1.イントロダクション 経営学特講 経済学、どう使う 値上げで売り上げは増えるか どこまで赤字が増えたら撤退するか なぜ少子化が進んだのか なぜ先進国と途上国で生活水準に差があるのか 貿易自由化で豊かになるのか なぜ財政赤字に悩む国が多いのか 高齢者には所得支援それとも医療費補助? 儲かる株の投資法、会社の利益を増やす秘策・・・ 残念ながら、経済学の守備範囲ではない 1.イントロダクション 2 経済と経済学 日経新聞にあふれている「経済」 景気、円高、ユーロ危機、企業破綻、消費税・・・ 「マクロ経済」の事象 その時事的な「用語解説」≠経済学 家計や企業の行動原理を考える ミクロ経済学 「経済学」全体の基礎に 国全体の景気・失業・政策などを考える マクロ経済学 その背後にある「原理」「法則性」を追究 1.イントロダクション 3 文法としての経済学 思考のための「文法」 私は社会的な現象を「筋道を立てて」理解するた めの文法と考えています。言語の問題になぞらえ るならば、経済学は文法の学習であって、合理的、 非合理的双方の側面を持つ人間の行動、人間の 集合としての社会現象を、いかに一定の定理や 法則として理解するかということだと思います。 経済学者の猪木武徳氏 『経済セミナー』での「経済学とはどんな学問であるか」という インタービューに答えて。 (伊藤秀史『ひたすら読むエコノミクス』有斐閣(2012)より 1.イントロダクション 4 「知識」より「考え方」 経済学では出来合いの特効薬についての知識を貯め込 むことより、その発想・考え方について学ぶことの方がはる かに大切だ。 ジョン・メイナード・ケインズ ~吉川洋『ケインズ』ちくま新書より 重要なのは、一見すぐに役立ちそうな知識の習得ではなく、 「なぜ」という問いを突き詰めていくための首尾一貫した「も のの見方」を身につけること 伊藤秀史・一橋商学部教授 ~「商学部生への経済学のススメ」(ネットで読めます) →「問い」そのものへの答えを探すことよりも、経済学の 「思考法」への理解を深めるのが本講義の目的 1.イントロダクション 5 経済学のアプローチ 人間の行動の背後には何らかの「意図」 その目的を出来る限り達成しようする個人や企業 消費者なら満足度を最大化 企業なら費用を最小化し、収益を最大化する 多くの場合、「合理性」を仮定 そんなに単純?合理的? 「ベンチマーク」としての単純化 外れ方に規則性?→「行動経済学」 モデル化・抽象化 現実の複雑な問題を単純化 枝葉末節を取り除く。何が本質か あいまいさを取り除くため数学を使うことも多い 1.イントロダクション 6 トレードオフ 何かを得るためには何かを手放す必要 あちらを立てれば、こちらが立たず 二律背反 「自由な時間」「学士号」--両方は手に出来ず 1.イントロダクション 7 トレードオフ(2) 企業や国の選択でも 高マージンか、薄利多売か 高齢者福祉 vs 子ども・育児政策 国防予算 vs 福祉予算(大砲かバターか) 経済効率か格差是正か (パイの最大化か、パイの分け方か) 今投資するのか、様子見か ラーメンを食べるか、ハンバーガーを食べるか 何かを取ることは、何かを諦めること 1.イントロダクション 8 機会費用 あるものを獲得するために、放棄したもの(すべて) (例)大学で勉強する 学費、教科書代 食費、下宿代(すべてがそうか) (他には)・・・ 「何か」と比較した相対評価の概念 大学で学ぶこと ⇔ 車を買うこと ⇔ 使わずに貯金する ⇔ 子どもを持つこと ⇔ 1.イントロダクション 9 機会費用(2) 「フリーランチ」 機会費用がないこと 何かを犠牲にせずに何かを手に入れること フリーランチはあるか • 授業料を払わず、時間も犠牲にせず、スキルを高める • 子育て予算を増やすこと • 格差のない社会を作ること 1.イントロダクション 10 マンキューの「経済学の十大原理」 人々はどのように意思決定するのか 1. 2. 3. 4. 人々はトレードオフに直面している ある行動の費用は、それを選んだために放棄したものの価値である 合理的な人々は限界的な部分(追加的なプラス・マイナス)で考える 人々はさまざまなインセンティブ(誘因)に反応する 人々はどのように影響しあうのか 5. 交易(取引)はすべての人々をより豊かにする 6. 通常、市場は経済活動を組織する良策である 7. 政府は市場のもたらす成果を改善できることもある 経済は全体としてどのように動いているか 8. 一国の生活水準は、財・サービスの生産能力に依存している 9. 政府が紙幣を印刷しすぎると、物価が上昇する 10. 社会は、インフレ率と失業率の短期的トレードオフに直面している 1.イントロダクション 11 キーワード トレードオフ 機会費用 限界費用・限界便益 インセンティブ 1.イントロダクション 12 機会費用(考えてみよう) 1. 土曜日にアルバイトをしようと考えていたところ、友達から スキーに誘われた。スキーに行くことの本当の費用は何 か。土曜日に図書館で勉強しようと考えていた場合はどう か。 費用は金銭的に評価できるものだけに限らない 2. プロゴルファーの石川遼が、大学に進学することの機会 費用は何だろうか。 では、ドラフト1位指名選手が入団を辞退して1年浪人すること の機会費用は 大学入試で1年浪人することの機会費用は 1.イントロダクション 13 機会費用(考えてみよう)(2) 3. A社で、社長が新製品(サービス)を出せと言いだした。 イエスマンの部長は「5億円増収」の新規プロジェクト A社の売り上げは100億円。 同プロジェクトには、既存事業から10%の人員を動員 総残業代は増やすなと社長自身が言明 ① 新規プロジェクトは総売り上げの拡大につながるだろうか ② 既存事業に割いている人員には実は10%の余裕があった場合、 「機会費用」は存在するだろうか。 1.イントロダクション 14 お薦め図書(1) 柳川範之『元気と勇気が湧いてくる経済の考え方』 機会費用、サンクコスト、オプション価値、情報の 非対称性--。経済学の重要な概念を使いな がら、人生における「選択」の意味を考える。 著者は高校時代をブラジルで過ごし、慶應大学 経済学部を通信制で卒業。のち東大で博士号 を取得した。過去にとらわれすぎないこと、「選択 肢」を固定的に考えすぎないことなど説く。 (日経、1300円+税) 1.イントロダクション 15 限界費用・限界便益 大学の講義をすでに週2科目とった。 さらに「経済学基礎」をとるかどうか とると、自由な時間はさらに毎週▲(1.5時間+α) 先生次第では「α」が大きく・・・ でも厳しいと自分のためにもなるかも 費用対効果を比べて判断 朝、何時に起きるか 「あと5分」の誘惑 1.イントロダクション 16 限界費用・限界便益(2) 既存計画に対する微調整として判断 限界便益と限界費用を比較 コストパフォーマンス 限界的=marginal 日本語では「追加的」の方が近い 1.イントロダクション 17 人々はインセンティブに反応 1960年代の米国、「自動車は危ない」 シートベルト装備を義務づけ 義務づけで何が起きたか 効果(1)--事故が起きた時の死亡率が減った 効果(2)--事故件数が増加した • ドライバーの死亡者は変わらず • 歩行者の死亡者は増えた 義務づけは事故時の費用を低めた • スピードを上げたい誘因 (マンキュー第1章に解説) 1.イントロダクション 18 インセンティブ Q デフレで物価が上がる見込みがない時、自分の資産を現金 や普通預金のまま持つ意欲にはどんな影響があるだろうか。 インフレだとどうか。 Q 専業主婦がパートに出ている。年収が130万円以上になると 自ら社会保険料を納める義務が生じ、手取り所得が減る。こ の仕組みは、主婦の労働供給にどのような影響を与えるだろ うか。 Q 今の公的年金は、受給者の所得に応じて減額される仕組み になっている。これは65歳を過ぎても働き続けることの意欲 (インセンティブ)にどのような影響を与えるだろうか。 Q 消費税が引き上げられる直前、「エコポイント」の期限が切れ る前には、人々の消費行動にはどんな動きが現れるか。 1.イントロダクション 19 お薦め図書(2) スティーブン・レビット『やばい経済学』 7勝7敗で千秋楽を迎えた力士、生徒の学力テストの成績次第 で昇進・昇給が左右される先生、売値よりも出来高で実入りが変 わる不動産屋-- そんな「インセンティブ」に動かされる人々が密か にとった行動を、緻密な推理と統計分析であぶり 出す 将来のノーベル経済学賞がほぼ確実と言われる 著者によるミリオンセラー。(東洋経済、2100円) (「増補改訂版」でなくても十分、「超」がつく続編も) 1.イントロダクション 20 限界便益+インセンティブ サラリーマンS山氏はいつもセブンイレブンで買い物をする。 S山氏のひそかな楽しみは、電子マネー「ナナコ」につくポイント。S山氏 は出勤前に、飲み物と小腹が空いた時の菓子を調達する。精算すると、 たいてい298円とか、199円とかになる。298円だとポイントは2円しかもらえ ない。チロルチョコ(1個20円)を1つ買い足すと、「大台」を超えてポイント が3円になる。S氏はどう行動すべきだろうか。 1.イントロダクション 21 子どもを何人持つか 子どもを持つか、持つなら何人持つか。子どもを持つことの効用と費用の 比較で決まっていると考える(=モデル化) (小峰隆夫『人口負荷社会』日経プレミアシリーズ(第3章) 子どもを持つこと。そんなに計算ずくか 理想の子ども数を持たない理由 0 20 40 (回答比率、%、複数回答) 60 80 100 子育てや教育にお金がかかりすぎるから 育児の心理的・肉体的に耐えられないから 自分の仕事に差し支えるから 夫の家事・育児への協力が得られないから 家が狭いから 妻が 34歳以下 全体 子どもがのびのび育つ社会環境ではないから 高齢で生むのはいやだから 夫が望まないから 自分や夫婦の生活を大切にしたいから 健康上の理由から 欲しいけれどできないから 一番末の子が夫の定年退職までに成人してほしいから (資料)厚生労働省「第13回出生動向調査」 1.イントロダクション 22 機会費用と少子化 出産・育児にこれだけの「費用」 1000 年収(万円) 概念図 900 就業を継続した場合 800 700 出産・育児 再就職した場合 600 500 生涯の勤労所得の推計値 (万円) 400 就業を続けた場合 27,645 300 再就職したケース 17,709 4,913 パート・アルバイトで再就職 200 国民生活白書(2005年) 2003年の賃金構造調査を基に算定 再就職は子どもが6歳になった時点と想定 100 0 20 25 30 35 (出所)国民生活白書(2005年)をもとに再構成 1.イントロダクション 40 45 50 55 年齢(歳) 23 子どもを持つ費用と便益 教育 コスト 子育ての コスト 働き手 として 老後の 担い手 途上国 安い 安い 期待できる 期待できる 先進国 高い 高い 期待できない 期待できない 小峰隆夫氏の整理による 1.イントロダクション 24
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