シンガポール代表ニュースレター(H28.7) シンガポール発着貨物について (1) はじめに シンガポールは、古くから地理的条件を背景に、貿易の中継港としての役割を担 い、東南アジアの積み替えハブ港として発展をしてきた。現在、シンガポールにお ける取り扱い貨物の内、85%が積み替え貨物であり、その大部分を占めている。 一方で、シンガポールは、マレーシアからの独立後、工業化に着手し、政府主導で 様々な政策を打ち立て発展をしてきた。今回、シンガポールの主要産業はどういっ たものがあるのかという点に触れ、その中で、日本・シンガポール間での貿易、更 に、そこでの新たな試みについて記載していきたい。 (2) シンガポールの主要産業について シンガポールは、先端技術を擁する外資の積極誘致を行い、工業化を推し進め、発 展してきた。その結果、世界でも有数の競争力を持った国になっていった。現在、 GDP 全体の 20%程を製造業が占めており、主要産業は、エレクトロニクス、化学、 バイオ医薬、輸送機械、精密機器となっており、多くの製品を輸出している。これ らの主要産業は、それぞれシンガポール国内に生産・研究拠点を構えており、各分 野の更なる成長を狙っている。 ○化学 ジュロン島に大規模な石油・化学品工業団地が形成されている。ジュロン島は工業 用地として埋めたてられた人工島で、数多くの石油化学企業が拠点を置いており、 各企業は石油を原料として、化学品など幅広い製品を製造し、海外に多くの製品を 輸出している。 ○バイオ医薬 研究拠点であるバイオポリス、医薬品製造拠点のトゥアス・バイオメディカル・パ ーク、医療機器製造拠点のメドテック・ハブなどの開発を行っており、政府の研究 機関と民間の研究機関の融合を図り、バイオ医薬品分野をより発展させることを狙 っている。 ○輸送機械 セレタ・エアロスペース・パークと呼ばれる大規模な航空関連産業集積拠点をシン ガポール北部に整備しており、航空関連産業の拡大をサポートしている。 ○精密機械 精密工業は、国内に関連企業が約 2,700 社ほどあり、複合装置、船舶、航空宇宙、 石油・ガス、医療機器など多くの産業にとっての根幹となっている。そのため、人 材の育成にも注力をしており、南洋理工大学に精密工学センターを設立し、次世代 の人材を育てている。 1 (3) 日本・シンガポール間の貿易 それでは、日本・シンガポール間での物の動きはどうなっているか見ていきたい。 まず、二国間の輸入・輸出金額(航空含む)は以下の表の通り。基本的には、シンガポ ールは一貫して貿易黒字(輸出>輸入)だが、日本との関係で言うと輸入超過(輸 出<輸入)となっている。 年 2011 2012 2013 2014 2015 対日貿易データ (金額: 100 万ドル) 輸入(JPN->SIN) 輸出(SIN->JPN) 27,265 8,678 23,286 8,761 20,969 7,463 21,018 7,897 19,871 7,904 (出典: JETRO 一部筆者加工) また、日本・シンガポール間の貿易においても、輸出・輸入されている貨物共に、 主要産業に関連している、化学製品、電気機器、機械類、医療用品が半分程を占め ており、シンガポール発着貨物のメインとなっている。また、輸送方法としては、 80%程度を海上輸送が占めている。 (4) 新たな試み 日本・シンガポール間の貿易における新たな試みとして、日本産野菜の海上輸送が 揚げられる。従来、農産物の輸送においては航空輸送が一般的で、輸送日数の観点 から農産物の海上輸送に乗り出す業者はいなかったが、ここ最近、日本食材を取り 巻く物流に変化が起こり始めている。 日本の青果物輸送の新たなトレンドとして、CA コンテナを使用した、青果物の海上 輸送が挙げられる。CA コンテナとは、特殊なリーファーコンテナで、温度だけでは なく、コンテナ内の酸素濃度までを調整することができ、青果物の呼吸量を抑え、 鮮度を維持することができる。それにより、今まで航空輸送しかされてこなかった 葉物野菜、果物においても海上輸送を行うことが出来るようになった。これまで、 日本産野菜は店頭に並ぶ価格が高く、富裕層が主な購買層であったが、海上輸送す ることにより輸送コストが航空便に比べ 10 分の1程度に減り、求めやすい価格にな ることで、海外における消費の拡大を狙っている。現時点では、比較的短い日数(10 日から 2 週間)で輸送ができる、香港やシンガポール向けで海上輸送が開始されてい る。 一方で、課題として、シンガポール国内における日本食材を取り巻く港湾物流環境 が挙げられる。もともと航空輸送をしていたことで港湾物流を考える必要は無かっ たことに加え、シンガポールは農産物の輸出地にはなりえないこともあり、現状 は、日系企業が出資している冷蔵・冷凍倉庫は無く、地場企業の冷蔵・冷凍倉庫を 借りて保管をしているため、日本の農産物に適した物流施設が充実しているとは言 えない状況である。 2 まだ、農産物の海上輸送は始まったばかりで、上記の様な課題はあるが、コスト面 は魅力的であり、今後、輸送が増えていくことが期待される。 (4) まとめ 今回、シンガポールの地場貨物に焦点を当てて記載をしてきた。シンガポールは外 資誘致により工業化を進め、最先端技術を取得し、高付加価値の製造業を発展させ ている。対日貿易において主要品目は製造業関連が引き続き占めていくであろう が、新たな動きにも注視し、シンガポール発着のマーケットにも引き続き注目して いきたい。 以上 3
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