見かけ上の non-complier が存在する場合の 平均因果効果の統計的推測 成蹊大学大学院理工学研究科 (博士前期課程2年) 佐野文哉 成蹊大学理工学部 岩崎 学 内容 背景と目的 平均因果効果 平均因果効果の存在範囲 見かけ上の non-complier 推定方法 まとめと今後の課題 1 背景と目的 背景 • 処置の効果を測るにあたって,様々な分野で実験研究が 行われている • • • 実験研究では,処置の割り付け(指示)を行うが,割り付 け(指示)通りの処置を受けない人がいる 割り付け(指示)通りの処置を受けない人の中には,自分 の意志以外の理由で割り付け(指示)通りの処置を受け ない人がいるかもしれない 目的 • 自分の意志以外の理由で割り付け(指示)通りの処置を 受けない人が存在する場合の,処置の効果を推定 2 薬の効果 ある人が病気にかかったので薬を飲んだ 病気は治った! 薬を飲まなかったとしたら... 実際には薬を 飲んだので 飲んでない場合に 病気が治ったかど うかわからない 同じ人が,「薬を飲んだ場合」と「薬を飲まなかった場合」で比較し たい しかし,同じ人の「飲んだ場合」と「飲まなかった場合」の両方の結 果を知ることはできない 3 Potential outcome Z:処置の割り付け変数 (Z = 0, 1) Y:観測される結果変数 (Y = 0, 1) Y(1), Y(0):potential outcome (Y(1), Y(0) = 0, 1) Y(1) は処置を受けた場合の結果 Y(0) は処置を受けなかった場合の結果 Y(1) と Y(0) を両方同時に観測することはできない 観測される結果変数 Y は以下のように表わせる Y = (1 – Z)Y(0)+ZY(1) 4 平均因果効果 個体の因果効果:Yi(1) – Yi(0) 平均因果効果 (Average Causal Effect) を ACE = E[Y(1) – Y(0)] = E[Y(1)] – E[Y(0)] で定義する • • E[Y(1)]:母集団全体が処置を受けたときの結果の平均 E[Y(0)]:母集団全体が処置を受けなかったときの結果の平均 ランダム割り付けにより平均因果効果を推定 5 Non-complier ランダム割り付けにより平均因果効果の推定 割り付けられ た群 比較 割り付けられ ない群 しかし,割り付け通りの処置を受けない人がいる! Non-complier 例 • 割り付けられても処置を受けない人 • 割り付けられなかったが処置を受ける人 それぞれで効き目が違うと考えられる! タイプに分ける! 6 4 種類のタイプの人 Z :処置の割り付け変数 (Z = 0, 1) D :実際に受ける処置の変数 (D = 0, 1) それぞれのタイプを以下のように定義する. Complier (Z = D) Never-Taker (Z によらず常に D = 0) Always-Taker (Z によらず常に D = 1) ここで処置の割り Defier (D = 1 – Z)付けはランダムに 行う 本研究では Defier は存在 しないと仮定 7 平均因果効果の存在範囲 Balke and Pearl (1997) における平均因果効果の存 在範囲 (Bound) の結果は以下のようである p11.1 p00.0 1 ACE 1 p01.1 p10.0 Bound における確率 p p11.1 P (Y 1, D 1 | Z 1), p00.0 P (Y 0, D 0 | Z 0) p01.1 P (Y 0, D 1 | Z 1), p10.0 P (Y 1, D 0 | Z 0) ⇒この式では何を言っているのかわかりづらい! 8 変数の定義 Complier の割合:pC Never-Taker の割合:pN Always-Taker の割合:pA Complier, Never-Taker, Always-Taker の有効率 RC (1) P (Y 1 | Complier, D 1) RC (0) P (Y 1 | Complier, D 0) RN (1) P (Y 1 | NeverTaker, D 1) RN (0) P (Y 1 | NeverTaker, D 0) R A (1) P (Y 1 | AlwaysTaker, D 1) R A (0) P (Y 1 | AlwaysTaker, D 0) 9 平均因果効果の存在範囲 割合:pC, pN, pA 有効率:RC(1), RC(0), RN(1), RN(0), RA(1), RA(0) 平均因果効果は以下のように表せる ACE pC {RC (1) RC (0)} pN {RN (1) RN (0)} p A {R A (1) R A (0)} 処置を受け なかった NeverTaker 処置を受けた ○ ? 処置を受け なかった ? 処置を受けた ○ AlwaysTaker Bound の上限では RN(1) = 1, RA(0) = 0 Bound の下限では RN(1) = 0, RA(0) = 1 10 例:成蹊大学における授業 授業1:1限と2限で同じ先生による同じ内容の授業 1限の授業 • 2限の授業 2限はうるさいから嫌 • • 1限には起きられない 授業2が1限にあるので仕方なく 学籍番号奇数 学籍番号偶数 授業2:授業1とは別の先生が1限だけに行う授業 本来であれば授業1を1限目に受けていたので,never-takerと 処置の効果が同じであると考えるのは適当ではない 11 見かけ上の non-complier すべての対象は complier と non-complier である nevertaker,always-taker の 3 タイプ に分けられる しかし,non-complier とされた 対象のうち,偶然的な背景や何 らかの理由により割り付けに従 わない場合がある このような対象を新しく見かけ上 の non-complier (complier2) と呼ぶ 12 見かけ上の non-complier 見かけ上の non-complier がいるにもかかわらず,いな いとして評価してしまうと・・・ モデル 1(真の構造) 40 モデル 2 30 9 10 4 40 40 13 モデル 1 では Rˆ N (0) 0.3,モデル 2 では Rˆ N (0) 0.325 Rˆ N (0) を過大評価してしまうことになる Rˆ A (1) についても同様 13 見かけ上の non-complier 見かけ上の non-complier は complier の有効率と同 じとする 見かけ上の non-complier を complier2 と呼ぶ 平均因果効果は以下のように表わせる ACE pC {RC (1) RC (0)} pN {RN (1) RN (0)} pA {RA (1) RA (0)} pC1 は通常の complier の割合 ACE ( pC1 pC 2 ){RC (1) RC (0)} pN {RN (1) RN (0)} p A {R A (1) R A (0)} 14 推定方法(モデル) N1 N – N2 N3 N N5 N x N4 N - N1 N6 N2 x 全体の半分の人数:N Z = 1, D = 1 の人数:N1 Z = 1, D = 0 の人数:N – N1 Z = 0, D = 0 の人数:N2 Z = 0, D = 1 の人数:N – N2 Complier2 の人数(未知):x Z = 1, D = 1, Y = 1 の人数:N3 Z = 1, D = 0, Y = 1 の人数:N4 Z = 0, D = 1, Y = 1 の人数:N5 Z = 0, D = 1, Y = 1 の人数:N6 15 推定方法 Rˆ C (1), Rˆ C (0), Rˆ N (0), Rˆ A (1) は以下のようになる Rˆ C (1) N3 N5 N1 (N N 2 ) Rˆ C (0) N6 N 4 N 2 (N N1 ) 1 N 4 Rˆ C (0) x N N1 x 1 Rˆ A (1) N5 Rˆ C (1) x N N2 x Rˆ N (0) Rˆ C (1) と Rˆ C (0) は推定可能 Rˆ N (0) と Rˆ A (1) は実際の complier2 の人数 x が未 知であるため推定不可 16 推定方法 pˆC1, pˆC 2 , pˆ N , pˆ A は以下のようになる pˆC1 N1 N 2 x N N pˆC 2 x N pˆ N N N1 x N pˆ A N N2 x N 平均因果効果は以下のようになる N6 N 4 N N 2 x N x N3 N5 ACE 1 N N N1 (N N 2 ) N 2 (N N1 ) N N1 x 1 ˆ RN (1) N 4 RC (0) x N N N x 1 N N2 x 1 N5 Rˆ C (1) x R A (0) N N N2 x • • Bound の上限では RN(1) = 1, RA(0) = 0 Bound の下限では RN(1) = 0, RA(0) = 1 17 具体例 割合 pC1, pC2, pN, pA と有効率 RC(1), RC(0), RN(0), RA(1) を設定する • • pC1 = 0.5, pA = 0.1, RC(1) = 0.7, RC(0) = 0.4, RN(0) = 0.3, RA(1) =0.6 として pC2 と pN を 0.1~0.3 の間で動かす それぞれの場合で実際に施される処置の人数は固定 60 40 • 20 80 予想されうる complier2 の値を増やしていき,Bound を評価する 18 推定値のバイアス Complier2 が存在するにもかかわらず,存在しないと 仮定して推定を行うと・・・ RN(0) • • RC(1) と RC(0) の推定に バイアスは生じない 0.35 0.33 RN(0) • RN(0) と RA(1) の推定に バイアスが生じる Complier2 の人数が多 いと,バイアスが大きく なってしまう 0.31 0.29 RN(0) 0.27 RN(0) 真値 0.25 0 5 10 15 20 予測される Complier2 の人数 RA(1) 0.7 0.6 RA(1) 0.5 0.4 RA(1) 0.3 RA(1) 真値 0.2 0.1 0 5 10 15 20 予測される Complier2 の人数 19 平均因果効果の Bound PC1=0.5 PC2=0.1 PN=0.3 PA=0.1 PC1=0.5 PC2=0.2 PN=0.2 PA=0.1 0.6 0.6 0.5 0.5 0.4 0.3 upper 0.2 lower 0.1 BP upper 0 -0.1 0 5 10 15 20 complier2の真値 -0.2 -0.3 BP lower ACE ACE 0.4 0.3 upper 0.2 lower 0.1 BP upper 0 -0.1 0 20 30 BP lower complier2の真値 -0.2 -0.3 予測される Complier2 の人数 10 予測される Complier2 の人数 PC1=0.5 PC2=0.3 PN=0.1 PA=0.1 0.6 0.5 ACE 0.4 0.3 upper 0.2 lower 0.1 BP upper 0 -0.1 0 10 20 30 40 complier2の真値 -0.2 -0.3 BP lower ■は Balke and Pearl (1997) の Bound 縦軸:平均因果効果 横軸:Complier2 の人数 予測される Complier2 の人数 20 まとめと今後の課題 見かけ上の non-complier を含んだ新しいモデルを提 案し,平均因果効果の Bound を導出した RC(1) と RC(0) は推定可能 見かけ上の non-complier を含んだモデルでは RN(0) と RA(1) は推定不可 見かけ上の non-complier の比率に関する外部的な 情報があれば推定可能 中程度の標本における Bound のシミュレーションを用 いた推定精度の評価は現在作成中 21 参考文献 Balke, A. and Pearl, J. (1997) Bound on treatment effects from studies with imperfect compliance. Journal of the American Statistical Association, 92, 1171-1176. Yamashita, H., Sano, F. and Iwasaki, M. (2012) Influence of random non-compliance to performance of estimation for a causal effect under non-compliance. The 26th International Biometric Conference (Kobe), 2012. 8. 22
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