国際ビジネス情報誌 平成 28 年 8 月15日発行 (毎月 15 日発行) 第 66 巻 第 789号 新たなビジネスのヒントを! 8 世界の エコシステム 2016 August 特集 イノベーション企業支援 中 国 越境EC 政策変更の余波 世 界 国際標準化戦略の理想型は? メキシコ TPP発効後の対日関係 日本の日用品を海外で売る 市場別攻略法 CONTENTS 2016 AUGUST 8 特集 特別リポート 世界のエコシステム 日本の日用品を海外で売る イノベーション企業支援 02 エコシステム ~ヒト・モノ・カネを呼ぶ循環系~ 04 インタビュー WHILL, Inc. ニーズに応え価値を創造 06 シリコンバレー イノベーション・エコシステムの聖地 08 ロサンゼルス LACI:市営のエコシステム 12 ニューヨーク 多様な産業の集積が魅力 14 シンガポール 東南アジア最大の起業拠点 16 イスラエル スタートアップ国家 19 英国 フィンテック:金融サービスの革命児 22 ウィーン スタートアップ企業のハブへ 23 インド R&D拠点として台頭 24 バングラデシュ 到来! スタートアップ・ブーム 26 ドバイ イノベーションを国家目標に 28 サンティアゴ “チリコンバレー”のエコシステム 29 オーストラリア イノベーションは産学連携で 30 コラム イノベーション・ハブ「渋谷」 31 ~市場別攻略法~ 39 日本の日用品、人気の秘密 海外展開にどう生かすか? 40 欧州 世界市場への架橋 42 米国 米国の先を見据えて 44 中国 地域により異なる消費者像 46 ベトナム「信頼」をいかに購買につなげるか 48 企業の取り組み事例 中島重久堂 コアなファンをつかむ 51 セラミック・ジャパン 継続の力・選択の力 52 光大産業 「市場にないもの」を作る 53 伊藤バインダリー ゼロからの挑戦 54 外国人バイヤーが日本のサプライヤーに期待すること 提案力と柔軟性 55 「アンビエンテ 2016」会場の様子(p.39 ~特別リポート) A R E A R E P O RT S 世界のビジネス潮流を 読 む エリアリポートの読みどころ 紹介 【世 界】 国際標準化戦略の理想型は? 59 【中 国】 越境EC政策変更の余波 【マレーシア】 外国人労働者削減でコスト増 【米 国】 大統領選は IT 戦 60 62 64 66 【メキシコ】 TPP 発効後の対日関係 【欧 州】 EU緑茶市場で競争するには 【ウクライナ】 ビジネス環境整備に期待 【ナミビア】 地の利を生かして 68 70 72 74 連載 話題の間奏曲 中国とミャンマーの国境 挑戦!国際ビジネス 33 物価ウオッチング アジア編 ダッカ/ホーチミン 茨城県 株式会社エムテック どんな依頼も地域で対応します 微細長尺加工で世界へ 80 36 国柄・土地柄・暮らしぶり メキシコ/メキシコ市 ハイヒールからペタンコ靴に 安全な街を女たちが闊歩 77 表紙画像:Westend61/Getty Images 特集 世界のエコシステム イノベーション企業支援 IoT、ビッグデータ、AI、ロボット、フィンテック…第 4 次産業革命時代とも呼ばれる今日、これま でにないアイデアや高度技術が“イノベーション”を生み、新たな有望な成長市場を創出している。 「イノベーションの聖地」とも呼ばれ、次々と新たなビジネスを生み出しているのが、米国シリコンバ レーだ。アップル、グーグル、フェイスブックなどが本社を構える。なぜシリコンバレーではイノベーショ ンが生まれるのか。そこでは「エコシステム」というスタートアップ(ベンチャー企業)のビジネスを支 援する仕組みが有機的に機能し、ヒト・モノ・カネを呼び込んで成長を続けているからだ。今日ではシ リコンバレー式モデルにヒントを得たエコシステムが世界各地で形成され、経済成長をけん引している。 本特集は、シリコンバレーのほかにも、イスラエル、シンガポールなどを取り上げ、各地でのエ コシステムの現状を紹介する。 contents エコシステム 英国 フィンテック:金融サービスの革命児… 〜ヒト・モノ・カネを呼ぶ循環系〜 … P.4 ニューヨーク P.22 ウィーン スタートアップ企業のハブへ… 多様な産業の集積が魅力… P.23 P.14 シリコンバレー インタビュー:WHILL, Inc. ニーズに応え価値を創造… P.6 ● イノベーション・エコシステムの聖地… ● ドバイ イノベーションを国家目標に… イスラエル シンガポール 東南アジア最大の起業拠点… スタートアップ国家… インド P.28 P.19 バングラデシュ 到来! スタートアップ・ ブーム… R&D拠点として台頭… P.24 P.16 ロサンゼルス LACI:市営のエコシステム… サンティアゴ P.26 “チリコンバレー” のエコシステム… オーストラリア イノベーションは産学連携で… コラム 02 2016年8月号 イノベーション・ハブ 「渋谷」… P.31 P.8 P.12 P.29 P.30 資料:各種資料を基に作成 特集 世界のエコシステム イノベーション企業支援 エコシステム ~ヒト・モノ・カネを呼ぶ循環系~ ジェトロ知的財産・イノベーション部イノベーション促進課長 堀之内 貴治 世界中から人材・技術・資金を集め、イノベーショ グル、インテルをはじめとする名だたる IT 企業が本 ンを通じて新たなビジネスを生み出す……その仕組み 社を構えるサンフランシスコ・ベイエリアには、ユニ が「エコシステム」だ。エコシステムは世界各地で形 コーンも次々と誕生している。 成され、その活用が成長市場の鍵を握る。 例えば、ペイパルの創業メンバーで、電気自動車の テスラ・モーターズ CEO のイーロン・マスク氏が始 エコシステムとは めた宇宙ロケット開発会社スペース X は、これまで のビジネスモデルを覆し、新しい市場を創出するビジ 米国における「イノベーション」とは、単に技術革 ネスとして注目されている。またドライバーと乗客が 新を指すだけではない。新しいアイデアや技術を対価 自動車を共有する「ライドシェア」をビジネスにした が得られるものに、すなわちビジネス化することであ Uber(ウーバー)や日本で「民泊」で知られる、空 る。そのイノベーションを生み出す仕組みが「エコシ き部屋の貸し借りコミュニティーをウェブで提供する ステム」なのだ。スタートアップを、アクセラレータ Airbnb(エアビーアンドビー)もこの地域発のビジ ー、エンジェル投資家、ベンチャーキャピタル、大学、 ネスモデルだ。ウーバーは 2009 年に創業し、現在 研究機関などが、ビジネス化の入口から出口までの各 470 を超える世界の都市で利用されるまでに成長した。 段階で支援する仕組みである。成功したスタートアッ 16 年 5 月にはトヨタ自動車が出資し、ライドシェア プは、今度は投資家として再びこの仕組みに参加し、 領域で提携していくことが発表されている。 次のスタートアップを支援する。こうした仕組みはさ 技術系の起業が盛んな地といえば、米国では西のシ らなるヒト・モノ・カネを呼び込む。それはさながら リコンバレーと東のボストンが有名であったが、それ 生態系のように循環していくところから、 「エコシス 以外の都市でも、エコシステムによる起業は活発にな テム」と呼ばれるようになった。 っている。ニューヨークではベンチャーキャピタル投 世界最大のオンライン決済システム「ペイパル」の 資が増加しており、その額はシリコンバレーに次いで 共同創業者で、現在はエンジェル投資家でもあるピー 全米第 2 位。フィンテックなど、高度な IT 技術をさ ター・ティール氏は、そんな「エコシステム」の代表 まざまな産業に組み込む「ハイフンテック(-Tech) 」 的住人だ。ペイパルの売却によって得た巨額の資産を への投資が伸びている。南カリフォルニアのロサンゼ もとに、新たな創業を行いつつベンチャー・ファンド ルスでは、環境技術に特化したエコシステムで差別化 も設立し、これまでフェイスブックなど数多くの企業 を図っている。ハイテク産業が集積するテキサス州オ に投資している。ティール氏を筆頭に、ペイパル出身 ースティンでは、毎年 3 月に開催される「サウス・バ 者のネットワークが大きな影響を持っていることから、 イ・サウスウェスト(SXSW) 」が、次世代の技術や 「ペイパル・マフィア」とも呼ばれる。 シリコンバレーだけじゃない! 産業が見通せるイベントとして評価されている。 イスラエル・シンガポール間の連携も 米国の調査会社コンパスの「2015 年世界スタート 前出のエコシステムのランキングで、欧米以外でト アップ・エコシステム・ランキング」によると、起業 ップ 10 に入ったのは、イスラエルのテルアビブ(5 環境、資金調達、人材などの項目を総合したエコシス 位)とシンガポール(10 位)だ。 テム第 1 位はシリコンバレーだった。アップル、グー 04 2016年8月号 イスラエルは起業大国として知られ、サイバー・セ 話題の 間 奏 曲 中国とミャンマーの国境 インド 中国 バングラ デシュ 昆明市 瑞麗 中国雲南省の省都昆明で飛行機を ラショー 乗り継ぎ、タイ族自治州の芒市に降 マンダレー り立った。そこからタクシーに乗り、 瑞麗の町 ベトナム ミャンマー 高速道路の橋脚の建設現場を窓外に 畹町 ラオス ほこり 見ながら西進する。車は乾いた土埃 姐告 つち ヤンゴン を巻き上げ、あちこちで響く槌音を 瑞麗 タイ 聞ききながら約2時間、ようやくミ ムセー ナムカン ャンマーとの国境の町、瑞麗市にた どり着いた。瑞麗と昆明は、高速道 テルで、それ以外は、ミャンマー特 町を見物した。ムセーの町の中心部 路によって結ばれるだけでなく、将 産の翡翠を売る店や自動車部品店と にはマーケットがあり、中国製の洗 来的には高速鉄道も延伸される。そ 修理場、漢方薬原料問屋、飲食店な 面器や小型家電、布地や調味料など こからさらに、ダッカ、シットウェ、 どが軒を連ねる。ミャンマーで人気 の日用品が多く売られていた。売り ヤンゴンへと、南に向かう3方向に のある日本の中古乗用車を販売する 子も華人とみられ、私たちとは中国 分岐する計画である。 店も多い。車種としては、15年ほ 語で会話ができた。少し郊外に行く ど前の型式の白のトヨタ・マークⅡ と、少数民族村なるものがあり、パ が多い。中国では日本の中古車は登 ダウン族をはじめとするさまざまな 録できないから、これらは当然、ミ 少数民族の家がある。 瑞麗とムセー 瑞麗は中国側にある国境の町。と ヒ スイ はいえ、国境ゲートがあるのは市街 ャンマー人向けのビジネスである。 「ねえ、一緒に写真を撮りましょ 地からさらに4~5キロ先だ。瑞麗 中国で購入してミャンマーに持ち帰 うよ」と野太いダミ声の中国語で私 江を境に中国とミャンマーの国境線 ると、ミャンマー側での登録料は安 たちに声をかけてきたのは5人の美 が引かれてはいるが、国境ゲートの くなるということだった。国境地域 女たち。いや、実は女装した地元の 所在地は姐告という瑞麗大橋を渡っ における混沌とした商取引の一端を 男たちが公園のブランコに乗って私 た向こう側の町にある。つまり、ミ 垣間見たような気がする。 たちを待ち構えていたのだ。同行の ャンマー領だった地域にじわりと中 国領が広がった地域が姐告なのであ こんとん 翌日、中国人のツアーに加わり、 ミャンマー側のムセーやナムカンの 一緒に写真を … る。大きな橋の大 規模工事を中国側 が引き受け、渡っ た 先 の 地 域( 姐 告)をミャンマー から譲り受けたの だという(タクシ ー運転手談) 。 姐告の町で一番 高いビルは20階 建ての金龍国際ホ 姐告とムセーの中国側国境ゲート周辺 柵の向こう側はミャンマー。中国姐告ゲートの横にある石碑 の顔は何ともいかめしい 33 2016年8月号 特別リポート 日本の日用品を 海外で売る ~市場別攻略法~ 鍋、食 器、化粧品、文房具 … 普段、身近 にある日用品で海外を目指す企業が増えて いる。国内で人気の商品を海外展開する企 業。新しい製品を作り出す企業。しかし国 内の成功が海外での販売に結びつかない場 合も決して少なくない。そこに必要なのは 徹底した市場研究とニーズの把握だ。 欧州、米 国、中国、ベトナムの各市場別 のアプローチ法や実践企業の事例、海外バ イヤーの声から成功のポイントを探る。 (ジェトロものづくり産業部生活関連産業課) 39 2016年8月号 日本の日用品、人気の秘密 海外展開にどう生かすか? ジェトロものづくり産業部生活関連産業課長 上原 美智代 高い技術力と品質を誇る日本の 対世界輸出の7割を 日用品。内需低迷や輸入品増大に 超える。中国向け輸 より厳しい環境に直面してきた。 出が急増した品目は、 海外市場においても、安価なアジ プラスチック製品 ア製品と欧州の高級品のはざまで (73.6 % 増) と 陶 苦戦を強いられてきたが、近年は、 日用品の輸出が好調だ。その要因 を探る。 特に陶磁器製品は、 14年 ま で は 米 国、 増加に転じた日用品 輸出 日本の日用品 磁器製品(2.2倍)。 注1 輸出は、1991 図1 日用品の輸出額推移 (億円) 10,000 8,000 った。所得の増加に 7,151 7,000 6,000 5,142 5,000 4,000 3,000 2,000 1,000 0 香港に次いで3位だ った中国が1位とな 8,774 9,000 2006 07 08 09 10 11 12 13 14 15 (年) 注:日用品は、経済産業省「生活関連産業(日用品)の高付加価値化に向けた 提言」に定める分類による。食卓用品・台所用品、浴室用品、家具、寝具、 はさみ、ガラス製品、アクセサリー、眼鏡フレーム、玩具、雑品など。 資料:財務省貿易統計を基に作成 よりいわば“一つ上 年をピークに停滞が続いていた。 のぜいたく”を求めて、日本製品 の問いに、 「品質が優れている」 しかし2000年代後半からは上 に人気が出ているのだ。 との回答が多く寄せられた。また 昇に転じた。特に近年の伸びは 中国に限らず日本の日用品が海 同じ製品でも現地製品にはない 顕 著 で、14年 は 前 年 比22.5 % 外で受け入れられている要因とし 「一つ先をいく機能性」を日本製 増 の 7,151 億 円、15 年 は 同 て、①日本製品の良さについての 22.7%増の8,774億円に達した 理解増進、②日本製品を知る機会 (図1) 。 最大の輸出品であるアクセサリ ーの伸び(前年比35.9%増)に よるところが大きい。この他に も伸びが大きいものとして、プ の増加、が挙げられよう。 品に期待する消費者も多い。 海外商談会で、バイヤーにどん な日本製品を求めるかと尋ねると、 信頼・機能・デザイン 日 本 製 品 の 良 さ に つ い て は、 「自国製品とは違う何かを持って いること」との答えが多く返って くる。 実際、毛先に特殊なナノテク加 ラスチック製食卓・台所・家庭用 「安心・安全・高品質という信頼 工を施し、水だけで歯を磨く高機 品・化粧用品(同39.9%増) 、鍋 性」 「一つ先をいく機能性」「デザ 能歯ブラシは、台湾をはじめ海外 な ど の 鉄 鋼 製 食 卓 用 品( 同 インの良さ」が、評価されている。 での販売を伸ばしている。同製品 35.5%増) 、陶磁器製食卓用品・ 日用品の主な輸出先であるアジ を製造販売する夢職人(本社:大 台 所 用 品( 同26.4 % 増) 、スプ アにおいて、ジェトロは日本製品 阪府)は、ジェトロの海外商談会 ーン・フォークなど食卓用品・台 のイメージについての消費者アン をきっかけに台湾のバイヤーと契 注2 所用品(同16.6%増)などが挙 ケートを、2012年以降3回 げられる。 施してきたが、いずれの調査でも フランスのメゾン・エ・オブジェ 「高品質」「安心・安全」というイ やイタリアのミラノサローネへも これら食卓・台所・家庭用品の 実 約し、海外展開を始めた。その後、 最大輸出先は中国で、以下、米国、 メージが高い割合で示されている。 出展し、欧州市場開拓へも乗り出 香港、台湾、韓国の順。これら上 また、中国における調査では購入 している。 位5カ国・地域向け輸出総額は、 時に重視するポイントは何か、と 40 2016年8月号 「デザインの良さ」という点で 世界の を ス潮流 ビジネ 読む AREA REP RTS エリアリポート 読みどころ 紹介 世界 ◎ p60 メキシコ ◎ p68 国際標準化戦略の理想型は? TPP 発効後の対日関係 国際標準化活動に民間が参画。今や国際標準化機構 (ISO)などの国際規格だけにとどまらない。今後、日 本の標準化戦略において求められる主要課題は、分野 横断的な取り組み、国内認証機関の強化・統合、標準 化リテラシーの底上げ、の三つ。多国間で調整が必要 な標準化の課題対処には WTO が最適の場となろう。 TPP 発効で何が変わるのか。日墨 EPA により関税撤 廃の例外とされた農水産品について、その一部が段階 的に関税撤廃あるいは税率が低減される。日本食品輸 出拡大に期待できよう。貿易円滑化・知的財産保護の 両分野では事業環境改善も。自動車産業における対米 輸出製造拠点としてのメキシコの魅力に変わりはない。 中国 ◎ p62 欧州 ◎ p70 越境EC政策変更の余波 EU緑茶市場で競争するには 急成長中の越境電子商取引に関する一連の新政策が 発表された。主な変更点は2点。税制と輸入規制。一 般貿易に比べ低い税率だった行郵税を廃止し、関税、 増値税、消費税を課す。輸入規制ではポジティブリス ト方式がとられる。政策変更の影響は日本企業にも及 ぶが、越境EC活用のメリットは引き続き大きいといえる。 「緑茶は健康に良い」とのイメージが定着しつつある EU で緑茶が人気。日本企業が EU の緑茶市場に参入し、 輸出や販路の拡大を図るには何が必要か。日本産緑茶 取引を手掛けるオーストリア企業2社の事例から、そ のヒントを探る。具体的には、日本産緑茶の類似品対 策、高品質の維持、他国産茶との差別化が挙げられる。 マレーシア ◎ p64 ウクライナ ◎ p72 外国人労働者削減でコスト増 ビジネス環境整備に期待 政府は、非熟練外国人労働者の削減に向けた政策を 次々に発表。2020年の高所得国入りを目指す。その 政策内容を明らかにする。日系企業にも影響は及ぶ。 外国人労働者削減策のさらなる強化が続けば、コスト 増による事業縮小や撤退も懸念される。その一方で、 高度な技術や知識を有する人材の誘致には積極的だ。 4月に誕生した新政権下でも、債務削減、汚職対策、 税制改革が進む。ビジネス環境は以前に比べ大幅に改 善した。2016年1~4月期の鉱工業生産が前年比で増 加に転じ、経済面では明るい兆しも。EU との高度か つ包括的な自由貿易協定(DCFTA)も発効し、EU と の貿易比率は高まろう。魅力の一つは人件費の低さ。 米国 ◎ p66 ナミビア ◎ p74 大統領選は IT戦 地の利を生かして 大統領選で IT 活用が増えている。とりわけ顧客管理 や資金集めの2分野で不可欠に。新決済技術により個 人がインターネットを通じて献金することが容易にな るなど、候補者の資金集めに変化をもたらした。最新 の IT 技術・サービスの事例を紹介する。大量の個人情 報を扱うため、商機はセキュリティー対策にも及ぶ。 対ナミビアビジネスを手掛ける日本企業3社に東京 でインタビュー。潜在性の大きい同国市場をどう攻略 すべきか聞いた。共通するのは、信頼できるビジネス パートナーや協力機関を現地で得ている点。治安は良 好で地の利もいい。国内全域に道路が通じ周辺国へも つながる。課題は所得格差や各種インフラ整備などだ。 59 2016年8月号 国柄・土地柄・暮らしぶり メキシコ/メキシコ市 ハイヒールからペタンコ靴に 安全な街を 女たちが闊歩 メキシコ か っ ぽ メキシコ市 ジェトロ メキシコ事務所 西尾 瑛里子 Mexico City これまでは治安の問題から女性駐在員は皆無に等し ランやカフェは、古い邸宅や建物を改装したものが多 かった。だが、ここ数年で女性駐在員の数は急増。 い。高い天井、石造りの階段、凝った装飾を施した門 筆者もその一人であり、ついに女子会を開催するまで 構え……いずれも重厚で趣のある雰囲気を醸し出して に…。治安の改善は街に活気をももたらしている。メ いる。街の至る所で見かける石畳の小道、古い修道院 キシコ市に駐在してみて目にしたものを挙げれば…… や劇場などもまた、歴史を感じさせるアイテムだ。そ れもそのはず、メキシコ市の歴史をひもとけば、15 世 古い街並みの中で人々は・・・ 紀中ごろから栄えたアステカ文明期にまでさかのぼる。 市内の高級住宅街であるポランコ地区に、通称「ポ 現在のメキシコ市がある場所は、アステカ王国のか ランキート」と呼ばれるエリアがある。このエリアに つての首都テノチティトラン(石のように堅いサボテ は高級レストランが集中しており、週末の昼下がりに ンの意)だった。「蛇をくわえてサボテンに止まって は食事を楽しむ人々であふれる。皆のお気に入りは、 いる鷲のいる場所に街を造れ」という神のお告げに従 日光がたっぷり降り注ぐテラス席。エアコンの効いた いアステカ人はここに街を創設。もともとここはテス 室内席ではない。 ココ湖という湖で、その中央部を埋め立ててできた土 標高約 2,200 メートルに位置するメキシコ市。湿度 ワシ 地だ。メキシコ国旗の図柄もこの神話に由来しており、 は低く、日中の気温も年間を通して 20~30 度と爽や 旗の中央には、蛇をくわえた鷲がサボテンに止まって かで過ごしやすい。雨期でも、夕方にスコールのよう いる姿が描かれている。 な雨がざっと降る以外は 晴れていることが多い。 この過ごしやすい気候の せいで、人々はとにかく 屋外で過ごすことを好む。 たとえ雨が強く降ってい たとしても、雨よけシェ ードなどを駆使して、何 としてもテラス席に居座 ろうとする人さえいる。 人々がくつろぐレスト ポランキートのイタリアンレストラン「NONNA」 77 2016年8月号 挑戦!国際ビジネス 株式会社エムテック どんな依頼も地域で対応します 微細長尺加工で世界へ 業界有数の精度を誇る「微細長尺加工」を武器に、 医療機器部品で海外の市場に挑戦するエムテック。地 域のまとめ役を買って出る同社の挑戦を紹介する。 製造業が盛んな茨城県。特に日立市を中心とした県 「COMPAMED」の様子 北には、日立製作所の関連企業やサプライヤーが集積 しており、エムテックもこの地で 1949 年に創業した。 ひ 小物の挽き物・旋盤加工に特化していた同社は、創 業以来約 50 年間、ほぼ 100%の割合で日立製作所関 連企業などに納品するための自動車関連部品を製造し てきた。しかし、2000 年ごろから当時の超円高の影 響により、自動車関連企業の生産拠点の海外進出への 共同受注体「GLIT」 動きが加速。対応を迫られた同社は、両面作戦を展開 した。一つは医療機器部品の受注、もう一つは海外に おける新市場の発掘だ。 見えてきたのが海外市場だった。 海外展開を視野に入れ始めてからは、松木社長自ら、 「どんな依頼であっても対応します」――自社だけ 中国、タイ、ベトナム、インドに足を運び、現地企業 では製造できない製品であっても、地域の有力企業に を視察。各国のインフラなども含め調査した。 「当初 外注するなどしてとにかく応えてきた。だが、そのう は、アジア地域での海外展開を検討していたが、イン ちに外注でも対応しきれないような製品についての相 フラ、現地スタッフのレベル、商習慣の違いなど、自 談が寄せられるようになった。その時松木徹社長は発 分の中で気に掛かるところがあり、他にもっと適した 想を転換した。 「外注してもできないような製品を、 地域があるのではないかと感じた」と同社長は述懐す 自社で対応できるまでに技術力を高めることができた る。アジア諸国を訪問してみて、むしろ「自社が海外 なら、それこそが“ブルーオーシャン”なのでは」と において医療機器分野でビジネス展開すべきは、もの いうわけだ。自社の技術力を高め、その技術で自社製 づくり技術が高く、かつ医療先進国にすべきなのでは 造を実現できたもの――それが医療機器部品だった。 ないか」との思いが強まったという。 こうして技術力向上に努めた結果、極めて微細な加 工もできるようになった。だが、日本国内において、 それほどの精度を求められることは少なかった。高精 度・高付加価値製品のニーズはどこにあるのか――。 ドイツ市場への確信 08 年、日立地域の産業支援機関職員と共にドイツ を視察する機会を得た。当時ドイツへの間接輸出の経 験はあったものの、現地企業への直接納入経験はなか 代表取締役:松木 徹 創業:1949年 資本金:1,000万円 所在地:茨城県ひたちなか市津田東2-1-3 従業員数:30人 事業内容:CNC 旋盤による精密切削加工、複合 加工、微細加工 URL:http://www.m-tech61.com/ 80 2016年8月号 った。しかし、松木社長は訪独を機に、ドイツは自社 製品・技術の需要があると確信した。なぜなら「ドイ ツには、高い技術に対して高い付加価値を認める文化 が根付いている。また、技術者の育成も 10 歳ごろか ら始められている。職人のレベルが高いだけでなく、 職人に対する社会的評価を高める素地がある」という
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