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カレント・トピックス No.16-29
平成28年7月14日
16-29号
カレント・トピックス
独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構
韓国の鉛二次精錬会社摘発に見る二次鉛生産動向及び法規制
<調査部金属資源調査課 畝井杏菜 報告>
はじめに
2016 年 5 月、韓国の鉛二次精錬会社 1が不法廃棄の容疑により韓国環境部に摘発された。近年韓
国は廃鉛バッテリーを積極的に輸入しており、その輸入量は増加傾向、輸入先も太平洋沿岸諸国
からアフリカ諸国まで多岐に亘っている。韓国の精錬会社が高額で廃鉛バッテリーを買い取るた
め、日本から韓国への廃鉛バッテリー流出は深刻化、日本の二次鉛生産量は減少傾向にある。
これまで日本国内の精錬会社の間では、韓国の精錬会社がなぜ廃鉛バッテリーを高価に買取し
ながら採算が取れるのか不思議とされてきたが、今回の不法廃棄摘発から、一部の業者は不法廃
棄によりコストの低減を行っていたと言われている。
本稿では、今回の韓国の鉛二次精錬会社摘発問題の背景を整理することを目的に、韓国の廃鉛
バッテリーに関する法規制、及び 2015 年の韓国の廃鉛バッテリー輸入状況、二次鉛生産動向につ
いて述べる。
1. 韓国環境部による鉛二次精錬会社摘発の概要
2016年6月23日、韓国環境部は数年間に亘り、法的基準値の最大682倍のヒ素を含んだ鉱滓(スラグ)
17 万 t を組織的に違法に廃棄してきたとして、鉛二次精錬会社 11 社を同年 5 月に摘発したことを明らか
にした。韓国では、スラグは指定廃棄物として処理しなければならないところ、これら摘発会社は廃棄
物管理システムである All Baro システム 2に一般廃棄
物として登録し、有害物質の運搬業者・処理業者が摘
発業者から委託されたスラグを一般廃棄物と同様に全
羅北道益山市の最終処分場等へ埋め立てたとのことで
ある。排出するスラグのうち、有害物質を含まない部
分を検査用に提出していたために発覚を免れてきた。
また、こうした違法な埋め立てにより、56 億ウォンの
不当収益を得たと報道されている。この摘発で、違法
性が高いとして摘発会社から 4 名の会社役員が逮捕・
拘束され、20 名が送検された。なお、本報道では摘発
された企業名及び個人名は明らかにされていない。
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図 1. All Baro システムメイン画面
(www.allbaro.or.kr)
鉛二次精錬とは、廃鉛バッテリー(鉛蓄電池)を主原料とした精錬による再生鉛地金(二次鉛)製造を意味し、鉱石
を原料として鉛新地金(一次鉛)を作る一次製錬と区別して使われる。
産業廃棄物の発生、運搬、処理までを包括管理する、韓国環境公社の管理下にあるオンラインシステム(電子マニュ
フェスト)。日本でも、All Baro システム同様、公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センターが運営する JWNet
(http://www.jwnet.or.jp/)が存在する。
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鉛バッテリーには、電極板に鉛及び鉛化合物が、電解液に希硫酸が使われている。さらに電極
版は、鉛合金製格子に鉛ペーストを充填して製造されるが、ヒ素はこの格子板に使用されており、
鉛の強度確保に必要な原料である。そのため、廃鉛バッテリーを処理して二次鉛にする過程にお
いては、分離の際に硫酸や鉛の粉塵が発生するのはもちろん、極板を溶融する際に生じる不純物
に、ヒ素等の人体への有害物質が含まれるため、適切な処理工程が必須である。
2. 韓国における廃棄物管理法規制
今回、摘発された韓国の鉛二次精錬会社は、適切な廃棄物処理を行わなかったために逮捕・送
検される事態となった。以下、韓国における廃棄物管理法制について説明する。
韓国では、産業廃棄物は「一般廃棄物」と「指定廃棄物」に区分されており、このうち廃鉛バ
ッテリーは、「指定廃棄物」に区分されており、国内での処理について厳しく法律で規制されて
いる。韓国の廃棄物取扱いに係わる法律は、表 1 のとおり、基本法である「廃棄物管理法」を中
心に、複数の法律が定められている。また、廃棄物の輸出入においては、バーゼル条約に則り、
韓国国内法で定められた廃棄物分類に加え「申告対象廃棄物」「許可対象廃棄物」の分類がある。
輸出入においては、廃鉛バッテリーは「許可対象廃棄物」に区分されている。図 2 に示すとおり、
まず韓国における指定廃棄物の輸入についての手続きの流れを、次に廃鉛バッテリーの精錬処理
後に排出されるスラグの処理手続きの流れについて説明する。
表 1. 韓国における廃棄物取扱いに係る法律
法令
廃棄物管理法
資源の節約とリサイクル促進に関する法律
廃棄物の国家間移動及び
その処理に関する法律
電気・電子製品及び自動車の
資源循環に関する法律
廃棄物処理施設設置促進及び周辺地域
支援等に関する法律
主要内容
・廃棄物の概念及び分類の規定
・廃棄物処理基準、処理施設、処理業の許可
・廃棄物輸出入及び廃棄物リサイクルの申告
・包括的リサイクル政策方針
・廃棄物負担金、生産者責任リサイクル制度
(「バーゼル条約」の国内批准法)
・有害廃棄物の輸出入許可
・有害物質使用制限
・品目別リサイクル目標率
・工業団地や住宅地開発時の廃棄物処理施設設置
・処理施設周辺への影響に対する支援
出典:韓国環境部
図 2. 廃鉛バッテリー(指定廃棄物)の輸入から最終処理までのフロー
(筆者作成)
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(1)指定廃棄物の輸入
日本は、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」(バ
ーゼル条約)に批准しており、その国内法である「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関す
る法律」(バーゼル法)によって廃鉛バッテリー含む特定有害廃棄物の輸出入について定めて
いる。バーゼル条約では、特定有害廃棄物の輸入の際には事前に相手国からの書面による通告、
経済産業大臣の許可が必要となる。韓国も日本と同様、バーゼル条約に批准しており、その輸
出入には政府の許可が必要である。
許可対象廃棄物輸入については、基本的には「廃棄物の国家間移動及びその処理に関する法
律」に従って手続きが進められる。図 3 にその手続きの流れを示す。再処理業者及び輸入業者
は、環境部に輸入について申告し、許可を得る必要があるが、輸入業者は処理業者の申告を兼
ねることが出来る。但し、輸入業者は廃棄物の収集(保管)や運搬、処理を行うことは禁じら
れている。申告の際には、輸入価格(CIF)を明記した輸入契約書・注文書、輸入廃棄物の運
搬に係る契約書、輸入廃棄物の処理計画書、輸入廃棄物の分析結果書、輸入計画書の提出が必
要である。また、廃棄物の輸入、運搬、処理を行った次年度 2 月末までに、実績報告書を関連
機関へ提出しなければならない。
環境部の承認が得られるのは、廃鉛バッテリー処理のための適切な施設を有し、適切な技術
者を有する業者、また輸入した廃鉛バッテリーを適切に処理し、有効な資源としてリサイクル
が可能な業者である。廃棄物の OECD 域外への輸出は、厳しく制限されているものの、輸入に
ついては法によって制限されておらず、輸出国及び環境部が認める場合には輸入可能となって
いる。なお、この輸入登録においても All Baro システムの利用が可能である。
図 3. 韓国における指定廃棄物の輸入手続きフロー
(筆者作成)
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(2)国内における指定廃棄物の運搬・処理
廃棄物の排出事業者は、自治体への事業所申告が課せられており、廃棄物排出抑制義務がある。廃
棄物処理の過程においては、まず廃棄物処理計画、廃棄物分析結果、委託先の受託確認書を自治体へ
提出し、許可を得なければならない。許可を得て収集運搬業者、中間処理業者、最終処理業者等へ引
き渡すまでの間、排出事業者は発生した廃棄物を種類別に区分し、事業所内の適切な保管施設におい
て保管する。なお、指定廃棄物は保管期間が 45~60 日内と制限されている(一般廃棄物は 90 日)。
また、排出事業者は、産業廃棄物処理の過程において、適切な処理を管理するために事業所
廃棄物管理台帳(マニュフェスト)の作成が義務付けられている。韓国政府は、より透明性を
もった廃棄物管理を行うために、マニフェスト電子化(All Baro システムの利用)を推進して
いる。All Baro システム利用の場合、排出業者は廃棄物を委託先へ引き継ぐ際にシステムに廃
棄物の発生量や種類について登録・入力を行う。リサイクル・最終処分事業者で、最終的な事
業所廃棄物管理台帳への記録あるいは All Baro システムへの入力を行い、自治体への実績報告
書を提出することで、廃棄物の処理が完了する。
3. 韓国二次鉛生産
韓国で鉛の一次製錬を行っている企業は、KOREA ZINC 社(年間生産能力 43 万 t)のみだが、二
次精錬を行う会社は 20 社程度あると言われている。表 2 に大手鉛二次精錬会社を示す。表 2 に示
す大手 7 社だけで、およそ 38 万 t の年間生産能力を持ち、韓国国内の二次鉛生産のほとんどを担
っている。また、これら企業以外にも生産能力の小さい中小企業も多数存在しており、正確な精
錬会社数は定かではない。
図 4 に韓国の鉛地金生産量、図 5 に鉛地金価格推移を示す。鉛価格が急騰した 2006~2007 年から
生産量は増加傾向、2015 年の二次鉛生産量は 35 万 t となり、2000 年比で 7 倍に達した(一次鉛は
同年比で 2 倍)。2012 年以降、鉛価格は 2,000US$/t 前後の価格帯で推移するようになったものの、
韓国の鉛二次生産はその勢いを弱めることなく増加し続け、2014 年以降は、二次鉛生産量が一次鉛
を上回った。なお、KOREA ZINC 社は 2016 年に鉛製錬工場を増強し、年間生産量を 30 万 t から 43
万 t に引き上げたため、2016 年には再び一次鉛生産量が二次鉛を上回ると予想される。日本の二次
鉛生産量は、2008 年の 17.3 万 t をピークに減少傾向にあり、2015 年は 15 万 t を下回った。
表 2. 韓国の大手鉛二次精錬会社
JOONG-IL
本社:京畿道安山市
1976 年創業。精錬所を Ansan 工場(京畿道安山市)及び Kimhae 工場(慶尚南道
金海市)に有し、鉛地金の他、鉛合金や鉛粉等を生産し、主にバッテリーメー
カーへ供給している。年間生産量は 4.5 万 t。
HWACHANG
本社:慶尚南道咸安郡
1976 年に廃鉛バッテリー処理事業を開始、アンチモン鉛合金を製造。2007 年よ
り鉛地金生産を開始し、2010 年より銅製錬会社大手 LS Nikko Copper 社の傘下
にある。年間生産能力は 4.5 万 t。鉛二次精錬のみならず、精錬プラントの輸出
も手掛けている。
1984 年創業。2004 年に生産能力を 6 千 t から 1 万 t まで拡大。二次鉛生産のみ
を手がけている。
1993 年操業開始。年間生産能力は 3.6 万 t。国内における二次鉛生産の他、1997
年以降海外投資にも乗り出し、現在は中国やマレーシアに精錬所を所有、韓国
国内へ鉛地金を供給している。
2007 年創業。現在は Jangseong 工場(全羅南道長城郡)に精錬所を有してお
り、年間生産能力は 4 万 t である。2015 年 5 月に Sunchon 工場(全羅南道順天
市)が新たに竣工し、年間生産能力がさらに 6 万 t 追加された。
DUCKSUNG
本社:慶尚北道永川市
Sangshin 金属
本社:京畿道安山市
Emax inc.
本社:全羅南道長城郡
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DANSUK 産業
本社:京畿道始興市
1965 年に精密化学事業者として設立後、2011 年より二次鉛精錬事業を開始。
Gunsan 工場(全羅北道群山市)にて年間 6 万 t を生産している。その他、再生
亜鉛や合金鉄等、鉄・非鉄金属スクラップを広く取り扱っている。
セギリテック(旧 AMICUS METAL)
本社:慶尚北道永川市
2010 年 11 年法人設立、2012 年に操業開始。
2014 年 7 月、バッテリーの添加剤及び金属酸化物の生産を目的として酸化鉛製
造大手の仏・PENOX 社と JV を締結、同年 11 月には「AMICUS METAL」から「セギ
リテック(SEGI Recycling Technology)」へ社名を変更。2015 年 2 月に精錬所
増設を終えて、生産量を現在の 4 万 t から 8 万 t まで拡大。
※本表は今回の摘発会社を示すものではありません
図 4. 韓国の鉛地金生産量の推移(2000~2015 年)
出典:World Metal Statistics
図 5. LME 鉛地金価格推移(2000 年 1 月~2016 年 6 月)
(筆者作成)
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4. 2014 年の韓国の廃鉛バッテリー輸入状況
図 6. 韓国の廃電池輸入量推移と輸入単価の国別推移(2012~2015 年)
出典:Global Trade Atlas
図 6 に韓国の使用済みの一次電池及び蓄電池の輸入量の推移を示す 3。日本は、韓国へ廃鉛バッ
テリーを多く輸出しており、日本からの輸入量は全輸入量の約 4 分の 1 を占めている。日本とは輸
送距離が近いことから、他国に比べ安価に購入している。これまでは長く日本が韓国最大の廃鉛
バッテリー輸入相手国だったものの、2015 年はアラブ首長国連邦(UAE)からの輸入量が増加し日
本を上回った。UAE からの輸入量は過去 3 年間で 5 倍以上に伸びた。なお、2015 年の輸入相手国第
3 位は米国、第 4 位はドミニカ共和国、第 5 位はシンガポールとなっている。その他、トーゴ共和
国やニュージーランドからの輸入も多かった。
2015 年の廃バッテリーの総輸入量は 42 万 t であり、廃鉛バッテリーの重量の 5 割程度が二次鉛
原料となる電極版であることから、輸入品から 20 万 t 程度の二次鉛が生産されているものと見ら
れる。韓国二次鉛生産量が約 35 万 t であることから、二次鉛生産の半分以上を輸入廃鉛バッテリ
ーに頼っていることがわかる。
輸入単価については、2014 年末までは上昇傾向にあったが(ウォン建てではやや下落)、2015
年以降については LME 鉛地金価格の下落に伴って下落傾向となった。
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HS コード:854810(使用済みの一次電池及び蓄電池の輸入量及び輸入単価平均の推移)
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おわりに
今回摘発された、不法廃棄に関与した韓国の鉛二次精錬会社は、これまで安い処理費用を武器に
他社より高額で廃鉛バッテリーを調達してきたと思われる。これまで、日本の精錬所は韓国への廃
鉛バッテリー流出を受けて、原料確保に苦労してきた。今後、韓国の鉛二次精錬における廃棄物処
理が適正化されると思われるが、その中でも韓国の精錬会社はこれまでと同様、日本国内の廃鉛バ
ッテリー買取価格を上回るコスト競争力を保つことができるのかは、注目すべき点である。廃鉛バ
ッテリーの流出が減少し、日本企業による二次鉛生産が回復するシナリオも想定される。
一方、韓国は、高い生産能力を持つ精錬工場が多く、鉛価格高騰後の 2006~2007 年以降に精錬
設備を増強したケースも見られる。もし、コスト競争力の低下により十分な廃鉛バッテリーを調
達ができなくなるとすれば、精錬工場の稼動率は低下、設備投資に見合う十分な利益を維持でき
ない可能性がある。現状、人件費や電力コストにおける優位性や生産効率の高さにおいて日本よ
りも韓国が有利であることに加え、これまでの廃鉛バッテリー集荷ルートの確立または精錬工場
稼働率維持のための努力などから、流出のトレンドは変わらないシナリオも考えられる。
廃鉛バッテリーは重要な静脈資源の一つであり、我が国の資源安定供給のためにも国外への流
出は抑えられるべきである。今回韓国で摘発された会社名は明らかになっていないため、廃棄物
処理の適正化が韓国の鉛二次精錬業界にどれだけのインパクトをもたらすのかは不透明であり、
果たして日本から韓国への廃鉛バッテリーの流出が止まるのかは予測できないところであるが、
今後の対策のためにも、引き続き今後の動向に注視し、現状を把握することが重要である。
おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報を
お届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に
つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等す
る場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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