ISQua Webinar _June 2016_Professor Hasegawa

医療の質を測る
Measuring Quality of Healthcare
2016年6月9日(木) / 9th June 2016
長谷川 友紀 Tomonori Hasegawa
東邦大学医学部 教授
公益財団法人日本医療機能評価機構 執行理事
Professor, Toho University School of Medicine.
Professor Tomonori Hasegawa, Executive Board Member - Japan Council for Quality Health Care.
Copyright (C) 2015 JQ
1
医療の質への関心の増大
医療の質:現在の考え方
 深刻なQuality Chasm(質の谷間)の存在
谷間とは:期待と現実の医療の差異
手術の地域差、治療成績の施設差・・・
急性期→慢性期に疾病構造が変化:谷間の拡大
慢性期、精神、外来医療のモデルの欠如
 医療の質はいくつかの構成要素からなる
適切な指標の組み合わせで測定可能
分布、レベルに注目
 適切な指標を用いることにより
可視化が可能、管理の対象、資源投入の対象
医療の質評価の視点
第三者評価
効果
Effectiveness
構造
Structure
過程
Process
プロセス
アプローチ
パス・ガイドライン
結果
Outcome
アウトカム
アプローチ
アウトカム評価
効率
Efficiency
公平
Equity
Avedis Donabedian
1919-2000
プロセスアプローチと
アウトカムアプローチの連携
特徴
欠点
例
プロセス
アプローチ
最適な治療方法を
提示
アウトカム
IT
アプローチ
治療の結果を提示
最適な方法は必ずし
も最良の結果を保証
しない
EBM
クリニカルパス
結果が悪くても改善策を
提示できない
臨床指標を用いたアウト
カム評価
EBMによる診療ガイドライン
適切な医療は明らかにされているか
EBM手法を用いた診療ガイドライン
 前提
ある病態には、最適な治療法が存在する
 目的
臨床研究の結果を患者へ還元
医療の標準化を促進
医師の行動変革の促進
 特徴
一定の方法論に基づく過去の医学論文の評価
信頼性に基づく医学情報のランク付けを行う
最終結果はガイドラインに集約される
プロセスの保障を行う(結果の保証を必ずしも意味しない)
診療ガイドラインの整備状況
厚生労働科学研究費(2000-):23疾患
データベース・クリアリングハウス
東邦大学メディアセンター
日本医療機能評価機構MINDS
米国ナショナル・ガイドライン・クリアリング
ハウス:約2000+α
標準的な評価手法:AGREE評価票
各病院でのパスの整備
冊
診療ガイドライン作成状況
(-2012.12 改訂を含む) n=280
年
The AGREE Collaboration. Appraisal of
Guidelines for Research & Evaluation
 概要:診療ガイドラインの定量的評価
 評価項目
6領域23項目の点数評価(1-7点)
対象と目的、利害関係者の参加、作成の厳格さ、明
確さと提示の方法、適用可能性、編集の独立性
 目的
診療ガイドラインの質の向上
円滑な作成
国際的な整合
診療ガイドラインの評価(n=280)
%
%
改訂前後の比較
(1版→2版:n=54、2版→3版:n=16)
%
患者向けvs医療者向け
医療者向け
n=28
患者・一般向け n=16
診療ガイドラインの意義
 重要な疾患が何かを認識
疾病の社会的負担
 医療の標準を確立
医療者の説明責任を明確にした
学会の役割の変化
 サイエンスとしての視点を確立
現在の「知」についての系統的なレビュー
 ヘルスサービスリサーチの重要性を再認識
診療を背景とした臨床研究の重要性
テクノロジーアセスメントの重要性
アウトカムアプローチ
結果の検証
小石川療養所跡
1722-1859
私は誰?
Florence Nightingale Ernest Amory Codman
1820-1910
1869-1940
小石川療養所の医師別治療成績
(1831/12/1-1832/11/30)
医師氏名
診療科
全快
病死
願下
欠落
風間不宣
相帰候者
不備
掟背
計
井上玄丹
本道
21
8
7
0
0
1
0
37
峯岸昌庵
本道
21
10
15
1
0
0
0
47
小川
太左衛門
本道
23
10
0
1
0
0
1
35
牧野升朔
外科
24
7
9
1
0
0
2
43
西玄長
外科
38
7
11
0
1
1
0
58
馬場瑞伯
眼科
24
6
11
1
0
1
0
43
井上三庵
本道見習
8
3
2
0
0
0
0
13
高木済庵
本道見習
6
3
2
0
0
0
0
11
成田活元
本道見習
1
5
4
0
0
0
0
11
塙主齢
本道見習
2
0
7
0
0
0
0
9
鎌田庭雲
本道見習
0
2
0
0
0
0
0
2
小川
健次郎
本道見習
5
1
2
0
1
0
0
9
173
62
70
4
2
2
3
318
計
小石川療養所治療成績
%
60
享保の改革
寛政の改革
天保の改革
明治維新
50
治癒率
40
30
20
死亡率
10
0
1700
1750
1800
1850
塙書房刊、南和男著「江戸の社会構造」より長谷川敏彦氏作成
1900
アウトカムアプローチ
臨床指標を用いた継続的なデータ収集と還元
診療標準の確立
改善へのインセンティブ
インフォームド
コンセントの確立
病院の
自発的参加
患者
データ還元
データ提供
改善の確認
中立的な
機関による
データ
収集・集計
課 題
どのような臨床指標を用いるべきか
疾患/領域
プロセス指標(管理が容易)、アウトカム指標
(患者の関心大)
報告・集計頻度は
データの信頼性をどのように担保すべきか
他の制度とのリンクは有効か
情報公開
診療報酬支払い:P4Pなど
指標の選定
妥当性:
測定したい概念・状況を反映しているか
感度:
状況が変化した際には、その変化を数値の変
化としてとらえることができるか
実用性:
現在の医療・院内体制で現実的な費用・労力
でデータ収集が可能か
分析結果を具体的な改善策に結び付けること
ができるか
プロセス指標かアウトカム指標か
入院前・時の状況
• 年齢
• 性別
• 家族歴
• 喫煙
• ADL
• 認知症
• 併存症
• 重症度
• 教育程度・収入
• その他
入院治療
• 来院時のアスピリ
ン投与
• 退院時のアスピリ
ン処方
• 左室収縮不全に
対するACE阻害
剤投与、またはア
ンギオテンシン受
容体遮断剤投与
• 退院時のβ遮断剤
の処方
• 来院30分以内の
血栓溶解治療
• 来院90分以内の
PCI
• 禁煙指導
結果
• 30日死亡率
• 退院時のADL
• 社会復帰率
デミングの管理(PDCA)サイクル
 計画(PLAN)
目的を決める
目的を達成する方法を決める
 実施(DO)
教育訓練を行う
実行する
 確認(CHECK)
実行過程のチェック
結果のチェック
 処置(ACT)
処置を行う
処置の結果を確認する
改善の手順
問題点の把握
改善目標の設定
要因の解析
改善策の検討
改善計画の実施
改善成果の評価
歯止め・定着:
改善
管理
臨床指標を用いた
質評価事業の例
診療アウトカム評価事業
 運営主体
全日本病院協会
 データ
個人レベルのデータ
24疾患の患者個票+病院全体の指標(入院後発症感染症、転
倒・転落、抑制)
 データの公開
対一般:統計データ
対病院:参加病院vs統計データ
 厚生労働省補助事業(2010、2012-14年度)
一部指標については病院名を公表
患者満足度調査の導入など
対象疾患
1
胃の悪性新生物
全患者の
30-40%を
カバー
13 直腸の悪性新生物
2
結腸の悪性新生物
14 急性虫垂炎
3
気管支および肺の悪性新生物 15 胆石症
4
急性心筋梗塞
16 前立腺肥大症
5
肺炎
17 白内障
6
喘息
18 痔核
7
脳梗塞
19 子宮筋腫
8
脳出血
20 狭心症
9
糖尿病
21 腎結石及び尿管結石
10
大腿骨骨折
22 乳房の悪性新生物
11
胃潰瘍
23 膝関節症
12
急性腸炎
24 そけいヘルニア
急性心筋梗塞の重症度別死亡率
Risk Adjustment based on Killip Score
0.8
0.7
0.6
2002
2003
2004
2005
2006
total
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
KillipⅠ
KillipⅡ
KillipⅢ
KillipⅣ
急性心筋梗塞の実/予測死亡率
実死亡率%
50
B
45
40
35
30
25
20
A
15
10
予測死亡率%
5
0
0
10
20
30
40
50
最近の発展
病院名の公表
臨床指標の拡大とカテゴリー化
プロセスvsアウトカム
連携、プロセス、医療安全など
病院の体制立ち上げの支援
改善に結びつくデータ還元の仕組みづくり
データマネージャー、クオリティーマネー
ジャーの養成
データ ≠ 情報
質改善のための院内体制の重要性









データは山ほどあるが、意味のある情報は少ない
データが分散・分断されている
不完全なデータ・情報しかない
データ・情報を収集する組織横断的な部署がない
データ収集・管理する教育・訓練がなされていない
質指標の管理がなされていない
質を武器にした経営管理がなされていない
情報の周知体制が構築されていない
情報のPDCAサイクルがまわっていない
臨床指標の最近の動向
モジュール化
患者安全、入院後合併症、小児、外来など
対象範囲の拡大
患者満足度、施設/地域レベル、管理、費用な
ど
クリアリングハウスの整備
米国ACHSなど
AHRQクリアリングハウス
臨床指標の分類と掲載数
医療施設レベルの指標
 臨床指標
 過程(process)
1114
 近接性(access)
25
 結果(outcome)
351
 過程(structure)
137
 患者の体験(patient experience) 294
 医療提供に関連した指標
 医療スタッフの健康
4
 管理
1
 医療サービスの利用
88
 費用
0
 医療提供の効率性
0
地域レベルの指標
 地域住民の健康指標
 過程(process)
0
 近接性(access)
2
 結果(outcome)
7
 過程(structure)
2
 患者の体験(patient experience) 2
 関連した指標
 健康状態
6
 管理
0
 医療サービスの利用
32
 費用
0
 健康知識
0
 健康関連の社会的要因
0
 環境
2
 医療提供の効率性
0
患者安全
1.
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
14.
麻酔合併症
低死亡率のDRGにおける死亡
褥瘡
手術を受けた患者の死亡
異物残存
医原性気胸
中心静脈カテーテルに関連する血流
感染
術後の股関節骨折
術後の出血、血腫
術後の生理学的代謝障害
術後の呼吸器不全
術後の肺動脈塞栓症、深部静脈血栓
術後の敗血症
術後の創傷離開
15.
16.
17.
18.
19.
20.
21.
22.
23.
24.
25.
26.
27.
偶発的な穿刺または裂傷
輸血反応
分娩時外傷
産科外傷(経膣分娩、機械補助有り)
産科外傷(経膣分娩、機械補助無し)
産科外傷(帝王切開)
地域レベル:異物残存
地域レベル:医原性気胸
地域レベル:中心静脈カテーテルに関連
する血流感染
地域レベル:術後の創傷離開
地域レベル:偶発的な穿刺または裂傷
地域レベル:輸血反応
地域レベル:術後の出血、血腫
36
PSIs and operation volume (2010)
PSI 04
手術を受けた患者の死亡
PSI 09
術後の出血・血腫
PSI 13
術後の敗血症
*
*
*
*
*
Operation volume†
Operation volume
Operation volume
† Operation volume was separated by 33 and 66 percentile. *:p<0.05 by ANOVA
37
入院後合併症
(Hospital Acquired Condition)











手術遺残
空気塞栓
不適合輸血
ステージ3、4の褥瘡
転倒転落による外傷
血糖のコントロール不良
尿道カテーテルに関連した尿路感染症
呼吸器に関連した肺炎
手術創感染
深部静脈血栓症/肺梗塞
造影剤による急性腎不全
入院後に出現した上記の病態には医療費の支払いはなされない。2015年からは、患者重症度
を調整の上、発生率の高い25%の病院については、medicareによる支払総額の1%を減額。
米国CMSによる
診療報酬支払制度改革
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
2017
入院患者データの提出 2%
治療成績 2%
再入院率 3%
入院後合併症(HAC) 1%
電子カルテ 1%
英国QOF
(Quality Outcome Framework)
英国NHSでの家庭医に対する支払
2004年より10の慢性疾患について146の臨床
指標を設定し、診療効率と治療結果を加味す
る支払い
任意の参加(実際には有利なため大多数の
GPが参加)
559指標(臨床、公衆衛生)
情報提供の問題
患者さんは果たして情報を
見ているのだろうか?
情報公開は質の向上をもたらすか?
米国Hospital Compare
(最初のデータセット、2004)
 心筋梗塞
 来院時のアスピリン投与
 退院時のアスピリン処方
 左室収縮不全に対するアンギオテンシン変換酵素阻
害剤投与
 退院時のβ遮断剤の処方
 来院時のβ遮断剤の投与
 心不全
 左室機能の評価
 左室収縮不全に対するアンギオテンシン変換酵素阻
害剤投与
 肺炎
 来院後4時間以内の抗生剤投与
 肺炎球菌のワクチン接種
 血液酸素濃度測定
米国Hospital Compare
全ての病院がデータ提供(2009)
 肺炎
 急性心筋梗塞
 来院時のアスピリン投与
 退院時のアスピリン処方
 左室収縮不全に対するACE阻害
剤投与、またはアンギオテンシン
受容体遮断剤投与
 退院時のβ遮断剤の処方
 来院30分以内の血栓溶解治療
 来院90分以内のPCI
 禁煙指導
 心不全
 左室機能の評価
 左室収縮不全に対するACE阻害
剤投与、またはアンギオテンシン
受容体遮断剤投与
 退院時指導
 禁煙指導







血液酸素濃度測定
抗生剤投与の開始時間
肺炎球菌のワクチン接種
インフルエンザのワクチン接種
抗生剤投与前の血液培養
適切な抗生剤選択
禁煙指導
 手術創ケア及び感染予防
 切開1時間以内の予防的抗生剤投与
 手術終了後24時間以内の予防的抗生
剤投与中止
 適切な予防的抗生剤選択
 外科患者で適切な深部静脈血栓予防
の指示
 外科患者で手術24時間前から手術後
24時間後までの適切な深部静脈血栓
予防
 心臓手術患者での適切な血糖管理
 外科患者での適切な剃毛
 小児の喘息治療
 入院中の発作緩和治療
 入院中の全身ステロイド投与
DHHS Hospital Compare
抗生物質を適切なタ
イミングで投与され
た手術患者
医師の示す敬意
医師が患者の話
に注意深く耳を傾
けたか
医師がわかりやす
トイレやポー
ルを使用す
介助が必要
か
トイレやポー
ルを使用す
介助を得た
患者満足度調査(HCAHPS)








看護師のコミュニケーション
医師のコミュニケーション
疼痛マネジメント
薬剤に関するコミュニケーション
清潔さと静かさ
病院職員の迅速な対応
退院時情報
病院の全体評価
Hospital Care Quality Information from the Consumer Perspective
DHHS Hospital Compare
医師とのコミュニ
ケーション
投薬前に薬の説明
をしたか
家族や友人に勧め
るか
情報公開の論点
情報整備のコストと利用頻度
不完全なリスク調整
一貫しない結果
Up-coding(より重症として登録)
困難な患者の治療回避
医療の萎縮をいかに防ぐか
病院が管理可能な指標
受け手の教育も重要
医療における情報;医療法改正
従来:広告
患者増加を目的とした情報の提供
広告可能事項を制限→緩和
広告する・しないは医療機関の自由
今後の方向性
一定の情報は広告とは区別して整備・公開の義務
都道府県の役割を規定
医療法第5次改正
医療連携体制が構築されるよう配慮する
医療機能に関する情報の提供を求めること
ができる(医療機能情報提供制度)
目標を定め、少なくとも5年ごとに評価する
医療機関は医療連携体制に協力するよう努
める
国は都道府県に対して補助することができる
まとめ
 医療の質と安全への関心の増加
診療ガイドライン
アウトカム評価
医療機能評価
 情報の整備・公開の流れの加速
臨床指標を用いたベンチマーク
医療機能情報提供制度
 質の管理は病院経営上重要な課題
 学会の役割の変化
Thank you for your attention
Q&A
「2016年第33回ISQua国際学術総会」
参加登録受付中
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会期
会場
テーマ
詳細
Copyright (C) 2016 JQ
2016年10月16日(日)~19日(水)
東京国際フォーラム
未来への挑戦:良質な医療を求めて 更なる変革と持続可能性
http://jcqhc.or.jp/isqua.html
58
2016年第33回
ISQua国際学術総会東京開催
 会期
2016年10月16日(日)~19日(水)
 会場
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 テーマ
未来への挑戦:良質な医療を求めて
更なる変革と持続可能性
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ISQua2016 基調講演演者
Mary Dixon-Woods
野村 祐之
David Goodman
英国レスター大学
医療社会学 教授
トリオ・ジャパン 会長
米国・ダートマス医療政策
研究所 教授
Wendy Levinson
Rene Amalberti
Choosing Wisely Canada 代表
トロント大学教授
仏高等保健機構 (HAS)
患者安全シニアアドバイザー、医学博士
Copyright (C) 2016 JQ
後 信
(公財)日本医療機能評価機構
理事
九州大学病院医療安全管理部
教授・部長
Charles Vincent
インペリアル・カレッジ・ロンドン
臨床安全学部長
詳細 http://jcqhc.or.jp/isqua.html
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