に勝てないと彼女たち三人に告げているのである。それでも、軽トラなんぞに負ける ・ し、彼女は別に騙そうとした訳ではない、実際に準備に取り掛かる前にハフトラじゃ絶 その叫びに対して、心外だとばかりにのけぞり、胸を張る金髪幼女︽アインス︾。しか !! ! ﹁まぁいいや、うち一両とみんなの三両で戦おうか やーくとファンタジー 8 こうして仲間内による血みどろ︵笑︶の争いが始まるのであった。 ▽▲ ばら撒くタイプの重機関銃などはマーカ│モードで撃ち、戦車砲や迫撃砲などはスナイ らもうまく使い分けなければ、車両によっては容易く無力化されるだろう。基本、弾を ターゲットをある程度狙うマーカ│モード、狙撃するスナイプモードが存在する。これ メイン車両操作モードとは所謂ＦＰＳ視点で移動するもので、更に詳しく説明すれば ろ指令操作モードだと普通に撃破されるだろう。 で、今回のように一台だけ参戦であれば、メイン車両操作モードだけで事足りる。むし しかし、チーム内訓練モードでは参加する車両や兵士の数を限定することが出来るの されてしまう寸前といったこともあり得てしまう。 だけでは自 らが搭乗する車両を動かせない欠点があり、そのため気付いたときには撃破 プレイヤー ＰＣがデコイ以上の役目を果たさなくなってしまうことがある。逆に指令操作モード どちらかだけでも戦えないこともないのだが、メイン車両操作モードだけでは配下Ｎ 使い分けて戦うのだ。 ＰＣを動かすための指令操作モードと自ら搭乗するメイン車両モードが存在し、これら 無線チャットを通じてメイン車両操作モードに移る。普段のプレイでは空撮的なＮ ﹃こちらドライより各車両へ、手筈通りに行きます﹄ 9 プモードを使用する。戦車砲であっても弾種によっては対歩兵用の物も存在するので、 マーカーモードを使った方が良いこともあるのだが。 今回の戦場は林と農村が混じった手狭な１０ｋｍ四方のものである。今回の作戦で は三両が別々に行動しながら、王虎を包囲し、弱点である履帯部か薄装甲部をぶち抜く ことが目的である。 本来兵器は集中運用が基本だが、機関銃しか積んでいないハーフトラックたった三両 が同時に行動してしまえば、一瞬で撃破されてしまうのでばらけて一両ずつ林や民家の 陰から奇襲を仕掛けるのだ。 ヒンターハルト 王虎死すべし慈悲はないが合言葉である。 ハ フ ト ラ ﹃私は１２時方向の林に待ち伏せします。敵王虎を発見後射線が重ならぬように十字 やぼーる 砲火を浴びせましょう﹄ ﹃こちらツヴァイ了解﹄ やぼーる ﹃こちらフィーア了解﹄ グウォンとエンジンの始動する音が聞こえ、Ｓｄ Ｋｆｚ ２５１が動き出す。その まま三両は扇状に展開し、それぞれのルートへ進路を変える。このまま林の中へ進み茂 だ。 みの中より奇襲する、民家の一部に車体を突っ込ませ、瓦礫の中より奇襲する、とりあ えず奇襲する。それが作戦 ? やーくとファンタジー 10 11 ﹃敵は北東の角より発進します、戦車が通れる道はこのフィールド上に二か所、中央を ﹄ 流れる川があるが、渡れる橋は存在しないので浅瀬で渡河するでしょう﹄ ﹃そこが絶好の奇襲ポイントじゃね フ ト フ ラ ト ラ フ ト ラ る 可 能 性 が あ る の だ。そ う な れ ば Ｓｄ Ｋｆｚ ２５１ の 特 殊 攻 撃 の 擲 弾 攻 撃 が 出 来 ハ 王虎といえども、キューポラハッチ部と砲塔後部の整備ハッチを狙えば行動不能にでき 狙撃モードに切り替えた三人は恐らく出現するであろう川の方角をじっと見つめる。 ﹃了解︽やぼーる︾﹄ ﹃了解︽やぼーる︾﹄ ﹃これより通信終わり、予想到達時間は２分後です﹄ 仕様上近くにいることがばれてしまう。 ドを全周波にしていれば、無線チャットの内容は読み取れなくとも、無線という設定の それぞれの位置へとたどり着く。エンジンを止め、狙撃モードに変更、敵が無線モー 向からのクロスファイアが最前であろう。 Ｓｄ Ｋｆｚ ２５１が劣るので、結局橋を渡ってすぐにある集落で待ち伏せし、三方 ハ の で、 Ｓｄ Ｋｆｚ ２５１ よ り は る か に 遅 い。 し か し、 走 破 性 で は ハ 次々に作戦の詳細を練っていく。王虎の速度は巡行１５ｋｍ／ｈほどだと思われる ﹃いやー無理ですよー浅瀬のポイントは障害物がないですから容易く砲撃されます﹄ ? る。 ﹁問題ないです、アインス。貴方の王虎はここで潰えるのですよ﹂ ▽▲ そのころアインスの乗車する王虎は悠々と橋を渡っていた。 あったのである。日本語って恐ろしい。 れ つまり、パンター中戦車的な使用方法が可能な王虎なのである。ケートラは軽虎でも いるのだ。これにより実際には４７．６ｔほどに抑えられている。 ８％︶、エンジン乗せ換え︵７００馬力ガソリン↓９００馬力ディーゼル︶へと変更して 装甲︵全車重より│３０％︶に強化ミッション︵故障率半減︶、課金増加装甲︵防御率＋ アインスはゲーム内で所謂、虎戦車ラブ勢と呼ばれる一人なのである。その為、課金 トパンター等の中戦車に力を入れているため、王虎は所持していない。 なる。ちなみにツヴァイ、ドライ、フィーアも課金勢だが、彼女らはⅣ号戦車とヤーク か ばれるゲームスタイルを取っているので、兵器の開発に無課金勢に比べると少々有利と ゲームの要素の一つとして、よくある装甲素材の変更である。アインスは課金勢と呼 ﹁軽量化ぁ∼なぁ∼ケ∼虎ぁ∼は早いぞ、つおいぞ、かたぁいぞ∼﹂ やーくとファンタジー 12 ﹂ 三両が川に注視している際に、王虎は北端の橋を悠々と渡りきり、そのまま南へ伸び る道を前進。 ﹁あいつらどこ行ったんだろう ハ フ ト の解除。それに気づいたアインスは車体ごとその方角へ砲を向ける。 ﹁あ、居た。あんなところに村あったんだ﹂ ﹃はっ ﹄ 履帯を破壊する。 フ ト ラ が真っすぐとツヴァイの元へ飛翔、近くに着弾し、ツヴァイのＳｄ Ｋｆｚ ２５１の ハ すぐさま狙撃モードに変更し、川を向いたままのＳｄ Ｋｆｚ ２５１へ砲撃。榴弾 ラ なったツヴァイが車両を稼働させる。そして、始動時に黒煙が吐き出され、隠密モード 結局、三両も待てども王虎が川を渡ってこないことに不信感を覚え、耐えられなく そのまま南の端まで到達してしまう。 ? フ ト ラ その後、アインスは村へと榴弾を打ち込む。本来ならあり得ぬ方角より現れた王虎、 ばらまきを開始するが、数秒後には直撃弾を受け、大破。最初の犠牲者となった。 機関銃の貫通能力では抜けぬ、破壊できない位置にいる。ツヴァイの乗る車両が一応の 銃台を回し、砲撃方向へ向けるが、明らかに王虎はＳｄ Ｋｆｚ ２５１の搭載する重 ハ この時点ではまだ部位は回判定のみで、撃破判定まではされていない、無理やりに機 !? 13 それに見つからぬようにドライ、フィーアもそっと身をひそめる。このまま痺れを切ら したアインスが村へと前進して来ることを待っているのだ。 そしてようやく、今回の戦闘で使用可能な事前設定した数の榴弾を撃ち尽くした王虎 が動き出す。 やぼーる ﹄ ﹃来ましたね、フィーア。私が体当たりするので、後は頼みます﹄ ﹃了解、ジークハイル ハ フ フ ト ト ラ ラ 王虎もその車体を若干斜めに動かされ、車体を民家へとぶつける。それと同時に、林 前面を大破させる。 扉を突き破り登場したＳｄ Ｋｆｚ ２５１は王虎の側面へとぶち当たり、自らのその ハ ジンをかけ、民家のガレージよりアクセルいっぱいに飛び出す。真っすぐにガレージの 警戒状態になり、速度を落とした王虎を待つ。そして、目の前に到達したときにエン そして、王虎が村の内部のを走る道へと到達する。 ! ﹂ よりフィーアのＳｄ Ｋｆｚ ２５１が登場、銃撃を仕掛けようと構え、 ! フ ト ラ 機関銃を操作、至近からの銃撃を王虎に行おうとするが、ハッチより登場したアインス ライが慌てて動けなくなったが、未だ戦闘継続可状態であるＳｄ Ｋｆｚ ２５１の重 ハ アインスの掛け声と同時に、王虎の砲にぶち抜かれ、一撃大破。作戦の失敗を見たド ﹁ふぁいえる やーくとファンタジー 14 ラ けー ﹂ と ら の重機関銃に先に銃座を破壊され、後進し、動けるようになった王虎の砲を向けられる。 フ ト ﹁⋮⋮うちとけーとらの大勝利や ▽▲ ﹁卑怯モンがぁぁぁぁ ﹂ Ｓｄ Ｋｆｚ ２５１はケーニヒスティーガには勝てなかったよ。 ハ ズドンっ。 ! ﹁﹁﹁なめんなよ、てめぇ﹂﹂﹂ ﹁えー、うちもう訓練しないよー、一時﹂ ﹁ワイもパンターⅡでやるわぁ∼﹂ ﹁私も、同じく次はヤクトティーガーで狩りつくしてあげます﹂ ﹁外道め、覚えてろよ、オレも外道プレイしてやっから﹂ もしかしたら勝てる可能性も在ったのだが、王虎が課金戦車であったのは非常に痛い。 こうして、訓練が終わった。非常に予想通りの結末である。いや、普通の王虎ならば ﹁パンターで来たらよかったなぁ∼﹂ ﹁いや普通に無理げーですから﹂ !! 15 なんか思ってたのと違う 知ってる。 ⋮⋮こうして、彼女︽かれ︾らは外道へと落ちたのである。 え ? ﹁ツヴァイとドライ、フィーアだよね ﹁知ってる、むしろ見てわかるわ﹂ ﹁左に同じく﹂ うち、アインス﹂ のままなのも誰が誰なのか理解できる一因となっている。 ぐに互いが誰だか理解する。そして、チャットを打った時に発声されるゲーム内音声そ 確かに今までの３Ｄキャラではなくなったが、何となく見覚えのある容姿である。す ? で見つめ合っていたのだ。 作をしていて、瞬きしている間に此処にいたのである。そしたらこうして、なぜか４人 前兆など何もない、いつものようにキーボードを打ち、マウスクリックしして画面操 ﹁﹁﹁﹁意味が分からない﹂﹂﹂﹂ そして、四人は気づけば林の中で切り株を真ん中に置いて三角座りをしていた。 ▽▲ ? ﹁右に同じくです﹂ やーくとファンタジー 16 ﹁これってトリップてやつかな ﹁だろうなぁ﹂ ﹁でしょうねぇ﹂ ﹁だよなぁー﹂ 処から俺無双 ﹂ 根拠は何一つない。ドライは、これはないですわーの諦め仕様。フィー アインスは適当に異世界やぁ∼こんにちわー異世界程度、脳内お花畑。ツヴァイは此 ぞれ変に思うところがあるのである。 いるが、ツヴァイは地味に上機嫌、ドライ、フィーアは何処か遠い目をしている。それ 流石はネット世代、ある程度の事情はお察しである。アインスはなんかぽやっとして ? ﹁ねぇ、どうする ﹂ ﹂ ﹁どうも何も、なぁ ﹁知りませんよ、身一つでどうするんですか﹂ ﹁ゲームキャラだから兵器呼べたりなぁ、するかもや﹂ ひょい のりゃ でろでろでー ! ﹂⋮⋮いやむしろ奇声を発する。 フィーアの一言でアインスが突如立ち上がり何かしら、うなり出す。﹁ふ∼ん んがっ ! ! ふぅ アはお腹減ったなぁーの完全無欠思考放棄である。見事に三者三様の考えであった。 ! ﹁あっ、呼べる﹂ ! ! ? ? 17 ﹁﹁﹁マジか﹂﹂﹂ ﹂と、どこぞで見たことのある気弾を発射しそうな体勢で腕を突き出 そして、何かがヒットしたのか、そうボソリとつぶやくと突如切り株の反対方向へと 体を向け﹁はっ うちのケートラやん ﹂ す。それと同時に、ズドンっと目の前にあった木々をなぎ倒して、一台の戦車が現れる。 ! ! ﹂ ? きな声で元気よく ﹂ 少し待ってみるが、何も起こらず、辺りはシンとする。 ! ! しかし、ツヴァイは自らの考えた最強のⅣ号戦車を見てみたい。藁にも縋る思いで、大 スもどうやって出したのか忘れているのだ。とりあえず、勢いで呼び出せたのである。 絶対に嘘である。そんな言葉をアインスは言っていない。というよりも、既にアイン ﹁でゅりゅんでゅりゅんで出た気がする﹂ 造したⅣ号戦車の皮を被った何かだが。 取り出したいのである。その名もⅣ号先生、課金戦車で装甲、貫通能力、砲身長を魔改 ツヴァイがアインスへと尋ねる。勿論、目を輝かせながら。ツヴァイも自らの愛車を ﹁どうやって出すんだ そう、重戦車推定６８ｔ改めドイツ的中戦車４８ｔ王虎が現れたのだ。 ﹁やっはっ ! ﹁でゅりゅんでゅりゅん やーくとファンタジー 18 ﹁﹁﹁⋮⋮﹂﹂﹂ まぁ勿論出る訳がないのだが。顔を空に向け両手を上げたまま硬直するツヴァイ、見 ﹂ た目はキツメの銀髪ロングの幼女だが、中身は軽すぎるようである。 ﹁でねぇぞ ﹂ ? ﹂ ? ﹁仕方がねぇな﹂ ﹁とりあえず、けーとらに乗ろうやー﹂ ないツヴァイであった。 少し前にアインスには騙すつもりが無かったとはいえ騙されたはずなのに、学習能力の が俺を騙すはずがないと思っているツヴァイは何度と同じ奇声を上げそれを繰り返す。 い筈なのだが、アインスが最初に呼び出してしまったことのが原因で、アインスなんか た方法だと気づいていないようである。ここまで来れば普通に騙されたと思っても良 即座にその他は今の出来事を無かったことにした。やはりツヴァイは未だに間違っ ﹁いや、だからさ、出ねぇんだけど ﹁さっきから試してるんやけど、出ないなぁ∼﹂ ﹁で、結局念じれば出るんですか 点でも疑問に思わないことで、ツヴァイの人間性が伺える。いうなれば天然さん。 ようやくここでゆっくりと三人の方へと、顔だけを向け、首をかしげる幼女。この時 ? 19 ﹁⋮⋮確かにここが何処だか分からないですし﹂ ! て辺りを伺うので、狙撃兵等に良く狙われるのだ。 ﹁では、とりあえず山の中進むよ∼、ぱんつぁーふぉー ﹁﹁﹁了解︽やぼーる︾﹂﹂﹂ ▽▲ ﹂ 位置に常に乗車するからである。更に、基本前進時は戦車ハッチより上半身を乗り出し ちなみに、アインスは知らないが戦車長が一番死にやすい。装甲が薄いキューポラの ﹁流石ゲーム仕様だねぇ⋮⋮ワイは車体前部銃座に付くなぁ∼﹂ ﹁なら操縦席に⋮⋮ってこれオートマじゃないですか、スゴイ﹂ ﹁オレは砲手だな﹂ ﹁うちの戦車だから、うち戦車長の場所なぁ∼﹂ 開の状態で固定されていたハッチの中へと入ると、思い思いの場所へと座る。 木々の上に鎮座する王虎へと向かい、その低い身長の４人は何とかよじ登り、そのまま 何をしても呼び出すことが出来ない現状。仕様がないので、いそいそとなぎ倒された ﹁敵対生物がいるかもやし、もしくは敵戦車居たりするかもんねぇ⋮⋮﹂ やーくとファンタジー 20 そうして、オーガキングの死骸を二、三度入念に轢き潰し、地面の染みに変えた一行 は再び林の木々を根こそぎ押し倒しながら適当に進む。方角すらも分かっていないの で行き当りばったりなのだが。 ですね﹂ ﹁へぇーあれ、やっぱりオーガなんだ ﹂ ﹁なんか海外の鬼っぽっかたし、オーガじゃね ﹁正式名称はよう分からんし、仮称オーガでいいんやないですかぁ ? ? ﹁とりあえず、真っすぐ前進な ﹂ ﹂ いようなモノである。エンジンも装甲も走行能力も強化された王虎は砲戦能力以外現 周りは林だが２０ｃｍほどの木々ばかりなので、その程度の障害は王虎には在って無 ね、突然崖とか現れたら、そのまま落ちてしまいますので﹂ ﹁まぁ、平地みたいですし、あ、アインスは外から機関銃構えたままで索敵してください ! のかもしれない。 働いている可能性も在るのだが。それとも単に現実だとあまり認識していないだけな に彼女︽かれ︾らが死に慣れているという訳ではない、性分なのか何かしらの副作用が 一つの生き物の命を惨たらしい方法で奪っておきながら非常に軽い奴らである。別 ? ﹂ ﹁オーガっぽいのが居たので、少なくとも私たちがやっていたゲームの中ではないよう 21 代戦車に匹敵するモノを持っているのである。 ﹁ワイも銃窓から前睨んどくねぇ﹂ ﹂ ﹂と叫び、発砲、小さな人影を汚いザクロへと変える。それに対し と、その時小さな人影が現れた。即座にそれに気づいたアインスは滞りなく銃座を向 けると、 ﹁見的必殺 何してくれてんですか、お前は て一瞬唖然とするドライ。 ﹁って !? !! ﹁⋮⋮さーちあんどですとろい ﹂ アインスはなんで怒ってるのと ? 何が行われたのかは知らないし、興味もなさそうである。 疑問を持たない行動だった。ツヴァイは適当に相槌を打ち砲手座席で指を弄っている。 く首までかしげている。前髪が少し口にかかっているのも少しウザい。自分の行為に ? ﹁だな﹂ 言わんばかりの疑問顔。ついでに言えば憎たらし む村の住人、子供だったかもしれないからである。 そして彼女は迷いもなく行われた虐殺行為に大声を上げる。もしかしたら付近に住 ! なって何処にいるのか全てが分かっていない。付近に住む住人が友好的なのか、先ほど フィーアの言う通り、現状はとりあえず戦車に乗って進んでいるだけで、何がどう ﹁でもま、付近の現状が分からのやし今のは判断は正しいかもや∼﹂ やーくとファンタジー 22 ﹂ の仮称オーガの様に非友好的なのかも分からぬのだから。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ る。少なくとも彼女たちと同じ人間ではなさそうだ。 ﹁⋮⋮きちゃない﹂ ﹂ ﹁やかましいです、貴方が仕出かしたことでしょう。で、どんな生き物ですか ﹁一瞬だけやったけど、ゴブリン的な、なまものかな ? しまえば自分が危うくなると知っているドライは、それをスルーする。 ﹁まぁ人じゃなくて良かったです﹂ ﹁いいのかなぁ⋮⋮案外この世界では人間と仲の良い生き物だったかもなぁ ? 中指の三本を当てて頭の痛みを抑えようとする。もちろん、頭痛は収まらない。 ヴァイとフィーアの言葉を間違っているとは思わないので、こめかみに親指と人差し指 そこで、ドライの払拭されかけた心配を再びまき散らす二人。ドライは二人の、ツ ﹁あぁ、なんかあり得そうな展開ではあるな﹂ ﹂ 初からそれを言っていれば、もう少し落ち着いて話が出来たのであるが、それを言って どうやら飛び出してきた瞬間をちゃっかりと目撃していたフィーアが付け足す。最 ? ﹂ つかのパーツ分けされた何かの死体を見れば、青色の血液のようなものが飛び散ってい 確認の為に、アインスがハッチより飛び出て、地面へ降り立つ。見事に腕や胴体が幾 ﹁で、飛び出してきた生き物はなんですか ? 23 ﹁やっちまったモノはしょうがない、誰にだってミスはあるからさ、前に進もう ﹂ な言葉に右腕をシュッと左方 ﹁やったのがアインスでないのなら、それで納得していたんですけどね﹂ ﹂ ﹁少なくとも張本人が言う言葉じゃないよねぇ⋮⋮﹂ ﹁なんでっ 良いことを言ったつもりのアインスは余りにも辛辣 ? くはない。 たモノは仕方がない﹂と言っているようなものである。人が人ならブチ切れても可笑し 様方が居て、その中に野良猫を引いた運転手がやってきて﹁可哀想に、でも死んでしまっ 嫌な例で行くのならば、野良猫が引かれて死んでいる場面を可哀想だと言っている奥 るのはおかしな話なのだ。 アが正しく、少なくとも現状の惨劇︵笑︶を作り出した人物が慰める立場に回ろうとす へ持って行き、精神的に無駄なダメージを受ける。ちなみに当然ながらドライとフィー ? !? ﹁ただし、明らかな私たちと同じ人型は少し考えなさい﹂ ﹁すごいのぅ、ドライはん。両極端﹂ ﹁﹁お、おぅ﹂﹂ 物は皆殺しにしなさい﹂ ﹁まぁ、いいです。やってしまったモノは確かに仕方がない、ばれぬように見つけた生き やーくとファンタジー 24 見敵必殺、疑わしきは罰せ きない発想だ﹂ ﹁なんでそうなるんですか 何もわからない現状でこの決断を下した主人公がさて、 ﹂ ﹂ ⋮⋮よし考えた、そら死ね か、流石はドライ、オレにはで 殺すなって意味に決まっているでしょう ! ﹂ ﹁まぁ、緑のゴブリン的何かと灰色のオーガ的何かが居たら殺すてことでしょ スもツヴァイも分かった ﹁うぃ﹂ ﹁やー﹂ アイン なのか、ドイツ的﹁Ｊａ﹂なのかで意味合いが全く変わるからである。前者は言わずと ヤー ﹁うぃ﹂はともかく、 ﹁やー﹂は否定なのか肯定なのか分からない。﹁いや﹂の﹁やー﹂ ﹁出来れば言語は統一しなさい﹂ ? ? られるのだ。 い部類なのである。近づいたらというか、一緒に居たら嫌に精神の何かがゴリゴリと削 がない。ゲームの中では見ていて楽しい部類だったが、これが現実になると非常に危な まともなハズのドライの発言が裏目に出る。アインスもツヴァイも馬鹿だから仕方 !? ! !? ﹁なるほど、あれは人だな ﹁考えて殺せばいいという事 どれほど世界に存在するだろう。少なくとも王道ではないのは確かであるが。 ! ? 25 も否定、後者はイエスの意味であるのだから。 ﹁﹁了解︽やぼーる︾﹂﹂ 最終的な返事も結局本当に理解しているのかどうか、非常に納得のできない雰囲気で 放たれた。再び何となく頭痛がする気がしたドライであった。 そうしてまた動き出す王虎。そして、それと同時に飛び出してくる大量の仮称ゴブリ ﹂という疑問符の反応を返すド ン。も ち ろ ん、自 ら 鋼 鉄 に ぶ つ か り に 来 る の で、そ の ま ま 轢 か れ る。そ れ を 目 撃 し た フィーアが一言﹁あっ﹂と呟き、それに何事かと﹁ん る。 ﹂ お﹂と呟きながら両手を後頭部で組んで雲を眺めている。ツヴァイは再び指を弄ってい く。ちなみに外にいるはずのアインスは、早速索敵そっちのけで﹁青空青いなあいうえ もちろんその間にも次々と仮称ゴブリンは踏みつぶされたり、体を強打して死んでい ライだが、彼女の﹁何でもないよ﹂との返事で再びアクセル踏み込む。 ? ている惨状を何も見ていないのだろうと辺りを付けて苦笑いをする。 ﹁あ∼大丈夫や、何か一杯おっきな虫みたいなモン踏んでるだけやから﹂ いやおそら フィーアからはその様子は見えないが、何も言ってこないことからアインスは今起き ﹁フィーア ? 今まで、ここまで御座なりな扱いをされるゴブリンズがいたであろうか ? やーくとファンタジー 26 く居ないだろう。基本ファンタジーで序盤に出てくるゴブリンというモノは何かしら の意味を持っているものである。ヒロインとの出会いのための布石であるとか、村を見 つけるためのフラグであるとかだ。 さて、そうこうしてい間にも短い﹁ぴぎゃっ﹂ ﹁ぐぎょぉ﹂ ﹁びがっ﹂という断末魔を 上げひき肉や地面の染みにされていく大量の仮称ゴブリンたちであった。 ▽▲ ゴブリン達の献身的な自害を見届けたフィーア。知能が低いのだろうか、誘蛾灯に群 がる虫のような最後である。次々と死んでいく仲間を見ても、武器を持って走ってきて そのまま更に死んでいくゴブリン達は恐ろしさを通り越して、逆に笑いが込みあがてく るものもあった。 そして思い出し笑いをしているフィーアだが、場所が突如開けたことに気付く。どう やら、何かしらの広場に出たようである。粗方轢き殺しつくしたのかゴブリンはもうい ない。 地を這ったみたいだね ﹂ ﹁おぉぅ、見てよドライ、うちのケートラが作った道ってさ、まるで飛べないドラゴンが 27 ! ﹁これ、立ち入り禁止区域とかだったらヤバいですよね⋮⋮﹂ ﹁スゲーな、流石は戦車。家でもぶっ壊し進むだけあるな﹂ ﹂ いつものごとくあっけなく無視されるアインスの言葉。本人としては何か優雅なこ とを言ったつもりなので、少し心外な結果である。 休もっか ? 体力が回復するアイテムを取り出す。この中にはサバイバルセット、例を挙げるならナ 虎車内に置いてあった野戦セットＡという、ゲーム内では使用することでＮＰＣ兵士の 同意を他の二人にも促し、再び三人は王虎より地面へ降り立つ。そしてアインスは王 るべき点なのであるが。 のであろうと思いなおす。悪気や悪意がなくとも事件が起こるあたりが、アインスの恐 インス本人に悪気があって何かしらの事件が起きたことはないので、本人的には善意な ので、ドライはすぐさま目を細めそこに何か裏がないのか探ろうとする。が、今までア 珍しく彼女が普通の提案を繰り出す。しかし、あまりにも珍し過ぎる真っ当な提案な アインス ﹁とりあえず、ドライは運転で疲れたでしょう ? イフや飯盒、着火剤、ロープ、小型のアウトドアチェアが人数分おさめられていた。 ﹁は∼い﹂ ﹁おぅ﹂ ﹁じゃあ、ナイフとチェア配るから並んでー﹂ やーくとファンタジー 28 ツヴァイ、フィーアは行儀よくなぜかアインスと正対して並ぶ、別に受け取るモノの ﹂ ﹂ 数が多い訳でもないのだから整列して並ぶ必要性は皆無である。 ﹁ドライはいらないの ﹁配り終えてからでいいです﹂ 人だからな ﹂ ドイツ兵でアーリア オレもそう思うぜ なんせ緊急事態だ、訓練されたオレたちはいかな ﹁えぇ∼ここはチームワーク見せるところだよ ! ん時も整列してみせ、その優等性を魅せつけるのが正解だと思う ! ﹂﹂ ﹁その整列って緊急時でもしっかりと並ぶ日本人の性質じゃないですかね ﹁﹁な、なにおいう。我々はあーりあじんだぞ んなのである。 ﹂ しそうに眺めるフィーア。そう、彼女たちは誰が何と言おうともドイツ兵であーりあじ 眼をそらしながらワザとらしく顔をも背けるアインス、ツヴァイ。そしてそれを楽 ? ? も間違っている。 り、四人いるうちの三人は該当しない。その点から言えばツヴァイの発言はどう考えて 赤眼である。ちなみにどこかの誰かさんが呟いた優等民族アーリア人は金髪碧眼であ ちなみに、もう一度言うがツヴァイは銀髪金眼、ドライは黒髪黒眼、フィーアは白髪 ! ! ﹁うむ、そうだな ? ? 29 ﹁じゃあ∼ほい、ドライの分のナイフと椅子ねぇ∼﹂ ﹂ ︶からドライの分の装備を渡す。 フィーアがいつの間にかアインスの近くに置かれていた野戦セットＡ︵これで君も キャンプが楽勝 ﹁それよりも、アインス。銃は呼び出せますか になる。 元は戦車の陰から銃撃するためのものだ。ちなみに一応は撃てるがすぐに銃身がだめ 銃身とは弾丸発射口が、おもいっきり右に曲がった見た目はただの欠陥兵器であるが、 そして屈曲銃身付きのカラシニコフ銃にそっくりの一つの突撃銃を取り出す。屈曲 クルムラウフ ﹁はえーよ、なげーよ、そしてよく覚えたな﹂ ﹁ほい、シュトゥアムゲヴェーア・フィーアウントフィアツィヒ﹂ ら。 かは知らないが、確実にアレと生身でケンカして勝てるとは思わない。何せ幼女だか それでも戦車を肉体だけで受け止める化け物である。この体の性能がどういったモノ 先ほどの仮称オーガや仮称ゴブリンを警戒しての要求だろう。全力とはいかないが、 ? ! 弾倉と別々にドライへと手渡す。もしあれを使うのなら、敵を撃つとき態々変な体勢を それに応じて唇を尖らせながら不満そうに、普通の照準器付ＳｔＧ４４を取り出し、 ﹁頼みますから普通のを下さい﹂ やーくとファンタジー 30 作って狙わななければならない。しかも、集弾率は非常に悪い銃身である、普通に死ね る。 ﹁見張りはしっかりとお願いしますわ∼﹂ ! うね﹂ ﹁まぁ、何かが野営した形跡もありますし、人に準じた生物がいるのは間違いないでしょ とは何だったのか。 アインスは笑いながら王虎の砲塔後部にチェアを置いて他の三人を見下ろす。方針 ! ﹂ ﹁見敵必殺だね ! 殺すなつってんでしょう ﹁やかましいわ ﹂ ﹁じゃぁ、うち戦車の上でこれ持って話聞くね﹂ ｔＧ４４を残りの三人分取り出しそれぞれに手渡す。 突撃銃など誰も使いたくはない。アインスも使うつもりはないのか、すぐさま普通のＳ 結局、他人が持っているのを指差すのは面白いが、１００ちょっとで銃身ダメになる ﹁マジ勘弁です﹂ ﹁貴方が使っていいですよ、私はこれを使うので﹂ ツヴァイがそう呟くが、遊び心で死んではたまったものではない。 ﹁遊び心の分からん奴め⋮⋮﹂ 31 先ほど降り立った際に見つけた火の使用された形跡を見る。その後ろでフィーアは ﹂ せっせと近くの大きな石を集めて簡易的なかまどを作る。 ﹁何してるんですか ﹁クソ不味い奴か ﹂ ﹁メットコーヒーですな ﹂ ﹁珈琲入れようかと思うてぇなぁ﹂ ? ! ﹁不味いの飲みたいなら自分でなぁ淹れりぃ ﹁うちカフェオレが良いな﹂ ﹁⋮⋮ブラックを﹂ ﹂ いるなと思いながら、フィーアは野戦セットＡにさり気なく入っていたコーヒーセット だかんだ言ってドライもしっかりと自分の分のブラックを頼む当たり、ちゃっかりして 驚異の掌返しの速さ、ついでに言えば戦場珈琲発言はなかったことにしている。なん ? る必要はない。 通の挽き終えたコーヒー豆もあるので、たんぽぽ茶のようなクソ不味い珈琲を態々入れ に知っていそうな言葉が出てきて過分に反応しただけだろう。ちなみに鉄 カップも普 スチール 戦場珈琲と呼ばれるモノである、何故それでテンションが上がるか分からないが、単 ! ﹁オレも砂糖いれたカフォオレで﹂ やーくとファンタジー 32 の袋を分解し、中より既に豆が挽き終えて入っているドリップパックと粉ミルク、砂糖 を取り出す。アインスの持ち物なのに本人じゃない彼女のが余分に把握し過ぎである。 ﹁外で飲むカフェオレおいしーわー、うち幸せ﹂ ﹁あぁ、よくわかるぜ。空気もうまいしな﹂ こいつら話をする気皆無である。しかも、危機感も皆無なのだ。といって他の二人が ﹂ ﹂ 戦車の前でコーヒーとか﹂ みた 警戒ビンビンなのかといえば、表面上の形だけで大して重大にことを受け止めていな かったりする。 ﹁で、どうします ﹁マジで、ハードボイルドじゃね いな ﹁コーヒーやのうて、カフェオレやけどなぁ∼﹂ ﹁聞けよ、お前ら﹂ ▽▲ ﹂ ﹁それ、うちもそれ思った。なんかこう、黄昏る感じで今日は酸味が強く感じるぜ ? ? ﹁気を取り直していきます、道探す人探す待ち探すＯＫ ? ? ! 33 その後、一人ずつ後頭部を叩かれ、話を聞く体制を取り戻したドライ。彼女は有無を やー 言わさぬと既に決めた、今決めた。返答はｙｅｓかＯＫのみである。 ﹁﹁﹁Ｊａ﹂﹂﹂ ﹁イエスと取っておきます﹂ 一息ついた彼女らはまたも王虎の中に入ってゆく。元々が第二次大戦時の戦車モデ ルなのに一発エンジン始動の快適オートマチックミッション、エアコン完備である。惜 しむべきはネット環境がないことだろう。ついでに言えば寝場所もない。 今いる場所は広場のようだが、近くに昇りの斜面が緩やかに存在する。広場から斜面 に向けて昇り道らしきものがあるので、これ昇って行けばすぐに何かしらの通りに出る だろう。 その場で右履帯のみを後進状態に動かし右旋回、坂道へ正面を向ける。それと同時に 地面には抉られた土で履帯の跡が放射線状に伸びる。 手軽である。流石はゲーム仕様。 前進の操作方法はショベルカーなどと同じ形式で、それにアクセルが加わっただけのお アクセルと、右履帯操作レバーに左履帯操作レバーを手前に引き、前進を開始する。 ﹁了解︽やぼーる︾、前進︽ふぉー︾﹂ ﹁前進︽フォー︾﹂ やーくとファンタジー 34 ﹁こいつが本物だったらお手上げだったです﹂ もし、本物仕様であるならば坂道の変則とアクセル操作を間違えると、容易く王虎の ミッションがブチ壊れる。本物はなんだって２０ｔ以上異なる戦車と同じミッション ﹂ を載せようと思ったのか。まぁ新たな変速装置を開発する時間がなかったからだが。 ﹁うちのケートラはすごいでしょう ﹂ ! ロボットとちゃって、手足ないし履帯二本しかないのにそ ? 一気に水平になる王虎。 と、そうこうしているうちに坂を上り終えたのか、ガタンとシーソーの様に前に傾き 実に周囲の搭乗員の邪魔になるし、ゴツゴツと色々な場所をぶつけそうである。 を動かしながら同時に手足身体をバタバタと動かすツヴァイが容易く想像できた。確 フィーアの脳中では、頭の上にヘッドマウントみたいなものを取り付けて、Ⅳ号戦車 れはそれで逆に操作難しそうやけどなぁ﹂ ﹁出来るのならやってみぃ ﹁じゃぁオレがもし魔改造Ⅳ号呼び出したら思考操作だな 意図して簡易的な操作機構をもった戦闘車を呼ばねばなりませんね﹂ 呼び出されていたでしょう。もし私が自らの兵器を呼び出せるようになったのならば、 るのならば、私の想像したケーニクスティーガ│であれば無駄に操作機構の多いモノが ﹁まぁ、そうですね。もしこの兵器呼び出しが個人の深層意識によって操作系統も変わ ? 35 ﹁アインス、外確認をお願いします﹂ ﹁ほ∼いほーい﹂ キューポラを覗き、内側よりハッチを開ける。そして周囲に何もないことを確認して 再び砲塔上部のハッチより上半身を乗り出す。肩には突撃銃、手には双眼鏡だ。右手を 銃にかけ、左手で覗き込む。 ﹁砲塔右旋回よろ∼﹂ ﹁了解︽やぼーる︾﹂ 少しだけ体をひねりながら、砲塔の旋回に合わせてゆっくりと周囲を見渡す。一応砲 塔の旋回には意味があり、 ﹃見敵必殺﹄のためである。こいつら学習能力ないらしい。下 何殺すこと目的にしてるんです では既にせっせとツヴァイが自動化された旋回装置を稼働させながら、榴弾を半自動装 填装置の中にセットしている。 ﹁そうか、残念だったな﹂ ﹁いや、道が見つかったんなら残念じゃないでしょう か﹂ 確かに感覚はそれと相違あまりないかもしれないが、やることは殺傷である。物騒す ﹁ゴブリンかオーガかなぁ、まぁ玩具与えられた子供が使いたがるそれやなぁ﹂ ? ﹁只の道だよ⋮⋮敵居ない﹂ やーくとファンタジー 36 ぎるとしか言えない。 少し戻って、坂道で何かが通るの待ちますか ﹁しかし、まぁ石畳の道や、案外町ちかいんかもな﹂ ﹁どうしますか ﹂ ? ﹂ ﹂ !? ! ﹂ 活動資金だ まともに行動しようと思わないのですか ﹁そのままこの世界の金銭徴収して奪うんだね ﹁賊かてめぇらは ! ﹁つまりあれか、通りがかりの馬車を検閲するんだな き場所の境目に置いて、王虎は先ほどの広場で待機させた方が良いと思っている。 いいと考えていた。今昇った坂道もそこまで長い訳ではないので、人を坂道と街道らし ドライ的には馬車か何かがとったら、その馬車が向かってきた方向を目指して進めば ? れていない。ちなみに肯定されていたら実行していた。 ﹁ワイとしてはそのまま道進んだほうが早いと思うんやけど﹂ ? や何かと思われても仕方がない。 明できるのは必須だ。もし馬引き馬車が主体の世界であれば、馬が居ない鉄の塊は魔獣 此処がどんな世界だとしても、王虎は異様な存在である。これがどんなものなのか説 ﹁はぁ、それでは人か何かと鉢合わせした時の対処が必要ですよ ﹂ 実はツヴァイもアインスも半ば冗談で言ったのだが、前科があり過ぎるので信用はさ ﹁見つからなければ問題ないやな、馬車は入念に燃やせばいいんや﹂ ! ? 37 もしこれが兵器だと周囲に分かればどういったことになるのか。この集団、特にアイ ﹂ ンスとツヴァイにかかれば奪われる前に殺せとなること確実だ。ドライもそうなれば それに従って行動するだろう。 ﹁結局必要になるからなぁ、ケーニやんは。後々考えるか今考えるかの違いやろ ﹂﹂ ﹁それもそうですね﹂ ﹁﹁で、何の話 ? だろう。もしくは晩御飯何食べようかな とかだけだ。 いる連中である。先は大して考えていない。考えていたとしても５分後何しよう程度 ここまで聞いて話を全く理解していないアホの子二人、基本ノリと勢いだけで生きて ? ? 結局あの後話し合い、アインスとフィーアが坂道の上で待機する事となった。当初 ▽▲ さかい﹂ う話や、アインスはんとツヴァイはんは覚えんでもええよ、説明はワイとドライがする ﹁ケーニやんは魔獣じゃなくて、魔道具かゴーレム的な機械や説明せんといかんなとい やーくとファンタジー 38 は、アインスとツヴァイの二名が行くと言いだして話を聞こうとしなかったのだが、彼 女たち二人に任せれば大暴走しそう、いや、むしろすること確実なので、なんとかツヴァ イをフィーアが説得したのであった。その際、ドライではアインスを止められないの で、何かと相性のいいフィーアが彼女と相方を組むこととなった。 その間、ドライは王虎の中でいつでも動き出せるように待機。ツヴァイはどうにかし てドイツ兵の力強い味方、無敵のⅣ号先生を呼び出そうと奇声を上げ続けている。 ﹁人影一つ、こんなぁ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮﹂ しかし相方より返事はない。今二人は坂道の終わりの道の端でシートをひき、体の上 ﹂ にギリスーツを被せ、その上に木の枝を置いて更に銃をすぐさま撃てる状態で構えうつ 伏せに寝そべっている。 どないしたんや ? かったであろう。 あるならば納得である。男で容姿フツメンで天然な彼に友達が出来ることは今後もな 学生なのか疑わしくなる。中の人は友達が居ないらしいが、これだけぶっ飛んだ天然で ス。ご機嫌そうに静かに涎を垂らしながら寝る姿は、ほんとにこいつは中身１９歳の大 返事がないことに不思議に思ったフィーアが首だけを少し向ければ、爆睡するアイン ﹁⋮⋮アインスはん ? 39 ﹁⋮⋮まぁいいわ、アインスはんやし、期待はしとらんかったんや﹂ と言いつつもフィーアは自分だけで見張ると分かり、少し寂しそうだ。まぁ、今のア ・ ・ ・ ・ インスの姿はすさまじく整った幼女なので、ある程度天然でも許されるのかもしれな い。フィーアの中の人が３９歳ほどの大阪京都出身ではないおっとりとしたタイプの 関西人なのも関係しているかもしれないが。 ▽▲ ﹂ を沸かしコーヒーを淹れ終えてしまいたいのだ。 こしている。炭等と違ってこの火力ではそこまで持続しないだろうから、さっさとお湯 ちなみに火はそこらに落ちている乾燥した木々を適当に集めて着火剤をぶちまけて起 ドライはそれに﹁話の脈絡がありませんね﹂と呟きながら目線はお湯から離さない。 ? と思いまして﹂ ﹂ ﹁いえ、久しぶりのドリップコーヒーが美味しかったので、水筒に移して車内で飲もうか 使ってお湯を再び沸かすドライがいる。 ひとしきり叫んだツヴァイの目線の先にはいつの間に降りたのか、先ほどのかまどを ﹁何してんだ ? ﹁ふ∼ん、そっか⋮⋮なぁ、突撃銃の試射してもいいか やーくとファンタジー 40 ﹁アインスを見る限り問題はなさそうですが、扱い方を知っておくことは必要だと思い ます、構いませんよ。ただ、少し離れた場所に向かって撃ってください、目標への命中 率も忘れずに確認を﹂ この際音が響くことは仕方がない、武器の扱いの熟知は必須事項なのだ。まぁ、弾倉 の交換と引き金の引き方、ロックの外し方が分かっていれば突撃銃は扱えるだろうが。 これはキャラが持つ常時発動型のスキルが使えるのかの確認でもある。彼女たちは 例外なく集弾性を上昇させるスキルや反動を無効化するスキルを持っているのだが、兵 器を呼び出せない今スキル発動確認は心の安定を保つためにも必要だ。 や形状は異なるが同じ７．９２ｍｍ弾なのでスキル範囲内となる。 突撃銃の為でなく、戦車戦闘車の機関銃様に取ったスキルであるが、突撃銃も弾の長さ つ銃スキルは９ｍｍ以下の銃無反動、９ｍｍ以下の弾倉補充、集弾率４０％上昇である。 そしてツヴァイが少し、おおよそ２００ｍ程離れた場所で銃を構える。ツヴァイの持 だけで、人間同様痛みで行動不能となるだろう。 なオーガキングにも大層効いたことを鑑みれば、ほとんどの敵は突撃銃の弾一発当たる へと向かう。正直に言えば危機感があまりないのだが、普通の重機関銃が非常に強そう と、散歩に行く気軽さでツヴァイは、先ほど王虎が木々をなぎ倒して出来上がった道 ﹁あいあい、じゃ行ってくるな﹂ 41 ゲーム内スキルでそこまで差別化する必要がなかったから、直径９ｍｍ以下となった ﹂ のだが、もしこのスキルが使えるなら、近接でも二人そろえば弾幕を張り続けられる。 す。 まぁいいや⋮⋮ん ﹂ んでゆく。的の代わりとした大きな木の枝はすぐさまへし折れその身を地面へと落と である。そして発砲。カッカッカと撃ちだされるそれは、狙った場所にほぼ狂いなく飛 と、ストックを方に当て、サイトを覗く。といっても凹の部分を目標と合わせるだけ ﹁ロック外して、弾倉確認、問題ねぇな⋮⋮うし、やっぱかっけぇなＭＰ４４ ! ? ﹁なんじゃあれ ⋮⋮て、ゴブリンじゃねぇか﹂ 動くものが見える。 ふと、銃口を下ろして顔も下にして銃を眺めて悦に入っていると、視界の片隅に何か ﹁思ったよりうるさくないんだな、こいつはスキル関係か ? い。それが４匹現れた。 小鬼そのものである。ギコギコ鳴いているその生き物はどう見ても賢そうには見えな ゴ ブ リ ン の死骸を見ていなかったが、出てきた奴らの見た目は様々な物語に出てくるゴブリン、 らに頭一個分低い体の緑色の腰巻だけを巻いた生き物。ツヴァイ自体は、あの時こいつ ゴ ブ リ ン 明らかに何か武器を以てこちらを見つめる小人サイズ、幼女であるツヴァイヨリモさ ? ﹁さて、近づいたら撃つぞー、オレはアインスと違って、まだあんま気乗りしないけどさ、 やーくとファンタジー 42 かかってくるならぶち殺す。その覚悟ぐらいはできるぞーくるなよー﹂ 明らかに及び腰である。更に付け足せば、すり足で少しずつ後退をしている。だが、 此処はなぎ倒された木々の上、つまり足場が悪い。ちょっと下がるだけで、アインスは 足場になっていた倒木から滑り落ち、尻もちをつきながら転ぶ。それを好機と見たゴブ リンは一斉に距離を詰めツヴァイへ。それぞれ石斧、石剣のようなものを振りかぶり 走ってくる。しかし奴らの足は遅い。 ﹂ ﹂ !! ﹂ ! それを見てゴブリン達も奇声を上げ、すぐさま走り出す。すると森影からも大量のゴ ﹁ギッィギィ 王虎の方向へと走り出す。 威 嚇 を 始 め る。そ の 隙 に ツ ヴ ァ イ は 立 ち 上 が る と す ぐ さ ま 彼 ら に 背 中 を 向 け て 反 転。 ゴブリンも何が起こって近くの仲間が死んだのか理解できなかったのか、足を止めて ﹁こんなときにっ なかったので、弾切れを起こす。 撃ちだされるそれにより一匹のゴブリンは絶命。しかし、先ほど撃って弾倉を変えてい すぐさま突撃銃を構え、ゴブリンに銃口を向け発砲。速射といは行かなくとも連続して だがそれでも軽くパニクってしまったツヴァイには関係なく、大きな脅威に見える。 ﹁クッソ ! 43 ブリンが何処からともなく出現し、そのあとを追い始める。ロリッターの面々は知らな かったが、ゴブリンはその数のみが脅威な生き物である。一匹いたら数百匹は近くにい るのだ。食料は雑食で、異世界側の人間からは畑や木の実果物を食い荒らすイナゴのよ ﹂ !? うな扱いを受ける魔獣である。 なんか増えてるし !? ﹂ !! 何とか走りきり王虎をよじ登る。意図せずスキルが作動、手には弾倉が現れる。無意 め仲間を読んで捕獲しようとされているのだ。捕まればお察しである。 つまりツヴァイは、ゴブリンたちに自分たちよりも弱いと見られてしまった、そのた 奇声を上げて蜘蛛の子を散らすように森の中へ消えていっただろう。 いたが、ツヴァイがもし大声を上げてゴブリンたちに向かっていったなら、ゴブリンは 王虎の場合人型ではなかった為にゴブリンの習性に引っかからず。自動駆除されて なのだ。 ンは勢いよく声を上げて向かってくる人間には恐れをなしてすぐに逃げ出す程に臆病 ゴブリン相手にここまで体裁関係なく逃げる奴というのも実は珍しい。実はゴブリ ﹁ぎゃぁぁぁぁぁマジ勘弁 リンは気持ちが悪いモノがあるのだ。 ツヴァイは頭だけを少し振り返って後悔する。なんかウジャウジャ湧いてきたゴブ ﹁ちょっうぅぅ やーくとファンタジー 44 識 の う ち に 突 撃 銃 か ら 空 に な っ た モ ノ を 取 り 外 す と 装 着。ゆ っ く り と こ ち ら へ と 向 いやマジで死んでくださいぃぃぃぃ﹂ かってくるゴブリンの集団へ半泣きになりながら乱射する。 ﹁死ねぇぇぇぇ すでに懇願、ゴブリンの返事はだが断る一択だろう。これだけ叫んで、近くで乱射す !? 騒々しい 今度は何ですか ﹂ ! なんかいっぱい出て来た ﹂ !! ! ればドライも気づく。ハッチを開け上半身を出す。 ﹁えぇい ! ヘルプ ﹁ヘルプ ! 返してきなさい ﹂ !! ﹁どうしろってんだよ ﹃ふぁつ ﹂ ﹄﹃どないしたん ﹁寝起きか、アインスてめぇ !? ・ ・ ・ ・ アインスはん、⋮⋮あぁ無線かぁ﹄ 引き摺りこむ。即座にエンジンをかけ、アインスへと無線。 ここで、ようやく正気を取り戻し、ドライはツヴァイの銃撃をやめさせると車内へと ! る。 どだい無理な話である。やはりそれでも、流石にこの数はありえないとドライも焦 ﹁どっから連れて来たぁぁぁ ! イもただ事ではないとそちらを見れば、地面を埋め尽くすゴブリンの群れ。 ・ そこには既にマジビビりして泣きながら、銃を乱射するツヴァイである。流石にドラ ! って今はそんなことはどうでもいいです、今すぐ擬態解除 !? ? 45 ﹄﹄ ﹂ 乗車準備、大量のゴブが湧きました ﹃﹃はい ﹄﹄ ﹁イイから逃げる準備 ﹃﹃はぃぃ ﹂ ! ﹂ ? ﹂ ? われた。 ・ ・ ・ ・ その間に轢き殺したゴブリン３０匹以上。こうして無意味に尊くはなさそうな命が失 ・ 巡 航 速 度 よ り 早 め の ２ ５ ｋ ｍ ／ ｈ 程 で 走 り 出 し た 王 虎 は ゴ ブ リ ン た ち を 引 き 離 す。 ﹁ビビったんですね﹂﹁ビビってない﹂﹁驚いたでもあんまり変わりありませんから﹂ いたぜ ﹁知らねぇよ、普通に木の枝撃ってたら湧いたんだからな、オレだってビビッ、いや、驚 ﹁何やらかしたんですか 前の様に履帯に踏まれるか、車体に轢かれるモノが多数出る。 にゴブリンも彼女たちの元へと辿りつく。そしてすぐに周囲を取り囲むが、そのまま以 そのまま坂道へとアクセルとレバーを倒し込み走り出す。そこまでするうちに流石 ! ! ? ! ﹁ドライ聞いて うち寝てないよ ! ほんとだから、ねっフィーア ! ﹂ ﹁急げよマジで、ちょめちょめ的展開になるぞ、主にＲ１８Ｇの方向で﹂ ﹁乗ってください﹂ やーくとファンタジー 46 !? ﹁う∼ん、そやな∼寝てない寝てない﹂ ﹂ まさかこうなるとは思うとらんかったんや﹂ ? 時折交代してツヴァイもゴブリンへ銃撃を行うのは先ほど恐怖させられたことへの 破砕音には目を瞑っている。 いつらを放置するのは流石にいけないと思っているので、大量の銃撃音と弾が石を砕く に付くと後ろを向き必死に走ってくるゴブリンたちを蜂の巣にしていく。ドライもあ げれば確実に石畳を砕きながら進んでしまう故だ。アインスはすぐにハッチの機関銃 王虎はアクセルを全く踏み込まない自足３ｋｍ／ｈ程で石畳の道を行く。速度を上 ▽▲ ﹁う、うむ、堪忍してな ﹁﹁その話、後で詳しく﹂﹂ ﹁あぁ、これワイらのあと着けてきとったんやなぁ∼﹂ おかつそこまで早く無いスピードで向かってくるゴブリンの大群であった。 フィーアはその間に砲塔前部のハッチより車内へと滑り込む。すぐ後ろには全力で、な またもや下で今はどうでもよい言い訳を行うアインスを引きずり込むように乗せる。 ﹁いいから乗れっつてんでしょ ! 47 復讐だろうか、 ﹁ふははははは ゴブリン如きがオレ様に逆らおうとするからだ ﹂と叫 ! ﹂ ぶのが、ツヴァイが如何にビビっていたのか理解できよう。 ﹂ 殲滅完了だぜ ﹁良し終わった ﹁おぅ ! ! ! 異世界人も喜ぶよ、きっと ﹁それ ﹂ るよね ギルドランクとかあったら一気にＤぐらい行って ﹂ キリがない生き物を狩ってどうするというのだろうか。 ほぼ無視するものである。何せ、時折畑を荒らされる程度なのだから、いくら殺しても とってはゴブリンを率いる親玉が存在しないとき時は大して脅威でない生き物だから、 正 直 ど う で も い い。実 際 に は 彼 女 た ち は 有 害 認 定 さ れ て も 可 笑 し く な い。人 間 に ﹁ランクはＧスタートだろ、もちろん ! ? ! ﹁いい仕事したぜ﹂ が、彼女たちは異世界モノの一部お約束、死骸は片づけるをガン無視であった。 ろ何かしらの病気が蔓延したり、他の肉食獣を呼び寄せても可笑しくないほどなのだ 驚くこと間違いない。これほど内蔵や糞尿が漏れ出して死んだものを放置すれば、むし 後ろにはゴブリンたちの死骸が点々と転がり、もしこの後、人が通った時には非常に 最後の一匹が体をはねさせながら絶命する。 ! ? やーくとファンタジー 48 しかし例外もある。ゴブリンを統率する魔人系の王が居た場合だ。ゴブリンは知能 は低く、足こそ遅いが、腕力は子供より少し強い程度はある。彼女たちは未だ知らぬこ とだが、魔人と人と呼ばれる人型種族の集合体は、永きの間ずっと敵対状態にある。 ゴブリンが人を殺せる程度に武器を振るえるという事は、武装装備を整え突撃させる 等の作戦では、死を恐れるほどの知能がないので非常に有能な捨て駒となるのだ。その た め 人 類 は 魔 人 の 軍 勢 に い る 装 備 が 整 っ た ゴ ブ リ ン だ け は 即 座 に 殲 滅 を 命 じ て い る。 ? ▽▲ 彼女︽かれ︾らにとっては、未だ何一つも分からない異世界であった。 ﹁そもそも中世みたいな世界観なんかなぁ⋮⋮﹂ ﹁馬鹿ですか、お前らは﹂ 見た目可愛いし﹂ 逆に言えばそれの対処の為以外の野良ゴブリンをかまっている暇はないという事なの である。 ﹂ 誰もなめないぜ、そしたら﹂ ﹁でもさ、ギルドとかあるなら、うち等なめられないかな 冴えてる ﹁戦車で突っ込んだらいいだろう ﹁流石ツヴァイ ! そんなことしたらどう考えても事案事件ものである。 ! ? 49 人が歩く程度の速さで進み続ける王虎。ようやく死屍累々のそれは見えなくなった。 しかし、何か良く分からない鳥たちがゴブリンたちの死骸が転がる方角へ向かうのが見 える。カラスみたいだが、大きさが明らかに可笑しい。王虎のすぐ上近くを飛んだそれ ﹂ は彼女たちの誰が両手を広げても、変わらぬそれと同じ幅があるのだから。 ﹁速度上げよぉ、今のままじゃ全く進まないよ ﹁石畳壊れますよ﹂ 二秒で終了させられる自信あるし ﹂ ? ﹁ツヴァーイ、一緒に砲塔乗ってしりとりしよー﹂ ﹂﹁マジで強いに決まってんだろ ? ﹂﹁じゃあオレの勝ちだな﹂ ? る。が、初っ端からパスなんぞ使う奴がしりとり強い訳がない。なんかほんとに二秒で 二人は砲塔の上に昇ると腰かけて、左右に宙ぶらりんに足を垂らし、しりとりを始め ﹁パス﹂﹁ガとか思いつかないし !? ﹂ ﹁マ いが、こちらの通貨を一切持っていない状況で、仕出かすわけにはいかないのだ。 行犯である。街の目の前でなんと言い訳すればいいのか。まぁ、何とかなるかもしれな 壊すわけにはいかない。街に向かっているのに、石畳を破壊しながら進んでいれば現 ? ﹁ちょ、おま、やる気かよ。オレがしりとりマジヤバなの知って喧嘩うってんだな ジで弱いの ? ﹁じゃぁ、ドイツ兵器縛りね。じゃあ、うちから、ティーガ。ガね﹂ やーくとファンタジー 50 終わったが、ドライは内容が陳腐すぎて白けた感じで馬鹿な二人のやり取りを聞いてい た。 ﹁どうでもいいけど見張りはして下さいね﹂ ﹂ 勿論こんな呟きなぞ二人は聞いていない。 ﹁﹁やー﹂﹂ ﹁もう何も言うまい﹂ ﹁いうたら疲れるだけやでぇ ▽▲ ないと分かるほどに雑草が少ない。人が通らぬ道は荒れるのが普通だ。 これ少し逆におかしいんとちゃうかな ﹂ のではないかと考えたが、それにしてはやはり綺麗すぎる。どう考えても廃道の類では 石畳の道で人が通らないというのも可笑しい。フィーアは一瞬この道路が放棄道路な そしてゆっくり和やかに進むが、結局人っ子一人見当たらない。これほど整備された ? ﹁ドライはんはどう思いなはる ? ﹁ワイも見えとる景色大差ないで まぁ、今んところ前から危険なモノはないんやけど するほどに何もない、代わり映えのない景色が続く道なのは分かります﹂ ﹁そうですね⋮⋮私はあまり外が見えないので何とも言い難いですが、あの二人が爆睡 ? 51 ? なぁ、それでもやっぱり、アインスはんとツヴァイはんに中で寝るようにゆぅてぇな。 お約束の盗賊でもおったらかなわん、二人になんかあったら困るし、悲しいしなぁ。前 進止めてもええさかい﹂ 何処だ 空襲か 爆撃か ? ﹂ その言葉通り、砲塔の上で足を垂らしたまま危機感もなく仲良く爆睡する二人を叩き ﹂﹁なにぃ ! !? 起こす。 ﹁てきしゅーう !? ないのだ。 ? 駆動系もエンジン負荷も大きくなく普通の重 ? なゲームなのである程度自由に課金できる人間が多い。ついでに言えばそう言った改 静音エンジン、故障性低下の改造は普通であった、もちろん課金であるが。内容が内容 機の駆動音程度に抑えられている。ゲーム内では被発見性の低下の為に駆動音減少や 色々と乗せ換えているからだろうか この戦車﹂ が、この王虎はショベルカーに近い。そんな違いはあっても、内部全体が変わる訳では 王虎の本来の操縦系統はどちらかといえばマニュアルトランスミッションの車に近い 辛い。砲弾が隙間に一杯一杯置かれており、人が座るスペースしか存在しないからだ。 るように告げる。とはいってもスペース的には幼女であっても王虎の中では非常に寝 起きたはいいが騒がしい。一発ずつ頭をはたき正気に戻すと二人へ内部に戻って寝 !? ﹁死にたくないなら油くさい車内で寝なさい。本来よりも相当静かですよ やーくとファンタジー 52 良はそこまで高くないので行う人間が多かったのである。 していた。 再び動き出した王虎の前には何か動くモノ、人と比べれば少し大きめな物体が見え ﹁あー、なんか前が騒がしいなぁ⋮⋮﹂ る。 やはり中に入ったことで、結局眠気が覚めたのかアインスは普通に起床 ﹁見てみるね﹂ ﹁馬車か普通だな﹂ ﹁馬車ですか﹂ まり恨みを買いやすいモノが良く使うのだ。 プの大型馬車だ。こういった防衛機構が付いた馬車は基本、位が高い狙われやすい、つ 御者二人馬六頭引きの馬車である。天井部分には二つの弩が積まれ、攻撃も行えるタイ ルー フ アイテム名、倍率の変更ができる高価な双眼鏡︵ドイツ版︶の中を覗いて見えたのは、 ﹁おぉー馬車だね﹂ そんな警戒心を持てというのは酷な話なのだろう。 いて周囲を確認し、更にゆっくり開けるのが正式なのだが、一応一般人︵中身アホ︶に さま双眼鏡を手にハッチの外へと体を露出させる。本来ならばここでキューポラを覗 そのままカタカタと振動と共に揺られて座っていたのだが、気になる話に反応してすぐ ? 53 ﹂ ? ﹂ ちゃんと馬がひいとるん 馬車って馬が引かなくても馬車なの ﹁馬車なぁ⋮⋮ん ﹁え ? ? ﹂ ﹂ ﹁人いない馬車ってどうやって操るんだ ? だっけあいつの色違いもいるね﹂ ? いですよコースである。 である。これは異世界モノのお約束展開。救って助けて正義の味方 やぼーる ﹁砲撃準備やー、車体は１０度ほど傾けて砲塔を標的に合わせるでー﹂ ﹁﹁了解﹂﹂ お礼は金貨でい さらっと重要なことを普通に話すアインス。どう考えても現状はフラグがビンビン 後ろにオーガ ﹁居るよ、なんか必死だし、上のクロスボウで後ろ向いてる騎士みたいな奴もいるー、 ツヴァイもアインスも扱いが御座なりである。 ﹁忙しいので馬鹿は黙っていて下さい﹂ ? ﹁まぁ、馬居るんやし、人は見えるん まぁ、車を引いているかもしれないのだ。竜車とかあるかもしれない。 そ も そ も こ こ が ど ん な 世 界 か も 分 か っ て い な い の だ か ら、へ ん て こ な 生 き 物 が 馬 車、 アインスの疑問は尤もであるが、アインス︽こいつ︾が言うと納得できないフィーア。 ? ﹁馬車が来たときぶつからない様に、林に突っ込みます﹂ やーくとファンタジー 54 ! 即座に林に突っ込んで、その場で履帯を左右逆回転させ、旋回。少し目標から車体を ﹂ 斜めにして跳弾を図る防御射撃の体勢をとる。 ﹁榴弾装填 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 最初は砲角合わせで目標から離れて撃つぞ 助である程度なんとなく理解できる。 ﹁装填よし ! ふぁ い え ﹂ る ! ﹁⋮⋮外れた 次弾装填﹂ レティクル まご都合主義に自動制御される排煙装置によって排出される。 ベンチレーター 掛け声と同時に８８砲弾が撃ちだされる。砲塔内部に発射ガスが漏れ出すが、すぐさ ﹁初段撃て せ、府仰角を上に向ける。 なので、ツヴァイは低速右旋回のペダルを少しだけ踏み位置をずらす。レンジを合わ 着弾を確認し、幾つかの三角が見えるドイツ照準器を再び確認。少しだけの砲塔旋回 ﹁少し上だな、左に向けるぞ﹂ る抜け、後ろの地面を少し削るが、オーガに当たる様子はない。 すぐさま主砲塔同軸機関銃を数発目標付近へとばら撒く。機関銃弾は馬車の横をす ﹁待って、うちが機関銃で予備射撃するね﹂ ﹂ アインスが叫び、半自動装填装置に砲弾を送り込む。撃ち方は幸いにもスキル砲撃補 ! ! 55 ! 一発目は確認、大きくそれた砲弾は林の中に消え、木々をなぎ倒す。それに驚いた馬 ﹂ ﹂ うち聞いたことあるんだけど、撃ったと砲身って熱垂れするらしい﹂ が速度を更に上げ、暴走するのもツヴァイからは見える。更に砲を少しだけ旋回させ る。 ﹁待って ﹁だから何だ ﹁少し上に調整せんとまた外れるんや、２ｍｍほどあげてみ ﹂ 物線距離的にも少々目標を飛び越えてしまう。 幅は１．５ｍなので、計算式に当てはめると距離２１４０ｍもある、このまま撃てば放 した距離は三角の大きさより０．７シュトリヒ程、馬車の人間の大きさから予測できる に向ける。すると根元は２ｍｍ動き、砲身の先端では数センチ程上昇する。先ほど確認 再び低速右旋回のペダルを少しだけ踏み、砲身を道沿いにずらし、ハンドルを回し上 ? ! ! ! 砲身を色々と動かしたら早く冷えるかも ﹂ !! ない。 ﹂ ﹁少し冷やそ ﹁それだ ! ! ないと意味はない。外れすぎると馬車に当たる可能性も大いにあるから下手には出来 オーガは大きくても２ｍほど。幅は更に狭い。対人榴弾だとしても、ある程度近くで ﹁無理だ、目標が小さすぎる やーくとファンタジー 56 ﹁ちょ、馬鹿 またずれるだけですよ ﹂ ! ﹂ ツヴァイ復唱 そんなことしても 了解アインス やぼーる ﹁大丈夫復唱して大きくずらさない様にするから ! ! ! ! ﹂﹁上下上下 ! ! ! ないのだ。 ﹂﹁上下上下 ﹂ ! ﹂ ﹂﹁右左左右 ﹂﹁上下上下 ﹁上上下下 ﹂﹁上下上下 ﹁右左右左 ! ﹂ ﹁上 ﹂ ﹁下 ﹁よし冷えた、撃て︽ふぁいえる︾ ﹂﹁了解 ︽やぼーる︾﹂ ! ! ﹁ダメだ 外した ! ﹂ うちに続いて﹂ 明らかに最後は復唱していない。まず第一に何を根拠に冷えたと判断したのだろうか。 ぶっちゃけ色々とツッコミ所はある、むしろツッコミ所しかない。何を思ったのか、 ! ! るかどうかで言えばおそらくで出来ない。無意味な努力である。 く当てることで、早く冷やして熱垂れなんてなかった事にしようとしているのだ。出来 旋回ペダルと府仰角調整ハンドルを決められた角度、踏み込みで動かす。多分風に多 ﹂﹁上上下下 ない、初弾は様子見って決まっているから。カウントしないのだ、しないといったらし おそらく普通に一番初めに外したことはカウントしてはいけないのだろう。仕方が ! ! ! ﹁オレ達にかかれば百発百中だぜ ! !! 57 !! 当 然 の ご と く 大 き く 違 う と こ ろ に 飛 翔 し て い っ た 砲 弾 は 見 当 違 い の 所 に 着 弾 す る。 しかし、ツヴァイは一つ重要なことを言っていない。アインスもツヴァイも全身に冷や 貴様らは馬鹿ですか ﹂ 汗をかいている。百発百中とは何だったのか。 ﹁当たりまえじゃボケ !! ! 聞いていた。勿論外れた理由も普通に分かる。 外れるに決まってるでしょ ! そんなことでは流石に今のミスの話は流れないし、ドライは騙されやしない。 彼女たち︽かれら︾なりに褒めることによって持ち上げて、ヨイショしようとするが、 ﹁盲点だったぜ、流石だなドライ、ロリッタ│の軍師を名乗るだけはある﹂ ﹁流石は﹃ロリッター﹄随一の切れ者ドライ、うちは気づかなかった﹂ ﹁何で上の次が下を叫ぶんじゃ ﹂ ドライは王虎を動かしていないので、少し余裕があったので今のやり取りをそのまま ! ﹁⋮⋮言いにくいんやけどなぁ﹂ ためではない。二人が伝えていない一番重要なことを告げるためである。 少し元気のない声でここにきてフィーアが横槍を入れる。当然、二人のアホの子救う ﹁何がですか﹂ ﹁どうでもいいんやけどなぁ、一応当たっとるでぇ⋮⋮﹂ ﹁しばくぞ、てめぇら⋮⋮﹂ やーくとファンタジー 58 オーガモドキにではなく何に当たったと言っ ﹁何ですか、もったいぶらずに現状把握も必要ですので、早く言ってください﹂ ﹁⋮⋮当たっとるで、馬車に﹂ 当たった でも、なんでこんな時に、いやフィーアはそん そんな馬鹿な、この状況で馬車に当てるなんてありえない。むしろありえて ? ドライの世界が止まった。 馬車 今彼女は何を言ったのだ た ? ﹁﹁笑えばいいと思うよ ﹂﹂ ﹁⋮⋮私はこういう時どういった顔をしていいのか分かりません﹂ なかったオーガの数匹を撃破しているのも丸わかりな程にバラバラになった馬車。 その場で思い思いに暴走している。貫通した砲弾がこちらからは馬車の陰で見えてい は絶望的である。しかしながら馬は大丈夫だったのか、六匹が連なって連結されたまま る。そこには横転して砲弾が貫通しバラバラになった馬車。これでは中の人物の生命 すぐさま、ドライは運転席上のハッチを開け双眼鏡をのぞき込んで目標を視野に入れ この間約３秒、驚異の高速思考である。 況で冗談なんて言わないはず。そうだと良いなぁ⋮⋮ な性格じゃ無いはず。いやフィーアの性格なんで詳しくは知らないけど、流石にこの状 はいけない。まさか、この状況で冗談 ? ? ? 59 ? ﹁むしろ笑うしかないんとちゃうかなぁ⋮⋮﹂ 誤射とはいえ、キーパーソンが乗っていそうな馬車に開幕砲撃である。異世界モノで とドライは考え込む。もちろん該当するものはない。 今まで奴隷商云々や盗賊馬車云々の確認もなく、ただ発見されただけで撃破された馬車 ﹂ はいただろうか ﹁燃やそっか ? り 幸い、オーガの大群が居たので言い訳は出来るだろう、そう考えてのことで判断なのだ。 開 き 直 っ て 強 奪 宣 言 も し て い る。ば れ な け れ ば 犯 罪 も 罪 に 問 わ れ る こ と は な い の だ。 少しでもいい話に持って行こうとするが、どう考えても不可能である。更にドライは む ﹁あぁ、戦士の掟だ、何時だって死者への敬意は忘れちゃならねぇぜ﹂ ﹁火葬するんだね、死んでしまえば敵もノーサイドってやつだね﹂ ﹁燃やしましょう、金品は奪った後で﹂ ? 人。 ! 最後まで言うことなく、明らかな怒気を感じ取り二人は下を覗きこむ。そこには運転 ﹁そ、そうだ、優等民族を見せつけるために劣等民族ぉ⋮⋮﹂ ﹁うちらアーリア人だから ﹂ 底冷えする声でマジ切れするドライの声が足元から聞こえ、思わず両足を上げる二 ﹁始末し終えたら話をしましょう、じっくりと﹂ やーくとファンタジー 60 席に座り、腕を組み右手で左手を軽くぱんぱんと叩くドライの姿。これ以上何かを言え ば、と身の危険を感じる二人。 ことを覚えていれば即射殺も考慮している。 ちなみに、ドライはこの時点で生き残りが居れば、状況聞き取り後にこちらに不利な ら勿体なくとも仕方がない。 置。馬はこれで逃げだすだろうが、ここで回収したとしても操れるものが居ないのだか 生き残りのオーガを掃討する。馬は六匹を繋いであった連結部を狙撃し、そのまま放 前進しながら車体機関銃と砲塔機関銃、ハッチ横の機関銃の全てから弾をばら撒き、 ▽▲ ﹁とりあえず、前に進みます。話はそのあとで﹂ やったのだと思うことにする。 うせあのまま行けばオーガに殺されたいたのである。楽に死ねてよかった、介錯して 殺された方はたまったものではないが、これが彼らの運命だったのだろう。むしろ、ど 流石に心の底から謝る。二人も悪いことをしたと理解しているのだ。なんか適当に ﹁﹁大変申し訳ございませんでした﹂﹂ 61 ﹁オレ達はどうなっちまうんだろうな﹂ いや、忌避感 だっけそれ一つ抱い ふと、場所のすぐ手前で立ち止まったツヴァイが少し下を俯きながら眺め呟く。 ちゃいねぇ⋮⋮⋮⋮やべ、オレかっけっ﹂ ﹁人を殺してしまったてぇのに、オレ達は危機感 ? ﹂﹂ ﹁今、うちらめっちゃシリアスしてたじゃん ﹂ ﹁おま、これ無視す る場所が此処だったからだ。その他の場所は崩れて木の板が複雑に絡み合い、ばらすの 者は投げ出されて、林の側でこと切れているのが見えたので、次に内部がすぐ確認でき 横転した場所の武装、穴が開いた天井︽ルーフ︾の弩取り付け場所へと向かう。既に御 そして、何事もなかったかのように始まるドライとフィーアの作業。二人はすぐさま てよかったわ∼﹂ ﹁﹁⋮⋮﹂﹂ ﹁さて、馬鹿はほっといて作業に取り掛かりましょう﹂ ﹁よく切れそうな斧あっ 指と人差し指でつまむ。 アインスもそれに追従して同じ位置で立ち止まり、俯きながら自らの軍帽のつばを親 ⋮⋮フッ﹂ ﹁う ち も だ よ、こ の 世 界 の 神 様 が う ち ら の 心 を 壊 し て し ま っ た ん じ ゃ な い か と 思 う よ ? ! が面倒そうなので、選択肢にはない。 !? るとか、人間かよ﹂ ﹁﹁⋮⋮なんでっ やーくとファンタジー 62 ﹁寝言は寝て言えや﹂ 歩きながら立ち止まりも振り向きもせぬままに、一刀両断であった。 ﹁⋮⋮やはりというべきか、何らかの精神安定操作が働いているように思えますね﹂ 横転した馬車より下半身のもげた騎士の遺体を眺め呟く。その通りである。今現在、 安直だがスキルの冷静指揮官という、一定以下のパニックを無効化するスキルが四人全 員に働いている。ゲーム内では損害数が一定以上になると、確率で指揮官の混乱による 指揮系統の混乱という配下ＮＰＣの能力が低下するバッドステータスが存在するのだ が、それの確立を下げるスキルである。 ﹁とりあえず、生き残り探そっかぁ⋮⋮﹂ 騎士の胴を持ち上げ、馬車の中より引きずり出す。下半身より下のこぼれ出た中身が ﹂ 色々と丸見えだが、すでに出血は止まっている。馬車の中は血糊でいっぱいであった。 ﹁うへぇー﹂ ﹁⋮⋮海外ドラマでグロに慣れた私に死角はありません﹂ ﹁多分、スキルのおかげやろうなぁ、ちょっとドライはん、これ貸すから中身覗いてみ 広げられていそうな、車内を見たくはないのである。そこで、ドライは自らの発言に後 めの軍用懐中電灯︵これで殴れば撲殺も可︶を渡す。明らかにスプラッタな光景が繰り げんなりした様子のアインス。そしてなぜか誇らしそうなドライに、フィーアは大き ? 63 悔した。 中で生きてるやついたら武器持って向かってくるかも﹂ ﹁でもさ、これ危なくねぇか ? いよく顔と腕を突っ込む。 ? ! 今のところ、安定の﹃こんにち ? ら大きく見えるが、なぜか彼女︽かれ︾らは何の苦もなくそれを振るうことが出来てい 各々が手に持った斧で、天井︽ルーフ︾部の破壊を始める。幼女の身体には手斧です わデストロイ﹄であった。 との警告すらなかったのは、ある意味慈悲であろうか 会話の内容だけであっても賊、現状をどこからどう見ても賊である。命が惜しければ ﹁まずはある程度ばらして、その後、金銭などをメインに荷物を漁りましょう﹂ さまドライは顔を出すと、腰に吊るしておいた斧を手に取る。 ていた。これでは生き残りはいないだろう、だろうではない、むしろいない断言。すぐ 結果覗き込んだ先には、ぐちゃぐちゃになった色々なモノが馬車の中ではばら撒かれ ﹁あー、うん、予想通りですかね ﹂ と理解したドライは、 ﹁えぇい、ままよ ﹂と引っ手繰るように懐中電灯を受け取り、勢 隣ではまた馬鹿が馬鹿を言っている。このまま放置しても時間がたつばかりである ﹁生き残り探すのに止めさすよなことして、どないするん﹂ ﹂ ﹁突撃銃でとりま、撃っとく ? やーくとファンタジー 64 る。 こういった防御戦闘を可能とする馬車は、側面は硬く作られているが、上面は普通の 馬車と変わりない。基本は襲撃は二次元戦闘を基本としているので、上空からの攻撃は あまり考慮する必要性がないからだ。 そうして３０分ほど無言で斧を振るい続け、中身を完全に見えるようにする。気付け ば当たりの日は少し落ちほの暗くなってくる。壊すのにも少々時間がかかり過ぎたこ ・ ・ ・ ・ とを理解したドライ、フィーアは両名は手を止める。 ﹂ ? 子二人も作業を止める。 ﹁あー、アインス、飯だってよ。何が出せんだ ﹂ ﹁ちょっと待って、⋮⋮豪華戦闘食料Ａ∼Ｄまでならあるよ ? ? れば、時折発生する兵士の独断行動︵敵前逃亡など︶が抑制され、混乱も起きにくい。Ｎ 元々の課金食料は配下ＮＰＣ兵士の士気を向上させるアイテムである。士気が高け ﹁お、課金食料じゃん。って量多いわ﹂ １セット２００人前﹂ 斧を再び腰に下げ、少し手前に止めたままの王虎へと向かう。それに気づいたアホの ずらして、夕飯の支度しよか ﹁言語もなんも分からんやったけどなぁ⋮⋮、今日はケーニやんの中で就寝やな。脇に ﹁⋮⋮人が居たということはやはり街が近いのでしょうが、辿り着けませんでしたね﹂ 65 ﹂ ＰＣ兵士用のアイテムなためそれに伴って必然的に量が多くなるのだ。 ﹁Ａの中から４人分取り出せますか ﹁うちはー ﹂ ﹁あいー分かったでー﹂ きます﹂ ﹁⋮⋮フィーアはまた火を起こす準備を。私はツヴァイと一緒に多めの枯れ木を集めて 内より取り出す。 である。しかし、焼くためのバーベキューコンロがない。仕方なくフライパンを王虎車 に現れる戦闘食料Ａ。内容は牛豚鳥肉ソーセージ野菜各種詰め合わせの焼き肉セット 少しばかり腕を組んで仁王立ちしていたアインスが、ピコンっと手を差し出す。そこ ﹁う∼ん⋮⋮あっできた﹂ ? り、出来上がった簡易的な調理場で料理を開始。 た。ドライはアインスに告げ、小型探照灯を取り出させる。それに布を被せ光量を絞 ようやく火を起こし、食事をとる準備ができた頃には既に辺りは暗闇に包まれてい ﹁箸持って待ってなさい﹂ ? ドライは次々と肉と野菜を焼き、皿に移していく。フィーアがそれを受け取り欠食児 ﹁焼けたものから渡すので、先に食べなさい﹂ やーくとファンタジー 66 童なアインスとツヴァイの目の前に持っていく。二人は勢い良く掻き込み、そして動か なくなる。元の男だった時の勢いで食べようとして、すぐに腹が膨れたのだ。 ﹁これワイら二人で食べるん 多くない ﹂ ? 肉とは、なかなかにファンシーな感性の持ち主たちである。決して生ソーセージ見て、 も再び肉の片づけに参加した。しかし、まぁ、人の生ソーセージと生肉を見た後に焼き 結局あの後ドライとフィーアでは片づけることが出来なく、少しおいて復活した二人 ▽▲ かれていた。 結果としてドライとフィーアの前には成人男性で３人前近い量の大量の肉の山が築 ﹁焼いてしまいました、食べないと勿体ないでしょう﹂ ? い。霜降り豪州牛肉である、口が痩せている二人にはその判断はつかなかったが。 １．３人前ほどしか食べることなく食を止めることとなった。ちなみに、和牛じゃな 脂っこいモノは得てして多く食べられないものだ。結局二人は早々にダウン、二人で ﹁まさか和牛ってこんなにすぐ腹に来るもんだったとは﹂ ﹁これ和牛だ、絶対和牛だ。霜降りすごかったもん﹂ 67 ﹂ 食べたくなった訳ではないことを願おう。 ﹁見張りはどうしますか ﹂ ワイはその時少し居眠りさせてもらえたらいいね ﹁それでは私が少なくありませんか ﹂ ﹁ドライはんは明日も運転あるしな ? 応、快眠野営セットに含まれている装備らしい。もはや何でもありである。六つ程の枕 既になぜ呼び出せるアイテムに枕があるのか、疑問に思ってはいけないのだろう。一 ﹁はーい﹂ 元背中に敷き詰めて寝るので﹂ ﹁分かりました、では少し早めに失礼しますね。アインス、枕大量に出してください。足 任せれば、確実に寝落ちするか、何かしらの騒動を巻き起こすに違いないからだ。 既にアインス、ツヴァイが夜寝ず番をするとの発想はこの二人にはない。あの二人に ん﹂ ? ﹁ワイが最初はするわ、その後６時間ほどして交代しよっか 化け物ガラスの例もある。気を抜ける場所ではないと改めて実感したドライである。 またオーガや大量のゴブ共が湧かないとも言えない。しかも一瞬だったが、空を飛ぶ るドライ。 発電機もコードもなく点灯する謎探照灯の電源を落とし、王虎の上にとりあえず乗せ ? ? やーくとファンタジー 68 を受け取ると、両手で圧縮して抱きしめるように運ぶ。ハッチを開けると枕を押し込 み、自らの指定席となった運転席に枕を設置していく。 ﹂ ? だからなんか寝れないかなー﹂ ? ワイはツヴァイはんがオーガにある意味串刺しされとるとこ見た ? る。空 気 が 澄 ん で る。星 が 見 え る。満 点 の 夜 空 だ。少 し の 間 じ っ と 一 言 も 漏 ら さ ず 空 その前にあの巨体に貫かれたら普通に死ぬ。苦笑いしながら、フィーアは空を見つめ ﹁意味深だね﹂﹁意味深だ、オレもひぎぃ展開は御免だぜ﹂ くないわ﹂ ﹁行ったらあかんで ﹁オレも夜の散歩気分な程に冴えてるな﹂ ﹁うちな、少し興奮してるみたい が活動時間である。その点ではドライは切り替えができる珍しいタイプらしいが。 ている。そのため少し眼が冴えていた。そもそも、四人はネトゲーマーなので、本来夜 フィーアが尋ねるが、二人は昼間に砲塔の上で寝たり、アインスは見張りの時にも寝 ﹁二人は寝ぇへんの の隣では、アインス、ツヴァイのコンビが同じように座ったままである。 王虎の側面の前で適当に広げたシートの上で胡坐をかいて銃を抱えるフィーア。そ ﹁おう、お疲れ﹂﹁良い夜をなぁ∼﹂ ﹁ではおやすみ﹂﹁はーいおやすみー﹂ 69 だけをじっと見つめる。 ﹁ワイも寝れんのかもな∼、それに久しぶりに空とか眺めたわ⋮⋮二人はどうなん ▽▲ ﹁⋮⋮って寝とる ﹂ け合い爆睡するアホ二人の姿であった。 ﹂ ふと星空を眺めるのをやめ、隣に並んでいた二人を振り向く。そこには仲良く肩を預 ? ﹂ れ木集めを始める。その際にアインスとツヴァイを蹴り起こすことは忘れない。 そして、気付けば朝である。ドライはそのまま首に突撃銃をぶら下げ、朝食の為の枯 れていたのだろう、五分と経たずに深い眠りに落ちていた。 そのままドライの寝ていた場所を借り受け、眠りにつく。思っていた以上に彼女も疲 る時間がやってくる。 ぐしながら見張りを務めた。彼女が見張っている間は何事もなく過ぎ、ドライと交代す 眠くない発言の意味を問いたくなったフィーアだが、その後早朝付近まで時折体をほ !? ﹂﹁ぷげっ !? ﹁起きろボケ﹂ ﹁ぴぎゃあつ !? やーくとファンタジー 70 あのまま外で毛布を被り爆睡し続けた二人。少しばかり顔に落書きでもしてやろう かと思ったドライだったが、大人げないなと寸でのところで立ち止まる。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ いて、ちょっとのお願いを蔑ろにするという選択肢はない。 ﹁食パンとハム、目玉焼きあればいいかな∼﹂ アインスへと手渡す。 出来上がったホットサンドを、手際よくアルミホイルに開きやすい様に二重に包み、 ﹁出来ましたよ、フィーアの分を渡すので、先に持って行ってください﹂ ば置いてあったマヨネーズを少しかけまた軽く焼く。 を拭きとる。トーストを二枚押し付けながら焼き、ハムエッグをそれにはさみ、気付け ンにバターを落とし四人分のハムエッグを作り、大きめの皿に一度とりわけ、余分な脂 幾時かして、二人が戻ってくる。乾燥した枯れ木に火をつけると、ドライはフライパ 食に最適なモノを取り出す。 アインスは適当に戦闘食料、既に戦闘という名が付いただけのただの食料の中から朝 ・ ま歩き出す。慌ててツヴァイもそれに続く。流石のこの二人も寝ず番を押し付けてお ツヴァイの顔に冷たい濡れタオルを押し付け、強引に拭き意識を覚醒させるとそのま 寝かせてあげてくださいね。そこまでまだ時間が経っていないはずですから﹂ ﹁アインスは朝食の準備を、ツヴァイは私に着いてきなさい。アインス、フィーアはまだ 71 ﹁熱いので気を付けて﹂ すぐさま同じ手際でもう一つを作り上げると、ツヴァイへとそれを手渡す。ツヴァイ でもうっま ドライお前天才だな 半熟卵マジ最高ぅ﹂ はそのまま皿に乗って中央で三角に切られたホットサンドを目をキラキラさせてかぶ うまっ ! ﹁おぉぉう、ザ朝食って感じだね ▽▲ おいしそっ﹂ とに違和感を感じなくなってきた四人であった。 は、少し爆薬を仕掛け爆破する。そしてまた石畳が割れる。すでに開き直って、壊すこ 金目の物をすべて回収し終えた一行。ばらした馬車は燃やして、壊れていない部分 ! 待機していた。 満更でもない顔でアインスの分も仕上げる。気づけばアインスはフライパンの横で ! りつく。 ﹁熱っ ! ﹁⋮⋮それほどでもないです﹂ ! ﹁宝石の類もあったなぁ⋮⋮、換金方法みつけんとな﹂ ﹁金貨５０枚銀貨２００枚銅貨４００枚、恐らく大金でしょうね﹂ やーくとファンタジー 72 王虎を運転しながら、手に入れた戦果 の確認だ。袋に手を入れてじゃらじゃらとす ドライなんて居ないのだ。 ﹁見てみなよ、ツヴァイ。まるで死んでるみたいでしょ ? ﹁﹁⋮⋮ん ﹂﹂﹁あれ ﹂ ﹂ ﹁そう 合ってる ﹂ ﹁いや、なんか死んでるのがウソみた 何かこんな感動のセリフ無かったけ 身がないだけで、人は普通は生きられない。当然ながら即死コースである。 アインスが下半身が異次元へと旅立った遺体の近くでツヴァイに話しかける。下半 ﹁⋮⋮そりゃ死んでるからな﹂ ﹂ 死体漁りの為に並べたとは言わない。ポケットの中まで調べて、 ﹁しけてんな﹂と呟いた それでも、遺体は馬車より引きずり出して道の端に順に並べる。遺体検分という名の ろ、堕ちるところまで堕ちてやろうと開き直っているといってもいい。 るその行為は正に悪。彼女たちの辞書に死者を弔うという言葉は既にないのだ。むし ? いだとかいうやつ﹂ ﹁あぁ、何となく分かった。でもなんか違くね よたぶん﹂ ? ? ﹁さて、遺体はドラム缶いれ入念に燃やしましょう。軽油ぶっかけて何回も燃やせばあ 常に疑問しか湧かないその他のまともな二人。 態々体が半分存在しない騎士風の男で感動のセリフを言おうと何故思ったのか。非 ? ? ? ﹁知らねぇよ、死んでんだから死んでんだろう ? 73 る程度灰になるでしょうし﹂ やってることが殺人犯の死体遺棄での証拠隠滅方法の最も確実な一つのそれである。 某猫型なロボット的扱いのアインスがドラム缶︵軽油︶を取り出し、ドラム缶︵空︶を 六つを一つずつ並べて四人がかりで何とか設置する。発見した遺体は、十二名、一つに 二人突っ込んでキャンプファイヤーである。 ﹂ ﹁燃え上がれ∼燃え上がれ∼燃え上がれ∼ガ﹂ ﹁やめい どうしました ﹂ だろう。人を大量に燃やせば唇に油がねちっこく付くらしい。 人を燃やしているとは思い難い気楽さ。強制収容所のドイツ兵ですらもう少しマシ ! ? き。 出てこい ﹂ ! ﹁だいじょぶだよ 言語パッチ効いてるから ﹂ ! 言語パッチとは、ゲーム内自動翻訳パッチで、ゲームを展開している諸外国プレイ ! ﹁⋮⋮もし生き残りでも言葉通じるんかなぁ∼﹂ ! 少しばかり辺りより茂みが深く、尚且つ風によって揺れているにしては不自然すぎる動 ふと、フィーアが林の中を見つめるのが目に入るドライ。同じくその場所を向けば、 ﹁ん ? ﹁誰かいるのか やーくとファンタジー 74 ﹂という、正式にゲームを公開している国の言葉を自動で登録した ヤーとのやり取りを円滑にするために導入されているモノだ。謳い文句は﹁これで貴方 もマルチリンガル プレイヤー国の言語に翻訳してくれるのである。 ! ﹁金髪碧眼⋮⋮アーリア人だ ﹂ ﹁あぁ、アーリア人は殺さない。なんせ高等民族だからな、友よ。怯えることはないぞ﹂ ! １５ｃｍほど高い。 いった風貌の少女で、女中服を着用しており、身長はロリッタ│の面々よりも拳二つ分 メイド 金色の髪と狐耳の少女、ついでに尻尾もついている。どちらかといえば可愛らしいと ﹁こ、殺さないで下さい。お、お金はワタクシ持っていません﹂ やら人型であるが、四つん這いで明らかに怯えているのが分かる。 と、そこまで言ってようやく観念したのか、茂みの中より何かが這い出てくる。どう いっても良いほどだ。 嘘である。結構ずっと驚きっぱなしなのがドライだ。むしろ、ドライが驚き担当と ﹁まぁ、今更何があっても私は驚きません﹂ 立たぬだろう。 少なくともゲーム内で実装はされていない。当然ながら今後も実装される予定すら ﹁すごいなぁ、言語パッチ。何時の間に異世界語にも対応したんや⋮⋮﹂ 75 こ い つ ら ・ ・ アインスとツヴァイのアーリア人の基準はどうやら激緩らしい。金髪碧眼であれば、 どれほど元の世界でありえないモノが装着されていようと関係ないのだ。 すべて見られていたと確信したドライが、明らかに脅す。隣ではフィーアとそのほか ﹁ふむ、これは良い情報源です。従え、さもなくば生きたまま燃やしてやる﹂ ﹂ 二名がドン引きした目でドライを見つめる。 ﹁ひぃっ わ﹂ ▽▲ ? その後、数分待ち命乞いが終わるのを待つ。包囲されたまま、無言のままで見つめら ﹁⋮⋮はい﹂ ﹂ ﹁何やろうな、ワイもないとは思うけど、アインスはんとツヴァイはんには納得できへん ﹁外道め、血も涙もない﹂ ﹁ないわードライ。流石にうちもでも分かるぐらいないわー﹂ を巻き起こし、更には目の前で彼女の知人が燃やされたのだから。 頭を抱えうずくまり、 ﹁殺さないで殺さないで﹂と命乞いを始める。当然だ、あの惨状 ! ﹁さて落ち着きましたか やーくとファンタジー 76 れ続ければ流石に意味はないと理解して、それ以上慈悲にすがることはしない。 方の質問に答えます。一度に一回ずつ、どうですか 公平でしょう ﹂ ? き ぞ く ﹁では、一つ貴方方はどういった集団だったのですか ２０分の刑という恐ろしい罰が待っている。 ? ないのだから ﹂ ⋮⋮失礼、では次の質問です。貴方方はどうしてあの独活の大木共に追 害が出ただけです。その分貴方は幸運だ、何せあの攻撃を受けてなお、腕一つ失ってい ﹁何故と言われても意味なぞ在りません、ただ目障りな存在を撃ったら貴方たちにも被 ﹁な、何故、ワタクシ達は襲われたのですか ﹂ 手で口を押え話すこと禁じられている。もし質問の間に話せば、手足を縛ってくすぐり ちなみに、アインスとツヴァイはくだらない質問をすることが目に見えているので、 ﹁⋮⋮ふむ、では貴方も一つどうぞ﹂ ﹁ヴェルーサの守護役とその護衛、ワタクシは最近雇われた女中です﹂ ? ﹁⋮⋮は、はい﹂ 与えることで、重大な情報を引き出し易くするのが目的の尋問法なのだ。 入るスキを与える、尋問方法の一つである。緊迫しすぎた現場で、少しだけのゆとりを 銃を構えた人間が取り囲む状況なぞ、明らかに公平ではない。これは相手の心に付け ? ﹁まず、此処は公平にいきましょう、私たちが一つ質問するので、それに応じて私達も貴 77 ! われていたのですか ﹂ ﹂ ? 作を与えることも忘れてはならない。 込むような発言を少しずつ混ぜてゆく。この時に身振り手振りを加え、劇調に大きな動 そして、こちらにとって都合のよい余分な情報を相手に与え、自らが悪であると思い せんので、では次をどうぞ 逃げることが主で、増援要請は建前のようだとは思いませんか、これは質問ではありま ﹁ほぅ⋮⋮増援要請ですか、にしては大金を持っているとは、不思議なモノです。まるで きたのです﹂ ﹁ヴェ、ヴェルーサより、増援要請を他都市へ行うためでした。その道中で奴らが襲って だ。 に問答を再開する。この緩急も大事であり、緊張と弛緩を繰り返すことこそがコツなの 時折、あたかも感情的に聞こえる答え方をし威圧する。すぐさまトーンを戻し、冷静 ? それら全て 貴方の選択肢によって貴方が此処で捨て置かれごみ切 ! れの様になるのか、あるいは野垂れ死ぬのか、あの人外共の餌になるのか 貴方の選択肢だ﹂ ! 方への決定権はないのだから ﹁⋮⋮それは大変難しい話だ、それは貴方の好きにしたらよい。それは何故か、我々に貴 ﹁ワ、ワタクシはどうなるのでしょうか﹂ やーくとファンタジー 78 そして、相手にとって最低な状況を提示し、こちらに従うことがまるで唯一の生存の 道だと思わせる。そうすることで、忠実な下僕は出来上がる。 我々はそれで一向に ? ・ ・ それは貴方一人がなせる ? ﹂ ! ﹂ ? ﹁酷いよ ドライ ﹁そうだ、そうだ 流石に可哀想だよ ﹂ ! 君名前はなんていうんだ オレはツヴァイ﹂ ? ! ! ! 力が抜け、何か救われた気がする、これで完成。 強いられた後に、そっと近づき、子供をあやすように頬を撫でる。すると、一度に体の 立ち上がることが出来ぬまま、質問という名の尋問を受け続け、更には緊張の連続を ません。励みなさい ﹁ふむ、仕方がありませんね。そこまで気持ちが固いのなら、こちらもやぶさかでもあり ﹁い、嫌です、逆らいません、逆らいませんので、どうか、どうか⋮⋮﹂ 必要ないと告げ、相手の価値を最低に貶めることで反乱の芽をも摘む。 相手が唯一の選択肢だと思ったモノ、思い込んだモノすらをも断り、こちらにお前は 兵力なぞすべて葬り去る力が ことで我々が被害を被ることはありえない、何故か 我々には力がある。貴殿の呼べる ? 構わない、貴方が我々の行いを密告するのも自由だ、何故か ﹁いえいえ、何も我々に絶対に従う必要なぞない、自由にしなさい ﹁し、死にたくありません。お願いいたします。どうかワタクシを貴方方へ⋮⋮﹂ 79 ﹁うちはアインス、ドライは最低だけど、うちらは君のこといじめないからね て友好的態度を見せていたのもこれに付随効果を与える。 ﹁ワ、ワタクシはメリッサ、狐属人族のメリッサと申します﹂ ▽▲ ﹂ メリッサはその後身ぐるみをはがされ、ドイツ兵のＭ３６野戦服とＭ３５鉄兜を与え シュタールヘルム ば、狐耳の少女が寝返る可能性が非常に減るのである。元々よりこの二人が彼女に対し ンスとツヴァイはそうではない。﹃この人たちは私の唯一の味方だ﹄、だと彼女が思え ドライは彼女に確実に嫌われた、もしくは苦手以上の意識を持たれただろうが、アイ ただけだ。 み通りである。締めに締め上げて緩めれば、人は容易く堕ちるらしいのでその通りにし 終わった瞬間に大声でドライを非難するアホ二人。ちなみにここまでドライの見込 ! られた。しかし、頭上にある狐耳によって鉄兜は被ることが出来ない。その為、首にか けるのみで、頭の上には３８略帽を折り曲げて無理やり頭にのせている。 ﹂ ! ﹁あ、ありがとうございます ﹂ ﹁あぁ、流石はドイツ兵。狐耳にもベストマッチだ﹂ ﹁うむ、似合っているよ やーくとファンタジー 80 ! 軍服とは統一感を出すための物でもあり、戦車兵服であるＰｚ服、黒服とは造りも異 なるが、雰囲気そのものはドイツ系の独特な軍服である。さらにドイツ十字もアインス 階級は ﹂ たちの黒服同様、左胸のポケット付近にぶら下がっている。 ﹁どうする ? ﹂ ? ﹂ ! していく。証拠隠滅の完了である。 残りの軽油をぶっかけてドラム缶で燃やす。その後ドラム缶は蹴り倒し、林の中へ転が その後、彼女も参加し馬車の爆破しても形の残る部分を王虎の体当たりで完全粉砕。 の度肝を抜くこと確実だ。最後まで戦おうとしたドイツ兵︵笑︶を称賛するに違いない。 イツ首脳陣。戦車が撃破された後は確実に大騒ぎになるだろう。パットン、スターリン れが本来の歴史で再現されていたなら失笑モノな状況だ。戦車に乗って脱出を計るド ようやくまともな階級が出てきたが、既に王虎の中はベルリン総本部である。もしこ ﹁じゃぁ、メリッサは軍曹ね 戦車の運転と銃座に付く高級将校とはいったい。 ﹁じゃぁ私は親衛隊少将にしましょう﹂﹁ワイは陸軍参謀長官中将な﹂ はて、何時から総統は階級になったのか。 ﹁じゃあ、うち総統﹂﹁オレ大佐な ﹁そもそもオレたちの階級も決めてないからな⋮⋮ゲーム内の階級はカンストだし﹂ ? 81 ﹁メリッサ、今より街へ向かいますが、貴方は砲塔の後ろに立ちなさい。アインスも上半 身出していつでも銃撃できる状況を﹂ メリッサの話を詳しく聞けば、ヴェルーサは今現在、魔人の群れに包囲されており目 立った戦力もない街なので窮地に立たされているらしい。ここで救援に向かえば、領主 的存在も昇天した後なので、立場的優位に立てる。 何となくそう考えた一行は、王虎をヴェルーサへ、といっても進路も進む方向も変わ らないのだが、向けるのだった。 しかし、実際にはどのような敵なのか、敵がどれほどいるのかも、街がどういった構 造なのかも聞かぬままそこへ向かうと決めたのだから、相当馬鹿な判断である。 アインスがメリッサへと突撃銃１つと弾倉６つ手渡す。一応の使い方を教え、林へと ﹁メリッサ、これあげるね﹂ 撃ってみせ、どういったモノなのかを説明する。 敵になりえた存在に高威力の武器を手渡すのは非常に愚かな行為であるが、威力を見 せられ、それを手渡され、その威力故に信頼の証であると勝手に考えたメリッサは自ら やー ﹂ の有用さを見せつけることが出来ると、叛逆を考えることもせず、やる気を出した。完 やぼーる メリッサ返事は了解、もしくはＪａだからね ? 全に堕ちている。 ﹁いい ? やーくとファンタジー 82 ﹂ ! ▽▲ に忠犬ならぬ忠狐を手に入れたのであった。ただ し、幼女に片足突っ込んだままのけもみみ少女な ? ド ゲー ム も、当たり確率は下がりやはり撃破に至らないことが多かったりする。それでも当たる 索敵済みでない敵も攻撃できるのだが、もし目標の砲撃地点に本当に敵がいたとして りするので終わらないときは終わらない。 ゲームである。地形によっては攻撃の当たる確率が減ったり、索敵の成功率が変動した をサイコロを振り索敵、もしくは攻撃して敵を倒して最初に定められた目標を達成する 戦車と航空機を定められた自陣に置き、少しずつ相手側に進ませてゆき、見えない敵 に航空機と戦闘車両で行われるゲームである。 ボードゲームによく似たモノで、内容が内陸部がメインとなっており、戦艦等の代わり ハ ッ チ の 上 で メ リ ッ サ と 共 に とある机上演習 を 行 っ て い た。バ ト ル シ ッ プ と 呼 ば れ る ボー 再びゆっくりと進む王虎。気付けばアインス、ツヴァイは砲塔の後ろのメンテナンス ? ある。こうして一行はなし崩し的 アインスやツヴァイの気の抜けた返事よりはるかに本来の発音に近い了承の返答で ﹁了解︽ヤボール︾ 83 ときは当たるし、航空機爆撃なんかの攻撃は命中率が高くなったりしている。逆に爆撃 す く 機への戦闘機攻撃成功率は非常に高かったりと、対空車両の戦闘機への攻撃成功率は高 かったり、ある程度は竦みも出来上がっている。 それでも、結局はプレイヤーの直感とサイコロによって全てが決まるモノである。 ﹁なんだと⋮⋮﹂ ﹁はい、ツヴァイの負け│、これでツヴァイは降格大佐から中佐に下がりまーす﹂ メリッサとツヴァイの机上演習ではメリッサが盲目撃ちを行い続け、それでもツヴァ イ の 軍 団 に 対 し て ク リ テ ィ カ ル を 出 し ま く る と い う 奇 跡 が お き た。逆 に 索 敵 済 み で ﹂ あってもサイコロの目が悪かったツヴァイは一切攻撃が当たらず、次々と撃破されてゆ く。 ﹁メリッサは軍曹から中尉に昇進ね これは佐官を倒した故の跳び昇級だ。しかし、ボードゲームで階級が変わってしまう ? これはオレのジツリキじゃぁない ! もう一度、もう一度チャンスをくれ とは、恐ろしい集団である。そもそも階級が自己申告な時点で終わっているのだが。 ﹂ ! ! ⋮⋮メリッサ中尉奴を連れて行け ﹂ ﹁ふっふっふっ、ツヴァイ君、よく聞き給え。戦争に、いや戦場に、二度目はないのだよ 総統閣下 ﹁待ってくれ やーくとファンタジー 84 ! ﹁え ワタクシはツヴァイ様をどこに連れて行けばいいのでしょう ﹂ ? る。 ﹁そんなぁ馬鹿な⋮⋮﹂﹁は、はぁ⋮⋮よろしいので ﹁⋮⋮メリッサ大佐ね ツヴァイは少尉∼﹂ ﹂ ナーズラックは流石になかったようだが、それでも僅差でツヴァイは負け続けたのであ 結局あの後、４戦ほどリベンジを行ったが、ツヴァイの全敗であった。最初程のビギ ? た。 ▽▲ ? やはりというべきか、少しばかり及び腰なのは仕方がないのだろう。今現在は人の歩 かかるかと﹂ ﹁⋮⋮ワタクシ達が街を出て馬の歩く速度で三日ですので、この速さなら同じ三日ほど から、街が近いと思っていたのだが、そうでもないようである。 た。しかしそれがすでに夕方であった。メリッサたちの乗っていた馬車が居たものだ 出発して７時間、持っていた中の透けて見える懐中時計は出発時朝９時を指してい ﹁これ何時頃着くのでしょうか ﹂ 気づけば面々の中で一番下っ端階級へと下がったことになっているツヴァイであっ ? ? 85 ﹂ く速さよりほんの少し早い程度、加速すれば１０倍ほどまでんら余裕で速度を上昇させ ﹂ ぶち壊していこうぜー、なぁ∼メリッサお前もそう思うだろう あ、はい﹂﹁ツヴァイ少尉、大佐に対して頭が高いと思わないかね ? ﹂ 容易く絶命する武器を手に入れて、これさえあればと歓喜していた。 からは銃撃に加わり、今まで撃破すること、むしろ逃げることすらできなかった強敵が 骸は放置している。当初はオーガの出現に大騒ぎしていたメリッサであったが、二匹目 そして先ほどから大量に現れるオーガとゴブリン。今のところ見つけ次第射殺し死 ﹁あ、またオーガ﹂ もはや、階級とは何だったのか、良く分からないことになっている集団である。 ? られる。だがしかし、やはり石畳は砕ける。 え ? ﹁今更じゃない ﹁え ? ﹁あぁ、それかオレ、さっき機甲師団指揮官少将まで昇進したから﹂﹁なら良し﹂ ? ! レベルまで研ぎ澄まされた見敵必殺。むしろ見的必 ? ﹁そりゃ、攻撃されてるからだろ ﹂ ﹁でもさー、なんで増援が必要だったの ? ﹂ 殺。どう考えてもいけない人たちである。 性あるかもだし、いかんでしょ 見つけては射殺、むしろ探して射殺。動くものがあれば射殺。いや、これ誤射の可能 ﹁一つ二つ三つ、それでっど やーくとファンタジー 86 ? ﹁﹁﹁⋮⋮ん ﹂﹂﹂ ? ﹁⋮⋮何を言ってるんですか ﹂ ほら、元から２５ｋｍ／ｈは出てましたよ ﹂ ? けている中で爆音を上げて走行すれば、王虎はどう考えても注目の的となる。恐らくそ その時間では既に到着時刻は夜１０時ぐらいである。もし大軍による攻撃、包囲を受 速度なら約６時間後には目的地周辺です﹂ ﹁さて、先ほどの速度で日中移動１２時間、時速４ｋｍとして距離１４５ｋｍほど、この け銃を構え、アインスと背中合わせに銃を構える。 そのまま二人は慌てて砲塔内に戻り、ハッチ銃座と砲に着く。メリッサは砲塔に腰か ﹁﹁死ぬかと思った⋮⋮﹂﹂ る。 振り落とされそうになるが、メリッサに間一髪のところで首根っこを掴まれ難を逃れ エンジン騒音が大きくなり、ガリガリと履帯が石を削る。突然の加速でアホ二名ほど ﹁どう考えても無理あるんとちゃうかな⋮⋮流石に﹂ ? グに気を取られて本来の目的なんてものは忘却の彼方であった。 かったのであろう、誰一人。メリッサですらスクロールゲーと化したオーガハンティン フィーアが呟いた瞬間、アクセルがぐいっと踏み込まれる。明らかに気づいていな ﹁なぁ∼ドライはん、めっちゃ石畳気にしとる場合とちゃうんやない ? 87 の辺は何も考えていない。 結局、二時間ほど爆走したのちに再び暗くなってそのことに気付くドライ。そのま ま、またもや夕飯の支度である。ちなみにまた焼肉であった。メリッサも知人の焼き肉 を見学した後なので、何かしらの抵抗があるかと思われたが、流石は肉食系の狐の獣人 的存在。焼き肉美味しく頂きました。 ▽▲ 次の日の正午、アイテムのチョコレートを頬張りながら、５人は攻城戦が繰り広げら ﹁⋮⋮ねぇ、すっごいね、この数﹂ れるヴェルーサを遠巻きに眺めていた。コーヒー美味いわー、カフェオレ美味しいわー と呟き、それぞれが現実逃避を繰り返している。 ﹂ ? ﹂ ? ﹁⋮⋮確か、騎士兵士合わせても１０００ほどしか居なかったかと﹂ ﹁メリッサ、街の軍勢はどれほどでしょうか る。これはこの世界での魔人の軍勢の主だった構成の一つであった。 かなく、敵はオーガの軍勢１万程。その配下には統率された武装ゴブリン４万程であ 明日ぐらいには落城しそうなほどの数の差である。ヴェルーサの城壁は３ｍほどし ﹁ねぇ、メリッサぁ⋮⋮流石にこれは多いよ やーくとファンタジー 88 ﹁まぁ、どうやらそれだけやのうて、街の住人も投石に加わっとるみたいやけどなぁ∼﹂ 鎖帷子も鎧も着用していない貫頭衣の者達も、城壁付近に建っており投石の為にあえ て崩されたレンガ造りの家から、レンガを幾度となく運んで城壁の下にいるオーガやゴ ブリンに投げつけている。ゴブリンはよく死んでいるが、オーガに関しては一切投石が 効いている様子はない。 さらに普通の弓による攻撃も行われているが、あまりオーガへとダメージを与えるこ とが出来ないようで、数少ない弩で少しばかり負傷させるのが限度のようだ。現状ゴブ ﹂ リンへの対処は出来るが、オーガに関しては完全にお手上げ状態であると言えよう。 ﹁どうするん ﹂ ? ﹁まぁ、夜やろうな、やっぱり⋮⋮道沿いの奴だけ片づけて城門の中に入るべきやろう﹂ 高い。 えても殺すよりも早くこの地点へと到達し、彼女たちが率い区にされる可能性のほうが そんなことしたら城壁もないこの街道へとオーガが殺到するだろう。数的にどう考 ﹁墳進弾で面制圧した後に突っ込めばいいと思うけどなー﹂ ﹁いや、これに突っ込むのか しょうね。流石に夜通しは彼らも戦わないでしょうし﹂ ﹁突破は可能ですが、それでも攻勢が弱まるであろう、夜のうちに突撃したほうが良いで ? 89 しかし問題がある、城門は固く閉ざされているという事である。とりあえず、高速移 動できるバイクで突っ込んで城内に入って、夜のうちに王虎を再び突っ込ませる作戦と なった。 もしくはＲ７１コピーの長江﹂﹁べんべーは ﹁ふふふふ、此処に最強の偵察車両べんべーＲ７５∼ヨーロッパ戦線仕様ぅ∼﹂ ﹁なんで ツェンダップＫＳ７５０じゃねえんだよ ﹁ツェンダップは良いバイクやで そ れ に イ ワ ン と 赤 の 手 先 の 生 産 じ ゃ ん﹂ プッシュロッド曲がることに目つぶればやなぁ﹂ るだけでドライブシャフト曲がるんだよ んべー劣化バイクだからダメ。長江に関してはアルミ缶バイクだから、しかも段差跳ね 未だ人気だけど、ツェン潰れてんじゃん。Ｒ７１系統のウラルもドニエプルも長江もべ ? ? は確かです。私も２年ほど前にＫＳ７５０を購入を検討しましたが、売り切れてしまい ﹁それはロイヤルエンフィールド生産の時代でしょう、まぁＢＭＷバイクは壊れないの ? ﹂﹂﹂ ました。価格は４００万程でしたかね。諦めてＲ７５を購入検討していましたが⋮⋮﹂ それ実車 ? ▽▲ だがしかし、彼女たちの足の長さでバイクに乗れるのだろうか ? 結果、乗れませんでした。 ? ﹁﹁﹁⋮⋮ん やーくとファンタジー 90 足は届く、しかしシフトチェンジが出来ない。足ではなく手でのシフトチェンジも試 ﹂ やり方さえ教えてくれれば⋮⋮﹂ みたがやはり無理。そして４人は両手両膝頭を垂れて落ち込んだ。 そんな簡単なモノじゃないんだよ ﹁ワタクシが運転しましょうか ﹁モトラッドはなぁ !? ﹂ ﹁甘くみとるんなら後悔するでぇ∼﹂ ﹁むしろその身長寄こしなさい﹂ ! り一人の場合より命中率の高い射撃もできるからだ。 とも、ある程度の悪路でも容易に乗れ、立ち射などせずとも側車に搭乗している乗員よ ない。その点側車付だと乗車する人数こそ増えるが、泥沼などの不整地に近い道が多く ていない状況では立ち射などが困難で二輪の操作は慣れこそ重要であり、完熟は容易く では現在の職業軍人よりも兵士の訓練期間は短い。射撃が必要な場面で道が舗装され ちなみに一昔前の軍用バイクに側車を取り付けてられている理由だが、ＷＷ２ 時点 の手段も片側だけに限られるのだが。 身体全体を使い側車を浮かせて曲がるかである。結局、側車の取り付け位置によってそ で曲がるので、急カーブなどはまず曲がれない。よって徐行付近まで速度を落とすか、 る。二輪は加重移動とハンドル操作の組み合わせだが、側車付は基本ハンドル操作のみ になったのである。しかし、問題は只の二輪と側車付二輪では乗り方が全く違うのであ 暴虐である。とは言え現状手段はない。諦めてメリッサにバイクの講義を行うこと ﹁そうだそうだ !? ? 91 結果、乗れた。 ﹁うちらは有能だからメリッサもすぐに乗れるようになったんだよね﹂ ﹁間違いないな﹂﹁私に教師の才能あったんですね﹂﹁次生まれてくる時は、先生やな﹂ ﹂ 明らかな妬みの裏返しである。少しの自尊心を砕かれぬように自らを持ち上げるこ 側車にはワイ乗るとして、あと一人誰乗るん とで、バイクに乗れないことを慰めているのだ。 ﹁じゃあ、三人乗るやろ ? 何がいけないのか、何が起こるのかまでは思いつかないので、対処の施しようがない。 しかし、この時点でも既に嫌な予感しかしないドライとフィーアである。とはいえ、 はアインスはんやな﹂ ず考えられないので、これ私は行けませんよね⋮⋮﹂ ﹁じゃあ、メリッサの後ろに乗るん ﹁フィーア、なんかずっこい﹂ ﹁オレはいいや﹂ ﹁アインスとツヴァイだけを残すことはま ? かに爆発するが、実際には障害物を破壊は出来ても吹き飛ばすことは出来ない。この時 今現在やろうとしていることは、完璧にどこぞの大脱走に毒されている。擲弾筒は確 吹き飛ばしながら進むで﹂ てぇな﹂ ﹁ほーい﹂ ﹁メリッサはんは運転に集中しぃ、擲弾筒何個か持って前の障害物は ﹁ワ イ は 前 方 の 敵 の み 蹴 散 ら す さ か い、ア イ ン ス は ん は 左 右 か ら 寄 っ て 来 た 奴 た お し やーくとファンタジー 92 点で作戦ミスである。ボ○ドカーのフロントから発射されるランチャ│のような使い 方をフィーアは考えていたのだが、正直無理である。だが、それを指摘するだけの知識 のある人間はこの場にいない。 ﹁⋮⋮いや、それマジで洒落になってないです﹂ てしまったのだ。それも、一番嫌なタイミングで。 今思えば、アインスとツヴァイのノリに付き合って色々決めてたけど、少し我に返っ 安全な街行けばよかったんじゃないのかとの疑問でいっぱいである。 も、オーガの大軍に突っ込むことになったのか意味が分からない。普通に引き返して、 何でこんなことになったのか、三日ほど遡って考え込みたいほどであるのだが。そもそ 一瞬にして空気が凍った。よく見ればフィーアの目は光を失っている。彼女的には ﹁さて、最後に一つ言っておくねん、⋮⋮ワイ、死にとうない﹂ 93
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