Nox2は高脂肪食によって引き起こされる骨格筋のインスリン抵抗性を

Nox2 Mediates Skeletal Muscle Insulin Resistance
Induced by a High Fat Diet
J. Biol. Chem., 22 May ,2015
A. S. P. Figueiredo, A. B. Salmon, F. Bruno, F. Jimenez, H. G. Martinez, G. V.
Halade, S. S. Ahuja, R. A. Clark, R. A. DeFronzo, H. E. Abboud, and A. E.
Jamali
Nox2は高脂肪食によって引き起こされる骨格筋の
インスリン抵抗性を制御する。
2015/10/26
M1 眞野 僚
ROSとインスリンシグナルの関係
Trends in Pharmacological Sciences February 2011, Vol. 32, No. 284
Nox2,4について
細胞外
Nox2はNADPH oxidaseの酵素本体
普段はP22phoxとヘテロ二量体を形成しているが、こ
細胞質 のままでは酵素活性を持たない。
P67phox,P47phox,P40phox,Racからなる複合体が膜
移行し、Nox2の複合体と結合することで活性化す
る。
Nox4は恒常的に活性化している。
骨格筋には、Nox2、Nox4が発現している。
Basic Res Cardiol (2011) 106:735–747
背景と目的
・ROSの濃度上昇はインスリン抵抗性の発症に関わる(1)
・骨格筋には、ROSの産生に重要なNox2が発現している(2)
・筋収縮に必要な筋小胞体からのCa2+放出には、
Nox2由来のROSが関わる(3)
Nox2由来のROSがインスリン抵抗性の進行に関わるかどう
かについて検討を行った。
(1)Grodsky, G. M. et al, Endocr. Rev., 2002
(2)Cheng, G., Gene , 2001
(3) Aracena-Parks, P. et al, J. Biol. Chem, 2006
Nox2のノックアウトがマウスの体重に与える影響
1.Wild-type or Nox2-KOマウス(6週齢)に
通常食と高脂肪食を9か月自由摂食
2.脂肪量と除脂肪量を二重エネルギーX線吸
収法で測定した。
Nox2-KOマウスのほうが、Wild-typeより体重が低くなった。
脂肪量と除脂肪量は、食事、Nox2の有無による違いは見られなった
Nox2のノックアウトがマウスの体重に与える影響
Fig 1Cのグラフを体重に占める割合に換算したもの
Nox2のノックアウトが血糖値、インスリン濃度、
インスリン抵抗性に与える影響
1.Wild-type or Nox2-KOマウス(6週齢)に通常食と高脂肪食を3か月自由摂食
2.14時間絶食
3.血糖値
⇒colorimetric assay kitで測定
インスリン ⇒ELISAで定量
HOMA-IR⇒fasting serum insulin (ng/ml)fasting serum glucose (mM))/22.5
で算出
Nox2-KOマウスでは、高脂肪食によるインスリン抵抗性の
発症は抑制された。
Nox2のノックアウトがGTT、ITTの結果に与える影響
Nox2のノックアウ
トによって、高脂肪
食が引き起こすイ
ンスリン抵抗性は
現れなかった。
1.Wild-type or Nox2-KOマウス(6週齢)に通常食と高脂肪食を9か月自由摂食
2.14時間絶食
3.GTT⇒1.5 g/kgのグルコースを静脈注射
ITT⇒0.75 IU/kg インスリンを腹腔内注射
4.0,15,30,60,90分後の血糖値を測定
高脂肪食が骨格筋の組成に与える影響①
赤:細胞質
青:細胞核
1.Wild-type or Nox2-KOマウス(6週齢)に通常食と高脂肪食を3か月自由摂食
2.腓腹筋のパラフィン切片を作成し、H&E染色で観察
通常食において、Nox2-KOマウスの
筋管サイズが小さくなる傾向がある。
高脂肪食が骨格筋の組成に与える影響②
1.Wild-type or Nox2-KOマウス(6週齢)に通常食と高脂
肪食を3か月自由摂食
2.後ろ足の脂肪量と除脂肪量を二重エネルギーX線吸収法で
測定し、3か月間の増加量を計算
特に違いはなし。
高脂肪食が骨格筋の組成に与える影響③
濃い青:MHCⅠ
薄い青:MHCⅡa
MHC(Myosin Heavy Chain)
遅筋繊維(赤筋、MHCⅠからなる)
⇒ミトコンドリアを多く含み、持続的
な収縮が可能
速筋繊維(白筋、MHCⅡからなる)
⇒解糖系による瞬発的な収縮が可
能
1.Wild-type or Nox2-KOマウス(6週齢)に通常食と
高脂肪食を3か月自由摂食
2.腓腹筋の切片をトルイジンブルーで染色し、
Myosin ATPase活性から、筋繊維のタイプを調べた。
特に違いはなし。
高脂肪食が骨格筋の組成に与える影響④
1.Wild-type or Nox2-KOマウス
(6週齢)に通常食と高脂肪食を3か
月自由摂食
2.筋肉を単離し、ウエスタンブロット
発現量に関しても
特に違いはなし。
高脂肪食がNoxの遺伝子発現に与える影響
Fig.4A
野生型(240bp)、変異型(195bp)のジェ
ノタイピング
Fig.4B
左側
1.凍結した腓腹筋(or Raw細胞)から抽
出したRNAを逆転写
2.生成物またはNox4 cDNAを含むプラ
スミドをRT-PCR
右側
総タンパク質50 µgをウエスタンブロット
骨格筋にNox2複合体は全て発現していることを確認した。
高脂肪食がNox2,4のmRNAの発現に与える影響
1.Wild-type or Nox2-KOマウス
(6週齢)に通常食か高脂肪食を3、9
か月自由摂食
2.骨格筋よりRNAを抽出
3.qRT-PCRにより、mRNA量を測定
Nox2:高脂肪食により、
発現が上昇した。
Nox4:9か月の摂取の
み発現が上昇した。
高脂肪食がNox2,4のタンパク質の発現に与える影響
1.Wild-type or Nox2-KOマウス(6週齢)に通常
食と高脂肪食を9か月自由摂食
2.ウエスタンブロットにより、タンパク質発現量を測定
おそらくNox4の間違い
Nox2とp22phoxのみ高脂肪食により発現が上昇した。
高脂肪食がスーパーオキシド産生に与える影響
1.Wild-type(6週齢)に通常食か
高脂肪食を3か月自由摂食
2.腓腹筋を単離し、凍結組織切片
を作製
(3.400 units/ml SOD or 10
µM DPIで前培養)
4.300 nM DHEで10分処理
5.共焦点顕微鏡で観察
DHE:ジヒドロエチジウム
スーパーオキシドに反応して赤色に呈色
DPI :ジフェニルイオドニウム
フラビン酵素阻害剤(Nox2の阻害)
SOD:スーパーオキシドジスムターゼ
スーパーオキシドアニオンを酸素と過酸化水
素に不均化する酸化還元酵素
高脂肪食により、スーパーオキシドの産生量が増加した。
また、これがNox2由来であることも分かった。
Nox2のノックアウトがスーパーオキシド産生に与える影響
1.Wild-typeかNox2-KOマウス
(6週齢)に通常食か高脂肪食を
3か月自由摂食
2.腓腹筋を単離し、凍結組織切片を
作製
3.300 nM DHEで10分処理
4.共焦点顕微鏡で観察
Nox2のノックアウトにより、
スーパーオキシド産生量が
減少することを確認した。
Nox2のノックアウトがインスリンシグナルに与える影響
1.Wild-typeかNox2-KOマウス(6週齢)に
通常食か高脂肪食を9か月自由摂食
2.骨格筋を単離し、膜画分とホモジネートを
作製(P-AktとGlut4の測定をするマウスに
は、屠殺前に15分のインスリン投与)
3.ウエスタンブロット
PDI:プロテインジスルフィドイソメラーゼ
膜移行の割合
発現量
GLUT4の発現はNox2に
依存している。
A:分化前と分化後の写真
B:myogenin(分化マーカー)の
発現量をRT-PCRで確認
C2C12筋芽細胞の分化を
確認した。
分化前後のC2C12のNox2に関
わるタンパク質のmRNA発現量と
タンパク質発現量
Nox2に関わるタンパク質
の発現は、分化後の方が
多い。
高濃度グルコースがAktのリン酸化、糖取り込みに与える影響
A
1.C2C12を分化
(2.900 units/mlのカタラーゼで処理)
3.5mM or 25mM Glucoseで48時間処理
4.100 nM インスリンで20分刺激
5.細胞を回収し、ウエスタンブロット
B
1.C2C12を分化
(2.900 units/mlのカタラーゼで処理)
3.5mM or 25mM Glucoseで48時間処理
4.4時間血清飢餓
5.100 nM インスリンで45分刺激
6.0.1 µCi/mlの2-deoxy-[14C]glucoseを
5分添加
High Glucoseによってイン
スリン抵抗性を惹起した。
高濃度パルミチン酸がAktのリン酸化、糖取り込みに与える影響
A
1.C2C12を分化
(2.900 units/mlのカタラーゼで処理)
3.200 µMのパルミチン酸で48時間処理
4.100 nM インスリンで20分刺激
5.細胞を回収し、ウエスタンブロット
B
1.C2C12を分化
(2.900 units/mlのカタラーゼで処理)
3.200 µMのパルミチン酸で48時間処理
4.4時間血清飢餓
5.100 nM インスリンで45分刺激
6.0.1 µCi/mlの2-deoxy-[14C]glucoseを
5分添加
パルミチン酸によってインス
リン抵抗性を惹起した。
過酸化水素がAktのリン酸化、糖取り込みに与える影響
A
1.C2C12を分化
(2.900 units/mlのカタラーゼで処理)
3.100 µMの過酸化水素で48時間処理
4.100 nM インスリンで20分刺激
5.細胞を回収し、ウエスタンブロット
B
1.C2C12を分化
(2.900 units/mlのカタラーゼで処理)
3.100 µMの過酸化水素で48時間処理
4.4時間血清飢餓
5.100 nM インスリンで45分刺激
6.0.1 µCi/mlの2-deoxy-[14C]glucoseを
5分添加
過酸化水素でも同様の傾
向を示した。
Fig.7のまとめ
・高濃度のグルコース、パルミチン酸によって糖取り込みが
減少した。
・カタラーゼ処理により、糖取り込みは改善した。
⇒高濃度のグルコース、パルミチン酸の処理で誘導される
インスリン抵抗性はH2O2を介して起こる。
HG
Palm
H2O2
インスリンシグナル
MHCとmyogeninの発現をRT-PCRで確認
shRNAを導入したC2C12
筋芽細胞でも分化を確認
した。
Nox2のノックダウンがAktのリン酸化、糖取り込みに与える影響①
プロトコルはFig.7と同様
shRNAを導入しても結
果はFig.7と同じである。
Nox2のノックダウンがAktのリン酸化、糖取り込みに与える影響②
プロトコルはFig.7と同様
shRNAを導入しても結
果はFig.7と同じである。
Nox2のノックダウンがAktのリン酸化、糖取り込みに与える影響③
プロトコルはFig.7と同様
Nox2をノックダウンし
ても過酸化水素が誘導
するインスリン抵抗性を
阻害しなかった。
Fig.8のまとめ
・高濃度のグルコース、パルミチン酸によって誘発する
インスリン抵抗性には、Nox2が必要である。
・Nox2由来の過酸化水素の産生が、インスリン抵抗性の
発症に必要である。
HG
Palm
H2O2
Nox2
インスリンシグナル
まとめ
・今回の実験で、Nox2が高脂肪食によるインスリン抵抗性
の発症に重要である。
・Nox2をノックダウン・ノックアウトによりインスリン感受性が
回復した。
⇒Ⅱ型糖尿病治療の新しいターゲットとして有用であるかも
しれない。
Supplement fig.1