Bassモデル 大井 憲人 Bassモデル • F.M.Bassによって提案された新製品、特に耐 久消費財の拡散過程を模擬するモデルを Bassモデルという。 • Bassは「時点tまでの未購入者が耐久消費財 を期間(t,t+Δt)に購入する確率P(T)は、他人 に惑わされない購入意欲(innovation効果)と 既購入者が増えてくると乗り遅れまいとする 気持ち(imitation効果)との和で表現される」 と考えた。 仮定 • マーケットは自らの意思で購入決定する革新者 (innovators)と既購入者から口コミやデモンストレー ション効果に購入意思決定が左右される模倣者 (imitators)の2種類から成る(※) • 革新者と模倣者の購入確率は計画期間中一定 (p,q)とする • T時点の模倣者の購入確率はt=0からt時点までの 既購入確率に比例する • 初回購入の潜在市場の大きさ(m)は計画期間中一 定とする • 初回一回だけの購入モデルで、反復購入を無視す る 仮定(※)の背景 • Rogers(1962)の「消費者の行動科学の面から社 会システムの中でのイノベーションの普及理論」 に基づく →イノベーションの採用者を5つのカテゴリーに分 けた。 • 革新者(2.5%) • 初期採用者 • 前期追随者 • 後期追随者 • 遅滞者 仮定(※)の背景 • BassモデルはFourt and Woodlock(1960)と Mansfield(1961)によって提唱された2つのモデ ルを複合させたものである。 Fourt and Woodlockのモデル 新製品の普及仮定は普及促進者による情報に よってのみ影響を受けると仮定 Mansfieldのモデル 既購入者による情報のみに影響を受けると仮定 仮定(※)の背景 • Bassは新製品の潜在採用者は、イノベーショ ンの5つのカテゴリーのうち最も早い時期の 採用者である革新者(innovator)と、残りの4 カテゴリーを1つの模倣者(imitator)という2 種類から構成されると考えた。 仮定(※)の背景 • 普及購買に与える2つの影響 innovation効果 外的影響(マスコミ、広告など) 革新者は購買行動において、他にいる既購入者の影 響は受けない imitation効果 内的影響(すでに購買した消費者によってもたらされる 口コミなど) 模倣者は既購入者からの影響を受け、彼らの行動を 学ぶのである 式の説明 • T時点での初回購入確率P(T) Y (T ) P (T ) p q m • • • • pはinnovatorの一定確率(革新係数) qはimitatorの一定確率(模倣係数) mは潜在市場の大きさ Y(t)はT=0からT時点までの累積売上台数 式の説明 • T時点までにまだ購入していない人がT時点で 購入する確率密度関数 f (T ) Y (T ) P(T ) p q p qF (T ) 1 F (T ) m • f(T)はT時点での購入確率密度関数 • F(T)はT=0からT時点までの確率分布関数 T F (T ) f (t )dt 0 F ( 0) 0 式の説明 • S(T)をT時点での購入者数とすると T T 0 0 Y (T ) S (t )dt m f (t ) mF (T ) • 以上の式よりS(T)は T T S (T ) mf (T ) P(T )m Y (T ) p q S (t )dt / m m S (t )dt 0 0 解釈 • S(T)は以下の式に書き直せる S (T ) pm (q p)Y (T ) q / mY (T ) 2 • また革新者と模倣者の項に分ける Y (T ) S (T ) p (m Y (T )) q (m Y (T )) m イノベーション普及プロセスが進むにつれて、革新者は 相対的に減少し、模倣者は既購入者の影響を受けつつ 増大してゆく。 革新者の重要性は初期時点が大きく、時間ごとに単調 に減少し、模倣者の影響は既購入者ごとに大きくなる。 F(T)(累積販売確率)の導出 f (T ) p qF (T )1 F (T ) p (q p) F (T ) qF (T ) 2 • でありこれは dF p (q p ) F qF 2 dt • であるので、この微分方程式を解けばFが導 出できる。 F(T)の導出 • 方程式を解くと (T C )( p q ) q pe F q(1 e ( P C )( p q ) ) • 初期条件よりF(0)=0 1 q C ( ) Ln( ) pq p and 1 e ( p q )T F (T ) q ( p q )T e 1 p f(t)とS(T)の導出 • f(T)について f (T ) ( p q ) 2 e ( p q )T q ( p q )T e 1 p 2 • S(T)=mf(T)より 2 ( p q )T ( p q ) e S (T ) m 2 q e ( p q )T 1 p ピーク時T* • 販売率が最大となる時点T*は、Sを微分して 求めることが出来る 1 p 1 q T* Ln( ) Ln( ) pq q pq p • これはq>pのとき成りたつ ピーク時の当期購入者数S(T*) ・累積購入者数Y(T*) • ピーク時の購入者数はS(T*)で与えられる ( p q) 2 S (T *) m 4q • またY(T*)は T* Y (T *) 0 q p S (t )dt m 2q S(T)について(p=0.001,q=0.1,m=0.1) S(t) q>p 0.003 0.0025 0.002 T*=45.60 S(T*)=0.00255 S(T) 0.0015 S(t) q>p 0.001 0.0005 0 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 33 36 39 42 45 48 51 54 57 60 63 66 69 72 75 78 81 84 87 90 93 96 99 0 T Bassモデルでは初期の購入者をpmと仮定しているので、当期購入 者曲線は初めpmから始まり、徐々に増加してT*で最大となる。 その後2T*までは原点からT*まで増加する場合の曲線とは対称形 で減少する。 Y(T*)について Y(t) q>p 0.12 0.1 0.08 Y(T) 0.06 Y(t) q>p T*=45.60 Y(T*)=0.0495 0.04 0.02 T 累積購入者は潜在市場規模mの上限に漸近す る関数である。関数の変曲点T*において、当期 購入者はピークをむかえる。 99 96 93 90 87 84 81 78 75 72 69 66 63 60 57 54 51 48 45 42 39 36 33 30 27 24 21 18 15 9 12 6 3 0 0 T 96 99 87 90 93 78 81 84 69 72 75 60 63 66 51 54 57 39 42 45 48 30 33 36 21 24 27 12 15 18 3 6 9 0 図による説明 S(t) p>q 0.012 0.01 0.008 S(T) 0.006 S(t) p>q 0.004 0.002 0 パラメータ(p,q,m)の推定 • パラメータp,q,mの値を,a,b,cを次の用いた離 散時系列データから推定する ST a bYT 1 cY .T 2,3... 2 T 1 STはT時点での購買者数 YT 1はT 1時点までの累積購買者 数; (YT 1 t 1 St ) T 1 また a pm, b q p, c q / mの推定とする ( S (T ) pm (q p )Y (T ) q / mY (T )より ) 2 パラメータの推定 • Bassはa,b,cの値を最小二乗法(OLS)により推 定し、以下の式からp,q,mを推定した p a/m q mc q p mc a / m b (*) よって (*)は cm 2 bm a 0 m b b 2 4ac 2c 補足 ここで S (YT 1 )を YT 1と区別して書くと dST b 2cYT 1 dYT 1 となり、 0とするなら YT*1 b / 2c m(q p) / 2q Y (T * ) and ST (YT*1 ) a b 2 / 2c b 4 / 4c m( p q) 2 / 4q S (T * ) となり、時間の関数と しての Sの最大値と、 累積販売数の関数の Sの最大値は一致する。 問題点 • • • • データがなければ使えない 共線性による推定地の不安定 直後に標準誤差がない 期間バイアスがある バイアスを考慮した推定 推定には t 0 Stを S (t )dtの代わりに用いた。 T 1 T 0 • しかし特定のバイアスが生じてしまう。 • このバイアスは複数の観測値によって緩和さ れるが、わずかしかないとき重要とされる。 S t S (T ) とするなら S t a bk (T )YT 1 ck 2 (T )YT21 となる。 バイアスについて • バイアスは以下のように表せる k (T ) Y (T ) / YT 1 • このときの確率分布 1 f ( x ) F ( x 1) F ( x ) k and F (0) 0, t 0 x 1 1 f (t ) F ( x ) k つまり , t 0 F ( x ) / f (t ) k x 1 バイアスについて • 確率密度関数f(t)は、pとTが小さい場合に指 数関数的に増加するので以下のようになる。 1 f apx (T ) Fapx (T 1) Fapx (T ) k and 1 pq ( pq) k e 1 バイアスについて • Tの値が小さい場合 ST a b 'YT 1 c 'YT21 b ' kb, c ' k 2 c then m km' , p 1 / kp' , q 1 / kq' • 1/kの値はp+qの値によって異なる。 p+q 1/k 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 0.85 0.81 0.77 0.73 0.69 0.65 0.61 実際の計算 available: Sales 0.7 1.35 2.50 Year 1963 1964 1965 Solving the following system of equation: S 0 0.7 a S1 1.35 a 0.7b ' 0.49c ' S 2 2.50 a 2.05b ' 4.20c ' , a ' 0.7, b ' 0.96, c ' 0.0374, m ' 26.2, q ' 0.96, p ' 0.0267, q 0.67, p 0.018, m 37.4. 次回の予定 • データがある場合の他の推定法を学ぶ(最尤 法、非線形推定法) • データのない場合の推定法を学ぶ(類似性を 議論する、アダプティブ推定、ミックス推定) • Bassモデルから離れてほかの論文を読む 文献 • Frank. M. Bass, (1969) / "A New Product Growth Model for Consumer Durables," Management Science, Vol .5,No.5,pp.215-227 • Louis A. Fourt and Joseph W. Woodlock(1960) / “Early Prediction of Market Success for New Grocery Products”, The Journal of Marketing, Vol.25, No.2 ,pp.31-38 • Edwin Mansfield(1961) / “Technical Change Rate Imitation” ,Econometrica,Vol.29,No.4,pp.741-766 文献 • Joe A. Dodson and Jr. and Eitan Muller(1978) / “MODELS OF NEW PRODUCT DIFFUSION THROUGH ADVERTISING AND WORD-OF-MOUTH”, Management Science,Vol.24.No.15,pp.1568-1578 • Mahajan,Muller,Bass(1990) /”New Product Diffusion Models in Marketing A Review and Directions for Research”,Jurnal of Marketing ,Vol.54,No.1,pp1-26 • 曹徳弼(2000) / “需要予測の誤差を用いた安全在庫 の計算方法”, 日本経営工学会論文 誌,Vol.51,No.4,pp.372-379 文献 • 水山元、鎌田瑛介(2008) / “予測市場システムに基づ く衆知集約型需要予測法の研究”, 日本経営工学会論 文誌,Vol.59,No.4,pp.330-341 • 千住智信,比嘉修三,上里勝美(1999) /“類似性に基づ くファジィニューラルネットワークによる翌日最大電力 需要予測”,日本ファジィ学会誌,Vol.11,No.1,pp.169177 • 手塚大,樋地正浩,棟朝雅晴,赤間清(2004) /”多目的実 数値遺伝的アルゴリズムによる不確実性下の供給計 画の最適化(情報システムの社会や企業への適用”, 情報処理学会論文誌,Vol.45,No.10,pp.2287-2296 文献 • 松井正之, 高橋義久,王崢(2006) / “需給マ ネージャーの支援プランナー構築と理論”,日 本経営工学科論文誌,Vol.57,No.2,pp.120-131
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