第五回

ガバナンス論
第五回 「ガバナンスの諸論点」
2007年5月8日 吉田
前回までの議論

古代民主主義


近代ガバメント


参加の自由と平等(直接民主制)、言論と政治
的空間の尊重
公民国家、官僚制、代議制(政党制)、帝国主義、
大衆社会の確立と弊害
ガバナンス

グッドガバナンス
8基本性格
http://www.unesca
p.org/pdd/prs/Pro
jectActivities/Ong
oing/gg/governanc
e.asp より
ガバナンスの論点
内部条件
【合意】参加資格、リーダーや専門家の役割、合議の仕方、
市場の活用
【実行】参加者、組織構造、協力と共同、資源と成果の配
分、効率と実行の確保
【チェック】監査システム、評価基準、透明性と説明責任、
合法性
外部条件
【背景】多元性とマイノリティ、公共性と共同性、市民性と
言論、協力とアナーキー、専門性と特殊性、情報技術
【理念】民主主義、自由と平等、社会幸福と社会正義
ガバナンスの類型とトピックス
類型
分野
背景
基本性格
グッド・ガバナンス、グ
ローバル・ガバナンス
国連、開発援助、国
際社会
グローバリゼーション
合法性、効果、実行
ITガバナンス、ネット・
ガバナンス
情報技術
ITの普及
合法、透明性、効果
コーポレート・ガバナ
ンス
経営、市民社会
コンプライアンス、企
業の社会的責任
(CSR)
合法性、説明、透明
性
科学技術ガバナンス、 専門性、研究、教育、
メディア・ガバナンス
ジャーナリズム
専門職社会、資格社
会
説明、透明性、参加
パブリック・ガバナン
ス、ソーシャル・ガバ
ナンス、ローカル・ガ
バナンス
市民パワー、分権、
民主主義
参加、包含、透明性、
説明、合意
市民社会、政策、
NGO論、地域、地方
自治
以降、類型ごとに議論のフレームワークと論点を概観する。
政治 「ガバナンス」概念
【問題圏】 統治と民主主義
秩序形成としての「公」の形成にかかわる
「民主主義」(的秩序形成)の理念と実際(政治哲学、政治
学)
「ガバメント」→「ガバナンス」
• ガバナンスの理念、目的の確立と目標設定
【論点】 政治や統治の可能性と評価
政治、統治の目的 (自由VS.共同、幸福VS.正義)
政治、統治の主体 (市民、マイノリティ、政治家)
政治、統治システム (議会、三権分立、行政機構)
【参考】 「統治からガバナンス(協治)へ」
• 2000年 小渕元首相 「21世紀日本の構想」懇談会最
終報告書 第一章-III
公共政策 パブリック・ガバナンス
【問題圏】 政策決定、実施
官僚制の諸問題
• 官僚支配、縦割り、天下り、不透明、通達行政、言論の欠如と暴
力、自己保存と利権、肥大化
【論点】多様な主体の参加する総合的政策
• 決定
• 実施
審議会、パブリック・コメント、タウンミーティング
NPO、指定管理者制度、独立行政法人
多様な議論の総合 分野(代表的トピック)
• 政治学(秩序)、社会学(不平等)、経済学(配分)、法学(正義)、
人文学(人間性)
【参考】 慶応藤沢キャンパス 政策・メディア研究科
(Graduate School of Media and Governance )
市場 マーケット・ガバナンス
【問題圏】市場の原理
「見えざる手」による価格、需給量の均衡
取引き=満足条件=幸福の定量化
生産者と消費者の満足度(幸福量)
最大化システム
売っても
いいよ
買っても
いいよ
【論点】市場の制御
市場を適正に保つ条件の設定
• 誰が、どう設定し、説明するか
市場で決定すべき問題かどうか
wikipedia
余剰の領域
=満足量
• 「市場の失敗」「セーフティネット」
• 福祉、医療、教育、治安、文化など
【参考】「マーケットガバナンス プロジェクト」(総合研究開発
機構 )
http://www.nira.go.jp/newsj/30th/mg/03/forum/forum.htm
法と正義 モラル・ガバナンス
【問題圏】 ガバメント、ガバナンスの手段
近代民主主義の立憲制(法治主義) 公/私の調停
• 法によってガバナンス目的と方法、範囲を規定
• 倫理、政治による法の正当化
英米法(コモンロー)と大陸法
• 英米法は判例法
• 大陸法は成文法
その社会の常識・慣習による柔軟な運用
理念に基づいた法律とその合理的解釈
【論点】 モラルの共有と法のガバナンス
モラルの共有→法の制定、運用の条件、統治の条件
(「ソーシャル・キャピタル」)
法のガバナンス
• 制定への参加 憲法改正 国民投票法(参議院へ)
• 運用への参加 裁判員制度の開始
【参考】
どうして裁判員制度を導入したのですか。
法律の重みについて 白田秀彰
国際 グローバル・ガバナンス
【問題圏】 平和と協調の希求
国際社会=主権国家間の社会→戦争による問題解決
• 主権=最高権力=他からの干渉を受けない
戦争の防止と協力関係
• 統治(EU) 主権をより上位の機関にまとめる
• 協調(UN) 主権を持った国家が協調する
• 均衡
同盟とパワーバランスによる安定、協力
【論点】
西洋的民主主義伝統にない国との関係
• 国連の秩序形成と運用
主権国家以外のアクター
• 国際NPO グリーンピース、アムネスティ、他
【参考】 国連のグッドガバナンス論
http://www.unescap.org/pdd/prs/ProjectActivities/Ongoing/g
g/governance.asp
地域 ローカル・ガバナンス
【問題圏】 国による「自治」の破壊
近代資本主義国家による伝統的自治システムの破壊と地方支配
• ガバメントによる国家の産業的発展重視
– 農村の過疎、個人主義、拝金主義、環境破壊
• 国家官僚による地方政府の支配
– 知事任命(戦前)、三割自治(国庫補助金、地方交付税)、機関委任事務、通
達行政
• 地方自治法改正(2000) 地方分権推進法(2006) 大合併(2005)
【論点】 当事者参加のガバナンス
地域の特殊性への対応 自治の本領
国からの離脱 自主財源の確保、人材の確保、自覚
意思決定、施政への住民の参加 NPOや地域団体との連携
共同と参加の文化の育成 「ソーシャル・キャピタル」
【参考】
浜松まちづくりセンター ・・。
なぜいまソーシャルキャピタルなのか。 日本総研 東一洋
社会 ソーシャル・ガバナンス
【問題圏】 誰がそれを受け持つのか
市場や統治に直接属さないサービス
• 福祉、教育、医療、文化、生活、育児、救済、介護
• 「セーフティネット」、「公共財」、「人的(社会)資本」の領域
儲からない→放棄、さまざまな意図で参入
• 国家と企業(慈善)、非営利団体(教会、コミュニティ、NGO)
福祉国家、大きな国家の失敗 巨額赤字、正当性の危機
• NGO、ボランティア等を活用した、スリムな政府へ(ガバナンス)
【論点】 協調と水準、正義の確保
リーダーシップは誰がどうとるのか。政府? 専門家? 市民? 受
容者?
資金、労働力などのフリーライド(ただ乗り)と参加の問題
合法性や正義の確保 弱者と支配の問題
【参考】 厚生労働省 キッズ・ページ 全体の挨拶も方針説
明もない
企業 コーポレート・ガバナンス
【問題圏】 企業をめぐる問題
資本主義的競争のなかでの経済活動
• 社会への影響力 公害、環境問題、雇用、献金、帝国主義 「企業の社
会的責任CSR」「PL法」「工学倫理」「企業倫理」
• 社会的ルール、モラルの違反 粉飾、偽装、贈賄 「コンプライアンス」
• 企業内での公正 労使条件、プライバシー、株の持ち合い、横領 「内部
統制」
【論点】 どう企業をガバナンスするか
計画、実行、チェックの合法化、透明化と効率の両立
第三者(組織外部の者)の必要とチェックの難しさ 内部告発「ホイッ
スル・ブローイング」の是非
企業は誰のものか ステークホルダーは? 株主、役員(取締役、監
査役)、社員、従業員、顧客、住民、国?
どういう組織作り、制度作りをするか 目的設定、機関設計、監査シ
ステム、運用
専門家 科学技術者、ジャーナリスト
【問題圏】 専門家(professional)
社会の高度化→専門家の必要性 専門職社会 資格社会
• 医師、弁護士、技術士、大学教授ほか、コンサル、ジャーナリスト、プロ
選手、ほか、自律性があって資格の必要な職業(の一部)
プロフェッショナル
• 高度な知識技術と教養、倫理的判断力を持ち、顧客と公共に対して対等
のポディションに立ち、責任を持って自律的に判断し、高い水準の仕事を
行なう
• ⇔従業員(被雇用者)、労働者(非専門家、非責任者)、公務(公僕)
専門家集団は倫理綱領のある職能団体をつくり自律する
• 社会的信用と特権を獲得
• 医師会、弁護士会、技術士会、学会
【論点】 専門家職能団体のガバナンス
舵取りと説明責任はどうするか
• 専門領域のことは素人にはわからない
• 専門家は何と照らしてどう判断するべき
【参考】
「プロフェッショナル 仕事の流儀」NHK 情報処理学会倫理綱領
「ガバナンス」をどう捉えるか
「ガバナンスとは参加をベースとした協調的
自治活動である」(吉田の考え)
ガバナンスは構造・形態ではない
ガバナンスはインフラではない
ガバナンスはルールではない
ガバナンスは条件ではない
「態度」「理念」 「目的」によって理解
参加し自律すること→自由
参加し協調すること→共同
態度
理念
実現形態は領域の特
殊性に応じてさまざま
でOK
おわりに
吉田の講義担当回はこれでおしまいです。吉田の
講義は「ガバナンス」に関する概説的な話です。また、
ガバナンスの領域は本来とても広く、論じ方もさまざ
まなので、私の紹介は特定の方向からの解説に
なっています。続く佐藤先生、赤尾先生の講義や参
考文献に当たって、理解を深め、自分なりにバラン
スをとってください。
試験の出題予定:授業で取り上げた用語の説明や、
ガバナンスの背景や問題の解説や分析(論述)。