Level0 データ

CALET地上運用システム ~WCOCの役割と準備状況~
早大理工研, 神奈川大工1, JAXA2, 東大宇宙線研3
浅岡陽一, 鳥居祥二, 小澤俊介, 笠原克昌, 神尾泰樹 , 下村健太,
仁井田多絵, Holger Motz, 力石和樹, 田村忠久1,
上野史郎2, 清水雄輝2, 冨田洋2, 赤池陽水3, 他CALETチーム
概要: CALETは2014年度から国際宇宙ステーションで観測を開始する高エネルギー宇宙線観測装置である。撮像型と全吸収型を組み合わせた計30放射長の分厚
いカロリメータを搭載し、1GeV-20TeVの広い範囲で電子のエネルギースペクトルを高精度で決定する能力を有している[1-2]。現在軌道上での観測開始に向けて、
CALETの状態を常時監視し適切な運用を行うための地上運用システムがJAXAにて準備されている。早稲田大学にもJAXAの地上運用システムと連携し、特に科学
データの質の確保を目的としたミッション運用とデータ解析を行う Waseda CALET Operations Center (WCOC) が設置され、観測開始に向けてハードウェアやソフトウェ
アの準備を着々と進められている[3-4]。本ポスターでは、このようなCALETの地上運用システムについて、特にWCOCの役割と準備状況を中心に記述する。
軌道上データのダウンリンク:
CALET地上システム:
国際宇宙ステーション(ISS)軌道上でCALETが取得するデータは、これまでに実施されて
いる他のISS船外実験と同様に、NASAとJAXAが有する2種類の伝送経路を利用して
JAXAの筑波宇宙センター(TKSC)に設けられたUser Operations Area(UOA)で受信する。
データ通信には、それぞれ中速系(~300 kbps)と低速系(~35 kbps)を使用する。一日の
うち約70%はリアルタイムでのデータ受信が可能である。残りの30%のデータは一旦軌道
上にて保存され、通信が可能になった際にリアルタイムデータの5倍以上の速度でダウン
リンクされる。
CALETの軌道上運用はTKSC/UOA にある CALET地上運用設備と早稲田大学に設置さ
れる Waseda CALET Operations Center(WCOC) にて行われる。UOAでは、データの保存
や監視、コマンドの作成・送信を行うと共に、CALETに関する全てのデータをWCOCに配
信する。UOAからWCOCへ配信されるデータには二つの系統が存在する。一つは、ISSの
可視時間に装置の状態やデータ取得状況をリアルタイムに監視するための送信速度を最
優先した生データ配信で、もう一つは科学データ解析のための時間情報、イベント情報な
どを整理したLevel0データ配信である。
ver. 130726
CALET 地上システム (簡潔版)
軌道上CALET
UOA
CALET
地上
システム
詳細
公開ネットワーク
生データ:
リアルタイム
のみ
ソケットI/F
QL: Quick Look
QA: Quick Analysis
SDQ: Science Data
Quality
WCOC
非公開ネットワーク
データ
分配
プログラム
低速系
中速系
Real
CALET-GSE
time
Data
データ
配信
サーバー
MSSMSSGSE-QL
QL
QL
Level0 データ:
時系列補正済
完備なデータ
セット
1 file/hr
MSSMSSGSE-QL
QL
QL
PI-QL
PI-QL
SDQ-QL
PI-QA
PI-QA
SDQ-QA
モジュール
Level0データ
受信サーバー
Level1
データ 配信
(Int.Collab., AGU)
データ確認
Level1データ
作成
非公開ネットワーク
SDQ-QL
SDQ-QA
WCOCの役割:
[役割1: ミッション運用] CALETの運用において、JAXAは装置健全性の確保に、早稲田大学はサイエンス
データの質の確保に責任を持ち、明確な役割分担の下、密接に協力しながら高効率観測を支える。その
ため、WCOCではUOAと同様にCALETメンバーの研究者が常時HKデータモニタやイベントディスプレー等
のQuick Look(QL)によりリアルタイムデータを監視し、必要に応じてUOAからコマンドの配信を行う。緊急
な対処が必要な事態が発生した場合に、UOAとWCOC間での情報伝達を迅速に行うため、両者では同一
のQLが監視可能となるようなシステム設計がなされている。
[役割2: 科学解析用Level1データ配信] リアルタイムデータ配信に対して、科学解析用のデータとなる
Level0データでは、時系列補正とデータ欠損の補完が行われている。Level0データは中速系リンクを介し
て送出されたデータパケットを全て含み、データ形式は可変長のバイナリ―となっている。WCOCでは、
Level0データの完備性を十分にチェックすると共に、各ADC値を物理量に変換するなどの処理を加えた、
科学解析に必要な情報を全て保持するLevel1データを生成し、国内外の各研究機関へ配信する。
他のデータ
受信は全て
ファイルベース
リアルタイム
データのみ
早稲田大学
TKSC, JAXA
WCOC詳細
開発中のQLの例
CALET軌道上データ模擬:
CALET地上運用システムのテストや、WCOCでのQuick Look, 初期解
析のためのソフトウェア開発とLevel0データ処理システムの開発、軌道
上運用のシミュレーションを目的として、軌道上で期待されるデータを
再現する軌道上データ模擬システムを開発した。ISS軌道上で観測さ
れる二次粒子を含む宇宙線流束をATMNC3を用いて予測し、検出器
やCALETデータ処理システムの詳細シミュレーションを駆使して現実
的な軌道上CALETの模擬データを作成した。
イベントディスプレー
軌道上データ模擬システム
ATMNC3
宇宙線データ
ISS軌道
データ
MDC Simulator
軌道上宇宙線
サンプリング
ISS軌道上
宇宙線
入力データ
検出器シミュ
レーション
(Geant4/EPICS)
ISS軌道上
宇宙線データ
(rootファイル)
較正データ
ベース
(PostgreSQL)
較正データ
チャンネルアサイン
LDカウンタ
処理
トリガー
判定処理
ADCデータ
処理
DB I/F
現在位置
テレメトリ
主力
Endian変換
処理
ISSの軌跡
現在地を把握しやすい
ように白地図を重ね、さ
らに期待されるトリガー
レート等を重ねてミッ
ション運用を助ける。
CALイベント
データ出力
定時データ
出力
Pedestal 差引
ゼロサプレス処理
LD・トリガーマスク
LDスレッショルド
カウンター初期値
ISS軌道
モニタ
プログラム
データ
トリガー
カウンタ
処理
WCOCハードウェア構成:
テレメトリ
データ
WCOCの準備状況:
1. ミッション運用に最低限必要なハードウェアの準備が完了した。
2. I/F試験に向けてリアルタイムデータ受信のための準備を進めている。
3. 軌道上データ模擬システムを使用して、WCOCで受信するLevel0データ、生
データの現実的なサンプルデータを作成した。
4. このサンプルデータを活用して、Quick Look や Level0データ処理のためのソ
フトウェア開発を行っている。実際の運用時に受信するデータに近い現実的
なデータを使用することで開発効率を高めることを狙っている。
温度
モニタ
WCOCには、(1) リアルタイムデータ監視と(2) Level0データの処理のために2
系統のPC群を準備する。
リアルタイムデータ監視には低速系、中速系データの監視用システムを両方
用意することで冗長性を確保し、確実に監視できるようにする。一般的なテレ
メトリモニタに加え、大画面を有するイベントディスプレー専用のPCを用意し、
正常なデータ取得が視覚的に常時確認できるように配慮している。
Level0データの処理には充分な処理能力を持ったサーバ型のPCを用意し、
Level0データの完備性のチェックやLevel1データの作成を行う。各データは大
容量のRAIDシステムを用いて保管する。データ処理に用いるデータセットに
加え、独立なRAIDシステムにもう一セットのデータを保持し、確実に二重化す
る。また、定期的にチェックサムを確認し変化のないことを保証する。
Level1データの共同研究者への配信には早稲田大学内の別のネットワーク
を使用し、WCOCへのアクセスを強く制限してセキュリティに配慮する。
参考文献:
1. S. Torii for the CALET Collaboration, “Overview of the CALET Mission to the ISS”, Proceedings of the 33nd
International Cosmic Ray Conference (Rio de Janeiro, Brazil), CR-IN ID# 0147 (2013)
2. S. Torii for the CALET Collaboration, “The Calorimetric Electron Telescope (CALET) for High Energy Astroparticle
Physics on the International Space Station”, IEEJ Transactions on Fundamentals and Materials, 132, 8, 603-608 (2012).
3. T.G. Guzik for the CALET Collaboration, “The CALorimeter Electron Telescope (CALET) ground data handling
and processing system”, Proceedings of the 33nd International Cosmic Ray Conference (Rio de Janeiro, Brazil),
CR-IN ID# 0168 (2013)
4. 赤池陽水他、“CALETの運用及びデータ解析・管理システムの概要”, 「宇宙科学情報解析論文誌」第3号, 印刷中