カレント・トピックス No.16-30 平成28年7月14日 16-30号 カレント・トピックス 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 Sibanye Gold 社、白金産業参入に賭ける勝算 <ロンドン事務所 竹下聡美 報告> はじめに 南ア産金大手 Sibanye Gold 社は、2015 年、Anglo American Platinum の Rustenburg 白金鉱山及 び豪 Aquarius Platinum 社を買収し、白金生産量で世界 5 位に急浮上した。PGM 価格が低迷し、 2014 年の史上最長白金鉱山ストライキが記憶に新しい中で PGM 業界に参入を果たした。同社の戦 略について、Sibanye Platinum 部門 CEO の Jean Nel 氏に話を聞く機会を得たことから、Sibanye Gold 社の概要と合わせて報告する。 1. Sibanye Gold 社の成り立ち Sibanye Gold 社は、2012 年 11 月に南ア産金大手 Gold Fields 社がスピンオフした会社で歴史は 浅い。当時 Gold Fields 社は 賃上げを巡り暴徒化した鉱山ストライキが続いていた南ア Witwatersrand ベーズンに位置する Kloof 金鉱山、Driefontein 金鉱山及び Beatrix 金鉱山を、リ スク回避の目的から Sibanye Gold 社として完全に分社化した。南アの労使交渉は 2 年毎に行われ ることから、2014 年の最長 5 ヶ月にも及んだ白金鉱山ストライキが記憶に新しいが、2012 年も多 くの違法ストライキが発生し、特に 34 名もの犠牲者を出した Marikana 白金鉱山事件は世界中から 大きな非難を受けている。2012 年は、労使問題が台頭する中で、Gold Fields 社に限らず、BHP Billiton をはじめ各鉱山会社が南ア資産の整理を行った時期でもあり、Sibanye Gold 社としては 苦境からの出発であったといえるだろう。 Sibanye Gold 社は 2013 年 2 月にヨハネスブルク証券取引所(JSE)に上場した。8 月には Sibanye Gold 社 CEO の Neal Froneman 氏が前職で CEO を務めていた Gold One International 社から Cooke 金鉱 山を買収し、下表のとおり現在のポートフォリオが出来上がることとなった。世界のランキングでは、 2015 年金生産量は 150 万 oz と世界第 9 位、埋蔵量では 3,100 万 oz とこちらも第 9 位の位置にある。 Sibanye Gold 社操業鉱山 鉱山名 2015 年 金生産量 Cash Cost 資源量 埋蔵量 Beatrix 32.5 万 oz 831US$/oz 960 万 oz 430 万 oz Cooke 20.1 万 oz 1,158US$/oz 1,590 万 oz 150 万 oz Driefontein 55.8 万 oz 756US$/oz 1,980 万 oz 820 万 oz Kloof 45.2 万 oz 836US$/oz 2,820 万 oz 650 万 oz (出典:Sibanye Gold 社 HP) 金価格は 2016 年以降上昇基調に転じたとはいえ、他の資源価格と同様に中期的に低迷期にあっ た。その中で成長を続ける Sibanye Gold 社の強みはポジティブなキャッシュフローにあると言え 1 カレント・トピックス No.16-30 るだろう。2016 年 5 月のプラチナウィーク 1で Neal Froneman CEO は、鉱山の近代化と資源量の増 加により自社アセットの価値を高めることが重要だとし、またコスト削減のためにいかに人件費 削減に取り組むかについて力説した。同氏によれば、従業員とコスト意識を共有することが大切 だとして、実際に過去 3 年の間、同社の操業鉱山では鉱山ストライキは発生していないという。 また南アでは解雇ができないということはなく、必要に応じて適切なリストラクチャリングを実 施しているとして、南アでの労働問題に精通していることを強調している。 また、Sibanye Gold 社は株主を強く意識した配当方針を有しており、収益の 25~35%を株主に 還元すると明言している。下図の Sibanye Gold 社の株価推移から分かるように、2013 年 2 月上場 時の 14 ランド(1,356 セント)から、2016 年 1 月以降、金価格が上昇基調に転じるとともに 2016 年 3 月には 61 ランド(6,120 セント)の最高値を付け、現在の株価は 40~60 ランドの間で好調な 値動きを続けている。 Sibanye Gold 社の JSE 株価推移 (出典:Sibanye Gold HP) 2. 白金産業参入への勝算を聞く Sibanye Gold 社は 2015 年に 2 件の大型買収を果たし世間の注目を集めた。1 件目は白金生産最 大手 Anglo American Platinum の Rustenburg 白金鉱山、そして 2 件目は豪 Aquarius Platinum 社 である。この 2 件の買収により、Sibanye Gold 社は PGM(4E)生産量 110 万 oz と世界第 5 位に浮 上することとなった 2。白金業界への参入について Neal Froneman CEO は、白金は金と多くの点で 類似しており、投資はロジカルだと発言している。さらに同 CEO は、白金業界でプレゼンスを発 揮するために世界 3 位以内を目指すとして、2016 年内に 3 件目の買収を予定していることをこの 6 月に表明している 3。 こうした背景について、Sibanye Gold PGM 部門 CEO の Jean Nel 氏に話を聞く機会を得た。同氏 は買収された豪 Aquarius Platinum 社の元 CEO であり、同社の買収が完了した 2016 年 4 月に新設さ れた PGM 部門の CEO として Sibanye Gold 社に転籍したばかりである。白金価格は未だ低迷を続けて おり業界全体が非常に厳しい状況にある。Jean Nel 氏に Sibanye Gold 社の今後の戦略を聞いた。 ―2015 年は 2 件の大型白金案件を買収したが、Rustenburg 鉱山は深部の高コスト鉱山と言われて いる。実際にはどのようにコスト削減を行っていくのか。 「Anglo American から Rustenburg 鉱山を買収したが、実のところ契約は未だ締結されていないた 1 2 3 JOGMEC カレント・トピックス『PGM 市場の 2016 年見通し―ロンドン・プラチナウィークから― 』 http://mric.jogmec.go.jp/public/current/16_20.html Sibanye Gold 社の対外発表資料 https://www.sibanyegold.co.za/investors/events/presentations/2016 JOGMEC ニュース・フラッシュ http://mric.jogmec.go.jp/public/news_flash/16-23.html#28 2 カレント・トピックス No.16-30 め、法的には Sibanye のプロファイルの一部にはなっていない。生産コストの削減は確かに難 しいが、重複する設備を減らすことが最も効いてくるだろう。例えば Rustenburg 鉱山にあるト レーニングセンターと豪 Aquarius Platinum 社の保有していたトレーニングセンターを統合する ことを考えている。また生産能力の上限まで生産量を増加させることも一つの手段である。 色々な組み合わせを行うことによってコスト削減が可能になる」 ―人件費削減に強みを置いているようだが、南アでの解雇は労働組合との関係で非常に難しいの ではないか。 「南アでの鉱山操業は全てが難しく、簡単なことは何一つない。ただそれをマネージするのが 我々の仕事である」 ―Neal Fronemen CEO は白金生産で世界 3 位を目指すとして 2016 年中に 3 件目の買収を表明している。 「報道のとおり、Neal Fronemen CEO は PGM 部門のさらなる成長を求めており、世界 3 位または 4 位を目指しているが、多くのオプションがあるわけではない。現在の白金価格では収益を生み 出すことは不可能で非常に厳しい時期にある」 ―探鉱・開発案件への参入は検討しているのか。 「既存の生産案件を買収した方が探鉱開発を行うよりもリーズナブルである。資源ビジネスでは 取るべきリスクをいかに低減させるかが非常に重要であり、また投資するにあたり、鍵と成る のは株主へのリターンをどう生み出すかである。その意味では、生産開始まで数年掛かるよう な開発案件への投資は現状考えていない。ただし、市況は 10 年経てば変わる。10 年前に現在の 状況はだれも予想出来ていなかったため東リムの開発が進展したと言えるだろう。その意味で は市況が我々の戦略をグリーンフィールド投資から既存鉱山買収へ変えたと言うこともできる」 ―Impala や Lonmin の白金製錬所の買収可能性が報じられている。現在の鉱山業から製錬事業まで 事業を拡大する計画があるのか。 「確かに現状は製錬所を有していないため、そのステップを踏む段階にあるとは言えるだろう。 南アの白金製錬所は生産能力をフルに活用していないことから、いかに稼働率を上げるかが重 要である」 ―2014 年には史上最長の白金鉱山ストライキがあったが、今後の労働争議の見通しについてはど う見るか。 「状況は複雑で先のことは予測できないが、2014 年のような大規模なストは起こらないだろう。 ただし短期のストは当然あるだろう」 ―鉱業憲章改正や差し戻された MPRDA(The Mineral and Petroleum Resources Development Act; 鉱物石油資源開発法)について今後の進展をどのように考えるか。 「鉱業界として各社と協力し、南ア鉱業協会が業界を代表して動いている。我々の望む方向に進 むと期待している」 3 カレント・トピックス No.16-30 ―価格見通しについて、現在の低迷が中期的に続くと厳しい見方が多いが、どう見通すか。 「現在の価格は我々が想定していた価格を大きく下回る。白金生産者が今の価格で出来る限り耐 えたとしても、次の 2、3 年で減産という厳しい決断を行うだろう。ただ、次の 1、2 年で白金価 格は 10~15%程度上昇すると見ている。それでもまだ低い状態にあることには変わりはない。 当社としては長期的にはブリッシュな見方を持っている」 おわりに Sibanye Gold 社は Gold Fields 社から南アのリスクを引き取る形でスタートしたが、生産能力 拡張とコスト削減を推し進め、健全なキャッシュフローを基に躍進を遂げた。白金価格は英国の EU 離脱の影響により短期的には上昇基調にあるものの、ファンダメンタルでは変化はなく、中期 的には現在の価格を維持すると見られている。Sibanye Gold 社は長期的な視野で白金産業をポジ ティブと見て勝負に出た。逆境の時にこそ成長していく姿を示してきた同社の動向に今後も注目 していきたい。 おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報を お届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等す る場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 4
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