第11回「近似的 法︓変分法」 - 青山学院大学理工学部化学・生命科学科

マッカーリ、サイモン物理化学(上)︓p. 237-p. 278
量⼦化学Ⅰ
第11回「近似的⽅法︓変分法」
電⼦数が2個以上の原⼦のシュレーディンガー⽅程式は厳密に説くことはできな
いため、何かしらの近似を⽤いなければならない。これらの⽅程式を解くための
近似⽅法の⼀つとして“変分法”について学習し、ヘリウム原⼦のシュレーディン
ガー⽅程式の解き⽅について学ぶ。
担当︓⻘⼭学院⼤学理⼯学部化学・⽣命科学科
阿部 ⼆朗、⼩林 洋⼀
1
【ヘリウム原⼦のシュレーディンガー⽅程式】
電⼦1
ヘリウムは陽⼦、電⼦共に2個あることから、核電荷
2、また⼆つの電⼦をそれぞれ1, 2と下付きで表し
て以下のようにシュレーディンガー⽅程式が書ける
2
電⼦2
原⼦核
2
2
, ,
2
2
2
4
4
, ,
4
, ,
, , はそれぞれ核、電⼦(1, 2とする)の位置に関するラプラス演算⼦
核の位置を座標の中⼼とし(
0)、
≪ を考慮すると
2
,
2
4
1
1
,
4
,
電⼦間反発項
電⼦間反発項の存在により、ヘリウム原⼦のシュレーディンガー⽅程式は
厳密に解くことができない
2
,
【変分原理】
を満⾜するある系の基底状態を考える。左側から
全空間について積分すると、
∗
∗
(
∗
をかけて
は適当な単位体積)
上式の波動関数を別の関数に置き換えて同様にエネルギーを求める
∗
∗
変分原理︓
は基底状態エネルギー
よりも必ず⼤きくなる
等式は
の時だけ成⽴する。パラメータ , , , ⋯︓変分パラメータ)
を含んだ試⾏関数を設定し、その関数を⽤いて を最⼩化することにより最
良の基底状態エネルギーを決定する近似⽅法を変分法という。
3
【変分法を⽤いた⽔素原⼦の基底状態】
⽔素原⼦のエネルギーを求める際には、シュレーディンガー⽅程式の動径成分
を解けばよい(第10回のスライドの式3)基底状態では
0であることから
2
4
厳密な解を知らなくても、 が⼤きくなるにつれて波動関数が0に近づくことが予想
されるので、試⾏関数として
というガウス関数を使ってみる。ここで、
が変分パラメーターである
∗
∗
2
/
3
/
/
8 2
∗
∗
4
16
/
16 2
∗
4
3
2
/
2
/
【変分法を⽤いた⽔素原⼦の基底状態】
を について微分し、0とおいて最⼩値を⾒つける
d
d
3
2
0
∴
2 2
18
に得られた を代⼊すると
4
3
16
0.424
16
16
⼀⽅、厳密な解から得られるエネルギーは
0.500
得られた を波動関数に代⼊し、規格化され
た波動関数をプロットすると、厳密な結果
の80%まで近づくことが分かる。
5
を満たす
波動関数
1
2 16
/
【ヘリウム原⼦への応⽤】
ヘリウム原⼦の基底状態エネルギーを変分法により求める。ヘリウム原⼦の
ハミルトン演算⼦は
2
4
2
1
1
1
4
電⼦反発項により、厳密に解くことはできないが、ヘリウム原⼦核まわりの1電⼦
を⽤いて以下のように書き直すことができる
に対するハミルトン演算⼦
1
2
1
2 4
1
2
4
1,2
は以下の⽅程式を満⾜する
,
,
,
,
1,2
, ,
は
2の⽔素型波動関数であり、⽔素原⼦のシュレーディンガー
⽅程式で得られた結果をそのまま⽤いることができる
6
32
1,2
【ヘリウム原⼦への応⽤】
電⼦反発項を無視すれば、ハミルトン演算⼦は各電⼦について変数分離でき、
⽔素原⼦の解を⽤いて以下のように表すことができる
,
/
1,2
ここで
4
を変分パラメータと考えれば、
の式を試⾏関数として⽤いることがで
きる。ヘリウム原⼦の1s電⼦のエネルギーは以下の式より求められる( は
規格化されている)。
,
16
7
,
27
8
【ヘリウム原⼦への応⽤】
は定数なので略して表⽰すると、
d
を最⼩にする 2
27
8
27
8
0
∴
27
16
1.6875
を有効核電荷と考えることができる。
が2よりも⼩さい理由
各電⼦がもう⼀つの電⼦に対して原⼦核の電荷を部分的に遮蔽しているから
単純な試⾏関数を⽤いる変分法で求めた
ヘリウム原⼦の1sエネルギーは、⾼精度
計算や実験値と⽐べて98%程度の精度を
与える。
引⼒
斥⼒︓遮蔽の由来
原⼦核
は
8
とも書く
【⼀次元の箱への応⽤】
~ の⼤きさの⼀次元の箱を考える。得られる波動関数は
/2を中⼼に対称的で、
壁の位置では0になることが予想できる。このような特性をもつ関数として、
が挙げられる。よって、以下の関数を試⾏関数として⽤いてみる。
+
(式1)
を⽤いて、 ∗
、 ∗
をそれぞれ求めて変分法の式より
エネルギーを算出する。単純だが、⻑い計算の結果以下を得る。
0.125002
厳密な結果は
8
0.125000
ここで重要なことは、⽤いた試⾏関数が関数の⼀次結合であり、試⾏関数
を⼀般化して以下の式で表すことができることである。
9
【⼀次元の箱への応⽤】
2、また ,
が実数の場合を考えると
+
+
d
+
d
d
d
d
エルミート︓量⼦⼒学の基本原理として、固有値が実数であるためには、
演算⼦がエルミートなければならない。
∗
10
d
∗
∗
d
∴
d
【⼀次元の箱への応⽤】
2
d
2
,
のような量を⾏列要素という。変分法のエネルギーの式に代⼊すると、
,
,
2
2
2
2
について微分すると
2
を
2
2
について最⼩化しようとしているので
2
0 であり、以下の式が得られる。
0
11
2
【⼀次元の箱への応⽤︓永年⽅程式】
同様に を について微分
0
⼆つの式はに , ついての連⽴⽅程式であり、
係数の⾏列式が0のときである。すなわち
0 以外の意味のある解は、
0
この⾏列式を永年⽅程式という。この⾏列式を解く。p10(式1)において、
0とおいて式を書き直すと、
1
1
を⽤いて , Sをそれぞれ計算すると、
6
1
30
12
および
30
1
140
105
1
630
【永年⽅程式】
永年⽅程式に代⼊
1
6
1
30
56
1
30
30 140
1
140 105 630
252
51.065
0
0
および 4.93487
4.93487
8
0.125002
波動関数
エネルギーの⼩さい⽅を変分法による近似的
な基底状態のエネルギーとして採⽤する。
0.125000
単純な試⾏関数にしては⾮常に良い⼀致である
13
【永年⽅程式︓N次元⼀次連⽴⽅程式への発展】
試⾏関数の⼀次結合は 次元に拡張可能である。
∑
⋯
⋯
⋮
より
0
0
⋮
⋮
⋯
0
⋯
⋮
⋯
⋮
⋮
0
⋯
を⽤いた。
ここで、
2よりも⼤きな では、コンピュータープログラムなどを⽤いて
数値的に求められる。
14
【変分法のまとめ】
系のシュレーディンガー⽅程式を書く
オービタルの形状を予想する
試⾏関数 を設定する
∗
, ,⋯
d
d
d
d
, に
15
∗
⋯
,
0
例)
例)
から
を計算
変分パラメータについてそれぞれ微分し、エネルギー
が最⼩値のときの変分パラメータを求める
, ⋯ を代⼊し、エネルギー、波動関数を求める
最適な試⾏関数を⾒つけ、最⼩の
を系の波動関数のエネルギーとする