「com06」をダウンロード

基礎商法2
第6回
1
本日のお題
• 商取引(商事売買)の履行
2
商取引の履行
商取引における「引渡し」
I. 総論
1. 「引渡し」の意義


動産の所有権移転の対抗要件
(多くの場合で特約による)危険負担の危険の移転
2. 民法における「引渡し」

民法の4類型
①
②
③
④
現実の引渡し(民182Ⅰ)
簡易の引渡し(同Ⅱ)
占有改定(民183)
指図による占有移転(民184)
4
3. 商取引における「引渡し」
i.
ii.
現物の引渡し

当事者の合意のない場合は、①特定物の引渡しは契約時に
その物が存在した場所、②不特定物の引渡しは履行時におけ
る債権者の営業所または住所(商516Ⅰ)

引渡し場所は、運送賃、保険料の負担と結びつく重要な契約
事項であり、通常は契約で明示的に合意するか、商慣習が存
在。基本は揚地売買(運送の終点で引渡し)だが積地売買も

国際売買においては定型的な取引条件にそれぞれ引渡方法
が定められている(FOB(free on board), CIF(cost: insurance:
freight)など)。積地売買が多い
倉庫を用いた引渡し


売主が目的物を倉庫に搬入し、買主が倉庫から搬出
売主は、①倉庫業者から倉荷証券の発行を受け、これを買主
に交付するか、あるいは、②売主自身が荷渡指図書を発行し
て買主に交付し、交付を受けた買主がこれを呈示して倉庫か
ら目的物を搬出する
※実務上倉荷証券はほとんど用いられず、もっぱら荷渡指図書
5
4. 荷渡指図書
i.
ii.
荷渡指図書の意義

荷渡指図書は、基本的には、売主が倉庫業者に対して、書面
に記載された者に寄託物を引き渡すように指図する書面

商法上に規定はなく、倉荷証券や貨物引渡証のような法的効
果(物権的効力)も生じないが、荷渡指図書記載の指示に従っ
て保管物を引き渡せば、倉庫業者は免責(免責証券)
荷渡指図書と引渡しの効果

荷渡指図書の交付に引渡しの効果(指図による占有移転)が
認められるか問題
※たとえば、①AがBに倉庫内の物品を売却し荷渡指図書①を
交付、②BがCにこれを転売し、自ら発行した荷渡指図書とA
発行の荷渡指図書②をCに交付、③目的物が倉庫内に留ま
る間に、AがBの代金不払いを理由に契約解除、という場合に
、Cが倉庫内の目的物を善意取得できるかという問題

規定を欠く以上、いつ占有が移転するかについては商慣習に
よることになるが、判例が比較的容易に移転を認めるのに対し
て、学説は批判的でプラスαの要素が必要とする
6
【516条】債務の履行場所
I. 趣旨


住所→営業所
特定物の引渡しについて「債権発生時」の存在場所→「
行為の時」の存在場所(こちらについてはなぜ民法と扱
いが違うのか
II. 詳細
債権者、債務者のいずれかにとって商行為であれば適用
特定物の引渡につき、民法との相違点は停止条件また
は始期つきの契約(民484=債権発生当時、商516=行為
の時)
持参債務の場合は履行場所は営業所が原則
7
【520条】取引時間
I. 趣旨
I.
?
II. 要件
 行為の相手方(履行の場合は債権者、履行請求の場合
は債務者)が商人
 法令・慣習により取引時間の定めがある
III. 効果
 債務の履行、または履行請求は取引時間内に行わなけ
ればならない(時間外の履行の提供、履行請求は法的
な効果を持たない)
8
IV. 〔留意点〕
 取引時間外の弁済提供であっても、債権者が任意に
弁済を受領し、それが弁済期日内であれば履行遅
滞にならない(最判S35.5.6百(3版)-47)
9
売主の目的物供託・競売権
I. 趣旨
 民法の弁済供託(民494~)の特則。
① 売主の保護
② 取引の迅速な可決、売買代金の確保
※同様・類似の規定が問屋=委託者間、運送人=荷送人
(荷受人)間、倉庫営業者=寄託者(証券所持人)間にも
存在
II. 要件
1. 原則の手続
 供託と催告後競売を選択可
i. 供託の場合
① 商人間の売買であること
② 買主の受取拒絶・受取不能、買主の不確知
ii. 催告後競売の場合
① 商人間の売買であること
② 買主の受取拒絶・受取不能、買主の不確知
③ 売主の催告と相当期間の経過
2. 例外の手続
 無催告競売
① 商人間の売買であること
② 買主の受取拒絶・受取不能、買主の不確知
③ 損傷その他の事由による価格の低落のおそれ
3. 要件の検討

「買主の受取拒絶・受取不能」
• 買主の受領遅滞(売主による付遅滞)の要否については争い有
り。判例は受領遅滞を要求(大判T10.4.30民録27-832等)。商法
においては、民法に比して付遅滞を不要とするニーズが高い
(価格下落の場面で一刻も早く売主に処分の機会を与えるべき)
との指摘もある
 明文の規定はないが、民494と同様に買主が確知でき
ない場合にも適用有り
 買主が代金を支払い済みであるかどうかを問わない
III. 効果
i.
売主は以下の対応が可能(民法と対照)
①
②
③
供託
催告後競売(裁判所の許可不要)
損傷・価格低落のおそれがあれば無催告競売
ii. 供託・競売を行った売主は遅滞なく買主に通知
※通知は発信主義
※通知を懈怠しても供託・競売の効力には影響せず、売主の損
害賠償責任を生じうるのみ
iii. 競売代金(売得金)の処理

売得金から費用を控除し、売主の売買代金債権に充当
(弁済期到来済の場合)したのち、残額を供託
規定
民事取引
商人間の売買
問屋
運送人
倉庫営業者
民494以下
商524,556
商585以下
商624
①受領拒絶
①荷受人不確知
①受領遅滞
②受領不能
②運送品引渡に争い
②受領不能
①の場合
㋑供託
㋺荷送人に指図を催
告後競売
㋑供託
㋺催告後競売
要件
③債権者/売主/委託者不確知
㋑供託
原則の処理
特例
②の場合
㋑供託
㋺荷受人に受取を催
告→荷送人に指図
催告→競売
要件
①供託不適
②滅失・損傷のおそれ
③費用過分
処理
裁判所の許可を得て競売
全額を供託
売得金
の処理
㋑供託
㋺催告後競売
①損傷その他価格低落のおそれ
無催告競売
費用・代金充当後の残額を供託
①費用充当、②
質権者に支払い
の後、③残額を
寄託者に支払い
定期売買
I. 趣旨

民法の債務遅滞解除(民541)の特則である定期行為
(民542)の特則
①
②
売買における債権者保護
買主側の投機防止
II. 要件
1. 明文の要件
① 商人間の売買であること
② ㋑性質、または、㋺特約により、一定期間内に履行しなけ
れば契約の目的が達成できない
③ 当事者の一方が履行期を徒過
2. 定期売買の意義
i.
定期売買の分類


性質による定期売買
特約による定期売買
ii. 「性質」による定期売買(絶対的定期行為)
〔例〕
• 季節物の売買(クリスマス商品、中元進物用うちわ等)
• 相場のある取引(ただし定期売買ではないとされたものもある)
• 船積期間の定めのある物品の売買
iii. 特約による定期売買(相対的定期行為)

単に当事者が履行期厳守の約束をしただけでは定期売買に
はならない
〔例〕
• 特飲街開発目的で安価に譲渡した土地の売買代金の支払い(売
主がいつまでも安価な土地の提供に縛られるのは不本意不合
理)(最判S44.8.29百-50)
3. 履行期の徒過
 単に履行期を経過しても債務の履行がないことで足りる
=債務者の「履行遅滞」は要件ではない
 債務者の帰責性は不要(債権者を保護する規定だから。
最判S44.8.29百-50)
 同時履行の抗弁権が付着している場合であっても要件
を充足する
 債権者が反対給付の履行の提供を行ったか否かを問わ
ない
III. 効果
 買主が直ちに履行を請求しない限り売買は当然に解除
(無催告の解除権が生じる民法と対比)
買主の検査・通知義務
I. 趣旨
 瑕疵担保責任(民570,565)および不完全履行の責任の
特則
①
②
③
④
善良な売主の保護 ⇒売主悪意の場合には一律に適用なし
買主の投機防止
商人のプロとしての瑕疵発見能力への期待
法律関係の早期確定(特に6か月の要件)
II. 基本的なフロー
 「直ちに発見できる瑕疵」か「直ちに発見することができ
ない瑕疵」かで処理が異なる
 前者の場合には検査・通知懈怠で救済手段が失われ、
後者では、引渡後6ヶ月経過で救済が失われる
III. 要件
1. 直ちに発見できる瑕疵の場合
① 商人間の売買であること
② 買主が受取後遅滞なく検査をしない、または検査をして瑕疵
を発見したが直ちに売主に通知しない
③ 売主に悪意がない
2. 直ちに発見でない瑕疵の場合
① 商人間の売買であること
② 買主が受取後6か月以内に瑕疵を発見できない、または受
取後6か月以内に瑕疵を発見したが直ちに売主に通知しな
い
③ 売主に悪意がない
– 検査・通知のフローに注意
» 通常の場合 ①受取後遅滞なく検査 →②瑕疵発見 →
③発見後直ちに通知
» 「直ちに発見」できない瑕疵の場合 (①受取後遅滞なく
検査 →②瑕疵発見できず) →③受取後6か月以内に瑕
疵発見 →④発見後直ちに通知
• 検査・通知のフローに注意
 通常の場合 ①受取後遅滞なく検査 →②瑕疵発見 →③発
見後直ちに通知
 「直ちに発見できない」瑕疵の場合 (①受取後遅滞なく検査
→②瑕疵発見できず) →③受取後6か月以内に瑕疵発見 →
④発見後直ちに通知
※直ちに発見できない瑕疵の場合には、遅滞なき検査を懈怠し
ていてもかまわない(検査の懈怠と瑕疵の発見の遅れに因果関
係がない)
検査・通知義務のフロー
NO
直ちに発
見できる
瑕疵か?
YES
遅滞なく適
切に検査
したか?
遅滞なく適
切に検査
したか?
6ヶ月以内
に瑕疵を発
見したか?
瑕疵発見
直ちに売
主に通知
したか?
直ちに売
主に通知
したか?
民法の原則
に従う
救済が
失われる
民法の原則
に従う
21
IV. 要件にかかる論点
1. 本条の適用対象
※債権法改正によって解消される論点
i.
特定物に限定されるか否か
a.
b.
特定物の売買に限る(少数説)
※本条を瑕疵担保責任の特則と解し、かつ、いわゆる「特定物
のドグマ」による説明の立場をとった場合
特定物・不特定物を問わず適用がある(判例〔最判S35.12.2民
集14-13-2893百-51〕・多数説)
※瑕疵担保責任に限らず完全履行請求についても本条が適用
される(最判S47.1.25判時662-85百-52)
ii. 瑕疵担保責任に限られるか債務不履行責任を含むか
 上掲最判S35.12.2は商法526条を債務不履行責任にも適用
があるものと解していると理解されている
 不特定物については不完全履行が問題になるが、本条が不
特定物にも適用があると解しつつ完全履行請求を対象外と
することは適切ではないだろう
2. 「瑕疵」の意義
i.
瑕疵
 本条における「瑕疵」は物の瑕疵をいい、権利の瑕疵を含まな
い(通説)。隠れた瑕疵である必要があるのか(明らかな瑕疵
は含まないのか)については争いがある
ii. 「直ちに発見することができない瑕疵」
 民570の「隠れた瑕疵」とは意味が異なる。「隠れた瑕疵」は検
査を前提とせずに買主が発見できない瑕疵であり、「直ちに発
見できない瑕疵」は買主が合理的な検査を行っても発見でき
ない瑕疵
※「直ちに発見することができない数量不足」は観念しない(常に
に直ちに発見できると考える)のが多数説
3. 検査の時期と方法
i.
検査の時期
 原則として買主の受取り後遅滞なく検査すべき
 第三者への転売が予定されている場合には、売主の了解があ
れば、第三者到着後遅滞なく検査を行えば足りる(売主の了解
を不要とする説あり)
※本来「受取り」と「受領」は区別される。受取りは単なる事実として
の売主から買主への占有移転の意味であり、受領は、買主が目
的物が契約条件に合致するか否かを検査した後にそれを受け入
れる意思的行為。H17改正で「受取」が「受領」に書換え
ii.
検査の方法
検査は当該目的物を取引する商人として、客観的に合理的な注意
を払って、相当と認められる方法を用いて行う
〔例〕
• 宝石や貴金属は全量検査
• 穀物は抜き取り検査
• 機械は試運転
4. 通知
i.
「直ちに」の意義

可及的速やかに、との意味であり、正常な取引慣行に照らして
遅滞なく通知を発すればよい
※通知は発信主義であり、買主は着否の危険を負わない
ii. 通知内容


瑕疵の種類と大体の範囲など、売主が瑕疵の内容を了知しう
る程度の内容を含まなくてはならない(規定の趣旨)
買主の対応(解除か損害賠償か等)の通知は不要
iii. 検査を懈怠した場合の通知
※検査を怠り(不適切な検査を行い)、適当な通知を送ったらたまた
ま本当に瑕疵があった場合
 通知に合致する瑕疵・数量不足がある限り規定の目的は達せら
れるから、買主の救済は失われないと解すべき
V. 効果
1. 基本的な効果
i.
検査・通知義務に違反した場合、直ちに発見できな
い瑕疵につき引渡後6ヶ月経過の場合

買主は売主に対するすべての救済手段を失う
ii. 検査・通知義務を履行した場合、直ちに発見できな
い瑕疵を引渡後6ヶ月以内に発見し、通知を行った
場合

買主は、民法の原則に立ち戻って売主に対して解除、損害
賠償等を行える

民法で認められていない救済(たとえば、物の瑕疵につい
ての代金減額請求権)を認める趣旨ではない(最判
H4.10.20百-53)
2. 特約と商法526条
i.
品質保証特約/瑕疵担保特約の意義

商取引においては、契約において売主が品質を保証すること
が多い

売主の「品質保証」が、買主の検査・通知義務や6ヶ月での失
権を排除するか否について争われることも多い
※商526は任意規定なので特約で排除可能

「品質保証」の意義や内容は目的物や取引形態によっても千
差万別なのであり難しい
ii. 具体的な事例

不動産売買における土壌汚染等の場面では、品質保証条項
や瑕疵担保条項を商526を排除する規定と解する
※買主側の損害が大きい一方で、瑕疵の迅速な発見が困難

有期の品質保証契約(いわゆる「保証書」)については、「保証
書」が保証するのは後発的な瑕疵であり、引渡時点での瑕疵
は保証の対象ではないと解し、検査・通知義務を免除する趣
旨ではないとする傾向
買主の保管・供託義務
1. 趣旨

売主の便宜を保護
2. 要件
① 商人間の売買であること(526条)
② 買主が526条の義務を尽くした結果の解除(商527)、目的物の
品物違い、または数量超過(商528)
③ 売主・買主の営業所が同一市町村内に存在しない
3. 効果
① 通常の場合は買主は目的物を保管・供託
② 目的物に滅失・損傷のおそれがあるときは裁判所の許可を得
て競売し、競売代金を保管・供託
4. 留意点
 競売の通知は発信主義
 当事者の営業所が同一市町村内の場合は適用なし