臓器売買の公的管理 ~臓器売買による搾取を抑える~ 権丈善一研究会12期 中田俊太 臓器売買のゆがんだ分配 • 西欧諸国など富裕層が、東南アジアの貧困 層から大金で臓器を買う。 • 売却した人は、健康上の問題が生じ、それま での仕事に復帰できない場合が多い。 ⇒格差がさらに拡大していくのではないか。 臓器(腎臓)を売却した理由 理由 借金の返済 家族の食費 賃貸 結婚費用 医療費 葬儀代 事業費 その他の借金 将来の娘の結婚費 余分な現金 企業費 その他の理由 人数(%) 292(96) 160(55) 71(24) 65(22) 54(18) 23(8) 23(8) 49(17) 10(3) 4(1) 4(1) 3(1) 出所:Madhav Goyal(2002)より筆者作成 腎臓摘出前/後の健康状態 腎摘出後の健康状態 非常に良い とても良い 良い 腎摘出前の 非常に良い 11 16 健康状態 とても良い 0 14 良い 0 0 悪い 0 0 酷い 0 0 悪い 15 16 9 1 0 酷い 58 53 10 6 0 50 39 6 1 0 出所:Madhav Goyal(2002)より筆者作成 • Madhav Goyal等(2002)の調査報告によると、 臓器を売却したインド人の96%は、借金の返 済に充てていると発表している。 • また、50%ものドナーが、腎臓摘出後に健康 状態が悪化したことを訴えているとも発表し ている。 • 更にドナーが受け取る金額は、平均して$1070。 • 日本円で127,330円である。(2002年8月の平均 相場1ドル119円による) • 粟屋(1999)によるインドのマドラス郊外にある 「腎臓村」での調査によると、売却者の収入は最 高で1200ルピー/月。 • 日本円で3240円/月(1999年の平均1ルピー2.8 円換算)。年収にして38,880円/年(レートは同上)。 • ⇒約4年分の年収を得ることができる。 何が問題か? • 貧困国が裕福な国から搾取されているので はないか、という事。 • 売却後に健康被害が生じ、それまでの仕事 に復帰できない人が多い。 • その分の将来の機会費用を考えると、臓器 の売却益は異常に安いのではないか? 原因 1.情報の非対称性 臓器の大体の相場を知る機会がない。 2.交渉上の地歩の違い 売却者のほとんどがぎりぎりの生活を送って いる為、安いと感じたとしても売ってしまう。 交渉上の地歩の違い(1/3) • 辻村先生(2001)の『はじめての経済学』には、 競合財、補完財、独立財の3種類の財につい て分析されている。 • ここでは第6章4節に挙げられている、「スミス の労働市場のエッジワース的表現」を参照に した分析を行った。 交渉上の地歩の違い(2/3) 交渉上の地歩の違い(3/3) • ここでは、縦軸の「生活物資」はそのままに、 横軸を「生活時間」から「健康条件」に変更し た。 • この変更は、労働を行う条件の1つとして、ま た再生産が不可能な財という事で、書き換え が可能であると思う。 目指すところ • 臓器の売却を選択した事で、生活環境が悪 化することなく、売却という選択に見合った生 活の改善が行えるような制度を整えること。 臓器売買市場化論(1/2) • Radcliff Richards(1998)では、臓器売買を管理 する国際的な機関を設立する事を提唱してい る。 • つまり公的な機関の介入によって、規制され た中で臓器の売買を行わせるという事である。 臓器売買市場化論(2/2) • この論のメリットは、貧困層が搾取されている という状況を改善できる事。そして価格の設 定次第では、長年問題とされてきた臓器の供 給不足を解決できるとしている事である。 • 臓器売買は全面的に禁止する、という流れが 倫理学などの観点から国際的にあるが、この 立場では経済学の観点から全面禁止こそが 搾取の原因を作り上げているのだ、としてい る。 臓器不足の現状 供給側に法規制を強めた場合 臓器売買市場化論の問題点(私見) • 前例として国際的な骨髄バンクの例を挙げて いるが・・・・・・ • 臓器(腎臓・肝臓)摘出手術のリスクが、骨髄 移植と比べて圧倒的に高い。 • またブラックマーケットから、公的な規制下で の取引に参加者を移動させるインセンティブ 設計が難しい。 考察1 規制下で取引をさせる為の誘因設定 1.取引価格からのアプローチ 単純にブラックマーケットでの取引価格以上 の値段に設定すればよい。 が、買い手は安く買えるブラックマーケットへ 戻ろうとするだろうし、売り急いでいる売り手も 結局ブラックマーケットへ戻っていくと予想され る。 規制下で取引をさせる為の誘因設定 2.摘出手術後の安全を保障する 売り手側が現在高い確率で被る健康被害は、 改善の余地がある。 先進諸国での摘出手術後の術後経過と比較 しても、インドでは50%以上の人が術後に健康 状態の悪化を訴えるのに対して、日本肝移植 研究会の調査では、日本では90%以上の人が、 回復している事が挙げられている。 考察2 臓器の価値の検証 • V.R.ヒュックス(邦訳1995)によれば、健康の価 値を測る尺度は目的によって変わるとしてい る。 • ここでは健康を労働の重要な要素とし、その 健康を維持する条件として臓器を定義する。 • つまり、臓器の価値は、売却者の生涯賃金の 割引現在価値で測るとする。 腎摘出による限界生産性の低下 出所:筆者作成 生涯賃金から算出する臓器の価値 • 粟屋(1999)が調査したインド人の臓器売却者の中で、 一番年収が高かった人の例。 • 年収は38.880円。 • 成人後上記の報酬で40年間働くとして、生涯賃金は 1.555.200円。 • 1.555.200円ー(それまでに受け取った額)円 • =予想される残存生涯賃金 • この残存生涯賃金の割引現在価値が、本来補償され るべき売却時の金額のように思う。
© Copyright 2025 ExpyDoc