山形県医師会会報 平成28年6月 第778号 7 最近の流行性耳下腺炎の流行について 舟山病院 小児科 斎 藤 誠 一 やっとインフルエンザの流行が下火となってき 高値を示します。確定診断のためには、EI A法に ましたが、流行性耳下腺炎の流行はあいかわらず て血清I gM抗体の検出が用いられます。 持続しております。平成4年2月に私が米沢に赴 合併症には中枢神経合併症、聴力障害、精巣炎・ 任してからおそらく一番の流行と思われます。流 卵巣炎、膵炎などがあります。 行が続くと一番心配なのは合併症です。忘れがち 中枢神経合併症には無菌性髄膜炎があり頻度1 なものに難聴があります。難聴が疑われた時には ~10%で、予後は良好ですが、脳炎の頻度は1% じめて、その前の流行性耳下腺炎の既往をチェッ 未満で、後遺症や死亡につがながります。患者の クということも経験します。ということで流行性 約50%で髄液細胞数が増多するといわれています。 耳下腺について少し思い返してみましょう。 聴力障害について、ムンプスウイルスの内耳感 流行性耳下腺炎はパラミクソウイルス科ルブラ 覚神経障害により難聴をきたします。多くは片側 ウイルス属に属するムンプスウイルスの全身感染 性で永続的な高度の難聴を呈します。 症です。好発年齢は幼児期、10歳までに75%が感 しかし、両側性のものや軽症例もかなりあるこ 染します。通常1~2週間で軽快します。一般的 とが判明してきました。また、多くは耳下腺腫脹 には予後良好です。 の消失後1か月以内に発症します。古くは20000人 唾液など気道分泌物の飛沫や接触によりヒトか に1人の発生率と報告されていましたが、わが国 らヒトへ感染します。潜伏期間は通常15~24日間 の疫学調査では約1000人に1人の頻度で発症す (平均19日間)です。唾液からのウイルスは耳下腺 るという報告もあります。 腫脹7日前から9日まで分離されますが、他人へ 思春期以降の精巣炎・卵巣炎の合併頻度はそれ の感染源となりやすいのは腫脹1~2日前から腫 ぞれ25%・5%といわれています。多くは片側性で 脹後5日目までといわれています。 あり不妊をきたす例はまれです。 主要症状は潜伏期をへて、突然の両側あるいは片 膵炎の合併頻度は数%といわれています。 側の有痛性耳下腺腫脹や発熱です。耳下腺腫脹は発 治療は対症療法のみです。 症3日目がピークで、通常7~10日で軽快します。 予防は弱毒株を使用した生ワクチンのみです。 顎下腺も腫脹することがあります。また、顎下腺の (任意接種) み腫脹するときもあります。年齢が高くなるほど症 出席停止期間は耳下腺の腫脹が消失するまでと 状が典型的となり、合併症の頻度が高くなります。 していましたが、2012年4月より耳下腺、顎下腺 不顕性感染は20~30%程度であります。 または舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、か 診断は通常流行状況や臨床的特徴、他の耳下腺 つ、全身状態が良好になるまでと改訂されました。 腫脹の原因がないことにより行います。 まだ発熱の子がきたら耳下腺腫脹を確認する必 唾液腺障害により血清の唾液腺型アミラーゼは 要があるようです。
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