2016年3月 日本物理学会第71回年次大会 「学部学生ポスターセッション」 講演番号:21pPSB-1 + 原子核の𝛽 崩壊と陽電子の対消滅 1. 研究の概要 研究目的は原子核の 𝛽 + 崩壊と陽電子の振舞いについて理解することである。 22 Na線源を用いて原子核の𝛽 + 崩壊について実験を行った。 𝛽 + 崩壊により放出された陽電子と物質中の電子の対消滅によって生成され た𝛾線の角度相関を調べた。 その𝛾線のコンプトン散乱による影響を調べた。 量子電磁気学を用いてコンプトン散乱の微分断面積であるクライン-仁科の公 式を自分で導出した。 2. + 原子核の𝛽 崩壊 22 11Na + • 𝛽 崩壊によって原子核中の陽子pは 中性子nへ変化し、陽電子𝑒 + と電子 ニュートリノ𝜈𝑒 が生成される: p → n + 𝑒 + + 𝜈𝑒 . 22 実験で使用した 22 Na線源では 11 11Na 原子核が 22 10Neへ崩壊する。 • • 2842 keV 22 + Na原子核は𝛽 崩壊後、𝛾崩壊し 11 0 →計数もコンプトン散乱の角度依存性で説明できる。 0+ 22 11Na原子核の崩壊図 22 10Ne 終状態密度のみ 一方、Bethe-Blochの式から飛程(stopping range)を計算する と、陽電子はすべて線源の容器内で静止することがわかる。 𝑝1 𝜙 (degree) 22 11Na線源 𝛾(511 keV) 以上の考察から②は線源の容器内で 1度𝛾線がコンプトン散乱した場合であ ることがわかった。 𝛾(511 keV) 𝜙 𝜃 𝛾(コンプトン散乱後) 5. クライン-仁科の公式の導出 22 11Na線源の容器 𝑝′ 𝑝 angleが𝜃となるように2インチのNaI(Tℓ)検出器 22 11Na線源 15 cm 上記で用いたコンプトン散乱の微分断面積であるクライン仁科の公式を量子電磁気学に基いて自分で導出してみた。 量子電 磁気学 散乱振幅M 、 M^2の計算 𝑘 微分断面積 𝑝 微分断面積 とM の公式 場の理論 を図のように2つ配置した。 NaI検出器を2つ用いてCAMAC/NIMモジュールにより同時計測を行った。 角度𝜃を変えながら𝛾線を測定した。 • • ① 全計数の 角度依存性 𝜙 (degree) ディラック 方程式 3. NaI(Tℓ)検出器2台を用いた𝛾線の測定 22 11Na線源の周りにopening エネルギーの 角度依存性 ② フェルミ関数を含む フェルミ関数𝐹(𝑍, 𝐸𝑒 )は原子核のクーロン場の陽電 子への影響に関する補正項である。 • ②の𝛾線エネルギーの散乱角𝜙依存性をコンプ トン散乱の予想値と比較した。(下の左図) →コンプトン散乱の運動学による予想値とほぼ 上図において ADC-1+ADC-2 一致する。 Channl とした さらに、②のピークの角度依存性を調べるため、ヒストグラム 𝑑𝜎 全計数を𝑝0 ⋅ ⋅ 𝜖 + 𝑝1 でフィットした。𝑝0 , 𝑝1 は 𝜖は検出効率。(下の右図) て1275 keVの𝛾線を放出する。 • 𝛽 + 崩壊により放出された陽電子は 物質中の電子と対消滅して複数の 𝛾線を放出する。 確率密度 𝛽線のエネルギースペクトル 𝑃(𝐸𝑒 ) (/keV) • 𝛽 + 崩壊により放出される陽電子𝑒 + のエネルギースペクトルは、主に フェルミ関数𝐹(𝑍, 𝐸𝑒 )と終状態密度 𝑑𝑛 によって決まる: 𝑑𝐸 𝑑𝑛 𝑃 𝐸𝑒 𝑑𝐸𝑒 ∝ 𝐹 𝑍, 𝐸𝑒 ⋅ 𝑑𝐸 𝑑𝑛 陽電子のエネルギー 𝐸𝑒 (keV) 2 4 1/2 2 2 ∝ 𝐸0 − 𝐸𝑒 ⋅ 𝐸𝑒 − 𝑚0 𝑐 𝑑𝐸𝑒 𝑑𝐸 • ② 𝑑Ω 𝑑𝜎 パラメータ、 はコンプトン散乱の微分断面積、 𝑑Ω 𝛽+ 2+ 1275 3+ 𝛾線が少なくとも 一方の検出器で 511 keVの場合 ①511 keV と 1275 keV この②のピークは何か? この②のピークの起源を考察した。 全計数 (counts/5h) • • 𝜃 = 120° ADC Channelの和を取ると、よりはっきりと見え る。(右下図) Energy (keV) • • • 𝜃 = 180°以外においてもいくつかピークが見ら れる。(右上図) ① 511 keVと1275 keVのピーク(黒枠)。 ② 片方が511 keV、もう片方がそれより 低いピーク(赤枠)。 ADC-2 channel 東京工業大学 理学部 物理学科 柴田研究室 矢澤 友貴孝 コンプトン散乱の散乱振幅 𝑘 : 𝑘′ 𝑘′ 𝑝′ ファインマン・ダイアグラム スピン平均をとって、 鉛ブロック 𝜃 ∵ NaI結晶 NaI検出器2 • NaI検出器1,2の同時計測のデータを2次 元プロットで示す。 𝜃=90, 120, 170, および180°。 ADC-1 Channel、 ADC-2 Channelはそれぞ れNaI検出器1,2のADC Channelである。 ADC-2 channel NaI検出器1 4. 実験結果 • を用いて下枠の ように計算する。 Odd number 奇数個 𝜃 = 90° 入射光子ℎ𝜈 散乱光子ℎ𝜈′ 自然単位系→SI単位系、 ADC-1 channel ADC-2 channel → ′ このようにしてクライン-仁科の公式を導出できた。 𝜃 = 120° 𝜃 = 180° 𝜃 = 170° 6. • • • ADC-1 channel ADC-1 channel ADC-1 channel Opening angle 𝜃 = 180°の場合、他の角度の場合に比べて計数は 大きい。NaI検出器1、2ともに511 keVのとき大きなピークがある。 →𝛽 + 崩壊により生じた陽電子がエネルギーを失った後、物質中 の電子と対消滅して放出する2本の𝛾線: 𝑒 + + 𝑒 − → 2𝛾 • • • 原子核の𝛽 + 崩壊と崩壊により生成された陽電子の振舞 まとめ いについて理解することが研究目的である。 𝛽 + 線源を用いて𝛾線の角度相関を同時計測した。 Opening angle 𝜃 = 180°で最も大きな計数が得られ、それは陽電子-電子対消 滅による511 keVの2本の𝛾線である。 𝜃 ≠ 180°のとき①511 keVと1275 keVのピークと②片方が511 keV、もう片方が 511 keV以下のピークが見られた。 ②のピークは片方の𝛾線がコンプトン散乱したことによる。それは𝛾線エネル ギーが予想値に一致し、全計数の散乱角依存性がクライン-仁科の公式で フィットされることより確かめられた。 前述の理論値として用いたクライン-仁科の公式を量子電磁気学により自分で 導出した。
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