11/18日

デジタル情報学概論
2004年11月18日 第8回資料
担当 重定 如彦
医療情報システム その1
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医療会計事務
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診療報酬明細書(レセプト)の電子化
注:レセプトとは健康保険組合などに対し医療機関が請求する診療報酬の明細書のこと
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内部会計事務のシステム化
コンピュータ処理による様々な処理の高速化
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診察券の磁気カード化
受診の申し込みをカードリーダーを使って処理
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再診予約の自動化
一度診療すれば、再診の申し込みが自動受付装置で行える

病院内LANの整備
病院内をネットワークで繋ぐことで、病院のどこでも様々な手続きを行える
医療情報システム その2

CT・MRI

CT(Computed Tomography) コンピュータ断層撮影装置
X線、ガンマ線、電子線、超音波などを使って人体の断面を調べる技術
様々な方向から撮影を行い、画像処理を行うことによって、人体の内部を
3Dのグラフィックとして表現することが可能

MRI(Magnetic Resonance Imaging) 磁気共鳴画像装置
CTの一種でNMR(核磁気共鳴)を使って撮影する技術。X線を使った
CTなどと比べ、人体に対する悪影響(被爆の危険性)がない
現在では、CTやMRIを使って完全に肉眼と同じレベルで人体の内部の
3D画像を作成するが可能であり、病態の把握や治療に役立っている
医療情報システム その3

外科手術のシミュレーションとナビゲーション

シミュレーション
実際の手術を行う前に、コンピュータを使った手術のシミュレーションを行うことで、
手術の計画を立て最も最適な手術方法を選択する

ナビゲーション
手術を受ける患者や、患者の家族に対してコンピュータを使った手術のシミュレーションを
行うことで、実際の手術について従来では行えなかったような具体的な説明を行うことが
可能。近年医療の世界で重要視されているインフォームドコンセントとして最適である
注:インフォームドコンセントとは?
「説明を受けた上の同意」のこと。治療の目的や方法、予想される効果や起こりうる可能性のある
副作用、治療をうけるにあたって守るべき事項等について十分説明し、患者がそれを十分に理解した
上で治療を受けることを同意すること
医療情報システム その4

様々なデジタル医療機器
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3次元CTアンギオグラフィ
血管の3D画像を作成する機器。脳の様々な血管系の病気のシミュレーションやナビゲーション用機器
として極めて有用な成果を残している

脳SPECT/CT/MRI統合3次元画像
SPECT(Single Photon Emission Tomography)は体内にtracerと呼ばれる物質を注入し、その動きを
観測する技術であり、体内の機能を調べるという目的に有用である。SPECTとCTやMRIの技術を組み
合わせることで、さらに高度な診察やシミュレーションを行うことが可能になる

手術ナビゲーションシステム
3次元位置検出器や、画像入力システムによって手術のナビゲーションを行う装置
開頭手術や脊髄手術などに用いられる。また、様々な手術ロボットが開発されている
参考:様々な画像診断法および検査機器を紹介したウェブページ

http://www.page.sannet.ne.jp/cybernet/newpage9.htm
医療情報システム その5

VR(Virtual Reality)技術の医療応用
VR(Virtual Reality:仮想現実感)やAR (Augmented Reality:拡張現実感)の技術
が医療に大きく貢献している
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VR:ヘッドマウントディスプレイや、コンピュータに接続されたグローブを使って、
コンピュータが作り出した仮想の空間を人間に見せ、操作することを可能にする技術

AR:電子制御の眼鏡などを使って、実世界の映像に、仮想の映像を重ね合わせる技術

電子機器を眺めると、その電子機器の使い方が眼鏡に映し出される

店を眺めるとその日のお勧めのメニューが映し出される
VRやARの技術を医療に応用することで、あらかじめコンピュータに入力しておい
た患者のデータを使った手術のリハーサルや、医学教育などを行う事が可能
また、実際の手術の場においても、患者の様々な情報をVRやARで見ながら手術を
行うという、従来では到底行うことができなかった手術を行う事が可能
⇒手術の成功率の向上、医療ミスの防止に貢献
医療情報システム その6

知的診断の支援技術
コンピュータ医療機器の発達による、患者に対して得られる情報の肥大化
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利点:情報が多ければ多いほど、より正確な診断が可能になり、治療の役に立つ
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欠点:医師の数は限られているため、情報量が多くなりすぎると人間の手ではとても処理
をしきれなくなってしまう
そこで、コンピュータを使って診断を支援する為の技術が必要不可欠となっている

眼底画像読影支援
眼底画像から高血圧症をコンピュータを使って行う
判定は眼底画像中の動脈と静脈の太さの比率をコンピュータが解析することで行う

CT画像読影支援
CT画像では、一人当たり撮影された画像が数十~数百枚に及ぶ場合が多い
そのような大量の画像をコンピュータを使って効率的に閲覧できるようにする
また、CT画像をコンピュータが解析し、声や画像を付加することで、診断を支援する
医療情報システム その7

電子カルテ その1
カルテを紙で記述した場合、カルテの保管や検索が非常に大変である
カルテを電子化することで以下のような利点を得ることができる

カルテの検索の効率化
患者の診察カードを機械に通すだけでカルテをコンピュータに瞬時に表示することが可能

病院内での情報の共有
病院内の各科で情報を共有することが可能になる

他の医療機関との情報の共有
他の病院の利用時に、電子カルテを転送することで病歴や薬暦などの情報を共有可能

カルテの読みやすさや記述の標準化
手書きのカルテに比べて読みやすくなる。また、手書きの場合、カルテの記述方法は医師
によってまちまちであったが、電子化することで、記述を標準化することが可能になる
⇒カルテを共有した時の利用効率が上がる
医療情報システム その8

電子カルテ その2
電子カルテの問題点と対策
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患者とのコミュニケーションが薄くなる
電子カルテの場合、カルテを記述する為に、キーボードを打つ必要があり、患者を見ることが
できないため、患者との心のつながりが薄くなってしまう可能性がある
最初は手書きでカルテを記述して、それを後で電子化するという方法も考えられるが、
二度手間になってしまうという欠点がある

改ざんの問題
手書きのカルテは、後から改ざんされてもボールペンなどで記述しておけば、改ざんされたこ
とを容易にチェックすることが可能であるが、電子カルテの場合はそれが不可能
改ざんを防ぐ方法としては以下のような方法が考えられるがこれらを義務付けるのは困難

作成したカルテをその場でプリントアウトして患者に手渡す(医療の場での究極の情報開示)

カルテの作成や書き換え時にバイオメトリクスなどの認証技術を使う

誰がどう書き換えたかをすべて記録し、外部監査によってチェックを行う
医療情報システム その9

医療用画像情報の電子保存
従来は、医療用の画像はフィルムで保管されていたが、フィルムで保管した場合は、
紙のカルテと同様に、フィルムの保管場所や、検索の問題が発生する。そのため、
医療用の画像の保存形式を標準化し、電子保存を行うという動きが活発になっている

管理と検索の効率化
フィルム2000枚分の情報(重さ60kg)がたった1枚の光磁気ディスクに保存可能
保管された膨大なデータを容易に検索し、画面に表示することが可能
例えば、患者の目の前でデータを呼び出し、過去の記録と比較することが可能

遠隔地での電子画像の交換
患者が引っ越した場合などの情報交換や、遠隔地にいる専門家との情報交換や可能
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法律の整備
1999年4月に厚生省がX線フィルムに続いてカルテのデジタル保存を認めた
医療情報システム その10

医療情報ネットワーク
医学の世界は分野が多岐に渡っているため、あらゆる病気に精通している医者は残念
ながら存在しない。また、医学の世界も他の分野と同様に日々技術が進歩している
そこで、最新の医療情報を即座に得ることができるようにする為に、医療用の様々な
コンピュータネットワークが構築されている。
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緊急医療情報ネットワーク
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臓器移植情報ネットワーク
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大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)
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大学病院衛星量情報ネットワーク(MINCS)
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国立病院がん情報ネットワーク

アメリカ国立がん研究所のキャンサーネット
国際的に有名な医療情報ネットワークで、世界中誰でも最新のガン情報にアクセス可能
患者自身がこれを利用し、数人の医師のアドバイスを受けながら自分自身に最も適した治療方
法を選ぶという「インフォームドチョイス(informed choice)」が行われる時代が到来している
福祉情報システム その1

要介護者保険証のICカード化
福祉の分野の情報化は医療の情報化と比べると残念ながら遅れていたが、
2000年の介護保険法の施行をきっかけに情報化が進められている
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レセプト制度の導入
診療報酬の明細書(レセプト)を義務付けることで金の流れを明確化
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要介護者保険証のICカード化
保険証をICカード化することで様々な介護サービスの手続きの自動化やワントップ化を実現
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福祉サービス施設の情報システム化
レセプトや保険証のICカードを扱う為の情報システムの導入

自治体による福祉総合情報システムの構築
要介護者の実態の把握、要介護者の認定、
介護保険事業計画の策定、介護保険事業の運営など
福祉情報システム その2

情報技術による弱者の支援
かつての、情報化の技術の多くは、健常者にとっては使いやすいものであったが、
逆に高齢者や障害者を阻害するものと考えられていた
例:券売機をタッチパネル化することで、目の不自由な人が切符を買いにくくなる
近年では逆に情報技術を使って高齢者や障害者を支えようという動きがでている

アメリのADA法(障害を持つアメリカ人法)
公的な製品やサービスはすべて障害を持つ人々も利用できなければならないことを定めた法律
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郵政省などによるユニバーサルアクセス、ユニバーサルデザイン
情報通信システムが誰でも(Universalに)簡単にアクセスできるようにしようという概念
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情報バリアフリー社会の構築
点字や障害者用の音が出る横断歩道などの、物理的なバリアフリーだけではなく、情報の分野でも
バリアフリーな社会を築いていく必要がある
注:バリアフリーとは垣根(バリア)が無い(フリー)ことを意味する。すなわち、バリアフリーな社会とは
健常者や障害者の区別なく誰でも暮らしていくことができる社会のことを表す
福祉情報システム その3
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聴覚障害者を支える為の情報技術
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DSP(デジタル信号処理)による補聴器
デジタル信号を処理することで、話し声だけを大きくする補聴器
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話速変換機能付きデジタル補聴器
音声を1.25~1.5倍程度に時間を引き延ばす補聴器
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骨導音を利用したシステム
頭蓋骨を通して音を直接伝えるシステム。骨伝導型電話機などがある
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電話リレーサービス
聴覚障害者の入力した文字を交換手が口頭で相手に取り次ぐサービス
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音声認識装置
音声を自動的に文字に変換するシステム
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触覚による聴覚補助代行システム
音声を点字など、触覚情報に変換するシステム
福祉情報システム その4
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視覚障害者を支える為の情報技術
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インターネット点字変換サービス
インターネットの情報を自動的に点字に変換するシステム
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文字→音声変換機
ウェブページの内容を自動的に読み上げる
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デジタル眼鏡
透過型のデジタル眼鏡を使って画像処理を行うことで、視覚障害を補う
例えば、色盲の人に色の情報を文字で伝えるなど
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音声圧縮を使った朗読システム
情報センターに蓄積された朗読音声情報を圧縮し通信するシステム
60分の音声を数分で転送可能
福祉情報システム その5
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運動機能障害者を支える為の情報技術

首振り動作による文字入力システム
身体機能が麻痺した、首をかすかに振ることしかできないような障害者を補助する
文字入力システム。画面に表示された五十音にカーソルが表示されており、首を
かすかに振ることでカーソルを動かしたり、文字を決定するシステム

視線の動作による文字入力システム
首振り動作による文字入力システムに似ているが、視線を使って文字入力を行う
類似するシステムに、呼吸、瞬き、指先の動きなど、体の中で動かすことが可能な
あらゆる部分を使って文字を入力するシステムが考案されている

歩行動作解析システム
歩行機能の障害者のリハビリなどで、歩行の動作を画像処理などを使って解析し、
提示することで、症状の進行度、治癒度などを明確にすることが可能
福祉情報システム その6

高齢者に優しい技術
身体機能の衰えた高齢者のQoL(Quality of Life:生活の質)やアメニティ(快適性)を
高めるために様々な情報技術が開発されている
これらの技術が備えるべき要件には以下のものがある
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無侵襲・無拘束計測
使用者の動きを拘束せずに、生体情報を計測・モニタリングすること

自動化・インテリジェント化
機器の操作が自動で行えること。完全自動化が不可能な場合でも、状況に応じてインテリ
ジェントに機器の操作方法の指示や、機器の状態がわかりやすく表示されること

フールプルーフ(foolproof)化とフェイルセーフ(failsafe)化
言葉は多少悪いが、馬鹿でもできる(foolproof)ほど操作が簡単であること
また、不足の事態(fail)が起きても安全(safe)であること

安全性の完備と最小の保守管理
家電のように、特に定期的にメンテナンスを行わなくても安全であること
福祉情報システム その7

在宅高齢者生体情報収集・記録システム
在宅高齢者の健康状態を管理するためのシステム
血圧・呼吸数のようなバイタルサイン(体が発する情報)だけでなく、愁訴(苦しみや
悲しみを訴えること)や運動、身体活動状況などの収集、記録も重要である

テレメーション端末
文字・画像処理機能付き多機能電話(テレメーション)を高齢者の自宅に設置し随時モニター
する。モニターの際にはプライバシーの問題が発生するため、介護サービスをとるか、プライ
バシーを取るかは高齢者本人との話し合いの上で本人が意志を尊重する必要がある

患者データベースの構築
福祉センター側では、テレメーション端末から送られてきた情報を電子化し、患者データベー
スに蓄積する。また、患者データベースを解析することで、患者の状態を遠距離から把握し、
患者の管理を的確に行う

介護者への指示
患者データベースの解析の結果必要が生じた場合、介護者に的確な指示やコメントを行う
福祉情報システム その8

GPSと携帯電話による徘徊老人定位システム
痴呆などにより、徘徊を行う老人の位置をGPSを使って特定するシステム
このシステムは以下の手順で一の特定を行う

老人が外出する際に、自動的に携帯電話の電源を入れる

その際に、徘徊監視センターに老人が外出したという情報を送る

携帯電話のGPS機能を使って、老人の位置情報を定期的に監視センターに送る

送られてきた位置情報を元に、地図を自動的に作成する

介護施設や自宅から監視センターへアクセスし、地図情報を受信する
なお、携帯電話を老人の体に密着させたり、老人が建物の内部や地下街に入った場
合、GPSの測位が困難になるという問題が発生するが、様々なシステム改良の試みに
より、それらの問題は現在では解決されたとのことである
福祉情報システム その9

介護・福祉ロボット
老人の介護などを行う高齢者用のロボットが開発されている
高齢者用のロボットに求められる条件としては以下のような特徴が挙げられる
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直接被介護者に接触する
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作業内容が一律ではなく、状況によって変化する

作業の試行ややり直しを行うことはできない

専門知識のない人が利用する
これらのロボットは、高齢者を物理的に介護する(例:入浴の補助、散歩の補助など)
だけでなく、高齢者が視聴覚で感じる心理的な面も考慮にいれる必要がある
精神的な介護ロボットの例としては、様々なペットロボットが開発されており、本物の
動物の世話を行うことが困難な高齢者を精神的に慰めるのに役立っている