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価格メカニズムの役割
公共経済論 II
no.2
麻生良文
価格メカニズムの機能
• 市場による資源配分
– 個々の経済主体(消費者,企業)はそれぞればら
ばらに意思決定
– 基本的には個々の利益の追求
– しかし,全体としてはうまく機能
• 神のみえざる手(Adam Smith)
• 中央計画経済の失敗(ソ連)
価格の役割
1. 情報の伝達 財の希少性の情報
•
希少資源の価格は高騰,常に伝達
2. 資源の利用者の選別
•
•
緊急度の高い消費者に優先的に割り当てる
効率的でない生産者を駆逐
3. インセンティヴの提供
•
•
•
消費者の嗜好の調査
希少資源の使用をなるべく節約
発明・発見,努力,貢献に応じた報酬
-----------計画経済で市場の代替は不可能(Hayek)
数量化しにくい各自の個別的・特殊な情報の存在
私的利益の追求
• 市場がうまく機能している場合には,私的利益の追求は
社会的利益の促進に貢献
– 消費者の望む財を供給することが生産者の利益につな
がる
– 同じ品質の財を安く生産できれば,それは生産者の利益
につながる(効率的な生産方法の追求)
– 消費者は同じ品質なら安い財を購入(資源の節約)
– 厚生経済学の基本定理
• 私的利益の追求が社会全体の利益を損ねる場合も存
在 公害など(市場の失敗)
価格メカニズムを使用しない場合の非効率性
• 医療サービス
– 浪費される患者の待ち時間
– 医師や看護師の報酬
• エネルギー,リサイクル
– 自然エネルギーへの補助,リサイクルの義務付け
• 農産物
– 輸入制限,作付制限,…
• 共有地の悲劇
• 裁判の傍聴
– 行列による割り当て(時間の機会費用の安い人に有利)
• 計画経済の失敗
– 日常品の慢性的不足,ヤミ市場,機械的なノルマによる品質に対す
る考慮の不足
消費者余剰(1)
p
p1
消費者余剰=総便益-購入費用
需要曲線の高さ 追加的1単位に対して支払っても
いいと思う最大限の価格限界便益
p2
限界便益の和は総便益に等しい
p3
p4
市場価格=p4  4単位の財を購入
p5
p6
1
2
3
4
5
6
Q
6
消費者余剰(2)
p
CS=総便益ー支出
𝐶𝑆(𝑄) = 𝐵 𝑄 − 𝑝 ∙ 𝑄
p0
Q0
Q
7
供給曲線と限界費用
p
p6
p5
p3円なら3単位目の生産をして
も良いことを表す
p4
p3
供給曲線の高さは,生産者,
(追加的1単位を)売っても良い
と思う最低価格を表す
p2
 供給曲線の高さは限界費用
に等しい
p1
限界費用の和可変費用の総額
1
2
3
4
5
6
Q
8
供給曲線と限界費用(2)
•
生産者が追加的1単位を供給するのは,それが利益
になるから
•
追加的収入(p) ≧ 追加的費用(限界費用)
•
供給曲線の高さは,限界費用を表す
•
限界費用: 財を1単位余分に生産する(供給する)場
合にかかる追加的な費用
•
供給曲線の下の部分の面積=可変費用
–
総費用=固定費用+可変費用
9
限界費用と総(可変)費用
4単位の財を供給する場合の総(可変)費用
=p1+p2+p3+p4
p
p6
p5
p4
p3
生産者余剰
p2
=収入-総可変費用
p1
利潤とほぼ等しい概念
1
2
3
4
5
6
Q
生産者余剰
𝑃𝑆 𝑄 = 𝑝 ∙ 𝑄 − 𝑉𝐶(𝑄)
p
PS=収入ー可変費用
S
p0
利潤とPSの違い
利潤 = 収入─総費用
= 収入─(固定費用+可変費用)
= PS ─固定費用
Q0
Q
11
社会的余剰(総余剰)
社会的余剰=CS+PS
p
=総便益-支出 + 収入- 総可変費用
=総便益- 総可変費用
S
CS
p0
PS
D
Q0
Q
社会的余剰の最大化の条件
社会的余剰は消費者余剰と生産者余剰の和
𝑇𝑆 𝑄 = 𝐶𝑆 𝑄 + 𝑃𝑆 𝑄
𝐶𝑆 𝑄 = 𝐵 𝑄 − 𝑝 ∙ 𝑄
𝑃𝑆 𝑄 = 𝑝 ∙ 𝑄 − 𝑉𝐶(𝑄)
𝑇𝑆 𝑄 = 𝐵 𝑄 − 𝑉𝐶(𝑄)
B(Q): 消費者の総便益
VC(Q): 可変費用
社会的余剰は総便益から可変費用
を引いたものに等しくなる
最大化の条件は限界便益と限界費用の一致
𝑀𝐵 𝑄 = 𝑀𝐶(𝑄)
消費者は市場価格と限界便益を一致させるように購入量を決める
生産者は市場価格と限界費用を一致させるように生産量を決める
市場では,市場価格を通じて限界便益と限界費用が一致する
13
社会的余剰(総余剰)
社会的余剰=CS+PS
p
=総便益-支出 + 収入- 総可変費用
=総便益- 総可変費用
S
CS
p0
E
PS
MB(限界便益)
D
MC(限界費用)
Q0
Q
市場均衡の性質
• 社会的余剰が最大になる
– 消費者余剰: 消費者側の利益
– 生産者余剰: 生産者側の利益
– 社会的余剰: その財を生産して消費することから発生す
る社会全体の利益
• 市場均衡は社会的余剰を最大にするという意味で望まし
い
– 価格メカニズムの役割
• 効率的な生産者の選択
• 緊急度の高い消費者への割り当て
• Hayekの情報伝達機能,適切なインセンティヴの提供につい
て説明しているモデルではない
• 利己心の刺激自体が望ましくないという批判をどう考える
か?
消費者余剰概念の留意点
• 異なる消費者の限界便益を比較
• 限界便益がなぜ異なるか
– 選好
– 所得  ここが重要
• 消費者余剰の概念
– 所得分配の状況を無視している
• もちろん,これが問題にならないような財も多く存在
– 所得の高い人の選好を重視している
• 市場を通じた資源の割り当ては高所得者に多くの投票権を与え
るようなもの
• ただし,政府が問題をうまく解決できるかというとそうでもない
市場の失敗
• 市場の失敗
– 公共財
– 外部性
– 自然独占
– 情報上の失敗
– 所得分配の問題
• 政府介入の根拠
– 市場の失敗 vs. 政府の失敗
公共財 public goods
• 公共財の2つの性質
– 非競合性
• ある人が消費したからといって他の人の消費機会が減るわけではない
– 排除不能性
• 費用負担をしない人の排除が困難  価格メカニズムを用いることが困
難
• 公共財の例
– 国防,警察サービス,公衆衛生知識,情報
– フリーライダー問題により,市場では過小供給  政府による供給
• 私的財
– 競合性,排除容易
財の分類
排除困難
国防,警察,消防,
生活道路,公衆衛
生,TV放送,知識
混雑減少の生じた
公共財
非競合性
競合性
公園,図書館,高
速道路,映画,
CATV
一般の私的財
排除容易
外部性 externality
• 定義:ある経済主体の行動が市場を介さずに
(金銭的支払いを伴わずに),他の経済主体
に影響を与える場合,外部性が存在するとい
う。
• 正の外部性(外部経済)
– 借景,養蜂業者と果樹園経営者,知識の生産
• 負の外部性(外部不経済)
– 公害,騒音,温暖化,共有地の悲劇
外部性(2)
goods
A
bads
B
支払い
A
B
補償
外部性が存在するとき,相手に良い影響を与える活動はその見返りがないた
めに奨励されない。相手に悪い影響を与える活動は,補償支払が存在しない
ために当該企業に費用を意識させない。このため,そのような活動は抑制され
ない。
外部性への対処
• 所有権の設定
– 野生動物の乱獲,漁業,天然資源
– 所有権が確定していないことが問題
– コースの定理
• 取引費用が無視できるという前提に依存
• 現実の世界では取引費用が無視できない市場の失敗
• 公共政策の役割
– 所有権の明確化
– 合併
– 税(罰金)・補助金による誘導
• 一般的には,直接的な数量規制よりも望ましい
自然独占
• 費用逓減産業
– 固定費用が巨額
– 産出量の拡大につれ,平均費用
が低下
p
• 通常の産業
– 長期的には利潤=0(自由な参
入・退出)
– 各企業の最小効率規模(平均費
用が最小になる産出量)と市場
全体の需要の規模が参入企業
数を決める
– 自然独占産業では,一つの企業
のMESが市場全体の需要規模
を超える
• 自然独占
– 最初にシェアをとった企業
– 巨額の固定費用が参入障壁
– 配電事業,水道事業etc.
最小効率規模
MES
AC
D
Q
独占の原因
1. 資源が特定の1社に独占されている(ダイアモンド,
ボーキサイト)
2. 技術的優位性
3. 政府の規制(安全性,品質保証を名目とした参入規
制)
4. 規模の経済性に伴う自然独占
5. サンクコストの存在(既存企業を新規参入企業に比べ
て競争上,優位に立たせる)
2.は一定期間のみ有効。1.は現代ではあまり重要で
はない。 3以下が重要。
intel やMicrosoftの「独占」の原因は?
情報上の失敗
• 情報の非対称性
• モラル・ハザード
– 保険の加入によって,保険加入者が事故に対して注意を
払わなくなる
• 保険会社が加入者の行動を完全にはモニターできないこと
が原因
• 逆選択
– 事故確率について情報の非対称性が存在すると,事故
確率の低い人から保険を脱退し,場合によっては市場が
成立しなくなる
• 医療保険,年金保険
• 資金市場(高い金利が優良な借り手を選別する機能を果た
さなくなる)
• 強制加入が事態を改善する
所得分配
• 市場を通じた所得分配
– 貢献に応じた報酬
– 初期保有資産に依存
• 人的資産,非人的資産(親からの相続)
• 高い報酬  他人の所得分配の状況にも依存
• 市場の失敗が問題を悪化させる場合もある
– 借入れ制約(高い能力を持っている個人が教育機会に恵まれない,職業訓
練のための資金が借りられない,事業のための資金が借り入れられない)
– 所得格差
• 市場メカニズムは差別を嫌う?
• 再分配政策の留意点
– 真の所得の捕捉(恒常所得,非金銭的所得)
– 効率性に与える影響(人的資本投資への影響を含む)
大きな政府 vs. 小さな政府か
• 市場メカニズムの評価
• 再分配政策
– 再分配政策の根拠
– その政策の副作用
• ケインズ的政策
• 重商主義
– 産業政策の根拠
– 産業政策の副作用
– 政府は適切に政策を実施できるのか(政府の失敗 
規制当局は被規制企業の虜になりやすい? )
Discussion
次の政策の根拠は何か(無いかもしれない)。目的を達するために
もっと望ましい方法はあるか。
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
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10.
11.
12.
13.
14.
15.
16.
17.
18.
国防,警察活動
道路・港湾の整備
高速道路の整備
義務教育
高等教育に対する補助
文化芸術活動に対する支援
職業訓練に対する支援,公的な職業紹介
失業保険
公的医療保険
公的年金
電気・ガス・水道事業(地域独占を認め,自由な料金設定を認めない)
NHKの受信料(国民の義務?)
出産・育児に対する補助・公的支援
食料自給率の向上
住宅購入,教育資金に対する低利の融資
職業免許制度(医師,弁護士,教師,理髪・美容….)
地方に対する財政支援
中小・零細企業に対する融資(公的な金融機関,または民間金融機関に対する
補助
補論
• 厚生経済学の基本定理
• パレート効率性
• パレート効率性の条件
• 市場均衡でパレート効率性が実現することの
確認
厚生経済学の基本定理
部分均衡分析における社会的余剰最大化の一般化
• 第1定理 市場の失敗が存在しない場合,市場で
実現する資源配分はある意味で望ましい性質*
を持っている。
• 第2定理** 任意のPareto効率的な資源配分は,
適切な所得再分配政策を用いることで市場を通
じて実現することができる。
• *:Pareto効率性 資源配分の効率性に関する概念
• **:資源配分の効率性を満たしながら,社会的な公平性
(あるいは公正性)を満たす資源配分が市場で実現できる
ことを主張する所得再分配政策の根拠。ただし,「適切
な再分配」は困難。
厚生経済学の基本定理(2)
• Pareto効率性の定義
• 1財の分配のケース
– 公平性との関連
• 2財のケース
–
–
–
–
消費におけるパレート効率性
生産におけるパレート効率性
生産と消費の組合せにおけるパレート効率性
市場でパレート効率性が実現することの確認
パレート効率性の定義
1.
2.
「誰かの状況を改善しようとするとき,必ず他の誰か
の状況を悪化させてしまう」ような状況を,パレート効
率的であると言う。
「誰かの状況を改善しようとするとき,他の人の状況を
悪化させない」なら,パレート改善の余地があると言う。
–
–
パレート改善の余地が無いような状況がパレート効率
的な状況である
2.の状況↔「全ての人の状況を改善できる」
パレート効率性 1財のケース
A
A
A
B
B
B
Aの取分を増加させようとすると,Bの
取分は減るパレート改善の余地は
無いパレート効率的
Aの取分を増加させようとすると,Bの
取分は減るパレート改善の余地は
無いパレート効率的
Aの取分を増加させようとする時,B
の取分を減らす必要は無いパレー
ト改善の余地があるパレート効率
的ではない
2財のケース
• 財の供給量が与えられていて,それを2人の個人に分配するケースを
考える
消費者 A,B
財
x,y
• 状況 効用で考える Ui(xi, yi) , i=A,B
• 財の分配状況(余りが無い場合)
xA+xB=X
yA+yB=Y
• この場合,単に余り無く分配しただけではパレート効率的にはならな
い
エッジワースの箱
Edgeworth’s box
xB
C
エッジワースの箱の横の長さはX(財x
の総供給量),縦の長さはY(財yの総
供給量)を表している
yA
OA
エッジワースの箱の内部の任意の点
(周辺含む)は,2人の消費者間で,2
種類の財を余り無く分配した状況を表
す
xA
OB
yB
エッジワースの箱(2)
xB
OB
C
yB
yA
uA2
uA1
uA0
OA
xA
uB2
uB0
uB1
C点はパレート改善の余
パレート効率性の条件
地がある。E点やF点は
そうではない。
xB
OB
C
yB
E
F
yA
uA1
uB1
OA
xA
uA0
uB0
パレート効率的な点の集まり
契約曲線
xB
OB
yB
yA
uA2
uA1
uA0
OA
xA
uB2
uB0
uB1
消費におけるパレート効率性の条件
•
•
•
•
2人の個人の無差別曲線が接する
2人の限界代替率が一致する
MRSA=MRSB
市場均衡でパレート効率性が実現すること
– 消費者iの効用最大化 MRSi=p/q
– 2財の相対価格は全ての消費者にとって等しいから,全て
の消費者の限界代替率は一致する
• 分配の公平性とは無関係
生産におけるパレート効率性
• 2つの企業 財xを生産する企業,財yを生産
する企業
• 2種類の生産要素 資本K, 労働L
• 生産要素の総供給量は与えられている
• どのように生産要素を2つの企業に分配する
と「効率的」な生産が可能になるか
Kx+Ky=K, Lx+Ly=L
X=F(Kx,Lx), Y=G(Ky,Ly)
生産におけるパレート効率性(2)
Ly
Oy
Ky
Kx
x2
x1
x0
Ox
Lx
y2
y0
y1
生産におけるパレート効率性(3)
• 2つの企業の等量曲線が接する
• 技術的限界代替率が一致する
• RTSx=RTSy
市場でパレート効率性が実現することの確認
• 全ての企業は,与えられた生産要素の価格を所与とし
て,費用最小化行動をする
– RTSと生産要素の相対価格(w/r)を一致させる
– 全ての企業が同一の生産要素の価格に直面するから,
全ての企業の技術的限界代替率は均等化する。
生産と消費におけるパレート効率性
• 2種類の生産物 XとY (生産要素の総供給
量は与えられている)
• 代表的な消費者の存在
• 生産の効率性を満たすような方法で,2種類
の生産物を生産されている。代表的な消費者
の効用を最大にするような消費と生産の組合
せはどのようなものか。
生産可能性フロンティア
Production Possibility Frontier
Y
所与の生産要素のもとで,生産の効率性を満たすX
とYの組合せ
DX
DY
XをDXだけ増加させるとき,YをDYだ
け減少させないといけない(生産要素
の制約のため)。DY/DXを限界変形率
Marginal Rate of Transformationと
いう。
MRT=DY/DX
MRTは逓増する
限界費用逓増の一般化
(図のような形になるためにはそ
れぞれの財の生産に特有な固定
的な生産要素を暗黙に仮定)
X
生産と消費におけるパレート効率性
•PPF上の点であってもA点はパ
レート効率的ではない
Y
•PPFの内部の点はパレート効
率的ではない
•PPFと無差別曲線が接する点
はパレート効率的
PPF
A
E
MRT=MRS
U2
B
U1
U0
X
パレート効率性の条件 まとめ
•
•
•
•
消費:
生産:
生産と消費:
市場均衡
–
–
–
–
MRSA=MRSB
RTSx=RTSy
MRS=MRT
効用最大化
MRSi=p/q
費用最小化
RTSj=w/r
利潤最大化 MRT=MCx/MCy=p/q
(1)から(3)の条件が成立
(1)
(2)
(3)
厚生経済学の基本定理
• 第1定理
市場均衡はパレート効率的である
• 第2定理
任意のパレート効率的な資源配分は*,
適切な所得再分配政策**のもとで,市場を通じて実現
できる
• * 任意のパレート効率的な資源配分を満たす点の中に,
分配上の公平性を満たす資源配分が含まれることが重
要
• ** 相対価格に影響を与えるような再分配政策は資源
配分の非効率性をもたらす(所得税など)
• 市場の失敗が存在しないことが前提
分配の公平性
社会厚生関数(social welfare
function)
効用フロンティア
UB
•功利主義 SSW=UA+UB
•一般的なケース
SSW=W(UA,UB)
•Rawls主義 最も不利な状況の
人だけ考える
C
B
A
UA