専門特殊講義 2011/11/24 担当:内藤 I、様々な資本主義 1、資本主義の多様性論 (1)様々な類型論 • 先進国の経済システムをいくつかに分類 • 分類の数、規準などは論者によって異なる 様々な類型論 数 提唱者 分類基準 類型 2 アルベール 競争/協調の関係、商品財の範囲 アングロサクソン型vsライン型 ドーア 労使関係を中心とした企業のあり方 株式市場資本主義vs福祉資本主義 ホール=ソスキス 企業における市場的/非市場的コー ディネーション 自由な市場経済(LME)vsコーディ ネートされた市場経済(CME) 3 エスピン・アンデルセン 脱商品化/階層化/脱家族化 自由主義、保守主義、普遍主義 4 キッチェルト ホール=ソスキスの精密化 自由な市場経済、全国調整型CME、 部門調整型CME、集団調整型 CME ボワイエ 調整様式 市場主導型、メゾ・コーポラティズム、 国家主導型、社会民主主義型 プライヤー 製品市場、労働市場、企業、政府活 アングロサクソン型、北欧型、西欧 動、金融 型、南欧型 5 アマーブル 製品市場、賃労働関係、金融システ 市場ベース型、アジア型、大陸欧州 ム、社会保障、教育 型、社会民主主義型、地中海型 2、アルベールのアングロサクソン型vsラ イン型資本主義論 アングロサクソン(ネオアメリカ)型vsライン型 (1)規準 • どこまで商品化されているか (i)アメリカ: 労働力、住宅、都市交通、メディアだけでなく、教育、 医療も商品化 (ii)ライン型:ドイツ、フランス、スイス、北欧、日本など 給与、住宅、都市交通、メディア、教育、医療などは 混合財、あるいは非商品財として社会や公共の管 理下 (2)評価 • ライン型が経済的に優位 • 規準: (i)市民生活の安全・安定 (ii)社会的不平等の是正 (iii)社会の開放度、流動性 • (iii)のみアメリカ型優位 3、ドーアの株式市場資本主義vs福 祉資本主義論 (i)株式市場資本主義:アメリカ、イギリス (ii)福祉資本主義:日本、ドイツ • 規準: 企業のあり方: 株主の財産としての企業vs共同体としての企業 II、VOC(Varieties of Capitalism)ア プローチ 1、ホール=ソスキスによる資本主義の多様性 論 • 自由な市場経済 (Liberal Market Economies, LME) vsコーディネートされた市場経済 (Coordinated Market Economies, CME) ホール=ソスキスによる資本主義の多 様性論 (1)規準: • 企業のコーディネーション様式 (i)LME: アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなど 企業は企業組織と競争的市場を通じて、その活動を コーディネートする (ii)CME: ドイツ、日本、北欧 非市場的な戦略的相互作用を通じてコーディネート • フランス、イタリアは中間型 (2)イノベーション形態の相違 (i)CME: 雇用保障、忍耐強い資本: 特殊技能への投資、漸進的イノベーションを 促進 (ii)LME: 低い雇用保障、直接金融: 一般的技能の習得、急進的イノベーションを促 進 2、VOCアプローチの問題点 (i)機能主義的な分析であるため、効率や安定 性から評価されており、政治、権力、コンフリ クトといった側面はあまり考慮されない (ii)二類型論のため、過剰な単純化が見られる (iii)静学的、構造主義的な観点のため、制度変 化や歴史動態はあまり考慮されない (iv)国内の相違や複合性はあまり考慮されない 3、VOCアプローチの修正 (1)CMEの細分化: • VOCに企業レベルだけでなく、労使関係を導入 • コーディネーションの単位で区別: CMEをさらに分類 (i)全国型CME:北欧諸国 全国レベルでの調整、社会民主主義優勢、包括的、平等主義的福祉国家 (ii)部門型CME:ドイツ、オランダ、スイス、オーストリア 部門レベルでの調整、リベラル/カトリック/社会民主主義の三大政党制、雇用及 び所得に応じた福祉 (iii)集団型CME:日本、韓国 企業集団別の調整、保守政党のヘゲモニー、残余的でパターナリスティックな 福祉国家 (iv)LME:アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアなど コーディネートされない市場経済、二大政党制、残余的な福祉国家 • フランス、イタリアは、LMEと部門型CMEの混合 VOCアプローチの修正:CMEの細分化 類型 政党システム 階級妥協の組織 化 LME 二大政党制 残余的な福祉国 家、資力調査付き 全国型CME(労働 社会民主主義優 コーポラティズム) 勢 包括的、平等主 義的、再分配的な 福祉国家 部門型CME リベラル/カトリック 雇用、所得に応じ /社会主義の三大 たい福祉受給 政党制 集団型CME 保守政党のヘゲ モニー 残余的で温情主 義的な福祉国家 (2)動態的な経路 (i)新自由主義的収斂説: トレンド共有、レベル収斂: • どの類型も市場経済化というトレンドを共有 するだけでなく、相互の差異も縮小し、最終 的にLMEへ収束 (ii)新制度主義的分岐説: トレンド共有、レベル分岐: • 市場経済のトレンドは共有しているが、類型 間の差異の縮小は見られない 収斂説と多様性論 新自由主義的収斂説 新制度主義的分岐説 (3)国家の役割と階級的利害編成 • 南欧や東欧を加えた分類 (i)混合市場経済(Mixed Market Economies, MME):南欧 (ii)新興市場経済(Emerging Market Economies, EME):中東欧 • 南欧や中東欧をも加えた分類に必要 (i)国家との関係: • LME、CME: 国家は調整者 • エタティスム(90年代以前のフランス)、補償国家(イタリア、スペイ ンなど): 国家は経済における中心的なアクター (ii)階級ベースの利害編成: 労働者が組織化されているか 国家の役割 国家-経済関係 階 緊密な関係 距離を置いた関係 級 的 利 害 断片化 エタティスム(1990 LME(イギリス、バル 年代以前のフラン ト諸国) 編 ス) 成 組織化 補償国家(イタリア、 CME(ドイツ、スロベ スペイン) ニア) (4)階級妥協の制度化 • 企業コーディネーションに加えて、労使対立 の妥協の制度化(団体交渉制度、社会福祉 など)を規準とする (i)社会的市場経済(Social Market Economies, SME): 制度化の進んだ経済 (ii)自由な市場経済 企業コーディネーション 階級妥協の 弱 制度化 強 弱 強 アメリカ 日本 イギリス (サッチャー 以前) スウェーデ ン、ドイツ 4、比較福祉国家論 (1)エスピン=アンデルセン: • 脱商品化、階層化、脱家族化が規準 (i)脱商品化: 市場に参加せずにどれだけ、一定水準の生活 を維持できるか (ii)社会的階層化: 社会保障の制度が階層とどのような関係を持 つか (iii)脱家族化: 家族の世話、介護をどの程度必要とするか エスピン=アンデルセン • 3レジーム: (i)自由主義: 市場中心的、脱家族化は進行、国家の役割は小さい (ii)保守主義: 脱商品化進行、家族の役割大、社会保険は充実 (iii)社会民主主義: 国家中心の普遍主義的福祉、平等化 • 欧米のみ対象 三つのレジーム 自由主義 社会民主主 義 保守主義 役 家族 割 周辺的 周辺的 中心的 市場 中心的 周辺的 周辺的 国家 周辺的 中心的 補完的 個人的 普遍的 血縁、コーポラティズム、 国家主義 市場 国家 家族 低 高 高 アメリカ スウェーデン ドイツ、イタリア 福 連帯の様式 祉 国 家 連帯の所在 脱商品化 典型 5、ボワイエの四つの資本主義論 (i)市場主導型: • 市場のロジック優位: 急進的イノベーション (ii)メゾ・コーポラティズム: • 生産に関する多様性と企業グループ内の連帯と可動性: 漸進的イノベーション (iii)国家主導型: • 生産、需要面での公共的介入: 大規模投資や長期的な急進的イノベーション (iv)社会民主主義型: • 社会、経済のルールに関する社会的パートナー間の交渉: 社会、経済問題に結び付いたイノベーション 市場主導型 メゾ・コーポラティズム 国家主導型 社会民主主義型 支配的原理 市場ロジック 企業グループ内の連帯と 可動性 公共的介入 社会的パート ナー間の交渉 制 度 形 態 賃労働関係 分権的賃金交渉、個別的報 酬、労働市場の分断 大企業内の賃金妥協、賃 金上昇の同期化 強力な制度化 団体交渉の集権 化 競争 独占禁止法 激しい寡占的競争 緩和された競争、 少数のグローバ ルな大企業 高い資本集中 度 貨幣・金融 中央銀行の独立性、金融市 場の優位 メインバンク、当局による 統制 信用・通貨の国 家統制、財務省 の優位 銀行型の金融 国家 小さな政府、断片的国家 小さめの政府だが、役割 は大 大規模な公共 的介入 大規模な公共的 介入 国際的編入 自由貿易体制 技術・経済による貿易、 金融の選択 国家統制 競争力原理の需 要 調整様式 市場的調整 大企業によるメゾレベル での調節 国家によるマク ロ的調節 社会的パートー 間の交渉 帰 結 イノベーション 急進的イノベーション 漸進的イノベーション 大規模投資型 急進的 社会・経済的 産業特化 情報、宇宙、薬品、金融 自動車、エレクトロニクス、 運輸、電気通信、 健康、安全、環 ロボット 境 皇宮、宇宙、軍 事 6、社会的イノベーション・生産システム (1)社会的イノベーション・生産システム(Social Systems of Innovation and Production, SSIP) • 技術競争力: 科学セクター、技術セクター、製造セクターの間の相 互作用のあり方によって決定 →製造セクターにおける技能、イノベーション能力、産 業競争力、産業特化パターン • 支える制度: 教育・訓練制度、金融、労使関係が重要 • 社会的イノベーション・生産システム: イノベーション特性(科学-技術-産業)と制度特性(教 育-労働-金融)からなる複合システム (2)5類型の資本主義論 (i)市場ベース型:アメリカ、イギリス 競争圧力の高い製品市場、フレキシブルな労働市場、直接金 融中心の資本市場、低福祉、競争的教育システムによる一 般的技能の形成 (ii)アジア型:日本、韓国 大企業中心の管理された製品市場と労働市場、銀行中心の 長期金融、低水準の社会保障、企業内教育 (iii)大陸欧州型:ドイツ、フランス 緩やかに規制された製品市場、調整された労働市場、間接金 融中心、発達した社会保障 (iv)社会民主主義型:スウェーデン、フィンランド 対外競争圧力は大きい、労働のフレキシビリティ大、間接金 融中心、高福祉、高度な公的技能教育 (v)地中海型:イタリア、スペイン 強く規制された製品市場と労働市場、雇用法昭代、間接金融 中心、低水準の社会保障 制度領域 比較優位産 業 製品市場 労働市場 金融 福祉 教育 市場ベース 型 規制緩和、 高い競争圧 力 フレキシブ ル化 株式市場中 心、短期的 資本 低福祉 競争的教育、 バイオ、情 一般的技能 報、航空宇 中心 宙 アジア型 大企業中心 の製品市場 競争 大企業中心 メインバンク、 低水準の社 会保障 の労働市場、 長期金融 長期雇用 私立の高等 教育制度、 企業内教育 エレクトロニ クス、機械 大陸欧州型 競争的ある いは緩やか な規制 調整された 労働市場 金融機関 ベース、長 期的資本 発達した社 会保障、 コーポラティ ズム 公的教育、 技能教育は 充実せず 特になし 社会民主主 義型 高い対外競 争圧力 高いフレキ シビリティ 銀行ベース 高度な社会 舗装、普遍 主義的 高度な公的 技能教育 健康関連、 木材 地中海型 強く規制さ れた製品市 場 強く規制さ れた労働市 場、雇用保 障 銀行ベース 限定的な福 祉国家 弱い教育制 度 繊維衣服、 皮革 市場と福祉による分類 低福祉国家 アジア型 市場ベース型 地中海型 自由化市場 大陸 欧州型 社会民主型 高福祉国家 規制市場 (3)SSIP論の特徴 • LMEの同質性は高いが、CMEは異質性が高 い II、日本型システムの展開 1、日本型システムの特徴 (1)雇用妥協 (i)アメリカ: フォーディズム的妥協: テーラー主義の受容vs生産性インデックス賃金の提 供 (ii)日本: 雇用妥協: 業務の無限定制の受容vs雇用保障の提供 →長期雇用、年功賃金:能力主義 →企業の成長主義、シェア至上主義的行動 (2)金融妥協と経営保障 • メインバンクシステム • 金融妥協: • メインバンクへの優先的な収益機会の提供 vs企業の経営保障 (3)特徴 (i)補完性: 雇用妥協と金融妥協の補完性 (ii)長期的コミットメントの優位: 終身雇用、長期的取引関係、メインバンク関係 など 2、輸出主導型成長体制 (1)時期による違い • 高度成長期: 投資主導型 • オイルショック後: 基本的には輸出主導型 戦後日本の成長体制 生産性 輸出 利潤 投資 生産(=需要) 雇用 1950,60年代に顕著 1970,80年代の顕著 消費 実質賃金 (2)投資(利潤)主導型成長体制 • 利潤主導型: 生産性→利潤→投資→生産性 • 消費の形成: 生産→雇用→賃金→消費→需要(=生産) • 19世紀的な回路(労働需要↑→賃金↑) • 収穫逓増: 生産→生産性 投資主導型成長体制 生産性 利潤 投資 生産(=需要) 雇用 消費 実質賃金 (3)輸出主導型成長体制 • 輸出主導型: 生産性→輸出→投資→生産→生産性 • 雇用: 輸出→生産→雇用 • 企業主義: 雇用→生産性の回路 輸出主導型成長体制 生産性 輸出 利潤 投資 生産(=需要) 雇用 3、長期不況 (1)成功の帰結としての失敗 • 企業主義→生産性上昇→輸出→円高→企 業主義の再強化 • 成功の帰結: (i)輸出→経常黒字、資産大国→バブル/崩壊→ 不良債権、収益悪化 (ii)企業主義の再強化→生活基盤未整備→生 活小国(社会福祉など)→将来不安 (2)90年代以降の状況 (i)長時間労働、労働強化: 過労死 (ii)正規雇用の縮小、非正規雇用の増大、成果 主義賃金の拡大 (iii)社会福祉の重要性増大、教育、技能形成の 必要性 (iv)株式市場の重要性増大: コーポレート・ガバナンスの変化 4、日本的システムの将来 (i)企業主義的調整様式は緩やかに解体中、た だし、新たなシステムは模索中 (ii)少子化の問題も従来のシステムの崩壊と関 連 (iii)収斂か、新たなシステムへの移行か? (iv)世界的には、金融主導型レジームの不安定 性は、サブプライム・ショックで証明されている • しかし、今後はどうなるかは不明
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