今月の本誌 - ゆく春俳句会

苔
の
花
水 の 精 呼 ん で 躍 ら せ 花 菖 蒲
水 槽 の 目 高 の 目 線 け た た ま し
つ つ ま し く 生 き る も 技 や 苔 の 花
髭 剃 り は 剃 刀 が 好 き ク ー ル ビ ズ
ひよいと出てついと消えゆく糸とんぼ
雨 に 媚 び 競 ひ 咲 き け り 苔 の 花
万 緑 や 弥 陀 の 目 頭 潤 む と き
木 霊 飛 び 没 我 い つ と き 木 下 闇
内 山 眠 龍
1
草 笛 集
藤棚
植 村 文 彦
もの言はぬ句こそ良けれと梅の花
蝌蚪の水 井 村 美智子
夏めくやスポーツ公園賑やかに ライラック文学館を包みゐて
蝌蚪の水濁らす子らの手足かな 同郷と知れて破顔や草の餅 若 草 や 石 碑 に 刻 む 暴 れ 川
蝦夷桜遅速授かり四方の山 山 田 瑛 子
相輪の天に吊られて鳥雲に 新茶摘む 美術館新樹めぐらしピカソ展
倉 林 潮
藤棚や前撮り組のひと休み 一芯二葉古老に聴きつ新茶摘む 卯の花
万緑を破り単車の飛び出しぬ 遠 州 の 空 大 凧 の 天 翔 る 黒 揚 羽 妣 と 想 ひ て 佇 み ぬ
はは
新緑や拒まれてゐる禁葷酒 今日よりは教はる立場五月窓
お互ひに期待と不安蛇出づる
青梅や日射し零れて母子像 墨跡の和といふ書幅武具飾る
卯 の 花 の 白 き 線 引 く 国 境
4
草 笛 集
小さき閥
岩 永 紫好女
母の日や家にも在りし小さき閥 母の日や猫の母にも刺身分け
手順言ひ遺して逝きぬ梅筵 梅 漬 や 紫 の 葉 を 衣 と し て
川 又 曙 光
夕焼や形見の靴と語りつつ 藤の花
鳥の啼き聴けば朝寝の貪れず
風の音 村 上 博 幸
宿の名は晴耕雨読五月雨るる
人のみを置き去りにして青嵐
風の音も共にたためるテントかな
岩清水これよりまゐる水の旅
髙 橋 純 子
緑陰を犬と一緒に繋がるる 半夏雨 洋館の声くぐもるや半夏雨 断捨離のスタートライン梅雨に入る
せせらぎの音伴奏に囀れり 紫陽花や昨日と違ふ顔を持つ
芍薬や一重も八重も雨に伏す
検査結果待つ身卯の花腐しかな 藤房の揺れとりとめもなく続く 藤垂れて風の動きの揃わざる
白魚の眼のみ盛られてある如し 5
草 笛 集
藤の花
新 美 久 子
濃 く 淡 く 緑 重 な る 箱 根 山
燕子花
根津美術館にて
大 津 浩
燕 子 花 光 琳 の 絵 も 庭 園 も
休 憩 の 巨 石 平 ら や 燕 子 花
藤の花揺るればこころ紫に 柳家小満ん師匠の俳句
色白の
肌に雀の
夏来たる
小満ん
虹立つや太き起点は我が区内
吾 一 人 男 日 傘 の 銀 座 か な
伸びに伸び日に尺越ゆる今年竹 鈴 木 良 子
母の日や母なき胸に白き花 武者人形飾りて平和希求する
青 空 を 呑 み て 泳 ぐ や 鯉 幟
桜餅
青 簾 捲 り あ ぐ る る 宿 場 町
キャンパスに春泥のあるひとところ
四月馬鹿超ゆる笑ひや吾がまこと
母の日や花束遅く届きけり 包 み 解 く 匂 ひ 漂 ふ 桜 餅 6
◆この一句(六月号より)
ポップコーンどんと弾けて村祭
松 浦 券 月
俳誌交流
髙橋純子
眠龍
眠龍
俳句雑誌「草林」の四月号・六月号に内山
主宰の句が「受贈各誌主宰の一句」の中で紹
介されました。
初日受け勇み立ちけりどの風も
囀りや大樹久遠の息づかひ
お 祭 り の 屋 台 で 見 か け る ポ ッ プ コ ー ン
村祭の楽しい風景が見えるようです。
都 会 か ら 子 や 孫 た ち が、 祭 り で 帰 っ て
き ま し た。 普 段 は 静 か な 村 も、 今 日 は 歓
声もありにぎやかな一日となったことで
し ょ う。 何 か 元 気 の 出 て く る 句 で し た。
ありがとうございました。
高久靖人 選評
七月号担当 松浦券月
「草林」 は一九六七年に創刊、県俳句作家
協会会長の雨宮抱星氏(群馬県在住)が主宰
となられ、二〇一二年七月に創刊四五周年の
記念式典が催されました。
さいれいしょう
礪抄 四・六月号より
淬
抱星
つづけての欠伸春月雲に逃げ
朧夜の美しく淡い春月も、つづけての欠
伸に気嫌を損ねたのか、雲に隠れてしまっ
たという。春の月に美しい女性の姿が重な
ります。
抱星
葉桜や逃げし言葉の戻らざる
葉桜は、あれ程待ち焦がれた桜が散り尽
くした後の緑、逃げし言葉は口をついて出
てしまった言葉への後悔。いずれも取り戻
せないことが分かっているだけに、いつま
でも悔いは残ります。
淬礪とは、刃物を研ぎ鍛えること、自分の
修養につとめることとあります。雨宮主宰の
覚悟の程に思い至ります。
7
春 雷 集
仙 台 及 川 紀 子
茨 城 上 野 明 子
ビートルズ流るる街角五月照る うぐいすや手捏ね仕込みのパンの照り
くちびるに乳あふるるや花の昼 楽しくもさびしくもあり桜かな 里 山 の 五 月 の 空 や 斧 の 音
大﨔空を占めんと芽吹きけり
札 幌 諸 中 一 光
横 浜 浦 野 和 子
今生の別れなるやも雛納め リラ冷えの随に旅の支度かな
まにま
女王ゐて帝国伸ばす蟻の穴 考へる老梅となる日向かな 浜茄子や咲いて調ふ 石 狩 野 けん
二嶮越えて来る愛車や黴拭ふ ととの
口笛の子の見え隠れ麦の秋 夕風にまかせて重き白牡丹 緑雨かな丹塗りの橋の冴え冴えと ゆっくりと雲の遊べる代田かな 旭 川 福 士 あき子
子亀にも城の興亡語らむや 混迷の昭和生ききて余花の宿
眠る子の指ほどきたる夏座敷
喜雨を聞く為の寝返り打ちにけり
鎮 魂 の 白 を 重 ね る 揚 花 火
東 京 佐 藤 恵美子
マドンナのその後は知らず桜桃忌
塩 辛 し 涙 の あ と の 豆 御 飯
高原の白きホテルやかつこどり 保養所の代替りとや花蘇鉄 たかんなのかくし持ちたる深き傷
厚 木 大 和 尋 人
若葉波釣果を問うに笑み給う
揚雲雀寝て見て宙の広さかな
霞む野や地震の惨禍を隠し得ず 常と言う暮らし尊し春障子 ふらここや婆乗り爺の押しており
8
いびつなる草餅手向けお相伴
無口なることの冗舌葱坊主 夏きざす少年の目のまっしぐら
旭 川 渡 辺 タミ子
ビル街の白の優しき花辛夷 老桜散つて鳥居のあらはるる
菜の花の花器をはなれて伸びゆけり 桜 蘂 降 つ て 嫗 の 髪 飾 り 遠 景 の 真 白 き 山 よ 朝 桜 パレットに彩の溢れてさくら時 武 家 屋 敷 旅 の 鞄 に 散 る 桜
指揮熱しホールの外の青嵐 ハンサムな武者人形を選びけり 笑 顔 め く 腕 の 文 字 盤 夏 隣
猫の子の混ざりて猫のブロンズ像
舞ひ上がるスカーフの尾と春日傘
横 浜 三 井 るり子
クレヨンに無き色に燃ゆ若葉かな 神に問ふ試練いつ果つ春の地震 母の日は紬に袖を通さばや 早十年母居ぬ母の日を迎ふ 思はるることなく母の日の暮れぬ
東 京 荒 木 きんたろう
陶釜の竹の子飯やお焦げの香
川 崎 関 谷 正 道
柿の木の下に歓喜や諸葛菜 一万歩今日も日課や柿若葉 片隅に知らんふりして紫蘭かな 母 の 日 や 母 の 声 あ り 蛇 苺
笹 藪 に 白 き 藤 房 踊 り を り
東 京 石 原 まさ子
余花の雨吉野の御堂鎮もれり 牡丹忌や鼓に目覚む能舞台 ひなげしの迷子のやうに揺れゐたり
門川のゆたかに流れ花卯木 初夏の風セールにまかせ乾杯す 東 京 山 縣 文
トンネルを抜けて海ありミモザあり
良き人と火点し頃の余花に会う 北の地に若き夢呼ぶライラック 9