第4課 輻射の方程式 (Equation of Radiative Transfer) 2005年11月14日 授業の内容は下のHPに掲載されます。 http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/STAFF/nakada/intro-j.html 今回のキーワード 吸収断面積(Absorption Cross Section) σ 光学的深さ(Optical Depth) τ 源泉関数(Source Function) S 輻射の方程式(Equation of Radiative Transfer) 4.1. 吸収断面積 σ σ:粒子断面積 n:粒子数密度 dx I(x)+dI I(x) σ ? dI=-Iσndx =-I・dτ dx 正面(面積S)から見ると 総断面積 Σ σ S σ σ S σ Σ=σnSdx σ 被覆率 C σ σ C=Σ/S=σndx 光学的深さ(optical depth) τ 前頁ではdxを十分に小さく取り、Σ/S=dτ<<1の場合を考えた。この場合粒子 同士の重なりが無視できるので被覆率C=dτが成立する。 しかしdxが大きくなると、粒子が重なって見えるケースが現れてくる。例えば、Σ= nσdx=S(dτ=1)の場合、粒子の重なり合いが無ければSを正面から見たときに 丁度完全に粒子断面積で覆われて光は全て吸収される。しかし、重なりがランダ ムに起こるので隙間が残り、通過する光がある。つまり、被覆の効率が下がるの で、C<dτとなってくる。 問題は単位面積当たり総吸収断面積(=光学的深さ)τ=nσxと被覆率Cの関係で ある。 τ<<1 τ≧1 横から 正面から 横から 正面から 光学的深さ τ と被覆率 C τ=σ・n・x <<1の場合、τ=C この時、隙間の割合 T=1-C=1-τ τが大きくなった場合、上の図のようにτをN枚のスライスに分けて、個々のスライスの 光学的深さ(τ/N)<<1とする。スライスの隙間率 TN=1-(τ/N) であるから、N枚 重ねたスライスの隙間率は T=(TN)N=[1-(τ/N)]N である。スライスをどんどん薄くし、 その分スライスの数をふやすと、 N N N x T lim TN lim 1 lim 1 lim 1 x exp( ) N N N N N x こうして、光学的深さτと透過率T、被覆率Cの関係は、 T=exp(-τ)、 C=1-T=1-exp(-τ) とわかった。 τ<<1のときは、C=1-(1-τ)=τで最初の結果が確認される。 先に上げたτ=1、粒子の重なりが無ければ完全被覆になる、場合には dx T=1/e であることも分かる。 微分方程式による考え方 授業の最初に出てきた図に戻ると、 dI=-Idτであるから、 I I-Idτ dI I , I I 0 e d 右上の解に出てくる eーτが最初の導出にあったTにあたる。 ここまでは途中の粒子は何の光も放出せず、もっぱら光を吸収するだけと仮 定していた。 次に、粒子が吸収と同時に自身で光を放出する場合を扱う。 第1課の復習: 4πεdV=体積dVからの輻射エネルギー発生率 (ε=体積輻射係数) dΩ ds=X2dΩ dS dX dω X dSから視線方向Xの地点での、体積輻射係数をεとする。dSから見て、dΩに含ま れる体積dV=dsdX=X2dΩdX内の各点からdSを見込む角は dω=dS/X2 したがって、dVからdSを通ってdΩに放出されるエネルギー率は、 (4πεdV)(dω/4π)=(4πεX2dΩdX)(dS/ 4πX2)=εdXdSdΩ。 この式を見ると、dX部分からのIへの寄与 dI=εdX であることが分かる。 したがって、2)の場合は I=∫dI=∫εdx 吸収: dI=-IσdN= -Iσn dx=-Iκdx=-Idτ 放射: dI= εdx I(x+dx) 吸収と放射の両方を合わせて、 dI=-Iκdx+εdx I(x) dI(x)/dx= - Iκ+ε dI(x)/κdx = - I+ε/κ κdx= dτ τ = Optical Depth (光学的深さ) ε/κ=S S=Source Function (源泉関数) で、τとSを定義すると、 dI ( ) I ( ) S ( ) d dI ( ) I ( ) S ( ) d 輻射の基礎方程式 Equation of radiative transfer 上式では、簡単のため表示方式を指定していない。実際は周波数表示、波長表 示、総エネルギー表示の式を一括して書いてあるので注意がいる。 具体的には下の3式をまとめて書いたのが前頁の式である。 dI ( ) dI ( ) dI ( ) I ( ) S ( ), I ( ) S ( ), I ( ) S ( ) d d d 最初の総輻射強度に対する式で、τをどう定義するかは後で議論する。 吸収係数と見通し距離 大体τλ=1までを見通せると考えると、κλ大の波長で浅い場所からの光を、 κλ小では深い場所からの光が見える。 X κ(λ) τ=2 τ=1 λ λ1 λ2 τ=0 λ λ1 λ2 観測者 4.2.Source Function (源泉関数) : S 源泉関数Sはどう表せるのか? 0 局所熱平衡の仮定: 各点での吸収係数κや放射係数εが温度Tと密度ρ (LTE) で決定される。 ε(x)= εν (ρ,T)、κ= κν (ρ,T) Sν (τν) =εν (τν) /κν (τν) =Sν (ρ,T) すると、 1 T=T(x) : (Tが場所によって変わる) Ⅰはdxの間に、ΔI=-[Iν (x)-Sν (ρ,T)] dτν の変化を受ける。 I(x+dx) =I(x)- I(x)κ (ρ,T) dx+ε(ρ,T) dx I(x) = I(x) -[I(x)-S (ρ,T)] dτ (ρ,T) 他のところでは温度は必ずしもTではない。 2 その他の点でも温度が一様 すると、 にTになった状況を考えて Ⅰν (x)はどこでも、Ⅰν =B(T,ν) みる。 Sν (x)は前と同じ、Sν=Sν (ρ,T) I(x+dx)=B(T,ν)-[B(T,ν)-Sν (ρ,T)]dτλ I(x)=B(T,ν) I (x)=I (x+dx)= B(T,ν) なので つまり B(T,ν)-Sν (ρ,T)=0 熱平衡状態では ところが、Sν (ρ,T) は系全体が熱平衡か Sν (ρ,T)=B(T,ν) どうかには関係なく、そこがLTEであれば そこの(ρ,T) から決まるので、 一般に Sν (ρ,T)=B(T,ν) が成立する。 dIλ(τλ)/dτλ+Iλ (τλ)=B あλ[T(τλ)] か : LTEの輻射の方程式 4.3.簡単な解 (i) ελ(x)=0 :途中の物質がとても冷たい。x=0に光源Iλ0がある。 光源 吸収体 Iλ (x=0) Iλ(x) x x=0 ελ=0 つまり、Sλ=0 なので、輻射の方程式は下のように書ける。 dI ( x) I ( x) dx I ( x 0) I 0 I x I 0 e dx または I 0e ( x ) dI ( ) I ( ) d I ( 0) I 0 入射光 吸収体 κ 5 τ 0 I / Io 0 τ 出射光 下のグラフは、1995 ApJ 450, 74-89 Forster, Rich and McCarthy 活動銀河 Mrk231 のスペクトルである。 による、 この銀河は中心に高温の活動銀河核を持ち、そこからの連続(滑らかな)スペクトル が銀河内星間ガスにより吸収を受けている。 Mrk 231 活動核 連続光 星間ガス 1 吸収を受けた光 0.5 0 5970 A 5980 A λ 5990 A 波長5980A(=0.598μ m)の吸収線はMrk231星 間ガス中のNa原子によるも ので、D線と呼ばれる。 吸収線の深さから Mar231銀河内のNa原子のコラム密度Nを求めよう。 I exp( ) exp( N ) 吸収の強さ= I0 の関係が使えそうである そのためには、D線中央部でのNa原子吸収断面積σが欲しい。 D線中央の吸収断面積はσ=(2.2×10 -23 /D ) cm2 で与えられる。 ここにDは吸 収線の幅をA(オングストローム)で表した値である。グラフから読み取ると D≒1.8 Aである。σ=1.22×10-23 cm2 である。 銀河ではDは星間ガスの運動によるNa原子の視線速度のばらつきを表わす。 実験室ではDはNaガスの温度に対応し、 D=1.1×10-3 √T (A) である。 グラフから読み取ると D≒1.8Aである。ガス温度と考えると T =1.64×106 Kとなるが、星間ナトリウムがそんなに高い温度で中性原子でいるわけはない。 ガス運動速度のばらつきVと考えると、V/c=1.8A/5980A, V=90km/sec となる。 吸収線中央では ( I / Io ) = exp(ーτ)=0.5 τ=0.7 Na原子のコラム密度を N (cm-2) とすると、 τ=Nσ であった。 したがって、N=0.7/ ( 1.22×10-23 )=5.8×1022 /cm2 この値は、詳しいラインフィットの手法で求めたNaコラム密度とファクター 2程度しか違わない。 簡単な解(ii) I(x=0) = 0 (天体の向こう側からは光が来ない。Sλ(τλ)=一定) I(x,λ) I=0 S(τλ)=一定 x x=0 dI ( ) 0 I ( ) S ( ) S , d この式の解は、 I ( 0) 0 I ( ) S (t ) e( t ) dt 0 上の仮定のように 0 I ( ) S e S ( ) S 0 0 =一定の場合は、 et dt S0e e 1 S0 1 e 右のグラフから分かるように、 I ( ) S ( 1) I ( ) S ( 1) 0 0 I ( ) S 0 1 e I S 0 LTEが成立 [つまりS(τλ)=Bλ(T) ] の場合には上の式のSをBに置き換えて I ( ) B (T ) ( 1) I ( ) B (T ) ( 1) 0 1 2 3 輝度温度(brightness temperature) Tb Ⅰ(ν)=B(Tb, ν ) : Tbの定義 例えば、 Tc=100Kの星間雲を1.42GHz(λ=21cm)で観測する場 合、 x=hν/kTc =1.44 / 210,000 / 0.01=0.0007<<1なので 2kTC 2 2h 3 1 Reyleigh-Jeans 近似が成立し、B( , TC ) 2 c c2 h 1 exp kTC 光学的深さがτ<<1のこの星間雲を観測して、輻射強度I (ν)を得た。す ると、光学的に薄くかつレーリージーンズ近似が適用されるので、 2k TC 2 I ( ) B( , TC ) c2 この輻射強度Iνをレーリー近似を仮定して輝度温度Tbを使って表すと、 2k TC 2 2kTb 2 I ( ) 2 c c2 となるので、 Tb=τνTc 簡単な解(iii) I(x=0) =Io(λ) Sλ (x)=Bλ(T) Io(λ) 光源 光源と途中の吸収・輻射帯の両方 I(λ) 途中の吸収・放射帯 簡単な I(x,λ) = Io(λ) exp ( -∫κ(λ)ρ(x)dx ) = Io(λ) exp [-τλ ] I(x,λ) =∫S(t) exp{- (τλ-t)} dt をあわせて、 I (λ) = Io(λ) exp[-τ(x,λ)]+∫S(τ1λ)exp{- (τλ-τ1λ)} dτ1λ = Io(λ) exp[-τλ] + Bλ(T)[1-exp(-τλ)] τλ <<1の場合には、 I(λ) =Io(λ)(1-τλ)+ Bλ(T)τλ = Io(λ) + [Bλ(T) - Io(λ) ]τλ 解(i) 解(ii) 例: CaIIのK線の中心部に現れる彩層(chromosphere)輝線 Teff Tchrom(高温) スペクトル 恒星大気 彩層 Teff Teff 6,400 30,000 6,250 9,800 7,300 5,950 4.4.線形大気 全ての物理量AがX軸に垂直な平面内で一定と仮定する。 A(X,Y,Z)=A(X) (1) ーX軸方向(上向き)の輻射強度 I に対する方程式は、dI/dx=κI-ε (2) X軸に角度θを成す直線(μ=cosθ)に沿って、輻射方程式を考える。 Iλ (μ,τλ=0) τλ=0 Y Z X τλ t θ Iλ (μ,τλ) 直線に沿っての長さを t とすると、dI/dt= κI-εd l となる。 dt と X軸に沿っての深さdXとの関係は、dt=dx/μ なので、書き直して μdI(μ,x)/dx=I(μ,x)κ(x)-ε(x) 形式解 μdI(μ,x)/dx=I(μ,x)κ(x)-ε(x) :以下 Iλ 、 κλ等を I、κと省略する dτ=κdX とおいて、 μdI / dτ=I-S dτは光線に沿っての光学的深さでなく、X軸に沿っての光学的深さ、に注意。 光学的深さ=τの点で、X軸に対し角度θの輻射 I(τ,μ) は下のように 与えられる。 t=0 μ>0: I(τ,μ)=∫∞τS(t)exp[-(t-τ)/μ]dt/μ = eτ/μ∫∞ τ μ>0 S(t,λ)e-t/μdt/μ μ<0:I(τ,μ)= -∫τ0S(t,λ)exp[ (τ-t)/μ]dt/μ = -eτ/μ∫τ 0 S(t,λ) e-t/μdt /μ τ =∫τ0 S(t,λ) e-(τ-t) / (-μ) dt / (-μ) t μ<0 表面からの輻射強度 表面から角度θで出る輻射Iの解は下のように与えられる。 I(τ=0 、μ) = (1/μ)∫∞0 S(τ) exp(-τ/μ) dτ 上式を見るとSをSource Function と呼ぶことが納得される。 S(τλ)=S=一定(0<τ<τo)のスラブ表面での I(τ=0 , μ) を計算すると、 I(τ=0 , μ) = (1/μ)∫τo0S exp( -τ/μ) dτ = S[1-exp (-τo /μ) ] 自己吸収のあるスラブの表面輝度 τo=0.1 τo=0.5 τo=1 τo=2 1 θ 0.8 0.6 Ⅰ/S I(τ=0 , μ) 0.4 0.2 τo S(τ) 0 0 30 θ(° ) 60 90 線形解のフラックス S(τ)= a + bτ I(τ=0 ,μ>0) = (1/μ)∫∞0S(t)exp( ‐t/μ) dt =(1/μ)∫∞0(a+bt)exp( ‐t/μ) dt = (1/μ)[ a∫∞0 exp(‐t /μ) dt + b∫∞0 t exp(‐t /μ) dt] = a+ bμ= S(τ=μ) I(τ=0 ,μ<0) = 0 (μ>0) (μ<0) θ 下図で光線に沿ったτ=1に注意 τ=0 τ=μ=cosθ τ=1 Fλ=∫μIλ(μ,τ=0)dΩ= 2π∫10μ( aλ+ bλμ)dμ=2π(aλ/2 +bλ/3) Source Function Sλ (τ)=aλ+bλτ だったから、 Fλ=π[aλ+(2/3)bλ]=πSλ(τ=2/3) である。 温度Tの黒体表面からのフラックスがπBλ(T),ここにBλ(T)は輻射強度、 だったことを考えると、線形大気では、τλ=2/3の深さの所を見て いると言える。 I(τ=0) τλ=0 a τλ=μ=cosθ S(τ=2/3) τλ=1 S 0 1/3 2/3 1 a+b a+bμ 問題4 2005年11月14日 提出 4Aまたは4B 11月21日 4A 温度T=30K、波長λ=100μmでの光学的深さτ100=1の星間雲がある。 星間雲物質の吸収係数はκ(λ)=κ(100μm)・(100μm/λ)2で表される。 この星間雲のλ=1mmと1cmにおける輝度温度Tb(1mm)、Tb(1cm)を 求めよ。 4B 太陽の光度はLo=4×1026 W、半径Ro=7×108mである。太陽の周り 半径Rpcの空間に太陽と同じ半径と明るさを持つ星がn=10-2星/pc3の 数密度で一様に分布しているとする。 これらの星による星明りの総輻射強度I(W/m2/Steradian)は地上ではいく らになるか?星間物質、地球大気による吸収は考えない。 また、結果を縦軸logI, 横軸logRのグラフで表せ。 R∞のとき、星明りの地球表面でのフラックスが太陽表面のそれと同じに なることを示し、その物理的な理由を考えよ。
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