放射線治療かたろう会 第 12 回放射線治療システム研究分科会前抄録

第 12 回放射線治療システム研究分科会前抄録
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第 12 回放射線治療システム研究分科会前抄録
テーマ『Patient specific QA の在り方~生物学的評価と許容値の見直し~』
講演 1 『放射線生物学の基礎 ~線量分布と生体反応の間に~』
熊本大学大学院生命科学研究部 放射線治療医学分野 大屋 夏生 先生
昨今の放射線治療の実臨床においては,照射スケジュールの寡分割化が一つの大きな流れとなりつ
つある.その背景には,高精度放射線治療の急速な普及による線量集中技術の向上と,抗癌剤や分
子標的薬などの薬剤療法の進歩,さらには治療期間短縮を是とする社会的,医療経済的な状況があ
る.すなわち,短期間照射を要求する土壌があり,一回大線量を可能とする線量集中技術が確立し,
臨床的標的体積 (CTV) の最小化を許容する全身的治療法のサポートが期待できることにより,寡分
割スケジュールは,今後さらに広く適応されていくことが予測される.
古典的な放射線生物学,特に線量分割法における知識は,計画標的体積 (PTV) が肉眼的腫瘍体積
(GTV) に対してかなり大きい,つまり正常組織が広範囲に full dose 照射される治療を前提として,
実臨床に大きく寄与してきた.生物学の実験データや理論上のモデルと,膨大な臨床経験の相互フ
ィードバックによって,もっとも安全で効果的な治療として,2 Gy 前後の一回線量を用いる通常分
割照射が確立し,長期に渡って実践されてきたと言える.従って,
「小 PTV かつ一回大線量寡分割」
の時代の到来に伴い,臨床現場の要求に応えられるように,従来の放射線生物学は再構築される必
要があり,現在その途上にあると思われる.
しかしながら,いかに高精度治療システムが普及しようとも,放射線は生物学的反応を介して癌細
胞を死滅させ,副作用として正常組織を障害することが変わるわけではない.また,一回大線量寡
分割という未知の領域に踏み込んでいくからこそ,線量分割における放射線生物学の基礎を熟知し
ておくことは,より安全で有効な治療を達成するために重要と考えられる.本分科会では,寡分割
の時代においても普遍的な放射線生物学の基礎知識を,線量分割の生物学的根拠などを中心として
解説する.
さらに,PTV 内線量の均一性が,実際の患者の生体反応にどのように影響するかを,実症例を踏
まえて提示する.日常的に見慣れた TCP/NTCP 曲線,DVH,そして線量分布図の向こう側に,個々
の患者像を意識する習慣を持ってもらえれば幸いである.
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講演 2
『ビームモデリングと線量検証の関係 ~IMRT における線量許容値の妥当性~』
大阪大学大学院医学系研究科 放射線治療学講座 水野 裕一
先生
許容線量に関する物理学的指標は AAPM report13 から TG40 そして TG119 へ移行し線量不確か
さや空間不確かさを考慮し変遷を遂げている.TG119 となってからは IMRT 検証の許容値設定を
3mm3%のパス率 95%としている施設が多い.
放射線治療装置の立ち上げならびに治療計画装置のコミッショニング時には,IMRT ではベンチマ
ークプランを利用するなど,許容値を達成すべくビームモデリングの調整を行う.ビームモデリン
グの際にはペナンブラの調整,MLC の位置,transmission factor の調整などが必要で,それにより
IMRT 検証におけるパス率も変化する 1).しかし実際には出力変化がパス率に与える影響は大きく,
位置精度に関してはパス率の面で相対的に影響は小さい.ただしこれは計画の複雑さ(強度変調の
程度)により影響は異なり,例えば頭頸部 IMRT では強度変調のかけ方が前立腺より強いため,MLC
位置精度や transmission factor の影響も大きくなる.すなわちそれぞれのパラメータとパス率の関
係性は症例によって,そして VMAT,sliding,step and shoot のように装置によっても異なるため,
施設ごとにモデリング調整を考慮しなければならない.また出力系の影響はパス率に大きく影響す
るため調整は容易だが,位置精度系は 3 mm という許容の中に埋もれてしまっている.実際には強
度変調の強い箇所での距離による変化は線量では非常に大きな変化となる.よってここで重要なこ
とは大きなズレでない限り 3 mm3%のパス率に影響は与えないが今後,生物学的指標の導入が実装
されていくことを考慮すると,特に位置精度における調整が重要となっていく.
今回の講演では TG119 の 3 mm3% パス率 95%のクライテリアが一人歩きしているが,患者個別
検証においてこの γ-index が意味をなしているのかを再考する.参加者の皆様とディスカッション
しながら,IMRT 検証における許容値の妥当性について一緒に考えたい.
1) Zhen H, Nelms BE, Tome WA. Moving from gamma passing rates to patient DVH-based QA
metrics in pretreatment dose QA. Med Phys. 2011; 38(10):5477–89.
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講演 3
『3DVH による検証結果と VMAT 治療計画』
広島平和クリニック 高精度がん放射線治療センター 小野 薫 先生
今では欧米をはじめ,本邦でも IMRT はそう珍しい照射法ではなくなってきた.なぜなら,われ
われは IMRT の欠点を知りながらも,それを上回る利点を十分に理解し,上手に臨床応用するテク
ニックを身に付けてきたからだろう.VMAT も同様である.症例によっては IMRT の線量分布に劣
ることもしばしばあるが,照射 MU や照射時間が短いことがどれほど患者に有益であるかを知って
いるからこそ,この照射法を選択するわけである.当然,それなりにリスクのある照射法ゆえに,
プランごとの検証は必須であろう.以前,米国物理学会で「IMRT の実測検証は不要で,ソフトウ
ェアによる検証で十分ではないか」という討論が行われたことがある.その考えがまったく間違っ
ているとは言い切れないが,少なくとも VMAT にはそれは当てはまらないと私は思う.特に複雑な
症例では,現在の最適化アルゴリズムの精度では限界がある.直接,プランナーの能力が照射精度
に反映されてしまうのである.本来はこれではだめなはずなのだが,現状はなんとか頑張るしかな
い.いずれ治療装置や計画装置の技術が進歩すれば,ある程度 QA は簡略化できると思う.
IMRT が臨床応用され始めた 15 年くらい前は,線量分布を視覚的に確認し,数点の電離箱測定を
行ってきた.それはそれで間違ってはいなかった.ただ,少し足りないのである.定量化ができて
いなかった.われわれは,もっと理解しやすい検証結果を求めるようになったのだ.当院では 2009
年開設以来,VMAT を中心とした臨床を行っている.そして,その QA には 4 次元半導体検出器シ
ステム,ArcCHECK (Sun Nuclear)を主に使用してきた.円筒型ファントムの表面線量分布をガン
マ解析で評価することができるのだ.かなり進歩した.さらに,その後 3DVH ソフトウェアが導入
され,患者体内の 3 次元線量分布や線量体積ヒストグラムが予測できるようになった.そんなに進
歩したのになぜその必要があったのか,それは,ガンマ解析が万能ではないことが様々な研究によ
って分かってきたからだ.ガンマ解析は治療計画装置の線量分布と実測値との差を,定量的に見積
もることができるとても便利な手法だ.しかし,その結果が持つ意味に理解しがたい面があること
が欠点である.しかも,その設定する許容値にたいした意味はない.単なる指標なのである.そこ
で,3DVH ソフトウェアはわれわれの理解や迷いを助けてくれる.もちろんこれも完璧ではないし,
問題点もかなりある.しかし,私はそれで良いと思っている.道具とはそういうものであり,最終
的にはその問題を理解した人間の目で確認すれば良いからだ.本講演では 3DVH ソフトウェアの問
題点について言及しつつ,実際の臨床経験からその有用性について詳細に述べる.われわれは,道
具を上手に使用しなければならないし,それがきっとできるはずである.
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講演 4
『実測結果に基づく 3 次元線量予測と Radiobiological Gamma Index
(放射線生物学的な因子を考慮した γ-index)の提案』
大阪大学大学院医学系研究科 放射線治療学講座 隅田 伊織 先生
IMRT では治療開始前に患者ごとの QA として絶対線量や線量分布の検証を行っており,AAPM
や JASTRO のガイドラインを参考に,絶対線量では計算線量と実測線量の乖離が 3%以内,線量分
布では線量誤差 3%, DTA 3 mm の許容とした時に検出器のパス率が 95%を超えていること,施設の
精度管理ポリシーによって多少のバラツキはあるが,これらを許容値として使用することが多い.
近年,Measurement-guided dose reconstruction (MGDR)と呼ばれる線量検証結果を計画線量に加
味した体内予測線量の再構成アルゴリズムが提案された.ターゲットや正常組織の臓器に対する予
測線量評価が可能となり,これまで 3%/3 mm の許容でパス率が 95%以上であれば“物理的に問題
なく”線量投与が可能と判断してきたことが,実は“思わぬ線量誤差を生む”場合があることが明
らかとなった.我々も MGDR アルゴリズムを昨年報告し 1),前述と同様の経験をした.線量予測の
重要性を実感した.
これまで線量検証結果が許容を満たさなかった場合(パス率が 90%以下,線量誤差が 5%を超えた
等),誤差を示す箇所を医師に提示し,臨床上に許容し得るか否かの判断を仰いでいた.ただし,線
量検証で使用する対象はファントムであるため,患者とは形状や密度が異なり,医師においても正
確な判断に困難を来していた.現在では MGDR アルゴリズムの恩恵を受け,体内のどの臓器にどれ
だけの線量誤差が伴うかの定量的かつ視覚的な判断が可能となった.
そこで,従来から線量評価パラメータとして広く使用されているγ-index の概念に放射線生物学的
指標(TCP: tumor control probability, NTCP: normal tissue complication probability)を付加した
新たな指標(RGI: Radiobiological gamma index)を提案した 2).一旦,物理的に 3Dγ評価を行い,
許容を超えた線量ボクセルに対して TCP/NTCP を用いて再評価し,物理的および放射線生物学的に
許容し得るか否かを総合的に判定可能な指標とした.これによって,前述の許容を超えた場合に直
面した時であっても,RGI のパス率が許容できれば治療開始可能へと導くことが可能となる.
当日は,MGDR アルゴリズムの解説から,提案する RGI について詳細に解説する.
1)
Three-dimensional dose prediction based on two-dimensional verification measurements for
IMRT. Sumida I, Yamaguchi H, Kizaki H, et al. J Appl Clin Med Phys. 2014;15:133-146.
2)
Novel radiobiological gamma index for the evaluation of three-dimensional predicted dose
distribution. Sumida I, Yamaguchi H, Kizaki H, et al. Int J Radiat Oncol Biol Phys. In press
(2015).