医療と福祉の連携のために シームレスな多職種連携・ 口腔

ICTシステムを活用した
高齢者福祉施設における
最先端研究 探 訪
科衛生士からアドバイスを受けた
防)
、あるいは治療の過程で行う
ちシームレスな口腔ケアが行われ
といった、継ぎ目のない、すなわ
[取材]
介護職員が、毎日の介護業務の一
保健指導やリハビリテーションな
てこそ入所者の一番の楽しみであ
つとして入所者に口腔ケアを行う
ど再発防止や社会復帰を目標とし
る「食事」を高いレベルで維持す
しかし現実には、日々の介護業
た 対 策 ( 三 次 予 防 )も ま た、 予 防
ゆえ、予防医学の実践は“健康寿
務の忙しさから介護職員と歯科専
ることが可能となります。
命の延伸”をもたらし、長期的展
門職との連携が不十分になったり、
医学として大切なことです。それ
望に立てば、国民医療費の適正化
りがちになってしまうことがある
入所者への口腔ケアが後回しにな
歯科においても、学童期の食育
ようです。こうした状況の背景に
にも繋がると考えられます。
や高齢期に起こる摂食嚥下障害に
どマンパワー不足もその原因の一
対するリハビリテーションなどは、 は、 介 護 職 員 の 離 職 率 の 高 さ な
生活習慣病や誤嚥性 (ごえんせい)
ツールは、現在のところほとんど
つですが、介護業務の多さに加え、
護高齢者への口腔ケアが普及しつ
見当りません。
肺炎の予防に貢献し、単に口だけ
う し た 背 景 に よ り、
“予防医学の
つあります。施設で働く介護職員
介護記録により業務の根拠を明確
重要性”が見直されています。食
も口腔ケアの重要性を認識し始め
の問題ではなく全身の健康に大き
高 齢 化 対 策 は、 人 類 的 課 題 に
生活をはじめとする生活習慣を改
ており、いわば「介護・福祉」分
にする責任が強いられる点などが
なってきていると言っても過言で
善することで生活習慣病を予防す
ら ず あ ら ゆ る 業 界 で ICT 化 が
携が深まりつつあります。例えば、 ICT)の進歩によって医療に限
野と「歯科・口腔保健」分野の連
急速に進んでいます。介護・福祉
く寄与する対策と考えられていま
はありません。特に日本は世界で
るといったことも予防医学の一つ
高齢者福祉施設において歯科衛生
ある経口維持・経口移行への取り
今後もシステムの更なる拡充と
あげられます。交代制をとる介護
もトップクラスの超高齢社会を迎
(一次予防)と し て 重 要 で す が、 疾
士が専門的な口腔ケアを行い、歯
組みをサポートするための新規
多くの高齢者福祉施設への導入を
す。「 口 腔 ケ ア 」 も ま た 誤 嚥 性 肺
え て い ま す。 高 齢 化 は、 す な わ
病 の 早 期 発 見・ 早 期 治 療 な ど に
「ICTシステムを通して介護
Webシステム (食形態選択のため
目指し、介護・福祉分野における
業務では担当者同士の申し送りで
ち“平均寿命の延伸”であり、こ
よって重症化を防ぐ対策 (二次予
職と歯科衛生士の意思疎通がス
のアルゴリズム)も近い将来のうち
炎や認知症の予防に有効であるこ
れは医療の進歩がもたらした成果
それまでの運用をなるべく変えな
ムーズになると、入所者の些細な
に実現したいと思います。今後は、 口腔ケアの思想普及や啓発活動は
介護記録に記した情報を共有しま
の 分 野 で も 介 護 記 録 の ICT 化
いようなシステムを導入し、それ
状況の変化も見落とさないように
勿論のこと、高齢者福祉施設だけ
とが研究で示され、介護保険制度
がようやく普及し始めたところで
に慣れてもらうことが大切です。
なります。しかし現場では予測で
さらに様々な分野の専門家とタッ
でなく在宅の要介護高齢者へのサ
すが、口腔ケアという観点からの
す。口腔ケアという観点からも歯
システムの普及によって、施設で
きない様々なこと、さらに利用者
グを組み、必要な情報をより包括
ポートも視野に入れながら、人々
における「口腔機能向上サービス」
科衛生士や介護担当者間で口腔ケ
の口腔ケア連携が推進されていく
の嗜好や家族の要望などにも応え
的に蓄積・管理できるようなシス
の「 食 」 の QOL (
の一つと言えるでしょう。しかし
ア に 関 す る 情 報 を ICT 技 術 で
ことを期待していますし、ゆくゆ
ることが求められますから、常に
テムへと進化させていきたいと考
詳細な申し送り、ましてや歯科医
管理できれば、介護業務としての
くは施設ごとのデータをまとめて
ICTや運用双方のシステムに改
せることが大事なので、各施設で
が、今はICTシステムを普及さ
で統一されている部分もあります
式は少しずつ異なります。施設間
施設によって運用や介護記録の様
「口腔ケア業務も介護業務も、
先生が担当しました。
ICT シ ス テ ム の 開 発 は 尾 崎
高齢者福祉施設に導入しました。
ム、略して“ACSSOC”)を開発し、
システム (口腔保健業務支援システ
健業務を含む歯科的支援のための
た“介護・福祉の現場への口腔保
背 景 に 着 目 し、ICT を 駆 使 し
テムはデータの共有だけでなく、
りました。したがって、このシス
が統計学的にも増えることが分か
例えば介護職と歯科衛生士の会話
した場合、結果は逆でした。この
すが、実際にこのシステムを導入
ション量が減るようなイメージで
むと、福祉現場でのコミュニケー
「一般的にコンピュータ化が進
生の役割です。
図り、一般化していくのが白山先
り多くの高齢者施設などに導入を
構 築 し た ICT シ ス テ ム を よ
鋭意行っています。
の構築とその普及に向けた活動を
る よ う な 包 括 的 ICT シ ス テ ム
共有し、協働して管理することで、 に限らず食事など栄養管理もでき
システムを用いて個々のデータを
「医療機関や高齢者福祉施設で
んできました。
り口で口腔ケア推進事業に取り組
ICT シ ス テ ム の 導 入 と い う 切
ト」の中で、高齢者福祉施設への
り 組 ん だ「 I C T プ ロ ジ ェ ク
2011年から5カ年計画で取
現在先生方を中心に、口腔ケア
今後の目標について白山先生は、
報 通 信 技 術(
・
)
した施設に対しては、テレビ会議
つつ、一方でシステムを既に導入
援システムを新たな施設に導入し
は続きます。
テム構築へ、飽くなきチャレンジ
今後も口腔保健支援のためのシス
な 体 制 を 整 備 し て い く 予 定 で す。
いう両面からサポートできるよう
などでよりきめ細やかな歯科的支
現在、開発した口腔保健業務支
徳島大学と特養(西表島)の間で
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運用している業務や介護記録の様
職種間の意思疎通を円滑に図る上
の利用を想定した認知症の重症度
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式にある程度沿うようシステムを
で必ず役立つものと思います。」
判別のためのアプリケーションを
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カスタマイズしています。業務の
肝 心 な 現 場 の 声 を ICT や 施
現在開発中で、将来的にはこのシ
近年、施設で積極的に行われつつ
行ったテレビ会議
さ て、 近 年 の 目 覚 ま し い 情
携も一層進展すると考えられます。 ビッグデータとして蓄積すること
口腔ケアが一層定着し、多職種連
で、単に業務効率化のツールとし
えています。」と展望しています。 の 向 上 を ICT あ る い は 運 用 と
キーワードは「情報共有」
ICT化が全くなされていない施
設の運用それぞれのシステムに
ステムに組み込む予定です。また
いと考えています。」
設では、こういったシステムに最
フィードバックするのは柳沢先生
尾 崎 先 生 た ち は、 こ の よ う な
初から拒否反応を示すこともあり
の役目です。
先 生 方 は、 徳 島 大 学 歯 学 部 が
ます。そのような施設には、まず
終わりなき挑戦
良を加えていかなければなりませ
口腔ケアに関するアセスメント・視察
てだけではなく、疫学研究など新
援を行っています。
システムを導入した特別養護老人ホーム
(沖縄県西表島)
での
ACSSOC介護職版の導入説明
ん。現場の声こそ大切です。」
の導入を経て、介護者あるいは歯
柳沢 志津子( やなぎさわ しずこ)
ながら、国民医療費の増大という
同口腔保健福祉学分野 講師(写真右)
療従事者と情報を共有するための
白山 靖彦(しらやま やすひこ)
科専門職 (歯科衛生士)による要介
同地域医療福祉学分野 教授(写真左)
早急に解決すべき課題を生み、そ
尾崎 和美(おざき かずみ)
たな利活用方法を目指していきた
口腔ケア推進事業
大学院医歯薬学研究部口腔保健支援学分野 教授(写真中央)
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医療と福祉の連携のために
シームレスな多職種連携・
口腔ケア推進を目指して