未来を想い考える 共想・知創 事業創造と人材育成 ~人材育成を入口としたオープンイノベーション~ 富士ゼロックス総合教育研究所 Societal Leadersプロジェクトリーダー 荒木 健次 個と組織 「外部環境の変化にますます 鈍感になっている」「他の人と同じであることに安心してしまっている」「小利口な中堅 損得勘定が先に立つ」「仕事を回せる が増え、短期間で成果が出ないと分かるとすぐに手を引く」 「しつこくやろうとする意欲がない。 人=仕事が出来る人と思いがち。しかも自分たちは発想力があると思い込んでいたりする」「ビジネスをつくっていけるのは限られた人 昨年秋、ある企業から 「小利口な中堅社員に喝を入れ、ワクワク は出口がない」である。何が出口か…。やはり事業創出である。こ させる研修!」というお題をいただいた。「今の30代を中心とする中 れを共通出口 (目的)に据え、そのための手段として様々な人材育成 堅社員は、とても優秀でオペレーションには長けているが、新しい を含める“壮大な剣ヶ峰と制覇の道筋”を試しに作ってみるなんてど ことを創造する力がない」 というのが先方の問題意識である。 うか。頂高くして裾野広し。底辺×高さ÷ 2=コラボ市場(出会い・ 実は今どき (!)、変に考え、挑戦することは無駄だと思っている、 同棲) >イノベーション市場(結婚)…当然前者の方が先で広い。“人 余計なことをして損したくない、自分も組織も本気をあえてうやむ 材育成を入口としたあらゆる連携からの事業創出”。新たなストー やにしている、そんな状態を自虐的に受け入れている、見透かして リー・像が浮かび上がった。 いる、挑戦意欲のある者は会社の枠の外で行動している、これは 世代、時代の共通する悩み…等々、考えを交換しあった。 そんな折、たまたまプロボノ 支援団体と知り合ったこともあり、 * これがきっかけとなり、2016年に入り、“人材育成の、人材育 成による、オープンイノベーションのための連合体”を有志で立ち上 一石を投ずべく共同で企画提案することにした。仕事で身に付けて げた。以降、教育部門、CSR部門、イノベーション推進部門など いる知識・スキル・経験・思考が、一歩外に出てNPO等が取り組 十数社のリーダーが集い、育成の“あいのり”と、社会課題との“か む極めて身近な課題と接するなかで、どれだけ通用するのかを試す けあわせ”を柱に議論を重ね、他社研修のオブザーブや合同育成の 機会になる (=喝を入れる)。またそこから手触り感を得るなかで、 試行を開始している。 何か新しい意欲が芽生える (=ワクワク)と考えた。そしてこれを組 そこでこの誌面では限りあるものの、次ページで、これまで交わ 織のなかでどのように昇華できるのか、息の長い道程を互いに考え、 された意識の断片を紹介したい。人材育成やイノベーションについ 歩むきっかけになると思われた。 て、今、何を思い憂いているのか…。人・組織に潜む深層心理、 熱情を感じ取っていただければと思う。もっとも、まだ緒に就いた ほどなく先方に提案。「まさに外に目を向けさせ、自分を試す良 ばかりであり、これからどのような関係が育まれ、どのような価値 達。そこが抜けたら単なる下請けになり下がってしまう」 「どっちに転ぶか分からない不透明で不安な状態に耐えるタフさがない。黒白 「 はっきりしているものに流れる」 「誰かが決めてくれるのを待っている」 チームの一員としては上手くやる、予定調和はすごくう まい」 「出来上がった感。つまり失敗ができないカルチャーが出来上がってしまった」 「失敗できないことをやり続けてきた結果、 「 社内感度は高いが、外への感度が低い人たちが増えてしまった」 失敗して成長する機会がない。そのため視野が狭くなりコンフ 硬直化している」「社内だけでなく、外部の評価 リクトを避ける。これは我々の責任」 「同質感が益々強くなり、組織も仕事も価値観も を目の当たりにする経験 機会が薄れている」「アイデアが商品・サービス化されない。組織で吸い上げて実現する体制 がない」 人材育成/社会課題/イノベーション 自社だけで研修しても気づきや学びがもはや少ない」「階層やテーマ別のカテゴリー・型を、1回壊しゼロにして考え 「 たい」「育成が企業課題解決にどうつながったか、実はよく分からない」「視野を拡げることが必要だが、ゴールをどこに据えら イノベーションは社会 「 れるか」 「事業の成長と社会課題解決の両立に取り組むなかで、人材育成の重要性に行きついた」 課題からやってくる。社会課題のなかに次の事業のヒントがあることは、もはや誰も否定しないこと」「人材育成は人 「 事部門だけではできない。研修の世界だけでは終わらない」 人材育成と事業の連携 が上手くできていなかった」 人材開発と事業開発の距離を縮める」「人材育成を1社に閉じない」「企業は社会課題を解決したいと思っているわけで 「 は ない 。解 決 することに よって儲 け たい 。両 方 を掘り起 こせる人材 が 必 要 」「社 会 課 題 は 生 活 に 密 着しており、これ に 触 れることで 生活者視点を取り戻す機会になる」「イノベーション人材育成をずっとやっているが、新しいアイデアが事業化まで結び 付かない」「企業人がアイデア出ししても残念なものしか出てこない。地域や異なる人と接することで発想出来るよ 「 うになる」 「組織の受け皿がない以上、その延長上に本当にイノベーションが起こるかは疑問」 出島、 サードプレイスでのトライ アル が必要」「しつこく粘り強くやる意欲の源泉は社会にある」「企業変革やイノベーションは組織のなかで上滑りする」「人材 い機会になる!」との言葉で、ドンピシャ!な感触。武者修行のやり が生み出されるのか、自他共に最大の関心事であり焦点となるが、 方としてウケたわけだが、私自身も外に目を向けた結果のモノダネ その為にも、現在共に歩んでいただけるより多くの方々の参画を募っ 育成はあくまで手段。目的は企業課題と社会課題解決」「孤独に耐え、新しいことを実行できる個の力を再考したい」「面白いこと である。そしてこれに呼応するかのように、次の瞬間「その体験を ている。創造とは何かと何かを結び付ける思考・行為・その意欲 をどんどんやりたいが、 異業種でできないか…」との声が上がった。(あれ、そうきたか…。 に他ならない。その何かと何かの関係をつなぎ、育み、生み出す中 やっぱり相手も自分のところだけでなく、なんだ…) 間機能を、叡智を結集して割り出し、その姿・形を世の中に示して 「じゃあ、せっかくなので、お互いに他の企業にも声掛けしてみま いけたらと思う (JOIN◇しよう!)。 しょう…」 帰り道、振り返り、オープン化の波、自社だけでなく他社や異質 *プロボノ:ラテン語の“probono publico”(公共善のために) の略:社会人が仕事を 通じて培った知識やスキル、経験を社会貢献に活かす活動 周囲を説得するロジックがどう作れるか」 異業種交流について 「 「今までやってきたが、研修会場の中のことだった」 業務の中でアウトプットしていく機会があれば面白い」 「外注委託なのでま かせっきり。自社の教育への整合性や一貫性が弱い」 「機会は山ほどあるが対話どまり。社会課題について異業種で取り組み、成 功・失敗する経験を得られる機会をつくりたい」 「一過性の刺激で終わらず、プロジェクト・ベースド・ラーニングなど、刺激を実際の活動に を組み合わせるやり方は、研究・商品・事業開発のみならず、人 「人財オープンイノベーションネットワーク」 つなげる、アウトプットを出させたい」 「目に見えているものではなく、自分達で課題を発掘して異業種コラボするようなものをやっ 材開発の現場にも及んでいる。すなわち“他社と一緒に人材育成を (J.O.I.N:Jinzai Open Innovation Network) てみたい」 「NPOとコラボし理念が重要だと思うようになった。会社の中だけ意識するのは難しい。NPOの彼らは理念だけで生きている」 行うニーズ”を再確認した。ただ先方の見解は 「今の異業種交流に 12 お問い合せ先:[email protected] 13
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