Common Sense 「経労委報告」を読む! 今日の日本情勢は、「企業の危機」以上に、 労働者・国民の文字通り「生存の危機」にさらさ れている。現在の生活困難と同時に社会の将 来展望が見えない「危機」に直面している。 労働総合研究代表理事 小越洋之助 NO.40 2012.3.4 [email protected] 報告を貫いている「輸出競争力強化+海外進出による=利潤追及至上主義」の頑迷なスタンス 「経労委」報告のいい分 財界の「詭弁」を打ち破る論点について 〔①賃金と国際競争力〕 製造業の国内生産が「存 亡の危機に瀕している」 ●賃金や人件費が国際 競争力の主因である。 ●人件費は先進国の最 高水準。韓国の2倍。 「国際競争力」論では、非価格競争を意図的に隠している。 ①価格競争-賃金だけではない。燃料、原料、機械・設備などの生産手 段・輸送費、流通なども競争要因である。 ②非価格競争-製品の品質、デザイン、企画、アフターサービス、販売力、 資金力、技術開発の要因がある。 ③「間接賃金」-法定福利費、法定外福利費、退職金、教育訓練費 生産労働者の時間当たり労働費用(アメリカを100として) 為替レートの変動 ・自動車大手7社類計 3兆8271億円が円高 による利益の目減り。 ・トヨタ-1兆7200億円 ・日産-6880億円 1996 2000 2005 2008 アメリカ 100 100 100 100 日本 108 103 86 86 103 128 149 87 109 130 ドイツ フランス 126 ①②③の全体 日本は生産性 は先進国の トップレベル (JILPT「国際比較2011」) 「為替の変動」については人件費をいかに削減しても「異常円高」に振れれば、 企業が大きな損出を被る。なお、日本の輸出先は中国・アジアは全体の73%を 占め、その47.9%が円建て輸出である。 〔②賃金デフレ〕 ●「賃金デフレ」に起因す る貧困化、格差に目を 向けていない。 ●「総人件費の抑制」をグ ローバルかのもとでさら に凶暴に化粧直し、危 機感を煽っている。 ●内部留保を削除。 467.3万円(1997年)→412万円(2010年) 日本だけが賃金が下がり、「デフレの罠」に陥っている。すなわち、賃金下落→ 家計収入減→消費支出の不振→企業の値下げ競争→物価下落→企業経営 への影響による賃金のさらなる引き下げ 内部留保を「賃金デフレ」から脱却し、内需拡大に還元させるたたかいが要。内 部留保は賃金、税・社会保険料などを支払った後の純利益のうち、企業内部に 蓄積されたもの。 通常は、設備投資に使用し内需を拡大させる。現実は、海外直接投資やマ ネーゲームに寄与する金融部門に資金を回している。 1 467.3 世界から見ると日本は賃金が下がる国である (赤旗2012.2.23) 464.8 461.1 447.8 438.8 436.8 434.9 437.2 429.6 412.1 雇用者報酬伸び率 イギリス73.4% カナダ73.4% アメリカ68.4% 405.9 民間平均賃金(万円) フランス49.5% イタリア44.8% ドイツ16.6% 国税庁調査 1997 1998 2000 2002 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 1997年 2007年 日本-5.2% (赤旗2012.2.4) 「経労委報告」のいい分 財界の「詭弁」を打ち破る論点について 〔③中小企業の衰退〕 中小企業を憂慮する装い ●経済の長期低迷のなか で中小企業は存立基盤 さえ脅かされる状況。 中小企業(輸出に依存、下請)の衰退の原因 ①「超円高」の為替レートで国際市場での競争に対抗できない。 ②国内の消費需要不足が重なる。 「超円高」の責任は、①財界大企業、②それをサポートしてきた政府、③その背後 にはアメリカがある。中小企業は犠牲者にある。 〔④最賃抑制〕 最賃を引き上げ、雇用調 整や自主廃業、倒産に追 い込まれてからでは取り返 しがつかない。 2007年最賃法改正-「生活保護との整合性」 837円 ・日本の最賃制は金額が低い 705円 ・地域格差が広がっている。 645円 若者は首都圏に職を求め、地方の過疎化、高齢化に拍車。 〔⑤ベア論外・定昇見直し の意図」 ●総人件費の増大をまねく ベースアップの実施は論 外。連合の「1%」は根拠 が薄弱。 ●定期昇給を当然視でき ない。 ●デフレで実質賃金は上 昇している。 ベースアップは団体交渉による賃上げ-賃金原資を増やすこと。 定期昇給はすでにある給与表を上がること。退職者と入職者で相殺される。 若い世代を大量採用しない限り、定昇財源がへり、その分賃上げの余地が増え る。 〔⑥賃金格差〕 ●賞与・一時金機能の強 化-変動機能と個別化 「人事・賃金制度(昇給 ルール)の見直し-賃 金の個別化」 ●「仕事・役割・貢献度型」 とは個々人の業績や能 力によって昇給曲線を バラバラに分解-ラッパ 型賃金カーブ」とする。 個別化とは一時金や本給をアップダウンさせること。いわゆる「成果主義」の提唱。 成果主義で本給を極端にアップダウンさせれば、ライフサイクルに沿う生計費を 確保できない。社会保障としての住宅手当や家族手当が不備なため。 ・本給は「ジョブの価格」=賃金率として変動させない。 ・「一時金、賞与」は、本給の低さを補てんする生活級的なものである。 ・成果主義には諸問題が存在する ①評価者の主観により左右され、選別性・差別性が増す。 ②低い評価による賃下げ-モラールの低下を招く。 ③成果の奪い合いと教え合いの後退。 ④チームワークの衰退による技能の不継承。 ⑤リコールの多発。 ⑥新技術開発研究にもマイナスとなる。 東京 北海道 高知など 日本は実質賃金が低下している ①税・社会保険料の引き上げで可処分所所得が低下している。 ②物価下落は生活必需品(食料品、ガソリン、灯油)は上昇している。 2 「経労委報告」のいい分 〔⑦非正規労働者の処遇改 善を拒否〕 ●非正規雇用は「非正規労 働者としての就労を希望 する労働者が7割を占め る」とし、自発的選択だと する。 ●処遇改善は「雇用の減少 を招き不適当」とする。 ●有期雇用契約の「一律規 制」には異議がある。 ●非正規労働者の戦力化 〔⑧内需主導型の産業構造 への転換〕 ●国際競争力をコスト削減と 生産性上昇で高める。 ●「超円高」のもとで新たな 需要をアジアなどに求め、 多国籍企業化を強化する。 財界の「詭弁」を打ち破る論点について 現状認識 雇用労働者の38.7%(2010年度、厚労省) 年収200万円以下は1045万人(01年国税庁) 労働者派遣法の抜 本改正。「使い捨て」 を止めさせる。 非正規労働者は「正規の代替」や「生活自立型」が増えている。3割は、フルタイム 型である。 正規への転換は難しい。-「均等対等」原則がないから。 結婚できない非正規労働者(30~34歳男性、内閣府「こども子育て白書」) 配偶者あり 正社員-59.6%が 非正規-30.2%が 周辺フリーター-16.8% 輸出産業が競争力を強化しても、国内産業は潤わない 上位1%の企業が輸出総額の62%を占め、上位5%の企業では輸出総額の 85%を、上位10%では92%を占める。輸出の成果は国内に還元されない。 財界は、法人税率の引き下げを求め、他方で日本からの脱出を図っている。 現状を放置すれば、①大企業のリストラ野放し、②労働者の権利が無視され、 ③中小企業が衰退し、④産業の空洞化が進むことになる。 労働組合の今日的役割 1.賃金抑制のイデオロギー攻撃を打破する。 2.賃金の引き上げ 3.最低賃金制度の抜本改善 4.「公正な働くルール」の実現。 全労連方針 賃上げ-時給100円以上、月額10,000円以上 最低水準-時給1,000円、日額7,000円、月額160,000円 労働総研の試算-サービス残業の根絶- ・年間196時間は1人あたり年441,000円 ・310.9万人の雇用創出 二木:あまり法人税をとれば外国に逃げるというには、 われわれの感覚としてはよくわかるんですが‥。 志位:経産省が600社の投資を行う場合のポイントを調 査した。ダントツは「需要のあるところに投資する」が60 数パーセント。税は下の方で10%くらいしかない。 企業は需要を求めて海外に出て行く。日本が空洞化 するのは、需要が不足しているからなんです。 (2月27日 BS11 「インサイドアウト」の発言から) 二木:国民からすると借金は最終的にどうするんだろう かという(思考)回路がある。 志位:税収の空洞化が財政危機の最大の要因となっ ている。税収が伸びない、対GDP比の借金の2重の 問題がある。日本経済を家計・内需主導で健全な成 長の軌道に乗せる。2%強の成長は可能。税収を増や し、対GDP比で長期債務を減少に向かわせる。 3
© Copyright 2024 ExpyDoc