文字が小さい箇所がありま す。印刷の際に必要に応じ て拡大等してください。 銀行の期間変換機能 目次 ・貯蓄とリスク ・ 「預金」という金融商品 ・相対(アイタイ)取引 ・預金の特徴 ・おカネと預金 ・通貨としての預金 ・ 「決済」の意味 ・預金は「おカネ」か、「金融資産」か ・通貨供給機関としての銀行 ・マネーストック統計(元マネーサプライ統計) ・支出・貯蓄の資金の流れ ・銀行の期間変換機能 ・銀行の底溜まり 講義⑫ 1 貯蓄とリスク① ① ② 所得=消費+貯蓄 貯蓄をする理由・・・ 消費として使う必要がないから 所得が減少、または、なくなった時に困るから ①の場合、ある程度の期間、収益(利子)を求めて他人に貸す(または、 投資する)ことが可能である。 しかし・・・ ②の場合、いつ、「所得が減少、または、なくなった時」が来るのかがわ からない。 したがって・・・ 人に貸し付けたり(または、投資をする)ことができない。 なぜなら・・・ 人に貸し付けている間に、そのおカネが必要になった場合、契約的に返 金されない時や返金されても「元(利)金」が保全されているか否かが不 明である。 2 貯蓄とリスク② ①でも②でも「収益」よりも「安全性」ということを好む場合が多い。 しかし・・・ 「株式」でも「債券」でも「他人への貸出」でも、金融取引は「異時点 間」の取引なので、確実に「安全」とは言えない。 これは「取引の間」に金融機関が入ったとしても、投資信託のよう な場合、本源的証券におけるリスクは、受益証券の保有者である 投資者が負うことになる。 つまり・・・ 投資信託のような場合には、金融機関である投信委託会社が間 に入ることによって、少額投資では享受できない分散投資効果を 得ることができる上に、投資家が保有することになる間接証券(受 益証券)という資産のリスク・クラスも変化することができる。 しかし・・・ リスクそのものがなくなったわけではない。 3 貯蓄とリスク③ ところで・・・ マクロ的には、事後的に「貯蓄=投資」になる。 したがって・・・ 金融機関が、金融ルートの間に入ることによって、投資家が保有することになる間 接証券のリスククラスを変化させることができる。 それによって・・・ 最終的貸し手が金融ルートに参加しやすくなり、社会的におカネが効率的に活用 されることが考えられる。 しかし・・・ 例えば、上述の②(所得が減少、または、なくなった時に困るから)の理由で貯蓄 をしようとしている主体は、収益性よりも、流動性や安全性を高く評価することが多 い。 そうすると・・・ たとえ金融機関が間に入ったとしても、そのような主体は、金融ルートに参加する ことをやめ、おカネのまま保有することを選択する可能性が高い。 このような主体は「特殊」ではなく、多くの主体が「流動性」「安全性」を重視するの で、「貯蓄」と「投資」をうまく結びつけることができなくなってしまう。 4 「預金」という金融商品 金融商品において「流動性」「安全性」が最も高いものが「預金」である。 ここで、まず、預金取扱金融機関(銀行など)における取引の仕組みを考 察する。 資 金 の 貸 し 手 ( 預 金 者 等 ) おカネ 間接証券 (預金) 【 借 り 手 】 預 金 取 扱 金 融 機 関 ( 銀 行 等 ) おカネ 【 貸 し 手 】 本源的証券 資 金 の 借 り 手 ( 企 業 、 政 府 、 地 方 公 共 団 体 等 ) 5 相対(アイタイ)取引 預金 A 10万円 B 90万円 B:90 普通預金 C 100万円 C:100 1年定期預金 E 800万円 9000万円 貸出 A:10 普通預金 D 銀行 D:800 2年定期預金 E:9000 預金証書 X:1000 1000万円 X 借用書 1億円 Y:3000 3000万円 Y 借用書 Z:5000 5000万円 Z 借用書 6 預金の特徴 いつもでも現金と交換が可能。 定期預金であって、途中で解約しても、元利金(利子は預金金利)が約束されている。 したがって・・・ 預金自体は銀行の負債ではあるが、おカネを一時的に「預けているのと同じ」と考え ることができる。 ここで「預けている」とは・・・ 「必要な時に返済してもらえる」というということ。 そのため・・・ 預金者は「預金」として銀行に預けても、「流動性」「安全性」の点で不安がないことに なる。 以上から・・・ 非常に短期間であっても「即時的購買力」が必要でないのであれば、「預金」にしてお く方が得である。 なぜならば・・・ 「低い」とはいえ、その期間に対応して、「預金金利」が銀行から支払われるからであ る。 7 おカネと預金 「おカネを預金にする」といっても、預金はいつでもおカネに換わる(流動性があ る)ので、おカネをおカネに換えただけと考えることができる。 したがって・・・ 最終的貸し手の持っている「流動性」「安全性」を求めているおカネは、その手元 に置くのではなく、銀行に流され、銀行が貸付を行うことで、社会に効率的に使わ れることになる。 資 金 の 貸 し 手 ( 預 金 者 等 ) おカネ 【 借 り 手 ともに「おカネ」 】 預金 預 金 取 扱 金 融 機 関 ( 銀 行 等 ) おカネ 【 貸 し 手 】 本源的証券 資 金 の 借 り 手 ( 企 業 、 政 府 等 ) 8 通貨としての預金 為替(振替)業務 日本銀行 250 300 Bさんの預金に 50を振替 50 振替を要請 銀行券 A 300 銀行 X A:250 A:300 銀行 Y B:50 Bは必要であれ ば、いつでも引 き出せる B 50 9 「決済」の意味① ①取引の完了 振替送金により決済が可能であるのは、人々が預金を受け取った、ま たは、入金が確認された時点で、当該預金受領者が現金を受領した 時と同様に「当該取引が完了した」と認識するからである。 ②決済手段とは 本来。決済手段は現金(法貨:つまり,日本銀行券など)に限られる。 この場合、「現金」とは以下の機能を持つものである。 一般的交換手段機能 価値尺度機能 価値保蔵機能 10 「決済」の意味② 以上のような機能を持つため・・・ 現金は即時的な購買力を持つことになり、財貨・サービスの取引 においては「現金の授受を持って取引が完了した」または「債権債 務関係が清算された」と認識する。 現金と金融資産の違いは「現金が即時的購買力を持っている」の に対して、金融資産は「即時的ではなく、将来的な購買力しか持っ ていない」ということである。 つまり・・・ 金融資産を受け渡しても「その時点では取引は完了せず」、金融 資産が「現金に換わって」初めて「取引が完了した」と認識すること になる。 11 預金は「おカネ」か、「金融資産」か① 預金は預金取扱金融機関(以下、「銀行)が発行する間接証券である。 つまり・・・ 最終的貸し手である預金者が「現金を預けた」ということの証明のた めに、銀行が預金者に対して発行した“債務証書”であり、明らかに預 金者からみて金融資産である。 ただし・・・ 預金は法的には消費貸借契約(借り主が貸し主から金銭や米麦な どを受け取り、のちにこれと同種・同等・同量の物を返還する契約)な ので・・・ 預金者は、任意のどの時点でも、自由に、あらかじめ決められた比 率(普通預金金利分など)で、現金との交換が可能である。 12 預金は「おカネ」か、「金融資産」か② しかも・・・ 決済システムの完備により、遠隔地においても容易に、しかも、「安全で」 「低コストで」受け渡しが可能となっている。 このような特殊な性格により・・・ 預金は、常に現金との交換が完全に保証されていることになる。 したがって・・・ 預金を、敢えて現金化する必要はなく、「預金を受け取った」または「入金 が確認された」という時点で、当該預金受領者は、現金を受領した時と同 様に「当該取引が完了した」と認識することになる。 以上より・・・ 金融資産に過ぎない預金が、現金と同じように決済手段として社会的に 承認されていることとなり、「通貨」、つまり、「おカネ」としての性格を持つ ことになる。 13 通貨供給機関としての銀行① 銀行は、金融仲介機関であると同時に、通貨、つまり「通貨の供給 者」という役割を持っていることがわかる。 これは言い換えれば・・・ 自らの発行する債務証書(負債)が「通貨」として流通するという ことである。 ここで預金とは・・・ 銀行の扱う金融商品のうち。「預金」は要求払い預金(当座、普通、 貯蓄、通知、別段、納税準備)を指している。 これらの預金は、預金者が「任意のどの時点でも」「自由に」「あ らかじめ決められた比率(普通預金金利分など)で」現金との交換 が可能であることから「決済手段」として機能した。 14 通貨供給機関としての銀行② ところで・・・ 銀行等では要求払い預金の他に、定期性預金(定期預金,定期 積金など)も取扱っている。 これらの金融商品は、預金者がそれぞれ決められた期間据え置 くことで、あらかじめ決められた金利を受け取ることができる。 しかし、期間中であっても手数料を支払うことで、常時現金化する ことができ、元本も保証されている。 したがって・・・ これら定期性預金も、要求払い預金同様に、決済手段性が極め て高いといえる。 そのため・・・ 定期性預金等を、通貨に対して、「準通貨」という。 15 マネーストック統計(元マネーサプライ統計) 16 支出・貯蓄の資金の流れ 現金として保有するのは、「タンス預金」として金庫に保管される以外では、支 出が決まっているが、銀行送金で支払うことのできないような小口決済の資 金に限られる。 つまり・・・ 預金は決済手段であると同時に貯蓄手段であるので、ほとんどの資金 は、預金の形態のままで保有されることになる。 現金 支出資金 預金 所得 貯蓄資金 支払いなので、ともに、別 の主体の所得になる 現金 いわゆる「タンス預金」 金融資金 事業資金として使われるの で、別の主体の所得となる 預金 多くがこの形態で保有される 17 銀行の期間変換機能 銀行は金融仲介機関として本源的証券を間接証券に変換する機能を持つ。 しかしこの場合に・・・ 銀行が受け入れる「本源的証券」側、つまり、借入れを申し込む最終的借り手 は、長期での借入れを希望することが多い。 一方・・・ 銀行が発行する「間接証券」側、つまり、預金者である最終的貸し手は、常時 現金に換えることのできる安全資産としての預金の形態になっている。 このことから・・・ 銀行は「短期で借りて、長期で貸す」ということになる。 これを「期間変換機能」という。 本来、このような形で金融仲介を行えば、マネーフローに問題が生じ、貸すこと も、返すこともできなくなる。 18 銀行の底溜まり① 銀行は預金の形態で最終的貸し手から資金を調達する。 預金形態の資金は・・・ 予備的資金の場合もあるが、決済用資金の場合が多いことから、銀行間で振り返 られ、概して一つの銀行に留まることは少ない。 しかし・・・ 各銀行自身も、数多くの預金者を取扱っているため、通常では一つの銀行に出金 が集中する可能性は低く、入出金の割合は常に数学的に求められる割合に極めて 近いものになる。 また・・・ 決済システムがネットワークで結ばれていることから、ここでも通常では一つの銀 行に送出金が集中する可能性も低く、送入出金も常に数学的に求められる割合に 極めて近いものになる。 加えて・・・ 定期性預金についても数多くの預金者から預かっているため、満期時点が一時期 に集中する可能性も少なく、解約についても数学的な確率に極めて近いものになる。 そして・・・ いつでも現金化することができるため、預金の形態で保有し続けるデメリットもない し、預金は貯蓄手段でもあるので容易に現金化されず、現金化率も数学的な確率に 極めて近いものになる。 19 銀行の底溜まり② 預金者および決済を行う人が多数であることから、通常ある一定 の割合がいつも「底溜り」として銀行に残ることになる。 送出金 送入金 入金 出金 変動部分 底溜まり 預 金 残 高 変 動 固 定 底溜まり 20 銀行の底溜まり③ 「預金」という流動性の高い金融資産で資金を調達していることが、 逆に「底溜まり」を形成することになり・・・ 底溜りとして滞留した資金を、長期資金を必要とする最終的借り 手に貸し出すのである。 このように統計的に観測される確率が,数学的に求められる確率 に近似することを「大数の法則」という。 この大数の法則により・・・ 銀行はいつでも現金化することができる「リスクの極めて低い証 券(間接証券)」、つまり、「預金」を発行するとともに・・・ 長期の資金を必要とする借り手に資金を提供することが可能にな るのである。 21
© Copyright 2024 ExpyDoc