通貨と株式市場-「通貨安=株 」は本当か?(その 4)

2016 年 7 ⽉ 11 ⽇
第 71 号
通貨と株式市場-「通貨安=株⾼」は本当か?(その 4)
大和住銀投信投資顧問 経済調査部
部長 門司 総一郎
前回、前々回と「Brexit」を取り上げましたが、今回は「『通貨安=株高』は本当か?」の続編で
す。為替と業績の関係について考えてみます。
日本では、為替レートが業績に与える影響は非常に大きいと思われており、「為替レートですべて
決まる」という極端な見方もありますが、実際にどの程度関係があるのか、ドル円レートと TOPIX の
予想 1 株当たり利益(EPS)を比較してみます。
円安となった 2006 年や 13-15 年は予想 EPS が増加、円高になった 08 年は減少しました。しかし、
2007 年や 09-10 年は円高にもかかわらず予想 EPS は増加しています。日本の業績にとって為替レート
は重要な要因ではありますが、それで全部決まるといったものではなく、その影響は誇張されている
といってよいでしょう。
次に韓国の状況を見てみます。日本同様に輸出関連企業が多く、為替レートが業績に与える影響が
大きいとのイメージがある韓国ですが、実際にはウォン高の時に利益が増加しています。2008 年はウ
ォン安で EPS が減少、2009-10 年はウォン高にもかかわらず増加しました。2014 年以降は緩やかなウ
ォン安と予想 EPS の減少傾向が続くなど「通貨安=業績悪化」です。豪州も同様に「通貨安=業績悪
化」です。
TOPIXのEPSと円の対ドルレー ト ( 月次)
KOSPIのE PSとウォ ンの対ドルレー ト ( 月次)
150
75
300
800
↑ウォン高
↑円高
250
↓円安
100
50
1000
↓ウォン安
100 200
1200
150
1400
125 100
EPS(左)
1600
EPS(左)
50
0
2006年
150
2008年
2010年
2012年
出所:ブルームバーグ、円は1ドルあたりの円で表示
2014年
0
2006年
2016年
1800
韓国ウォン(右、逆目盛)
日本円(右、逆目盛)
2000
2008年
2010年
2012年
2014年
2016年
出所:ブルームバーグ、ウォンは1ドルあたりのウォンで表示
韓国や豪州では「通貨安=業績悪化」、「通貨高=業績改善」ですが、だからといって通貨安が業
績にマイナスとは見ていません。通貨安は業績にプラスでも、それ以上に大きな影響力を持つ要因が
あるためと考えています。その要因とは世界経済の動向で、メカニズムは以下のようなものになりま
す:
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
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市場のここに注⽬!
2016 年 7 ⽉ 11 ⽇
1.
世界経済が好調な時には業績は世界的に改善する。
2.
また世界経済が好調な時には、投資家のリスク許容度が高まって資金が低金利国(日本など)か
ら高金利国(韓国や豪州)に移動する。そのため低金利通貨は下落、高金利通貨は上昇する(この
点については 6 月 8 日付当コラム「通貨と株式市場『通貨安=株高』は本当か?その 3」をご参
照ください)。
3.
1.2.の結果、日本など低金利通貨国では世界経済が好調な時に「通貨安=業績好調」、高金利
通貨国では「通貨高=業績好調」となる。
4.
世界景気が悪化する時には 3.の逆になる。
S&P/A SX200のE PSと豪ドルの対ドルレー ト ( 月次)
KOSPIのE PSとOECD 景気先行指数( 月次)
1.2
900
↑豪ドル高
750
600
↓豪ドル安
450
300
150
EPS(左)
0
2006年
2008年
2010年
2012年
豪ドル(右)
2014年
出所:ブルームバーグ、豪ドルは1豪ドルあたりのドルで表示
300
6.0%
250
4.5%
0.8
200
3.0%
0.6
150
1.5%
0.4
100
1.0
0.0%
EPS(左)
0.2
50
0.0
0
2006年
2016年
‐1.5%
OECD(6ヵ月前比、右)
‐3.0%
2008年
2010年
2012年
2014年
2016年
出所:ブルームバーグ、ウォンは1ドルあたりのウォンで表示
日本だけ見ていると為替レートで業績が変動しているように見えますが、実際は世界景気の動向
に応じて、為替レートや企業業績が動いているとの考え方です。為替レートの影響よりも、世界経
済の影響の方が大きいということになります。以下、韓国と日本について世界経済、為替レート、
業績の関係を見てみます。
世界経済の動きを示す経済協力開発機構(OECD)の景気先行指数(全加盟国及び新興 6 ヵ国ベース、
6 ヵ月前比)と韓国の株価指数 KOSPI の EPS の推移を見てみます。OECD の指数(以下、単に OECD)は
2007 年の半ばから 08 年の終わりにかけて急低下。サブプライム危機からリーマン・ショックへと世
界経済が急速に悪化したことを示しています。この間 KOSPI の予想 EPS は 2008 年 1 月から 09 年 2
月まで 35%減少しました。
この間、ウォンは大幅安となり、2007 年 10 月 31 日から 09 年 3 月 2 日まで対ドルで 43%下落しまし
た。もし為替レートの業績に与える影響が大きければ、このウォン安は企業業績を下支えしたでしょ
うが、ウォン安にもかかわらず大幅減益となった点から見て通貨安の効果は世界経済悪化の効果に比
べて小さかったと判断しています。
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
る最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げます。
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市場のここに注⽬!
2016 年 7 ⽉ 11 ⽇
S&P/A SX200のE PSとOECD 景気先行指数( 月次)
TOPIXのE PSとOECD 景気先行指数( 月次)
750
6%
125
6%
600
4%
100
4%
450
2%
75
2%
300
0%
50
0%
‐2%
25
EPS(左)
150
0
2006年
OECD(6ヵ月前比、右)
0
2006年
‐4%
2008年
2010年
2012年
2014年
‐2%
EPS(左)
OECD(6ヵ月前比、右)
2016年
出所:ブルームバーグ、豪ドルは1豪ドルあたりのドルで表示
‐4%
2008年
2010年
2012年
2014年
2016年
出所:ブルームバーグ、円は1ドルあたりの円で表示
一方、この時期の TOPIX の予想 EPS は 2008 年 2 月から 09 年 5 月まで 71%減となりました。世界経済
悪化と大幅円高のダブルパンチとなったことが、韓国を上回る減益になった理由です。
韓国の場合はウォン安にもかかわらず大幅減益となったため、ウォン安のプラスより世界経済悪化
のマイナスが大きかったことがわかりますが、日本では世界経済悪化の影響と円高の影響のどちらが
大きかったのか、判別するのは困難です。
しかし、円高が最終的には 2012 年の初めまで続いたにもかかわらず、予想 EPS が 2009 年から 10 年
にかけて増加したことを見ると、円高の悪影響よりも世界経済が持ち直した影響の方が大きかったと
いえるでしょう。
このリーマン・ショック時の大幅減益は世界経済の悪化による部分も含めて円高が理由とされまし
た。この経験がトラウマになり、日本の企業業績は円高でダメージを受けやすいとの認識が広まりま
したが、これは誤った認識であると考えています。
多くの投資家が単に為替レートの動きだけを見て、「日本株はダメ」と安易に判断しているのが現
状ですが、決してそんなことはありません。世界経済の動向を初め、その他の要因についても検討し
た上で、日本株の企業業績や日本株そのものの投資魅力などを判断していただきたいと考えています。
以上
本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので
す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点におけるレポート作成
者の判断に基づくもので、今後予告なしに変更されることがあり、また当社の他の従業員の見解と異なることがあります。投資に関す
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