科学技術社会論学会報告(03/11/15 神戸大学百年記念会館) 科学と政治の境界 加藤源太郎 神戸大学大学教育研究センター [email protected] 1 今日の報告 問題の背景(STSの潮流) 批判的視点の提示 科学と政治のシステム論的分断 まとめと今後の課題 2 問題の背景(STSの潮流) 科学と社会のつながり 特に科学と政治のつながり 科学は社会によって構成される 科学も社会に大きな影響を与える ex. 「科学論の政治的転回」(平川 1998) 『科学と権力』(Stengers 1997) 3 問題の背景(STSの潮流)-2 環境問題・健康に関する問題etc. :科学の問題であると同時に政治の問題 →科学的かつ政治的公共圏の模索 -STS的問題構制の一角を形成 「公共的」な意見を無視して科学的専門家の独断で は展開できなくなった科学に対応する形で、科学につ いて論じるSTSもシフトチェンジしてきたと言える。 しかし 4 批判的視点の提示 STSは「科学かつ政治」といった観点を強調するあ まり、科学と政治に関する微細な関係を記述できな くなってしまった。 •「科学は科学の要素だけでは語りえない」という常套 句の語義的な曖昧さ •科学技術をテーマとして扱う政治と、科学技術の政 治的に語りうる部分ないしは政治的文脈において 読み取られた科学技術の営為、の混同 ⇒STSの理論的脆弱性 5 批判的視点の提示-2 例:サイエンスショップとコンセンサス会議 「科学技術の問題を担うエージェントが、科学技 術の専門家だけではなくなった」という文脈にお いて、比較的近い存在として議論されている。 →科学的合理性の領域で真偽判定を試みるのか、 政治的、民主主義的正統性において科学的合理 性を補完しようとしているのか、といった視点から 見れば、同等に扱うべきものではなくなってしまう。 cf. 科学的合理性/社会的合理性(藤垣 2003など) 6 サブ政治(U.Beck) 再帰的近代化の一端としてのリスク :科学の進展が科学自身を方向づけ、科学自身 の条件を予測不可能な形で変容させてしまう 科学だけでなく、社会そのものを変容させてしまう力 =社会的革新の力が非政治の領域に宿りはじめた 政治の領域とは別物であると考えられていたが、新 たに政治と同じような効果をもつようになった領域 ⇒サブ政治(Subpolitik) 7 サブ政治(U.Beck) -2 政治の領域が小さくなっている(Beck 1986) 科学の領域が限定的になってきたという認識 どちらも科学と政治の脱分化的状況を指摘している が、どちらの議論も定義が曖昧なため、両者の決定 的な視点の違いを指摘できないでいる! →政治システムの社会的機能の評価 8 社会システム論(N.Luhmann) 『社会システム理論(Soziale Systeme)』(1984= 1990)など一連の論考 チリの理論生物学者、 Maturanaらの「オートポイエ シス理論」に依拠 cf. H.R.Maturana and F. J. Varela(1980=1991) 『オートポイエシス(Autopoiesis and Cognition)』 閉じつつ開いたシステム観:各システムの自律性を 維持しながら、システムの連関を説明 9 科学と政治の境界 科学システム:もっぱら(科学的問題の)真偽判定 に向けられる 権力が介入していようがいまいが、科学システ ムは科学的真偽を判定するシステムである 政治システム:決定権力の帰属や権力行使に向け られる 社会体制によって特定の科学的成果が歓迎された としても、科学システムは真偽判定のコードから逸 脱することはできない。 10 科学と政治の境界-2 具体的な組織や集団を想定することは不適切 →詳細に見ようとすればするほど、諸システムの 複雑な交錯を目の当たりにしてしまう cf. アクターネットワーク理論(Callon 1991ほか) →具体的な対象の分析ではなく、意味の空間にお いてとらえられるべきもの システムの構成要素は、人間や組織ではなく、シ ステムにおける特定のコードに向けられたコミュニ ケーションである。 11 科学と政治の境界-3 具体的な対象を分析できない理論装置の意味? →対象の表面的な分析ではなく、機能や意味と いったレベルにおける分析が可能 構造的カップリング ?? メタ有機体 12 まとめ 社会システム論的視座の導入によって、科学と政 治、科学と社会の関係性をさらに詳しく分析できる ようになるのではないか。 ↓ 科学技術の専門家や科学的合理性が、社会におい て依然として重視されているという事実に対する分析 システム信頼についての分析:「自律的参加」を強制 しない形での社会統合のあり方 13 今後の課題 個人的な研究課題 • 科学システムのオートポイエシス(自己再生産)に 必要不可欠またはエッセンシャルな政治と、不必要 な(または撹乱要因になりうる)政治の区別 • 科学システムと政治システムが同じアリーナに登 場するときの条件や、両者間の特定の結合形式の 分析 • 専門家や専門知識(expertise)の社会的機能 14
© Copyright 2024 ExpyDoc