06JFS

060403 第117回日本森林学会大会@東京農業大学
<PC48> エゾマツ・トドマツ稚樹群の動態に
環境条件が与える影響
飯島勇人1)・渋谷正人・斎藤秀之・高橋邦秀(北大院農・造林学)
1) E-mail: [email protected], Tel: 011-706-3346
1. 研究背景と目的
・エゾマツ(Picea jezoensis)とトドマツ(Abies sachalinensis)実生の更
新:主に倒木上に多い
・しかし、更新密度は倒木によってかなりばらつき、全ての倒木が更新
に適しているわけではない
・なぜばらつくのか?→コケの高さや倒木の硬度、すでに定着している
個体のサイズといった倒木上の微環境が局所的に異なり、これらが発
芽や生残に悪影響を及ぼすと考えられる。
・光環境も局所的に異なり、暗い環境では生残率が低下する
・倒木の微環境や光環境が実生の生残に与える影響を明らかにする
ことで、これら2種の更新に必要な環境条件を明確にできる
本研究の目的
エゾマツとトドマツ実生の更新に倒木の微環境と光環境
が与える影響を検討する
2. 材料と方法
全個体の樹高・
根元直径
調査地
・北海道沙流郡日高町 日高北部森林管理署
110林班(42º 55’ N, 142º 45’ E, a.s.l. 1038m)
rPPFD・倒木の硬度・
倒木の面積・コケの高さ
調査林分
・エゾマツ(胸高断面積合計BAで50%)とトドマツ(BAで30%)を主体と
する針葉樹天然林
調査方法(右図参照)
・2004年秋に林内の29本の倒木上の全針葉樹の樹高と根元直径を測
定(当年生実生は数のみ)。2005年秋に各個体で樹高のみ再測。
統計解析
1m
(ブロック)
統計解析にはフリーウェアのRを用いた。
・当年生実生数:rPPFD、倒木の面積、倒木の硬さ、コケの高さ、最高
個体の樹高を独立変数、ブロック内の当年生実生数を従属変数とした
GLM(Generalized Linear Model)で検討した。
・環境条件として、各倒木1m(ブロック)ごとにrPPFD(最上層)、コケの
高さ、倒木の硬度、倒木の面積、ブロック内の最高個体の樹高を測定。
・実生の生残:各個体のrPPFD、倒木の硬さ、コケの高さ、最高個体の
樹高、2004年時点での樹高を独立変数、各個体の生残を従属変数と
したGLMで検討した。
・各個体のrPPFD:17のブロックで最高個体の上と倒木表面のrPPFD
の差を取り、最上層からの距離と光の減衰率の関係を回帰で構築した。
各個体と最高個体の樹高差をこの関係に当てはめて算出した。
・rPPFD < 10%を被陰下と定義し、被陰下における生残率の種間差を、
生残個体と死亡個体の割合の違いをFisherの正確確率検定で検定す
ることで検討した。
3. 結果と考察
3-1. 当年生実生の定着
表 エゾマツとトドマツの当年生実生数に影響する環境要因. n.s.はモデル選択の結果選択され
なかったことを示す.
・トドマツ:2年間で共通して当年生実生数に影響していたのは倒木の面
積と倒木の硬度のみであった。硬い倒木ではトドマツの発芽は妨げられ
る傾向にあった。
・エゾマツ:2年間で全ての環境条件の影響を受けており、暗いほど、倒
木の面積が小さいほど、倒木が硬いほど、コケが高いほど、周辺個体
の樹高が大きいほど当年生実生は少なかった。倒木は腐朽に伴い柔ら
かくなるが、同時にコケ群落も発達し、また侵入個体数が増加するため、
エゾマツの定着可能な期間は短いと考えられる。
・エゾマツ実生の定着はトドマツよりも倒木の微環境の
影響が大きかった
・エゾマツ実生の定着は、発生した倒木が柔らかくなり始
めるわずかな期間に限定されていると考えられた
3-2. 定着した実生の生残
表1. エゾマツとトドマツの稚樹の生残に影響する環境要因. n.s.はモデル選択の結果選択
されなかったことを示す.
表2. 被陰下(rPPFD < 10%)におけるエゾマツとトドマツの生残率の違い. ***は0.1%水準で
有意差があることを示す(Fisherの正確確率検定).
・2種の生残に共通して影響していたのはrPPFDと元々の樹高であっ
た。小さい個体ほど死亡率が高く、また暗いほど死亡率が高い傾向が
見られた。
・被陰下での生残率はトドマツの方が大きかった。
・2種とも明るいほど生残率はよい傾向が見られた
・被陰下における生残率はエゾマツのほうが小さく、エゾ
マツのほうが耐陰性が低いと考えられた