統合臨床医学 ユニット④ 「臨床検査の基礎知識」 コアカリキュラム 1)臨床検査の基準値・カットオフ値の意味が説明できる。 2)検査の特性(感度、特異度、偽陽性、偽陰性、検査前確率・予測値、尤度 比)を説明できる。 3)末梢血液検査の目的と適応を説明し、結果を解釈できる。 4)尿検査の目的、適応と異常所見を説明し、結果を解釈できる。 5)糞便検査の目的、適応と異常所見を説明し、結果を解釈できる。 6)血液生化学検査項目を列挙し目的、適応と異常所見を説明し、結果を解 釈できる。 7)血清・免疫学的検査項目の目的、適応と異常所見を説明し、結果を解釈 できる。 8)心電図検査の目的、適応と異常所見を説明し、結果を解釈できる。 9)動脈血ガス分析の目的、適応と異常所見を説明し、結果を解釈できる。 10)呼吸機能検査の目的、適応と異常所見を説明し、結果を解釈できる。 11)髄液検査の目的、適応と異常所見を説明し、結果を解釈できる。 コアカリキュラムの内容 1)臨床検査の基準値・カットオフ値の意味が 説明できる。 2)検査の特性(感度、特異度、偽陽性、偽陰性、 検査前確率・予測値、尤度比)を説明できる。 3)末梢血液検査、尿検査、糞便検査、血液生 化学検査、血清・免疫学的検査、心電図検査、 動脈血ガス分析、呼吸機能検査、髄液検査 の目的、適応と異常所見を説明し、結果を 解釈できる。 臨床検査の種類 検体検査 – 血液学的検査、生化学検査、内分泌学的検査、 免疫血清検査、腫瘍マーカー、尿・糞便検査、 髄液検査、細菌検査、遺伝子検査 生理機能検査 – 心電図、呼吸機能、脳波、筋電図、他 病理検査 画像診断 検査結果の表現 定性検査:結果が陰性か陽性となるもの 半定量検査:ー、±、+、++、+++など 定量検査:結果が数値として報告されるもの 波形、パターン:心電図、電気泳動など 画像:血液像、病理、X線検査、その他 診療の手順 問診 診断の候補 診察 診断の確定 検査 治療 鑑別診断 原因となっている疾患 を類似した他の疾患 から識別すること 検査値の変動要因 個体間変動 – 性差、年齢、個体差、生活習慣、職業、地域差等 個体内変動 – 日内変動、日差変動、食事、体位、運動、妊娠等 疾病 – 疾病、病期、重症度、治療 測定系 – 測定方法、試薬、測定誤差等 実際の検査結果 RBC Hb Ht WBC Plt 318 万/μl 4.9 g/dl 17.1 % 4,000 /μl 38.6 万/μl 検査値を解釈するためのめやす 基準範囲(Reference Interval) – 基準個体群(通常は健常者)の95%が含 まれる範囲(昔の正常値と同じ) カットオフ値 – 特定の疾患(病態)の有無を識別するため の境界値(病態識別値) その他、治療目標値など 基準範囲とカットオフ値の関係 カットオフ値 頻度 健常者群 疾患群 測定値 基準範囲の設定方法 なんらかの医学的基準を設定し、基準個体を 選別する 基準個体の集団(基準個体群)について問診 と測定を行う 測定値の分布を検討し、必要に応じて背景因 子(性別、年齢等)による層別化を行う 測定値の分布の中央95%の範囲を基準範囲 とする 設定の手順を文書として記録する なぜ「正常値」と言わなくなったか 健常者=「健康なひと」を医学的に明確に定 義、識別することができない 「健康」は「病気ではないこと」だから、その範 囲は時代とともに変わる 明確な選別基準を決めて、その条件を満た す個体群(基準個体群)の95%を含む検査 値の範囲だから「基準範囲」 基準範囲の計算方法 ノンパラメトリック法 – 測定値を小さい順に並べ、上下2.5%のデータを 除いた範囲 パラメトリック法 – 正規分布、対数正規分布等の分布モデルを仮定 – 正規分布の場合 平均±1.96×標準偏差の範囲 – 変数変換を行った場合は上記の範囲を逆変換 正規分布と対数正規分布 正規分布(血清蛋白など) 最頻値 基準範囲 対数正規分布(血清酵素など) 最頻値 基準範囲 基準範囲はあくまでものさし 検査値が基準範囲内であれば正常(健康)と いうことではない! 通常、個体の検査値の変動は、集団の変動 (基準範囲)にくらべてずっと小さい 基準範囲内であっても、一定の傾向で値が変 動していれば、なんらかの問題が潜んでいる 検査値の解釈 検査陽性 疾病あり 検査陰性 疾病なし 実際には 検査陽性 検査陰性 疾病であること が多いが、ない 場合(偽陽性)も ある 疾病でないこと が多いが、ある 場合(偽陰性) もある 検査と疾患の関係 多くの検査は、複数の疾患(病態)で 陽性となる 特定の疾患でしか陽性を示さない検 査もある(特殊検査) 検査の使い方 ふるい分けのための検査 (スクリーニング) 診断を確定するための検査 (確定診断) 他の疾患を除外するための検査 (除外診断) 経過観察、治療効果判定のための検査 検査の特性の評価 まず特定の疾患と検査の組を考える 疾患 有 検 査 陽 性 陰 性 無 真陽性 偽陽性 偽陰性 真陰性 感度(sensitivity) 疾患群で検査が陽性(真陽性)となる確率 予め他の方法でその疾患に罹患している ことが分かっている患者の集団についてそ の検査を実施し 感度 = 真陽性者数 / 患者総数 = 真陽性者数 / (真陽性者数+偽陰性者数) 特異度(specificity) 非疾患群で検査が陰性(真陰性)となる確率 予め他の方法でその疾患に罹患していない ことが分かっている集団についてその検査を 実施し 感度 = 真陰性者数 / 非罹患者総数 = 真陰性者数 / (真陰性者数+偽陽性者数) 感度、特異度 疾患 検 査 感度 陽 性 陰 性 有 無 a b c d = a / (a + c) (その検査による疾病発見の能力) 特異度 = d / (b + d) (非患者を陽性としない能力) 感度も特異度も高い検査 検 査 疾患 陽 性 陰 性 有 無 a 少数 b c 少数 d 偽陽性、偽陰性となる確率が低い 検査陽性ならばその疾患、陰性ならばその疾 患に罹患していないといえる 従って、その検査だけで診断が確定できる このような検査は、一般にリスクが高く(侵襲 が大きい)、経費も大 感度が高い検査 疾患 検 査 陽 性 陰 性 有 無 a b c0 少数 d 偽陰性となる確率が低い(患者群) 偽陽性となる確率はさまざま(非患者群) その疾患に罹患していれば、大部分が検査陽 性となる(スクリーニングに有用) 検査が陰性ならば、その疾患をほぼ否定でき る(除外診断) 特異度が高い検査 疾患 検 査 陽 性 陰 性 有 無 a 少数 b c d 偽陽性となる確率が低い(非患者群) 偽陰性についてはさまざま(患者群) その疾患に罹患していなければ、大部分が 検査陰性 このような検査で陽性となれば、その疾患に 罹患しているといえる(確定診断) その他の疫学的指標 疾患群総数(a+b)と 非疾患群総数(c+d) とが、母集団における それぞれの群の比率 を反映している場合は 検 査 陽 性 陰 性 疾患 有 無 a b c d 有病率(prevalence) = (a + c) /(a + b + c + d) 有効度(efficiency) = (a +d) /(a + b + c + d) 検査前確率 検査を行う前に、患者がその疾患である確率 を検査前確率という。 他に情報がなければ、検査前確率はその疾 患の有病率に等しいと考える。 予測値(predictive value) 検査結果を得ることによって、患者がその疾 患である確率は修正される。この修正された 有疾患確率を予測値という。予測値は検査後 確率とも呼ばれる。 検査結果が陽性の場合、患者が疾患に罹患 している確率を陽性予測値とよぶ。 検査結果が陰性の場合、患者が疾患に罹患 していない確率を陰性予測値とよぶ。 予測値 疾患 検 査 陽 性 陰 性 有 無 a b c d 陽性予測値(Positive Predictive Value) = a / (a + b) 陰性予測値(Negative Predictive Value) = d / (c + d) 陽性予測値の計算 陽性予測値 =検査陽性者が疾患に罹患している確率 = 検査陽性となる患者数 検査陽性となる患者数+検査陽性となる非患者数 陽性予測値の計算 検査陽性となる患者数 =総人口×疾患の確率×真陽性率 =総人口×有病率×感度 検査陽性となる非患者数 =総人口×疾患でない確率×偽陽性率 =総人口×(1-有病率)×(1-特異度) (=1-特異度) 整理すると 陽性予測値 =検査陽性者が疾患に罹患している確率 = 検査陽性となる患者数 検査陽性となる患者数+検査陽性となる非患者数 = 有病率×感度 有病率×感度+(1-有病率)×(1-特異度) ベイズ(Bayes)の定理 P(D/T+) = P(D)×P(T+/D) P(D)×P(T+/D) +P(noD)×P(T+/noD) T+は検査陽性、P( / )は条件付き確率 P(D) P(T+/D) P(noD) P(T+/noD) = 疾患頻度(有病率) = 感度 = 1 - P(D)(疾患頻度) = 1 - 特異度 陰性予測値については 試験までに各自考えてください! しかし 疾患 検 査 陽 性 陰 性 有 無 9 1000 1 100,000 有病率(事前確率)=0.01% 感度=90% 特異度=99% 陽性予測値(検査後確率)=0.9% !! 尤度比(ゆうどひ:likelihood ratio) 尤度比 = その状態の人がその検査結果となる確率 その状態にない人がその検査結果となる確率 陽性尤度比 = 疾患に罹患している人が検査陽性となる確率 疾患に罹患していない人が検査陽性となる確率 = 真陽性率 偽陽性率 = 感度 1―特異度 特異度が高いほど値が大きくなる 陰性尤度比 = 疾患に罹患している人が検査陰性となる確率 疾患に罹患していない人が検査陰性となる確率 = 偽陰性率 真陰性率 = 1-感度 特異度 感度が高ければ0に近づく 確率とオッズ (odds) ある事象がどれくらいの確からしさで起こるかを表現 するには、確率とオッズという二通りの方法がある 事象が起こる確率(P) = a / (a+b) odds =a/b 定義から odds = P / (1-P) P = odds / (1 + odds) 事象 あり なし a b Oddsと尤度比 検査後 odds = = 検査後確率 1-検査後確率 検査前 odds×尤度比 尤度比が大きければ(10以上)確定診断に 小さければ(0.1以下)除外診断に有用 カットオフ値 カットオフ値 頻度 頻度 患者群 非患者群 測定値 カットオフ値の設定 カットオフ値 頻度 頻度 患者群 偽陰性 真陽性 真陰性 偽陽性 非患者群 測定値 ROC曲線 (Receiver Operating Characteristic curve) 感度 1 0 カットオフ値を設定すると感度 と特異度が決まる。 そこでカットオフ値を動かすこ とにより曲線が描画される。 この曲線をROC曲線とよぶ。 1 偽陽性率(=1-特異度) 理想的な検査 a b c d e ROC curve 頻度 患者群 1 0.9 c b a 0.8 感度 0.7 0.6 0.5 d 0.4 0.3 頻度 0.2 0.1 e 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 非患者群 測定値 偽陽性率 (=1-特異度) 全く役に立たない検査 カットオフ値 感度+特異度=1 ROC curve 頻度 1 患者群 0.9 0.8 感度 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 頻度 0.2 非患者群 0.1 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 測定値 偽陽性率 (=1-特異度) 一般の場合 ROC curve 頻度 1 0.9 0.8 感度 0.7 0.6 0.5 0.4 0.3 0.2 頻度 0.1 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 測定値 偽陽性率 (=1-特異度) 1 理想的な検査 0.9 0.8 一般の検査 0.7 感度 0.6 役に立たない検査 0.5 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 偽陽性率 (=1-特異度) 0.9 1 疾患群、非疾患群の検査 値分布が離れているほど、 ROC曲線はオレンジ色の曲 線に近づく ROC曲線によるカットオフ値の設定 感度、特異度をともに高くす るためには、ROC曲線上で 点(0,1)に最も近い点をカッ トオフ値とすればよい。 1 0.9 0.8 0.7 感度 0.6 0.5 実際には、その検査が使わ れる状況やコストを考慮して カットオフ値が決定される。 0.4 0.3 0.2 0.1 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 偽陽性率 (=1-特異度) 0.9 1 検査の比較もできる ROC曲線の曲線下面積(AUC)は、その検査 による、その疾患の識別能力を反映する – 理想的な検査 → 1 – 役に立たない検査 → 0.5 AUCの大きな検査ほど、疾患の識別能力が 高い(疾患群と非疾患群の分離がよい)とい える 検査計画 検査は患者の体に侵襲を加えることになり、 経済的にも負担を与える。 検査の実施にあたっては、保険診療上の制 約がある。 従って、適切な検査を、適切なタイミングで、 必要最小限行って、正しい診療を行うことが 重要になる。 一般的な検査の進め方 スクリーニング 感度の高い検 査で真の疾患 を取りこぼさな いよう絞込み 侵襲、経費が少ない検査 除外診断 確定診断 感度の高い検 査で、他の疾 患を除外し 特異度の高 い検査で診 断を確定 侵襲、経費が大きい検査
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