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基礎商法2
第7回
1
本日のお題
• 商取引における債権担保
2
債権者・債務者の連帯
債務者の連帯(511条1項)
I. 趣旨
 商取引における債権の確保(民427の特則)
II. 要件
1. 条文上の要件
① 数人の者が
② その一人もしくは全員のために商行為となる行為に
よって債務を負担
2. 要件についての留意点
 債務者にとって商行為の場合にのみ連帯債務となる
(債権者は無関係)
 商行為による債務の変形物(損害賠償、原状回復)
も連帯債務となる
 会社が民法上の組合員である場合、組合債務の負
担は会社にとって附属的商行為であり、全組合員に
つき本条1項適用(最判H10.4.14百-40)
III. 効果
 特約のない場合、債務は連帯債務となる
保証人の連帯(511条2項)
I. 趣旨
 1項と同じ(民452以下の特則)
II. 要件
1. 条文の要件
① 主債務が主債務者にとって商行為である行為によって
生じた場合
または
② 保証が商行為である場合
←学説に争い有り
2. 「保証が商行為である場合」の意義
⇒次スライド以降参照
債務が主債務者の商行為に
よって生じた場合
主債務者
債権者
(商行為)
保証が商行為であるとき①
保証人
連帯保証
主債務者
債権者
保証人
(商行為)
連帯保証
保証が商行為であるとき②
主債務者
債権者
(商行為)
保証人
連帯保証?
〔判例〕保証人または債権者のいずれかにとって商行為であ
れば足りる(大判S14.12.27百(4)-43)
〔学説〕保証人にとって商行為であることが必要
III. 効果
① 保証は連帯保証となる
② 保証人間でも保証連帯となる
質権の扱い
流質契約の許容(商515)
I. 趣旨
 民法の暴利行為予防の必要性がない。債務者の金融
の途の確保
II. 要件
 商行為によって生じた債権の担保の為に設定された質
権
※債務者にとって商行為であることが必要(通説)
III. 留意点
 被担保債権が商行為によって生じていればよい(質権
設定行為の商行為性は不要)
 被担保債権が債務者にとって商行為である行為によっ
て生じたことが必要(多数説)
商人間の留置権
商事留置権総論
• 商法(会社法)が規定する留置権
① 代理商の留置権(商31、会20)
② 商人間の留置権(商521)
③ 問屋の留置権(商557→商31)
④ 運送取扱人の留置権(商562)
⑤ 運送人の留置権(商589→562)
⇒これらを総称して「商事留置権」という(破66Ⅰでは、「
商法・会社法の留置権」)
※ただし、慣用的に商法521条の留置権を「商事留置
権」という場合もある
商人間の留置権
I. 趣旨
 反復継続する取引で、取引ごとに個別に担保権を設定
するのは煩雑
 法定担保権なので債権者の躊躇がない(約定担保権だ
と担保権の設定を要求するのは、相手方に対する不信
の表明になる)
I. 要件
1. 当事者についての要件
 債権者・債務者がともに商人であること
2. 被担保債権についての要件
① 被担保債権が双方にとって商行為たる行為によって生
じたものであり、かつ弁済期が到来していること
• 営業と無関係の絶対的商行為( たとえば、青果商Aが鮮魚商B
に、友人から安く買ったゲームソフトを転売する場合)によって生
じた債務が含まれるかどうか争い有り
② 債務者が債務を履行していないこと
3. 留置の目的物についての要件
① 物品(物または有価証券)
• 民事留置権と異なり、債権と留置物の個別的牽連関係は不要で
あるが、留置物は債務者の所有物でなければならない
• 物は動産、不動産の双方を含む(通説。【論点】参照)
• 留置物を換価した代金にも留置権が成立する(民304のような規
定は存在しないが、①留置物の換価は保管の負担から債権者を
解放する手段であること、②代金の留置を認めないと、換価によ
って代償なしに担保権を失うことになり不当であること、が理由と
して挙げられる。最判H23.12.15手百-94参照)
② 債務者の所有
※個別的牽連関係を要求しないため、債務者所有以外の物の留
置を許すと、第三者(所有者)が不足の損失を被る可能性がある
• 売買契約の解除により債務者の所有に復帰した物については要
件を充足しない
• 留置権成立後に第三者に目的物が譲渡されても留置権は消滅
しない
③ 留置の目的物の占有が債務者との商行為である行為
により債権者に移転したこと
※誰にとって商行為であることが必要なのかについては争い有り
a.
b.
c.
債権者・債務者のいずれか一方にとって商行為であれば足り
る
債権者にとって商行為である必要がある(多数説)
 本条は商人である債権者を保護する規定
債務者にとって商行為である必要がある
 債務者に負担の大きい法定担保責任だから
留置権の成立要件
商事留置権
留置権の種類
当
事
者
商人間
問屋・代理商
運送人・
運送取扱人
商人
問屋/代理商
運送人/
運送取扱人
商人
委託者/本人
運送賃支払
義務者
限定なし
双方に取り商行為
により生じた債権
委託した行為に
より生じた債権
運送賃、前渡
し金、立替金
物の範囲
「物」
物*・有価証券
物・有価証券
物・有価証券
個別的牽連関係
必要
不要
不要
必要
債務者の所有
不要
必要
不要
不要
占有開始原因
不法行為以外
「債務者との商行
為」による移転
不法行為以外
運送契約によ
る引渡し
債務者
限定なし
債権者
被担保債権
留
置
の
目
的
物
民事留置権
タクシー業者A
(債務者)
修理工場B
(債権者)
被担保債権①
5万円
タクシーa(所有)
被担保債権②
5万円
タクシーb(所有)
5万円弁済
被担保債権③
5万円
タクシーc(リース)
被担保債権④
5万円
自家用(所有)
【論点】占有の成否 ~抵当権との競合
1. 基礎事項の確認
i.
抵当権が設定された土地について同時に民事留置権
が成立している場合の関係

留置権者は優先弁済権を有せず抵当権者が抵当権を行使し、
売得金を最近に充当する・・・はずだが、

実際には抵当不動産には留置権が付着しており、競落人は被
担保債権を代位弁済しなければ引渡しを得られない
⇒留置権を消滅させなければ抵当権の行使は事実上不可能
ii. 同じく倒産手続きに入った場合の処理

破産においては民事留置権は消滅し(破産66Ⅲ)意味を失う。
民事再生では存続するが別除権にはならず(民再51Ⅰ)、和解
による解決しかない。会社更生でも存続するが更生担保権に
ならないのであまり意味はない(会更2Ⅹ)
⇒破産では民事留置権は無意味になるが、民事再生、会社更生で
は目的物を留置することはできる
2. 具体的な問題設定
 甲株式会社はP土地における自社ビル建設のために乙
銀行から資金を借り入れ、P土地に抵当権を設定した。
その後甲社は、丙社と建物建築請負契約を締結し、ビ
ルが完成したが、資金不足で丙社への代金支払いが
滞ったため、丙社は建物の引き渡しを拒んでいる。この
状況で、乙銀行がP土地の抵当権を実行しようとした場
合、丙社は底地であるP土地についての商人間の留置
権の成立を主張できるか
(建物)留置権
丙社
(底地)留置権?
抵当権
乙銀行
貸し付け
P土地
甲所有
3. 基本的な問題意識
i.
抵当権が設定された(かつ登記を経た)後に留置権が
成立した場合には、留置権が抵当権者の利益を不当に
害することにはならないか
a.
そもそも留置権はそういうものであるので抵当不動産について
も留置権成立を認めてよい
b.
公示を備えた抵当権に遅れる留置権者を保護する必要性は
ない
ii. 上記のことが、個別的牽連関係を必要としない商人間
の留置権にも当てはまるか
a.
民事留置権であるかどうかを問わず、抵当権に遅れる留置権
を認める必要はない(法定地上権と抵当権の関係に類似)
b.
個別的牽連関係がある場合には、抵当権に遅れる留置権の
成立を認めてもよいが、商人間の留置権については認めるべ
きではない
4. 考え方
i. 商人間の留置権の成立を認める立場
ii. 商人間の留置権の成立を認めない立場
a.
丙社のP土地に対する占有を否定する(多くの下級審判例)
b.
商人間の留置権の目的物である「物」には不動産を含まないと
考える
c.
登記を経た抵当権に遅れた商人間の留置権は先行する抵当
権に対抗できない(対抗問題説)
5. 検討
i.
実質論
① 留置権は真の権利者の権利行使を妨害することで債権を担保
するが、債務者ではなく抵当権者の権利行使を妨害することの
妥当性
② 優先弁済権のない留置権者を他の担保物権者と同列以上に
扱うことの是非
ii. なぜ対抗問題説が判例の主流ではないのか
① 民事留置権と商人間の留置権の峻別が不十分で、民事留置
権的な発想をしている(個別的牽連関係があれば、当該留置
物については留置権者を保護する大義名分が立つ可能性は
あるが、商人間の留置権は個別的牽連関係を要求しない)
② 商人間の留置権が他の担保物権と競合することがもともと想
定されていない(商品〔≒動産〕が目的物)
III. 効果
1. 通常の場合
i.
目的物を留置できる(留置的効力)

被担保債権が全額弁済されるまで目的物を留置可
ii. 優先弁済効力
①
留置権自体の優先弁済効力
留置権者が目的物を競売した場合の売得金、手形を取り
立てた金銭について優先弁済は認められない(多数説?)
b. 留置権自体に優先弁済効力がある
② 売得金(取立金)の留置
a. 民事執行法による競売(民執195)の売得金については留
置可能であるので、手形の取立金にも留置的効力が生じ
る(最判H23.12.15手百-94)
a.
b.
競売の売得金について留置可能であるとしても、手形の
取立金については留置できない
2. 倒産手続の場合
i.
破産 ・・・商人間の留置権は特別の先取特権として扱われ(別
除権になる)、優先弁済が受けられる(破66等)
※破産における留置的効力には争いがある
ii.
民事再生 ・・・商人間の留置権は別除権とされ、再生手続外で
行使可能。留置権に直接の優先弁済効はないが、競売の売得
金、手形の取立金の上に留置権が成立し、これらの金銭を弁
済に充当する合意がある場合には、当該合意は別除権の行使
に付随する合意として有効(前掲最判23.12.15)。なお、売得
金・取立金との相殺は、受動債権が手続開始後の債務(民再
93Ⅰ①)に該当し不可能。
iii. 会社更生 ・・・商人間の留置権は更生担保権として権利の実
行が制限されるが、更生債権者に比して優遇された弁済が行
われる
【論点】 破産手続きにおける留置的効力
 破産の場合は先取特権として扱われるが、その際に留
置権としての権能(留置的効力)が存続するか否か
a.
b.
留置的効力消滅説
• 商人間の留置権は先取特権に転化し留置的効力は消滅
• 破産前より留置権者の権能が強化されるのはおかしい
• 他の別除権者との関係でも優先してしまう
留置的効力存続説(最判H10.7.14百-47)
• 留置的効力が消滅するとの規定はない
• 動産を留置できないと競売が困難(債権者が動産を提出す
るか、債務者の承諾が必要。ただしH15改正で裁判所の許
可による競売が行えることとなった。民執190Ⅰ③)
• 担保権消滅請求制度が導入され、他の債権者や破産者を
害する度合いが減少した
※最判H10.7.14は、留置的効力を前提として、銀行が約款に基づき
手形取立金を弁済に充当することを認めたもの
【論点】民事再生における留置権者への弁済
 民事再生の場合には、留置権として存続するが先取特
権にはならない
 〔事案〕 X所持の約束手形をY銀行が(取立委任を受けて)占有
している間にXについて民事再生手続が開始されたところ、Y銀
行は銀行取引約定に基づき当該手形を取り立てたうえで、XがY
に対して負う債務に充当した。これに対してXが弁済充当は無効
であるとして不当利得返還請求。一審、控訴審は、①民事再生
法は留置権に新たな権能を付加していない。②銀行取引約定
は譲渡担保や質権設定契約とは解されないから、強行法規であ
る民再85(再生債権弁済禁止)を排除するものでもないとして請
求を認容(東京高判H21.9.9)。
 〔判旨〕(最判H23.12.15手百-94) ①「留置権者は、留置権によ
る競売が行われた場合には、その換価金を留置することがで
き・・・その理は(手形の)取立金・・・であっても、・・・異なることは
ない。したがって、・・・約束手形につき留置権を有する者は・・・
取立金を留置することができる」。②「・・・取立金を法定の手続
によらず債務の弁済に充当する旨定める・・・約定は、別除権の
行使に付随する合意として民事再生法上も有効」