経済学入門 (13)デフレ,実質金利,就業 丹野忠晋 跡見学園女子大学マネジメント学部 2013年7月4日 復習1-1 経済学とは個人や企業の 選択 に関する学問 経済の諸問題は,利用可能なモノやサービス,機 械設備,時間の 希少性 から発生しています ある物を食べるには他の何かを犠牲にしなければ ならない 経済学とは英語で economics と言う 2013/7/4 経済学入門 13 2 復習1-2 以下は利己的な行動 消費者は賢く買い物する 企業が儲けようとする アルバイトで時給を含めた良い待遇を求める 人々が利己的だから経済は上手くいく ある物を多く手に入れるには,他の何かを 諦めなければならない状況をトレードオフ がある状況という 2013/7/4 経済学入門 13 3 復習2-1 インセンティブは人々の行動を変化させる 日本で豊富な財があるのは競争があるから 国防,警察,司法が所有権を保護する 多くの人々が交換を行う場を市場と呼ぶ 市場に組み込まれたインセンティブによっ て希少な資源は有効活用される モデルは経済の重要な点に焦点を当てる 完全競争市場では経済主体は価格を操作す る事ができない 2013/7/4 経済学入門 13 4 復習2-2 3つの主要な市場:生産物市場,労働市場, 資本市場 市場がうまくいかない場合に政府が補完 政府は個人が負担しきれないリスクも負担 する 財政支出の中で社会保障費が一番大きい 効率的な市場を補うのが政府の役割 2013/7/4 経済学入門 13 5 復習1 付加価値=企業収入ー中間財の費用 GDP=全企業の付加価値の合計 生産された物の売上は誰かの所得になる GDP=賃金+利子支払い+間接税+利潤+減 価償却 総生産は総所得に等しい 2013/7/4 経済学入門 13 6 復習2 経済は波打ちながら成長していく 好況→後退→不況→回復→好況 消費者物価指数は家計にとって重要な物価の 動向を見るための指数 GDPデフレータは国内で生産される財の物価 指数 名目GDP 実質GDP= GDPデフレ-タ 2013/7/4 経済学入門 13 7 物価とインフレ率 物価が上がるか下がるか動きが大切 今年の物価がP,去年の物価がP0とする インフレ率は物価の上昇率を表す P- P0 × 100 P0 変化率はパーセント表示 マイナスだとデフレ ◆問い 去年の物価指数100で今年は98ではイ ンフレ率はいくらか 2013/7/4 経済学入門 13 8 インフレと異なった時間の選択 ◆解答 98 - 100 × 100= -2 (%) 100 インフレ率は-2%.物価の下落を意味 物価が下がれば消費者は得をする 物価が動く世界では考慮すべきことがある 将来の価格の動向 将来の話だから予想を考える 需要・供給曲線のシフトの要因の1つに予想 2013/7/4 経済学入門 13 9 名目利子率と実質利子率 来年の夏に旅行しようとお金を貯めた 1年間預けると利子が入り嬉しい 石油価格が下がり航空運賃が下がり嬉しい 将来の消費を考えるには将来の価格と利子の 両方を考えねばならない 両方を考慮に入れた実質利子率,実質金利 今まで学んできた利子率は名目利子率と言う 名目利子率は今年一万円を貯蓄したら来年何 円もらえるか金額で測る 実質利子率は物価の影響を除いて数量で測る 2013/7/4 経済学入門 13 10 実質利子率 価格が変化する世界では実質で考える必要 実質利子率は今年の消費を控えて貯蓄したら来 年どれだけ消費が増えるかを表す 実質利子率 real interest rateの定義 実質利子率=名目利子率-インフレ率 普通の利子率からインフレで減少した分を引く 例:名目利子率が 0.03 (%). インフレ率が -1.4(%) の時の実質利子率は 0.03-(-1.4)=1.43 (%) 実質利子率は1.43%であり思いの外高い 2013/7/4 経済学入門 13 11 実質利子率/2 例:名目利子率が 1 (%). インフレ率が 1(%)の時の 実質利子率:1-1=0 (%) 今年の物価指数は 100 .今年一万円所有していた 今年の消費量: 10,000/100=100 (個) 貯金すると来年の元利合計 10,000(1+0.01)=10,100 インフレで来年の物価指数 100×1.01=101 来年の消費量 10,100÷101=100 (個) 今年と来年の消費量は同じ.実質的に利子なし これは実質利子率が 0% であることを意味する 2013/7/4 経済学入門 13 12 実質利子率/3 2010年日本の利子率が低い.しかし,デフレであ ったので実質利子率は他の先進国と比べ高い 国名 政策金利 - 物価上昇率 = 実質金利 日本 0.10 - (-1.30) = + 1.40 アメリカ 0.12 2.60 = - 2.48 イギリス 0.50 3.50 = - 3.00 欧州 0.34 0.90 = - 0.56 主要国の実質利子率はマイナス 白川日銀総裁の国会答弁より,衆議院財務金融委員会 議事録 ,開催日:平成22年3 月1日 http://www.yamamotokozo.com/report20100627.htm 物価が動く時は資本市場では実質利子率が価格 2013/7/4 経済学入門 13 13 物価が動く経済の資本市場の均衡 実質利子率 r 貯蓄曲線 S と投資曲線 I I の交点で実質利子率決定 S 貯蓄曲線 S =供給 名目に比べて実質利子率は高い r* 投資曲線 I =需要 I*=S* 2013/7/4 経済学入門 13 資金量 14 デフレで得をする人,損する人 貯蓄は将来物を買うために行う 借金は今物を買うため=今買える物以上に消費 名目利子率1%でインフレ率-1%であるとする デフレにおいて貯蓄と借金どちらが有利だろうか? 実質利子率=1-(-1)=2 (%) 名目利子率1%で貯蓄している人.物価指数は100 今の1万円を諦める 10000/100=100(個)の消費を諦める 来年102(個)の消費ができる.利子が入り,物価が下がる 102個消費できるのは実質利子率が2%であるから 2013/7/4 経済学入門 13 15 名目利子率1% で1万円借金している人 借入で10000/100=100(個)の消費ができる 利子率が1%だから返済は10100(円) 10000×(1+0.01) =10000×1.01 =10100 (円) この借金によって将来どのくらい返済するのか? デフレ(-1%)で物価指数は100から99に下落 10100 / 99=102.0 現在消費100(個)のため来年の102(個)を返済 しなければならない デフレが進むほど返済する財の量は増える 2013/7/4 経済学入門 13 16 デフレで有利な人 企業は借り入れ主体.家計は貯蓄主体 デフレにおいて企業に比べ家計・労働者は有利だ ただし,賃金が消費者物価よりも下がらなければ 貯蓄者(債権者)も有利だ 名目利子率は低いが消費者物価が下落すれば有利 債務者(借金している人)は不利 現在得ている物以上の物を返済する必要がある 企業は現在よりももっと沢山の物を作る必要 企業や借金している人はデフレを望まない 家計や正の純資産を持っている人はデフレが良い 2013/7/4 17 経済学入門 13 労働市場 みなさんは労働サービスを供給 アルバイトの時給が価格 (生産物価格一定) 賃金率は時間や一日当たりの労働時間で測った賃 金 賃金は英語で wage 価格は賃金率 w 労働は英語で labor 数量(何時間あるいは何日働く)は L 賃金=賃金率×労働時間= wL 2013/7/4 経済学入門 13 18 労働市場の均衡 w 賃金率 D 均衡賃金率と 均衡労働量が 決まる S 労働供給曲線 w* 労働需要曲線 労働量 L L* 2013/7/4 経済学入門 13 19 実質賃金 アルバイト代(1000円)は物を買うために使われる アルバイトの時給 1000 = = 100 (個) うまい棒の価格 10 デフレーションでうまい棒の価格が5円になった 1時間の労働で買えるうまい棒の個数 w 1000 = p = 200 (個) 5 うまい棒 100 個から 200 個へ消費増加 時給が不変ならば価格下落で消費者は有利に 2013/7/4 経済学入門 13 20 実質賃金 1時間当たり何単位の財が買えるかが重要 生産物価格 p も労働供給にとって重要 1時間働いて購入できる財の数量を実質賃金率と 呼ぶ w p =労働単位時間当たり購入できる財の量 金額で考えた時給 w は名目賃金率と言う GDPや利子率と並んで賃金率も実質が重要 経済学の中で名目と実質は良く出てくる 2013/7/4 経済学入門 13 21 物価が動く経済の労働市場の均衡 w 実質賃金率 p D 本当は実質賃金率が労働の価格 S 労働供給曲線 w* p* 労働需要曲線 L L* 2013/7/4 経済学入門 13 労働量 22 国税庁の統計から見た給与所得 平成 23 年 の給与所得者数は5,427万人 1年を通じて勤務した給与所得者数は 4, 566 万人 平均給与は409 万円 (対前年比0.7%減) 最も高い給与:電気・ガス・熱供給・水道業の 713 万円,次いで金融業,保険業の 577万円 最も低いのは宿泊業,飲食サービス業 230万円,農 林水産・鉱業,サービス業284万円と続く 給与800万円超の給与所得者は366万人で全体の給与 所得者の8.0%.その税額は合計4兆4,472億円で全体 の58.9% 標本調査結果|統計情報|国税庁 民 間 給 与 実 態 統 計 調 http://www.nta.go.jp/kohyo/tokei/kokuzeicho/minkan2011/pdf/001.pdf 2013/7/4 経済学入門 13 23 実質的な給与 2010年から2011年にかけて平均給与は 0.7%減少 2010年の消費者物価指数100.2011年は99.7 99.7 - 100 × 100= -0.3 (%) 100 実質的な平均給与=給与上昇率ーインフレ率 実質で測った平均給与は -0.7-(-0.3)=-0.4 (%) 2011年は実質的に給与が減少している(0.4%減) 2013/7/4 経済学入門 13 24 雇用と労働 乳幼児・学生→ 就業者→引退 1年を通じて勤務した給与所得者の平均年齢は 44.7 歳 平均勤続年数は11.6 年(男性13.0 年、女性9.5 年) 雇用は仕事をさせる目的で人を雇うこと 雇用者(逆の意味の場合も)と被雇用者 生産年齢人口は15歳以上65歳未満の人口 労働人口は働く意志と能力のある人々.非労働力人口 労働参加率は生産年齢人口に対する労働力人口の 割合 2013/7/4 経済学入門 13 25 万人 就業状態別15歳以上人口 - 全国 :総務 省統計局 働く意志がない:老人,学生 12000 10000 4540 8000 非労働力人口 労働力人口 6000 働く意志のある人 4000 6555 2000 0 2013/7/4 経済学入門 13 26 失業 職がないと給与が貰えない.困る 失業とは,就業する意思と能力がある人が生産活動に 従事していない状態 経済的困窮,生活水準の低下,自尊心を傷つける 若者の失業:人的資本の喪失,将来の労働生産性の 低下 中高年の失業:病気や怪我をしやすい,家族への影響 2013/7/4 経済学入門 13 27 万人 6000 就業者と完全失業者 2012年 285 働きたいけど 働き口がない 5000 4000 3000 6270 完全失業者 就業者 2000 1000 0 2013/7/4 経済学入門 13 28 労働市場での失業 w 名目賃金率 D 財の価格は一定とし て名目賃金率を採用 S 失業 w** w* 高い賃金が失業の原因 労働供給曲線 労働需要曲線 労働量 L L* 2013/7/4 経済学入門 13 29 失業率 失業の状態も率で測る 失業率(unemployment rate)とは就業しておらず求 職活動をしている人数の労働力人口に対する比率 労働力人口=就業者数+失業者数 失業者数 失業率= × 100 労働力人口 2012年の日本の就業者数が6270万人,失業者数 が285万人 http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm 出典(総務省「労働力調査」) 2013/7/4 経済学入門 13 30 2012年日本の失業率 失業者数 失業率= × 100 労働力人口 失業者数 = × 100 就業者数+失業者数 285 = × 100 6270+ 285 285 = × 100 6555 28500 = ≒ 4.34 6555 2012年の失業率は約4.3% 2013/7/4 経済学入門 13 31 失業率 出所:総務省統計局 % 6.0 5.0 5.3 4.7 4.0 5.1 5.1 4.4 3.0 4.1 3.9 4.0 4.6 4.3 2.0 完全失業率 (%) 1.0 0.0 2003 2013/7/4 2004 2005 2006 2007 2008 経済学入門 13 2009 2010 2011 2012 年 32 仕事の探しやすさ 有効求人倍率は仕事を探す人1人に何件の求人 があるかを示す 有効求人倍率 リーマンショック前の水準に NHKオンライン 6月28日 8時41分 掲出 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130628/t10015649511000.html 有効求人倍率が0.90倍まで達したのは、 平成20年6月以来、4年11か月ぶりで、 リーマンショック前の水準に戻りました。 求職者100人に90件の職業紹介がある 2013/7/4 経済学入門 13 33 職種によって求人倍率が違う 【東京】職種別有効求人・求職状況(一般常用) 2013年5月 (単位:人、倍) http://tokyo-hellowork.jsite.mhlw.go.jp/var/rev0/0103/9799/201371205414.pdf 職業計 0.91 • 専門的・技術的職業 • 事務的職業 1.57 0.25 • 接客・給仕の職業 • I T関連の職業 3.31 1.85 • 福祉関連の職業 2013/7/4 経済学入門 13 2.27 34 正規雇用と非正規雇用 正規雇用は期間を定めない=終身雇用 非正規雇用は期間を定めた短期契約で職員 を雇う.パート,アルバイト,派遣社員 雇用形態別役員を除く雇用者(万人) 出所:総務省統計局 1870 3281 2013/7/4 経済学入門 13 正規の 職員・ 従業員 非正規の 職員・ 従業員 35 ブラック企業,非正規雇用,早期退職 学生の一部は高卒レベルの企業,所謂ブラック 企業に就職.或いは非正規雇用 大学新卒の3年以内の離職率は28.8% 大卒3割が3年以内に退職、小企業は5割超 ★ 大量に新卒採用.数年後大半が離職.また若い 新卒を大量に採用する企業の存在 人件費が安く付くので合理的 企業には社会保険料の事業主負担分のコスト 正社員を雇うより時給1,000円で1日6時間,月 10回勤務のアルバイトを5名採用が安上がり 2013/7/4 経済学入門 13 36 給料 上が る 良い 出会 い 直ぐ 内定 海外 旅行 良い 企業 給料一 定・退 職 内定 無い 出会い 無い 遊ぶ お金な い ブラック 将来のビジョン・キャリア 失業の形態 1年以上失業している長期的失業は深刻 夏の北海道の牧場で働くような季節性のある労働 季節によって変化する失業は季節的失業という ある職業から他の職業へ移るときに起きる失業を 摩擦的失業という 景気後退期に増加して,好況期に減少する失業は 循環的失業という マクロ経済政策が主に扱う失業 2013/7/4 経済学入門 13 38 構造的失業と自然失業率 1年以上の長期にわたり失業している者は増加 平成22 年に入り100 万人を超え.★ 「正規の職」を探している者が67 万人 世の中には成長する産業と衰退産業がある 長期的失業は構造的要因 構造的失業とは労働需要と供給の間で労働者の 質や地域にミスマッチがあるために起こる失業 自然失業率とは「自然な」失業率.摩擦的失業と構 造的な失業の和で表わされる 2013/7/4 経済学入門 13 39 復習1 将来の消費を考えるには将来の物価と 利子率の両方を考えねばならない. 実質利子率は今年の消費を控えて貯蓄 したら来年どれだけ消費が増えるかを 表す 日本は2010年,利子率が低いがデフレ で実質利子率は他の先進国と比べ高い 2013/7/4 経済学入門 13 40 復習2 働く事は労働サービスを供給 単位時間当たりで測った賃金である賃金率が 労働の価格 有効求人倍率はハローワークで仕事を探す人1 人に何件の求人があるかを示す。 就業する意思と能力がある人が生産活動に 従事していない状態を失業という 失業率=失業者数/労働力人口 構造的失業とは労働需要と供給の間で労働者 の質や地域にミスマッチがあるために起こる 2013/7/4 経済学入門 13 41 アンケート,宿題(締め切り火曜日) テキスト第8章p.223~p.248を読む テキスト第9章p.253~p.272を読む ポータルのアンケートと宿題に答える 1. 名目利子率と実質利子率の意味を説明しなさい. 両者はどのような関係にあるか.復習問題5(p.273) 2. 計算問題(第11,12,13回のレジュメを見返すこと) 2013/7/4 経済学入門 13 42
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