2013年度・社会保障論講義 第1章「社会保障制度の危機は なぜ起きるのか」1~6節 学習院大学経済学部教授 鈴木 亘 1.簡単なたとえ話 • 我が国の社会保障の中心は、公的年金、医 療保険、介護保険という3つの( )。 • 近年、この3つが財政危機となっている理由 は何か。 • 景気低迷の影響→( ) • 厚労省や社会保険庁の無駄使い→ ( )。 • 代表例は( )、( )といった保養 施設。 • 少子高齢化→( ) • 老齢年金とは簡単に言えば、元気に働いてい る( )に賃金から保険料を支払い、その 代わりに、働けなくなった( )に年金と して生活費が受け取れるという制度。 • 厚生労働省は、わが国の年金の財政方式を ( )と呼ぶため、誤解を生んでい るが、実際には( )の財政運営制度と なっている。 • このため、若者が支払った年金は、その瞬間 に煙のごとく消えている。 • 年金の本質がわかる架空の例 • 今、高齢者1人当たりに、毎月10万円の年金 を支給する制度を政府が創設。 • 高齢者の現役世代に対する比率が1対10の 割合だとすると、10人の現役世代で高齢者1 人を支えればよい。現役世代が支払うべき保 険料は1人1ヶ月あたり1万円(10万円÷10人)。 • 1対5のときには、1人1ヶ月あたり(2万円)と 倍増。1対4では(2.5万円)、1対3では約(3.3 万円)、1対2では(5万円)、1対1では(10万 円)。給付カットや廃止論が出ることだろう。 図表1-1 架空の年金制度における負担の推移 保険料負担 は、月一人当 たり:1万円 2万円 2万5千円 3万3千円 5万円! 10万円!! 2.実際の少子高齢化の状況 • たとえ話は、本当にたとえ話か。いくらなんでも、 ここまで極端な話にはならないだろう?。 • わが国における15歳から64歳までの現役世代 の年齢の人々( )に対する65歳以上 の人々(高齢者)の比率、「高齢者/現役比率」 の推移。 • 2012年までは実績値、それ以降は厚生労働省 の研究機関である(国立社会保障・人口問題研 究所)略して( )が公表している最新の人 口予測(「日本の将来推計人口(平成24年1月推 計))から描く。 • 実績値をみると、この間にわが国が少子高齢化 の一途を辿っている。1950年の高齢者/現役比 率は8.3%ですから、当時は約12人の現役世代で 1人の高齢者を支えていた。この比率は1960年 には8.9%(現役約11人対1人の高齢者)、 ( 年)には10.2%(約10人対1人)と徐々に 上昇。 • その後は、加速度的な上昇。 • 1980年には13.5%(約7.5人対1人)、( 年) には20.2%(約5人対1人)、2000年には25.5%(約 4人対1人)、( 年)には33.6%(約3人対1人)。 図表1-1における右から3番目の状態に。 図1-2 高齢者/現役比率(高齢人口/生産年齢人口)の推移 90.0% 80.0% 70.0% 60.0% 出生中位 (死亡中位) 推計 50.0% 40.0% 出生高位 (死亡中位) 推計 30.0% 20.0% 10.0% 実績値 0.0% 予測値 • 現在は、まだまだわが国が直面しなければなら ない少子高齢化のほんの序章。高齢者/現役 比率を山に例えるならば、現在はまだ山の4合目 付近。 • 特に今後の10年間はかつてないほどの急勾配 を上らなければならない。これは、( )が 大量に退職をして高齢者になってゆくから。 ( 年)には、すでに高齢者/現役比率は 50.2%と、2人の現役で1人の高齢者を支える時 代。 • 団塊の世代の退職が社会保障制度の危機の 「正念場」であるという主張は間違いであり、ずっ と正念場が続く。 • その後、2040年には高齢者・現役比率は 66.8%と現役1.5人で高齢者1人を支えるライン を越し、高齢者/現役比率のピーク(頂上)で ある( 年)には同比率は83.3%まで達 する。これは、現役1.2人で高齢者1人を支え るという割合。現役には失業者や専業主婦が いることを考えれば、実際には、勤労者1人で 高齢者1人を支える時代に到達する。 • しかも、ピークを越えても下山ルートに入らず、 高齢者/現役比率は再び2110年に83.3%の ピークとなる。 • つまり、100年以上、超高齢化社会が続く。 3.人口予測はどこまで信頼できるか • 高齢者/現役比率が今よりも急激に上昇して ゆき、しかも長い間上昇が止まらないという人 口予測はどの程度信頼できるのか • 社人研の人口予測は、「よく外れる」と評判 • 実際には、こと高齢者/現役比率に関する限 り、まず30年から40年程度は、ほとんど外れ ることはない • 人口予測の方法論は、( )という手 法。 • これは簡単に説明すると、「今年の年齢階級別 の人口」に、「年齢別の死亡率」を乗じて「来年の 年齢階級別の人口」とするという方法。例えば、 今年の64歳となる人々が100万人いて、64歳の 人々の死亡率が5%(生存率は95%)であれば、 来年の「65」歳の人口は、100万×95%=95万人 となる。 • さらに、再来年の66歳の人口を求めたければ、 95万人に65歳の人々の死亡率を掛ければ求め ることができる。 • 将来の年齢別死亡率は安定的なので、信頼性 高く予測が可能である。 • 問題は、新生児の数を予測する部分。 • 社人研が過去5年ごとに常に予測を外し、評 判を悪くしているというのは、この出生数(出 生率)の部分に限ってのこと。 • 現実には出生率が毎年低下してゆく中、不思 議なことですが、社人研は、毎回毎回、出生 率がすぐに( )するというシナリオを描き 続け、少子・高齢化の進行を常に( )見積 もるという間違いを犯し続けてきた。 • しかし、「高齢者/現役比率」には、はじめの うちは影響しない。 • 新生児たちが生産年齢人口にまで成長し、 「高齢者/現役比率」に現れ始めるのは15年 後の話であり、この期間はほとんど予測が外 れない。その後もはじめのうちは現役世代の わずかな部分を占めるに過ぎないため、全体 として大きな外れにはならない。 • 楽観的な( )においても、 基本予測の中位推計と比べ、まずはじめの20 年程度はほとんど重なっていて差が見えない。 その後、差はやや広がるが、2052年までは両 者の比率の差は5%ポイント以下に過ぎない • この高位推計の楽観的な予測でさえ、以下の 深刻な結論である。 • ① 高齢者/現役比率の上昇はピーク時の 2053年まで今後( )続く • ② ピーク時には同比率は71.0%(現役約1.4 人で1人の高齢者を支える)水準に達する • ③ しかもその後の比率低下も緩やかで高い 位置にとどまる 4. 少子化対策の効果は望めない • 図表1-2はもうひとつ重要な結果。政府が懸命 に行っている少子化対策は、もしそれが成功 して仮に出生率が上昇したとしても、社会保 障財政への貢献という意味では、( )年程 度の間は、あまり効果を持たない。 • 実際、少子化対策で増えた新生児たちが保 険料を支払ってくれるまでには、就職する年 齢まで待たなければならない。少子化対策で 増えた分の若者の財政貢献は、毎年1歳ずつ と徐々にしか増加しない。 • 政治家などが「少子化対策を強化すれば、社 会保障財政の問題が解決できる」といった類 の主張をしているのを至る所で見聞きするが、 それは間違いである。 • 少子対策を強化しても、社会保障問題の解決 は難しい 、間に合わない、という認識に立つ べきである。 • 少子化対策で社会保障問題が解決するとい う主張は幻想に過ぎない。我々には、少子高 齢化社会と正面から向き合い、少子高齢化と 共に生きるしか選択肢はない 5. 医療・介護も年金同様に財政危 機となる理由 • 冒頭(図表1-1)の年金のたとえ話が医療保 険や介護保険にどう関係しているのか。 • 結論から言うと、年金とほとんど同じ仕組み で、医療保険・介護保険とも、現役世代の保 険料負担が大幅に高まることになる。 • 負担と給付の年齢区分が明確な年金に対し て、医療、介護はそれほど明確ではないが、 高齢期に受益、現役期に負担という構造は 同じ。また、現役が高齢者を支えることも同じ。 図表 1-3 年金の受益と負担の年齢別分布 (厚生年金加入者男性、有配偶者がいるケース) 3,000 単位:千円(年額) 2,6782,639 2,539 2,244 2,068 2,035 2,500 2,000 1,500 1,000 500 510 615 1,045 917 966 1,001 929 851 744 273 20 ~ 2 25 4歳 ~ 2 30 9歳 ~ 3 35 4歳 ~ 3 40 9歳 ~ 4 45 4歳 ~ 4 50 9歳 ~ 5 55 4歳 ~ 5 60 9歳 ~ 6 65 4歳 ~ 69 70 歳 ~ 7 75 4歳 ~ 7 80 9歳 ~ 8 85 4歳 ~ 8 90 9歳 歳 以 上 0 受益 負担 図表 1-4 医療保険の受益と負担の年齢別分布 (組合健保加入者男性、被扶養者分を考慮) 500 450 400 350 300 単位:千円(年額) 434 449 318 345 370 394 383 404 310 293 278 248 222 90歳以上 85~89歳 80~84歳 75~79歳 70~74歳 65~69歳 60~64歳 55~59歳 50~54歳 45~49歳 40~44歳 35~39歳 30~34歳 25~29歳 20~24歳 15~19歳 10~14歳 5~9歳 0~4歳 250 194 179 200 149 147 145 134 150 118 103 94 90 79 77 73 100 69 55 47 53 67 51 30 15 50 5 0 0 0 0 受給 負担 図表 1-5 介護保険の受益と負担の年齢別分布 (組合健保加入者男性、被扶養者分を考慮) 単位:千円(年額) 300 275 250 220 200 156 150 130 100 68 63 59 70 66 50 4 4 4 4 4 25 3334 27 24 19 12 4 上 以 90 歳 89 歳 85 ~ 84 歳 80 ~ 79 歳 75 ~ 74 歳 70 ~ 69 歳 65 ~ 64 歳 60 ~ 59 歳 55 ~ 54 歳 50 ~ 49 歳 45 ~ 40 ~ 44 歳 0 受益 負担 6.社会保障負担の現状と将来像 • 図表1-6は、厚労省が行っている2025年度までの社 会保障給付費(自己負担分を除く、年金や各保険か らの給付費)の将来予測とその内訳。驚くべきことに、 厚生労働省は、この大事な社会保障給付費の将来 予測を、( 年度)までしか国民に示していな い。 • このうち伸び率が最も早いのは( )。( )が それに次ぐ。 • このため、2012年度には、( )が最もシェアが大 きかったが、2025年度には、医療と介護を合わせた 方が年金よりもシェアが大きくなる。 社会保障給付費の推移:この20年で倍額に 厚生労働省HPより 厚生労働省「社会保障に係る費用の将来推計について」《改定 後(平成24年3月)》(給付費の見通し) 単位:兆円 2012 2015 2020 2025 伸び率 109.5 119.8 134.4 148.9 36.0% 年金 53.8 56.5 58.5 60.4 12.3% 医療 35.1 39.5 46.9 54.0 53.8% 介護 8.4 10.5 14.9 19.8 135.7% 子ども・子育て 4.8 5.5 5.8 5.6 16.7% その他 7.4 7.8 8.4 9.0 21.6% 社会保障給付費 国民負担率(社会保障負担+租税の国民所得 比)の推移 財務省HPより ・給付費に関する政府見通し(2012年4月3日改 訂、一体改革を含むベース) では、社会保障 給付費は2012年度の109.5兆円から2025 年度の148.9兆円へ 増加すると予測されて いる。 • しかし、2025年では高齢化は終わらない。こ のペース(厚労省予測に人口変化を反映して 先延ばし)で進めば、2050年には250兆円、 2075年には325兆円に。 • これは国民所得比で、現在の24.9%(2011年 )から45.1%(2075年)になることを意味する。 • さらに、国民の負担は社会保障費だけではな い。 • 社会保障給付費負担だけではなく、所得税、 法人税等の租税負担(消費税除く、社会保障 費の赤字分を除くベース)がある。これを現在 程度の国民所得比で将来一定と想定する。 • また、プライマリーバランスの黒字化達成・維 持を消費税率引き上げで賄うとすれば、少子 高齢化の進展とともに、自動的に消費税率を 引き上げなければならない。 • 経済学者、エコノミスト、各シンクタンクの消費 税率の予測はほぼコンセンサスがあり、2025 年で20%~25%、2050年に30%~40%。 • 国民負担率は、2025年で5割超、2050年で7 割超、2075年には8割程度。これは、現在の社 会保障をただ維持する場合。 単位:兆円 2011 2025 2035 2050 2075 社会保障給付費 107.8 148.9 185.5 249.5 324.2 対国民所得比率 24.9% 28.0% 32.0% 40.0% 45.1% 消費税除く国民負担率* 35.9% 39.0% 43.0% 51.0% 56.1% 消費税率の予測 5% 20~25% 30~40% 消費税含む国民負担率** 38.8% 52.1% 71.3% 注)2011年度は見込み、2025年は政府予測。*消費税以外の租税負担率を一定と仮 定する。**消費税率は2025年で22.5%、2050年で35%と仮定した(予測平均値)。 • これが、現在の社会保障制度をそのまま維持し、 一体改革のバラマキを加えた将来像。 • 3党合意した「社会保障と税の一体改革」の不誠 実な点は、こうした将来像を一切見せていないこ と。 • そして、とりあえず5%の消費税引き上げとしか、 国民に負担を提示しない。 • これは、金額の書かれていない請求書にサイン を迫られているようなもの。極めて不誠実。自民 党も本質的な違いはなく、「先送り談合」化。 • 本来は、社会保障の将来像と消費税率、国民負 担率について複数の選択肢を示し、そのどれを 選ぶかを国民に問うべき。現在の大盤振る舞い 持続+負担増路線は最も極端なケース。
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