「生き残り競争」から抜け出したい! -ゲーム理論入門- 東京国際大学オープンキャンパス (2014年8月23日) 経済学部体験授業 東京国際大学経済学部 古川徹也 2014/08/23 OC体験授業 1 ゲーム理論とは何だろう? ゲーム理論:「駆け引き」を科学的に分析する 道具 「駆け引きをする」ところがゲームをしているよ うだということで「ゲーム理論」と名付けられた けれど,「駆け引き」をするのはもちろんゲー ムだけではありません。 2014/08/23 OC体験授業 2 「駆け引き」の場面 スポーツ:PK(前回体験授業),テニス,投手 対打者 etc. 外交:国と国との駆け引き 家庭:家事をどちらが負担する? 日常生活:譲り合い?奪い合い? 2014/08/23 OC体験授業 3 今日の「駆け引き」 今日の体験授業では,企業間の価格競争に 関する駆け引きを考えます。 2014/08/23 OC体験授業 4 iPhoneをめぐる市場 2014/08/23 OC体験授業 5 キャリア別シェア 少し古いです。現在 のシェアは不明 2014/08/23 OC体験授業 6 ポイント:価格競争 販売するもの・サービスに特徴があれば,価 格以外の部分で勝負できるので,価格競争を する必要はない。 価格以外の要素で特徴を出すことが難しい場 合,価格競争になる。→企業にとっては負担 になりやすい。 2014/08/23 OC体験授業 7 スーパーの価格競争 スーパーY スーパーI ・どちらも選択肢は「特売(をする)」か「通常(価格で売る)」か。 ・販売する商品は同じであるとする。←価格競争 2014/08/23 OC体験授業 8 各スーパーの利益 (どちらも同じ) 自分 相手 利益 特売 特売 60 通常 通常 100 特売 通常 200 通常 特売 30 自分も相手も,自分の店の利益を一番大きくしたいと 考えているとき,どのような結果になるだろうか。 2014/08/23 OC体験授業 9 駆け引きの要素 一番よいのは自分が「特売」,相手が 「通常」・・・相手は「通常」を選ぶだ ろうか? 二番目によいのは自分も相手も「通 常」・・・相手は「通常」を選ぶだろう か? 相手の行動も考慮に入れなければならない 2014/08/23 OC体験授業 10 利得行列 Y 特売 I 特売 通常 通常 60 60 30 200 200 30 100 100 各店の選択の組合せと利益の関係を表したもの 2014/08/23 OC体験授業 11 利得行列:ジャンケン B グー A グー チョキ パー 2014/08/23 チョキ 0 0 -1 +1 +1 -1 +1 -1 0 0 -1 +1 パー -1 +1 +1 -1 OC体験授業 0 0 12 店の「合理的な」選択 Y 特売 I 特売 通常 通常 60 60 30 200 200 30 100 100 どちらの店も「特売」を選ぶのが合理的 2014/08/23 OC体験授業 13 スマホ市場 au 割引 Soft 割引 割引しない 60 60 割引 しない 30 30 200 200 100 100 どちらの会社も「割引」を選ぶ 2014/08/23 OC体験授業 14 囚人のジレンマ! Y 特売 I 特売 通常 通常 60 60 30 200 200 30 100 100 「どちらも特売」よりも「どちらも通常」のほうが,どち らの店も利益が大きい。→囚人のジレンマにはまった! 2014/08/23 OC体験授業 15 なぜこんなことになったのか? 相手が「通常」ならば,「特売」のほう が利益が大きい。 相手が「特売」でも,「特売」のほうが 利益が大きい。 話し合いができなくて,ゲームが 1回だけならば,相手の行動に関 わらず「特売」のほうがよい。 2014/08/23 OC体験授業 16 「特売をしない」約束が結べたら? 2つのスーパーが話し合って「特売する のは止めよう」という約束ができれば, 利益があがるはず。 ・そんな約束は結べるだろうか? ・そもそも法律違反ではないだろうか? (カルテル,談合) 2014/08/23 OC体験授業 17 この議論に欠けている視点 いままでの議論では, 1回限りであること を前提としていた もしこのゲームを繰り返すのであれば, 違う結論が出るのではないだろうか? 2014/08/23 OC体験授業 18 同じゲームを5回繰り返してみよう ルール (1) あなたはスーパーIです。 (2) Yは,あなたが「通常」をとる限り通常 を選びますが,「特売」を選ぶと次か ら「特売」を選びます。 ゲームを5回繰り返すとします。 2014/08/23 OC体験授業 19 長い目で見れば(1) 5回とも「通常」を選ぶ場合,5回の利益の合 計は 100+・・・+100=500 1回目で「特売」を選ぶ場合,5回の利益の合 計は 200+60+60+60+60=440 長い目で見れば,通常をとりつづけるほうが よい・・・かな? 2014/08/23 OC体験授業 20 長い目で見れば(2) 4回は「通常」をとって,5回目に「特 売」をとったら? 100+・・・+100+200=600 (これが一番大きくなる手段) Yが最初に仮定した行動をとるならば, 最後に「特売」がよい。 Yだって同じことを考えるのでは? → Yがとると仮定した行動は変じゃない? 2014/08/23 OC体験授業 21 5回目からさかのぼる Yも同じ行動をとりたいと考えるだろう → 5回目は両方とも「特売」を選ぶ 5回目が両方「特売」が決まっているな ら,4回目も両方とも「特売」を選ぶ 結局両方とも最初から「特売」を選ぶ 2014/08/23 OC体験授業 22 最初から「特売」 最初から両方とも「特売」を選ぶと, 60+・・・+60=300 となる。本質的には1回目と同じ こんなことになった原因 → 最終回が決まっていて,「最後は裏切 る(特売する)」が決まっているから 2014/08/23 OC体験授業 23 フォーク定理 「何回繰り返す」が決まっていると,「ずっ と『通常』を選び続ける」のような選択はう まれない。最後には両方とも「特売」を選ぶ から。→最初から両方「特売」を選ぶ。 いつ終わるのかがわからない場合は,「相手 が『特売』を選ぶまでは『通常』を選び続け る」があり得る。 これをゲーム理論では「フォーク定理」と呼 んでいる。 2014/08/23 OC体験授業 24 フォーク定理の由来 フォーク(folk)定理の folkは,「フォークソン グ」のフォークと同じ。 「民間伝承定理」という 訳もある。 「フォークの神様」 岡林信康 http://natalie.mu/music/ news/25728 2014/08/23 OC体験授業 25 フォーク定理の意義 「長期的な利益を優先すれば,短期的な 利益を求めて裏切るようなことをしない こともある」というのは当たり前。 しかし,「どんな条件で,どんな場合に 成り立つのか」を考えるのは結構難しい。 1970年代に最初に証明が与えられた。 2014/08/23 OC体験授業 26 フォーク定理と現実 「通常」を協力的行動,「特売」を裏切 り行動と見なせば,「裏切ったほうが得 なのに・・・」という場面でも協力的行 動が生まれる現象をフォーク定理は説明 する。 2014/08/23 OC体験授業 27 長い目で見れば:追加 ※以下の点は,出席者の方からもご指摘いただきました。 ありがとうございました。 Iが「特売」,「通常」,「特売」,「通常」・・・, Yが逆に「通常」,「特売」,「通常」「特 売」・・・と偶数回繰り返す場合には,利得の合計は 「通常」をただ繰り返す場合よりも多くなります。 問題は,相手が「特売」の日にちゃんと「通常」を守 るかと言うことです。 フォーク定理があてはまる状況では,これは可能です。現実で も,スーパーによって特売日が(自然発生的に)ズレるというこ とはよくあることです。 2014/08/23 OC体験授業 28 仕返し(罰)の意味 協力的に行動するのは,結局「仕返し(罰)が 怖くて」ということになる。 意味もなく罰を与えられたら,協力的な行動を する気も起きない。 フォーク定理が成り立つためには,「ちゃんと 罰が与えられる」ことがとても大事になる。 そんなことも教えてくれるのが ゲーム理論 2014/08/23 OC体験授業 29 今日の授業の資料について 古川のホームページ http://www.tiu.ac.jp/~ftetsuya/ 古川のメールアドレス [email protected] 2014/08/03 OC体験授業 30 参考映画&文献 『ビューティフルマインド』 J.Nashの半生を描いた映画 2014/08/23 『高校生からのゲーム理論』 松井彰彦著, OC体験授業 31
© Copyright 2025 ExpyDoc