病院向け快適空調システムの開発 正 会 員 ○宮崎 俊行(三機工業)正 会 員 Toshiyuki MIYAZAKI *1 小松 貴司(三機工業)正 会 員 Takashi KOMATSU*1 植村 聡 (三機工業) Satoshi UEMURA*1 *1 SANKI Engineering Co., Ltd. 1.はじめに 入院患者が一日の大半を過ごす病室では、室内の空気 を直接冷却または加熱して循環させる対流空調が一般的 に採用されているため、気流が直接身体にあたってドラ フトと呼ばれる不快感を生じることがある。そのため入 院患者からはドラフト対策を求める声が多数あった。 一方、冷温水を用いて天井・壁面・床面などを冷却・加 熱する輻射空調は、気流感や温度ムラが少ないため快適 性に優れていると言われているが 1)、 冷暖房能力は対流空 調に比べ小さく、漏水や高コストなど快適性とは異なる 問題がある 2)。 近年では、対流空調と輻射空調の特徴を有した空気式 輻射空調方式が開発され、入院患者への快適な空調シス テムとして病室や透析室などに導入されている 3) 4)。こ の空気式輻射空調システムの長所は緩やかな気流、冷暖 房能力が大きい、音が静か、漏水の心配が無いことであ る。空気式輻射空調システムには天井チャンバー方式と チャンバーボックス方式があり、一般的に病室や透析室 で用いられる方式はチャンバーボックス方式である。ベ ッドの真上に 1 対 1 で配置され、吹出口サイズはベッド よりも少し小さい長方形をしている。輻射効果は FCU や パッケージエアコンで空調された空気をチャンバーの上 部から給気し、パネル面を冷却または加熱することで得 られる 3)。また、パネル面から緩やかな気流が室内に供給 されるため、対流空調の大きな冷暖房能力も得られる。 今回開発した技術は、独自の開口形状と内部構造によ って気流方向を制御し、病院・福祉施設に特化し、快適性 を追及した空気式輻射空調システムである。 て、一対一に配置された吹出口の表面は冷却及び加熱さ れるため、図-2 に示す①~④の効果を満足できる。 ①風量 250m3/h を確保し十分な対流空調能力 ②医療従事者や見舞い客に爽やかな気流感 ③患者にはドラフトを感じさせない ④輻射効果で患者に冷温感を与える 2.空調システムのコンセプト 空気調和衛生便覧によると冷房時の気流は 0.25m/s 以 下、暖房時の気流は 0.15m/s 以下に抑えることが快適な空 調の一つの条件とされている 5)。そこで、ベッド上の気流 抑制を目的として吹出口の開発に取り組んだ。 開発した吹出口の外観を図-1 に示す。吹出口は下面の 一部に設けられたサイドパンチング、45°に曲げられた端 面のスリット、チャンバー内の整流機構から構成されて いる。この独自の開口形状と内部構造によって特徴的な ベッドサイドへの気流と 1 台当り最大 250m3/h と十分な 空調能力を提供することができる。また入院患者に対し 3.吹出口形状の検討 3.1 検討方法 空調システムのコンセプトを満足する吹出口形状の検 討を行った。検討は試作品を用いて行っており、1)圧力 損失の検討(パンチング、スリット面積の検討) 、2)パ ンチング・スリット配置の検討、3)気流性状の確認(可 視化)の 3 要素を中心に行った。作製した多数の試作品 の中から圧力損失と給気風量を満足した代表的な吹出口 形状を表-1 に示す。CASE1~3 では下面の形状と整流板、 CASE4~5 では側面スリットの角度についての検討を行 った。 図-1 吹出口の外観 図-2 空調システムのコンセプト 表-1 検討条件 CASE CASE-1 CASE-2 CASE-3 パネル下面 全面パンチング 整流板 有り 無し CASE CASE-4 CASE-5 側面スリット スリット角度 90° スリット角度 45° サイドパンチング 有り チャンバー内部 チャンバー内部 表-2 気流性状 CASE CASE-1 CASE-2 CASE-4 CASE-5 CASE-3 気流性状 CASE 気流性状 3.2 検討結果 煙による気流の可視化を行い、得られた気流性状の結 果を表-2 に示す。 全面パンチング+整流板(平板)の CASE-1 では、吹 出口表面から供給された煙が中心部に集まり縮流が発生 した。サイドパンチングのみの CASE-2 では、サイドパ ンチングからの煙が吹出口の 20~30cm 下で合流し、 CASE-1 と同様に縮流が発生した。サイドパンチング+ 整流板(コーン状)の CASE-3 では、サイドパンチング からの煙が表面の 40~50cm 下で全体的に広がっており、 CASE-1、2 のような縮流は見られなかった。しかし、ベ ッド上の風速を測定すると快適な条件の 0.25m/s を満足 できず更なる改善が必要であった。 そこで CASE-3 の条件からベッド上の風速を抑制する ため側面スリットを設けることとした。側面スリットは、 CASE-4 で 90°、CASE-5 で 45°として実験を行った。 スリット角度 90°の CASE-4 では、下面のサイドパンチ ングと側面スリットでそれぞれ独立した気流が生じたが、 スリット角度 45°の CASE-5 では、下面のサイドパンチン グの気流が側面スリットの気流に誘引され、吹出気流が、 より側面方向へ拡散する結果となった。 以上の結果より、吹出口下面をサイドパンチング、チャ ンバー内部に整流板を設置し、スリット角度を 45°とする 吹出口形状を基本とし、 更なる試作に取り組み図-1 に示 す吹出口を作製した。 4.検証結果 ベッド、メディカルコンソールなどの什器を設けた 4 床室のモックアップを作製し、冷房時の室内の快適性に ついて検証を行った。検証内容はベッド上の風速分布と 室内温度①~③とした。測定位置を図-3 に示す。 4.1 ベッド上の風速分布 ベッド上の患者が仰臥状態の高さとなる FL+800 の風 速分布の結果を図-4 に示す。図中にはベッドと吹出口の 位置、冷房時に推奨されている室内気流の許容限界値 0.25m/s も示した。ベッド上の風速は 0.15m/s 以下に抑制 されており、許容限界の 0.25m/s を下回っていたため、ベ ッド上の患者はドラフトを感じないと考えられる。一方 でベッドサイドの風速は最大で 0.27m/s 生じていること から、医療従事者や見舞客へ爽やかな気流が生じると考 えられる。 以上のことから医療従事者や見舞い客に爽やかな気流 感、患者にはドラフトを感じさせないといった本システ ムのコンセプトを満足できる。 図-3 測定位置(風速、室内温度) 4.2 温度分布 給気温度は 17.5℃一定、冷房負荷として 1.4kW、2.1kW、 2.7kW を与え、室内を 22℃、24℃、26℃に保った際の垂 直温度分布(①~③)の結果を図-5 に示す。測定点①と ②はベッド空間、③は室内中央である。測定点の高さ方向 への分布は FL+0、100、300、600、900、1,200、1,500、1,800、 2,400 の 9 点である。 カーテンで囲われた①、②の温度分布は上部(FL+1,800) と下部(FL+600)の温度差が 1℃未満と小さく、入院患者 の居住域は良好と考えられる。室内中央の③では天井面 (FL+2,400)の温度が設定温度に対して 3~5℃程度高く なっているものの、居住域となる足元(FL+100)と上部 (FL+1,800)の温度差が 3℃未満となっており不快さを 感じることがないと考えられる。 以上のようにインテリアゾーンの環境は良好だが、窓 の直近まで均一な環境条件が求められる場合は、別途ブ リーズラインなどペリメーターゾーンの顕熱処理を行う システムを併用することが必要となる。 5.まとめ 入院患者からベッド上のドラフト対策をして欲しいと のニーズがあったため、ドラフト抑制を可能とした吹出 口の開発と検証を行い、病院向けの快適空調システムを 構築した。 本システムには様々なカラーバリエーションや大温度 差空調対応型などの特別仕様もラインナップしており、 今後病室や透析室を中心に市場導入を図っていく予定で ある。 図-4 風速分布 図-5 室内温度 参考文 献 1) 山口一, 川上梨沙:病室の省エネルギーと快適性向上, 設備 と管理, 2014, vol.48, No.9, p.p.58-66 2) 上村靖司:流下冷水による放射・対流複合冷房, 建築設備と 配管工事, 2011, vol.49, No.2, p.p.8-12 3) 西野宗武, 永池英彦:空気式放射冷暖房システム, 建築設備 士, 2011, No.6, p.p.33-36 4) 清水正三:全空気式誘引放射ユニット「インダクションエア ビーム」, 建築設備と配管工事, 2011, vol.49, No.2, p.p.69- 71 5) 社団法人空気調和・衛生工学会:空気調和・衛生工学便覧 1 基礎編, 1995, 第 12 版, p.p.475
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