高精度な強度変調放射線治療計画の 高速演算法 徳島大学 大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 医用画像機器工学分野 教授 吉永哲哉 助教 藤本憲市 背景 • 従来の放射線治療は,治療対象の周囲に配置した放射線源から放射線を均一に 照射するため,対象となる腫瘍だけでなく,周囲の組織にも意図しない高い線 量が照射されてしまう問題がある. • そこで近年,強度変調放射線治療(IMRT)が 普及し始めている.この治療方法は,放射線 ビームの角度と強度を自由に制御できる機構 を利用して,任意の方向からの放射線照射, 及び各放射線強度をマルチリーフコリメータ (MLC)で変調することにより,腫瘍(PTV) には高線量,他組織(OAR)には低線量となる ようにしたものである. 従来技術 • IMRT を実施する前に IMRT 計画を行う必要がある.IMRT 計画とは, 「PTV(標的体積)には集中的に照射しつつ,OAR(周囲のリスク臓器)には 低線量となる」ことを目的として,最適な放射線ビームの入射方向と線量分 布,放射線ビームの強度を数学的に検証し決定する手続きである. • IMRT 計画は,最適な強度分布を求めるために,分布の元となるビーム係数を 求めることが必要となることから,逆方向治療計画とも呼ばれる. • 最適化の手法として確定的方法と確率的方法があるが,前者のうち,目標関数 を勾配法により最適化する方法が臨床での実施に推奨されている. 従来技術の問題点 • IMRT 計画の目標関数として,線量-体積ヒストグラム(DVH)を基にした評価 関数の他に,線量に基づく評価関数,等価均一線量(EUD)に基づく評価関数 などが利用されている. • 目標関数の最適化手法として,最急降下法,共役勾配法,ガウス・ニュートン 法などの勾配法が用いられている. • 最適化問題に拘束条件を課さない勾配法による解法には,目標関数のヘッセ行 列(2次微分)などの膨大な代数演算を必要としたり,放射線ビーム係数が物理 的に無意味な負値となるなどの欠点がある. 新技術とその特徴 • 強度変調放射線治療(IMRT)計画の最適化問題を解決する方法として,新しい 数学的手法(連続法)を考案した.次の特徴がある. • 従来法には必要であった目標関数の2次微分や逆行列演算が不要で,微分方 程式のみで極小解が得られる.すなわち,演算時間の短縮が可能(高速化) である.また,微分方程式系の離散化法も考案しており,この場合には特殊 なハードウェアが不要(低コスト化)となる利点がある. • 適切なパラメータ設定により,解の正値と上界を保持する良い性質がある. • 腫瘍には十分な高線量が照射されながらも,他の部位には著しく低線量を与 えることができる(高精度な計画が可能). 連続法 複数の PTV,OAR を対象とするときも同様であ る.また,PTV,OAR に対する照射線量の下限 0 0 0 値,上限値をそれぞれ,DPTV ,DOAR (DPTV > 0 DOAR ≥ 0) で指定し,射影 P A. 連続法の提案 : RI → RI ! " DPTV D= $→ P (D) DOAR (4) d wj (t) = wj (t) K j (P (Kw(t)) Kw(t)) を idt 1 = 1, 2, . . . , I1 ,i2 = 1, 2, . . . , I2 に対して, (P (D))i1 = (P (D))I1 +i2 = # # (DPTV )i1 , if (DPTV )i1 ≥ 0 DPTV , otherwise D0 の安定性を考える. 定理 1. 式 (5) の系に平衡 平衡点 e ∈ E は安定であ 証明. 平衡点 e ∈ E に関 補として V (x) = PTV 0 (DOAR )i2 , if (DOAR )i2 ≤ DOAR 0 DOAR , otherwise に定義する. 非線形常微分方程式の解を用いて極小値を求める w(t) は常に正値を保つ. • 初期値を正に選ぶと解 勾配法を提案している.従来の IMRT 勾配系に含ま J & j=1 = J ' & j=1 = j=1 xj ej J ' & xj ej ( γ v を考える.部分空間 χ 内 • 解に沿った評価関数(Kullback-Leibler divergence)は単調減少し,解は真 値へ収束することの理論的証明に成功した. ej log & ' 3 連続法の離散化法 n+1 λ x = x n+1 n ! n n j n+1 x3j 連続法の離散化法 = xj 1 + n Kj (P (Kx ) − Kx ) xj = x $x $∞ 連続法から導いた離散化法を提案し,理論的検討を & ' 論的検討を 連続法から導いた離散化法を提案し,理論的検討を ( ) λ ≥ x 行う. n ! n 連続法の離散化法 ≥ xj 1 + n KOAR j −KOAR x ≥ x 行う. $x $∞ γ → ∞) を Euler 法によ 前節の連続法 ( ただし, & (ただし,γ → ∞) を Euler ' uler 法によ n 前節の連続法 法によ x = x り離散化した反復法を以下に定義する. n ! = xj 1 − λKOAR j KOAR n B. 離散化連続法の提案 = x り離散化した反復法を以下に定義する. $x $∞ *n + n n+1 ! n ≥ x x = x + λΦ K (P (Kx ) − Kx ) (8) n ! n n ≥n+1x= KOAR ! n u Kx ) (8) j x1n− ≥ x x +λK λΦOAR ) − Kxn ) (8) n K j(P (Kx > 0 > 0 ここに, > 0 n ここに, diag(x ) が成り立つこ n= Φn = diag(x (9) が成り立つことから,任意の n 0, 1, 2, . . . に対し が成り立つこ n$ ) n+1 ∈ R (9) $x ∞ て x Φ = (9) n n+1 J てx ∈ R++ である. $xn $∞ て xn+1 ∈ R であり,n は離散時刻 (n = 0, 1, 2, . . .) を示す.正 命題 3. 1−λ を示す.正 ! (n = 0, 1, 2, . . .) を示す.正 であり, n は離散時刻 命題 3. Φ 1−λK KOAR u > 0, j = 1, 12,以下で . . . , J, 命題 3. 1−λ 方行列 0,対角要素は • 初期値を正に選ぶと反復解は常に正値を保つ. n の非対角要素は OAR j かつ λ < 2/ は 1 以下で 方行列 Φ の非対角要素は 0 ,対角要素は 1 以下で n かつ λ < 2/L とする.固定点集合 E の要素 e が存 あり,離散化によるステップサイズをパラメータ λ かつ λ <n 2/ 在し,x ∈ ラメータ λ • 反復(時間経過)の度に,次式に従って真値との距離が減少する. あり,離散化によるステップサイズをパラメータ λ n J 在し, ∈ R++ のとき次が成り立つ. と Φn x の積として分けることで,パラメータの条件 在し,xn ∈ ータの条件 と Φn の積として分けることで,パラメータの条件 $K を導出しやすくしている.パラメータ λ を比較的小 n 2 n+1 2 $Ke − Kx $2 ≥$Ke − Kx λ $を比較的小 $K 2 を比較的小 を導出しやすくしている.パラメータ 離散化連続法の臨床例に基づく検証 ファントム OAR2 適用結果 OAR3 PTVの面積の95% OAR3 PTV OAR1 40Gy以上照射 OAR4 が下限線量以上, 各OARの面積の OAR2 ほぼ100%が上限 OAR1 線量以下であり, OAR5 OAR4 画像サイズ 532 x 446 OAR2 照射方向 7方向 OAR5 放射線ビーム数 4,893 照射線量下限値 D0PTV : 40Gy 照射線量上限値 D0OAR1 : 10Gy D0OAR2 : 30Gy, D0OAR3 : 30Gy D0OAR4 : 45Gy, D0OAR5 : 30Gy OAR1 OAR3 PTV ガイドラインの要 件を満たしている 想定される用途 • すべての強度変調放射線治療(IMRT)計画装置に適用可能 A. 連続法: アナログ電子回路を作成すれば,超高速(ミリ秒オーダー)での演 算が可能 B. 離散化連続法: ソフトウェア演算であれば汎用のコンピュータで実現可能 • 他にも,コンピュータ断層(CT)装置,磁気共鳴画像(MRI)装置の画像再構 成原理として適用可能 実用化に向けた課題 • 最適化問題の解法としての理論は証明済み.プログラムとアナログ電子回路の プロトタイプを作成した.次の A または B の何れかが未開発である. A. 連続法: 大規模なアナログ電子回路の開発 B. 離散化連続法: 実用的なインターフェイスをもつプログラムの開発 企業への期待 • 次の項目 A または B の何れかの技術を持つ企業との共同研究を希望. A. 連続法: 電子回路の製作 • 大規模なアナログ電子回路の実装技術 B. 離散化連続法: 実用的なプログラム開発 • 臨床での利用を想定したユーザインターフェイスのプログラム作成技術 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称: 強度変調放射線治療計画装置,強度変調放射線照射装置の放射線 ビーム係数演算方法,強度変調放射線治療計画プログラム及び コンピュータで読み取り可能な記録媒体並びに記録した機器 • 出願番号: 特願2012-166589 • 出願人: 徳島大学 • 発明者: 吉永哲哉,藤本憲市 お問い合わせ先 • 国立大学法人 徳島大学 産学官連携推進部 増田隆夫 • 四国 TLO 技術移転部 矢野慎一 • 電話: 088−656-9402 • 電話: 087−811-5039 • FAX: 088−656-9814 • Mail: [email protected] • FAX: 087−811-5040 • Mail: [email protected]
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