メディア社会文化論 2009/12/25 2.4 熱いメディアvs冷たいメディア (22)-論理の線形性③ • マクルーハンは表音文字を視覚優位の典型 として批判的に・・・しかし普通に考えれば・・・ • →表意文字の方が視覚的、表音文字の方は 聴覚的 • マクルーハンの考え方・・・表意文字は色々な 感覚の経験を籠めている • 「熱狂的なナショナリストであった自国語愛好者たちが 目的としていた課題のなかに、印刷の力を用いて言 語のなかから触覚的性質を早急に抜き去る、というこ とがあった。いまこの点に注目したいと思う。十九世紀 に至るまで英国人たちが彼等の間で語りあってきた英 語に関する自慢話というものがあった。それは十六世 紀以来英語が洗練純化されてきたというものであった。 十六世紀の英語のなかには、触覚性と五感の相互の 反響に資するような訛や方言が豊富に残っていた。だ が一五七七年にはすでに、ホリンシャッドはサクソン 時代からくらべて総体的に彼の時代の英語が洗練の 度を加えてきている点を自慢気に語っているのであ る」(『グーテンベルグの銀河系』pp.364-365) • マクルーハンの文字文化、活字文化批判 に・・・西欧を中心にして発達した、表音文字 の文化への批判 • ポストモダン的な西欧近代批判を先取りか • 貨幣の蓄積や官僚組織への批判も • マクルーハンの貨幣批判とアルファベット批 判との相同性 • 共に地域の枠を越える普遍的なメディアとし て機能する • 数字によって、働いた労働時間を表示し、異 質な労働相互を「翻訳する」するメディアとし て機能する(労働価値説を意識) • 「こんにちでさえも、貨幣は農夫の労働を、床屋、医師、 技師、鉛管工などの労働に翻訳するための言語であ る。貨幣が巨大な社会的メタファー、橋渡し、翻訳者で あるとすれば--書かれることばと同じように--い かなる社会でも、交換を促進し、その相互依存の絆を 緊張させる。それが政治組織に広大な空間的拡張と 統制を許すところは、文字や暦がそうしたのと同じで ある。それは空間的にも時間的にも、離れたところの 操作であると言える。高度な文字文化をもち、細分化 のおこなわれた社会では、「時は金なり」だ。そして、 貨幣は他の人びとの時間と努力の蓄積したものであ る」(p.136-137)。 • 「貨幣はその専門分化したアルファベット技術 に随伴したものであり、グーテンベルクの機 械的反覆の形態をさらに新たに強化すること になったのであった。アルファベットが未開文 化の複雑さを単純な視覚の表現に翻訳する ことでその多様性を中和してしまったように、 兌換紙幣もまた十九世紀に倫理の価値を低 下させてしまった」(p.141) • 時計・・・表音文字の視覚性を前提とする • 文字文化が普及→時間は区分、下位区分の できる囲われた絵画的な空間の性格を帯び る • 「わたしのスケジュールは埋まっています」 • 表意文字から表音文字が世界を支配→印刷 術が強まる→視覚優位の社会 • 視覚優位の社会・・・人間の感覚の包括性を 失わせる→経験を断片化し、専門分化させる • それぞれの分化した領域においては、普遍 性を獲得・・・外へ外へと広がっていく(外展 開・外爆発型) • 外展開型 • 多様な解釈を容認しない。 • 多様な感覚の融合した文字・メディアであれ ば、多様な捉え方が可能であるのに。 • 印刷本の「連続性、画一性、反復性の原理」 (p.181)ゆえに、一方向的なマス・コミュニ ケーション、マス・マーケティングに親和的に なる • 写本と印刷本の対比 • 写本・・・全体的な感覚がまだ存在→多様性 • 印刷本・・・抽象化され、視覚優位→一方向性 • このような一方向性ゆえ、文字言語・・・発す る者を支配者、権力者、スターに仕立てあげ る • マクルーハンのイメージする「現代」・・・相互 依存の時代 • 「現代」で必要とされるメディア・・・もう一度包 括的な感覚を開くメディア • 印刷のような断片化のメディア→電信のよう な包括的なマス・メディア • 線形思考→非線形思考 • 線形の思考・・・一つの感覚優位であるから 成立する • 複数の感覚が働き、包括的に人間が世界に かかわるのなら、減ってくる。 • ハイパーテキストに親和的なマクルーハンの 発想 「WWWのビューワーとして知られている 「モザイク(MOSAIC)」という言葉は、ノンリニ アという意味でマクルーハンが使っていたも のだ」(濱野保樹『大衆との決別』1995,p.137) • 「WWWのビューワーとして知られている「モ ザイク(MOSAIC)」という言葉は、ノンリニアと いう意味でマクルーハンが使っていたものだ」 (濱野保樹『大衆との決別』1995,p.137) 2.5 地球村 • クリントン政権の副大統領ゴアの「情報スー パーハイウェイ・・・マクルーハンの)グローバ ル・ヴィレッジを実現するためのもの(濱野保 樹『大衆との決別』(p.135) • 「「グローバル・ヴィレッジ」とは、マクルーハン が提唱したヴィジョンで、電気メディアのネット ワークが人間の神経系のように張り巡らされ て、地球を一つの共同体にするというもので ある」(同頁)。 (『グーテンベルクの銀河系』p.53での シャルダンからの引用)。 • 「あたかも自己拡張を行うかのように人間はおのが じし少しずつ地球上に自分の影響力の半径を拡げ ていき、その反面、地球は着実に収縮していっ た。・・・昨日の鉄道の発明、そして今日の自動車や 航空機といった手段をとおして、各人の身体的影響 のおよぶ範囲は以前は数マイルにかぎられていた ものがいまでは何百哩どころかそれ以上にも及んで いるのである。それどころか、電磁波の発見によっ て代表される途方もない生物学上の事件のおかげ で、各個人は海陸とわず、地球のいかなる地点にも (能動的に、そして受動的に)みずからを同時存在さ せることができるようになった」 マクルーハン自身による「地球村」の 説明 • 「われわれの五感のこの外化こそ、ド・シャル ダンが「精神圏」と呼ぶもの、もしくは世界全 体のために機能する、いわば技術的頭脳を 創造するものなのだ。巨大なアレクサンドリア 図書館の建設にむかうかわりに、世界それ自 体が、まさに初期の頃のSF本に描かれていた のとそっくりに、コンピューター、電子頭脳と なったのである。」 『グーテンベルクの銀河 系』p.53 印刷文化の否定と地球村 • 【過去】 • 印刷文化・・・人間を専門分化、断片化 • 断片において表音文字や貨幣が普遍的に流 通 • 【これから】 • 感覚統合→全体的・包括的な人間・・・交通や コミュニケーションの発達によって狭くなった 地球の中で共存 2.6マクルーハンからの発展:広義の(最広義 の)メディアを突き詰めればどうなるか • 物財、人の情報性の議論に • すべての物、人の頭脳、人の体はメディアで ある • 人の頭脳に模したコンピュータ、あるいはコン ピュータネットワークも、そのような「人間拡 張」の典型としてのメディア • 「すべてのメディアがわれわれ自身を拡張し たものであり、新しくものを変形する視力と意 識とを提供するのに貢献する」(『メディア論』 p.63)。 • 「われわれの中枢神経組織を電気磁気技術 として拡張あるいは転換したら、われわれの 意識をコンピューターの世界に転移させるの もあと一段階にすぎない」(p.64) • 感覚器官・・・情報の受容体 • 神経という伝送路を伝って、脳にそれらの情報が伝え られる。 • 脳の中でも神経と神経伝達物質の受け渡しがある。 • また我々の感覚器官の極く近くの延長として眼鏡や補 聴器があるし、眼鏡や補聴器のさらなる出先機関とし て、われわれの代わりに外の世界を記録してくれるの が、テレビカメラとマイクロフォンであると考えることが できる。 • つまり脳から神経、感覚器官の延長としてマス・メディ アを捉えるからこそ、「人間拡張の原理」(マクルーハ ンの『メディア論』の原題)といえる。 インターネット社会を予見した地球村 • 「個々の人々の自分の神経の延長として世界 中に神経ネットワークを張り巡らし、世界中の 人々と繋がっている」(「地球村」) • 「コンピュータがインターネットを通じて世界中 につながっている」(インターネット) • 極めて近親性がある、上記2つのイメージ メディア概念の拡張 • 拡張の問題点 • メディアと情報を分けられない • 物そのものと情報も分けられない • 物の情報部分以外がメディアといわれるに過 ぎない・・・ある物を見る人の視点で、あるい は見るという行為によって、そもそもそのある 物は情報になるし、情報になるので • 「見る」こと、顔を向ける(方向性、遠近法)こ とが、物や人が「情報」となる始まり(端緒) • 物財の情報性と、それ以外の情報財の情報 性とを区別する視点→ • 物財のメディアは、情報がなくてもそれ自体で 意味をもつ • 情報財のメディアは通常情報なくして意味が ない
© Copyright 2024 ExpyDoc