甲状腺機能低下症の治療は - すみれ甲状腺グループ プレゼンテーション

日本医薬品卸勤務薬剤師会大阪府支部研修会
会場:エルおおさか(大阪府立労働センター) 南館5階南ホール
2014年2月20日
すみれ甲状腺グループ
浜田昇
通常、医師を対象にして講演するときは、
以下のような内容で話をしています
1.
2.
3.
4.
一般外来で甲状腺疾患を見逃さないように
甲状腺疾患を疑った時のアプローチ
甲状腺疾患の鑑別診断の進め方
治療の進め方(薬物治療、手術治療、放射線治療)
1.
2.
3.
4.
一般外来で甲状腺疾患を見逃さないように
甲状腺疾患を疑った時のアプローチ
甲状腺疾患の鑑別診断の進め方
治療の進め方(薬物治療、手術治療、放射線治療)
1, 2, 3については、
直接の必要はないので
薬物治療の進め方が中心になるのは間違いない、と思います。
その中でも、
 医師や患者からの問い合わせに答えるための知識
 患者の服薬指導時における処方の説明に必要な知識
 医師が処方するときのアドバイスに必要な知識
ではないでしょうか
甲状腺疾患の治療に使う薬について、医療機関から
 製薬会社にどのような問い合わせが来るのか
を聞いてみました
それを参考に
 甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症の薬物治療
において、薬剤師が必要な知識についてお話します。

その前に、甲状腺の基礎知識についてすこし復習し
ておきたいと思います
どのあたり
でしょうか?
目印が
あるのです
甲状軟骨
甲状軟骨の突起したところは、
俗に喉仏(のどぼとけ)と
言われているところです
輪状軟骨
気管
正常の甲状腺は
小さく軟らかくて
触れません
触れると異状です
甲状軟骨
喉仏
蝶が羽を広げて
気管を抱くような
形で
くっついています
輪状軟骨
大きさは、
10-15ml
甲状腺
気管
甲状腺ホルモンを作って
血中に分泌して、体の成長や代謝を調節しています
甲状腺ホルモンについて、少し説明します
甲状腺ホルモンには、T3とT4があります
なぜ、T3とT4の二つあるの?
• T4はプロホルモン、T3が活性型ホルモンです
T4だけで、治療しても
T3も正常になる
甲状腺からは、T3もT4も分泌されるの?
• 甲状腺からは、主にT4が分泌されて肝臓や腎臓でT3に変わっ
て作用していくと考えられています
• 血中のT4はすべて甲状腺から分泌されたものですが、血中の
T3の80%は末梢で作られたものです ということで、甲状腺機能を
見るのに遊離型ホルモン
(FT3, FT4)を測定します
T3, T4は血液中で、どんな状態で存在しているのか?
• 血液中のT3,T4のほとんどは、蛋白と結合して存在していて、ごく微量
の遊離型ホルモンが作用します
甲状腺ホルモンの調節は、脳下垂体で行われています
甲状腺ホルモンが正
常かどうか
監督しているところ
サーモスタットのセン
サーのようなもの
甲状腺ホルモン
が不足していると、
甲状腺に頑張れ
という指令を出し
ます
下垂体
TSH
(甲状腺刺激ホルモン)
甲状腺
T4、T3
甲状腺ホルモンが
少しでも不足していると
TSHは高くなりますし
少しでも過剰になっていると
TSHは低くなります
甲状腺機能が正常かどう
か見るのには
FT3, FT4を測定するよりも
TSHでみたほうが感度が
高い
甲状腺ホルモン(T3,T4)の作用機序は
受容体に結合すると、
遺伝子が転写され、
細胞
酵素などのタンパク質が
作られる
T3
酵素
核
それが代謝を調節するこ
とによって作用がでます
T3受容体
甲状腺ホルモンは
細胞の核にあるT3受容体に
結合して作用します
甲状腺ホルモンが過剰になると
新陳代謝が亢進し
不足すると
新陳代謝が低下します
過剰
不足
甲状腺ホルモンが高くなる疾患は
全て薬物治療の対象か?
甲状腺ホルモンが過剰になる疾患
甲状腺機能亢進症
・ バセドウ病
・ 機能性結節性甲状腺腫
・ TSH産生腫瘍
・下垂体型甲状腺ホルモン不応症
・ 胞状奇胎、絨毛上皮腫
・ 妊娠甲状腺中症
・ 機能性悪性腫瘍
・ 非自己免疫性常染色体優性甲状腺 機能亢進症
・卵巣甲状腺腫
破壊性甲状腺中毒症
・ 無痛性甲状炎
・ 亜急性甲状炎
・ 薬剤性甲状腺炎、甲状腺腫瘍の梗塞、
放射性甲状腺炎
その他; 医原性甲状腺中毒症
血液中の甲状腺ホルモンが過剰に
なるのは、大きく分けて
ホルモンの合成
が亢進して
分泌が増える
炎症で破壊されて漏れて出てくる
破壊性甲状腺中
毒症
無痛性甲状腺炎、
亜急性甲状腺炎
薬物治療の対象になる疾患はバセドウ病です
この状態を
甲状腺機能亢進症と
言います
その代表的な疾患が
バセドウ病で、
バセドウ病はTSH受容
体抗体(TRAb)が甲状
腺刺激するために機能
が亢進する疾患です
まず診断が大事なのですが、
 血液中の甲状腺ホルモンが高値ということだけで、抗甲状腺
薬治療が開始されていることがあります。
 無痛性甲状腺炎に間違って処方されることがよくあります。
おかしな治療経過を見たとき
 例えば、薬が効きすぎたとかいう場合
 診断が間違っていないか?
ということも考えていただきたいと思います。
抗甲状腺薬は、甲状腺ホルモンの合成を抑制して、
甲状腺機能を正常にコントロールする薬ですが、
多くの患者が、この治療で寛解します。
メルカゾール
プロパジール(チウラジール)
が使われます
バセドウ病に対する抗甲状腺薬治療の典型的な経過
1-2年間治療すると、約半数の方は、
抗甲状腺薬だけで治ってしまいます。
メルカゾール
バセドウ病が寛解する機序は?
甲状腺機能を正常にすることによって
起こると考えられています
FT4 ↑ ●
抗甲状腺薬治療に関しては、
非常に多くの問い合わせがあります
TSH受容体抗体:
TRAb
正常範囲
0
3
6
12
18
治療開始後の月数
24
抗甲状腺薬について問い合わせが多いもの
メルカゾール、プロパジールの使い分けは?
投与回数は? 1日1回でもOK?
副作用の見方は?
治療効果はいつご
ろから出てくるか
FT4 ↑ ●
薬はいつまで続け
るのか、いつ中止
すれば良いのか
TRAb
正常範囲
0
3
6
12
治療開始後の月数
特殊なものとして
18
24
甲状腺ホルモンとの併用について
妊婦、授乳婦への投与について
抗甲状腺薬治療の進め方
MMIとPTUの効果、副作用を比較してみました
メルカゾールは、MMI
プロパジール、チウラジールは、PTU
で表現します
対象

未治療バセドウ病患者 396名
(再燃、妊婦、小児は含めない)
介入
ランダマイズ化割付
 MMI 15 mg, 分1
 MMI 30 mg, 分1or 分2
 PTU 300 mg, 分3
Comparison of Methimazole and Propylthiouracil in Patients with Hyperthyroidism
Caused by Graves’ Disease Hirotoshi Nakamura, et al. and Working Group of
the Japan Thyroid Association for the Guideline of the Treatment of Graves’ Disease*
J Clin Endocrinol Metab 92:2157–2162, 2007
MMI 30mg/
日の方が
MMI15mg
PTU 300mg
より有意に早く
正常化した
MMI 15mg/日
MMI 30mg/日
PTU 300mg/日
いずれでも
ほぼ同等の効果
が得られた
PTUがMMIより明らか
に副作用の頻度が高い
皮疹
なし
肝障害 白血球減少
PTU 300mg
N=104
系列 1
系列 2
MMI 30mg
系列 3
N=130
系列 4
系列 5
MMI 15mg
N=137
0%
20%
40%
60%
80%
MMIでは
15mg/日の
ほうが副作
用は少ない
100%
肝障害;AST, ALTが基準値の二倍以上
白血球減少;1000/μl以下
PTUよりMMIのほうが、
 効果が強く、副作用は少ない
甲状腺機能亢進が重症でなければ、
(FT4値が7ng/dlより低い場合)

MMI 15㎎で良い

2009年、米国内分泌学会、FDAなどから、
「Propylthiouracil(PTU)による重篤肝障害に関する警告」
が相次いで出された

重篤肝障害の頻度、小児1人/1000人、成人1人/10000人
米国甲状腺学会(2011)でも、日本甲状腺学会でも

バセドウ病の抗甲状腺薬治療の第一選択はMMIとさ
れた


メルカゾール、1日3錠、分1で始める*
重症(FT4値が7ng/dl以上)の場合は、6錠/日、分2
以下の場合はプロパジール(チウラジール)で治療する
1.妊娠のfirst trimester
2.MMIで副作用がでたとき(重篤でない)で、手術、RIが選択肢
にない場合
3.生命にかかわる重症の中毒症のとき

PTUはT4からT3への転換を抑える作用を持つという理由
MMI, PTUの治療効果の比較研究の結果からみると
治療開始後、4週間、8週間、12週間で
甲状腺機能が正常になる人の割合は?
4週間後
8週間後
12週間後
MMI15mg/日で
治療する
MMI30mg/日で
治療する
FT4<7ng/dl(未満)
FT47nag/dl(以上)
甲状腺機能が正常化した人の%
40%
40%
80%
65%
90%
85%
1か月位すると約半数の人が正常になります
3ヶ月飲むとほとんどの人は正常になるでしょう
MMI3錠、分3やPTU3錠、分1で処方されている
ことがあるが、問題はないか?
血中の半減期をみますと
MMI 30mg, PTU 300mg 経口投与後の血中濃度の推移
MMI
PTU
半減期は
6時間
半減期は
75分
経口投与後の甲状腺内のMMI濃度
MMI投与後の時間
MMI10mg投与 3-6時間後で
甲状腺内の濃度は
血中濃度の5倍
MMI10mg投与 17-20時間後で
甲状腺内の濃度は
血中濃度の60倍
MMIの甲状腺内の濃度は
• 血中濃度に比較して非
常に高く
• しかも、20時間後でも下
がらない
実際にはCMIが投与されている
CMIは、経口投与後直ちにMMI
に転換されて効力を発揮する
Jansson R;JCEM 57:129-132,1983
MMIはどのくらいの時間
効いているのか
放 100
出
さ 80
れ 60
た
放 40
射 20
性
ヨ 0
ー
ド
(
%
)
Perchlorate discharge test
• 123Iを静注後30分で甲状腺摂取率を
測定し、すぐにパークロレートを静注、
• 30分後に甲状腺摂取率を測定する。
• 有機化されていないヨードは放出され
るので、放出された123Iを測定する
と、抑制作用が分かる
MMI 5mg
MMI 20mg
2.2 時間 5.9 時間 13.4 時 25.1 時
後
後
間後
間後
MMI服用後の時間
甲状腺内濃度の推移
と矛盾しているが
MMI 20mgでは
24時間後もある程度効い
ている、という結果

MMIの血中の半減期は6時間と長くないが、甲状腺
内に濃縮されて、24時間後でも効果はありそう

PTUも甲状腺内には濃縮されるようであるが、詳細
はわかっていない

では、実際の患者ではどうなのか?良くなる
PTU3錠 分3と分2の比較
R.N. 51歳 女性 バセドウ病
PTU 3錠、分3 でよく効いている
FT3
FT4
TSH
TRAb
PTU
PTU3T分3で
治療している
2011
6/7
9/6
12/6
1.63
<0.01
1.33
<0.01
0.45
0.016
11.8
>40
>40
3T, 分3
3T, 分3
3T, 分2
(2,0,1)
そこで、PTU3錠、
分2にすると
PTUでは、同じ量を
飲んでいても、
分3から、分2にすると
効果が弱くなる
2012
3/6
5.17
1.18
<0.01
3T, 分3
FT3,FT4
が高く
なった
PTU6T 分2と 分3の比較、およびMMI分1の比較
K.K. 44歳 女性バセドウ病
PTU 6T分2で
は、
効いていない
FT3
FT4
TSH
TRAb
PTU
MMI
2010 12/8
2011 4/6
6/1
7/1
4.65
3.04
-
1.17
1.89
1.12
0.96
0.137
<0.01
<0.01
-
2.8
8.2
6 錠、分2
6錠、分3
PTU 6T, 分3
にした
2 錠、分1 1.5錠、分1
PTU 6T分3にして
よく効いた
妊娠をあきらめて
MMI2T, 分1に変更
PTUは分3でない
と効かないのに
MMIは分1でも
よく効いている
MMI

初期投与から、分1で良い
質問;MMIを1.5錠、0.5錠にして欲しいと医師から指示される
ことがあるが、どうか?
 1錠/日と2錠/日を交互に投与、隔日に1錠投与でOK
PTU



分1では、効果が弱い
機能亢進時には、分3にする
バセドウ病の活動性が落ちてきたら、1-2錠を分1で
投与してOKである
薬を飲み始めてから体調も良い
まだ薬を飲まないといけないのか?
どのくらい飲めば、寛解しやすいか?
中止しても良いのはどんな状態か?
方法
 患者をあらかじめ決められた投与期間群に
ランダムに割り付けて

決められた期間服薬した後に患者の状態に
かかわらず、投薬を中止してその後の経過を
観察する
60
再 50
発 40
率
(
% 30
) 20
10
0
P<0.05
6
M
18
M
58 38
% %
6ヶ月に比較して、18ヶ月間では
寛解率は上がる
6ヶ月以上、治療したほうが
良いことが分かります
Allannic
1990
ATD後の観察期間 2年
P<0.05
60
50
6
10
少しは良くなるが、有意な寛解率の上昇
は見られなかった
1.5年以上治療してもそれほど寛解率
は上がらない
M
再
発 40
率
30
(
%
) 20
42ヶ月まで治療して治療成績を見てみると
18
M
NS
18
M
42
M
58 38
%
%
36 29
%
%
0
Allannic
1990
Maugendre et al
1999




治療期間が1.5年を越えても寛解率が高まるエビデンス
はない
であれば、1.5年飲んで中止しても良いのか?
しかし、それでは、再発する人が半分位いる
できれば寛解することが予測されるものに中止したい
バセドウ病の活動性がなくなっていることが分かれば良いが、そ
の判断が難しい

これまでバセドウ病の活動性を判断する方法が検討されてき
たが確実なものがない、ということで

バセドウ病薬物治療ガイドライン委員会では、現時点で実際
的な「中止の目安」を作りました。



バセドウ病が寛解しているかどうかを正確に判断する方法はま
だ見つかっていない。
最少量の抗甲状腺薬(隔日に1錠)で一定期間、甲状腺機能が
正常であることを確かめた後に、投薬中止を検討することであ
る。
隔日1錠で、6ヶ月から1年間、甲状腺機能が正常にコントロー
ルされていれば、中止しても良い
抗甲状腺薬治療
副作用かどうかの判断の仕方、対応法
重大な副作用には,

無顆粒球症,重症肝障害,多発性関節炎,MPO-ANCA関
連血管炎症候群などがある.

特に無顆粒球症は、現在でも亡くなっている方がいて、注意
が必要です。
軽度な副作用としては,


皮疹(蕁麻疹),軽度肝障害,筋肉痛,関節痛,発熱などが
ある
皮疹、肝障害などの判断の仕方で薬は使えるのに、諦めて
しまわれることが多い
メルカゾールを始める前に

CBCと血液生化学検査を行う(副作用観察のため)
治療開始後3ヶ月間は

2週間ごとに、GOT, GPT, ALP, γ-GTP, T-Bil, 白血球、白
血球分画を検査し、副作用の有無をチェックする。
抗甲状腺薬を最初に処方するときは


必ず、副作用(かゆみ、発疹、肝障害、関節痛、無顆粒球症
など)について書いた文書を渡して、説明してください、
特に無顆粒球症については丁寧に
無顆粒球症を見逃さないためのカードと説明の仕方
• 無顆粒球症は、毎回の診察時の検査だけでは見逃すことがあるので、
咽頭痛、発熱などの風邪様の症状があれば、薬を中止して、連絡す
るか医療機関を受診するように
• 医療機関を受診したときは、必ず白血球と分画を測定してもらうように
表面:
裏面:
患者さんへのメッセージ
メルカゾール処方医以外の医師へのメッセージ
抗甲状腺薬と甲状腺ホルモンが
一緒に処方されている
間違っていないのか?
通常は、
しかし、バセドウ病の活動性が強かったり変動したりする
時は、甲状腺機能を安定させるのが難しい場合がある
MMIで甲状腺ホルモンの
合成を抑えて
TRAb
刺激
ホルモン
産生亢進
甲状腺から出てくるホルモン量を調度良い
レベルにする
血中FT4の正常範囲
このように大量のMMIを飲んで
甲状腺から出るホルモンを少なくしておいて
甲状腺ホルモンを補えば、甲状腺機能は安定する
大量のMMIを投与する
血中FT4の正常範囲
TRAb
刺激
ホルモン産生を
完全に抑制
甲状腺ホルモンが低下してしまうが、
こうしておいて、足らない分の
甲状腺ホルモンを飲む
正常

この治療法は、甲状腺機能が正常になっても抗甲状腺薬
を減量しないで大量使い続けることから、抗甲状腺薬の免
疫抑制作用によって、これまで寛解率を上げると考えられ
て行われてきた経緯があるが,現在は否定的である.

したがって,この治療法は,甲状腺機能を安定させ,通院
回数を減らし,定期検査の負担を軽減するためのものと
考えてよい.
抗甲状腺薬単独で甲状腺機能をコントロールするのが
難しい場合



TSH受容体抗体が高値で病勢が強く変化しやすい症例が多い
特に、甲状腺腫が大きくFT4を正常にコントロールするとFT3は
高値を持続し,FT3の正常化を目指して抗甲状腺薬を増量する
とFT4が低下しTSHが上昇してくる例(T3優位型)は適応であ
る
もちろん、MMIが効きすぎたときにも使われる
T3優位型のバセドウ病
•
•
•
•
•
S.I. 32歳、バセドウ病、女性
巨大な甲状腺腫195gをもつ重症例、MMI 8錠/日で治療を開始した。
よく効いていてFT4は、低値になっている、FT3は高値のままである
T3優位型という、このまま続けるとどうなるか?減らすと?
続けるとTSHが高くなり甲状腺が大きくなる、減らすとT3が高くなる
そこで、MMIは8錠/日のままで、L-T4 75μgを加えた
2005
3月9日
3月
22日
4月
12日
5月
17日
7月
12日
FT3 (2.2-4.1)
FT4 (0.8-1.9)
19.0
4.48
10.2
2.6
5.56
0.69
2.88
0.90
2.29
0.82
TSH
<0.01
TRAb
MMI
L-T4
22.3
8T
<0.01 1.46
8T
8T
75μg
8T
75
8T
75
薬を飲みながらでも子供は作れますか?
胎児の甲状腺機能は低下しませんか?
奇形児は生まれませんか?
抗甲状腺薬投与中の母と胎児の甲状腺の関係
TSH リセプター
母甲状腺
T3, T4↑
TSH受容体
抗体
母体が抗甲状腺薬を内服し
ていることは好都合で、薬は
胎盤を通過して
胎児の甲状腺に働き、胎児
が甲状腺機能亢進症になら
ないように抑えてくれます。
抗甲状腺薬
児甲状腺
TSH受容体抗体は
胎盤を通過して、
胎児の甲状腺も
刺激されます
バセドウ病患者における母親と胎児のFT4の相関を見ると
抗甲状腺薬を飲
んでいてもいなく
ても
FT4濃度は母子
で相関します
胎
児
母親
胎児のほうが効
きやすい
MMIとPTUで差がない

胎児の甲状腺機能に関しては、妊娠中は問題はない

薬は胎児のほうが効きやすいので、妊娠中は母親
の甲状腺機能は正常の高めにコントロールしておく




一般的な先天奇形については、妊娠中に抗甲状腺薬を内服
してもその頻度は健常妊婦と差はないことが、報告されてい
た。
しかし、2000年頃から、メルカゾールを妊娠初期に内服した
方の子どもに後鼻孔閉鎖、食道閉鎖、臍帯ヘルニア、臍腸管
遺残、頭皮欠損などの希な奇形が見られることが報告される
ようになった。
これらの特殊な奇形は、妊娠初期にメルカゾールを6錠服用
していた112人を調べた調査で、1例も見られていないので、
メルカゾールが関係するとしてもそれだけでは起こらない。
しかし、通常は3千~2万人に一人くらいしか見られない稀な
奇形が、メルカゾールを内服していた方の子どもに見られたと
いうことで、メルカゾールを内服していると頻度が上がる可能
性があると考えられてきた。

最近我が国で大規模な調査が行われた。
対象は、
バセドウ病患者で妊娠初期に



1,231名
プロパジール(チウラジール)を服用した 1,399名
抗甲状腺薬を服用していなかった
1,906名
メルカゾールを服用した
 一般的に見られる奇形の頻度は、3群で差はなかった
(バセドウ病以外の方を含めた92,256名を対象にした全国調査の結果の2.1%と同等)。


MMI内服群では、MMI関連奇形が1231例中22例(1.8%)
に見られた。
MMI関連奇形は、PTU内服群、無内服群薬には見られなか
った。
%
内訳は、
頭皮欠損
臍帯ヘルニア
臍腸管異常
食道閉鎖
食道狭窄
7例
6例
7例
1例
1例
5
4
3
1.8
MMI関連奇形
一般に見られる
奇形
2
1
2.1
1.9
2.2
投薬なし
PTU
MMI
0
頭皮欠損
Aplasia cutis

メルカゾールを妊娠初期に服用していると、その児にメル
カゾールに関連した奇形の生じる可能性はある

頻度は2%程度で、そのほとんどが臍(へそ)に関係する奇
形か、頭皮の一部分が欠損するものである

MMI関連奇形は、妊娠4週から9週の終わりまでMMIを休
薬すればほとんど回避できる
妊娠を希望するバセドウ病患者に対しては
 あらかじめ、PTUに変更して治療しておくか


MMI少量でコントロールできるようであれば、妊娠初期MMIを
中止する方法をとる
甲状腺機能のコントロールにMMIが一日2錠以上必要な患者
では、手術治療、アイソトープ治療をした後に妊娠したほうが良
い
どのように説明すれば良いか?
① PTU内服中に妊娠した場合
 そのままプロパジールで治療を続けます。
② MMI内服中に妊娠された場合
 MMIと関連する奇形の頻度は2%程度で、そのほとんど
は手術によって良くなるもので、中絶そのものにもリスク
があるので、中絶をこちらから勧めるということはありま
せん
 MMIと奇形に関して、現在分かっているすべての情報を
説明して、妊娠を継続するかどうか決めていただく。
薬を飲んでいるが、
出産後授乳して良いですか?
とよく聞かれます
PTU 400mg, MMI 40mg 経口投与後の血清中、母乳中の濃度
MMI
PTU
血清
母乳
血清
母乳
母乳中濃度は血清中と同じである
母乳中に10分の1くらいしか出ない
したがって、授乳中はPTUが良いとされている。
では、PTUは、何錠使っても良いのか?MMIは使えないのか?
PTU, MMIを継続服用して、すべて母乳で哺育した小児
の甲状腺機能を調べた成績から(データは省略),
日本甲状腺学会のガイドラインでは
 300mg/日以下のPTU
 10mg/日以下のMMI
であれば, 全て母乳で哺育しても十分安全であり,乳児の甲状
腺機能を検査する必要はないと、されている。
時間の関係で、
甲状腺機能低下症にうつらせていただきます。
ちょっと休憩
甲状腺ホルモンが不足する疾患は
すべて薬物治療の対象か?
甲状腺ホルモンが不足する疾患
原発性甲状腺機能低下症
• 橋本病
• 萎縮性甲状腺炎
• 医原性甲状腺機能低下症
• アミロイドシス、強皮症
• 先天性疾患
二次性甲状腺機能低下症
三次性甲状腺機能低下症
末梢型甲状腺機能低下症
• 一時的な甲状腺機能低下症
ヨウ素摂取の推奨量は、1日 0.15 mg
昆布の佃煮5g中のヨウ素量は、10mg
• 手術や放射線によって甲状
腺が破壊されて、甲状腺の働
きが悪くなる医原性甲状腺機
能低下症を場合を除けば、ほ
とんどは橋本病によるもの
• ヨードの過剰摂取(根昆布、
イソジンガーグル)による機
能低下症など一過性で治ってし
まうものに注意
• 一過性でなければ、甲状腺機能
低下症の場合は、すべて薬物治
療の対象と考えて良い

甲状腺ホルモンを投与することによって、組織中の
甲状腺ホルモン濃度を正常化し,甲状腺ホルモン
不足によって生じている異常を元に戻すことにある
.
この目的のために、合成T4製剤が用いられる。
 なぜT3製剤は使われないのか
 なぜ乾燥甲状腺末は使われないのか
その理由は、
T4製剤のみで治療をしても体内でT3が産生
されて甲状腺機能は正常に保たれる
血液中のT4は
すべて甲状腺
から分泌され
たものである
が,
血 中
甲状腺
100%
T4
血中のT3は、甲状腺
から出るのは20%で
80%は末梢でT4から
転換してできたもの
20%
T3 (活性型)
80%
末梢組織
T4
T3
T3製剤だけでコントロールしようとすると、 少量を頻回に投与しな
ければ、血中濃度が機能亢進のレベルにまで上昇して危険
T3の血中濃度はT4
の100分の1
と低いが、1日に必要
なT3量は多い
甲状腺
血 中
100%
20%
T4
血中濃度
1日必要な 一日産生量
T4,T3量を
1度に投与
血中濃度は
すると、
1日必要量 ÷50
血中濃度
半減期
T3 (活性型)
10 µg /dl : 0.1 µg /dl = 100:1
90 µg
0.18 倍
7日
: 30 µg
:
:
=
6倍
1日
80%
末梢組織
T4
T3
3:1
T4の血中濃度は
変わらないが、T3
の血中濃度は正
常の6倍になる

合成T4製剤を少量から初めて、徐々に増やして、
適性投与量にもっていくということである。
では、薬剤師に必要な知識とは?
チラージンSについての問い合わせから考えてみますと
チラーヂンS
についての問合わせ
①相互作用に関する質問
•
•
•
•
•
ヨード含有食品・製剤との相互作用は
ヨード含有食品以外の食物との相互作用は
鉄剤、アルミニウム含有制酸剤との併用は
炭酸カルシウム含有製剤との併用は
鉄・アルミニウム・カルシウム以外の金属イ
オン含有製剤との併用は
②投与方法(治療)に関する質問
•
•
•
•
•
•
服用時期と服用回数は
抗甲状腺剤と併用することがあるか
T3とT4を併用することがあるか
甲状腺癌における甲状腺摘出後のホルモン
補充方法は
FT3、FT4は正常化したが、TSHの抑制が得
られない
検査のために、甲状腺ホルモン剤を中止す
ることがあるか
③製剤について
•
•
•
•
乾燥甲状腺、T4、T3の換算量は
チラーヂン末中のT3とT4の含有量は
副作用にはどのようなものがあるか
ヨードアレルギーに甲状腺ホルモン
剤を投与してよいか
④経口投与以外の投与方法
•
•
手術などで経口投与できない場合は
経口以外の投与方法は(その1 注
射剤・注腸剤)
• この中で、専門医の立場で薬
剤師の方にお話しておきたい
ものを選んでみました
1.
2.
3.
4.
5.
T4製剤の服用時期と飲み方
適正投与量について
T4に加えてT3も投与したほうが良いのか
T4補充量を変更していないのに、血中のTSH値
が高くなったりするのは?
妊娠したときの治療は
L-T4は何時飲めば良いか?
•
•
•
•
服薬を忘れないという点で、朝食後に処方されて
いることが多い
しかし,食事中の繊維や薬剤が吸収を阻害するこ
とがあるので常に一定の吸収を得るためには、空
腹時に服用しなければいけない。
L-T4は、朝食30-60分前、あるいは寝る前(夕食
後4時間)に水で飲む
吸収に影響を与える物質、薬品とは一緒に飲んで
はいけない
後で詳しく説明します
が、野菜ジュース
コーヒー
鉄剤、胃薬など
最初は、どのくらいの量から始めればいいか
これまでは、少量からゆっくりと増量して行くほうが安
全という考えで治療が進められていたが、


L-T4を飲んでも、血中濃度はそれほど上がらない
T4が直接作用するのではなくて、T3に変わってか
ら効いていく
ということから、それほど慎重でなくても良いというこ
とになってきた
若い成人の顕性甲状腺機能低下症の治療は、
 full replacement dosesで治療開始を考えても良い
50-60歳以上の顕性甲状腺機能低下症は、
 冠動脈疾患がない場合は、50μgから開始を考える
L-T4の投与量があっているかどうか
どのようにして決めればいいか

適正な甲状腺ホルモンの投与量とは,体のすべての組
織において甲状腺ホルモンの濃度が正常になる量とい
うことであろう.

組織中の甲状腺ホルモン濃度が正常であるかどうかを
正確に判定できる指標は、下垂体からのTSH分泌のみ
なので
血中TSH値が正常範囲に入る服用量を適正補充量とし
ている。


潜在性甲状腺機能低下症の頻度、すなわちFT4は基準値内
であるが、TSHが高値のものは
骨量が減少する可能性(閉経後の女
約20%である
性では特に注意)
心房細動の発症率が上がる(60歳以
上では2.8倍になる)

潜在性甲状腺機能亢進症の頻度、すなわちFT4は基準値内
であるが、TSHが低値のものは
約20%である
動脈硬化がすすむ可能性がある
(虚血性心疾患の頻度が上がる)
TSHを正常範囲にコントロールすることが大事である
しかし、心疾患を持つもの、後期高齢者では、TSHを
少し高めにコントロールする( TSH 5-7μU/mlを目標)
甲状腺が健常な場合、血液中のT3の80%は末梢組織でT4から作ら
れたものであるが、20%は甲状腺から分泌されたものです
T4製剤だけで治療をすると
甲状腺から分泌されているT3の分(20%)が不足する可能性がある
甲状腺
100%
血 中
T4
この分が不足する可
能性がある
補うべきか?
20%
T3 (活性型)
80%
末梢組織
T4
T3
組織中のT4, T3濃度を調べてみると
J Clin Endocrinol Metab 90: 4946–4954, 2005
(J Clin Endocrinol Metab 90: 4946–4954, 2005)
T4で治療
1.6μg/100 g bwt/day
T4+T3 で治療(1:0.2)
0.90μg/100 g bwt/day
0.20μg/100 g bwt/day
T4
T3
TSH
T4
T3
TSH
血中
⇑
正常
正常
正常
正常
正常
脳
⇑
⇑
正常
正常
下垂体
⇑
⇑
正常
正常
肝
⇑
正常
正常
正常
腎
⇑
正常
正常
正常
肺
⇑
⇓
正常
正常
心
正常
⇓
正常
正常
筋肉
⇑
⇑
正常
正常
T4だけで治療した場合は、すべての組織を正常にすることはできない
T3も投与すると全て正常にすることができる
Smith
Bunevicius
Walsh
Sawka
Clyde
Siegmund
Saravanan
EscobarMorreale
Appelhof
T4/T3量
可変
可変
可変
可変 可変
可変
可変
固定
可変
デザイン
交差
交差
交差
平行 平行
交差
平行
交差
平行
患者数
87
33
101
39
23
573
26
130
結果の
判定
甲状腺機能、QOL, Mood, Psycho
利点
なし
あり
なし
なし
なし
なし
なし
なし
なし
不快感
あり
なし
-
-
-
あり
なし
あり
あり
患者の
選択
T4
T4 +
T3
同じ
-
-
-
-
T4 +
T3
T4 +
T3
44
T4, T3併用治療は、最初 QOL, Mood, Psychoに効果があると報告されたが、
その後の研究ではそれは確認されなかった。
今のところは、併用治療のほうが良いとは言えない。
併用治療に明らかな利点があることが証明
されるまでは、L-T4単独が薬剤選択となる。
同じ量を飲んでいるのに不足することがある
何故か?
患者自身の甲状腺ホルモン分泌能の変化に
よってこのような状況が生じる可能性もあるが
多いのは、・・・
食後に薬をのんでいる場合、特に野菜ジュースや青汁などと
一緒に飲んでいることが多い
このような患者を見たら、

何時薬を飲んでいるかを聞いてください

食後に飲んでいるとしたら、繊維性のものを多くとっていな
いか、他の薬と一緒に飲んでいないか聞いてください

T4製剤以外にどんな薬を飲んでいるかを聞くことが大事
そして、

空腹時に薬をのむように指導してください(起床時か眠前)
甲状腺ホルモンの必要量に影響を与える状況、補助食品、
薬剤について説明します
甲状腺ホルモンの必要量に影響を与える状況及び補助食品
状況・補助食品
甲状腺ホルモンの
必要量
減少
高齢者
男性ホルモン治療
増加
妊娠
吸収不良をおこす消化管疾患
小腸粘膜疾患
腸が短い(小腸腸バイパス術)
胃酸分泌低下(慢性胃炎など)
胃切除後
吸収を抑制するもの
高食物繊維食品(野菜ジュース、ダイエット食品など)
コーヒー
甲状腺ホルモンの必要量に影響を与える薬剤
薬剤
甲状腺ホルモン
の必要量
増加
1)吸収を抑制する薬物
高脂血症治療薬
・コレスチラミン・コレスチミド(クエストラン・コレバイン)
貧血治療薬
・鉄剤(フェログラデュメット、スローフィー、テツクールS)
胃薬
・アルミニウム含有制酸剤:スクラルファートなど
(アルサルミン、マーロックス、コランチル、SM酸、キャベジン)など
・亜鉛含有制酸剤:ポラプレジンク(プロマック)
・プロトンポンプ阻害薬
腸疾患治療薬
・ポリカルボフィルカルシウム(コロネル)
骨粗鬆症治療薬
・グルコン酸カルシウム(カルチコール)
・ラロキシフェン(エビスタ)
腎疾患治療薬
・沈降炭酸カルシウム(カルタンなど)
・活性炭
・塩酸セベラマー(レナジェル、フォスブロック)
・ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(ケイキサレート)
抗菌薬
赤字は商品名
・シプロフロキサシン(シプロキサン)
甲状腺ホルモンの必要量に影響を与える薬剤、他
甲状腺ホルモンの必要量
増加
薬剤
2)代謝を促進する薬物
抗けいれん薬
・フェニトイン(アレビアチン、ヒダントール)
・カルバマゼピン(テグレトール)
・フェノバルビタール(フェノバール)
抗結核薬
・リファンピシン(リマクタン、リファジン)
3)T4→T3への代謝を減少させる薬物
抗不整脈薬
・アミオダロン(アンカロン)
4)甲状腺ホルモン結合蛋白を増加させる薬物
女性ホルモン剤
・エストロゲン(卵胞ホルモン)
選択的エストロゲンモジュレーター
・抗悪性腫瘍薬:タモキシフェン(ノルバデックス、タスオミン)
フルオロウラシル(5-FU)
・骨粗鬆症治療薬:ラロキシフェン(エビスタ)
機序不明
セルトラリン(ジェイゾロフト)
脱ヨード酵素の合成障害
セレニウム欠乏
肝硬変
赤字は商品名
甲状腺ホルモンの必要量に影響を与える状況、補助食品及び薬剤
高食物繊維食品: 野菜ジュース、青汁、ダイエット食品など
コーヒー
骨粗鬆症治療薬;ラロキシフェン
胃薬: アルサルミン、マーロックス、キャベジン、プロマックなど
貧血治療薬: フェロ・グラデュメットやフェロミアなどの鉄剤
青汁
甲状腺機能低下症で
• 75μg/日で甲状腺機能は正常にコントロールされていた患者
• 平成24年3月から100μg/日(起床時)に増量されているのにTSHが
上昇してきた、ということで当院受診
• 受診時、TSH値は、さらに上昇していた?
3-4ヶ月前から薬を
飲んで20分くらいして
青汁をのむようになった
L-T4(200μg)錠剤を水で飲んだとき、コーヒーで飲んだ後の
血中T4濃度の上昇(⊿T4)を見ますと
平均値*
(nmol/L)
ピーク値
(nmol/L)
ピークに達
する時間
(分)
AUC
(nmol/L・4
hours)
水で飲む
36.3±16.7
51.8±11.9
130±41
8696±1590
コーヒーで飲む
23.0±12.7
36.0±8.8
180±38
5592±1452
P<0.0001
P<0.05
P<0.05
P<0.05
36.2±16.1
52.0±8.5
125±44
8622±1481
NS
NS
NS
NS
水で飲んだあと
1時間後にコー
ヒーを飲む
コーヒーは、イタリアンスタイル(エスプレッソ)
*30, 60, 120, 180, 240分後の⊿T4の平均値
Altered Intestinal Absorption of L-Thyroxine Caused by Coffee
THYROID Volume 18, Number 3, 2008
プロトンポンプインヒビター(PPI)
慢性胃炎、胃切除後
甲状腺機能正常の多結節性甲状腺腫患者のTSH値を
0.2μU/ml以下に抑えるのに必要なL-T4の投与量
患者
数
TSH
FT4
μU/ml ng/ml
L-T4投与量
P値
μg/日
μg/kg/
日
平均
増加
量
%
0.12
1.48
±0.05 ±0.26
100
1.53
-
(86-100)
(1.40-1.62)
53
HP(+)
非萎縮性胃炎
0.11
1.53
±0.04 ±0.22
125
1.87
(112-125)
(1.78-2.03)
60
0.11
1.50
±0.06 ±0.24
125
1.95
(113-150)
(1.81-2.2)
対照患者
(胃疾患なし)
萎縮性胃炎
135
22
<0.001
27
<0.001
胃炎があると必要量は1.2-1.3倍に増える
ピロリ菌を除菌するとL-T4の必要量は少なくなる
甲状腺機能低下症、平成21年1月からL-T4 25μg/日で甲状腺機能
は正常に、コントロールされていた
ところが、平成23年4月に受診された時に、TSHが上昇していました
何かなかった?
2011年1月からパリエットを開始した。
4月の受診のあとパリエットは中止した
正常に戻っている
けいれん治療薬: アレビアチン、ヒダントール、
テグレトール、フェノバール
抗結核剤: リファンピシリン
リファン
ピシン
56歳女性
甲状腺機能正常の
橋本病患者
リファンピシンの例
リファンピシン
L-T4
L-T4
TSH
結核性リンパ節炎のために
リファンピシンを飲み
だしたらTSHが上昇した。
T4
T4を中止してもリファンピシン
を中止したらTSHは上がって
こない。
リファンピシンを再開すると
再びTSHの上昇が見られ
ている
リファンピシンを飲んでも、甲状腺が正常の人では異
常はでないが、橋本病では機能低下になることがあ
る、機能低下症のひとでは、L-T4の必要量が増える
吸収不良を起こす疾患;胃切除後、小腸疾患
妊娠
胃切除術後
M.M. 60歳 女性
橋本病 甲状腺機能低下症201209
2011
8/22
FT4値
TSH
L-T4投与
2011
9/13
2012
2/16
2012
5/17
2012
8/16
1.07
0.92
1.19
1.21
2.1
16.5↑
12.8↑
1.7
週に6回
100μg/日
週に4回
125μg/日 125μg/
日
125μg/日
週に1回
125μg/日
週に3回
胃の
100μg/日 亜全摘術
• L-T4で甲状腺機能は正常にコントロールされていた方です。
• 9月に胃癌のために胃の亜全摘術をうけました
• 5ヶ月後受診されたとき、L-T4は忘れずに服用されていましたが、TSH
が上昇していました
• 胃切除術をうけると甲状腺ホルモンの必要量は増える

妊娠と甲状腺機能低下症は、今最もホットなところです
その理由は、
 妊娠中のTSHの基準値が2.5μU/ml未満と非妊娠時と異な
ること
 TSHが2.5μU/mlを少し上回る程度のごく軽度の機能低下
症でも、妊娠の経過や、児のIQに影響が出る可能性がある
こと、などからです
しかし、今日はその話をする時間がありませんので
 甲状腺ホルモン補充療法中の患者さんの妊娠について話を
します
どうすれば良いかですが
P value by
ANOVA
妊娠週数
妊娠前
10
20
30
38
TSH
1.0
±1.14
4.2
±3.8
2.3
±3.2
1.3
±1.5
1.0
±0.9
0.002
FT4 index
8.8
±1.2
7.8
±1.8
8.9
±1.5
8.5
±1.7
8.5
±1.8
0.33
L-T4
投与量
妊娠前を
1.0とした
時
1.29
±0.25
1.48
±0.18
1.48
±0.15
1.47
±0.17
<0.001
TSHを正常に保つのに必要なL-T4量は
妊娠中 1.3-1.5倍に増える
N ENGL J MED 2004;351:241-9
L-T4の投与量を最初に増量した妊娠週
3.5
対象;11人の甲状腺機能低下症患者
TSHが5.0μU/mlを
超えた時に
増量を開始している
3
2.5
2
1.5
症例数
1
0.5
0
4
6
8
10
12
14
16
18
妊娠週
L-T4の増量を開始したのは、4.4から16週で、中央値8週



妊娠時には甲状腺ホルモン必要量が増加するので、妊
娠したら,すぐに受診するように指導する.
必要量の増加は早いものでは妊娠第4.4週で始まる
妊娠が確認され次第,直ちに内服T4量を1.3から1.5倍
に増量する.
妊娠中の甲状腺機能の管理目標値
 妊娠前期TSH 2.5μU/ml未満、妊娠中・後期TSH 3.0 μU/ml未満
妊娠を考えている女性については、
 妊娠の前からTSHが2.5mU/ml未満になるようにコントロールしておく
ことが大事である
最後に
患者さんに聞かれたときどのように答えれ
ば良いでしょう

市販薬の中にヨードが入っていないか、交感神経や副交感
神経を刺激する薬が入っていないかです。

ヨードは入っていても短期間であれば問題ありません。
イソジンガーグルなど

自律神経を刺激する薬は、甲状腺機能が正常であれば心配
はありません。
専門家と同じレベルの診
療が簡単にできるように
甲状腺の患者さんが持つ
あらゆる不安や疑問に答
えています